癌と化学療法
2014, 41巻Supplement Ⅰ
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特集 【第25回 日本在宅医療学会学術集会】
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急性期病院から地域へ
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description当院緩和ケアチームは2004年から活動を開始した。何度かのチーム編成を経てチーム活動は周知され活発になった。現在,当院の緩和ケアは入院患者から外来患者に広がっている。対象患者はがん末期が主であったが,近年は抗がん治療中患者となった。地域連携の点で,緩和ケアを担う医療者は定期的な緩和ケア研修会と勉強会をとおして良好な関係ができつつある。がん治療医の地域連携が課題である。教育機関として医学部生と前期研修医は開業医と中核病院で臨床実習や研修を行っている。しかし,研修機関は在宅支援診療所や在宅支援病院であることが少ない。実際,学生と研修医が在宅医療にかかわっているかが不透明である。当院の医療者に緩和ケアの知識は徐々に普及してきたが,医学部生,研修医,がん治療医の在宅医療の知識普及が課題である。また,在宅医療の経験や知識のある医師の育成が課題と考える。 -
術後超高齢者から在宅ケアの検討
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description高齢者の術後経過と廃用症候群による影響を明らかにするため,在宅療養期間と確定診断後の生存期間を検討した。在宅療養期間に注目すると,高齢者,後期高齢者では手術症例で在宅療養期間は長いが,超高齢者では手術症例の在宅療養期間が短くなっていた。外科医への信頼度が高まるため,在宅療養への移行が遅れるのかもしれない。早期の在宅移行が望まれる。生存期間において高齢者と後期高齢者で手術の効果を認めたが,超高齢者では手術症例群と保存的加療群で生存期間に差を認めず,手術による延命効果は少ないと思われた。さらに超高齢者では,手術をきっかけに寝たきりとなることも少なくない。近年は自宅での介護体制にも問題があるため,医療を受けることのできる福祉施設などの対策は必要であるが,地域包括ケアを視野に入れた保存的加療も選択肢の一つと考えられた。 -
終末期在宅療養患者へのバックアップベッド提供についての現状
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description当院は病床16 床の緩和ケア病棟を有しているが,一般病棟でも入院対応を行い,地域の在宅療養支援診療所と連携して緊急時のバックアップベッドを提供している。2012年1 月〜2013年12 月までの2 年間において,緩和ケア科の初診外来を受診された患者数は1,213例。初診の時点で25%に訪問診療が導入されていた。受診患者のうち59%が当院に入院となっているが,在宅医からの依頼で入院となったものが入院患者の20%を占めている。バックアップベッドが確実に存在するという安心感は,患者と患者家族および関連する医療機関への安心感となり,在宅療養継続を可能とすることができる。今後バックアップベッドの意義はさらに重要となると考えられる。 -
在宅医療推進に向けた滋賀県甲賀医療圏(甲賀市・湖南市)における地域連携の現状
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description在宅医療普及の必要性が発信されている。甲賀医療圏では在宅医療に関して現場における問題点を共有し,対策を考えるため様々な会合や研究会が発足し種々の活動が行われてきた。多くの会合は多職種による集まりであり,医師,歯科医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,栄養士,ケアマネージャー,介護老人福祉施設,行政などから多数の参加がある。各会合の発足は統一した動きではなく,まったく別個に発足した部分もあった。互いが主にかかわる疾患,特にがんと非がんについての理解と概念が異なるため協力が難しい面もあった。しかしながら,現場で動くメンバーは同じであり,疾患のいかんにかかわらず互いに協力するという方向で相談し活動することとなった。各職種内あるいは職種間の垣根が狭まり,互いの理解が深まったことは間違いない。会議を開くだけではなく,今後在宅医療協力に向けた具体策を掲げ実際に在宅医療を広め実践する時期にきている。 -
多職種連携を推進するためのリーダーシップ―がん末期の症例をとおして考える―
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description在宅医療は,病院と地域の多職種・他組織の連携が必須である。しかし,それぞれ専門性が異なり,使用する言語も異なり,業務構造も異なるので,連携の理想と現実のギャップに直面することがある。今回,乳がん末期の50 歳台,女性が自宅療養を希望され,在宅移行となった症例を報告する。患者は,中心静脈ルート(CV)より24 時間の持続点滴をし,疼痛管理にはPCAポンプを用いている。がん性疼痛の他,慢性呼吸不全もある。さらに2型糖尿病のため,インスリンを1 日4回投与している。日常生活はほぼ全介助である。このような入院相当の患者では,12多職種・他組織の連携が必要であり,患者・家族の生活背景を知るケアマネジャーのリーダーシップが不可欠である。 -
地域医療(診療所一般外来診療)における進行再発がん症例の家族ケア・グリーフケア
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description進行再発がん患者の家族・遺族に対する一般診療所外来における家族ケア・グリーフケア対応の実際・意義について,当院で経験した進行再発がん229症例を対象に検討を行った。進行再発がんの経過において医療者がかかわる期間は極めて限定的であるが,診療所では地域の医療機関として,患者本人の在宅療養支援のみならず,その家族・遺族に対しても長いスパンで様々なケアを提供することが可能であった。がん診療が日常化している今日,かかりつけ医による家族ケアも含めた役割が今後期待される。 -
がん治療中の退院,転院支援,調整を行う際,障壁となる問題―うつ状態の時,精神腫瘍医の立場から(第五報)―
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description多くのがん診療連携拠点病院に準じて当院でもがん相談支援センター,がん緩和ケアチームに多職種のスタッフを配置し,患者,後に遺族になる家族とshared decision makingを繰り返しながら,がん終末期になってもできるだけ在宅での生活をめざして対応中である。がん終末期になると患者本人の体力,気力の低下,周囲の身体的精神的疲労感,治療方法選択枠の縮小に伴い在宅ケアが困難になってくる。原因は多要因だが,患者がうつ状態に遷延しているのも誘因としてあげられる。今回,うつ状態になっても在宅を希望する患者にとって,孤立感をもたせないことがいちばん大事な在宅ケアであることを再認識させられる1例を経験したので報告する。 -
在宅医療者の一つの役割である外来化学療法患者・家族への意思決定支援
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description癌治療の早期から緩和ケアの介入が謳われているが,依然として普及していないのが現状である。バプテスト在宅ホスピス緩和ケアクリニック開院以来,化学療法施行中に紹介があり,実際に訪問診療を行った患者は16.1%であった。その患者において,訪問診療開始から死亡するまでの期間が2 か月以上であった割合は45.7%であった。われわれは患者・家族の思いを傾聴し,advance care planning(ACP)を施行しながらケアの方向性を決めている。その一つの役割として,化学療法終盤の治療中止の意思決定がある。治療効果が期待できないまま副作用が強いにもかかわらず,化学療法が施行されている患者も多く認められているなか,当クリニックは訪問診療・訪問看護の提供により,患者がその人らしく時間を過ごすことができるように努めている。 -
最期まで支えきった在宅医療―がん末期の症例をとおして考える―
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description在宅医療が進むなかで,患者の医療依存度が高くなるに伴って介護する家族の負担も大きくなっている。今回の症例では,家族は血糖値測定,インシュリン注射,輸液交換,各チューブの管理,医療機器の取り扱い,状態観察,緊急時連絡などの医療的な行為を支えていた。このように介護する家族は,本来看護師が行う業務を代行しており,また,毎日,自宅へ多職種が出入りしていることから大きなストレスになっている。医療知識・介護経験のない家族が本人の希望を叶えるために,多くの支援を必要としている。まずは医療者と介護者の信頼を構築することであり,その結果,多職種が一緒になって「患者を最期まで支えきる」ことができた。今回,がん末期の在宅医療について,家族・介護者の視点から報告する。 -
進行再発がんにおける視覚ツールを用いた医療情報の要約・共有の試み
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description進行再発がん症例では,複雑な病態や検査,治療歴などの情報を総合的に把握し,治療管理方針に反映することが求められる。当施設では外来や在宅でのがん診療や緩和ケアの提供に当たり,1) Edmonton Labeled Visual Information System(ELVIS)とデルマトーム併記シート,2) 予後を反映するパラメータをグラフ化し,1 枚のシートにまとめた病状推移説明サマリーの二つの視覚化ツールを利用している。これらの簡便なツールは,時系列で変化する医療情報の要約・レビューに有用で,外来や在宅の場でも活用可能である。また,施設間,患者・家族間の情報共有にも貢献し,cancer trajectoryについての相互理解につなげることが可能である。 -
IT を用いた認知症患者の服薬管理支援システム
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description服薬遵守は認知症治療の大きな軸であるが,その物忘れ症状により,在宅認知症患者は服薬コンプライアンスが低下しやすい対象と考えられる。そこでICT による効率的かつ効果的な在宅認知症患者の服薬管理を検討した。ICTは双方の姿や写真を共有できるため,貼付式抗認知症薬を処方された患者を対象とした。スカイプによる定期的な交信,服薬管理を行い,アンケートを用いて患者の情緒的変化などを抽出した。スカイプによる定期的介入により,服薬継続率,患者の主観的幸福度や自立度は上昇傾向となった。双方向性の定期的交信は患者や家族に安心感を与え,早急な医師の判断を仰ぐこともでき,ICTによる服薬管理支援の有用性が示唆された。このシステムがうまく機能すれば,大規模医療機関と在宅を直接結び付ける画期的ツールにもなることも期待でき,将来的には老老介護の家庭や独居高齢者を支援できるシステムに発展させていきたい。 -
認知症高齢者へのテレビ電話を用いた在宅音楽療法の介入
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description認知症高齢者に対する非薬物療法は様々に行われており,患者のQOL の向上や認知症の進行に伴い出現する心理・行動症状(behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD)の緩和に効果があると報告されている。われわれは非薬物療法のなかでも多数の効果が報告されている音楽療法に注目した。一般的に音楽療法は施設などで集団的に行われていることが多く,用いられている音楽も患者一人一人の好みや音楽能力を考慮して選定されているとは限らない。そこでわれわれは,患者の音楽の好みと音楽能力を考慮してオーダーメイドの音楽CD を作成し,そのCD を基にテレビ電話(Skype)を用いて,慣れ親しんだ在宅において音楽療法的介入を行った。テレビ電話を介して行う利点は,認知症の進行に伴い通所や集団での取り組みが困難な患者にも慣れ親しんだ自宅で介入を受けられる点があげられる。テレビ電話による介入の前後で笑顔度(スマイルスキャン)やBPSD(Behavior Pathology in Alzheimerʼs Disease: BEHAVE-AD)の数値に改善傾向がみられた。 -
病診連携のための往診電子カルテ導入後4 か月アンケートを行って
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description同じ法人の病院と診療所でカルテ内容を共有し連携をスムーズにするために,当院では2013 年10 月より往診電子カルテを導入した。SSL-VPN装置を導入し,院内の電子カルテ・ターミナルサーバー(仮想サーバー)にリモートデスクトップ接続する仕組みを構築した。モバイル端末,モバイルプリンターを使用した。導入後4 か月後に往診担当職員(医師,看護師,事務),往診担当以外の職員(医師,看護師,事務),その他,合計41 名へのアンケートを行った。往診担当医より「つながらない,操作性が悪い,トラブル時の対応が困難」,往診担当以外の医師より「紙よりも患者情報を迅速に得られた」との意見があった。今後の課題として端末の操作性を向上,トラブル時の対応向上がある。 -
在宅医療での看取り,療養に際してのShared Decision Makingの有用性の検討
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description2012 年11 月〜2013 年12 月までの死亡例65 例中,在宅看取りを行った40 例(男性21 例,女性19 例,平均年齢83歳)を抽出した。40 例中6 例はすでに家族が家庭看取りを決めており,残り34 例に対して在宅導入時や終末看取り時に臨床倫理学的対話を行った。しかし,34 例中6 例では,患者や家族の考え方と医療側の説明内容に大きな違いがみられ,臨床倫理学的対話だけでは対応困難であった。それらに対しては,両者の考え方の違いを克服するため,shared decision making 方式を取り入れて対応したところ,家族が主体的に家庭で看取りやケアを受け入れるようになり,shared decision making は有用な方法であった。 -
地域の多職種で作る「死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについてのマニュアル」
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description死亡診断の場面での医師の立ち居振る舞いは,その後の遺族の悲嘆に大きく影響を及ぼすと考えられる。死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについてのマニュアルを作成し,研修医や医学部生の教育に利用している。現在,これをアップグレードする目的で地域の多職種(訪問看護師,薬剤師)で共同研究を行っている。当地域の現場で在宅医療を行っている医師・看護師へマニュアル作成について,また実際の看取りの場面についてのインタビューを行った。試みに対してはおおむね高評価であり,インタビューに協力的であった。地域の多職種連携は様々な形で行うことができる。地域の多職種で共同研究を行うことで地域連携はより円滑になると思われ,この過程を経てできあがったマニュアルは同地域で受け入れられやすいと思われる。 -
在宅医療を続ける上で支障となりやすい認知症について―認知症になっても「死ぬまで在宅を」―
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description年々,高齢化率が高まりそれに伴い認知症患者は増え続けている。本邦における認知症患者の数は,最近の厚生労働省の調査によると2012年時点で約305万人おり,65歳以上人口の10%,70 歳以上15%,75 歳以上20%,85 歳以上になると40%に上るとの推計結果が公表された。認知症と呼ばれるものには,いちばん多いアルツハイマー病,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,脳梗塞や脳出血が原因となる脳血管性認知症がある。その他,認知症と間違いやすい病態として,甲状腺機能低下症,正常圧水頭症,また,うつ病でも認知機能は低下することがある。これらの疾患を簡単に判別できる方法が工夫されている1-7)。治療できるものも数多く,より早く,より正しく診断することが,患者本人や家族にとって大切なことである。また,本邦ではアルツハイマー病は進行を遅らせる薬しかないが,近年では積極的に,糖尿病,高血圧,肥満,うつ病,身体活動性を低下させない,禁煙,知的活動を低下させないなどの努力によってアルツハイマー病の発症を少なくさせる試みが行われている。2012年当院の健康相談会で認知症が進んだ場合,どういった生活の場を希望するかというアンケート調査した結果は,2/3 の人が在宅以外のグループホーム,高度医療センターを希望という意外な結果であった(図1)。在宅を希望したのは3 人に1 人という結果であった。できるなら在宅で,できないなら在宅をあきらめざるを得ないということを確認できた。さらに認知症の場合,在宅での生活を長く保つための薬物療法にも限界を感じている。がん終末期の緩和ケアを在宅で行うより,認知症の在宅ケアのほうが難しいといわれており,今回,薬物はまったく使わず,症状が激しく使うゆとりもない状態で苦闘した結果,患者の妻の孤立感を防ぎ,環境調整で長い危機を耐えて在宅生活を継続できた1例を経験したので報告する。 -
地域ブロック在宅医療支援研修会の評価と薬剤師の意識
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Descriptionわれわれは薬剤師による地域在宅医療を促進する目的で,地域薬剤師会との共催で薬局薬剤師を対象とした在宅医療支援研修会を開催した。研修会終了後アンケート調査を実施した。研修会の評価は,平均8.46(10 段階評価)で比較的高い評価を得た。在宅医療経験者が72.5%,その年数は5〜10年間が最も多くみられた。在宅医療に必要なことは,知識の修得,心構え,そして多職種との連携であった。今後の研修会への要望では,在宅医療実務でのスキルアップ・ノウハウなどであった。その結果,参加者は主に在宅関連実務のスキルアップを望んでいた。その実現には,継続的な研修会の開催と多職種との連携支援体制が必要である。 -
在宅訪問1回に対する薬剤師業務の時間分析
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description薬剤師の訪問業務は,処方箋の受け入れから主治医への疑義照会,調剤,服薬指導,訪問(往復),保険請求業務などから構成されている。今回それぞれの業務について,かかった時間を計測し,訪問1 回当たりの業務時間を集計した。調査期間は2013 年9 月,調査対象116名,訪問回数211 回であった。訪問1 回について,薬剤師の業務時間は73 分15 秒であった。このうち服薬指導と訪問にかかる往復の時間の合計は36 分13 秒であった。薬局薬剤師は外来患者の調剤業務を抱えているので,在宅患者を訪問できる時間帯は,昼食後から夕方診療が始まる前までの2 時間程度と想定できる。そのため1 名の薬剤師が1 日に訪問できる患者数は5 名を超えるのは難しい。1週間6 日間として,1 名の薬剤師が訪問できる訪問回数は25〜30 名程度と推計できる。 -
がん患者カウンセリング導入による当院地域医療室での緩和ケア地域移行支援への影響
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description当院では2011年4 月より緩和ケア認定看護師が,がん告知時,転移再発告知時,治療の中止時期などの医師の病状説明の場に同席し,その後に相談を実施するがん患者カウンセリングを導入した。今回,導入後の支援状況について検討した。地域移行支援症例は導入前118例から186例と急増し,うちカウンセリング実施がその急増分とほぼ匹敵した。外来時点での開始症例は59%で,そのうち43%が外来から地域移行支援も開始されており,その45%が在宅移行していた。一方,入院後に移行支援開始例では,在宅移行は34%にとどまり,緩和ケア病棟・ホスピスへの移行が48%と優位であった。外来時点からのカウンセリングでは,療養の場に関する情報提供と自分の療養について,意思決定する時間が十分提供できたと考えられた。外来時期から実施には医師側の協力も必要であり,医療者間で認識を共有する必要性が示唆された。 -
退院調整時に末梢静脈栄養を予定した症例の背景調査
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description人工的栄養管理に関する議論が盛んになった以降,補助的な末梢静脈栄養法での退院を希望する症例が多い印象から,2006〜2012年までの7年間において退院調整を行った2,636 例に対し,退院時の栄養管理方法とその背景を後ろ向きに調査した。退院後に末梢静脈栄養を前提としたのは55 例(2%),2010 年まで年間7 例以下から2010 年以降年間10 例超と増加傾向であった。80歳以上が約60%を占め,80%以上が病院への退院で,癌緩和ケアや高度の摂食嚥下障害などが背景にあり,終末期医療の一環としての位置付けであった。患者の病状,療養環境,ケアに対する知識,死生観などがこの選択には影響していた。実際の末梢静脈栄養では管理面やライン確保の問題があるため,このような意思決定にしっかりとした情報提供を行うことが必要であると考えられた。 -
日本バプテスト連盟医療団における血液悪性腫瘍患者に対する緩和ケアの現状
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description日本バプテスト連盟医療団では,ホスピス病棟,一般病棟,在宅のホスピストライアングルを構築し,血液悪性腫瘍患者に対しても積極的にホスピス緩和ケアを行っている。2012 年12 月〜2013 年12 月に当医療団で緩和ケア医がかかわった血液悪性腫瘍死亡例は37 例(男性22,女性15 例),死亡時年齢中間値79(60〜90)歳で,死亡場所は,ホスピス病棟11例(30%),一般病棟24 例(65%),在宅2 例(5%)であった。最終化学療法から死亡までの期間は中間値12(1〜88)日で,死亡前2 週間に20 例(54%)で輸血が行われた。血液悪性腫瘍は,他の固形癌と比較し,積極的治療期と終末期の境界が複雑で,終末期の経過が急速であることが特徴であり,在宅への移行が困難な症例が多い。したがって,療養場所や治療方針の選択など患者の意志決定を支えるためには,病状に応じた迅速な対応や早期からの緩和ケアスタッフのかかわりが重要である。 -
当科におけるがん患者の在宅緩和ケア導入の現状
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description進行がんに対する薬物療法を行うだけではなく,終末期ケアを調整することも腫瘍内科医の大きな役割である。最近は患者の在宅緩和ケアの希望が増え,また在宅診療所が増えており,われわれの施設でも在宅緩和ケアへの導入が増えている。当科で進行・再発がんに対し化学療法を行った患者のうち,2012〜2014年で在宅緩和ケアに導入した患者について検討を行った。患者数は22 名で乳がん9 名(40.9%),大腸がん8 名(36.4%)が多かった。年齢中央値は68(36〜90)歳であった。半数が在宅死であった。在宅導入から死亡までの期間は中央値64.5(12〜252)日であった。約70%が1 か月以上自宅で過ごせたが,3 例が在宅導入後2 週間以内に死亡し,1 例が10 日で緊急入院していた。その理由として,2 例は病状が急速に悪化したことと,1 例は在宅導入までに時間がかかったことであった。経過が急速な例では注意が必要である。また,在宅緩和ケアに導入する場合,できるだけ早く開始することが重要である。 -
当科における在宅医療・在宅緩和ケアの検討
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description当科では,1996年の訪問看護科の発足より在宅医療・在宅緩和ケアを積極的に推進してきた。2013 年10 月までに190名に在宅医療を行った。男性105名,女性85 名,年齢は32〜102歳,平均年齢78.7 歳,在宅医療期間は1 日〜8年10 か月,癌は168名(88.4%)であった。168名が亡くなり,在宅看取りを半数を超える88名(52.4%)に行った。疼痛コントロールのためにオピオイドを使用,home parenteral nutrition(HPN),home enteral nutrition(HEN)の他,percutaneous endoscopicgastrostomy(PEG)造設,胸腹水の除去を行った。院内においては多職種からなる緩和ケアチームによる緩和ケアの実践が重要であり,院内での緩和ケアの啓蒙,教育に力を入れている。また,地域における在宅医療・在宅緩和ケアの啓蒙,教育,連携のために,医師会の支部会での講演の他,多職種による在宅医療・在宅緩和ケアの合同研修会を開催している。 -
在宅における創傷・褥瘡ケアの工夫
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description創傷ケアでは,創から排出される滲出液の量と性状をよく観察し,それに応じた被覆材や薬剤を選択することが大切である。特に過剰な滲出液で創が過湿潤にならないように注意すべきである。一方,在宅においては,入手しやすい材料や薬剤を使い,ケア方法が容易であることも必要である。1) 穴あきポリエチレンを使用したラップ療法は滲出液が中等量までの創が適応となり,褥瘡,創傷,表皮剥離創,熱傷に応用できる。2) 軽症褥瘡や表皮剥離創など滲出液が少ない創には,18G 針で穴を開けたポリウレタンフィルムを貼付する。3) 滲出液がほとんどない水疱褥瘡などには,ポリウレタンフィルムを貼付する。4) 滲出液が少々ある創に対しては,ハイドロコロイド被覆材を用いる。5) クリティカル・コロナイゼーション創に対しては,ステロイド含有軟膏を塗布する。6) 滲出液の多い創に対しては,メロリンやモイスキンパッドないしは紙おむつをじかに当てて対処する。 -
特別養護老人ホーム入居者のNPPV 装着による皮膚障害予防の検討
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description非侵襲的陽圧換気法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)使用入居者の皮膚障害の予防にメラミンフォーム材が有効であるかを明らかにするため,大阪府下にあるA特別養護老人ホーム入居者でNPPV 使用入居者12 名を調査・解析した。その結果,NPPV 装着部位にメラミンフォーム材を使用した入居者は,顔の形状では有意差を認めなかったが,皮脂量,角質水分量,圧迫痕や皮膚障害は有意に改善を認めた。 -
ポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)が創出する新たな在宅看護像―POCT 導入上の課題の検討―
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description医療依存度の高い療養者が増加する在宅医療ケアの現場で,進化する医療技術を適切に活用し,医療コストを抑制しながら療養者のウェルビーイングを実現することが求められている。ポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)は,在宅医療ケアにおいてそうした要請に役立つことが期待されているが,本邦ではまだ認知度も低く普及していない。本研究はPOCT の導入上の課題を明らかにすることを目的に,三つの訪問看護ステーションに勤務する11 名の経験豊かな訪問看護師を対象にグループインタビューを行い,得られた語りを基に因子探索型質的分析を行った。結果,導入上の課題として五つのカテゴリーと16 のサブカテゴリーを抽出した。得られたカテゴリーはPOCT の普及に資するものと考える。 -
病診連携・医福連携によって病状進行から看取りまでを在宅医療でサポートした孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病の1 例
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。MRI 検査および髄液検査にて孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)と診断された。在宅での末梢血管からの補液管理や褥瘡処置およびそれに伴う廃棄物の処理について,基幹病院からの情報提供に基づき,手指の洗浄,眼の保護,手袋・ガーゼなどの焼却処分などを徹底して対応した。在宅でのbest supportivecare を実践し,家族に見守られながら永眠された。CJD は有病率が100 万人に1 人,比較的急速に進行し死に至る難病である。CJD感染予防ガイドラインおよび基幹病院からの情報提供を得て,自宅での全身管理および疾患に関する正しい情報を提供する在宅医・訪問看護師がイニシアチブをとり,ヘルパーなど福祉職との情報共有をしていくことが,限られた時間を自宅で家族とともに穏やかに過ごすために必要であると考えられた。 -
移植片対宿主病(GVHD)の消化管症状により経口摂取困難になった急性骨髄性白血病患者に対する栄養支援の経験
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description急性骨髄性白血病の臍帯血移植後の急性移植片対宿主病(急性GVHD)の消化管症状により経口摂取が困難に陥った患者に対して,経口摂取で自宅退院をめざすための栄養支援をNST で行った。TPN 管理により安定した栄養投与の下,経口摂取は粘膜障害への緩やかな順応をめざし,下痢を起こしにくい半固形の物性で刺激性の低いゼリーから始め,消化器症状に配慮しながら徐々に普通食に向けて移行していった。また,長期入院の上,病状が不安定ななかで経口摂取の進行に対する不安や恐怖心に配慮し,嗜好にも沿った食事内容とした。急性GVHD の消化管症状は改善の見込みが立てにくく,安定した静脈栄養で熱量確保の上,受け入れられる経口摂取を進めていく必要がある。 -
在宅療養症例における胃瘻造設後の予後に関する検討
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description内視鏡的胃瘻造設術(PEG)は広く一般に行われているが,施行後短期間で死亡する症例も経験する。今回は在宅で往診管理した症例におけるPEG 施行後の生命予後と予後因子について検討した。症例は2006 年1 月〜2013 年12 月までにPEG が施行され,当院で往診管理した75 例である。PEG 施行時の年齢は80 歳以上45 例,男性41 例,原疾患は脳梗塞37例,脳内出血12 例,クモ膜下出血1 例,頭頸部外傷4 例,脳炎2 例,その他の廃用障害19 例である。PEG 施行後の生存率は1 年69.4%,3年34.3%,5年10.3%であった。入院例や施設入所例における最近の報告と比較して,2年以降の生存率が低値であった。往診管理における生命予後の予測では 80 歳以上の特に男性,血清アルブミンが 2.5 mg/dL 以下に低下,呼吸器感染を繰り返す,意識障害の出現が予後不良因子であった。 -
空腸瘻からの半固形化栄養療法を用いた在宅経腸栄養の新たな試み
41巻Supplement Ⅰ(2014);View Description Hide Description在宅経腸栄養患者において,空腸瘻からの栄養剤の長時間注入は患者の負担が大きく,患者QOL の低下が懸念される。今回,胃全摘後の在宅患者2 例に対し,空腸瘻から粘度調整食品を用いた半固形化栄養療法を試み,両症例ともに問題なく在宅にて継続し得た。空腸瘻における栄養剤の半固形化は,栄養剤の投与時間短縮に非常に有効であることが示唆された。
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