癌と化学療法
Volume 41, Issue 2, 2014
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総説
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腫瘍崩壊症候群と診療ガイドライン
41巻2号(2014);View Description Hide Description腫瘍崩壊症候群(TLS)は,腫瘍の急速な破壊により細胞内容物が大量に血中に放出されることにより惹起される致死的な代謝異常である。TLS はlaboratory TLS(LTLS)とclinical TLS(CTLS)に分類される。LTLSは,高尿酸血症,高カリウム血症,高リン血症のうち二つ以上が認められる状態である。CTLSはLTLSに加え,腎不全,不整脈,突然死,痙攣が出現した状態である。TLS の予防と治療法は,大量補液,高尿酸血症の管理,電解質の頻回のモニタリングと異常の補正である。ラスブリカーゼは,遺伝子組換え型のウレートオキシダーゼであり速やかな尿酸の正常化が可能である。ラスブリカーゼの臨床導入に伴い,診療ガイドラインが公表され,推奨されるリスク評価法,予防法が提唱された。このガイドラインは,造血器腫瘍症例のみならず固形がんの症例にも適応可能である。しかし分子標的薬の広範な臨床導入などにより,医療環境は大きく変化しつつある。またラスブリカーゼの使用により,リン酸の血中濃度がCTLSの最も重要なリスク因子となる。近い将来,ガイドラインの再評価が必要となるであろう。
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特集
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- 血管新生を標的としたがん治療の現況と展望
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悪性神経膠腫に対する抗血管新生療法と課題
41巻2号(2014);View Description Hide Description膠芽腫は最も悪性度が高く,高頻度にみられる原発性悪性脳腫瘍の代表疾患であるが,標準治療薬であるテモゾロミド(temozolomide: TMZ)を用いた集学的治療によっても依然極めて予後不良な致死的疾患であり,新規の有効な治療薬の開発は喫緊の課題である。ベバシズマブ(bevacizumab: Bev,Avastin(R))は腫瘍の増殖に必要な血管新生に重要な役割を果たす血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)に対するヒト化モノクローナル抗体であり,膠芽腫に対し良好な病巣縮小効果および症状緩和効果が認められたことから,2013 年6 月に本邦でも悪性神経膠腫に対し適応拡大となった新規の分子標的治療薬である。2013年の米国臨床腫瘍学会で初発膠芽腫に対する二つの第Ⅲ相試験の結果が報告されたが,全生存期間の延長は認められず,Bev の使用時期を含め,多くの問題点が指摘されている。本稿では,当施設での再発膠芽腫に対するBev 治療経験を含め,これら悪性神経膠腫に対するBev療法の課題を論説する。 -
甲状腺癌に対する分子標的療法の現況と展望
41巻2号(2014);View Description Hide Description甲状腺癌の多くは手術により予後良好である。しかし,局所進行性・転移性の髄様癌や放射性ヨード療法に抵抗性な分化癌,極めて予後不良な未分化癌などの難治性の甲状腺癌に対する有効な治療法はない。最近の研究により,細胞内のシグナル経路の活性化,関連する遺伝子の異常,VEGFR やEGFR を介した血管新生が甲状腺癌の増殖,分化度の劣化に関係することが判明してきた。難治性の甲状腺癌に対し,様々な分子標的薬を使用した臨床試験が欧米を中心に行われている。2011 年4 月にはvandetanibが難治性の髄様癌に対して米国食品医薬品局の承認を受けた。2013 年6 月にはphase Ⅲ臨床試験でsorafenib が難治性の分化癌に対しPFS の延長を認め,米国癌治療学会議で報告され,2013 年11 月に米国食品医薬品局の承認を受けた。未分化癌では血管標的薬と化学療法を併用した多施設間の臨床試験が行われている。分子標的薬は,生体での作用機序の解明,抗腫瘍効果予測の方法,有害事象への安全管理などの課題もある。日本における臨床試験は始まったばかりであるが,この新しい分子標的療法は,薬物療法のなかった難治性の甲状腺癌に対する新たな治療法として期待されている。 -
血管新生を標的とした乳がん治療の現状と展望
41巻2号(2014);View Description Hide Description血管新生は乳がんの増殖や発展に重要な役割を果たしている。血管内皮細胞増殖因子VEGF-A に対するヒト化モノクローナルIgG 抗体であるbevacizumab(Avastin)は,本邦で唯一使用が承認されている血管新生阻害剤である。本稿では,bevacizumabを中心に血管新生阻害剤の乳がん治療での現状と展望について述べる。 -
婦人科がん
41巻2号(2014);View Description Hide Description卵巣がんは「VEGF-driven cancer」とも称されるほどVEGF 系に依存しているがため,血管新生阻害薬への期待は高い。血管新生には複合的プロセスが必要であり,VEGF 系に加え,血小板由来増殖因子(PDGF)や線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体,angiopoietin 1/2-Tie2受容体へのシグナル伝達経路などが重要であり,研究が加速している。bevacizumab(Bev)は初回術後治療では二つのTC 療法と併用・維持療法でのランダム化試験(RCT),プラチナ感受性・耐性再発卵巣ではそれぞれ一つのRCT において優れた成績が報告されている。これらの結果により,欧州では卵巣がん初回・再発治療に認可された。日本でもGOG218 への医師主導治験に基づき2013 年11 月に承認された。子宮頸部扁平上皮癌においてはHPVtype 16 のE6/E7 蛋白が発がんに関与しているとともに,血管新生因子の一つであるVEGF 系の発現亢進に関与している。Bevと化学療法との併用により有意なPFSの改善が認められた。さらに,婦人科領域で初めてOS改善が認められた臨床的意義が大きい。 -
肺癌における血管新生阻害剤
41巻2号(2014);View Description Hide Description血管新生は腫瘍の発育において重要な役割を担っており,血管新生を阻害することは腫瘍に対する治療戦略の一つと考えられている。VEGF 経路,Notch 経路,integrin 経路などの多くのシグナル経路が複雑に関連しながら血管新生は起こり,VEGF 経路は血管新生において中心的な役割を担っている。bevacizumab(Bev)はVEGF-Aに特異的なヒト化モノクローナル抗体である。ECOG4599,AVAiLの二つの大規模第Ⅲ相試験の結果,化学療法にBevを併用することで,非扁平上皮非小細胞肺癌患者の予後が改善することが示された。これらの結果を受けてBevは,進行非扁平上皮非小細胞肺癌に対する初回治療として,わが国で唯一承認されている血管新生阻害剤となった。現在,非小細胞肺癌において多くの血管新生阻害剤が開発されており,これらの薬剤はリガンドと結合することで,または受容体のチロシンキナーゼ活性を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。しかしながら,現時点では全生存期間を有意に延長した薬剤は,Bevを除いて存在しない。この稿では主にBev の第Ⅲ相試験について述べ,一部,新規血管新生阻害剤についても記載する。 -
腎細胞癌
41巻2号(2014);View Description Hide Description腎細胞癌(RCC)で組織型として最も多いタイプの淡明細胞型腎細胞癌(clear cell renal cell carcinoma:ccRCC)は血管が豊富であり,von Hippel-Lindau 病の原因遺伝子であるVHL 遺伝子が高頻度に異常を来している。これはHIF-a の蓄積と,血管新生に関係する標的遺伝子の活性化につながり,血管豊富な腫瘍が形成されるためである。現在,サイトカインが標準治療であった時代以降に分子標的薬として有用性が示された薬剤のうち,sorafenib,sunitinib,axitinib,pazopanibはいずれも血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)の阻害作用をもっている。bevacizumab はVEGF に対する抗体であり,mTOR 阻害薬であるeverolimus やtemsirolimus もmTOR の阻害をとおして血管新生阻害作用があると考えられている。このように,現時点でのccRCC 薬物治療の主役は血管新生阻害薬であるといえる。しかし,これらの治療では完全奏効が得られるとしても,その頻度は極めて低く,奏効期間も十分長いとはいえず,血管新生阻害以外の機序をもち,かつ有効性を示す薬剤の開発が期待されている。
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Current Organ Topics:Gynecologic Tumor 婦人科腫瘍卵巣がん治療の新たな潮流
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原著
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唾液腺癌の予後を左右する因子の検討−化学療法は予後を改善するか−
41巻2号(2014);View Description Hide Description本研究は,唾液腺癌の予後因子を多変量解析によって検討した。1985〜2010年の間に手術を主体とした根治的加療を行った唾液腺癌患者45 例を対象とした。単変量・多変量解析によって唾液腺癌の臨床的,病理的予後因子[原発部位,T分類,N 分類,病理組織学的悪性度(長尾2008 年),切除マージン,術後放射線治療,補助化学療法]に関して遡及的分析を行った。多変量解析モデルを行ったところ,T 分類(OR: 2.93,95% CI: 1.47-5.80)および切除マージン(OR: 4.86,95% CI:1.76-13.44)は無癌生存期間の延長において統計学的に有意な予後因子を示した。また,術後補助化学療法は,無癌生存期間を延長する有意な改善傾向を示した(OR: 0.28,95% CI: 0.07-1.11)。本研究によって,T分類および原発腫瘍の切除マージンは唾液腺癌において重要な予後因子を示した。さらに,術後補助化学療法は唾液腺癌の予後を改善する可能性を示唆した。 -
進行肝細胞癌に対する微粉末化シスプラチン製剤による肝動注化学療法の治療成績
41巻2号(2014);View Description Hide Description進行肝細胞癌に対する微粉末化シスプラチン製剤(動注用アイエーコール(R))による肝動注化学療法(transarterialinfusion chemotherapy: TAI)の有用性が示唆されているが,多数例を検討した報告は少ない。今回われわれは,アイエーコールを用いた肝動注化学療法の治療成績を検討したので報告する。2006 年1 月〜2012年3 月までの間に,当院でアイエーコールによるTAIを施行した123症例の進行肝細胞癌を対象とした。65 mg/m2にてアイエーコールを栄養血管に動注した。腫瘍が増大するまで,もしくは認容できない副作用が出現するまで,4〜8 週間ごとに治療を行った。CR 4 例(3.2%),PR15例(12.0%),SD 40 例(32.2%),PD が64 例(52.4%)であった。奏効例(CR+PR)は,非奏効例(SD+PD)と比較して累積生存率が有意に良好であった(p<0.05)。非奏効例の生存期間の中央値は10.6 か月であったのに対して,奏効例では23.8か月と良好であった。多変量解析にて,生存に寄与する因子として治療効果(奏効例),背景肝疾患の成因(非C 型),Child-Pugh 分類(grade A)とPIVKA-Ⅱ低値が抽出された。重篤な副作用は認められなかった。アイエーコールによるTAIは,進行肝細胞癌に対して試みるべき治療法と考えられた。 -
ドセタキセルによる浮腫予防に対するステロイド前日投与の効果についての後方視的研究
41巻2号(2014);View Description Hide Description欧米ではドセタキセル(DTX)投与時に浮腫や過敏症状の軽減を目的に前日からのステロイドの使用が推奨されている。今回われわれは,前日からのステロイド服用の有用性について検討した。2010 年1 月〜2012年5 月に当院で術前または術後化学療法としてDTX 単剤±trastuzumabまたはTC(DTX+サイクロフォスファミド)±trastuzumab療法を開始し,4 サイクル以上施行した乳癌患者を対象とし,ステロイドをDTX投与日より内服した症例(A群62 例)と前日より内服した症例(B 群47 例)において,4 サイクル終了時での浮腫や過敏症の出現頻度をレトロスペクティブに比較検討した。浮腫はA群28 例(45.2%),B 群12 例(25.5%)に出現し,有意にB 群が低かった(p=0.04)。また,浮腫の発現時期についてもB 群で遅くなる傾向が認められた。過敏症はA群8例(12.9%),B群3例(6.4%)でB 群が低い傾向であったが,有意な差はなかった。浮腫の発現予防に対して,ステロイドの前日投与の有用性が示唆された。また,浮腫の発現時期を遅らせることができると考えられた。DTX の副作用軽減につながる前投薬は,患者のQOL維持や治療継続の上で使用が望まれる。 -
新規抗癌剤エリブリンの有効性および安全性についての検討
41巻2号(2014);View Description Hide Descriptionエリブリンは,アンスラサイクリン・タキサン既治療例の転移・再発乳癌を対象としたEMBRACE試験において,主治医選択治療と比較して全生存期間を有意に延長したことが報告された。本邦において,2011 年4 月に手術不能または再発乳癌に対してエリブリンが承認され,使用可能となった。本稿では,自験例におけるエリブリンの有効性および安全性について報告する。対象は2011年8 月〜2012年12 月までの間に,当科でエリブリンの投与を受けた進行・再発乳癌患者20例。年齢の中央値は62(42〜76)歳,subtypeは ER(+)/HER2(−)16 例,triple negativeが 4 例であった。再発後の化学療法レジメン数の中央値は3(0〜5)レジメンであった。抗腫瘍効果は,完全奏効(CR)例は認めなかったが,部分奏効(PR)5 例,安定(SD)が10 例に認められ,奏効率(CR+PR)25%,臨床的有用率(CR+PR+6 か月以上のSD)は35%であった。無増悪生存期間中央値146日,全生存期間中央値は482 日であった。有害事象に関しては,血液毒性では好中球減少75%,白血球減少75%,貧血が80%に認められたが,Grade 3 以上は好中球減少40%,白血球減少20%であり,発熱性好中球減少を認めたのは1 例(5%)のみであった。非血液毒性では末 神経障害30%,全身怠感が35%に認められたが,Grade 3 以上のものはなかった。今回のわれわれの検討では,今までの報告(EMBRACE試験・国内221 試験)と比べ,やや良好な治療効果であった。Grade 3 以上の有害事象の頻度も少なく,忍容性は良好であった。エリブリンは,QOLを維持しながら治療効果が得られる新規薬剤であると考えられた。
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薬事
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LHRH アゴニスト注射時における冷却法の除痛効果
41巻2号(2014);View Description Hide Description前立腺癌あるいは閉経前乳癌患者181 例を対象とし,LH-RH アゴニスト投与時の痛みに対する冷却法の効果をnumericalrating scale(NRS)とフリーコメントによるアンケート調査で評価した。冷却法を用いた除痛効果は,NRS では改善38.1%,不変37.5%,増悪24.4%であり,統計学的な有意差には至らなかった(p=0.123)。しかし,フリーコメントによる除痛効果は,改善53.2%,不変38.5%,増悪8.3%とかなり高く,NRS での評価と乖離した結果となった。また,冷却法の有無にかかわらず,使用製剤の針の太さや肥満が痛みに強く影響した。冷却法はLH-RH アゴニストの除痛に有効であった。簡便,安価で安全であり,積極的に行っていくべき手技であると考えられた。
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症例
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ビスフォスフォネート製剤の長期休薬後に抜歯を契機として生じた多発性ビスフォスフォネート関連顎骨壊死の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Descriptionビスフォスフォネート(bisphosphonate: BP)は骨粗鬆症治療,悪性腫瘍による高カルシウム血症,多発性骨髄腫および固形癌の骨転移による骨病変の治療に多用されているが,その副作用としてBP 関連顎骨壊死(BRONJ)が発生することが報告されている。今回われわれは,長期間のBP 製剤休薬後に抜歯を契機としてBRONJ が発生した症例を経験したので報告する。症例は74 歳,女性。乳癌骨転移の診断で2003〜2008年まで注射用BP 製剤の投与を行った。2010 年に抜歯を行ったが,抜歯窩に8 週間以上持続する骨露出を認めたため,BRONJと診断した。注射用BP 製剤治療歴のある患者では抜歯前の休薬は有益ではなく,BRONJ 発生の予防のためには抜歯などの侵襲的歯科治療を避けることが重要であると考えられた。 -
転移性脊椎腫瘍に対して集学的治療を行い在宅療養が可能となった1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description転移性脊椎腫瘍に対して手術療法を含めた集学的治療を行い,在宅療養が可能となった症例を経験した。症例はB型肝炎キャリア,50 歳,男性。2010年1 月に肝癌と診断され,肝切除術・肝動脈化学塞栓療法を施行。2011 年11 月,Th12の骨転移による腰背部痛が出現し入院。入院時NRS 8/10,PS 2。薬物療法・放射線療法を開始したが,第 12 病日,MMT 4/5,Frankel分類Dの下肢筋力低下が出現,直ちに整形外科医にコンサルトし,第15 病日,後方除圧固定術を施行。術後に放射線治療・リハビリを開始。術後はNRS 0/10 で経過し,筋力低下進行も認めず。介護保険,在宅訪問看護を整え第61 病日に自宅退院となった。脊椎転移の手術療法選択では徳橋,富田,片桐ら等々の基準があり予後予測や全身状態,病巣の範囲などが大切な因子となる。本症例では各専門家同士の迅速な連携と適切な治療選択によって,効果的な症状緩和と在宅退院が可能となった。 -
Bevacizumab投与中に気胸を発症した乳癌の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は62 歳,女性。右乳房腫瘤を主訴に来院。精査の結果,右乳癌T4bN3bM1(lung),stageⅣと診断した。局所コントロール目的の右乳房切除術後,anthracycline,taxaneを含む計9 レジメンの化学療法を行った。しかし,徐々に進行を認めたため,bevacizumab+paclitaxel併用療法を施行した。フォローアップのCT 検査上,多発肺転移の充実性腫瘤は,空洞化を伴って縮小を認めた。しかし,投与開始8 か月後,左側気胸を認めた。気胸の原因については明らかではないが,CT検査にてbevacizumabによって空洞化した肺転移巣と関連のある可能性が示唆された。幸い本症例は,胸腔ドレーンの留置と胸膜癒着療法により軽快したが,場合によっては呼吸不全から全身状態悪化や抗癌剤投与の遅れに伴う病状進行を招く危険もある。頻度はまれであるが,bevacizumab投与中に空洞化する乳癌肺転移は,気胸の可能性も念頭に置きながら治療する必要があると思われた。 -
肝細胞癌術後の骨転移巣が多血症を呈した1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は57 歳,男性。肝S6 の直径2 cmの肝腫瘍を切除したところ,低分化型肝細胞癌であった。術後,a-fetoprotein値はいったん正常化したものの,術後4 か月目に再上昇し,9 か月目に左肩甲骨を中心に転移性骨腫瘍を認めた。転移巣は急速に増大し,同時期にヘモグロビン(Hb)が上昇した。術後 14 か月目のHbは 19.1 g/dLで,エリスロポエチン値は179.5mIU/mL と高値であった。また,喫煙や低酸素血症などによる二次性多血症はなかった。肝細胞癌に腫瘍随伴症候群として多血症は報告されているが,転移性骨腫瘍が多血症を呈した症例は認めないため報告した。 -
Paclitaxel+S-1併用療法を行い長期のTumor Dormancyが維持された高度進行胃癌の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description今回われわれは,腹膜播種を伴った高度進行胃癌に対しpaclitaxel+S-1 併用療法を行い,3 年以上tumor dormancyを維持することができた1 例を経験したので報告する。症例は58 歳,女性。3 型進行胃癌と多発腹膜播種による腸閉塞を認め入院となった。2009 年1 月,腸閉塞の解除目的に小腸部分切除術を施行した。原発巣は根治不能であった。術後7 日目に残存胃癌に対しpaclitaxel+S-1併用療法(paclitaxel 60 mg/m / 2 3 週投与1 週休薬,S-1 80 mg/m2 day 2 週投与1 週休薬)を開始した。Grade 1 以上の副作用はなく,その後3 年間同併用療法を行うことができた。その間,腫瘍マーカーの上昇はなかった。また,自覚症状はなく通常の社会生活を過ごし,tumor dormancyの状態を継続している。 -
S-1+Paclitaxel(PTX)併用療法にてCR を得た切除不能胃癌の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide DescriptionS-1+paclitaxel(PTX)併用療法にてcomplete response(CR)を得た切除不能胃癌の1 例を経験した。症例は67歳,女性。Virchowリンパ節・傍大動脈リンパ節転移陽性の切除不能胃癌と診断された。induction chemotherapyの方針となり,S-1 70 mg/m / 2(day 1〜14)+PTX 70 mg/m2(day 1)の3 週毎投与を開始したところ,7 コース終了時点で原発巣・腫大リンパ節の著明な縮小を認めた。以後2 年6か月間に計39 コース施行したが,PS 0,画像上CR を維持し原発巣の生検にても癌細胞は認めなかった。その後S-1単剤療法(day 1〜28,2 週休薬)70 mg/m2に変更し,治療開始より3 年経過しているがCR,PS 0 を維持して外来治療継続中である。 -
S-1+CDDP による導入化学療法後に胃切除を行った脾転移を伴う高度進行胃癌の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。胃検診で噴門部の胃癌と診断された。腹部CT 検査で,原発巣の脾門部への直接浸潤と多発脾転移を認めたため非切除となった。S-1+CDDP による導入化学療法を施行した結果,原発巣・脾転移巣ともに著明な腫瘍の縮小を認め,PR と判定された。9 コース終了後に脾合併胃全摘出術+D2リンパ節郭清を行い,癌遺残のない手術が可能であった。原発巣の組織学的効果判定はGrade 2 で,脾内に胃癌の転移巣を認めた。術後S-1 を中心とした化学療法を行い,導入化学療法開始から39 か月,無再発生存中である。胃癌の脾転移はまれな転移形式で予後不良とされるが,本症例は導入化学療法後に胃切除術を行い,長期生存が得られているので報告する。 -
分割DCS 療法による術前化学療法にて治癒切除可能となった進行胃癌の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。心窩部痛を主訴に受診。上部消化管内視鏡検査にて前庭部に亜全周性の3 型胃癌を認めた。CTにて高度リンパ節転移を認め,cT3,N2,M0,Stage ⅢA と診断した。治癒切除困難と判断し,術前化学療法として分割DCS療法を3 コース施行したところ,CT上リンパ節は消失した。幽門側胃切除術を施行し,最終診断はypT3,N0,M0,Stage ⅡAであった。術後約1 年4か月再発なく経過観察中である。 -
早期からの緩和ケア支援により長期化学療法が可能となった胃癌骨髄癌症の1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description早期から疼痛緩和を行うことにより,約1 年の長期生存が得られる化学療法を施行できた胃癌骨髄癌症の1 例を経験したので報告する。症例は45 歳,男性。2011 年6 月,腰背部痛にて当院整形外科を受診し,多発脊椎腫瘍と診断され入院。原発巣として胃癌が疑われた。検査施行の体位保持のため,激痛に対しフルルビプロフェンアキセチル+フェンタニル持続皮下注射により緊急除痛を行った。骨髄検査で低分化型腺癌の診断となり,DIC傾向を認めたため化学療法(MF療法)を開始。治療にて腫瘍マーカーは低下し,ALP,LDH は正常化した。胃生検結果と合わせ胃癌骨髄癌症と診断した。入院当初から不安やスピリチュアルペインがあり,精神ケアも必要であった。同年11 月,腫瘍が再燃し治療をS-1+CDDP併用療法に変更した。鎮痛補助薬を一時使用するもフェンタニルパッチ,エトドラクの併用で痛みはコントロールされ,12 月退院。2012 年2 月,腰背部痛の再燃とDIC の併発を認め,疼痛治療とMF 療法再開にてDICを一時的には脱したが,同年5月死亡した。 -
上行結腸癌術後,大動脈周囲リンパ節転移再発に対しUFT/LV を用いて CR を得た1 例
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。2008年10 月に上行結腸癌に対し結腸右半切除術を施行。病理組織学的検査はtub2,pSE,ly1,v0,PM0,DM0,RM0,pN1(2/23),H0,P0,StageⅢa であった。術後外来にて補助療法としてUFT(500 mg/日)/LV(75 mg/日)を内服開始するも,肝機能障害が出現したため1 コースで中止となった。その後2009 年 6 月,CEA の上昇を認めたため腹部CT 施行したところ,f2 cm 大の大動脈周囲リンパ節腫大を1 個認め,FDG-PET でも同部に高集積を認めたため,大動脈周囲リンパ節転移再発と診断した。手術治療と抗癌剤の治療効果,有害事象,管理方法などを患者に説明し,UFT(500 mg/日)/LV(75 mg/日)の方針となった。3 コース施行後,腹部 CT で CR が得られ,2011 年 4 月まで計15 コース施行しCR 継続したため内服中止しているが,その後も無再発生存中である。有害事象は肝機能障害Grade 2 であった。今回われわれは,上行結腸癌術後,大動脈周囲リンパ節転移再発に対しUFT/LV を用いて大きな有害事象なくCR が得られた1 例を経験したので報告する。 -
同種骨髄移植後再発しドナーリンパ球輸注療法により再寛解を得て13年後にSudden Blast Crisisで再発した慢性骨髄性白血病
41巻2号(2014);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。24 年前に慢性骨髄性白血病を発症し,22年前に実弟から同種骨髄移植を受けた。移植6 年後再発しドナーリンパ球輸注療法で再寛解が得られ,以後13 年間寛解であったがsudden blast crisisで再発した。メシル酸イマチニブ,ダサチニブにより,いったん分子遺伝学的効果が得られるも再発を繰り返し,Bcr-Abl遺伝子のT315I変異を来してsudden blast crisisから3 年半後に死亡した。移植後長期寛解後に再発したこと,再発形式がsudden blast crisisであったことから,本例は非常にまれな症例と考えられた。
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