癌と化学療法
Volume 41, Issue 8, 2014
Volumes & issues:
-
総説
-
-
抗がん薬被曝対策―新しい知見を基に―
41巻8号(2014);View Description Hide Description患者に薬を投与する医療従事者の薬品被曝については,これまでほとんど関心が払われてきていない。すべての薬は患者だけでなく,医療従事者にも害をもたらす可能性をもっている。また,非常に低濃度であっても,取り扱う際や周辺で作業をする医療従事者に健康被害をもたらす薬があることもわかっている。さらに,安全対策を行っていたにもかかわらず,危険な薬品を取り扱ったり投与したりする医療従事者の尿から少量の薬品が検知されており,また取扱いガイドラインに沿っていても周辺汚染が起こり得るということが,患者の世話を行う周辺の調査で報告されている。日本病院薬剤師会の学術第7 小委員会は,「抗がん薬安全取り扱いに関する指針の作成に向けた調査・研究」を策定した。このガイドラインは,危険な薬の取り扱い方法をまとめたものとして確立されてはいるが,いくつかの汚染調査報告では遵守が難しいとの指摘もある。最近,薬物製剤時の周辺汚染を低減するための,クローズドシステム装置が上市された。しかし,クローズドシステムは高額であること,アンプルのようにデバイスが使用できない製品があることから十分に普及していない。さらに,その危険性薬物を不活性化させるという意識がないのも原因である。つまり,汚染された表面を清潔に保つだけではなく,抗がん薬による周辺汚染を防ぐ努力が重要である。
-
-
特集
-
- 固形がん薬物療法における維持療法の最新の知見
-
進行非小細胞肺癌に対する維持療法
41巻8号(2014);View Description Hide Description近年,進行非小細胞肺癌に対する新しい治療戦略として,プラチナ併用化学療法による導入療法を4 コース施行後,引き続きプラチナ製剤以外の化学療法を増悪が確認されるまで継続する維持療法が注目されている。維持療法は大きく二つに分けられ,導入療法で使用した薬剤とは別の薬剤に切り替えて投与する切替維持療法と,導入療法で使用した薬剤の一部を継続して投与する継続維持療法がある。これまでの臨床試験の結果,切替維持療法はペメトレキセドとエルロチニブ,継続維持療法はペメトレキセドで,プラセボと比較して全生存期間の延長が報告されており,進行非小細胞肺癌に対する維持療法は標準治療の一部としての位置を確立しつつある。今後,維持療法の実施がより有益となる患者集団の選択についてのさらなる検討が望まれる。 -
大腸がんの維持化学療法について
41巻8号(2014);View Description Hide Description切除不能・進行大腸がん患者に対する化学療法施行における維持療法に関して,その有効性を検討したいくつかの臨床試験の結果が報告された。進行・再発大腸がんでは転移巣に対する切除の適応の可能性が少ない患者群には対しては,強力な化学療法は適応とならず,有害事象によるQOL 低下を回避し腫瘍コントロールしていくことが肝要である。このような患者群に対しては,本邦では一次治療としてFOLFOX 療法にベバシズマブを加えた併用療法が施行されることが多い。しかし一次治療が有効であっても,末Ë神経障害や手足症候群などが6 サイクル前後から出現することが多い。CAIRO3試験を含むいくつかの臨床試験にて,殺細胞性抗がん剤とベバシズマブの併用療法,ベバシズマブ単剤の維持療法としての有効性が示された。また,一次療法施行中に病状進行(PD)となった後にベバシズマブを継続して使用するbevacizumabbeyond progression(BBP)の有効性についてはML18147試験で示された。以上より,ベバシズマブを中心とする維持,継続投与の有効性がある程度示されたものの,殺細胞性抗がん剤単剤とベバシズマブ単剤の維持療法としての有効性の比較検討は行われていない。また,どのような患者を選び,どの殺細胞性抗がん剤との組み合わせが有効なのかは未だ検討の余地がある。 -
進行卵巣がんにおける維持療法―分子標的薬の立場より―
41巻8号(2014);View Description Hide Description上皮性卵巣がんでは,初回手術後のadjuvant chemotherapyとしての標準化学療法はタキサン系+プラチナ系薬物の2 剤併用療法(TC 療法)であるが,stage Ⅰ,Ⅱの早期がんは初回化学療法のみでのOSは70〜80%と高いが,stage Ⅲ,Ⅳの進行がんでは完全寛解をしても再発率が80%以上と高く,5 年生存率55%,10 年生存率が5〜7%にとどまる。その治療戦略として,抗がん薬の追加併用,抗がん薬のdrug delivery system(DDS)の変更,放射線や放射性物質の投与(米国),分子標的薬との併用,バイオマーカーの探索による治療薬の選定(テーラーメイド医療)などが考えられるが,本稿では血管新生阻害薬などを主とした分子標的薬などでの維持療法の現状と展望について解説する。
-
Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌 肺癌検診
-
-
-
原著
-
-
p-StageⅡ,Ⅲ胃癌に対する術後補助化学療法の現状と問題点
41巻8号(2014);View Description Hide DescriptionACTS-GC の結果から,p-Stage Ⅱ,Ⅲ胃癌に対してはS-1 による術後補助化学療法が標準治療となった。2007 年1月〜2012 年6 月までにおけるp-Stage Ⅱ,Ⅲ胃癌47 例の術後補助化学療法の現状を後方視的に検討した。高次救急機能を有する地方大学病院が当院の特徴である。術後S-1 による術後補助化学療法を施行されたのは32 例(投与群,68.1%)であった。そのうち1 年間のS-1内服を完遂できたのは22 例(68.8%)で,Grade 3 の有害事象を8 例(25.0%)に認めた。S-1の休薬,減量,投与スケジュールの変更を行った症例は9 例(28.1%)であった。S-1 を投与されなかったのは15 例(非投与群,31.9%)で,その理由としては併存症,年齢によるものが12 例(80.0%)と最も多かった。S-1 投与群とS-1非投与群での3 年生存率はそれぞれ89.3%,77.1%であった。S-1 投与群はACTS-GCの結果同様,完遂率,遠隔成績ともに良好であった。しかしながら,併存症や高齢を理由にS-1 治療が行われなかった症例,術後S-1 を導入したものの治療完遂できなかった症例を合わせると25 例(53.2%)で十分な術後補助化学療法が行われたとはいえず,今後はこれらの症例に対する補助化学療法の確立が急務である。 -
Efficacy of High-Dose Toremifene Therapy in Postmenopausal Patients with Metastatic Breast Cancer Resistant to Aromatase Inhibitors:A Retrospective, Single-Institution Study
41巻8号(2014);View Description Hide Description背景:閉経後進行・再発乳癌のうちホルモン感受性乳癌においては一次治療におけるアロマターゼ阻害薬の有効性が確立しているが,二次治療以降における内分泌療法薬の使用方法は定まっていない。今回われわれは,アロマターゼ阻害薬耐性後の閉経後進行・再発乳癌に対する高用量toremifene 療法(HD-TOR)の臨床効果を検討した。患者・背景: 2001 年5月〜2011年10月までにHD-TOR を導入した進行・再発乳癌85 例をレトロスペクティブに検討した。TOR は1 日1 回120mgを連日内服させた。結果:効率21.2%,clinical benefit(CBR)41.2%,time to treatment failure(TTF)中央値は7.3 か月であった。臨床病理学的因子との関連においては,ER 陽性(p=0.045),内臓転移なし(p=0.037),二次治療までの使用(p=0.007),tamoxifen(TAM)治療歴なし(p=0.019)および化学療法施行歴なし(p=0.017)で有意にCBR が高く,多変量解析ではER 陽性(p=0.005,オッズ比0.064),内臓転移なし(p=0.034,オッズ比0.323)が独立した効果予測因子であった。また,TTF においてはER 陽性(p=0.019),TAM治療歴なし(p=0.015)で有意差を認め,多変量解析の結果ER 陽性(p=0.025,ハザード比0.377),TAM治療歴なし(p=0.002,ハザード比0.422)であり,ともに独立した効果予測因子であった。有害事象によりHD-TOR を中止した症例はなかった。結語: HD-TORは閉経後進行・再発乳癌におけるアロマターゼ阻害薬耐性後の内分泌療法として有効である。 -
非小細胞肺癌切除例の再発パターンの検討
41巻8号(2014);View Description Hide Description目的: 非小細胞肺癌の術後再発症例を検討し,再発の発見動機,発見時期や再発様式などの再発パターンを把握すること。方法: 当院での非小細胞肺癌の完全切除後の再発症例を対象とし,調査した。結果:対象症例は15 例であった。再発発見動機に関しては,腫瘍マーカーの上昇がきっかけであったものが約半数を占めた。再発時期に関しては,60%が2 年以内の再発であった。一方,20%の症例は5 年以降に再発していた。初発の再発様式は,局所再発9 例,肺転移再発5 例,胸腔外への遠隔転移が3 例であった。結論:腫瘍マーカーが再発の診断補助として有効である可能性と,経過観察に際しては術後早期の遠隔転移と5 年目以降の再発に対して留意することの重要性が示唆された。 -
Rituximab初回投与時におけるInfusion Reaction発現に影響を与える因子の解明
41巻8号(2014);View Description Hide Description2010 年2 月〜2013 年3 月の期間に岐阜市民病院血液内科でB 細胞性非ホジキンリンパ腫に対し,新規にrituximabが投与された患者を対象として,rituximab初回投与時のinfusion reaction発現に影響を与える因子に関する検討を行った。対象患者51症例における年齢の中央値は72(44〜87)歳,性別は男性31 名,女性20 名であった。infusion reaction発現を,治療後24 時間以内の最高体温と治療前平均体温との差(D 体温)を指標として,D 体温と各因子との相関ならびに因子を2群に分けた場合の2 群間の差を対応のないt 検定により評価した。可溶性IL-2 レセプター(sIL-2R)の「2,000 U/mL以下群」と「2,000 U/mL超群」の2 群間では有意な差を認めた(p=0.014)。乳酸脱水素酵素(LDH)は,基準値(211 IU/L)の「2 倍値以下群」と「2倍値超群」の2 群間では有意な差を認めた(p=0.017)。ヘモグロビン(Hb)は,基準値(男性: 13g/dL,女性: 12 g/dL)の「下限以下群」と「下限超群」の2 群間では有意な差を認めた(p=0.020)。結論としてsIL-2R,LDH,Hbの値は,B 細胞性非ホジキンリンパ腫に対するrituximab初回投与時のinfusion reaction発症の予測因子になり得ることが示唆された。 -
悪性腫瘍患者における皮下埋め込み型中心静脈ポート(CV ポート)管理―消毒剤の種類による関連感染症への影響調査―
41巻8号(2014);View Description Hide Descriptionがん化学療法において汎用される皮下埋め込み型中心静脈ポート(CV ポート)を日常管理する際の消毒剤については,これまでポビドンヨードが使用されていたが,これを1%クロルヘキシジンエタノールあるいは消毒用エタノールに切り替えた場合のカテーテル関連血流感染の発現率を前向きに調査した。対象は新たにCV ポートを造設する悪性腫瘍患者で,研究への同意を文書で得られた症例である。これら患者の化学療法施行時においてHuber 針刺入時の皮膚消毒を10%ポビドンヨードから1%クロルヘキシジンエタノールおよび消毒用エタノールに順次切り替えた際のCV ポートに関連した感染を,造設1,2 週後,以後2 週ごとに観察した。1%クロルヘキシジンエタノール群(62 例)および消毒用エタノール群(51例)におけるCV ポートに関連した感染による抜去は,それぞれ3 例(4.8%)および2 例(3.3%)において認め,CV ポート使用1,000日当たりの感染率は,それぞれ1.48%および1.01%であった。1%クロルヘキシジンエタノールおよび消毒用エタノールを用いた消毒は,自施設において10%ポビドンヨードによる消毒を行った先行研究(赤羽ら,2012)の感染率[59例中3 例(5.1%);使用1,000 日当たりの感染率; 1.4%]と統計的有意差を認めず,同等であると思われた。また,1%クロルヘキシジンエタノールや消毒用エタノールは10%ポビドンヨードでの消毒に比べ,乾燥が早く脱色の必要がないなど利便性が高く,CVポートを日常管理する際の消毒剤については,これら消毒剤が有用であると思われた。
-
-
調査研究
-
-
がん患者の痛みが健康関連Quality of Lifeに及ぼす影響に関する検討
41巻8号(2014);View Description Hide Description目的:がん患者の痛みが日常生活のどのような状態に影響を及ぼしているかを明らかにし,HRQOL 向上を目的としたインターネット調査を行った。対象・方法:がん患者618 名を対象に,痛みの程度によって,痛みがない(NRS 0)をA群,痛みがNRS 1-3をB群,痛みがNRS≧4 をC 群と分類した。HRQOL および痛みの評価にはQLQ-C30 およびBPI-SF を用いて,調査開始 1 週間および 24 時間における痛みと日常生活の影響について検討を行った。結果: A 群/B 群と比べ C 群では有意に全般的QOL および機能スケールの低下を認め,m怠感,呼吸困難,睡眠障害,経済的困難などの症状スケールにも影響を及ぼしていることが示唆された。1 か月以内に痛みのあった群との比較では,24時間以内に痛みのあった群で有意に全般的QOL,機能・症状スケールが低下することが示唆された。さらには,痛みを有する患者ではがん医療に対するサービスの満足度が有意に低いことが明らかとなった。結語:がん患者に対する問診では,痛みの強度および時期に注目し,さらにm怠感,睡眠障害,呼吸困難,気分・情緒にも注意して診療に当たる必要があると思われた。
-
-
症例
-
-
腹腔鏡下生検にて診断し加療した腹膜悪性中皮腫の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は66 歳,女性。原因不明の大量腹水で紹介となった。アスベスト被曝歴があったため腹膜中皮腫を疑い,診断目的に腹腔鏡検査を施行した。腹膜結節および肥厚した腹膜・大網を腹腔鏡下に生検し,病理所見と免疫染色によって腹膜悪性中皮腫と診断した。術後早期のpemetrexed+carboplatin併用療法により,腹水コントロール良好となった。腹膜悪性中皮腫の診断に腹腔鏡下生検が有用であり,早期の化学療法導入が可能であった。 -
術前化学療法施行中にCDDP が原因と考えられるSIADH を発症した食道癌の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。嚥下時つかえ感を主訴に受診し,食道癌(SCC,StageⅡ)の診断にて術前化学療法目的に入院した。入院後,CDDP,5-FU にて加療した。加療開始後5 日目に軽度の見当識障害を認め,6 日目早朝に意識障害を認めた。採血にて血清Na 111 mEq/L,血清Cl 73 mEq/L と著明な低下を認めた。同時に施行した頭部CT,MRIでは異常所見は認められなかった。他に血漿バゾプレシン 19.2 pg/mL,血漿浸透圧 219 mOsm/kg,尿浸透圧 665 mOsm/kg,尿中 Na157.1 mEq/L,血清Cr 0.61 mg/dL,血清コルチゾール27.1 mg/dLであり,かつ脱水の所見を認めずSIADHの診断基準を満たしていた。化学療法を中止し,水分制限と塩分補給にて加療した。加療後,徐々に意識障害は改善し,5 日目には血清Na 138 mEq/L,血清Cl 98 mEq/L と低 Na 血症の改善が認められた。 -
切除不能進行胃癌に対しDocetaxel/S-1による術前化学療法が著効した胃癌の1 切除例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。cT3N2M0,cStage ⅢBの術前診断で初回手術を施行したが,開腹所見で2 群リンパ節腫脹,膵浸潤著明にてsStageⅣと判定し,単開腹にとどめた。術後 down staging目的に,外来でdocetaxel(DOC)/S-1 併用療法を5 コース施行した。投与方法は,DOC 40 mg/m 2day 1,S-1 80 mg/m2day 1〜14を1 コースとして3 週間ごとに繰り返す投与法を採用した。5 コース終了後の効果判定で部分奏効(PR)と判定し,治癒切除可能と判断した。第2 回目手術において胃全摘出術,横行結腸,脾臓合併切除を施行した。組織学的効果判定はGrade 2,壁深達度はT1(SM),総合的進行度fStageⅠA,総合的根治度Aであった。術後補助化学療法は行わず,術後6 年4か月経過した現在,無再発にて経過中である。DOC/S-1併用療法は,治癒切除が困難な進行胃癌の術前化学療法として有用と考える。 -
多発肝転移を伴う進行胃癌に術前TS-1/CDDP を投与し死亡まで7年CR であった1 剖検例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例: 82歳,男性。2011年,右肺の平上皮癌とその左大腿部への転移により永眠された。75 歳時,吐血で緊急入院し,内視鏡的に小弯側を中心に 2/3 周を占める 3 型胃癌と,CT で肝臓の多発転移を確認された。術前化学療法として TS-1/CDDP 併用療法を行い,病巣が縮小した時点で幽門側胃切除を行うとともに,肝転移腫瘍に対しては経皮的ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)が施行された。7 年経過後,肺癌で亡くなるまで胃癌についての再発はなくcompleteresponse(CR)であり,病理解剖においてもその再発はみられなかった。 -
SOX/Bevacizumab療法で改善した大腸癌骨髄癌腫症によるDICの1例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。多発肝転移を伴う上行結腸癌による大腸閉塞の診断で,結腸右半切除術を施行した。術後に著明な貧血と播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を合併し,骨髄穿刺の結果,大腸癌骨髄癌腫症と診断した。S-1+oxaliplatin(SOX)とbevacizumab(BV)を開始したところ改善し,退院することができた。6 コースを施行し耐性となったがregimen を変更することで再び改善し,292日の生存が得られた。 -
化学放射線治療が奏効し6 年生存中の膀胱瘻合併進行直腸癌非切除症例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は膀胱瘻を伴う進行直腸癌の60 歳,男性。化学放射線治療を希望されたためS-1(120 mg/body,月〜金投与,土日休薬)と放射線治療65 Gy を行い腫瘍は縮小,膀胱瘻は消失し組織診では癌を認めなかった。MRIでは大腸壁肥厚を認め腫瘍残存が懸念されたため追加治療としてmFOLFOX6 を行ったが,下肢のしびれが強く3 サイクルで中止し,S-1 の再投与となった。その後,CT,MRIでもCR となり,治療から6 年経過後の現在まで再発を認めない。 -
血清AFP,AFP-L3およびHCG 上昇を伴った胆囊癌の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Description患者は61 歳,女性。IgG4関連硬化性胆管炎にてプレドニゾロン5 mgで維持療法中であった。発熱により来院。総胆管結石・胆管炎と診断し,結石は内視鏡的に除去,胆管炎は改善した。その際のCT および超音波にて,胆囊壁肥厚と内腔の不明瞭化を認めた。血清a-fetoprotein(AFP),AFP-L3およびhuman chorionic gonadotropin(HCG)の著増を認めた。FDG-PET/CT では胆囊のみに取り込みを認めた。胆囊癌の疑いにて手術を予定したが,肝転移が出現。経皮的胆囊生検では中分化腺癌であった。免疫染色ではAFP陽性,HCG 陰性であった。しかし,臨床経過からはAFPおよびHCG 産生胆囊癌と考えられた。AFPおよびHCG 産生胆囊癌はまれであり,文献的考察を含めて報告する。 -
パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法によって切除可能となり局所コントロールし得た転移性乳癌の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。左乳房の腫瘤を主訴に受診。初診時,左乳房から腋窩にかけて潰瘍を伴う巨大な腫瘤を認めた。精査の結果,対側腋窩リンパ節・骨転移を伴うトリプルネガティブ乳癌と診断した。初期治療としてパクリタキセル(paclitaxel:PTX 80 mg/m 2)を1 回投与の後,PTX+ベバシズマブ(bevacizumab: Bev)(PTX 80 mg/m2 3 週投与1 週休薬,Bev 10 mg/kg,day 1,15 投与)を 4 コース施行した。PTX + Bev併用化学療法開始直後より腫瘍は融解・壊死し,短期間のうちに著明に縮小・消失し,左腋窩の欠損部潰瘍のみとなった。さらに,PTXのみ1 コース(3 週投与1 週休薬)施行し,局所コントロール目的に左乳房切除術(腋窩リンパ節サンプリング,大胸筋一部合併切除)を行った。術後経過は良好で,現在外来で経口抗癌剤による治療を継続している。PTX + Bev 併用療法が進行乳癌の局所コントロールに有用である可能性が示唆された。 -
再発を繰り返しながら長期生存している卵巣癌肉腫の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Description卵巣癌肉腫は卵巣悪性腫瘍の1〜4%とまれで,そのほとんどが進行癌であることより予後不良である。今回われわれは,3 回の再発を繰り返しながらも手術と化学療法にて13 年間生存(現在無病生存)している1 例を報告し,本疾患の臨床病理学的特徴に関してレビューした。症例:初回治療: 2000 年(63 歳),右卵巣癌肉腫(10×8×7 cm)に対しstaging laparotomyおよび可及的腹膜播種切除術を施行した(FIGO stage Ⅲc,pT3cN0M0)。paclitaxel+carboplatin(TC)療法を9 サイクル施行した。初回再発: 2005年,仙骨前面に再発(6 cm 大)したが,TC 療法6 サイクルで臨床的CR が得られた。2 回目再発: 2006年,同部位に再再発(6×7 cm)し,docetaxel+carboplatin(DC)療法を施行するもPD であったため,腫瘍摘出術(小腸,S 状結腸合併切除)を施行後,CPT-11療法を6 サイクル施行した。3 回目再発: 2013 年,右側腹部(肝腎間)に再発(7×8 cm)したため,TC 療法3 サイクル施行後(PR),腫瘍摘出術を施行した。病理学的所見: 初回手術:上皮性成分は漿液性腺癌,類内膜腺癌,低分化腺癌,ロゼット構造や平上皮への分化を示す極めて多彩な組織像を示し,非上皮性腫瘍は極めてわずかで平滑筋肉腫とされた(同所性)。2 回目手術:腺癌成分と非上皮性成分として平滑筋肉腫以外に異型を示す軟骨組織も認めた(異所性)。3 回目手術:腺癌成分と横紋筋肉腫成分が認められた(異所性)。3 回の病理所見からは2成分の存在が共通しており,さらに各々の成分にバリエーションがあったことから,組織発生に関しては,combination theory(単クローン説)が最も考えやすい。本症例が長期生存している理由として,① 初回手術がoptimal手術であったこと,② 再発が腹腔内単発で完全切除可能であったこと,③化学療法に比較的感受性を有していたことなどがあげられる。 -
左胸壁から発生した巨大脂肪肉腫の1 切除例
41巻8号(2014);View Description Hide Description患者は49 歳,女性。2013年初頭より左乳房腫大を自覚し,検診マンモグラフィで左乳房に異常を指摘され,精査し術前診断で分化型・粘液型脂肪肉腫とされた。手術は周囲健常組織(大胸筋の一部,乳腺の一部)を含めた広範囲切除を行った。腫瘍径14.2×17.8 cm,重量1,220 g であり,病理所見で脱分化型脂肪肉腫の診断であった。脱分化型では局所再発および血行転移が多いとされている。自験例は完全切除後2 か月間の再発徴候なく経過し,今後も慎重な経過観察を要する。脂肪肉腫の大部分は後腹膜,四肢に発生し,前胸壁に発生したものは本邦で19 例のみである。 -
Pazopanibが有効であった転移性横紋筋肉腫の1 例
41巻8号(2014);View Description Hide Descriptionpazopanib は経口マルチキナーゼ阻害薬であり,悪性軟部腫瘍に対する初めての分子標的治療薬である。横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma: RMS)は成人での発症は極めてまれであり,予後は不良で確立した標準治療はない。症例は57 歳,女性。左頸部腫脹を自覚し受診。CT 検査にて右腎臓から後腹膜領域にかけて造影不均一な腫瘤影を認め,右腎針生検にて胎児型RMSと診断された。VAC療法4 コース施行後,partial response(PR)が得られたが,骨髄抑制および発熱性好中球減少症のため同療法の減量および治療間隔の延長を要したため,二次療法として pazopanib 800 mg/day を開始した。肝機能障害,手足症候群,ù怠感および食欲不振のため400 mg/day まで減量を要したが,薬剤導入約 2.5 か月後にはPR が得られ,無増悪生存期間は約4.3 か月であった。
-