癌と化学療法
Volume 41, Issue 5, 2014
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総説
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EGFR 活性化遺伝子変異陽性非小細胞肺癌における第一世代EGFR-TKIs 後の治療戦略
41巻5号(2014);View Description Hide Descriptionヒト上皮成長因子受容体(EGFR)のエクソン19 の欠失およびL858R などの活性化変異は,腫瘍の形成,増殖および生存に重要なメディエイターである。この10 年でEGFR 活性化遺伝子変異をターゲットとした二つの薬剤は,非小細胞肺癌における生物学的知見に対して大きな影響を与えてきた。ゲフィチニブとエルロチニブは,第一世代のEGFR チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKIs)である。これらのEGFR-TKIs は,EGFR 活性化遺伝子変異を有する非小細胞肺癌の生物学的動態に関して鍵となる役割を果たしている。これらの可逆性低分子の分子標的治療薬は治療への反応と生存に大きく寄与するにもかかわらず,治療に反応が認められたすべての患者は最終的に治療に対する耐性が獲得される。これまでに様々な耐性のメカニズムが確認されてきているが,EGFR-TKIs に対する耐性を獲得した患者のおよそ30%はそのメカニズムが明らかにされていない。これらの分子標的治療薬に耐性となったEGFR 活性化遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者のおよそ半数に,EGFR 活性化遺伝子変異とともにスレオニンゲートキーパー残基に二次的なT790M 変異が認められる。第一世代のEGFR-TKIsに対する獲得耐性を克服することは臨床上大きな課題である。アファチニブはEGFR をターゲットとした第二世代の分子標的治療薬の一つである。アファチニブはEGFR 遺伝子変異を有する患者に対して,さらに生存期間を延長することができる可能性があり,EGFR-TKIs に対する耐性を克服できる能力をもっている可能性がある。EGFR 活性化遺伝子変異を有する患者において,第一世代のEGFR-TKIsに効果が認められなくなった後,オプションとして勧められる可能性を有する治療法がいくつかある。本稿ではEGFR 活性化遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対して,第一世代のEGFRTKIsの治療後の新しい治療戦略について論じる。
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特集
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- 日本における前立腺癌検診の在り方,PRO & CON
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日本におけるがん検診と前立腺がん検診
41巻5号(2014);View Description Hide Descriptionがんの本質に根差した日本のがん対策の4 本柱を記し,そのなかでがん検診の果たす意義を述べた。日本のがん検診の問題点と,その解決に向けた私見を述べた。前立腺がん検診については,現状では六番目の対策型がん検診として日本に導入するのは時期尚早であることを述べた。 -
PROS―泌尿器科臨床医からみた適切な前立腺癌検診の方向性―
41巻5号(2014);View Description Hide Description前立腺特異抗原(prostate specific antigen: PSA)検査を用いた前立腺癌検診は,無作為化比較対照試験(randomizedcontrolled trial: RCT)によって癌死亡率低下効果が確定された。前立腺癌検診研究で最も重要なエビデンスの一つであるイエテボリ研究では中央値14 年間の観察により,intention-to-screen 解析で検診群はコントロール群に比べ44%の死亡率低下効果が証明された。PSA検診の利益は,明らかな転移癌進展抑制と死亡率低下であり,他の癌検診と比較してもその重要性は劣るところはなく,すべての住民検診や人間ドックなどで受診機会を均てん化させるべきである。一方で検診受診により,一部の受診者は過剰診断・過剰治療などの不利益を被るリスクがあるため,死亡率低下効果が明らかになった検診であっても,検診受診前の正しい情報提供と最適な検診システムの整備が同時に重要である。検診の不利益に関してはPSA を補完する新しい腫瘍マーカーの開発が進んでおり,低侵襲治療が普及し,PSA 監視療法の標準化によって将来少なくなると期待されている。現時点では「前立腺癌検診の利益と不利益を啓発した上で,希望者に対して最適な前立腺癌検診システムを提供する」との日本泌尿器科学会の基本方針に沿って,検診を正しく普及することが重要である。 -
CONs
41巻5号(2014);View Description Hide DescriptionUSPSTF が2012年に前立腺がん検診ガイドラインを改訂し,全年齢についてPSA 検診を受けないことを推奨すると公表して以来,世界的に大きな影響がでている。直後は反対する反応が多かったが,その後,この改訂を容認する動きがでている。複数の機関がガイドラインを作成した場合,推奨の内容が異なることがあるが,ガイドラインの質を評価するためにIOMが示す「信頼される診療ガイドラインを作成するための8 基準」が参考になる。わが国の前立腺がんの罹患率・数は急激な増加傾向にあり,特に高齢者において著しい。今後,高齢者に対するがん検診は,利益・不利益バランスを考慮して適切な判断が可能な情報を提供する必要がある。
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Current Organ Topics:Hematologic Malignancies/Pediatric Malignancies 血液・リンパ系腫瘍造血器腫瘍診療におけるガイドラインの利用と展望
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原著
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未治療の前立腺癌患者に対するリュープロレリン酢酸塩6 か月製剤,TAP-144-SR(6M)の臨床効果を単回皮下投与および筋肉内投与で検討した第Ⅱ相臨床薬理試験
41巻5号(2014);View Description Hide Description日本人の未治療前立腺癌患者を対象にリュープロレリン酢酸塩6 か月製剤,TAP-144-SR(6M)の安全性,薬物動態,薬力学的作用および有効性を検討することを目的として単回皮下および筋肉内投与で第Ⅱ相臨床薬理試験を行った。被験薬22.5 mgの皮下投与群(6例)において主要評価項目である血清中テストステロン濃度は,4 週後には去勢レベル以下に低下し,24 週後まで維持された。安全性についてTAP-144-SRの既承認製剤(1 か月製剤,3 か月製剤)に比べ,新たに臨床上問題となる有害事象はみられなかった。皮下投与の用量は30 mgまで検討したが,この結果からTAP-144-SR(6M)の国内臨床用量は22.5 mgが妥当と考えられた。また,被験薬22.5 mgの筋肉内投与と皮下投与の臨床効果は同様であった。 -
化学療法後に根治切除を行った腹膜播種を伴う根治切除不能あるいは切除困難な進行・再発大腸癌症例の検討
41巻5号(2014);View Description Hide Description当院で2006〜2012年に根治切除不能または切除困難な進行・再発大腸癌として化学療法が導入された209 例中,根治切除が可能となった症例は10 例であった。そのうち,化学療法開始時に腹膜播種が存在した症例は5 例であった。原発巣根治切除後の腹膜再発の1 例を除き,4 例は原発巣切除時に腹膜播種が存在し同時性肝転移を伴っていた。化学療法導入後に肝転移切除・腹膜播種切除が行われた。腹膜再発の1 例を除き,4 例は術前画像診断でP0となっていた。手術時所見は3 例で腹膜播種が消失し,1 例はP2 であった。腹膜再発の1 例は画像診断どおり1 か所の腹膜再発であった。腹膜播種がCR となって消失していた3 例中1 例は他臓器転移が出現したが,3 例とも腹膜再発は認めていない。一方,P2であった症例は術後9 か月目に腹膜再発と肺転移を来した。大腸癌診断時からの生存期間は31〜83か月で,全例生存中である。多剤併用化学療法により,腹膜播種が消失し根治切除手術可能となる症例が存在することが明らかとなった。 -
フルオロウラシルとシスプラチン併用化学療法における循環器系副作用の発現状況とリスク因子の検討
41巻5号(2014);View Description Hide Description新潟県立がんセンター新潟病院消化器内科において,フルオロウラシルとシスプラチンの併用化学療法(FP 療法)を施行した食道癌患者を対象に,循環器系副作用の発現状況を調査しリスク因子を検討した。調査期間中61 例にFP 療法が実施され,そのうち6 例に胸痛,胸部不快感など循環器系副作用が発生した。全例,コース開始1 週間以内に発生した。循環器系疾患の危険因子である高血圧,糖尿病など患者背景に差は認められず,FP 療法実施前・後の電解質の変化と循環器系副作用との明らかな関連性は認められなかった。FP 療法の副作用として悪心・嘔吐,骨髄抑制,腎障害などの副作用は広く認識されており,その対策は周知されているが,循環器系に対する副作用についても十分な注意が必要である。
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医事
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がん診療連携拠点病院に勤務する医師の「高額医療」と「限度額適用認定証」の認識
41巻5号(2014);View Description Hide Description愛媛県がん診療連携拠点病院協議会「がんの集学的治療に関する分科会」は高額な医療費に焦点を当て,愛媛県のがん診療連携拠点病院でがん診療に携わる医師(n=98)に無作為・無記名のアンケートを配布し,「高額医療費」ならびに「限度額適用認定証」についての認識を調査集計した。その結果,医師の78%が日々の診療中がん診療で生じる高額な医療費の相談を受けており,個々で対応を行っていた。しかし,独自に「限度額適用認定証」の説明ができる医師は38%にすぎず,これは研修医に著しい。さらに今回の調査から,① 高額医療費(限度額適用認定証)を治療前早期に説明するツール・システムの確立,② 特に研修医に対して限度額適用認定証を理解させる教育,③ 制度の狭間にあるがん患者(初期治療で8万円の医療費を超えない患者,長期に継続して支払いが必要な患者など)の救済が重要であると考えられた。
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薬事
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閉鎖式薬物混合システムを使用したシクロホスファミドの調製時間短縮とコスト節減への検証
41巻5号(2014);View Description Hide Description医療従事者に対する抗がん薬曝露対策として,閉鎖式薬物混合システム(CSTD)の使用により,安全に調製や投与が行えることが報告されている。しかし,多くの施設では一部の抗がん薬にしか使用されていない。原因は,注射針とシリンジを使用する従来法と比較して調製時間が長くなることや,当該製品が高価であり診療報酬だけでは賄えないことがあげられる。これらの現状を踏まえて,シクロホスファミド(CPA)の調製にCSTDを使用した場合の実際の調製時間を測定し,コストを試算した。その結果,100 mg製剤単独使用または500 mg製剤との併用(100 mg製剤併用群)の調製時間は,500mg 製剤単独群と比較して有意に時間を要した。一方,CPA薬価とCSTD費を合計したコストは500 mg製剤のみの使用へ切り替えることで,5 年間でCSTD であるChemoCLAVE®3,755,217円,PhaSeal®6,302,622円,ケモセーフ®2,698,451円が節減された。CPAの大容量規格製剤を含め,規格選択を適正に行うことで調製時間を短縮でき,CSTDを加味したコストの節減が可能であると考えられる。
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実験的研究
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Chemoimmunotherapyに立脚した抗悪性腫瘍薬の神経芽腫細胞に対する効果
41巻5号(2014);View Description Hide Descriptionマウス神経芽腫モデルを用いてdoxorubicinとBafilomycin-A1(Baf-A1)が腫瘍細胞に細胞死を誘導する際の免疫学的効果を比較検討した。まず,マウス由来神経芽細胞腫細胞株neuro-2a培養系にdoxorubicin,Baf-A1を添加して細胞死を誘導した。neuro-2a死細胞を骨髄由来樹状細胞(BM-DC)と混合培養し,BM-DC の死細胞貪食効果を比較した。次に,死細胞をマウスCD8a+リンパ球およびBM-DCと混合培養し,CD8a+リンパ球増殖反応をIFN-g 産生を指標に評価した。さらに,培養系にTLR agonistのCpG-ODN を付加しadjuvant効果を検討した。結果は,doxorubicinで細胞死を誘導された腫瘍細胞はBaf-A1 で処理した死細胞と比較してより効率的にBM-DC に貪食され,IFN-g 産生を介したCD8a+リンパ球増殖を誘導した。しかし,CpG-ODNのadjuvant効果はBaf-A1を用いた場合より効果的だった。神経芽腫に対する化学療法による免疫学的効果を念頭に入れたプロトコール作成には,抗腫瘍薬の選択とadjuvant としてのTLR agonist との適切な組み合わせの選択が重要である。
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症例
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進行再発非小細胞肺癌に対するペメトレキセド長期維持療法症例
41巻5号(2014);View Description Hide Description背景: 当院で経験した進行再発非小細胞肺癌に対するペメトレキセド(PEM)維持療法の有用性について検討した。方法: PEM 500 mg/m / 2にシスプラチン(CDDP)75 mg/m2ないしカルボプラチン(CBDCA)(AUC5)を3 週ごとに4〜6コース施行し,SD以上の確認後PD までPEMを継続投与した。結果:導入化学療法20 例の効果はPR/SD/PD: 10/6/4 で,奏効率50%,病勢コントロール率80%であった。維持療法を施行した14 例の平均年齢は70.2 歳,男女比5:9。維持療法施行コース数は中央値11.5 コース,導入化学療法からは中央値17.5 コース,PFS は16.4 か月,中央値13 か月であった。維持療法中のGrade 3 以上の有害事象はみられなかった。考察: PEM 維持療法は忍容性,副作用の面からも長期に使用でき,安全で効果的な治療である。 -
肺癌との鑑別が困難であった原発不明癌(Extragonadal Germ Cell Cancer Syndrome)の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は26 歳,男性。発熱,腰痛,労作時呼吸困難,体重減少にて近医を受診。胸部X線上両肺野の多発腫瘤影を指摘され,当科紹介となった。胸腹部CT にて大小不同の多発腫瘤影,縦隔・肺門リンパ節腫脹,後腹膜腫瘤を認め,下大静脈内に塞栓が疑われた。左頸部リンパ節生検にて低分化腺癌と診断された。転移性肺癌が疑われたが,原発巣は不明であった。入院後急速に呼吸状態が悪化し,十分な検索ができない状況で肺癌,原発不明癌両方の可能性を考えcarboplatin とpaclitaxelを投与した。投与後いったん全身状態は改善したが,病勢は増悪・寛解を繰り返した。carboplatinとpaclitaxelが奏効したことから肺癌に準じて七次治療まで行い,診断から約12 か月間生存した。血中AFP値は軽度上昇していたが,組織は腺癌で,AFP染色は陰性であった。しかし,後に追加した染色でOCT-4が陽性となり,最終的に原発不明癌(extragonadalgerm cell cancer syndrome)と診断した。 -
転移巣切除後に化学療法を行った乳癌巨大卵巣転移の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は49 歳,便秘と下腹部痛を主訴に当院を受診し,CT で左乳癌,リンパ節転移,癌性腹膜炎・両側水腎症,卵巣転移と診断された。骨盤腔を占める巨大卵巣転移による消化管閉塞に対し,症状緩和目的に両側卵巣切除を行った。術後,weekly paclitaxel療法を3 コース施行後に腹水は完全に消失し,食事摂取可能となった。消化管閉塞を伴う乳癌卵巣転移に対する減量手術は,症状の改善により化学療法の実施が可能となる症例に有効である。 -
Locally Advanced Breast Cancer with Bleeding―Two Cases Effectively Treated with Bevacizumab plus Weekly Paclitaxel
41巻5号(2014);View Description Hide Descriptionbevacizumab(BV)の重大な有害事象の一つに出血があるが,出血を伴う局所進行乳癌に対してBV+weekly paclitaxel(PTX)療法を施行し良好な局所コントロールを得られた2 例を経験したため報告する。症例1: 50 歳の閉経後,女性。左乳癌[T4cN2cM1(骨),stage Ⅳ],ER 陰性,PgR 陰性,HER2 1+に対してFEC[5-fluorouracil(5-FU),epirubicin(EPI),cyclophosphamide(CPA)],PTX,docetaxel(DTX),gemcitabine(GEM)+PTXによる化学療法を施行後,BV+PTX 療法を開始した。2 サイクル終了時には腫瘍は著明に縮小し,出血と渗出液は減少した。6 サイクルまでPR であり良好な局所コントロールが得られたが,8 サイクル終了時にPD となった。以後capecitabine(CAP)+CPAを施行したが,BV+PTX 療法開始から1 年後に死亡した。症例2: 76 歳の閉経後,女性。右乳癌[T4bN3bM1(肺),stageⅣ],ER 陰性,PgR陰性,HER2 0 に対してEC(EPI,CPA),PTX を施行後,BV+PTX 療法を開始した。2 サイクル終了時には腫瘍は縮小し,出血と渗出液は著明に減少した。3 サイクルまではPR を維持し良好な局所コントロールが得られたが,4 サイクル終了時にPD となった。以後,CAP,DTX を施行したが,BV+PTX療法開始から6 か月後に死亡した。 -
S-1/CDDP 術前化学療法にて組織学的CR が得られた進行胃癌の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide DescriptionS-1/cisplatin(CDDP)併用療法による術前化学療法が著効し,手術にて組織学的complete response(完全奏効: CR)を得た進行胃癌の1 例を経験した。患者は66 歳,男性。術前画像検査で胃体上部の3 型進行胃癌,胃小弯から腹腔動脈周囲に腫大して一塊となったリンパ節を認め,大動脈周囲リンパ節も多数腫大を認め,cStageはcT3N3M1(LYM),cStage Ⅳであった。S-1/CDDP 併用による術前化学療法を施行し主病変とリンパ節転移の著明な縮小を認め,胃全摘術,胆囊および脾臓摘出術,リンパ節郭清を施行した。病理学的には主病変およびリンパ節にviable な癌細胞は確認できず,組織学的CRと診断した。 -
胃癌術後3 年6 か月目に多発皮膚転移を来した1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。進行胃癌に対し,胃全摘術(D2 郭清,脾合切)を施行した。病理診断は多発胃癌で病変は2 か所あり,ML,AntLess,type 3,por,pT3,ly1,v0およびM,Post,0-Ⅱc,tub1,pT1b2,ly0,v0,pN2M0P0H0,pStageⅢAであった。術後3 年6か月目に,顔面,頸部,体幹,上肢に小結節が多数出現した。皮膚結節の生検では胃癌の転移に矛盾しない所見であり,胃癌多発皮膚転移と診断した。さらに多発骨転移・リンパ節転移を認め,化学療法を行っている。胃癌の皮膚転移部位は,臍部,いわゆるSister Mary Josephʼs noduleが最多であるが,それ以外の部位に多発する症例はまれである。 -
S-1/CDDP 療法後の五次化学療法としてCapecitabine/CDDP 療法が有効であった胃癌肝転移の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description今回,S-1/cisplatin(CDDP)を含む多剤耐性となった胃癌術後の多発性肝転移に対してcapecitabine/CDDP を投与し,SD ながら約4 か月にわたる縮小効果を認めた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は67 歳,男性。2010年6 月に胃癌に対して幽門側胃切除術,D2郭清を施行。2011 年5 月のCTにて,肝外側域,内側域,前区域に肝腫瘍を認め,多発性肝転移と診断し化学療法を開始した。S-1/CDDP,paclitaxel(PTX),irinotecan(CPT-11),docetaxel(DOC)による治療を施行し,外側域の腫瘍は一貫して縮小,内側域の腫瘍もDOC 以外には縮小効果を認めた。一方,前区域の腫瘍は PTX 以外のいずれにも抵抗を示した。しかし五次治療の capecitabine/CDDP に対しては,SD ながら縮小効果を示し,約 4 か月間奏効した。S-1/capecitabineはともにFU 系抗癌剤であるが,必ずしも交叉耐性を示すとは限らず,いずれも投与の機会を考慮すべきである。 -
S-1/CPT-11を用いた術前化学放射線療法にXELOX+Bevの追加療法が著効した進行直腸癌の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。主訴は便秘。肛門縁直上から13 cm の長さにわたる直腸癌を認めた。2 型の全周性腫瘍で,前立腺浸潤とリンパ節転移を伴っていた。S 状結腸人工肛門造設後,S-1/irinotecan(CPT-11)を用いた術前化学放射線療法(計50 Gy)を行い,腫瘍の縮小を認めた。しかし前立腺への浸潤が一部残っていたため,骨盤内臓全摘術を回避する目的でcapecitabine+oxaliplatin(XELOX)+bevacizumab(Bev)療法を追加した。7 コース施行後,MRI で前立腺浸潤を認めなくなったため,腹会陰式直腸切断術を行った。病理検査では腫瘍細胞の残存を認めず,完全奏効(pathological complete response:pCR)の判定であった。術前化学放射線療法への化学療法の追加治療は,局所進行直腸癌に対する有効な治療法と考えられた。 -
Bevacizumab併用FOLFOX4 療法で病理学的CR が得られ無再発生存中の門脈腫瘍塞栓を伴った直腸癌肝転移の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description門脈腫瘍塞栓を伴った直腸癌多発肝転移に対しbevacizumab併用FOLFOX4 療法を施行後,病理学的CR が得られ,無再発生存中の1 例を経験したので報告する。症例は58 歳,男性。検診で便潜血陽性を指摘され,直腸癌と診断した。腹部CT で,肝S2,S3,S4,S6に同時性多発肝転移と,左門脈内に陰影欠損を認め腫瘍塞栓が疑われた。低位前方切除術を施行し,病理所見は中分化管状腺癌,pSS,pN0,ly0,v3 で静脈内腫瘍塞栓形成がみられた。原発巣切除後,bevacizumab併用FOLFOX4 療法を開始した。11 コース終了後,肝転移巣は縮小し,左門脈系の腫瘍栓も縮小した。肝左葉切除,肝S6 部分切除術を施行した。切除標本では,門脈を主座にした多発結節に粘液の貯留を認めたが,癌細胞の遺残はなかった。肝転移巣切除後5 年経過した現在,無再発生存中である。 -
Bevacizumab+FOLFOX4 が奏効した上行結腸内分泌細胞癌の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。2011 年4 月に縦隔および腹腔内リンパ節転移を認めるStage Ⅳの上行結腸癌に対し,姑息的に結腸右半切除術を施行した。病理組織診断では高度のリンパ管侵襲と静脈侵襲を伴う腫瘍細胞を認め,免疫組織化学的にはsynaptophysin,chromogranin Aが陽性となり,内分泌細胞癌と診断した。化学療法のfirst-lineはPDとなったが,secondlineとしてbevacizumab+FOLFOX4 を施行し,有効性を得ることができた。極めて予後不良な内分泌細胞癌でも,分子標的治療薬も含めた化学療法により生存期間を延長できる可能性が示唆された。大腸内分泌細胞癌とその化学療法に関し,文献的考察を加えて報告する。 -
化学療法が奏効し切除可能となった腹膜播種を伴う進行膵尾部癌の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。腹膜播種を伴う切除不能進行膵癌の診断でgemcitabine+S-1 療法を4 コース施行したところ,主腫瘍は縮小し腹膜播種は不明瞭となった。その後も化学療法を継続し,6 か月間腹膜播種の再燃がないことを確認した後,審査腹腔鏡を行いR0 手術可能と判断して,膵体尾部切除,脾,横行結腸,胃および左副腎合併切除術を施行した。術後も補助化学療法を施行中で術後11 か月現在,再発の所見は認めていない。化学療法で腹膜播種が消失し切除可能であった膵癌の報告はまれであり,若干の文献的考察を踏まえて報告する。 -
Gemcitabine/S-1による術前化学療法が奏効しR0手術を施行し得た局所進行膵尾部腺扁平上皮癌の1 例
41巻5号(2014);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。左側腹部痛を主訴に受診した。腹部CT 検査にて膵尾部に80 mm 大の辺縁不整な腫瘤を認め,胃,結腸,左腎に直接浸潤を認めた。局所進行膵尾部癌(cT4N1M0)と診断し,gemcitabine/S-1 による化学療法を開始した。11コース終了後に直接浸潤(胃,結腸,左腎)は認めるが,腫瘍径は59 mm大まで縮小し,FDG-PET 検査で遠隔転移を認めなかったため手術を施行した。膵体尾部切除,噴門側胃切除,結腸部分切除,左腎,副腎摘出,D2リンパ節郭清術を施行し,R0 手術を施行し得た。病理学的検査では腺扁平上皮癌であった。術後経過は良好であったが,1 か月後の腹部CT検査にて多発肝転移を認めた。膵腺扁平上皮癌は膵癌のなかでもまれな疾患であり,治療抵抗性とされる。今回,局所進行膵腺扁平上皮癌に対し,術前化学療法が奏効しR0 手術を施行し得た症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。
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短報
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Charlson Comorbidity Index(CCI)の有用性の後方視的検討
41巻5号(2014);View Description Hide DescriptionOwing to the advance ofsupportive care and the development ofmolecular targeted therapies, the elderlies or patients who have comorbidities have been treated more than before. The assessment of the comorbidity is indispensable to select theappropriate treatment or the control off ollowing therapy. Some indices to determine them have been developed in western countries but not in Japan. The index which is used most is the Charlson comorbidity index(CCI). This index has never been evaluated in Japan. So we investigated the utility ofthe index for Japanese population. We surveyed retrospectively 498 patients aged 65 or more patients with colon cancer, breast cancer, lung cancer that have been treated in our hospital during 2002-2007. According to CCI, patients are classified into three groups and verified 1-year and 3-year survival rate. 1-year survival rate was 76.9% in groups of0 points, 83.5% in groups of1 -5 points, 75.0% in the group ofsix or more points respectively(p=0.19). 3-year survival rate were 59.0%, 63.1%, 75.0%, respectively(p=0.46). Multivariate analysis identified age(≧50), Sex(man), stage(Ⅲ and Ⅳ)as significant predictors for worse OS at 3-year. However, there was no significant difference in CCI. There are some items which frequency is zero, so the items of CCI may not match to Japanese population. Presence of existing disease is an important factor for the cancer therapy, and it should be evaluated accurately. It is urgently necessary to develop an evaluation method and establish the scale.
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