Volume 41,
Issue 11,
2014
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総説
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癌と化学療法 41巻11号, 1327-1332 (2014);
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癌診断・治療の基本となる癌取扱い規約は現在27 に及びわが国の癌医療の基盤として実臨床に役立っているが,2015年から始まる院内がん登録の法制化とともに医療の専門化,国際化によりUICC のTNM 分類との整合性など,改訂時期の不統一,規約間の用語の不適切定義の問題がでてきている。わが国の癌取扱い規約の長所を生かし,かつ国際化における問題点を克服するためには早急に個別に作成されていた癌取扱い規約の統一化が必要と考えられる。本稿では,癌取扱い規約と国際分類であるUICC およびAJCCとの関係を明らかにするとともに,今後この問題点を解決するための方法を提案したい。
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癌と化学療法 41巻11号, 1333-1339 (2014);
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遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)は,2013年に米国の女優がBRCA1 の遺伝子変異によりリスク低減乳房切除術(RRM)を受けたことを自ら公開したことから,わが国でも広く知られるようになった。HBOC はBRCA1あるいはBRCA2の病的変異に基づく乳癌,卵巣癌をはじめとする癌の易罹患性症候群である。HBOC の BRCA1/2遺伝学的検査に際して,わが国でも遺伝子の再構成(exon単位の欠失,重複)が認められるので,通常のPCR-direct sequenceで変異を認めない症例ではMLPA法も実施しておく必要がある。近年,BRCA1/2以外にも遺伝性乳癌の原因遺伝子が同定された。将来は遺伝性乳癌の原因遺伝子がさらに明らかになり,HBOC の遺伝子検査の内容や HBOC の概念は変わってくる可能性がある。BRCA1/2に変異を認めない場合,乳癌のみの家族歴であれば卵巣癌の発症リスクは高くないので,intensiveな婦人科検診の適応はないと考えられる。また,遺伝子検査実施例の約4〜6%で病的意義が不明なuncertain variantsを認める。日本人全体を対象としたHBOC に関する基礎データがないので,現在,日本HBOCコンソーシアムの登録事業によりわが国のHBOC のデータベースを作成して,日常の遺伝カウンセリングで有用な情報を提供できるように準備を進めている。リスク低減手術もわが国で徐々に認識が広まり実施されるようになってきた。リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)は癌の発症率の低下,生存率の改善ともにエビデンスが示されており,米国のガイドラインではBRCA1/2変異陽性者にRRSO を推奨している。一方,RRM は乳癌の発症リスクを下げるのは確実であるが,これまで生存率を改善しているデータは乏しかった。しかし最近,乳癌と反対側の乳房を切除することが生存率の改善に寄与しているというデータが示されている。
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特集
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癌に対するロボット手術の現況
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癌と化学療法 41巻11号, 1340-1348 (2014);
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外科治療において身体的負担が少ない腹腔鏡手術やロボット支援手術といった低侵襲手術が,臨床の現場で導入され重要な位置を占めるようになった。これら低侵襲手術のなかで,ロボット支援根治的前立腺摘除術(robot-assisted radicalprostatectomy: RARP)は比較的新しい治療方法である。しかし,技術習得におけるlearning curve が短いという利点のため,日本においてもわれわれが2006 年に導入して以来RARP の普及は目覚ましく,本手術がごく一般的な手術の一つとして泌尿器科医に受け入れられるようになった。ロボット手術の特徴である拡大立体視野と自由度の高い鉗子操作により,従来の手術では困難を伴っていた手術手技が正確にかつ容易にできるようになった。このため,RARP は他の術式と比べ出血量や輸血率,周術期合併症は有意に低く,尿禁制率や勃起機能の温存率は有意に高いと考えられている。本稿では根治的前立腺摘除術に関する最新の報告をまとめ,手術時間,出血量,術後機能温存率,外科切除断端,生化学的再発,learning curveの観点からRARPの現状について概説する。
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癌と化学療法 41巻11号, 1349-1353 (2014);
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手術支援ロボットの普及が進むなかで呼吸器外科領域における有用性の検証が求められている。ロボット手術の最大の利点は,三次元視野下に関節を有する自由度の高い鉗子を用いて巧みな手術操作ができるところである。これらの利点は胸腔鏡手術の弱点を補い,複雑な手術を容易にし,精緻な手術を可能にしてくれる。肺癌に対するロボット手術は現在までのところ初期成績は安全に導入され,有用な結果が示されている。未だ臨床研究の段階ではあるが,肺門剝離操作,リンパ節郭清,肺や気管支の縫合操作に有用性の期待がかかる。肺癌に対するロボット手術は,胸腔鏡手術の低侵襲性と開胸手術の操作性を兼ね備えた魅力を有すると考えられるが,胸腔鏡手術を凌駕するエビデンスは未だ明らかにされていない。安全性,教育,多大なコストも大きな問題である。今後は技術の向上とともにロボット手術の有用性を示すデータが蓄積されていくだろう。現在,先進医療,保険収載に向けての準備が急がれている。
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癌と化学療法 41巻11号, 1354-1357 (2014);
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ロボット手術は,子宮体がんや子宮頸癌などの子宮悪性腫瘍に対して有用性が高いと考えられる。これは,ロボット手術が深くて狭い骨盤腔の手術操作や,血管周囲のリンパ節郭清に必要な正確で繊細な鉗子の動きを可能にすることに他ならない。われわれの経験でも,子宮体がんおよび子宮頸癌の症例において著明な出血量の減量と入院日数の短縮が認められた。本邦における婦人科悪性腫瘍に対するロボット手術の現状は,米国に比べ大きく遅れをとっているのは否めない。今後,世界の趨勢に乗り遅れないためにも子宮悪性腫瘍に対する普及の拡大が望まれる。このためには,先進医療そして保険収載を見据えた症例の蓄積が必要であろう。
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癌と化学療法 41巻11号, 1358-1361 (2014);
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ロボット支援手術の歴史は浅く,当初戦場や無医村における遠隔手術を目的として開発され,1997 年3 月より臨床応用が始まった。本邦では2009 年11 月に内視鏡手術支援ロボットda Vinci S HD Surgical System(Intuitive Surgical, Inc.,Sunnyvale, CA, USA)が薬事法承認され,2012年4月から前立腺全摘術に対するロボット加算が保険収載された。2014年2月現在,国内のda Vinci保有台数は161台となり,本邦は世界第2 位のロボット保有国となっている。当科では2009 年からda Vinci S HD Surgical Systemを臨床導入し,上部消化管外科領域の悪性疾患に対して積極的に使用してきた。本稿では,その臨床経験を基に,胃癌に対するロボット支援手術の現状と展望について概説する。
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癌と化学療法 41巻11号, 1362-1365 (2014);
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手術支援ロボットdaVinci®surgical systemの登場により,大腸癌領域においてもロボット手術が普及してきており,腹腔鏡手術とロボット手術を比較してその安全性や有用性が報告されている。直腸癌に対する手術は腫瘍の進行度に応じて癌の根治性と機能温存とを両立させることが重要である。直腸癌手術におけるロボット手術の長所は,① 術者がコントロールする安定したカメラワークと術野展開,② 骨盤内の限られたスペースでも多関節鉗子により繊細で自由な操作ができること,③ 直感的な操作により,操作性が悪く難易度の高い骨盤深部でも簡単に手術ができることである。これらの長所により開腹手術,腹腔鏡手術以上に,直腸癌に対する根治性を担保しつつ,より繊細に神経温存を行うことで生殖排尿機能を温存し,より少ない出血量の手術ができると考えている。ロボット手術を保険診療として,より多くの患者に提供するためには安全性と有用性とのエビデンスの構築が必要である。
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原著
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癌と化学療法 41巻11号, 1387-1390 (2014);
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oxaliplatin(L-OHP)は大腸がん治療のキードラッグであるが,用量制限毒性として末;神経障害が問題となる。そこで岩手医科大学附属病院(当院)では,pregabalin,duloxetineおよびoxycodoneを段階的に使用する治療アルゴリズムを用いてL-OHPによる末;神経障害の軽減を試みたので報告する。大腸がん患者27 例を対象とし,各段階における自覚症状の改善度および副作用の評価から治療アルゴリズムの有用性と安全性について検討した。治療アルゴリズムの概要は,第一段階(pregabalin),第二段階(duloxetine),第三段階(oxycodone)に設定し,4 週間の効果判定期間により効果が得られない場合あるいは副作用により服薬を継続できない場合は次の段階へ移行することとした。各段階の奏効率(軽減を認めた患者/対象患者)は,第一段階33%(9/27),第二段階33%(6/18),第三段階が17%(1/6)であり,治療アルゴリズム全体の奏効率は59%(16/27)であった。副作用については,第一段階37%(10/27),第二段階33%(6/18),第三段階が83%(5/6)で認められ,特に傾眠が多かった。L-OHP による末;神経障害の対策として,われわれの作成した治療アルゴリズムが有用である。しかし,副作用には十分注意して使用すべきであると思われた。
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癌と化学療法 41巻11号, 1391-1395 (2014);
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癌骨転移に対する抗RANKL抗体であるデノスマブは,その有効性,皮下投与製剤という利便性により,QOLの向上が期待されている。一方,投与時には低カルシウム血症の発現に注意が必要だが,その予防・対処法についてのエビデンスは限定的であった。当院では多職種からなるプロジェクトチームを発足させ,血清カルシウム値のモニタリング時期および頻度,カルシウムおよびビタミンD 製剤の補充方法について検討し,共通のマニュアルを作成した。そのマニュアル作成前後での低カルシウム血症の発現状況を調査した。結果として,マニュアル作成前は2 例にGrade 3 の低カルシウム血症が認められたが,作成後はGrade 3 の副作用はみられなかった。マニュアルによる副作用対策を開始し早期に対処することにより,早期発見の重篤な低カルシウム血症を回避できたと考える。
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癌と化学療法 41巻11号, 1397-1400 (2014);
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純粋なオキシコドン注射製剤(商品名オキファスト,オキシコドン注と略す)の販売により,経口摂取ができなくなった患者に対してオキシコドンの投与を継続することが可能となり,結果的にオピオイドローテーションを行う必要がなくなった。これはたいへん有意義な進歩といえるが,オキシコドン注の使用報告が少なく,臨床的な検討が必要と考えられる。今回われわれは,オキシコドン注を在宅で使用したがん末期患者31 例を対象にオキシコドン注の臨床的意義,問題点などを検討したので,その結果を報告する。オキシコドン注の使用やオキシコドン注への変更理由は主に内服困難であり,オキシコドン注の投与日数は平均で5.6±6.7(1〜35)日であった。オキシコドン注の変更により,5 例中の1 例で眠気の悪化を認めた。また,オキシコドン注から開始した場合に使用前の状態と比べて症状の改善が認められなかったのは,呼吸苦を認めていた6 例のうち1 例のみであった。投与期間が短く,評価が困難な場合も少なくなかった。皮膚障害は31 例中5 例(16.1%)にみられたが,刺入部を変更することで対応可能であった。なお,5 例中の2 例では,皮膚がアルコールにてかぶれやすいという既往があった。皮膚障害のさらなる検討や高濃度注射製剤の必要性が示唆されたが,オキシコドン注の持続皮下投与は有用であると考えられた。
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癌と化学療法 41巻11号, 1401-1405 (2014);
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フェンタニルパッチは他のオピオイドから切り替えで使用する薬剤であるため,フェンタニルパッチからのオピオイド導入についての報告はほとんどない。しかしながら,通過障害を有する消化器がん患者に対しオピオイド導入から使用する症例が散見される。本研究では,経口オキシコドンを投与した症例を対照群として,消化器がん患者にフェンタニルパッチをオピオイド導入から使用した12 症例について有効性,副作用の発現状況を後方視的に検討した。副作用として嘔気25%,眠気41.7%,便秘8.3%を認めたが,重篤な副作用はなく経口オキシコドン群とも有意な差を認めなかった。さらにnumerical rating scale を用いた評価で(0: 疼痛なし,10:最悪の痛みの11 段階評価),導入時5.42 と比べ3 日後3.33(p=0.0377)と7 日後2.67(p=0.0089)で疼痛は有意に改善し,また経口オキシコドン群と鎮痛効果に有意な差を認めなかった。本研究結果から,通過障害を有する消化器がん患者に対して,フェンタニルパッチはオピオイド導入薬の選択肢として有用である可能性が示唆された。
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癌と化学療法 41巻11号, 1407-1412 (2014);
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がん化学療法で生じる口腔粘膜炎の支持療法薬は確立されていない。2007 年9 月〜2008 年8 月にFEC100 療法を施行した乳癌患者91 例の,口腔粘膜炎のGrade変化をretrospectiveに調査した。当院では,rebamipide製剤(ムコスタ®)の粘膜保護作用に期待し,口腔粘膜炎発症次コース以降にrebamipide の連日投与を試行しており,その効果を中心に検討した。年齢中央値55(32〜76)歳,FEC4 コース中43 例(47%)に口腔粘膜炎を認めた。対象の91 例は,FEC4 コース中rebamipide非投与のA群49 例,FEC 開始前からrebamipideを投与されたB群14 例,口腔粘膜炎発症後rebamipideを投与したC 群28 例に分類された。口腔粘膜炎発症率はrebamipide 投与の有無をFEC 開始時点で区切り検討し,B 群5 例(36%),A+C 群38 例(49%)であった(p=0.3472)。GradeはB群(G1; 4 例,G2; 1 例),A+C 群(G1; 20 例,G2+G3; 18例)であった(p=0.2467)。C 群は25 例(89%)で次コースのGrade低下,17 例(61%)で発症なく(G0),15 例(54%)で最終コースまで継続して口腔粘膜炎の発症を認めなかった。これらの結果から,rebamipideの治療効果がうかがえた。有意差は認めなかったが,rebamipideで口腔粘膜炎の発症予防や症状軽減を図れる可能性があり,新たな支持療法薬として期待できそうである。口腔粘膜炎に対しては,口腔ケアを基本に多職種によるチーム介入と同時に,今後rebamipideの予防効果に関して前向きランダム化試験を行い,検証を進めたい。
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薬事
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癌と化学療法 41巻11号, 1413-1416 (2014);
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口内炎は痛みを伴うため,リドカインうがい液が食事前に使用される。しかし,リドカインは神経の活動電位の伝導を抑制することから,味覚にも影響することが考えられる。そこで,うがい液が味覚に与える影響について検討を行った。5 基本味について,味の上で等間隔となる濃度段階に調整した試料を作製した。試料が「味」を感じるか否かを判断する官能試験を行い,その判断率から閾値を推定した。リドカインうがい液でうがいをした後,同様の官能試験を行い,効力比を算定した。ロジスティック回帰分析を行うと,「うがい」と「濃度」の間に交互作用はみられなかったが,濃度,旨味,苦味の各水準の主効果において有意差がみられた。効力比を算定すると,旨味と苦味で閾値の上昇がみられた。リドカインによる閾値の上昇は薬理作用によるものではなく,リドカインの強い苦味の影響であることが考えられた。
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症例
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癌と化学療法 41巻11号, 1417-1419 (2014);
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症例は77 歳,女性。胃癌に対して胃切除術を行った。洗浄細胞診陽性および腹膜播種陽性であったため,術後4週投与2 週休薬の予定でS-1内服を開始した。好中球減少を認めたため1 週投与1 週休薬に変更したところ,その後は副作用を認めなかった。現在術後4 年を経過し,再発なく外来通院中である。腹膜播種を有する高齢者胃癌に対してS-1 単独療法が有効であった1 例を経験した。
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癌と化学療法 41巻11号, 1421-1424 (2014);
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症例は77 歳,女性。胃体下部大弯の2 型進行胃癌を指摘され,精査にて多発肝転移および腹膜播種を認めた。生検にてHER2 IHC 3+であったため,capecitabine+CDDP+trastuzumab による化学療法を行った。CT 上肝転移と腹膜播種は消失し,その後の化学療法継続にても新規病変は出現しなかったため計10 コースの化学療法後,幽門側胃切除術,2 か所の肝部分切除術を行った。術後診断はypT3(SS)N0M1P0CY0H1,ypStageⅣであり,組織学的効果判定はGrade 1a,切除した原発巣・肝転移巣ともにHER2 IHC 2+であった。術後はcapecitabine+trastuzumabによる化学療法を継続しており,術後2 年間無再発生存中である。conversion surgeryの重要性ならびに術後化学療法としてもtrastuzumabの有効性を示唆する症例と考えられたため報告する。
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癌と化学療法 41巻11号, 1425-1428 (2014);
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症例は65 歳,女性。便秘を主訴に当院を紹介受診。精査の結果,進行盲腸癌の診断で2009 年1 月に腹腔鏡下右半結腸切除術(D3 郭清)を施行した。病理組織診断はtub2,A,type 2,pSS,pN3,cM0,ly3,v2,Stage Ⅲb,Cur Aであった。術後補助療法としてUFT/LV(6か月間)を施行した。2010 年 6 月に腫瘍マーカーの上昇を認め,PET/CT 検査を施行した。FDG の集積をVirchowリンパ節(SUVmax 3.6)と大動脈周囲リンパ節(SUVmax 8.2)に認め,リンパ節転移と診断した。その後XELOX+bevacizumab(Bmab)療法を10 コース施行し,腫瘍マーカーは速やかに正常化した。また,CT検査ではリンパ節は縮小し痕跡を認める程度となった。化学療法中にgrade 3 の末ù神経障害を認めたためoxaliplatin を中止し,capecitabine+Bmab 療法をさらに 11 コース施行した。術後 2 年 10 か月の PET/CT 検査では,転移リンパ節へのFDG 集積は消失しCRと判断した。術後4 年10 か月経過しているが,約2 年にわたりCR を継続している。
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癌と化学療法 41巻11号, 1429-1432 (2014);
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症例は64 歳,男性。胃潰瘍加療中,右下肺野に塊状影を認めた。胸部CT にて右下葉に33×25 mm,右S3 に7 mm結節影,縦隔リンパ節腫脹を認めた。気管支鏡下生検にて腺癌と診断,cT4N2M0,cStage ⅢBとして,カルボプラチン,ペメトレキセド,ベバシズマブ投与を4 コース施行した。右下葉腫瘍は14×7 mm,右S3 結節は5 mmに縮小,縦隔リンパ節はほぼ消失した。ycT4N0M0,ycStage ⅢAと診断し,右下葉切除術,ND2a-2,右S3 部分切除術を施行した。病理診断にて,右下葉腫瘍は混合型腺癌でEf1b,右上葉結節は乳頭型腺癌でEf1a,多発癌と診断された。リンパ節に転移性癌細胞の遺残は認めなかった。
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癌と化学療法 41巻11号, 1433-1435 (2014);
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症例は59 歳,女性。両側乳房の腫瘤・発赤,労作時の呼吸困難を主訴に当科を受診した。両側胸水と肝転移を伴うStageⅣ乳癌[硬癌: ER(+),PgR(+),HER2(−)]と診断された。約5 年7か月の間に化学療法を3 レジメン,内分泌療法を5 レジメン施行した。fourth-lineの化学療法としてエリブリンの投与を開始し,両側胸水の減少と呼吸困難の改善を認めた。PDとなるまで約1年3か月外来投与を継続できた。エリブリンは,StageⅣ乳癌の治療において生存期間の延長とQOL の維持に寄与するものと思われた。
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癌と化学療法 41巻11号, 1437-1439 (2014);
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症例は40 歳,女性。腹部膨満感を主訴に近医受診し,画像検査で卵巣癌が疑われ当科受診となった。CT,MRIで壁在結節を伴う右卵巣腫瘍と腹膜播種,胸腹水を指摘され,胸水中に腺癌細胞を認めた。開腹時,20 cm 大の右卵巣腫瘍と子宮,直腸は強固に癒着しており,初回手術として両側付属器摘出術を行った。病理組織学的に卵巣明細胞腺癌Ⅳ期と診断し,術後化学療法としてTC+mTOR inhibitor(テムシロリムス)併用療法を6 サイクル施行した。テムシロリムスの投与中に病変の増大を認めたため,増悪と判断した。TC 療法終了後から5 か月での再発でプラチナ製剤抵抗性と判断し,塩酸イリノテカン(CPT-11)+パクリタキセル(PTX)療法を実施した。2 サイクルよりPR となり,奏効期間は7 か月で有害事象はGrade1 の疲労と悪心のみであった。卵巣明細胞腺癌のプラチナ製剤抵抗性再発症例に対しCPT-11+PTX 療法は,考慮すべきレジメンの一つと考えられた。
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癌と化学療法 41巻11号, 1441-1444 (2014);
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症例は35 歳,女性。健康診断にて胸部X 線写真での異常を指摘された。体幹部CT にて右第3 肋骨前方の胸腔内へ突出する25×5 mm の腫瘤を認めるとともに,椎体や腸骨にも多発性の溶骨性変化を認めた。PET-CT では右第3 肋骨にSUVmax 2.95の集積がみられ,さらに腰椎椎体にも結節状集積がみられた。骨以外に明らかな病変を認めず,胸部および腰椎MRI 所見も併せて多発性骨髄腫が疑われた。腸骨骨髄生検を行うとともに,血清蛋白電気泳動,尿免疫電気泳動を行い,Bence Jones型多発性骨髄腫の診断を得た。胸部異常陰影指摘を契機に診断に至った若年者多発性骨髄腫の1 例を経験した。まれな症例と考えられ報告する。
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癌と化学療法 41巻11号, 1445-1447 (2014);
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FOLFOX 療法は大腸癌に対する標準的治療レジメンの一つとされており,主な有害事象は末Ù神経障害,骨髄抑制などである。今回われわれは,直腸癌の術後補助療法としてmFOLFOX6 療法導入時,1 回の投与で乳酸アシドーシスと意識障害を来した1 例を経験したので報告する。症例は64 歳,男性。内服抗癌剤治療後,直腸癌に対して骨盤内臓全摘を施行。切除標本の病理診断結果から剝離面の腫瘍残存(pRM1)が疑われたため,2011 年5 月補助化学療法としてmFOLFOX6 療法を開始した。開始後吃逆と嘔吐が出現し,食事摂取が不可能となり,その後意識障害が出現した。血液検査では著明な乳酸アシドーシスを認めた(pH7.322,Lac 140.3 mg/dL)。画像検索では,頭蓋内には意識障害の原因となる病変は認められなかった。点滴によるアシドーシスの補正により,意識レベルは速やかに改善した。FOLFOX 療法による意識障害の原因として高アンモニア血症や可逆性後白質脳症などの報告は散見されるが,乳酸アシドーシスの報告はまれである。意識障害は本人や家族に及ぼす心理的影響が大きく,注意すべき有害事象と考える。