Volume 39,
Issue 13,
2012
-
総説
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2445-2450 (2012);
View Description
Hide Description
癌症例における尿路管理は,腎機能と生活の質維持の観点から重要である。尿管閉塞に対しては,腎瘻あるいは尿管ステントが選択される場合が多い。これらは,その利点と欠点を十分に知った上で適切に使用することが重要である。神経因性膀胱に対しては,非侵襲的評価として残尿測定に加えて尿流測定が必須である。蓄尿相あるいは排尿相において膀胱内圧が高圧の状態が持続すると上部尿路障害を引き起こす場合がある。排尿管理法として腹圧排尿を選択する場合には,可能な限り膀胱内圧測定を施行し高圧排尿でないことを確認すべきである。
-
特集
-
-
Stage Ⅳ胃癌に対する治療戦略
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2451-2454 (2012);
View Description
Hide Description
他に非治癒因子がないCY1 胃癌に対する集学的治療の有用性について検討した。2002〜2008 年までの初発胃癌症例で非治癒因子がCY1 のみ(P0CY1)であった76 例を対象とした。76 例中で胃切除が行われたのは60 例で,その他の16 例は化学療法のみが行われた(化学療法単独群)。両群の治療成績をretrospective に比較検討した。化学療法単独群の生存期間中央値(MST)は427日,手術施行群のMST 442 日で両群間に有意差はなかった。手術施行群のうち化学療法が施行された症例(集学的治療群)は42 例であり,そのMSTは647 日であった。集学的治療群のうち術後にS-1 が投与された症例28例(術後S-1群)のMSTは1,249日で比較的良好であった。P0CY1胃癌に対する治療戦略としては胃切除に加え,S-1 を含む化学療法を行う集学的治療が予後を改善する可能性がある。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2455-2459 (2012);
View Description
Hide Description
大腸癌肝転移に対する肝切除術はすでに唯一根治が期待できる第一選択の治療法として確立されているが,一方で胃癌肝転移に対する肝切除の適応は確立されておらず,治療法は施設によって様々である。本稿ではがん研有明病院で18 年間に行った64 例の胃癌肝転移根治切除例の成績を基に胃癌肝転移に対する肝切除の適応と予後を述べる。1993 年1 月〜2011年1 月までの間にわれわれの施設にて肝切除を施行した胃癌肝転移患者は73 例,うち根治64 例で根治切除が可能であった。肝切除の適応は異時性,同時性問わず原則3 個以内の転移で,胃癌原発巣の治癒切除可能ないし既施行例である。64 例の1,3,5 年生存率は84,50,37%,1,3,5 年無再発生存率は42,27,27%であった。多変量解析では原発巣の漿膜浸潤と肝転移最大径5 cm 以上が統計学的に有意な予後不良因子となった。予後不良因子なし(n=38),一つ(n=24),二つ(n=2)の群それぞれの3 年生存率は63,36,0%,5 年生存率は53,15,0%であった。最大径5 cm 未満で原発巣の漿膜浸潤のない胃癌肝転移症例は切除のよい適応と考える。また,いずれか一つの予後不良因子があってもまずまずの予後は望めるが,二つの予後不良因子がある場合は肝切除を行っても長期予後は望めないため切除を行うべきではない。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2460-2463 (2012);
View Description
Hide Description
腹膜播種陽性胃癌に対する標準治療は全身化学療法であり,切除不能な進行再発胃癌を対象とした臨床試験の結果に基づき,S-1+cisplatin(CDDP)併用療法が一般に行われている。一方で近年,taxane系抗癌剤腹腔内投与および化学療法と手術を組み合わせた集学的治療の有用性が報告されている。当院ではS-1+paclitaxel(PTX)経静脈・腹腔内併用療法を考案し,第Ⅱ相試験において1 年全生存率78%,生存期間中央値(MST)23.6か月という成績を得た。また,腹膜播種に対する奏効が確認された60 例に対して胃切除を施行し,安全性を確認するとともに,MST 34.5 か月という成績を得た。これらの治療成績より,腹腔内投与併用化学療法と胃切除による集学的治療は生存期間の延長をもたらすことが示唆された。本療法とS-1+CDDP 併用療法を比較することを目的として,2011 年より高度医療評価制度下に第Ⅲ相試験(PHOENIX-GC試験)を実施中である。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2464-2468 (2012);
View Description
Hide Description
化学放射線療法は欧米においては,頭頸部癌,食道癌,膵癌,直腸癌などと同様に胃癌に対しても標準治療の一つとして行われており,特に術後補助療法としての有用性は確立している。一方,本邦においては標準治療とは決していえず,適応は限定されており,出血や狭窄,疼痛などの症状に対する緩和治療や姑息治療として放射線療法単独で施行されることが多い。胃癌に対する放射線療法は,放射線感受性の低い腺癌,高線量の放射線照射による潰瘍形成や穿孔の可能性,蠕動運動による照射範囲設定の困難性などの課題点が指摘されていた。しかしながら,近年は放射線治療の技術進歩により,胃原発巣と所属リンパ節に対してピンポイントの治療が可能となり,進行癌に対する集学的治療の一端を担い得る期待が高まりつつある。本稿では,胃癌に対する放射線療法を含む国内外の集学的治療の現況を示し,局所進行胃癌に対して行っているわれわれの取り組みについて概説する。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2469-2473 (2012);
View Description
Hide Description
背景と目的:化学療法が奏効したために治癒切除をめざし外科的介入を試みたStageⅣ胃癌症例の治療成績を解析し,その意義と問題点を検討した。対象と方法: 2002 年9 月〜2011 年5 月までに,化学療法後に外科conversion を試みた30 例を後方視的に検討した。結果:化学療法施行理由は広範囲の多臓器浸潤が16 例,M1(LYM)が13 例,腹膜播種が8 例などであった。化学療法のレジメンはS-1+cisplatinが22 例で最も多かった。R0切除は20 例(67%)に達成できたが,10 例で開腹時に非治癒因子が確認され,うち8 例は非切除となった。切除例の41%に術後合併症が発生したが治療関連死はなかった。R0 症例の生存期間の中央値(MST)は1,409日,R1/2 症例・非切除例のMSTは783 日であった(p=0.0017)。結語:化学療法後の胃切除は,R0 切除が可能な場合にのみ施行するべきである。しかしR0切除率は70%に満たないため,審査腹腔鏡にて根治性を評価することが必須である。
-
特別寄稿
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2489-2507 (2012);
View Description
Hide Description
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)に特異的に結合するIgG1キメラ抗体であるセツキシマブが,局所進行頭頸部扁平上皮癌の局所制御,生存における上乗せ効果,さらに遠隔転移再発頭頸部扁平上皮癌に対する生存における上乗せ効果を示し,海外80 か国以上で認可されている。米国のNCCN ガイドライン(2012年)で,セツキシマブが局所進行例にも再発/転移例にも記載され,世界でのセツキシマブの使用頻度は高まっている。近年,セツキシマブに続き,パニツムマブおよびニモツズマブなどの新たな抗EGFR モノクローナル抗体製剤も数多く開発されている。抗EGFR モノクローナル抗体製剤の主な副作用は,皮疹,infusion reaction などであるが,いずれもgrade 3 以上の頻度は少ない。治療効果予測に関するバイオマーカーは確立しておらず,レスポンダーの選択と耐性の克服とが解決すべき二つの重要な課題である。これら課題について研究の現状を紹介し,最後にEGFR 阻害治療の将来像について総括した。
-
原著
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2509-2512 (2012);
View Description
Hide Description
背景: カルボプラチン(CBDCA)・パクリタキセル(PTX)・ベバシズマブ(Bev)併用療法(TC+Bev)について,既治療非小細胞肺癌(NSCLC)の患者において有効性を示した報告は稀少である。目的:既治療進行NSCLC に対する同レジメンの臨床効果を検討する。対象と方法: 2010年4 月〜2012年2 月の期間での既治療NSCLC の患者17 症例。導入化学療法としてCBDCA(AUC 6),PTX(200 mg/m2),Bev(15 mg/m2)を3〜4 週ごとに繰り返し,病勢の増悪が認められない患者にBev(15 mg/m2)による維持化学療法を施行した。結果:患者背景は年齢中央値60(39〜74)歳,男性女性:6/11,全例PS 0〜1,臨床病期はⅢB/Ⅳ/術後再発: 0/16/1,EGFR 遺伝子変異は陽性/陰性/不明:7/9/1,全例が腺癌,前治療レジメン数中央値3.4(1〜6),投与コース数中央値(導入化学療法)3(1〜6)。成績はPR 3 例,SD 9 例,奏効率17.6%,病勢制御率70.6%,無増悪生存期間中央値4.7か月であった。Grade 3 以上の有害事象は,白血球減少9 例(53%),好中球減少14例(82%),血小板減少2 例(12%),発熱性好中球減少5 例(29%),高血圧3 例(18%),悪心が2 例(12%)で認められた。結語: TC+Bevは既治療NSCLC において選択できる可能性があるが,さらなる前向きな検討を要する。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2513-2516 (2012);
View Description
Hide Description
多発性肝細胞癌に対してミリプラチンの全肝投与を行い,その早期治療効果ならびに有害事象について検討した。肝細胞癌に対してミリプラチンを投与した174例を対象とし,全肝投与例(29 例)とその他(145例)に分けて比較検討した。直接治療効果度(treatment effect: TE)は,全肝投与例でTE4: 0%,TE3: 38%,TE2: 31%,TE1: 31%で,全肝投与以外の症例ではTE4: 24%,TE3: 40%,TE2: 32%,TE1: 4%であり,2 群間に有意差を認めた。Grade 3 以上の有害事象は全肝投与例では4 件(13.7%)で,発熱,ALT上昇,血小板低下であった。全肝投与以外の症例では33 件(22.7%)で,腹水,肝機能障害,血球減少がみられた。複数回全肝投与を行った6 例のChild-Pugh score の経時的推移に統計学的変動はみられなかった。ミリプラチンの全肝投与は,全肝多発肝細胞癌に対し比較的安全に用いることができるものの,早期治療効果は満足できるものではなかった。症例によっては,複数回の全肝投与,投与間隔の短縮などの工夫を加えることも治療手段の一つと考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2517-2519 (2012);
View Description
Hide Description
目的: 進行胃癌に対して,化学療法を用いて治癒切除をめざす試みが行われている。当院での進行胃癌に対する術前化学療法の安全性と有効性について検討した。対象: 2008 年〜2010 年に当院でS-1+CDDP 併用療法を施行した進行胃癌10例を対象とした。適応は画像上明らかな漿膜浸潤がある症例,BulkyN2またはN3 転移を有する症例,根治術後に癌細胞が遺残する可能性が高い症例とした。結果:治療成績はdown stageが得られた症例5 例(50%)であった。組織学的にGradeⅠb 以上の効果を認めた症例は5 例であった。Grade Ⅰb 以上の組織学的効果を示した症例の5 例中4 例は充実型低分化腺癌(por1)であった。結語:進行胃癌に対する術前化学療法は有効であることが示唆された。特に組織型がpor1 で,S-1+CDDP に対する感受性が最も高いと考えられる。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2521-2526 (2012);
View Description
Hide Description
目的: HER2 陽性乳癌に対するtrastuzumab を含む術前化学療法の臨床的意義をホルモン受容体(hormone receptor:HR)別に検討し,今後の課題を明らかにする。対象: 2005 年5 月〜2010 年8 月までに術前化学療法および手術を完遂したHER2 陽性乳癌104例。全例,FEC(5-FU+epirubicin+cyclophosphamide)療法にタキサン±trastuzumabの逐次治療を実施し,2008 年以降は術後にtrastuzumab を1 年間投与した。結果: 104 例(HR 陰性trastuzumab 投与31 例,HR 陰性trastuzumab非投与15 例,HR 陽性trastuzumab投与28 例,HR 陽性trastuzumab非投与30 例)における組織学的効果は,comprehensive pCR(CpCR)がそれぞれ65%,47%,21%,23%であった。HR 陰性群では,CpCRがdistant disease free survival(DDFS)の延長に有意な因子(p<0.05)であった。14 例が遠隔転移を発症し脳転移は7 例であった。7 例中5 例(HR 陰性trastuzumab 投与3 例,HR 陰性trastuzumab 非投与1 例,HR 陽性trastuzumab 投与1 例)は治療効果がinvasive cancer on pathologic examination(pINV)であり,またその5 例のうち4 例は術後にtrastuzumabを投与していた。考察: HER2 陽性乳癌に対するtrastuzumabを含む術前化学療法はHR 陽性と陰性とで反応性が異なる。一方で,HR に関係なくpINV の症例は脳転移のハイリスク群と考えられ,trastuzumab の補助療法のみでは発症を抑制するのは困難な可能性もあると考えられる。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2527-2531 (2012);
View Description
Hide Description
高齢者に対するがん化学療法の安全性を評価するため,医師主導型臨床試験に登録された患者を対象に高齢者と若年者における副作用の発現状況を調査し,比較検討を行った。65歳以上の高齢者93 例(年齢中央値70.0 歳),65 歳未満の若年者は80 例(年齢中央値59.5歳)であり,全Gradeの血液毒性の発現率が高齢者87.1%と若年者73.8%で高齢者に有意に高かった。しかしGrade 3 以上の血液毒性の発現は,高齢者22.5%,若年者16.3%で有意な差はみられなかった。performance status(PS)別の副作用発現では,Grade 3 以上の血液毒性がPS 0 の患者12.5%,PS 1 以上の患者24.8%と有意に高かった。これらの結果から,高齢者においては血液毒性の発現に注意を必要とするものの,PSが良好であれば初回治療時からの減量は必要なく,副作用出現程度に応じた投与量調節が必要である。
-
薬事
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2533-2536 (2012);
View Description
Hide Description
ドセタキセル水和物(docetaxel hydrate: DTX)はタキサン系抗悪性腫瘍薬であり,乳癌や非小細胞肺癌をはじめとする幅広い癌腫に有効性が認められている。DTX であるタキソテール(2-vial DTX)は添付溶解液による溶解が必要であったが,後に改良品として発売されたワンタキソテール(1-vial DTX)はすでに溶液になっており,溶解が不要である。したがって,調製時間の短縮が見込まれ,業務効率の向上が期待できる。そこで今回われわれは,2-vial DTXと1-vial DTX の調製時間を実際に測定し,その有用性について比較検討した。結果は,2-vial DTXの調製時間中央値6.52 分間(n=84)に対し1-vial DTX の調製時間中央値は2.67 分間(n=84)と有意差がみられた(p<0.01)。従来の添付溶解液と混和してプレミックス液の調製を必要とする2-vial DTXから1-vial DTXに変更することで,医療現場における調製操作が簡便になり調製時間を短縮することができるため1-vial DTX の有用性が高いことが示され,さらにコンタミネーションなどのリスクも回避できると考えられた。
-
医事レポート
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2537-2540 (2012);
View Description
Hide Description
愛媛県がん診療連携拠点病院協議会では,四つの分科会(「緩和ケア」,「がん登録」,「クリティカルパス」,「がんの集学的治療に関する」分科会)を設置し協議・活動を進めている。今回,がんの集学的治療に関する分科会は,化学療法後の副作用である「脱毛」に焦点を当て,頭皮脱毛対策である「カツラ」についての情報を共有する目的で患者から医療者への相談内容や対応を集計し検討した。その結果,がん患者は,①脱毛量や脱毛時のケアならびに発毛時期に関心を持つこと,② 頭髪以外の脱毛対策にも関心を持つこと,また医療者は,③ 要望があればカツラや販売店を知らせるといった受動的態度に終始する傾向があることが示された。この検討から,① 脱毛やカツラについての説明や情報量の絶対的な不足,② がん患者が社会復帰する際の脱毛を含めたサポート環境の整備の必要性,③ 医療職以外の専門職(理・美容師,カツラ取扱店,化粧品メーカーなど)のがん治療への参入の必要性があげられた。
-
症例
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2541-2544 (2012);
View Description
Hide Description
症例は74 歳,男性。腹部膨満感のため当院に紹介受診された。上部消化管内視鏡検査にて進行胃癌と早期胃癌を認め,進行胃癌はHER2 蛋白3+であった。また,血液検査にてAFPの上昇と免疫染色で腫瘍の一部がAFP陽性で,HER2 陽性のAFP 産生胃癌と診断した。癌性腹膜炎も伴っていたため根治切除は不能であり,trastuzumab/docetaxel/S-1 併用療法を行った。化学療法開始後,腫瘍の著明な縮小とAFPの低下を認めた。副作用としてgrade 3〜4 の白血球,好中球減少は認めたが,他に著明な有害事象はなく,現在8コースを終了している。trastuzumab/docetaxel/S-1 併用療法は,根治切除不能なHER2 陽性AFP産生胃癌に対し有用な治療法の一つとして期待される。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2545-2548 (2012);
View Description
Hide Description
症例は67 歳,女性。食欲不振と体重減少を主訴に受診,諸検査にて食道浸潤陽性の低分化型腺癌と診断され胃全摘術を施行した。摘出標本の病理組織検査にて胃内分泌細胞癌,小細胞癌と診断,病期はstageⅢb であった。術後補助化学療法も検討されたが,術後の低栄養状態の遷延により断念された。術後6 か月後のCT 検査にて胸部気管傍リンパ節の腫大を認め,リンパ節再発と診断された。肺小細胞癌に準じてcarboplatin(CBDCA)+etoposide(VP-16)療法を6コース施行し,3 コース終了時点での検査にてリンパ節腫大は消失。5 コース終了時点でCR と判定,さらに治療終了後6 か月時点での再発所見も認めていない。1 コース目にgrade 4 の好中球減少とgrade 3 悪心,grade 2 の嘔吐を認めたがコントロール可能であった。胃癌の内分泌細胞癌のリンパ節転移に対して,CBDCA+VP-16 療法が効果的であった1 例を経験した。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2549-2552 (2012);
View Description
Hide Description
症例は46 歳,女性。嘔吐を主訴に当院を受診し,幽門前庭部に全周性の3 型腫瘍による狭窄を伴う胃癌の診断にて当院に入院した。開腹したが,胃癌は膵頭部に浸潤し胆嚢,肝十二指腸間膜を巻き込み一塊となっており,切除不能と判断し胃空腸吻合術を施行した。S-1(100 mg/body,day 1〜21)+CDDP(85 mg/body,day 8)を4 コース施行後,画像検査にて著明な腫瘍縮小効果を認め,バイパス手術から約6 か月後に幽門側胃切除術D2,胆囊摘出術を施行した。病理所見はL,Circ,3 型,4×4 cm,por1>tub2,SE,pN1(No. 8a に1 個),ly3,v2,PM0,DM0,R0,ypT4aN1M0,pStage ⅢA で,組織学的治療効果はGrade 1a であった。術後補助化学療法として,S-1 100 mg/body(day 1〜28)の内服を外来にて施行していたが膵頭部背側のリンパ節に再発を来し,CPT-11+CDDP,DOC投与を行うも原病死された。胃空腸吻合術から約17か月であった。従来,幽門狭窄を伴う切除不能進行胃癌は予後不良であったが,胃空腸吻合術後に経口の抗癌剤であるS-1を含む化学療法を施行することで,本例のように切除可能となる症例もあり,予後の延長も期待され得ることから有用な治療法と考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2553-2555 (2012);
View Description
Hide Description
症例は62 歳,男性。転移性スキルス胃癌(HER2 強陽性)に対してcapecitabine+cisplatin+trastuzumab療法を10サイクル施行し,完全奏効が得られた。胃癌のHER2 陽性率は高分化腺癌で高い傾向があるが,本例のようなスキルス胃癌でも陽性となり著効する例が認められるため,HER2検索は画像や病理的所見を問わずに検索する意義があると考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2557-2560 (2012);
View Description
Hide Description
mFOLFOX6 療法は,禁忌が少ないため全身状態不良例に対する治療として導入が比較的容易なレジメンであるが,国内では明確な根拠がないにもかかわらず安易に減量した報告が散見される。今回,全身状態不良な進行大腸癌に対する標準量のmFOLFOX6療法(一次治療)施行例について安全性・有用性をレトロスペクティブに検討した。結果,5 例中4例がperformance status(PS)が改善し退院となった。奏効率は60%。grade 3/4 の有害事象として感染,好中球減少などが全例に認められた。治療関連死および治療開始後60 日以内の早期死亡は認めなかった。全身状態不良例に対する標準量でのmFOLFOX6 療法は,PS改善効果が得られることが示唆されるものの,有害事象に対する厳重な管理が必要である。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2561-2563 (2012);
View Description
Hide Description
症例は70 歳,女性。腹痛を主訴に受診し,切除不能多発肝転移,肝門部および上腸間膜動脈周囲リンパ節転移を伴う横行結腸癌と診断した。XELOX+bevacizumabを8 コース施行したところ腫瘍の縮小を認めたため,肝部分切除,肝門部リンパ節郭清を伴う右半結腸切除術を施行した。病理所見は主病巣,転移巣ともに癌細胞を認めずpathological complete responseであった。術後7 か月現在,再発の徴候はない。予後不良とされる肝門部リンパ節転移であっても,化学療法が奏効した場合には積極的な治療を考慮してもよいと考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2565-2568 (2012);
View Description
Hide Description
われわれは,骨盤腔内の腫瘍による直腸テネスムスに対して抗不整脈薬が有効であった3 名(症例1,3,4)を経験した。さらに,その経験を基に腫瘍による直腸テネスムス2 名(症例2,5)に抗不整脈薬を優先的に投与し,良好な反応を得た。5 名(男性1 名,女性4 名)の年齢は28〜89(平均58)歳。原発は子宮頸がん3 名,卵巣がん1 名,膀胱がん1 名であった。子宮頸がん3 名は腫瘍が直腸と外陰部へ直接浸潤していた。卵巣がん1 名は術後症例で,腫瘍がダグラス窩に残存した。膀胱がん1 名は,他施設で膀胱全摘除術と回腸導管による尿路変更術を受けた。5 名全例で,患者は頻回の排便がない便意(直腸テネスムス)を訴えた。直腸テネスムスの原因は,直腸周囲に存在する骨盤内腔の神経障害により引き起こされていると判断した。4 名はメキシレチン塩酸塩(メキシチール)150 mg分3 の内服を開始し,1 名(症例2)は2%静注用リドカイン(キシロカイン)500 mg/日を持続静注で開始した。5 名は抗不整脈薬による副作用の出現なく症状の改善が得られ,生活の質を向上できた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2569-2571 (2012);
View Description
Hide Description
症例は87 歳,女性。胃癌術後でフォロー中,CA19-9上昇を契機に精査を行い,腹部CT により膵体部癌(StageⅡ)と診断された。高齢のため患者は手術を希望せず,治療には低用量S-1 療法(50 mg/day,4 週投与/2 週休薬)を選択した。2 コース終了後CA19-9が正常化し,5コース終了後には画像的な完全寛解を得られた。現在までに12 コースを行い,1年3か月が経過したが再発所見は認めていない。副作用もgrade 1 の嘔気のみでquality of life を損なうことなく治療を継続できている。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2573-2575 (2012);
View Description
Hide Description
近年,ビスフォスフォネート(BP)関連顎骨壊死(bisphosphonate related osteonecrosis of the jaw: BRONJ)についての報告が多数みられる。しかし,その診断基準および確定的な治療指針がなく,多くの臨床医が困惑しているのが現状である。今回,われわれは抜歯後に発症したBRONJステージ0 の症例に,抗菌薬シタフロキサシン(STFX)が著効した症例を経験したので報告する。患者は73 歳,女性。骨粗鬆症のためにアレンドロネート35 mg/週を24 か月投与されていた。左下顎大臼歯を抜歯,術後数種類の抗菌薬を投与するも治癒が認められなかった。抜歯から1 か月後,依然として抜歯創部の治癒不全を認め,骨露出は認めないがBRONJ ステージ0 と診断,STFX 200 mg/day を2 週間,その後100 mg/day を1 週間投与した。投与から3 週間後,抜歯創部の完全治癒が得られた。また,本症例の膿汁から分離培養同定した細菌に対するMICを測定したところ,STFX は他の抗菌薬に比較して優れた抗菌活性を認めた。これらよりSTFXはBRONJに対して有効であると考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2577-2579 (2012);
View Description
Hide Description
目的: 痛みの評価が困難な癌患者への対応法を検討する。方法: 当院の緩和ケアチームが,2008 年9 月〜2010 年11 月の間に,痛みの評価が困難なためにコンサルトを受けた癌患者を後顧的に検討する。結果:該当する症例は5 例(全コンサルト症例数の5.6%)で,痛みの評価が困難な原因は認知症のため2 名,精神遅滞1 例,性格のため1 例,患者の思いこみのため1 名であった。患者の表情や行動などの痛み評価に役立つ観察項目の教示と,評価が困難となっている原因を熟考することの重要性が指摘された。結論:個々のコミュニケーション能力や苦痛の評価が困難となっている原因に応じて,きめ細かく対応していくことが重要と思われた。
-
薬事レポート
-
-
Source:
癌と化学療法 39巻13号, 2581-2583 (2012);
View Description
Hide Description
近年,経口薬と注射薬を併用するレジメンによる外来化学療法を受ける患者が増加しているが,院外保険薬局は病院で患者がどのような治療を受けているのかの情報を得る手段がない。患者のための薬薬連携を図るため,情報共有ツールとして「化学療法パスポート」を作成した。「化学療法パスポート」はA5サイズのバインダーを使用し,化学療法レジメン,投与スケジュール,副作用説明書,体調チェックシート,クリアーポケットを収納した。経口抗癌剤併用レジメンを開始する大腸癌患者に,同意の下にパスポートを渡し,院外保険薬局での提示を指導した。患者は高い割合で提示しており,レジメン情報の共有はおおむね達成できた。今後,院外保険薬局からの指導や副作用などの患者情報の共有をめざして,多くの症例に運用を進めていきたい。「化学療法パスポート」を利用した化学療法レジメン情報の共有は,これからの薬薬連携の一つの形として意義深い試みであると考えられた。