癌と化学療法
Volume 41, Issue 1, 2014
Volumes & issues:
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総説
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次世代シーケンス技術を応用したがん薬物療法最適化への試み
41巻1号(2014);View Description Hide Description分子標的療法の進展に伴い,治療効果予測に用いられるゲノムバイオマーカーの数は増加している。大腸がん抗EGFR 抗体療法の効果を予測するRAS遺伝子検査は,KRASコドン12,13について行われてきたが最近の研究結果より,これまでマイナーな変異とされてきたKRAS の他のコドンやNRAS 変異に拡大することで臨床的有用性が向上することが示された。さらに新規のバイオマーカーを探索するために,詳細な臨床情報を附随する組織標本を全国から集積し次世代シーケンサーによる大規模ゲノム解析を行う臨床研究も進行している。一方で,臓器の枠を越えてゲノムバイオマーカーを有効に利用するために実地臨床での次世代シーケンサーを利用した変異検索の可能性を評価することも重要である。国立がん研究センターにおけるクリニカルシーケンスの現状を紹介し,今後の課題について考察する。
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特集
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- がんサーバイバーの諸問題(長期)
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EBM に基づいたリンパ浮腫のチーム医療
41巻1号(2014);View Description Hide Descriptionリンパ浮腫は遺伝性や原因不明を含む原発性(一次性)と続発性(二次性)に分類され,日本におけるリンパ浮腫のほとんどは癌治療に伴う続発性リンパ浮腫である。しかし,外科医のリンパ浮腫に対する関心は低く,診療に関してevidence-based medicine(EBM)の観点からデザインされた質の高い研究はほとんどなされてこず,罹患の実態などを知る機会もなかった。このように,診断や治療の標準化にはほどとおい状況のなか,2008 年の診療報酬改定で「リンパ浮腫指導管理」ならびに「弾性着衣・弾性包帯の療養費払い」が採択され,医療者は否応なくリンパ浮腫診療と向き合うことになった。リンパ浮腫指導管理は,術後の予防教育として規定の項目に関する個別指導を行うことに対する加算であり,医師,看護師,理学療法士が加算可能な職種となっている。これに準じて,発症後の治療にも前述の3 職種が携わることになるが,治療で保険収載されたのは材料費のみであり,卒後研修によって修得した知識や技術についての診療報酬は未だ自己負担となっているのが現状である。本稿では,EBMにのっとった標準的な診療方針と,新たな試みとして,電子カルテのなかで原疾患とともにリンパ浮腫もチーム医療として管理していくための患者状態適応型パスシステムについて概説する。 -
ストーマ保有者―危機的時期の問題と対応―
41巻1号(2014);View Description Hide Descriptionがんが治癒した,あるいはがんと共生しているストーマ保有者は「セルフケアの確立」,「ストーマ合併症への対応」,「ストーマの受容」という三つの課題がよい相互関係の上に達成されて,身体的にも精神的にも安定した状態が保たれている。しかし,がん治療期には化学療法や放射線療法によって起こるストーマの合併症,有害事象からくるセルフケア困難などによって,がん進行期には全身状態の低下や進行がんの症状からくる深刻なストーマ合併症を抱えることによって,その安定状態が崩れる危険性がある。この危機的状態に対応するために,がん治療期ではストーマスキンケアを駆使して合併症であるストーマ周囲の皮膚障害に対応し,また手足症候群などの有害事象には障害をカバーするような操作のしやすい装具を多様な種類のストーマ装具のなかから選択する。がん進行期では,3 大合併症であるストーマ静脈瘤,ストーマ脱出,ストーマ傍ヘルニアについて,これらが悪化し全身状態と日常生活に大きく影響することのないように,身体の安全を第一としたケアを行う。ストーマを保有するがんサバイバーにとって,これらの課題を生涯的にサポートするストーマ外来や,専門性の高いセルフケア支援を行う皮膚・排泄ケア認定看護師の存在は非常に重要である。 -
小児がんサバイバーに対する長期フォローアップ―晩期合併症対策,移行医療の側面から―
41巻1号(2014);View Description Hide Descriptionがん治療の進歩により小児がんの約70%が治癒するようになり,20 歳台成人の1,000 人に1 人ががんサバイバーと試算されている。それに伴い成長期に受けた各種がん治療,特に化学療法,放射線療法により生じ得る,身体的および心理社会的な晩期合併症が問題となってきている。小児がんサバイバーに対する長期フォローアップに際しては原病のみならず,これら晩期合併症に対する体系的で集学的な長期フォローアップが重要である。さらに,思春期から青年期に達した小児がんサバイバーを円滑に成人診療科における医療に移行するという観点も重要である。これは,小児診療科の医療に慣れた小児がんサバイバーが小児診療科の医療と成人診療科の医療との間にある様々な違いのために,スムースに成人診療科に移行することができないことがしばしばあるからである。1990 年代から欧米で移行医療が導入されるようになった。本論ではこれらの概要について説明する。 -
性の悩み
41巻1号(2014);View Description Hide Description日本では,癌患者の性機能障害に対する治療はさほど積極的には行われていない。特に勃起障害を来す可能性のある癌手術においても,十分な対策がなされているとはいい難い。前立腺癌,膀胱癌,大腸癌などの骨盤内手術では,勃起神経が損傷されると勃起障害を来す。また,癌に罹患した患者は精神的ストレスにより性的な興味を失い,性行為を楽しむ余裕もなくなることが多い。さらに,膀胱や直腸手術後の人工肛門や尿路変向に伴う体の変化,ストーマの存在は性的接触をためらわせる要因となる。医療従事者は癌患者の性の問題についても積極的に取り組み,サポートしていく必要がある。勃起障害の治療には勃起障害治療薬の投与,血管作動薬の陰茎海綿体注射,陰圧式勃起補助具などがあり,状況に応じて使用する。勃起障害の治療の目的は,満足のいく性的関係を回復することであり,癌を克服した後にこのような関係性をパートナーとともに築くよう全力を尽くすべきである。癌克服後の人生を自信をもって生活していく上でも重要である。 -
下部尿路機能障害:骨盤内悪性腫瘍根治術後の神経因性膀胱について
41巻1号(2014);View Description Hide Description骨盤内悪性腫瘍根治術後に非可逆的神経因性膀胱が生じる率は15〜20%とされる。制癌が得られても下部尿路機能障害が生涯にわたり残存することは,患者にとって大きな問題である。非可逆的神経因性膀胱症例においては長期的な尿路合併症を回避するために,尿流動態検査所見に基づいた排尿管理法を選択することが望ましい。また,下部尿路機能のスクリーニングや経過観察としては残尿測定のみでなく,尿流測定も合わせて評価することが必要であろう。排尿管理法としての間欠導尿に対する正しい理解も必須である。 -
放射線療法後の諸問題
41巻1号(2014);View Description Hide Description放射線療法が高精度化し,問題となる後期有害事象の率は減ってきてはいるが,治療数が増加し生存率も向上しているため実数としては減っていない。後期反応とは照射後数か月以降に生じる毛細血管の虚脱や拡張,基底膜の肥厚,組織の瘢痕化,増殖能の喪失などによる反応である。反応の主因は血管損傷と間質細胞の喪失で,早期反応と異なり,肺,腎臓,心臓,中枢神経などの増殖の遅い非細胞再生系の組織に主に発生する。また,生命に影響は及ぼさないが,急性反応から回復せずに持続する口腔乾燥,皮膚乾燥などはQOL の低下を引き起こす。後期有害反応発生の閾値は組織の放射線感受性により異なるが,多くは線量依存性である。数年〜十数年の潜伏期を経て起こるものもあり,疑わしい場合は放射線腫瘍医を交えての正確な病態の把握がまず必要である。後期有害事象には有効な治療法がないものもあるが,ステロイドや高気圧酸素療法などが有効な場合もあり,適切な判断と対処が重要である。 -
サバイバーによるピアサポート普及の課題
41巻1号(2014);View Description Hide Description平成24 年,がん対策推進基本計画の改訂で「ピアサポートの充実」が明記されたが,ピアサポートに取り組んでいるがん診療連携拠点病院は平成25 年10 月末現在,全体の20%程度にすぎない。国としてピアサポーターの研修の策定事業が進んではいるものの,ピアサポートの普及は不十分である。NPO 法人キャンサーネットジャパンでは,平成22 年より神奈川県と協働し,県内拠点病院4 か所でピアサポート事業を展開してきた。事業に従事するピアサポーターは,キャンサーネットジャパンが乳がん体験者に向け平成19 年から開設した講座,「乳がん体験者コーディネーター養成講座」を修了し,認定を受けた乳がん体験者であり,自らの体験だけではなく科学的根拠に基づくがん医療情報についても学習したサバイバーである。四つの病院での実施形態はブース設置型,支援室待機型など病院事情により様々であり,患者・家族からの相談内容は「不安」が最も多く,対応としては「傾聴」が多かった。本稿ではキャンサーネットジャパンが実施してきたピアサポート事業を振り返り,今後,全国の病院にピアサポートが事業として受け入れられるためには,① 病院内調整,② サポーターに関すること,③財源の三つの課題があると考察した。
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Current Organ Topics:Genitourinary Tumor 泌尿器系腫瘍
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原著
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転移・再発GIST に対するImatinib Mesylateの治療成績
41巻1号(2014);View Description Hide Description転移・再発GIST 15 例に対して行ったimatinib の治療成績について検討した。imatinibは400 mg で投与開始し,治療効果の判定はRECISTおよびChoi 基準で行った。RECIST基準による評価では奏効率は40%であったのに対して,Choi基準では奏効率は80%であった。無増悪生存期間中央値は2,031 日で,5 年生存率は80.0%であった。Grade 3 以上の有害事象は白血球減少1 例,好中球減少2 例,貧血1 例のみであった。6 例(40%)において300 mg以下への減量を要したが,減量投与群と 400/800 mg 投与群で無増悪期間に差はなかった。GIST に対する imatinib の効果判定には Choi 基準は有用で,有害事象により継続困難な症例には減量投与でも十分な効果が得られる可能性が示唆された。 -
Oxaliplatinの計画的休薬期間を設けたFOLFOX によるStage Ⅲ大腸癌術後補助化学療法の検討
41巻1号(2014);View Description Hide Description目的: Stage Ⅲ結腸癌の術後補助化学療法におけるoxaliplatin(L-OHP)の有用性が示され,本邦でも術後補助化学療法としてFOLFOX 療法が推奨されている。しかし,L-OHP 用量依存性に生じる末梢神経障害は治療継続の大きな妨げになっている。そこで実地医療での有用性を期待し,計画的にL-OHP 休薬期間を設けたFOLFOX 療法を施行し,安全性・治療継続性を評価した。方法: Stage Ⅲ大腸癌13 例に対し,術後補助化学療法としてFOLFOX4 療法 4 サイクル,持続 5-FU/LV 療法4 サイクル,FOLFOX4 療法4 サイクルの計12 サイクルを施行した。結果: 11 例(84.6%)が本療法を完遂した。軽度の末梢神経障害を10 例(76.9%)に認めたが,L-OHP休薬期間中は軽減していた。結語:本療法は従来のFOLFOX療法と比較して,神経障害が軽微で安全性・治療継続性の高い療法であると考えられた。 -
前立腺癌に対するDegarelix 1 か月製剤PhaseⅡ試験12症例のその後の経過について
41巻1号(2014);View Description Hide Descriptiongonadotropin-releasing hormone(GnRH)antagonistであるdegarelixの前立腺癌に対する有効性と安全性確認の第Ⅱ相試験が行われた。山形県立中央病院では2007〜2008年にこの第Ⅱ相試験に参加し,13 例の症例を治療した。年齢は65〜85 歳で中央値80歳,平均値77.5歳,病期はT1c: 1,T2: 4,T3: 6,T4: 2,N0: 9,N1: 4,M0: 12,M1b: 1 例。PSA 値は6.3〜427 ng/mL で中央値 29.1 ng/mL,平均値 82.8 ng/mL であった。全例に PSA 値の低下を認めた。1 例が治験中に他の原因で死亡した。degarelix の1 年間の治験終了後,2 例に前立腺全摘がなされた。5例にcombined androgen blockade(CAB)療法がなされ,3例がPSA低下を認めた。2 例(T3aN0M0,T3bN1M0)はleuprolideのみ,2 例はbicaltamide(T1cN0M0,T2bN0M0)のみで治療中。癌死の2 例中1 例は経過観察中に大腸癌肺転移が発見され大腸癌の転移で死亡したが,大腸癌の化学療法でPSA値は12 か月間低値を示した。1 例(T3aN1M0)は無治療観察中で,3 年6 か月PSA再発を認めなかった。 -
オキサリプラチン注射液における経時的なシュウ酸生成
41巻1号(2014);View Description Hide Descriptionオキサリプラチンは冷感痛覚過敏などを特徴とする急性の末梢神経障害が必発であり,大腸癌治療の規制因子となる。オキサリプラチンは輸液との混合で非酵素的にシュウ酸が脱離するが,シュウ酸は急性の末梢神経障害への関与が示唆されている。今回,輸液中シュウ酸のHPLC による定量法を開発し,オキサリプラチンと各輸液を混合後,経時的なシュウ酸の生成量を検討した。その結果,5%ブドウ糖液の場合,8時間後のシュウ酸生成量はオキサリプラチンの1.6%であったが,生理食塩液では10 倍量のシュウ酸が生成した。また,オキサリプラチンの末梢静脈から投与する際の血管痛対策として,デキサメタゾン注射液をオキサリプラチンに添加する予防法がある。そこで,デキサメタゾン添加によるシュウ酸の生成量を検討した。その結果,デキサメタゾン添加によるシュウ酸の生成量は添加しない場合と有意差はなく,オキサリプラチンの安定性に問題はないと考えられた。
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薬事
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転移・再発乳がんに対するNab-Particle Albumin Bound Paclitaxel療法の検討
41巻1号(2014);View Description Hide Description2011年2 月〜2012年12 月の間にnab-particle albumin bound paclitaxel(nab-paclitaxel)を投与した転移・再発乳がん20 例を対象に,本薬剤の至適患者および特徴的な有害事象への支持療法について後方視的に検討を行った。nab-paclitaxel投与は3 週毎に繰り返し,病勢の改善または認容できない有害事象が認められない限り6 サイクル施行した。治療サイクル数の中央値は 6.0(2〜6),総投与量の中央値は 1,560(440〜1,560)mg/m2,dose intensity の中央値は82.3(65.0〜86.7)mg/m2/weekで,奏効率は30.0%であった。一次化学療法で使用した群の奏効率が42.9%であったのに対し,二次化学療法以降では23.1%と低率であった。タキサン系薬剤既治療群で,奏効率が26.7%であった。特徴的な有害事象は,1 サイクル目において好中球数減少を15 例(75%)に認め,うちGrade 4 を4 例(20%)認め,1 例(5%)で発熱性好中球減少症を発症した。全治療期間中においてGrade 3 の末梢神経障害を2 例(10%)認めた。以上から,nab-paclitaxelは一次化学療法での奏効率が高い傾向にあり,タキサン系薬剤既治療群においても有効性を示した。有害事象として好中球減少が多い傾向にあることから,発熱性好中球減少症に対する初期治療の指導を行い,末梢神経障害に留意することが重要である。
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症例
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下顎歯肉癌術後のS-1隔日経口投与中に認められた著しい皮疹の1 例
41巻1号(2014);View Description Hide DescriptionS-1 隔日投与中に著しい皮疹を認めた口腔癌症例を経験したので報告する。症例は75 歳,女性。左側下顎歯肉癌(T4N1M0)の診断にて術前放射線併用化学療法を施行後に根治的切除を行った症例である。術後補助化学療法としてS-1隔日経口投与法(80 mg/day,1 日 2 回,隔日投与)を開始した。治療開始1 か月後に顔面,四肢を中心に強い瘙痒感を伴った浮腫性紅斑が出現した。S-1 による薬疹と判断しS-1 内服を中止し,ステロイド剤ならびに抗ヒスタミン剤内服と局所ステロイド療法を開始した。徐々に症状は改善し約1 か月後に皮疹は消退し,再燃なく経過している。隔日投与は安全かつ有用なS-1の経口投与法であるが,一定量を超えると皮膚症状が出現する場合があることを認識しておく必要がある。 -
乳癌術後癌性心囊炎による心タンポナーデに対しPaclitaxelおよびMinocyclineの心囊内投与が有効であった1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。45 歳時に乳癌に対して乳房腫瘤切除術および乳房切断術を施行した。56歳時に咳嗽,呼吸困難を自覚し,胸部X 線など精査にて心囊水,胸水の貯留を認めた。その後,心囊水が増加し心タンポナーデを発症したため,緊急にエコーガイド下心囊ドレナージ術を施行した。心囊水細胞診がClass Ⅴであったため,再発乳癌による癌性心膜炎(心囊炎)と診断した。再貯留を予防する目的にて,心囊内にpaclitaxel 45 mg,minocycline 100 mgを投与した。その後は心囊水の再貯留は認めず,心タンポナーデの発症もその後は認めなかった。心囊内へのpaclitaxel およびminocycline の投与が乳癌の癌性心膜炎,心タンポナーデのコントロールに有効である可能性が示唆された。 -
癌性心タンポナーデを良好にコントロールし得た再発乳癌の2 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例1 は50 歳,女性。左乳癌に対する左全乳房切除術の2 年後に胸壁再発し,その後左頸部リンパ節と左大腿骨に転移し,5 年後に心タンポナーデを発症した。経皮的心囊ドレナージにより760 mL の淡血性心囊液を排出し,心囊腔にOK-432とアドリアマイシンを注入した。以後永眠される1 年8か月間,心囊液の再貯留はみられなかった。症例2 は67 歳,女性。左乳癌に対する左乳房温存手術の6 年後に多発骨転移が出現し,11 年後に心タンポナーデを発症した。経皮的心囊ドレナージにより900 mL の淡血性心囊液を排出し,心囊腔に薬剤を注入せずにカテーテルを抜去した。以後永眠される2 か月間,心囊液の再貯留はみられなかった。 -
S-1+CDDP による術前化学療法中に穿孔した高度進行胃癌の緊急胃切除の1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。上腹部痛を主訴に受診し,内視鏡検査で幽門前庭部の2 型進行胃癌の診断となった。腹部CT 検査では幽門下(No. 6),脾動脈近位(No. 11p),腹部大動脈周囲(No. 16a2)リンパ節に計4 個の転移を認め,臨床病期はT3(SS)N2M1(LYM),Stage Ⅳと診断した。治療方針はS-1+CDDP 療法を2 コース投与後に,胃切除術,D2+大動脈周囲リンパ節郭清を予定した。化学療法開始から14 日目に突然の上腹部痛と腹膜刺激症状が出現した。腹部CT 検査で腹腔内遊離ガスを認め,胃癌穿孔の診断で緊急手術を行った。開腹所見では約5 cmにわたり胃癌の穿孔を認め,手術は幽門側胃切除術,Roux-en-Y再建,D1+リンパ節郭清を行った。大動脈周囲リンパ節が遺残したが,術後経過は順調で第23 病日に退院した。本症例は強力な化学療法中の緊急胃切除術であったが,術後合併症や化学療法の有害事象を生じず安全に周術期管理が可能であった。 -
GIST の肝・骨転移にイマチニブが著効した1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。飲酒歴や肝炎の既往なし。15 年前,胃腫瘍に対して胃部分切除術を施行。2012年,肝腫大を指摘され当院を受診。PET で肝右葉の巨大腫瘍や多発する骨へのFDG 異常集積を認め,肝生検の免疫染色でKITが陽性となり,GISTの肝・骨転移と診断された。イマチニブ投与を開始し,3 か月後のPETで著明な集積の改善を認めた。現在も再発なく,外来で治療継続中である。 -
有害事象なく通常量のイマチニブ投与が長期間可能であり奏効した超高齢者直腸非手術GISTの1例
41巻1号(2014);View Description Hide Description患者は89 歳,男性。他疾患定期検査の腹部CT で直腸右壁に接する最大径54 mm の腫瘤を指摘され,経直腸針生検で直腸壁外発育型 GIST と診断された。イマチニブ 400 mg/日の経口投与を開始したところ腫瘤は縮小し,投与開始後も有害事象は認めず通常量の投与継続が可能であった。投与開始57 か月後には最大径が24 mmまで縮小し,現在まで60 か月経過して有害事象なくPR を保っている。大腸GISTは全消化管GISTのうち約5%とまれな疾患であり,外科的切除が治療の第一選択となる。本症例は手術の同意が得られずイマチニブ経口投与を選択したが,高齢者では若年者より浮腫の発現頻度が高いなど有害事象の発生が高率であると報告されており,減量するなどの注意が必要である。本症例は超高齢ではあったが通常量での投与継続が可能であり,手術を回避して良好な経過を得ているので報告する。 -
原発巣切除・全身化学療法後に肝転移巣切除を施行した上行結腸内分泌細胞癌の1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。主訴は下血であった。下部消化管内視鏡検査で上行結腸肝弯曲部近傍に2 型腫瘍を認め,生検で低分化腺癌と診断された。腹部CT 上,肝右葉後区域に3 個の肝転移が認められたが,まず結腸右半切除術を施行した。その後,切除標本の病理組織学的検査で内分泌細胞癌と確診された。術後,CapeOX/BEV(oxaliplatin,capecitabine,bevacizumab)療法による全身化学療法を5 コース施行したが,肝転移の増大を認めた。ただし,新規病変の出現が認められなかったため,治癒切除可能と判断して肝後区域切除術を行った。術後経過は良好で,初回手術後8 か月の現在,無再発生存中である。大腸内分泌細胞癌は早期より血行性・リンパ行性転移を来す生物学的悪性度の高い腫瘍であり,予後は極めて不良である。予後改善のためには外科的治療だけではなく,分子標的治療薬を含む新たな全身化学療法を組み合わせた集学的治療の確立が望まれる。 -
S状結腸癌の肝転移,傍大動脈リンパ節転移に対して5-FU/l-LV,FOLFOX4 療法後 S-1投与で長期のCR を得られた症例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。肝転移と傍大動脈リンパ節転移を伴うS 状結腸癌である。S 状結腸切除術,リンパ節郭清術を施行した。肝転移は単発で直径3 cmであったが,傍大動脈リンパ節転移が遺残したため肝切除は行わなかった。血清CEA 値は術前も術後もほとんど変わらず 200 ng/mL 以上であった。術後の化学療法として,まず weekly 5-FU/l-LV 療法を 4 週行い,続いてFOLFOX4 療法を2 週間ごとに12 回施行した。その後はS-1 の内服を28 日間投薬14 日間休薬で行った。血清CEA 値は化学療法を開始後急速に低下し,3 か月で正常値に復した。リンパ節転移と肝転移はそれぞれ,3 か月後,11 か月後にCT 上消失した。S-1の内服は7 年以上継続し,その後中止して1 年以上経過しているが,術後9 年以上経過してCRが続いている。 -
GEM/CDDP 療法が著効し切除可能となった進行胆囊癌の1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。腹部違和感を主訴に近医を受診。腹部CT で肝内直接浸潤,8 番および16 番の多発リンパ節転移を伴う切除不能胆囊癌と診断され,GEM/CDDP 療法を開始した。4 コース終了時,CT 上原発巣・転移リンパ節の縮小および消失を認め,根治手術を施行した。病理学的に傍大動脈リンパ節(#16b1)は線維化および泡沫細胞を認めたがviable癌組織を認めず,化学療法による効果と考えられた。切除不能胆囊癌における化学療法によるダウンステージ後の外科切除の報告はまれであり,若干の文献的考察を含めて報告する。 -
Weekly Paclitaxel(PTX)療法が著効した原発性尿管腺癌術後に発症した癌性腹膜炎の1 例
41巻1号(2014);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。2009年10 月に右原発性尿管腺癌にて右腎尿管全摘術を受けた後,2010 年4 月に術後再発による癌性腹膜炎を発症した。S-1や tegafur/uracil(UFT)が無効であったため,weekly paclitaxel療法を開始したところ,腹水は速やかに消失した。その後,化学療法を中止したが長期間病勢を制御できた。
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