Volume 39,
Issue 11,
2012
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総説
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癌と化学療法 39巻11号, 1597-1602 (2012);
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近年,分子標的治療薬の治療効果は目覚ましく,多くのがん種で臨床導入されている。しかし一方,副作用面でもこれまでにない症状を経験している。特に皮膚障害では主に手足症候群(hand-foot-syndrome)と座瘡様皮疹(rash),皮膚乾燥症,爪囲炎などが極めて高率に出現する。皮膚障害は重篤な場合だけでなく,比較的軽微な場合でもその心理的負担のために治療からドロップアウトしてしまうことも多い。その対策として,外用剤(ステロイド軟膏と保湿剤)と内服薬[NSAID,ミノサイクリン(MINO)やプレドニゾロン(PSL),抗アレルギー薬]で早期段階から比較的強めのもので積極的に行うことがポイントとなる。またスキンケアは保湿,保清(清潔),保護(刺激回避)が基本であり,これを励行するには多職種チーム医療が必須である。今後,皮膚障害の発現と治療効果のバランスを重視し,いわゆるリスク&ベネフィットバランスを十分に考慮したがん化学療法が望まれる。
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特集
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薬効を予測するバイオマーカー
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癌と化学療法 39巻11号, 1603-1607 (2012);
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近年,癌の細胞増殖に関する細胞内シグナル伝達機構が明らかになるにつれ,薬剤の開発と同時にバイオマーカーの研究が盛んに行われるようになった。実際に様々な癌または薬剤においてバイオマーカーを用いた治療戦略が確立し,臨床応用されているが,これらのほとんどは特定の分子標的治療薬に限られており,従来の細胞傷害性薬剤においては未だ確立したものがないのが現状である。消化器癌の代表的治療薬であるフッ化ピリミジン系抗癌剤に関しては,以前よりバイオマーカー研究としてthymidylate synthase(TS),dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD),thymidine phospholylase(TP)などの検討が行われてきた。最近,これらの研究成果をレトロスペクティブではあるが大規模臨床試験の付随研究で確認した成績がいくつか報告された。その結果,今後の方向性を示唆する報告もみられはしたが,現段階では臨床的に応用可能なバイオマーカーと認定するには未だ不十分というのが結論ではないかと思われる。個別化医療が現実化しつつあるなかで,フッ化ピリミジン系抗癌剤のバイオマーカーを見いだすことは重要なことであり,今後のさらなる研究成果が期待されるところである。
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癌と化学療法 39巻11号, 1608-1612 (2012);
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精力的に基礎研究やトランスレーショナルリサーチが行われているにもかかわらず,従来の抗がん剤(イリノテカン,プラチナ製剤,タキサン系薬剤)の治療効果予測や,薬剤選択に有効かつ実用的な臨床上のバイオマーカーは極めて少ない。分子標的治療薬は,がん細胞において特異的に変異・増幅がみられる分子を標的としてデザインされ,治療効果を予測するバイオマーカーの応用も顕著である。一方,従来の抗がん剤も本来核酸,核酸の代謝・合成に関係する酵素,微小管など細胞内の特定な分子を標的としている。近年の分子生物学的手法,遺伝疫学的手法を用いることにより,従来の抗がん剤でも治療効果を予測するバイオマーカーの探索が可能となってきている。本稿では従来の抗がん剤治療におけるバイオマーカーの探索と応用について現状を紹介する。具体的には,イリノテカン治療におけるバイオマーカーとしてウリジン2 リン酸-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A1,breast cancer resistance protein(BCRP),DNA topoisomeraseⅠ(Top1)を,プラチナ製剤による治療効果を予測する因子としてglutathione S-transferase P1(GSTP1),excision repair cross-complementing 1/2(ERCC 1/2),breast cancer susceptibility gene 1/2(BRCA 1/2)を,タキサン系薬剤治療におけるバイオマーカーとしてβ-tubulin,GSTP1,thioredoxin をあげる。
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癌と化学療法 39巻11号, 1613-1617 (2012);
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EGFR 活性型変異陽性肺癌に対するEGFR-TKIのPFS 延長効果が証明され,EGFR 活性型変異(exon 19 欠失変異,exon 21 L858R点突然変異)はEGFR-TKI の効果予測因子として広く臨床応用されている。しかし,現在その耐性化克服が臨床上の大きな課題になっている。これまでにいくつかのEGFR-TKI耐性機構(T790M変異,MET増幅,HGF 過剰発現など)が明らかになってきており,これら耐性機構を克服する可能性のある新規薬剤も登場している。今後さらなる耐性メカニズム解明とともに耐性化克服への治療戦略の構築が求められている。本稿では,EGFR-TKI に関するトランスレーショナルリサーチ,バイオマーカーの最近の知見を紹介し,肺癌におけるEGFR-TKI の今後の治療戦略について概説する。
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癌と化学療法 39巻11号, 1618-1625 (2012);
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切除不能再発・結腸直腸癌に対し,抗EGFR 抗体薬を投与する際に行うKRAS遺伝子変異検査の臨床的有用性は,欧米の大規模臨床試験の解析結果により確立したものとなっている。現在実臨床では,抗EGFR 抗体薬の使用に当たり,KRAS遺伝子codon 12,13に存在する七つの主要な遺伝子変異の検索が行われている。一方欧米で行われた大規模臨床試験の統合解析では,KRAS遺伝子のなかでもグリシンからアスパラギン酸へアミノ酸が変化するp. G13D mutation の症例は,それ以外のmutation の症例より無増悪生存期間,全生存期間が長い可能性があることが示唆されていた。さらには,KRAS codon 12 and 13 の変異の他に,RAS/RAF/MAPK経路やPI3K/AKT/mTOR経路に存在するKRAS codon 61,146,BRAF,NRAS,PIK3CAに変異が存在する結腸直腸癌の症例も,抗EGFR 抗体薬の臨床効果が望めない可能性が示唆されている。また最近では,抗EGFR 抗体薬投与後に再度gene status の検査を行うと,EGFR やKRAS に新たにmutation が同定される症例も報告されており,抗EGFR 抗体薬に対する二次耐性の機序として注目されている。本稿ではKRAS 遺伝子変異を中心に大腸癌の個別化治療の現状について説明するとともに,KRAS 以外の遺伝子変異の意義とその臨床応用の可能性,抗EGFR 抗体薬耐性の機序に関する新規の報告について解説する。
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特別寄稿
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癌と化学療法 39巻11号, 1651-1656 (2012);
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目的: 新規治療薬は,時に未知の副作用を伴う。ソラフェニブは,腫瘍細胞に対する増殖抑制効果と血管新生阻害作用を有する経口のマルチキナーゼ阻害剤であり,Raf-1,VEGF 受容体-1/-2/-3,PDGF 受容体-β,c-Kit,Flt-3,RET などを標的とする。われわれは,ソラフェニブ投与に伴う血清膵酵素値の上昇について検討した。患者および方法:日本人転移性腎細胞癌患者を対象とした第Ⅱ相試験において,合計131 名の患者がソラフェニブ400 mg,1 日2 回の投与を受けた。投与開始後7 日目およびその後3〜4 週間ごとに血清リパーゼ値およびアミラーゼ値を測定した。グレード3 または4 の膵酵素値異常が認められた場合は,膵炎検出の目的で超音波検査またはCT スキャンを行った。結果:リパーゼ値およびアミラーゼ値上昇の有害事象発現率は,全グレードでそれぞれ55.7%および38.2%,グレード3 または4 でそれぞれ30.5%および5.3%であった。その大部分はソラフェニブ投与開始後1〜3 週間以内に認められ,7 日目の測定でグレード3 または4 のリパーゼ値上昇が32 名の患者(24.4%)に認められた。これらの膵酵素異常はすべての患者で自然に消失し,グレード3 のリパーゼ値上昇がグレード2 および1 に回復するまでの期間の中央値はそれぞれ7 日および14 日であった。グレード4 の膵酵素異常のため3 例でソラフェニブは休薬され,このうち2 例ではその後投与量を減量して再開した。膵炎を示す臨床症状または異常な膵画像所見は認めなかった。結論:ソラフェニブ投与時に認められることの多い膵酵素値の上昇は,一過性で無症候性であった。これらの事象は症候性膵炎発症との関連はないものと思われた。
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原著
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癌と化学療法 39巻11号, 1659-1664 (2012);
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背景: 頭頸部癌に対するdocetaxel,nedaplatin,5-fluorouracil 3 剤併用化学療法に伴う消化器症状の副作用の発現頻度を明らかにすることを目的として本研究を実施した。方法:頭頸部癌患者91 例を対象として,203 コースのデータから悪心,嘔吐およびその他の消化器症状(口内炎,下痢,便秘)の発現頻度についてレトロスペクティブに調査した。評価はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Event v4.0 日本語訳JCOG/JSCO版に従って実施した。結果: 1 コース目における悪心,嘔吐,口内炎,便秘および下痢の発現した患者割合は74%,16%,42%,42%,13%であった。悪心,嘔吐,便秘の発現頻度は,主に2,3 日目から発現しはじめ,5〜7 日目にピークとなった。下痢や口内炎に関しては悪心,嘔吐,便秘に比べて発現が遅れ,8〜11日目に高頻度となった。消化器症状のなかで最も頻度が高かったのが悪心であり,癌化学療法急性期(1〜5 日目)に比して遅発期(6〜14日目)でみられる症状であった。前回治療コースにおける悪心,嘔吐の発現は,悪心の頻度に有意な影響を示さなかった。また,他の背景因子による層別解析から,女性で嘔吐,下痢の発現頻度が高く,65 歳以上の患者で悪心の発現頻度が高くみられた。結論:悪心はdocetaxel,nedaplatin,5-fluorouracil3 剤併用化学療法の遅発期に予想以上に高い頻度で起こる症状であった。
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癌と化学療法 39巻11号, 1665-1669 (2012);
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大腸癌転移・再発巣に対する補助化学療法としては,術前に行う方法,術前後に行う方法,術後に行う方法がある。しかし,投与時期,投与期間などは明らかになっていない。われわれは,微小転移を制御する目的から,また臨床感受性試験であるとの観点から,術前に化学療法を最大限と思われるまで(画像で縮小効果が減弱あるいは消失した時期まで,腫瘍マーカーが横ばいになるか再上昇しはじめた時期まで)行い,切除[ラジオ波焼灼術(RFA)を含む]を行っている。最大限と思われるまで術前化学療法を行った症例14 例をA群,FOLFOX+bevacizumab(BV)治療予定6 コース後の肝切除例4 例をB 群とし,A群とB 群で術後の合併症,肝組織障害の程度などを比較検討した。肝切除術前ICG15分値,肝切除術中出血量ともA 群はB 群と比較し有意差は認めず(p=0.26,p=0.60),A群においても重篤な術後合併症は認めず,肝組織障害も軽微であった。周術期合併症,肝組織障害の観点から,大腸癌肝転移・再発巣に対しBV 併用で術前化学療法を最大限と思われるまで行っても特に支障がないことが示唆された。多発肺転移例,リンパ節転移例などの肝転移以外の転移例に対しても有用である可能性もあり得る。長期予後などに関しては今後,症例の集積による多数例での検討が必要である。
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癌と化学療法 39巻11号, 1671-1674 (2012);
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産業医科大学病院化学療法センターで大腸がん化学療法を施行している患者22 名(男性12 名,女性10 名,平均年齢66.9 歳)に対して,制吐剤のうち5-HT3受容体拮抗剤をラモセトロンからパロノセトロンに切り替えを行い,前後の悪心・嘔吐抑制効果について国際がんサポーティブケア学会(MASCC)の質問票を使用して評価を行った。22 症例中9 症例で急性悪心,11 症例で遅発性悪心を認めた。5-HT3受容体拮抗剤をラモセトロンからパロノセトロンに変更することにより,急性悪心で3 症例,遅発性悪心で4 症例に症状の軽減が認められた。急性悪心については5-HT3受容体拮抗剤の変更前後で改善に有意差は認められなかったが,遅発性悪心については変更前と比べて有意に抑制された。
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癌と化学療法 39巻11号, 1675-1679 (2012);
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lapatinib,capecitabine 療法を施行したHER2 陽性転移性乳癌患者45 例を対象とし,retrospective にresponse rate(RR),time to progression(TTP),overall survival(OS),安全性について検討した。投与サイクルの中央値は6(1〜22)サイクルであった。脳転移は18 例(40%)に認め,前治療としてcapecitabine は19 例(42.2%)に投与されていた。objectiveresponse rate(ORR,CR+PR)は22.2%(10/45),clinical benefit rate(CR+PR+long SD≧24 w)は46.7%(21/45)であった。TTP の中央値は24.9 週(95% CI: 15.2-34.6),OS の中央値は78.1 週(95% CI: 55.7-100.5)であった。capecitabineの前治療の有無によるTTP の中央値は前治療ありで16 週,前治療なしで30 週(95% CI: 16.3-43.7)で有意差を認めた(p=0.0051)。OS の中央値は前治療ありで42.7 週(95% CI: 21.4-64),前治療なしでは中央値に達していなかったが,前治療なしのほうがOS が長い傾向を認めた(p=0.057)。再発に対する化学療法と併用したtrastuzumabのレジメン数別による解析では,TTP の中央値は2 レジメン以下で27.3 週(95% CI: 11.2-43.4),3 レジメン以上で16 週(95% CI: 15.8-16.2)と,2 レジメン以下で有意にTTP が良好であった(p=0.0257)。OSの中央値は2 レジメン以下で81 週(95% CI: 55.4-106.6),3 レジメン以上で40.9 週(95% CI: 24.9-56.9)であったが,有意差は認めなかった(p=0.26)。lapatinib,capecitabine療法は,重篤な副作用は認められず,capecitabine の治療歴がない症例や前治療歴が2 レジメン以下の症例に有用と考えられた。
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癌と化学療法 39巻11号, 1681-1685 (2012);
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BCG(日本株)膀胱内注入療法後に発症した萎縮膀胱について検討した。対象はイムノブラダー®膀注用の発売後1997年3 月〜2010 年6 月までに集積した副作用症例のうち,臨床的または病理学的に萎縮膀胱と確定できた20 例である。萎縮膀胱の発症はBCG 膀注5 回以上投与例に多かった。BCG 膀注による重度な膀胱刺激症状の繰り返しが萎縮膀胱を引き起こす要因の一つと考えられた。萎縮膀胱の発症や膀胱全摘を要するまでに進展することを防ぐためには,BCG 膀注回数が多くなり重度な膀胱刺激症状が長期間持続して膀胱容量の極度な減少がみられる症例に対してはBCG 膀注を中止し,早期に抗結核剤やステロイド剤の投与の検討が必要と考えられた。
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癌と化学療法 39巻11号, 1687-1691 (2012);
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背景: oxaliplatin(L-OHP)投与症例の90%において末梢神経障害を発症し,治療の継続を困難にする。末梢神経障害に対する最も有効な方法はL-OHP の休薬であるが,われわれは末梢神経障害の軽減を目的として桂枝加朮附湯に附子末を加えて投与してきたのでその効果を報告する。方法:対象は大腸癌に対しFOLFOX 療法が施行され,末梢神経障害を発症した11 例である。桂枝加朮附湯(7.5 g)と附子末1 g を投与し,2週間後に効果が認められなかった症例では附子末を1 日2g に増量し,さらに2 週間投与した。投与2 週間後および1 か月後にNeurotoxicity Criteria of DEBIOPHARM を用いて評価した。結果: 11 例中5 例に末梢神経障害の軽減を認め,特に投与後に四肢に温熱効果を認めた6 例のうち5 例で効果を認めた。奏効例では3 か月以上効果が持続した。
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癌と化学療法 39巻11号, 1693-1697 (2012);
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がん患者はがん以外の患者に比べ,がんという病気の厳しさならびに抗がん剤の強い副作用のため,より深刻な身体的および精神的不安を抱えている。本研究では,がん患者の不安減弱のための特有な服薬指導を探るために,宮崎県立宮崎病院に入院中のがん患者と非がん患者にアンケートをとり,その結果について詳細に検討した。服薬指導日数はがん患者で有意に長かった。しかし,服薬指導日数に関係なく,薬物の副作用に対する理解はがん患者で有意に高かった。有意な相関が服薬指導時の安心感と薬剤師の傾聴態度との間に認められた。また,がん患者の理解度については,治療方法への理解度とその他のすべての項目(効能・効果への理解度,副作用への理解度,服薬指導時の安心感,薬剤師の傾聴態度)との間に有意な相関が認められた。一方,非がん患者では,治療方法への理解度と効能・効果への理解度との間でのみ有意な相関が認められた。これらの結果より,がん患者特有の服薬指導が実施されるべきであることが示唆されたとともに,その時期はより早いほうが望ましいことが明らかになった。
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症例
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癌と化学療法 39巻11号, 1699-1702 (2012);
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症例は63 歳,女性。骨転移を伴ったHER2 陽性・ホルモンレセプター陰性の乳癌患者である。パクリタキセル(PTX80 mg/m2)とトラスツズマブ(初回のみTRA 4 mg/kg,2 回目以降2 mg/kg)の併用療法を毎週投与,ゾレドロン酸(ZOL4 mg/body,28 日毎)を投与開始した。16 サイクル施行した時点で腰痛の消失,骨転移巣の著明な軽減を骨シンチグラフィで確認し,継続投与となった。約2 年後,めまいと嘔気が出現し,多発の脳転移を認めた。それに伴い,ラパチニブ(LAP 1,250 mg/dayの毎日経口)とカペシタビン(CAP 2,000 mg/m2,2 週間毎日経口投与後,1 週間休薬を1 サイクル)の併用療法に変更した。4 サイクルの治療後,転移巣の減少や腫瘍径の縮小が顕著に認められた。しかしながら,治療7 サイクル後,わずかながら脳転移巣の悪化が認められたため,1 日3 Gyで合計30 Gyの全脳照射を追加し,ほぼ臨床的完全寛解を得られた。LAPとCAP併用療法は,脳転移を伴ったHER2陽性乳癌に対して臨床的に有効な治療選択になり得る可能性が示唆された。
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癌と化学療法 39巻11号, 1703-1706 (2012);
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患者は75 歳,女性。左乳癌(T1cN2M0)に対し,乳房温存術ならびに腋窩郭清術を受け,術後補助療法として,FEC,CMF,UFT が施行されていた。術後46 か月に行ったFDG-PET ならびにCT 検査にて,多発肺転移,多発肝転移,胸骨骨転移が指摘された。再発後一次治療としてdocetaxel とtrastuzumab の併用療法を行いPR を得た。56 週間後に肺転移はPD に,また単発性の脳転移が指摘され,γ-knife治療後,二次治療としてlapatinib,capecitabine療法が行われた。安定で経過していたが36 週間後に肺転移巣が進行となり,また咳嗽,呼吸困難,全身倦怠感など全身状態の低下を認めPSスコアは2 となった。三次治療として,nab-paclitaxel(150 mg/m2)をtrastuzumabと併用してbi-weeklyにて投与した。4 週には咳嗽は消失し,PS スコアは0 と改善,8 週後の胸部CT では多発していた肺転移巣は部分奏効を認めた。50 週の現在,nabpaclitaxel投与を継続中で部分奏効を維持している。
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癌と化学療法 39巻11号, 1707-1710 (2012);
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症例は62 歳,女性。C 型慢性肝炎,高血圧で加療中にCT 検査で肝外側区域と右乳房に腫瘤を指摘され,肝細胞癌および乳癌と診断された。肝細胞癌は肝外側区域と肝内側区域に二つの病変を認め,肝外側区域切除術,マイクロ波凝固療法を施行し,後日,乳癌に対して単純乳房切除術,センチネルリンパ節生検を施行した。肝臓の病理診断は中分化型肝細胞癌であり,乳腺の病理診断は乳頭腺管癌,ER(−),PgR(−),HER2(3+)であった。術後補助療法は肝細胞癌に対して肝動注化学療法(FP療法)を,また乳癌に対してtrastuzumab療法を併行して行った。現在,術後20 か月が経過したが,肝細胞癌,乳癌のいずれも再発を認めていない。肝細胞癌と乳癌の同時性重複例はまれであり,術後補助療法として肝動注化学療法とtrastuzumab療法を併用したという報告は本症例が初めてであり,HER2陽性乳癌において重複癌の治療が優先される場合,重複癌の治療に併行したtrastuzumab療法も選択肢の一つにすべきと考えられた。
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癌と化学療法 39巻11号, 1711-1714 (2012);
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われわれは,肺腺癌に対するcisplatin(CDDP)+vinorelbine(VNR)による放射線化学療法後にSIADHを来した1例を報告する。症例は69 歳,女性で,進行肺癌に対して放射線化学療法目的に当院へ入院となった。CDDP とVNR 投与後4 時間後より不穏症状が出現した。不穏,失禁は大量補液終了後も改善を得られず,むしろ悪化傾向となった。化学療法開始後6 日の血液データで著明な低ナトリウム(Na)血症を認め,血清浸透圧の低下,尿中浸透圧の上昇を認めた。著明な低Na血症にもかかわらず,血清ADH は上昇を認めた。SIADHと診断し,高張生理食塩水の投与や水制限などを行い改善した。以降の治療では,carboplatin に変更したがSIADH の発症はなく,CDDP によるSIADH と考えられた。CDDP によるSIADH は比較的まれであるが,放射線化学療法施行中に精神症状を来した際には電解質バランスを注意深く観察する必要があると考えられた。
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癌と化学療法 39巻11号, 1715-1718 (2012);
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症例は75 歳,女性。胸部食道のMt,Ut 領域に約6 cm 大にわたる左壁中心の全周性の2 型病変を認めた。T3N1(#106recR)M0,Stage Ⅲの診断にて,術前化学療法(5-FU 500 mg/body×10,CDDP 10 mg/body×10)を計2 コース施行した。内視鏡上,原発巣は瘢痕状となるも,透視上は壁の硬化は残存,#106recR LN の腫大も残存した。術前効果判定はPR,T2N1(#106recR)M0,Stage Ⅱの診断にて根治術を施行した。手術は右開胸開腹,胸部食道亜全摘D2郭清,胃管後縦隔再建を施行した。術後は特に問題なく経過,術後36 病日退院となった。病理組織学的検査では,主病変,リンパ節ともに癌の遺残を認めず,効果判定はGrade 3 であった。術後4 年11 か月経過し,現在無再発生存中である。今回長期無再発生存中であるlow-dose 5-FU/CDDPによる術前化学療法にてpCRが得られた進行胸部食道癌の1例を経験したので報告する。
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癌と化学療法 39巻11号, 1719-1722 (2012);
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症例は69 歳,女性。全身倦怠感と背部痛のため近医を受診し,著明な貧血と血小板減少を認め当院へ紹介となる。初診時の血液検査で播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥っていた。胃内視鏡検査で噴門部小弯から体部小弯に4 型病変を認め,生検では低分化型腺癌の診断であった。骨シンチグラフィで多発骨転移を認めた。胃癌に合併した骨髄癌症と考えられ,DICに対する補充療法,抗凝固療法を行うも病勢の悪化を続ける一方であり,そのため化学療法を施行した。S-1 80 mg/m2を14 日間内服,docetaxel(DOC)40 mg/m2を1日目に点滴静注するS-1+DOC 併用療法を施行し,治療開始より12日目にDIC から離脱した。S-1+DOC 併用療法は,胃癌骨髄癌症に対する重要な選択肢の一つとなる可能性がある。
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癌と化学療法 39巻11号, 1723-1725 (2012);
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胃GISTの術後腹膜再発に対して,有害事象によりimatinibを200 mg/日へ減量したが,完全寛解(CR)が得られた1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は68 歳,女性。2007 年3 月に胃GISTに対して幽門側胃切除術を施行した。5 月のCT 上,腹膜再発を認めimatinibを400 mg/日で開始した。内服開始後1 週間でGrade 2 の浮腫・皮疹が出現し,7 月より200 mg/日へ減量した。その後は内服の継続が可能となり,2010 年4 月のCT 検査で再発腫瘍は消失した。imatinibを200 mg/日で内服継続し,18か月間CR を維持しながら通院中である。
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癌と化学療法 39巻11号, 1727-1731 (2012);
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遠隔転移のある膵癌の予後は不良である。今回,多発性肝転移を伴う膵体部癌に対して,S-1+gemcitabine(GEM)療法を行った後,手術やラジオ波による集学的治療を行いcomplete remission(CR)が得られた症例を経験したので報告する。症例: 77歳,女性。無症状であったが,2008年12 月末に行われた定期的な超音波検査にて膵体部癌,多発性肝転移と診断された。精査の後,S-1+GEM療法を開始(S-1 80 mg/body/day 分2,day 2〜15,GEM 1,200 mg/day 1,15,2 週間投与2 週間休薬)。15 コース終了後,腫瘍は最大径26.5 mmから14.4 mmに縮小し,肝転移巣はS7に直径14.5 mmの病巣を残すのみとなり,膵体尾部切除術と肝転移巣に対するラジオ波焼灼術を行った。術後4 か月間S-1 を休薬し,GEM単独投与を月1 回の割合で行ったが,S8に新たに転移巣が出現した。そこで,S-1+GEM療法を再開したところ,5 か月後に転移巣は画像上消失した。術後1 年4か月の時点でCR が維持されている。
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癌と化学療法 39巻11号, 1733-1735 (2012);
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症例は66 歳,男性。尿閉および排便困難を初発症状として,前立腺原発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫を発症した。直腸閉塞のため人工肛門造設術を必要としたが,rituximab 併用CHOP 療法にて完全寛解に到達した。人工肛門閉鎖術を実施され,3 年以上にわたり完全寛解を維持し得ている。前立腺原発リンパ腫は新たに診断されるリンパ腫のおよそ0.1%と極めてまれであるが,他の節性リンパ腫と同様にrituximab併用化学療法が有効である可能性がある。
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癌と化学療法 39巻11号, 1737-1741 (2012);
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症例は64 歳,男性。両側水腎症を契機に膀胱原発印環細胞癌と診断された。病状は急速に悪化し原発巣は骨盤内から腹壁,両鼠径部へ浸潤したため,根治的切除は困難で化学療法の方針とした。病理組織学上は印環細胞癌であり,進行胃癌の化学療法に準じて一次化学療法にはS-1 とcisplatin の併用化学療法を2 コース施行したが病状が進行した。二次化学療法としてdocetaxel 単剤化学療法を導入したところ,その後は約9 か月間増悪を認めていない。膀胱印環細胞癌はまれな膀胱腺癌であり,予後不良例が多く化学療法が奏効した例は希少であったので,文献的考察を加え報告する。
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癌と化学療法 39巻11号, 1743-1747 (2012);
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症例1 は74 歳,男性。左季肋部痛,左季肋部腫瘤を主訴とし,上部消化管内視鏡検査にて胃に潰瘍性病変が認められ,組織検査にて成人T 細胞白血病リンパ腫の診断となった。画像検査や骨髄検査上,明らかな他の病変は認められなかった。VCAP-AMP-VECP 療法を行ったが,腫瘍崩壊症候群による多臓器不全により死亡した。症例2 は68 歳,男性。腹部膨満感,腹痛を主訴とし,上部消化管内視鏡にて胃に粘膜不整があり,生検にて胃の悪性リンパ腫の診断となった。胃全摘出術を行い,摘出胃標本にて成人T 細胞白血病リンパ腫の診断となった。VCAP-AMP-VECP療法を行ったが,多発骨転移,病的骨折を来し,進行性であった。胃に主病変を有する成人T細胞白血病はまれであり,適切な診断による症例の蓄積と標準的な治療法の確立が望まれる。
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Source:
癌と化学療法 39巻11号, 1749-1752 (2012);
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維持血液透析(HD)中の原発不明がん患者に対してcarboplatin(CBDCA)+paclitaxel(PTX)療法(21 日間隔)を行う際,CBDCA投与後の実測AUC値をモニタリングし,安全かつ有効に化学療法を実施し得た症例を報告する。CBDCAの投与量は,Calvert式(目標AUC値5.0 mg・min/mL,GFR 0)に基づき125 mgとし,day 1 に1時間かけて点滴静注した。HD はCBDCA投与終了1 時間後から5 時間行った。血中遊離白金濃度は,CBDCA投与開始時および終了時,HD 開始時および終了時,HD 終了11 時間後および35 時間後の計6 ポイント測定した。CBDCA の実測AUC 値は,1 コース目が3.03 mg・min/mL,2 コース目が3.44 mg・min/mL,3 コース目が3.50 mg・min/mL であった。1 コース目に比べて2 コース目は上昇したが,1〜3 コースのいずれも目標AUC 値を下回った。腫瘍縮小効果は2 コース目終了時にpartial response(PR)を認めた。副作用として1 コース目から好中球減少Grade 3,2 コース目から末梢神経障害Grade 3 を認めたが,十分な臨床効果が得られていたことから,CBDCAの増量やHD 開始時期の変更など投与スケジュールの変更は2 コース目以降行わなかった。CBDCAをHD 患者に投与する場合,本症例のように実測AUC値が目標AUC値を下回ったり,CBDCAの投与方法やHD条件によっては,逆に上回ることも考えられる。したがって,安全かつ有効にCBDCAを投与するには,投与初期に実測AUC値をモニタリングすることが有用であると考えられる。
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書評
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Source:
癌と化学療法 39巻11号, 1754-1754 (2012);
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