癌と化学療法

Volume 41, Issue 3, 2014
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総説
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肝細胞癌に対する肝移植治療の意義
41巻3号(2014);View Description
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肝細胞癌に対する肝移植は,癌のみならず,ウイルス性肝硬変などの障害肝も同時に置換することができるため,臨床的意義は非常に大きい。肝癌診療ガイドラインでの肝移植の推奨は,肝障害度C で術前画像診断にてMilan基準(5 cm 以下単発,または3 cm 以下3 個以内)肝細胞癌である。しかし,肝細胞癌の悪性度を考慮したKyoto基準などにより低い再発率を保ちつつ適応拡大が可能となった。他治療と比較して高い周術期合併症率や死亡率,生体ドナーのriskや肉体的・精神的負担から,現時点における肝細胞癌に対する生体肝移植の位置付けは,「他の治療が可能なら第二選択以降,肝機能などにより他の治療が不可能なら第一選択」とするのが妥当であろう。
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特集
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- 幹細胞とがん
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白血病幹細胞―最も研究が進んでいるがん幹細胞―
41巻3号(2014);View Description
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先進国における死因の約半数をがんが占める現在,がん幹細胞コンセプトに基づく治療法の開発に注目が集まっている。腫瘍組織を構成するがん細胞のすべてが均一な造腫瘍能を有しているのではなく,少数存在するがん幹細胞のみが自己複製を行いながら腫瘍を再構築する能力を保持していることが明らかとなり,究極の治療標的はがん幹細胞であることが認識されるようになった。このような腫瘍内ヒエラルキーの存在を初めて実験的に証明したのは,急性骨髄性白血病における白血病幹細胞の同定であった。白血病幹細胞の多くは細胞周期の静止(G0)期にあるため,通常化学療法に抵抗性で微小残存病変や再発の原因となっている。多くの研究者が白血病幹細胞を特異的に死滅させる治療法の開発に取り組んでおり,その成果が少しずつみえてきた。本稿では,最も研究が進んでいるがん幹細胞としての白血病幹細胞を取り上げ,その細胞特性を標的とした新規治療法開発,白血病幹細胞研究をめぐる今後の課題について概説する。 -
腸管上皮幹細胞とがん幹細胞
41巻3号(2014);View Description
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腸管粘膜は一生涯にわたり増殖,分化,細胞死を1 週間周期で絶えず繰り返すという特殊な組織である。その腸内環境は食ï,感染,腸内細菌,薬物,代謝産物など様々な因子により曝露されている。この腸内環境を維持するために上皮細胞を供給する幹細胞の役割が非常に重要となる。幹細胞制御が上皮細胞の構成成分を決定し,腸内機能を調整していることから,幹細胞の同定および機能制御を解析することが腸管機能理解に有用である。その一方で常に分裂する幹細胞が破綻することでがん幹細胞へ移行し,大腸がんの悪性度を規定することが明らかとなってきている。本稿ではそれぞれの幹細胞制御の現状と問題点を概略した。 -
幹細胞疾患の分子機構―マイクロRNAとエピジェネティクス―
41巻3号(2014);View Description
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幹細胞は自己と同じ能力をもつ細胞を生みだす「自己再生能」と,組織を構成する他の細胞を生みだす「分化能」を併せもつことで組織や臓器の維持にかかわる細胞である。遺伝子異常の蓄積を背景にした異常増殖と分化異常が病態の根幹にあるがんにおいても,その基となった正常組織と同様に「がん幹細胞」と呼ばれる幹細胞が存在し,がんの発生,再発,転移に重要な役割を果たしているという知見が示されている。多細胞生物を構成するすべての細胞は,基本的に同じ遺伝子情報をもつことから,このような幹細胞やがん幹細胞から様々に分化した細胞が生みだされる過程では,マイクロRNA やエピジェネティック制御のような,遺伝子情報の使い方を制御する分子機構が重要な働きをする。また,マイクロRNA とエピジェネティック制御が相互作用しながら,幹細胞性を制御する機構も明らかになってきた。たとえば,正常乳腺幹細胞およびヒト乳がん幹細胞では,共通してmiR-200 ファミリーマイクロRNA の発現が抑えられており,そのなかでもmiR-200c は幹細胞性制御に重要なポリコーム群蛋白質BMI1を標的としてその発現を制御する。また,miR-200前駆体の発現は,DNA のヒストン修飾やポリコーム群蛋白質により制御されている。さらに,miR-22 マイクロRNA はヒストン脱メチル化酵素の発現抑制を介してmiR-200前駆体の発現を抑制し,結果としてBMI1の発現を増強する。近年,がん幹細胞やエピジェネティクスを標的とした治療も試みられるようになったことからも,正常組織の幹細胞やがん幹細胞を制御する分子機構の理解は今後ますます重要になるものと考えられる。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor骨・軟部腫瘍悪性骨・軟部腫瘍―縮小手術を目指して
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原著
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原発性乳がんに対する術前化学療法によるホルモン受容体およびHER2 受容体発現状況の変化と再発率の検討
41巻3号(2014);View Description
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背景: 術前化学療法により,原発性乳がんのホルモン受容体(HR)およびHER2 受容体が変化することが報告されている。これらの変化と再発率との関連はわかっていない。方法: 2005 年1 月〜2012 年5 月までに,アンスラサイクリンおよびタキサン±トラスツズマブで術前化学療法を施行した原発性乳がん70 例の,手術前後のHR およびHER2 受容体の変化と予後を検討する。結果: pCR 13 例,non-pCRは57 例であった。non-pCRのうち,HR の陰転化が6.3%にみられたが,陽転化はみられなかった。HER2 の陰転化が48.0%にみられ,陽転化が12.5%にみられた。HR 陰転化群の再発率は0%で,HER2 陰転化群の再発率は25.0%であった。結論:今回の検討では,HR およびHER2の変化と再発率との間に有意な差は示せなかったが,今後さらなる検討が必要である。 -
肺がんからの転移性脳腫瘍摘出術後におけるCis-Diamminedichloroplatinum(CDDP)の脳室,腫瘍切除腔および腰部クモ膜下腔髄液への移行およびマンニトール静脈内投与による前処置の影響
41巻3号(2014);View Description
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目的: 肺がんの転移性脳腫瘍において術後cis-diamminedichloroplatinum(CDDP)による化学療法が腫瘍切除後の局所再発をcontrol することを報告してきたが,実際それに関してどの程度のCDDP が腫瘍切除腔髄液に移行するか明らかにされていない。そこで,CDDP 静脈内投与後の脳室内髄液,腫瘍切除腔内髄液,腰部クモ膜下腔髄液への移行を調べ,比較に報告されているが,このマンニトールを通常の静脈内投与した場合にその効果があるか,CDDP の髄液移行への影響から検討した。方法:肺がんからの髄液播種を伴わない充実性転移性脳腫瘍11 例に対して,腫瘍摘出後に切除腔と側脳室前角の両方に Ommaya reservoir を留置し,術後 10 日目にまず CDDP 80 mg/m2を60 分で投与し,経時的に脳室および切除腔の髄液と血液を採取した。1 回目のCDDP 投与後より1 週間して,今度はあらかじめ20%マンニトール200 mL を15 分で投与し,その直後同量のCDDP を60 分で投与した。4 例はspinal drainage を留置し,腰部クモ膜下腔の髄液も採取して測定した。総platinum(Pt)濃度を測定後,マンニトール投与の有無別に血清,髄液濃度のarea under the plasma and CSFconcentration time curve(AUC)(ngh/mL)を moment法にて求め,比較検討した。また,投与前後のクレアチニン・クレアランス(Ccr)も測定し,腎機能への影響も検討した。結果: マンニトール投与群では明らかに総Pt の血清濃度の上昇を認めた(p<0.001,paired t-test)。総Pt のAUCと最高濃度は,脳室内髄液に対して腫瘍切除腔では非マンニトール群で20倍,マンニトール群で 16 倍の高値を示した(p<0.0001)。血清濃度に対する髄液濃度(髄液 AUC/血清 AUC),すなわち髄液への移行度については,マンニトール,非マンニトール群ともに腫瘍切除腔は脳室内髄液の16 倍ほどの移行度(p<0.0001)を示した。しかしながら,マンニトール投与による差は脳室,腫瘍切除腔,腰部髄液ともにまったく認められなかった。腎機能への影響については,初回CDDP 投与時には全例Ccrの低下を示したが,マンニトールを併用した2 回目の投与後では7例にCcr の増加を認めた。結論: 腫瘍切除腔へのCDDP の移行は良好で,血清濃度の約30%が移行することが認められ,この高濃度は腫瘍の局所再発のcontrolと密接に関係し,また腫瘍細胞の播種を防ぐ可能性が考えられた。マンニトールによる前処置は血清濃度の上昇をもたらしたが,髄液移行に関しては明らかな好結果をもたらさなかった。マンニトール併用による腎機能への影響については,初回投与後の値より7例でCcrの上昇を認めたが,少数例の臨床研究であり,今後の多数例での報告を待ちたい。 -
外来におけるオピオイド使用全患者に対する電子カルテを活用した緩和ケアチームの介入効果
41巻3号(2014);View Description
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目的: 一般外来診療における適切な疼痛管理の実現。対象:外来でオピオイドを処方されている全患者。方法:電子カルテを活用した緩和ケアチームの薬剤師と看護師によるカルテ回診。結果: 2010 年5 月〜2011 年1 月の期間に136 件のカルテ回診を行い,介入件数は50 件(介入率36.8%)であった。アンケートでは医師60%,看護師の65.2%がこの活動を役立つと回答。患者のQOL 貢献だけでなく,医療体制への貢献にも寄与したと考える。 -
緩和ケア領域での消化器症状に対する低用量ミルタザピンの効果―50例の後ろ向き検討―
41巻3号(2014);View Description
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背景: 5-HT3受容体拮抗作用をもつミルタザピンは消化器症状に有効とされる。目的:消化器症状への低用量ミルタザピンの効果を明らかにすること。対象と方法:消化器症状をもつ緩和ケア領域の癌患者50 例を後ろ向きに検討した。初回投与は1/8 量(1.875 mg)〜1/2 量(7.5 mg)で開始し,効果と副作用の眠気に応じ漸増した。結果:消化器症状の原因により原因不明群(n=27)と化学療法・オピオイド群(n=23)に分かれた。初期低用量では,消化器症状への有効率は74.4%,原因別では化学療法・オピオイド群は原因不明群に比べ有意に効果が高かった(p=0.008)。投与翌日の眠気は29.5%にみられた。1週間以内の中止は10 例で,残り40 例における維持投与量では有効率は82.5%で,増量により原因不明群でも効果が得られた。結語:低用量ミルタザピンは消化器症状の原因により効果が異なり,原因不明群では増量が望ましい。副作用では低用量でも投与翌日に眠気がみられ,注意が必要である。 -
Functional Living Index-Emesis(FLIE)調査票を用いたCarboplatin併用肺癌化学療法におけるAprepitantの制吐効果の検討
41巻3号(2014);View Description
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carboplatin 併用肺癌化学療法の制吐療法として5-HT3受容体拮抗薬とdexamethasone の2 剤併用療法を行った際に悪心・嘔吐を経験した患者に対して,次回化学療法時より前記2 剤にaprepitantを加えた3 剤による制吐療法を行い,悪心・嘔吐,quality of life(QOL)についてFunctional Living Index-Emesis(FLIE)調査票を用いて評価した。5-HT3受容体拮抗薬とdexamethasoneの2 剤による制吐療法にaprepitantを加えることにより,FLIE 調査票における悪心・嘔吐,QOL指標の有意な改善が認められ,carboplatin併用化学療法の制吐療法としてもaprepitantの併用が有効であると考えられた。
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薬事
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抗癌剤治療に伴う悪心・嘔吐に対する評価方法の検討
41巻3号(2014);View Description
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化学療法時の悪心・嘔吐は,QOL を低下させることはもとよりコンプライアンス低下を招き,治療に悪影響を与える可能性がある。一方,化学療法時の悪心・嘔吐の評価方法に関しては,一定のコンセンサスはなく,各施設で独自の評価方法を用いているのが現状である。今回,当院にて高度または中等度催吐性化学療法を施行された68 症例を対象に日本語版MATと消化器症状日誌の妥当性を検討した結果,日本語版MATと消化器症状日誌の間に遅発性のcomplete control(CC)率の検出力に差を認めた(p=0.0148)。今回の結果から,日本語版MATはさらなるバリデーションが必要と考えられ,当院では医師,薬剤師,看護師と患者の情報の架け橋として消化器症状日誌を活用する予定である。
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特別寄稿
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ベイズ・メタ解析を用いた転移性乳がんに対するラパチニブの臨床評価
41巻3号(2014);View Description
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転移性乳がん患者におけるラパチニブ治療群と非ラパチニブ治療群の臨床評価をデータ統合型研究であるベイズ・メタ解析手法を用いて解析を試みた。ランダム化比較試験を中心に文献検索を実施し,4 報の関連論文を入手した。臨床指標として主要評価はclinical benefit rate(CBR)を,副次的評価はoverall survival(OS),number needed to treat(NNT)とした。解析手法としては,ベイズ・メタ解析によるマルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov-chain Monte-Carlo methods:MCMC 法)を用いた。ベイズ・メタ解析を試みたところ,全患者2,708 例のCBR のオッズ比(OR)では1.559[95% CI:0.768-3.238]であったが,HER2 陽性患者568例ではOR: 2.281[95% CI: 1.490-3.628]と統計学的な有意差が認められた。副次的評価であるOS のハザード比(HR)は,HER2 陽性患者でHR: 0.789(95% CI: 0.556-1.086)と統計的有意差は認められなかったが,HER2陽性患者に対するCBR のNNTでは5.164(95% CI: 3.803-8.723)と有意な結果が得られた。
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症例
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Lapatinib,Capecitabine療法が奏効したTrastuzumab耐性乳癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は56 歳,女性。右乳房の発赤を伴うしこりを主訴に来院した。乳癌[RtC,T4bN0M0,ER(−),PgR(−),HER2(3+),stage Ⅲb]と診断し,術前化学療法後に乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術を施行した。手術5 か月後に胸腰椎の骨転移が出現しtrastuzumab/zoledronic acid hydrate療法を開始した。術後 4 か月目に腫瘍マーカーが上昇したためdocetaxel を追加した。術後 12 か月目に腫瘍マーカーが再上昇し,trastuzumab/nab-paclitaxel 療法に変更したが,新たに肝転移が出現し中止した。lapatinib/capecitabine療法を導入したところ,術後 14 か月目に腫瘍マーカーは正常化し,肝転移も著明に縮小した。現在継続投与中である。 -
乳癌術後39年目に局所再発を来した乳癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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今回,術後39 年目に乳癌の局所再発を来した症例を経験したので報告する。症例は73 歳,女性。39 年前に他院で左乳癌に対して胸筋合併乳房切除術を施行されているが,左上肢のリンパ浮腫を主訴に当院受診。CT で左胸壁の軟部陰影の増生を認めた。針生検を行ったところ,転移性の腺癌と診断され,エストロゲンレセプター陽性,プロゲステロンレセプター陽性,HER2 陰性であった。乳癌の再発と診断し,内分泌療法(アナストロゾール)を開始した。治療開始後,現在まで7 か月経過しているが,PR で他の部分への再発を認めていない。術後39 年経過してからの再発は極めてまれだが,乳癌の場合は30 年以上の長期経過後も再発を念頭に置いて診療に当たる必要があると思われた。 -
シスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM)療法が奏効した上皮型悪性腹膜中皮腫の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は45 歳,男性。びまん性の腹膜播種と腹水を認め,針生検で上皮型悪性腹膜中皮腫と診断。積極的加療の希望なく経過観察となった。2.5年間,無治療で経過観察が可能であったが,腫瘍は徐々に増大し腹腔内を占拠したため全身状態が悪化した。シスプラチン(cisplatin: CDDP)+ペメトレキセド(pemetrexed: PEM)療法を行い,腫瘍の著明な縮小とともに全身状態の改善が得られた。さらにPEM 単剤維持療法を行うことで,その後も増悪なく初回診断から4.5 年間生存中である。また,本例はこれまで報告されている予後良好な因子をいくつか満たしており,予後因子を参考に治療介入時期などを検討できる可能性が示唆された。 -
Trastuzumabによって心機能が低下し,投与再開後に再び心機能が低下した乳癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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trastuzumab(TRS)によって心機能が低下し,改善後TRS を再開したが,再び心機能が低下した進行乳癌の1例を経験したので報告する。症例は52 歳,女性。左乳癌[T4bN3cM0, Stage ⅢC,invasive ductal carcinoma,ER(100%),PgR(50%),HER2(3+)]に対し,FEC 4 サイクル,DOC+TRS 4 サイクルの術前化学療法を施行し,乳房円状部分切除術と腋窩リンパ節郭清を施行した。術後補助化学療法としてTRS と内分泌療法を開始し,同時に左残存乳房に放射線照射を追加した。TRS 5 サイクル後に動悸を認め,LVEF が64%から45.3%に低下したためいったん投与中止とした。2 か月後に症状が消失し,LVEF も53%まで改善したのでTRS を再開したが再び動悸が出現し,LVEF も44%まで低下したため,投与中止とした。HERA 試験の心機能アルゴリズムによるとLVEF が50%以上になれば投与再開とされているが,アンスラサイクリン系薬剤や放射線の治療歴などリスクを伴う症例はTRS の投与再開に際してより慎重であるべきと考えられた。 -
S-1+CDDP 療法が奏効した胃のLarge CellNeuroendocrine Carcinoma の1 例
41巻3号(2014);View Description
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患者は73 歳,男性。2009年1 月ごろから食欲低下,体重減少を認め当科受診。上部消化管内視鏡検査および腹部造影CT 検査にて,胃体中部後壁を占める2 型の腫瘍および多発性肝腫瘍を認めた。胃腫瘍部の生検では大型の腫瘍細胞が充実胞巣状に増殖し,免疫染色でchromogranin A,CD56,synaptophysin が陽性であり,large cell neuroendocrine carcinoma(大細胞型神経内分泌細胞癌)と診断した。これに対し,S-1 100 mg/body(5 日投与2 日休薬),CDDP 40 mg/body(2 週に1 回)を1 コースとして化学療法を開始した。投与開始4 か月後の画像評価では腫瘍の縮小を認めた。これまで胃の大細胞型神経内分泌細胞癌に対する全身化学療法についての報告は少なく,S-1+CDDP 療法は治療選択肢の一つになると考えられた。 -
胃GIST 術後の巨大肝転移,腹膜播種のイマチニブ部分耐性に対して二期的に外科切除を行った1 例
41巻3号(2014);View Description
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胃GIST の術後巨大肝転移,腹膜再発の部分耐性に対して,二期的に部分耐性を切除した1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は初診時59 歳,男性。2006 年6 月に胃GISTの穿孔で緊急手術を施行し,9 月に胃部分切除術を施行した。2010年9 月の腹部CT で肝右葉のほとんどを占める巨大肝転移を認めた。メシル酸イマチニブ(イマチニブ)を投与しSD を得られたが,肝転移,脾門部腫瘤の2 病変の部分耐性となった。2011 年8 月に拡大肝右葉切除術,2012 年2月に膵体尾部・脾合併切除,胃部分切除術を施行し,部分耐性の腫瘍を切除した。イマチニブの部分耐性に対する初回手術後16か月で原病死した。 -
間欠的低用量Imatinib投与で長期生存を得られている再発胃GISTの1例
41巻3号(2014);View Description
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症例は65 歳,女性。胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)に対して胃全摘術を施行後,腹腔内再発を来したためimatinib 300 mg/dayの投与を開始した。以降,有害事象により二度の中断と100 mg/day までの減量を余儀なくされ,不定期な通院を繰り返している。中断時には腫瘍は増大するものの再開中は腫瘍の縮小を認め,病勢コントロールを得たまま外来加療中である。間欠的・低用量投与であっても,imatinibはGIST長期生存に寄与する可能性が示唆された。 -
経口抗癌剤で長期生存を得たStage Ⅳ S 状結腸癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は80 歳,男性。腹部膨満感を主訴に当院を受診した。S 状結腸癌多発肝転移・多発肺転移と診断され当科紹介となった。S 状結腸切除術を施行後,S-1(120 mg/day)を 10 コース施行しclinical CR を得た。計 18 コース施行後に肺転移の増大を認めたためcapecitabine(4,200 mg/day)へ変更し10 コース施行した。Stage Ⅳ結腸癌であったが,初診時より3 年4 か月間は経口抗癌剤のみで生存を得た。副作用の少ない経口抗癌剤は,Stage Ⅳ結腸癌の高齢者においても良好なQOL での長期生存が期待できる。 -
術前XELOX+Bevacizumab療法で膀胱温存が可能となった膀胱結腸瘻を伴うS 状結腸癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は64 歳,男性。主訴は下腹部痛,下痢,排尿痛,頻尿。精査にて膀胱結腸瘻を伴うS 状結腸癌,cT4N0M0の診断で,根治切除には膀胱全摘術が必要と判断された。膀胱温存を念頭に,ストーマ造設後,術前mFOLFOX6+bevacizumab療法を開始したが,1 コース終了後ポート感染を来しカテーテル抜去,治療変更が必要となり,XELOX+bevacizumab療法を選択した。4 コース施行後,画像上S 状結腸腫瘤および膀胱浸潤所見が消失し,膀胱温存による根治切除可能と判断した。化学療法最終投与から約2 週間後,膀胱を温存したS 状結腸切除術を施行し,病理学的根治切除を得た。術後補助化学療法を施行し,術後10 か月現在再発所見は認めていない。膀胱全摘術が必要と判断された膀胱結腸瘻を伴うS 状結腸癌に対し,術前XELOX+bevacizumab療法により膀胱温存が可能となった1 例を経験したため報告する。 -
腸瘻からのImatinib投与による術前寛解導入化学療法が奏効し安全に切除し得た空腸GISTの1例
41巻3号(2014);View Description
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患者は70 歳台,女性。腹痛と発熱を主訴に近医を受診し,左上腹部に腫瘤を触れたため精査目的に当院へ紹介された。CT では直径6.0 cm の空腸由来の腫瘍の破裂が疑われた。保存的加療の後,超音波内視鏡下生検によりc-kit 陽性gastrointestinalstromal tumor(GIST)の診断を得た。審査腹腔鏡では腫瘍の胃前庭部と膵への浸潤が疑われ,一期的切除はリスクが高いと判断し,腸瘻を造設した。手術翌日より腸瘻からimatinib mesylate(400 mg/body/day)の投与を開始した。腸瘻造設後6 か月目に腫瘍は径4.8 cm 大に縮小し,画像上,周囲臓器への浸潤も認められなくなったため手術を行ったところ,空腸部分切除で根治切除が可能であった。術後1 年目の現在,無再発生存中である。本例は穿孔を伴う空腸GISTに腸瘻を造設して術前寛解導入化学療法を施行し,安全に切除し得た点で報告に値すると思われる。 -
術前SOX 療法が著効し人工肛門造設を回避できた高度進行直腸癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は72 歳,女性。血便・便秘を主訴に来院。精査にて多発肝転移・多発肺転移を伴う肛門縁から2 cm に位置する高度進行直腸癌の診断となった。原発巣に対し腹会陰式直腸切断術を提示するも,患者は人工肛門造設回避を希望したため,化学療法を施行することとなった。S-1/oxaliplatin(SOX)療法を6コース施行したところ,原発巣,肝転移,肺転移のいずれも著明に縮小した。原発巣は低位前方切除術にて切除可能な程度に縮小したため手術を施行。術後経過は良好で,現在外来にて術後化学療法を継続中である。SOX 療法は,高度進行直腸癌患者に対する第一選択の治療法の一つになり得ると考えられ,QOLの確保に有用であると考えられた。 -
mFOLFOX6+Panitumumab療法が奏効し可及的に膀胱を温存した根治手術が可能となった膀胱浸潤S 状結腸癌の1 例
41巻3号(2014);View Description
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症例は54 歳,男性。残尿感,腹痛,発熱を主訴として当院を受診した。精査にて膀胱浸潤を伴うKRAS野生型のS 状結腸癌と診断した。根治切除には過大な手術侵襲を伴うと判断し,回腸ストーマ造設後,術前化学療法としてmFOLFOX6+panitumumab療法を3 コース施行した。腫瘍の縮小を確認し,根治切除術を施行した。術後補助化学療法としてXELOXを6 コース施行した。根治切除術から9 か月が経過した現在,無再発生存中である。KRAS野生型の局所進行大腸癌に対する術前化学療法として,mFOLFOX6+panitumumab療法が有効である可能性が示された。
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