癌と化学療法
Volume 41, Issue 4, 2014
Volumes & issues:
-
総説
-
-
研究デザイン―介入研究と観察研究の使い分け―
41巻4号(2014);View Description Hide Description臨床研究を計画する時点で,臨床研究デザインを理解することはたいへん重要である。まず最初に行うことは研究対象のデータを収集する観察研究を行うか,介入を行ってその効果を測定する臨床試験を行うかを決めることである。観察研究のなかには,よく知られた二つの研究,「コホート研究」と「横断研究」がある。コホート研究は観察集団である「コホート」を決めて時間経過に従って経過を観察する。前向きコホートは現在から未来に向かって観察を行う。後ろ向きコホート研究では過去にさかのぼってデータを収集する。もう一つの観察研究デザインとして「ケースコントロール研究」がある。これは疾病などをもつケースを決め,コントロールと比較する研究である。いくつかある臨床試験デザインのなかで,ランダム化比較試験は他の研究デザインに比べてエビデンスレベルが高いと評価されている。研究計画を立てる初期の段階ではクリニカルクエスチョンを作り,そこでは対象,説明変数およびプライマリーエンドポイントを明確にする。そして,クリニカルクエスチョンを臨床研究のアウトラインにして,そこから研究計画書(プロトコール)と調査票を作成する。プロトコール作成段階で,研究者は研究デザインと研究の規模,データの質および実施可能性を考慮する。
-
-
特集
-
- 化学療法と貧血
-
本邦における輸血医療の現状
41巻4号(2014);View Description Hide Description本邦における輸血医療は献血制度で支えられている。若年者の献血離れと少子化に伴う献血人口の減少に加えて,輸血が必要ながんや造血器および循環器疾患をもつ高齢者の増加に伴って血液不足が懸念されている。血液製剤の安定供給確保のための施策としては,さらなる献血推進が必要であるが血液製剤の使用指針を遵守し,適正使用の徹底はわれわれ医療従事者の責務である。また,自己血輸血推進により同種血削減を行い,院内輸血管理体制を整備することによって廃棄血削減をめざすべきである。現在,保険適応がない代用療法として大量出血時の低フィブリノゲン血症に対するクリオプレシピテートやフィブリノゲン製剤の臨床応用は,輸血量削減ばかりでなく,出血からの患者救命につながるために重要である。さらにがん化学療法時の貧血に対するエリスロポエチン製剤も,貧血による患者のQOL 低下に対する有効な治療法であり早期の保険収載が期待されている。 -
がん患者における貧血と治療
41巻4号(2014);View Description Hide Descriptionがん患者の貧血は予後不良因子であることが知られている。わが国におけるがん患者の貧血に対する治療は唯一輸血のみであり,赤血球造血刺激因子製剤(ESAs)の使用は許容されていない。一方で,欧米各国では化学療法に起因する貧血に対してESAsは広く用いられている。本稿ではがん患者の貧血の原因に触れつつ,特にESAs治療に関する現況に関して米国臨床腫瘍学会ガイドラインの概説などを踏まえつつ触れていきたい。 -
がん化学療法に伴う貧血の全国調査
41巻4号(2014);View Description Hide Description日本癌治療学会と日本輸血・細胞治療学会共同で,がん化学療法に伴う貧血(chemotherapy-induced anemia: CIA)に関する実態調査が,2010年9 月〜11月を対象期間として実施されたので結果を概説する。日本での主要な八つのがん種(乳房,肺,胃,大腸・直腸,肝臓,婦人科系,泌尿器系,悪性リンパ腫)での化学療法実施症例中での輸血率は1.6〜24.0(平均7.5)%,1 人当たりの赤血球輸血量は3.9〜7.3(平均5.9)単位であった。この結果から,1 年間にわが国でがん化学療法時の貧血に対して使用される赤血球輸血量を推計すると,総供給量の2.2%に相当する約14.6 万単位となった。また,Hb10 g/dL以下の年間CIA患者数は約17.2万人で,化学療法実施患者の40%と推測された。化学療法開始前のHb値の平均,開始後の最低 Hb 値の平均は,赤血球輸血を実施した症例では 9.5 g/dL および 6.9 g/dL であり,輸血を実施しなかった症例では11.6 g/dL および10.4 g/dL であった。また,各がん種ともHb 8.0 g/dL以上で赤血球輸血を実施した症例は少数にとどまる一方,Hb 6.9 g/dL 以下であっても赤血球輸血を実施しなかった症例も多数みられた。以上より,がん化学療法に伴う貧血に対しての赤血球輸血は極力控えられている実態が明らかとなった。患者のQOL 向上のためには,他の代替療法(赤血球造血刺激因子製剤など)について検討する必要があると考えられた。 -
本邦におけるがん化学療法に伴う貧血の現状と問題点
41巻4号(2014);View Description Hide Descriptionがん化学療法に伴う貧血(chemotherapy-induced anemia: CIA)は,化学療法を受けた患者の約70%に認められ,そのうち 40%はヘモグロビン 10 g/dL 以下,23%は 8 g/dL 以下であり,輸血が 16%の患者に行われている。造血刺激薬(erythropoiesis-stimulating agents: ESA)は本邦ではCIA 治療薬として認可されていないため,輸血のみが積極的治療の唯一の選択肢である。欧米では20 年前からESAがCIA治療に用いられているが,近年,潜在的な生存短縮効果が問題となり厳重な適正使用が必須とされている。本稿では本邦におけるCIA治療の現状と問題点について考察する。
-
Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancersメラノーマ・皮膚癌
-
-
-
原著
-
-
リンパ節転移陰性トリプルネガティブ乳癌に対する術後補助療法としてのCMF 療法とTegafur/Uracil(UFT)内服療法のレトロスペクティブ検討
41巻4号(2014);View Description Hide Description乳癌術後補助療法としてのtegafur/uracil(UFT)は cyclophosphamide/methotrexate/fluorouracil(CMF)レジメンに対し,ホルモン陽性乳癌に限り非劣勢が示されているが,トリプルネガティブ(TN)乳癌を含めたホルモン陰性乳癌での効果は結論がでていない。今回,リンパ節転移陰性(N0)TN 乳癌に対するCMFとUFTの効果についてレトロスペクティブに比較検討を行った。症例は2000年1 月〜2010年12 月までに当院にて手術を施行したN0のTN 乳癌50 例で,CMF施行群33 例,UFT内服群が17 例であった。全症例では統計的有意差はみられないものの,t2症例,核grade 3 および脈管侵襲ありに限った場合,UFT 群では無再発生存において予後不良であった。N0のTN 乳癌に限定した場合では,UFT 内服による術後補助療法はCMFと比較し再発予防効果が劣る可能性が示唆され,今後さらなる検討が必要である。 -
転移性乳癌に対するエリブリンの有用性の検討
41巻4号(2014);View Description Hide Description背景:エリブリンは化学療法治療歴のある転移性乳癌患者に対し,全生存期間の延長が証明された新規の微小管阻害剤である。様々な患者に対しての有用性が期待されるが,さらなる臨床データの蓄積が必要である。目的:転移性乳癌に対する新規微小管阻害剤エリブリンの有効性・安全性を明らかにする。対象と方法:当院において2011 年10 月〜2013 年5 月にエリブリンを投与した転移性乳癌18 例を対象とし,治療効果および有害事象,トラスツズマブとの併用について検討した。結果: 平均年齢は68.7(60〜85)歳で,全例がリンパ節・臓器転移を有していた。前治療の平均レジメン数は4.4(2〜9),エリブリンの平均投与サイクル数は7.2(2〜17)であった。治療効果はPR 6 例,SD 5 例,PD 7 例,奏効率は33.3%(6/18),臨床的有用率(PR+long SD)は 50.0%(9/18)であった。また,無増悪生存期間中央値は6 か月であった。Grade 3 以上の有害事象では,好中球減少症を72.2%(13/18),貧血を5.6%(1/18),食欲低下・口内炎・末í神経障害をそれぞれ5.6%(1/18)に認めた。トラスツズマブを併用した3 例でも重篤な有害事象は認められなかった。結語:エリブリンは転移・再発乳癌に対して有効性が期待でき,骨髄抑制に注意すれば高齢者,トラスツズマブ併用においても安全に投与可能であった。 -
腎機能低下の有無による多発性骨髄腫患者に対するゾレドロン酸投与の生命予後への影響
41巻4号(2014);View Description Hide Descriptionゾレドロン酸(ZA)は,多発性骨髄腫(MM)患者において抗腫瘍効果を有するとの報告がある一方で,腎機能障害のある患者にはクレアチニン・クリアランス(Ccr)に応じて投与量を設定しなければならない薬剤である。しかし,MM 患者に対するZA 投与の生命予後への影響について,腎機能低下の有無により違いがみられるかについての報告はみられないため,レトロスペクティブに調査した。ZAを投与されたMM患者を対象とし,ZA 初回投与前のCcrが 60 mL/min 以上(正常群)と 60 mL/min未満(低下群)の 2 群に分け,比較検討した。対象患者は78(正常群39,低下群39)例であった。正常群では低下群より有意にZAの初回投与量が多く(p<0.001),若年齢(p<0.001),血清中b2-M低値(p<0.001),造血幹細胞移植歴を多く有していた(p<0.001)。また,転帰が明らかな患者(正常群31 例,低下群27 例)を対象に生存率を比較したところ,両群において有意差は認められなかった(p=0.251)。したがって,ZA が投与されたMM患者の生存率は,腎機能低下の有無により差がみられない可能性が示唆された。 -
樹状細胞がんワクチン療法をめざした脂肪組織由来幹細胞からのiPS 細胞の樹立
41巻4号(2014);View Description Hide Description近年,幹細胞を用いた再生医療の研究が精力的に進められており,腫瘍免疫の分野でも幹細胞からがんワクチン療法において重要な役割を果たす樹状細胞を分化誘導させる研究が行われている。臨床応用のためには治療に使用可能な幹細胞の獲得が重要と考えられるが,近年体細胞に多能性遺伝子を導入し多分化能を有する細胞を獲得するiPS 細胞の研究が進められている。生体の脂肪組織には幹細胞[脂肪組織由来幹細胞(adipose-derived stem cell: ADSC)]が認められると報告されている。ADSCから樹状細胞へ分化誘導を行い,がんワクチンとして使用する新規樹状細胞がんワクチン療法を将来的な目標とし,その基礎的検討として今回ADSCからiPS 細胞の分化誘導を行い,樹状細胞誘導の細胞源とすることが可能かについて検討した。脂肪組織由来幹細胞株(ADSC)に多能性遺伝子(OCT3/4,KLF4,SOX2,L-MYC,LIN28,p53-shRNA)を持つプラスミドをエレクトロポレーションにて導入し,その後幹細胞の培養を行った。培養の結果,ADSCのiPS 細胞化を示唆するコロニーが出現し,そのコロニーを採取後RT-PCRにてmRNAの発現を測定したところ,遺伝子導入された細胞のゲノム上OCT3/4,KLF4,SOX2,L-MYC,LIN28が活性化されており,ADSCより iPS 細胞が誘導されていることが確認された。iPS 細胞より樹状細胞の誘導方法はすでに報告されており,本研究の結果よりADSCが樹状細胞誘導の細胞源と成り得る可能性が示唆された。 -
Novel Method of Determination of D9-Tetrahydrocannabinol(THC) in Human Serum by High-Performance Liquid Chromatography with Electrochemical Detection
41巻4号(2014);View Description Hide Descriptionドロナビノール(D-9THC)は欧米諸国において,がん化学療法の制吐および食欲増進を目的として使用されているが,本邦では未だ上市されていない。がん患者の苦痛を緩和させるためには本邦においても必要性が高く,その導入に向け今回,HPLC/ECD によりドロナビノール血中濃度測定法の開発を試みた。カラムはXTerra®RP18,測定電位は400 mV に設定した。移動相は50 mMKH2PO4/CH3CN(9:16)とし,1.0 mL/min の流速で行った。検量線は10〜100 ng/mL の範囲内で y=964.85x −3,419(r=0.997)と良好であり,検出限界は 0.5 ng/mL(S/N=3)であった。日差および日内変動は4.7%以下と良好であった。今回,がん患者にドロナビノールを適正に使用するための血中濃度測定法が開発された。
-
-
調査報告
-
-
非小細胞肺癌におけるペメトレキセドの安全性と有効性について―特定使用成績調査より―
41巻4号(2014);View Description Hide Description非小細胞肺癌を対象としたペメトレキセド(PEM)の特定使用成績調査の結果から安全性および有効性について検討した。2009年6 月〜2010 年5 月に699 例が登録され,うち683(全身化学療法の前治療無343,同有340)例を解析対象とし,主な患者背景は年齢中央値65 歳(75歳以上16.1%),男性64.7%,PS 0-1: 91.9%,臨床病期Ⅳ 83.2%,非扁平上皮癌99.0%であった。前治療無86%,同有の20%で他の抗癌剤が併用され,主なものは白金製剤であった。副作用発現率は76.7(重篤18.0)%,主な副作用は白血球数減少26.8%,好中球数減少25.3%,貧血19.2%,血小板数減少17.0%,悪心23.0%であり,抗癌剤治療で懸念される間質性肺疾患は2.6%,QOL への影響が大きい末½神経障害および脱毛症は1%未満であった。推定生存期間中央値は前治療無23.2か月[95% CI: 19.8,―],同有11.8 か月[95% CI: 10.5,13.7]であった。これまでに国内外の臨床試験から得られている安全性プロファイルの範疇であり,日常診療下においてもPEM の非小細胞肺癌治療における有効性および安全性が確認された。
-
-
症例
-
-
急激な進行を示したTriple Negative乳癌に対してBevacizumabを含む集学的治療を行い良好な病状制御が得られた1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。急速に増大する乳房腫瘤を主訴に当科受診し,左乳癌T4cN3cM1(LYM),StageⅣ,ER(−),PgR(−),HER2(−)と診断された。AC(adriamycin 60 mg/m / 2+cyclophosphamide 600 mg/m2)療法5 コース,wPTX+AVA(paclitaxel 90 mg/m / 2+bevacizumab 10 mg/m2)療法4 コースを行い画像的にCR。乳房部分切除術と乳房,リンパ節領域のRT の後にcapecitabine内服中であるが,手術後5 か月経過の現在,病巣の出現を認めていない。急激な進行を示したStageⅣ乳癌に対してbevacizumabを含む化学療法が有効であった1 例を経験したので報告する。 -
ER 陽性・HER2陰性の閉経後乳癌に対し術前ホルモン療法を施行後HER2 陽性となった1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は75 歳,女性。右乳房のしこりを自覚し,精査目的に近医を受診した。触診上右乳房BD 領域に24 mmの腫瘤を認めた。マンモグラフィではカテゴリー5 であった。乳腺超音波上24×16 mmの腫瘤を認めた。マンモトーム生検を施行し浸潤性乳管癌(ER 7/PgR 4/HER2 1+)の診断を得た。T2N0M0,stage ⅡAの診断で手術を勧めたが,本人の希望でアナストロゾール(1 mg/day)を開始した。開始後 1 年 8か月で腫瘤は乳腺超音波上7.0×5.7 mmに縮小し,PR であった。本人が手術を希望したため,当科で右乳房部分切除術,センチネルリンパ節生検を施行した。病理組織学的検査所見はscir-rhous carcinoma,18 mm,nuclear grade 1,f,ly1,v0,n0,ER 3/PgR 3/HER2 3+で組織学的治療効果はgrade 1a であった。HER2 が陽性となっていたため,術後adjuvant療法としてトラスツズマブとアナストロゾールを投与し,放射線治療を施行した。今回われわれは,術前ホルモン療法後HER2 陰性から陽性となった1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
血清HER2-ECD 値がバイオマーカーとして有用であった進行胃癌の1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。多発リンパ節転移,多発肝転移を伴う進行胃癌を指摘された。生検検体のHER2 判定は陽性であった。通過障害改善目的の胃空腸バイパス術後に化学療法を開始した。first-lineにS-1+trastuzumab,second-lineとしてirinotecan(CPT-11)+cisplatin+trastuzumab,third-lineとしてdocetaxel+trastuzumabを行った。いずれも一時的には治療効果が得られたが不応となり,1 年7 か月後に永眠された。経過中,血清HER2-ECD 値の増減と治療効果に相関を認めた。血清HER2-ECD 値はHER2 陽性胃癌の治療効果を反映するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。 -
原発性十二指腸癌術後再発にCapeOX療法が奏効した1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。嘔気,嘔吐を主訴に受診。上部消化管内視鏡検査,CT 検査にて原発性十二指腸癌と診断され膵頭十二指腸切除,上行結腸部分切除を施行した。術後10 か月に腹膜播種およびリンパ節再発が出現した。CapeOX療法を導入し2 コース後よりPR となり,5 か月間のPR を維持し再発後1 年4か月の延命を得ることができた。CapeOX療法は原発性十二指腸癌に対する有効な治療法となり得ると考えられた。 -
大腸癌術後補助化学療法が誘因と思われた難治性大腸炎の1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。Stage Ⅲaの S 状結腸癌の術後補助療法としてホリナート・テガフール・ウラシル療法(LV/UFT)を開始したが,疲労と下痢のため21 日目で中止となった。3 週間の休薬で症状が改善したためUFT を減量して再開したが,同様の症状のため20 日目で中止した。その後は下痢や低アルブミン血症,発熱などを繰り返し,原癌死するまで8 回の入院を要した。CT 検査では横行結腸の壁肥厚を,下部消化管内視鏡検査では大腸炎を認め,臨床経過と考え合わせて抗癌剤起因性腸炎と診断した。なお,投薬中止12 か月目にClostridium difficile腸炎を併発したがvancomycinの経口投与で改善した。その後に肝転移を来し,投薬中止 29 か月目に原癌死した。LV/UFT が誘因と考えられる難治性大腸炎を経験したので報告する。 -
Bevacizumab併用化学療法が奏効し腹腔鏡下手術にて治癒切除できた結腸癌の2 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description切除困難結腸癌に対し,化学療法後,腹腔鏡下手術により治癒切除が得られた2 例を経験した。症例1 は62 歳,男性。S 状結腸癌による亜腸閉塞状態で,膀胱への浸潤が疑われた。症例2 は61 歳,女性。S状結腸癌による亜腸閉塞状態であり,回腸,子宮,後腹膜への浸潤が疑われた。いずれも人工肛門造設後,bevacizumab併用化学療法を行い,腹腔鏡下手術にて治癒切除が得られた。bevacizumab を併用した化学療法を施行後,腹腔鏡下手術でQOL を低下させずに治癒切除をめざすことは切除困難結腸癌に対する有用な治療法と考えられた。 -
集学的治療を行った副腎原発悪性リンパ腫の1 例
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。全身Ë怠感,食欲不振,体重減少のため前医より当院に紹介入院となった。CT 検査で両側副腎腫脹を認め,超音波ガイド下副腎腫瘍生検を施行し,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と診断した。迅速ACTH 負荷試験で副腎機能不全を認めたため,副腎皮質ステロイドを補充して抗癌剤髄注併用 rituximab-cyclophosphamide/doxorubicin/vincristine/prednisolone(R-CHOP)療法を開始した。4コース終了後にはCT で副腎病変は縮小し,FDG-PET では異常集積を認めずmetabolic CR が得られた。その後,両側副腎に対して放射線照射を施行し,診断後6 か月経過した現在も再発を認めていない。予後不良な副腎原発悪性リンパ腫において,予防的髄注を併用した化学放射線療法の有効性が示唆された。 -
自家抹消血幹細胞移植後にNeutropenic Enterocolitisを合併した非Hodgkinリンパ腫
41巻4号(2014);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。第二寛解期の非Hodgkin リンパ腫に対して自家末Y血幹細胞移植を実施した。移植後day +4より下痢,腹痛,発熱および麻痺性イレウスを合併し,CT 所見も含めてneutropenic enterocolitis(NE)と診断した。全身状態悪化のため抗生剤投与,絶食を中心とした保存的治療を行ったがday +18 に永眠された。移植後のNE は造血幹細胞移植の合併症として比較的まれであるが,早期合併症の一つとして留意すべきである。 -
Gefitinib・Erlotinibによる皮膚紅斑に対するBiotinの効果における前向き臨床試験
41巻4号(2014);View Description Hide Descriptiongefitinib あるいはerlotinib は,手術不能または再発非小細胞肺癌の治療に使用されるチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)である。これらの薬剤は,副作用の一つとして皮膚症状が比較的高頻度にて発現することが知られている。biotin はvitamin B 群に属する水溶性のビタミンであり,その欠乏により皮膚炎が発生するなど皮膚には重要なビタミンである。今回,われわれはEGFR-TKI にて治療中であり,ステロイド軟膏剤にて皮膚症状の治療が困難な難治性の4 症例にbiotinを内服投与し,皮疹症状の改善を得ることができたので報告した。今回の症例においては,biotin投与により皮疹の改善がみられた。そのうち2 症例では,gefitinibあるいはerlotinibの皮疹による投与中止の既往歴があるにもかかわらず,継続投与が可能となった。これらの症例により,biotin によるEGFR-TKI皮疹への治療薬として有用である可能性がある。さらなる症例を重ねた臨床研究が必要であると考える。
-
-
医事
-
-
『免疫抑制・化学療法により発症するB 型肝炎対策のガイドライン』は徹底されているか
41巻4号(2014);View Description Hide DescriptionHepatitis B virus(HBV)reactivation has been reported as a fatal complication following systemic chemotherapy or other immunosuppressive therapies. The Japanese Guidelines for HBV reactivation were published in 2009. Despite the publication of these guidelines, there have been some reports of fulminant hepatitis B. Therefore, it was suggested that the guidelines were not yet been widely implemented. We investigated whether the guidelines had been implemented in our hospital. After the evaluation, it was determined that 89%of HBV cases were screened for the HBV surface antigen(HBs-Ag). Additionally, the screening for HBV surface antibody(HBs-Ab)and HBV core antibody(HBc-Ab)should be performed in cases negative for HBs-Ag, which was performed in only 17% of HBs-Ag-negative cases. It was concluded that the guidelines had not been implemented in our hospital. Therefore, we conducted educational activities to promote the implementation of the guidelines. Screening tests were performed in all 270 HBV cases between January and June 2013. Two antigen-positive carriers wereidentified. The rate of HBs-Ag-negative and/or HBcantibody -positive cases was 20.3%. Of these, 76.4%were tested using a DNA quantitative test, but DNA quantification did not increase in any case. HBV reactivation is expected to increase due to the development of new drugs and the use of diverse regimens. All physicians who perform immunotherapy and chemotherapy should immediately participate in educational activities.
-
-
薬事
-
-
抗てんかん薬血中濃度に対するカペシタビン投与の影響―2症例からの一考察―
41巻4号(2014);View Description Hide Description乳癌脳転移に対し抗てんかん薬を投与中の患者にカペシタビン(CAP)療法を開始した際,抗てんかん薬の血中濃度に与える影響が薬物により異なった2 症例を経験した。症例1: 59 歳,女性。右乳癌術後,脳転移を放射線により治療しフェニトイン(PHT)を開始したが,痙攣発作が頻回に出現したため PHT 400 mg/日にて痙攣発作をコントロールしていた。CAP開始5 日後,血中PHT 濃度が33.8 mg/mLに上昇し,PHTを 300 mg/日へ減量した。しかし,CAP休薬 7 日後において血中PHT 濃度が45.5 mg/mLと著しく上昇した。症例 2: 60 歳,女性。左乳癌術後,脳転移を摘出後よりバルプロ酸(VPA)徐放錠 400 mg/日にて投与開始となった。CAP開始後または休薬期間において,血中 VPA 濃度の著しい変化はみられなかった(CAP投与開始7 日後78.4 mg/mL,CAP休薬 7 日後 79.7 mg/mL)。
-