癌と化学療法
Volume 41, Issue 7, 2014
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総説
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原発不明がん―診断と治療―
41巻7号(2014);View Description Hide Description原発不明がんの定義は転移巣から病理学的にがんの診断が付いており,十分な全身検索を行ったのにもかかわらず原発巣を指摘できないというものである。原発不明がんの診療に際しては病理組織学的診断と画像診断の二つが重要である。一定の検査を行い原発巣が指摘できない場合は,原発不明がんとして治療する。原発不明がんとして治療を行う場合は,原発不明がんの約20%存在するといわれている予後良好群を見逃さないことが重要である。近年,マイクロアレイを用いた研究が原発不明がんでも行われている。
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特集
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- 日本の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)治療の新時代
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はじめに
41巻7号(2014);View Description Hide DescriptionIn Y2014, several new agents targeted to castration resistant(recurrent)prostate cancer; CRPC, are approved in Japan. Although such good news comes 2-3 years behind Western, it may improve the outcomes of the CRPC patients in Japan. In this issue, enzalutamide, abiraterone, and cabazitaxel are discussed by each experts from the productive industries. In addition, the experts from urological field and medical oncology field describe the role of each discipline. -
新規アンドロゲン受容体阻害剤Enzalutamideの去勢抵抗性前立腺癌に対する治療戦略
41巻7号(2014);View Description Hide Description近年,去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)となった患者の治療に新たな選択肢となり得る内分泌治療薬あるいは化学療法剤などの薬剤が次々と登場してきており,正に前立腺癌治療のパラダイムシフトといえる時代を迎えている。enzalutamideはアンドロゲン受容体シグナル伝達経路の複数の段階を阻害し,CRPC においてもアゴニスト作用を示さないようにデザインされた新規の抗アンドロゲン剤である。enzalutamide の first in human 試験は,米国で実施された phase Ⅰ/Ⅱ試験であった。対象は進行性CRPC の化学療法施行前患者と化学療法施行患者であった。すべての評価項目においてenzalutamide の有効性が確認された。phase Ⅲ試験は海外で国際共同試験として実施された無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験(AFFIRM試験)であり,ドセタキセルを含む化学療法施行後に病勢進行を認めたCRPC 患者1,199 例が登録された。enzalutamide群はプラセボ群と比較して全生存期間(OS),PSA無増悪期間,画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)および最初の骨関連事象が発現するまでの期間を統計的に有意に延長した。また,enzalutamide群ではPSA奏効割合,画像診断上の奏効割合およびQOLにおいても有意な改善が認められた。AFFIRM試験の結果を基にアステラス製薬株式会社とMedivation社が2012年に米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品審査庁(EMA)に販売許可申請を行い,承認を取得した。日本における phase Ⅰ/Ⅱ試験は,進行性 CRPC の化学療法施行前患者と化学療法施行患者を対象に実施された。enzalutamide 160 mg/日の忍容性は日本人においても問題なく,薬物動態,安全性および有効性についても海外の臨床試験成績と大幅な相違は認めなかった。日本においても2013 年5 月に承認申請を行い,2014 年3 月に製造販売承認を取得した。日本を含む国際共同試験として実施された無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験(PREVAIL 試験)は,化学療法施行前のCRPC 患者1,717 例を対象に実施された。中間解析の結果では,enzalutamide 群はプラセボ群と比較してOSおよびrPFSを統計的に有意に延長した。そのため,独立データモニタリング委員会(IDMC)は試験の早期終了とプラセボ群の患者に対するenzalutamideへの切り替えを提案した。本稿では,enzalutamideの基礎的特徴,開発の経緯,これまでに得られた臨床試験成績,今後の展望について概説する。 -
アビラテロン酢酸エステル(ZYTIGA®)―開発の経緯および臨床試験概要―
41巻7号(2014);View Description Hide Descriptionアビラテロン酢酸エステル(AA)は,転移性去勢抵抗性前立腺癌の治療薬としてすでに80 を超える国で承認されており,本邦においても2013年7 月に製造販売承認申請が行われた。AAは,アンドロゲン合成に重要な変換酵素CYP17A1の特異的阻害剤であり,精巣,副腎,腫瘍細胞などのアンドロゲン供給源すべてにおいて直接的にアンドロゲンの生成を阻害し,前立腺癌細胞に対し抗腫瘍効果を示す。これまでに実施された国内および海外臨床試験の結果から,外国人同様,日本人の転移性去勢抵抗性前立腺癌患者の生命予後やQOL を改善することが期待される。本稿では,AAの開発の経緯,海外および国内の主な臨床試験成績を概説するとともに,食事の薬物動態への影響,ステロイドの併用,肝障害発現などの使用上の注意について述べる。 -
Cabazitaxel―転移性去勢抵抗性前立腺癌患者の治療における新規タキサン系薬剤―
41巻7号(2014);View Description Hide Description転移性去勢抵抗性前立腺癌(metastatic castration-resistant prostate cancer: mCRPC)は不均一性がみられる疾患であり,治療に用いる薬剤,特にアンドロゲン受容体(AR)による増殖刺激経路を標的とする薬剤(以下,AR 標的薬)に対して多様な反応性を示す。新規タキサン系薬剤のcabazitaxel は,ドセタキセルと同様に前臨床モデルで強い抗腫瘍活性がみられた。臨床開発において,cabazitaxel の薬物動態,安全性および忍容性プロファイルはドセタキセルと同様の成績であった。mCRPC患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験(TROPIC 試験)において,cabazitaxel群はミトキサントロン群と比較して,いずれもプレドニゾンまたはプレドニゾロンとの併用下で,無増悪生存期間および全生存期間の有意な延長が認められた〔cabazitaxel群の生存期間の中央値15.1か月[95%信頼区間(CI): 14.1-16.3],ミトキサントロン群の生存期間の中央値12.7か月(95% CI: 11.6-13.7),ハザード比(HR): 0.70(95% CI: 0.59-0.83),p<0.0001〕。さらに,TROPIC 試験の長期追跡調査において,2 年以上の生存患者数はcabazitaxel群で60 例(15.9%),ミトキサントロン群で31 例(8.2%)であった(オッズ比: 2.11,95% CI: 1.33-3.33)。また,ミトキサントロンと同程度の疼痛緩和作用がcabazitaxel でみられた。Cabazitaxel の安全性プロファイルはドセタキセルの成績と同様であり,頻度が高いと報告された有害事象は血液およびリンパ系障害(主として好中球減少症)および胃腸障害(主として下痢)であった。臨床試験の結果から,これらの有害事象は慎重なモニタリングおよび必要に応じて用量を減量することが重要であると示唆された。さらに,血液毒性の発現を低下させるために用いるG-CSF 製剤の投与および胃腸障害を軽減させるための制吐剤,および止瀉薬による支持療法の適切な実施が重要であることが示唆された。mCRPC の治療パラダイムは,新たな薬剤などの出現により急速に発展している。Cabazitaxel の有効性および忍容性プロファイルから,本剤がこの治療パラダイムにおいて今後重要な役割を担ってくるものと考えられる。 -
日本におけるCRPC 治療新時代における泌尿器科医の役割
41巻7号(2014);View Description Hide Description最近,日本で去勢抵抗性前立腺がん(castration resistant prostate cancer: CRPC)を対象にした新たなホルモン療法,あるいは化学療法などの薬物療法が相次いで承認されようとしている。この新たな治療戦略の今後の取り組みに関して,泌尿器科医の立場から考察した。 -
日本におけるCRPC 治療新時代における腫瘍内科医の役割
41巻7号(2014);View Description Hide Description進行前立腺癌の標準治療は内分泌療法(LH-RH agonistまたはLH-RH agonist+抗アンドロゲン剤)であるが,ほとんどの患者でいつかは抵抗性になる。去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する内分泌療法として,CYP17 阻害剤であるabiraterone,新規AR であるantagonist enzalutamide の生存期間延長のエビデンスが確立し,承認予定である。また,CRPC に対する化学療法では,docetaxelは一次治療として,cabazitaxelはdocetaxel後の二次治療として生存期間を延長するエビデンスが確立している。分子標的治療としてエビデンスが確立した薬剤はないが,cabozantinib などが期待されている。このような新薬開発の進行状況において,腫瘍内科医の貢献が期待される。現状では泌尿器薬物療法すべてを担うことは不可能であるが,新薬の開発に第Ⅰ相試験から積極的にかかわる,薬物治療に伴う合併症のケアとチーム医療の整備を進める,translational researchを進めるなどの役割が特に期待される。
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Current Organ Topics:Head and Neck Cancer: 頭頸部癌
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原著
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乳癌術後ホルモン療法における服薬アドヒアランスの評価とそれに影響する因子の解析
41巻7号(2014);View Description Hide Description背景: 乳癌術後ホルモン療法は長期間の内服を要するため,服薬アドヒアランスが重要となる。われわれは最初にアドヒアランスを評価し,次にその評価方法の妥当性を検証するとともにアドヒアランス低下に影響する因子の解析を行った。方法:術後補助療法としてタモキシフェンあるいはアロマターゼ阻害薬を処方された294 症例を対象に,電子カルテを用いた後ろ向き解析およびアンケート調査による確認を行った。28 日間当たりの平均「服用忘れ日数」が0〜3 日をA 群(272例),4 日以上をB 群(22例)として2 群に分類し,アドヒアランス低下に影響を及ぼす因子(年齢,服薬期間,薬剤,術式,腋窩郭清の有無,補助化学療法の有無)を解析した。結果: A 群は50 歳未満の患者が30%であるのに対してB 群では50%と,若年齢の割合が高かった(p<0.05)。ホルモン薬の平均投与期間はA群752 日,B 群981 日であり,B 群がより長期であった(p<0.05)。その他の因子として,乳房温存療法がA群68%に対してB 群77%と多い傾向がみられた。考察:服用忘れは若年齢や長期投与例で多い傾向を認め,また低リスク乳癌に関連する因子の影響も示唆された。 -
EGFR 遺伝子変異陰性・不明の未治療高齢者非扁平上皮肺癌に対するペメトレキセド単剤療法の施行経験
41巻7号(2014);View Description Hide Description背景: 未治療高齢者非小細胞肺癌に対するドセタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビンの単剤投与の有効性が報告されている。一方で,ペメトレキセドは既治療非小細胞肺癌に対して標準的治療薬であるドセタキセルとほぼ同等の効果を示し,発熱性好中球減少症などの副作用が軽度であることが報告されている。目的:未治療高齢者非扁平上皮肺癌症例に対するペメトレキセドの使用経験をまとめ,効果と毒性を標準的治療薬であるドセタキセルと比較する。方法: 2004〜2012 年の間に当科において診療した70 歳以上のepidermal growth factor receptor遺伝子変異陰性・不明の非扁平上皮肺癌症例で,一次治療としてペメトレキセドもしくはドセタキセルの単剤投与が行われた症例を対象とし,後ろ向きに解析した。結果:ペメトレキセド群腺癌6 例とドセタキセル群腺癌6 例を解析した。progression free survival中央値はペメトレキセド群3.6 か月,ドセタキセル群3.1か月(p=0.45),overall survival中央値はペメトレキセド群14.8 か月,ドセタキセル群10.9 か月(p=0.36)であった。ドセタキセル群ではgrade 3 以上の好中球減少,発熱性好中球減少症がペメトレキセド群と比較して多く認められた。一方で,ペメトレキセド群ではgrade 3 の肺臓炎が2 例認められた。結論:未治療非扁平上皮肺癌症例に対するペメトレキセドの単剤投与の効果が期待される。 -
進行再発消化器癌における化学療法中止のタイミング―Palliative Prognostic Index(PPI), Controlling Nutritional Status(COUNT),Prognostic Nutritional Index(PNI)を用いた客観的評価の有用性の検討―
41巻7号(2014);View Description Hide Description目的: 進行再発消化器癌においてpalliative prognostic index(PPI),controlling nutritional status(COUNT),prognosticnutritional index(PNI)による客観的評価が化学療法中止の指標となり得るか検討した。方法: 2009 年1 月〜2012年6月に癌死した消化器癌患者28 例を対象とし,化学療法終了後90 日未満で死亡した短期群(A 群: 14 例)と90 日以上生存した長期群(B 群: 14 例)で化学療法終了時のPPI,COUNT,PNI を比較した。結果: PPIはA群4.0,B群0.8(p<0.001)とA 群で有意に高値であり,COUNTもA群6.3,B群3.9(p=0.033)とA群で有意に高値であった。PNIは危険域であるPNI=40 をカットオフ値に設定すると,生存期間に有意差を認めた(68/118 日,p=0.04)。結語: 化学療法中止基準としてPPI,COUNT,PNIよる客観的評価の有用性が示唆された。 -
高齢者(75歳以上)に対する切除不能・再発大腸癌に対する二次治療FOLFIRI(+Bevacizumab)療法の治療効果と安全性
41巻7号(2014);View Description Hide Description高齢者(75 歳以上)の切除不能・再発大腸癌に対する二次治療としてのFOLFIRI 療法の有効性と安全性について後方視的に検討した。オキサリプラチンベースの一次治療がfailureした後に,二次治療としてFOLFIRI(+bevacizumab)を導入した切除不能・再発大腸癌106例を対象に75 歳以上18 例(高齢群)と75 歳未満88 例(非高齢群)に分け,両群間の背景因子と治療成績を比較検討した。二次治療におけるbevacizumab の併用率は高齢群のほうが低かった(27.8% vs55.7%,p=0.03)。奏効率(15.4% vs 13.6%,p>0.99),無増悪生存期間(中央値4.7 か月vs 7.0 か月,p=0.67),二次治療開始後全生存期間(中央値12.2か月vs 17.0か月,p=0.24)では両群間に有意差は認められなかった。有害事象の発生頻度も両群間に有意差はなかったが,高齢群のほうがgrade 1/2 の脱毛(p=0.054)と grade 3 以上の赤血球減少の頻度(p=0.07)が高い傾向を認めた。少数での後方視的検討ではあるが,FOLFIRI(+bevacizumab)による二次治療は75 歳以上の高齢者に対しても75 歳未満とほぼ同等の有効性と安全性が得られることが示唆された。 -
速放性オピオイド鎮痛薬によるオピオイド導入とフェンタニルパッチ移行に関する検討
41巻7号(2014);View Description Hide Description対象と方法: 2011 年4 月から2 年間に非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない癌性疼痛患者20 名を対象とし,速放性オピオイド鎮痛薬の使用を開始した。原疾患は胃癌5 例,大腸癌5 例,肺癌3 例,膀胱癌2 例,乳癌2 例,膵臓癌2 例,肝癌1 例。鎮痛効果,有害事象を評価し鎮痛効果が安定したと考えられた時点でフェンタニルパッチを開始し,有効性,安全性を評価した。結果:速放性オピオイド鎮痛薬導入時の疼痛がnumeric rating scale(NRS)で5 以下であったのが6 例であった。その全例で良好な鎮痛効果が得られ,grade 2 以上の有害事象は1 例のみ(便秘,食欲不振)であった。NRS 6 以上であったのは14 例で,うち11 例で良好な鎮痛効果が得られたが,3 例はほとんど鎮痛効果が得られなかった。この3 例は導入後早期死亡例であった。有効例11 例のgrade 2 以上の有害事象は眠気1 例,便秘1 例,食欲不振1 例であった。速放性オピオイド鎮痛薬による鎮痛効果が安定したと考えられた17 例のうちフェンタニルパッチに移行したのは9 例で,うち8 例において2 週間以上良好な鎮痛効果が得られた。考察:速放性オピオイド鎮痛薬を用いたオピオイド導入は有効かつ安全と考えられた。ただし,導入時の疼痛が高度の場合は良好な鎮痛効果が得られにくく病状の進行も早い症例が多いため,臨床的に早期にオピオイド導入を検討すべきであると考えられた。また,フェンタニルパッチに移行可能であった場合,長期の疼痛コントロールが得られ,早期の移行は有用であると考えられた。
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症例
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急性巨核芽球性白血病を併発したMediastinal Growing Teratoma Syndrome の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は38 歳,男性。縦隔胚細胞腫瘍に対してbleomycin+etoposide+cisplatin(BEP)療法を施行し,腫瘍マーカーは正常化するも腫瘍は増大した。外科的切除を行ったが,術後半年で急性巨核芽球性白血病を併発した。寛解導入療法,地固め療法を行うも寛解に至らず,造血幹細胞移植後に白血病の中枢神経浸潤を来し,白血病発症後5 か月で永眠された。縦隔胚細胞腫瘍のうち,growing teratoma syndromeの定義を満たし,かつ急性巨核芽球性白血病を併発する例は極めてまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
アザシチジン療法治療中断により急激に病勢が悪化した骨髄異形成症候群
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)と診断された73 歳,女性。アザシチジン(azacitidine:AZA)療法11 コース目後にHb,血小板数の増加が認められ,輸血が不要となった。本人の希望により治療を一時中止して経過観察していたが,3 か月後に血小板数が減少したためAZA 療法を再開した。しかしながら,14 コース目に急性骨髄性白血病への進行が認められ,診断から19 か月後に永眠された。AZA はMDS の治療に重要な薬剤であるが,その中断は急速な病勢悪化をもたらす危険性があり,中断症例は注意深い経過観察が必要である。 -
胸腺カルチノイドに対してオクトレオチドLong Acting Repeatableを使用した2 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description胸腺カルチノイドはわが国の胸腺腫瘍の約3.1%を占める比較的まれな疾患であるが,5 年生存率は28〜31%と不良であり,しばしば治療に難渋する。治療は外科的切除が中心だが,再発,遠隔転移症例では化学療法や放射線療法が行われる。ただし,有効性が確立された化学療法はない。一方でNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは,化学療法としてオクトレオチドlong acting repeatable(LAR)の有効性が明記されている。今回われわれは,胸腺カルチノイド症例に対してオクトレオチドLAR 療法を行い,比較的長期にわたり生存が得られた2 症例を経験したので報告する。 -
S-1+Paclitaxel(PTX)による術後化学療法にて長期生存が得られた腹膜播種を伴う胃腺扁平上皮癌の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description胃原発腺扁平上皮癌は比較的まれな疾患で,一般の胃原発悪性腫瘍に比べ予後不良とされている。腹膜播種を伴う胃腺扁平上皮癌に対し姑息的胃切除を行い,術後にS-1+paclitaxel(PTX)による全身化学療法を行った。重篤な有害事象はみられなかったためS-1+PTX を1 年間継続し,さらにS-1 を1 年間投与した。腫瘍マーカーは術後2 か月で正常化し,腹部CT で播種病変は消失し再発はみられない。CR を維持し8 年を超える長期生存の得られている進行胃腺扁平上皮癌の1例を経験したので報告する。 -
Paclitaxel過敏症進行胃癌にNab-Paclitaxelを投与した1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。胃癌,多発肝転移に対してS-1/cisplatin療法を施行したが,肝転移の増大を認め治療変更となった。paclitaxel(PTX)に変更するも2 回目投与時に過敏症の発現があり投与を中止,docetaxelに変更するも初回投与時に過敏症の発現があり投与を中止し,その後irinotecan 療法を施行したが下痢と体重減少で投与困難となった。次治療として本人の希望でnab-PTXを前投薬(dexamethasone 8 mg+chlorpheniramine 10 mg)を併用して投与したところ,過敏症の発現なく投与可能であった。nab-PTXは添付文章上ではPTX過敏症患者に投与禁忌だが,本症例のようにポリオキシエチレンヒマシ油含有PTX 過敏症患者に対してnab-PTXによる治療継続が可能である場合がある。 -
S-1単独療法にてCR となり投与中止後も長期間CR を継続している胃癌術後多発肝転移の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は80 歳,男性。貧血の精査にて進行胃癌の診断となり,幽門側胃切除を施行した。病理組織学的検査結果はStage ⅢAであった。補助化学療法を行わずに経過観察としたところ,術後1 年目のCT検査にて多発肝転移を認めた。S-1単独投与を行い,投与開始後10 か月でCT 検査上complete response(CR)となった。その後,食欲不振でS-1 中止となったものの,S-1中止後22か月間(CR 確認後44 か月間),CR を維持している。 -
一次治療としてCetuximab単剤投与が奏効した黄疸を伴うS状結腸癌多発肝転移の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description一次治療として,cetuximab単剤投与が奏効した黄疸を伴うS 状結腸癌多発肝転移の1 例を経験したので,若干の文献的考察を交え報告する。症例は72 歳,男性。黒色便,腹部膨満感と全身|怠感を主訴に当科受診。精査の結果,S 状結腸癌SEN1H3M1(LYM),cStage Ⅳと診断された。多発肝転移による黄疸を認め,全身状態performance status(PS)3 であったため標準治療による化学療法は困難であったが,KRAS遺伝子変異解析の結果は野生型であり,十分なインフォームド・コンセントの上でcetuximab単剤投与(初回400 mg/m / 2,2 回目以降250 mg/m2毎週投与)を開始した。黄疸とPSの改善,腫瘍縮小が得られたため治療開始6 週目からはFOLFOX 療法を併用した。初回治療から40 週目に腫瘍の増大を認め,二次治療としてirinotecan+S-1(IRIS)療法,その後,三次治療としてirinotecan+panitumumab療法を施行し,初診から18 か月後に原病死された。 -
膵癌術後残膵再発の二次治療としてFOLFIRINOX による化学療法を施行し画像所見上CR が得られた後に残膵全摘を施行した1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は65 歳,女性。2010年12 月6 日膵体部癌に対して,他院にて膵頭十二指腸切除術を施行。2011 年4 月より術後補助療法としてゲムシタビンによる単独化学療法を施行。2011 年7 月より,ゲムシタビン+S-1 による化学療法を施行。2012 年3 月のCT にて残膵に明らかな再発が認められたため,当院に転院。患者本人・家人に十分な説明の上,FOLFIRINOXによる化学療法を施行した。治療6 コースでPR,9 コースで画像上CR が得られたため残膵全摘を施行した。二次治療としてのFOLFIRINOX が有用な症例もあることより,症例ごとにその治療の可否を検討する必要があるものと考えられ報告を行った。 -
オキサリプラチンが原因と考えられた再発直腸癌化学療法中のストーマ静脈瘤出血の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。進行下部直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行されるも,多発性肝転移で再発したため,化学療法を施行された。FOLFOX4/bevacizumab(BEV)療法を22 コース施行されたが,副作用のため途中でオキサリプラチンを中止し,5-FU/Leucovorin/BEV 療法を39 コース施行した。化学療法中には,進行性の脾腫と血小板減少,ストーマ静脈瘤が認められていた。ストーマから大量出血があり,当院救急外来に搬送された。血管造影検査の結果,門脈圧亢進から形成されたストーマ静脈瘤の破綻が出血の原因と考えられた。脾臓摘出術を施行したところストーマ静脈瘤は縮小し,再出血は認められなかった。オキサリプラチンにより肝類洞障害が生じ,脾腫,静脈瘤など各種門脈圧亢進症状を来すことが知られている。ストーマ造設症例に対してオキサリプラチンを含む化学療法を施行する際には,ストーマ静脈瘤への留意が重要と考えられた。 -
化学療法により脱分化したと考えられるSquamous Cell Carcinoma with Adenocarcinoma Component の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例: 進行食道癌(高分化平上皮癌)の69歳,男性。術前化学療法2 コース後にCR と判定した。患者は化学療法の継続を希望し,計5 コースを行った。その後,局所に再燃を認め食道亜全摘術を行った。手術標本では,低分化平上皮癌と管状型腺癌で構成されたsquamous cell carcinoma with adenocarcinoma component を確認した。術後2 か月目に肝転移がみられ,docetaxel療法を行ったが効果はなく癌性胸膜炎により死亡した(全生存期間21 か月)。本症例は,高分化平上皮癌が化学療法後により腺癌を含む低分化平上皮癌に脱分化したと考えられた。 -
S-1単剤療法が著効した乳頭皮膚原発扁平上皮癌の1 例
41巻7号(2014);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。10 年前より自覚していた右乳頭の肉芽様腫瘤が急速に増大し当院を受診した。初診時より右乳頭に4 cm 大の腫瘍を認め,生検で平上皮癌と診断された。右腋窩にリンパ節転移を認めたため,術前全身療法の適応と判断しS-1 単剤療法(4 週間投与2 週間休薬)による全身化学療法を2 コース行ったところ,腫瘍および転移リンパ節は著明に縮小した。その後,根治手術を行い得て術後経過は良好である。乳房に発症する平上皮癌は比較的まれで,乳頭皮膚より発生する平上皮癌に関しては非常にまれであり,化学療法の効果について定まった見解は存在しない。今回われわれは,S-1 単剤投与で著効のみられた乳頭皮膚原発平上皮癌を経験したため文献的考察を加えて報告する。
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