癌と化学療法

Volume 42, Issue 1, 2015
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総説
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TAS-102(トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)の効果
42巻1号(2015);View Description
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手術不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法は,近年飛躍的な発展を遂げている。しかし,その多くは欧米を中心として開発された薬剤であり欧米と比べて日本における薬剤承認が遅れてしまう,いわゆるídrug lagðが長年の問題であった。TAS-102は,当初米国で第Ⅰ相試験が開始されたものの開発が中断され,その後日本において再度第Ⅰ相試験から開発が進められ,国内第Ⅱ相試験において良好な結果であったことから,世界に先駆けて日本で承認された薬剤である。その後発表された国際第Ⅲ相試験(RECOURSE 試験)においても,その有効性が証明された。今回,TAS-102の概要および各臨床試験結果からその効果と注意すべき副作用について紹介する。
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特集
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- 高齢者のがん治療
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高齢者の肺癌治療
42巻1号(2015);View Description
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日本は世界で最も高齢化率が高く,世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えている。肺癌は,日本における死亡原因の第1 位である悪性新生物のなかで,最も死亡者数が多い癌である。そのため,高齢者肺癌に対する効果的な治療戦略を確立することは,ますます重要になっている。進行非小細胞肺癌(non-small-cell lung cancer: NSCLC)の初回化学療法の標準治療はプラチナ併用療法であるが,高齢者の場合,単剤療法とプラチナ併用療法の二つのエビデンスが存在する。治療の選択肢は高齢者独自のエビデンスと包括的な評価に基づいて提供されるべきである。本稿では,高齢者NSCLC における高齢者総合的機能評価の役割と放射線療法,化学療法のエビデンスを中心に概説する。 -
高齢者消化管癌における化学療法
42巻1号(2015);View Description
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今後も高齢者の消化管癌の増加が推測される。しかし,これらの患者における化学療法のデータは限られている。全身状態がよいと考えられる高齢者癌に標準的化学療法は施行されるべきである。高齢者であっても若年者同様に生存期間延長をもたらすが,高齢ゆえの毒性には注意すべきである。FOLFOX などの併用療法を施行すべきかは,合併症が少ない患者では成人と同様の治療が選択される。しかし,通常のPSで測れない臓器予備能の低下は考慮する必要があり,個々の患者に応じたきめの細かい対応が求められる。患者によっては一段階減量から開始し,毒性,有効性を判断しつつ増減するのも理にかなっている。今後,人口の高齢化に伴いこの患者群に対しての前向き試験の重要性がますます増強していくであろう。 -
JCOG 高齢者研究小委員会の活動と高齢大腸癌を対象とした臨床研究について
42巻1号(2015);View Description
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高齢がんの診療では,年齢・PS 以外にも虚弱(フレイル)を評価することは重要とされ,ADLや認知機能,抑うつ,併存症,服薬状況,社会的支援などのgeriatric assessment(GA)を行うことが国際老年腫瘍学会(SIOG)において推奨されている。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は高齢者研究小委員会を設置し,GA を含む臨床研究ポリシーを策定すべく検討中である。エビデンスは少ないものの高齢の切除不能大腸癌の初回化学療法として,69 歳以下と70〜74歳でPS 0-1の患者に対しては標準治療の導入を考慮する。一方,70〜74歳の脆弱患者(PS 2)および75 歳以上(PS 0-2)においては,オキサリプラチンやイリノテカンの導入には慎重な判断が必要と考えられ,JCOG では高齢の切除不能大腸癌を対象として,オキサリプラチンの上乗せ効果をみる第Ⅲ相比較試験(JCOG1018)が進行中である。 -
高齢者に対する抗がん薬の用量調節
42巻1号(2015);View Description
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加齢に伴う生理機能変化は,高齢者の薬物動態および薬物感受性に影響を及ぼす。高齢者では個々の患者間の差が大きいため,抗がん薬治療開始前には集学的なアセスメントを行って薬物療法の可否や用量調節の必要性が検討されなければならない。腎機能は加齢とともに低下することから,腎機能低下によってAUC が上昇する薬物を高齢者に投与する前には腎機能の評価が必須となるが,筋肉量が少ない高齢者において血清クレアチニン値を指標に評価を行うのは不適切である。一般にCockcroft-Gault 式より算出されたクレアチニンクリアランス推定値に基づいた用量調節指針が示されている薬剤が多く,用量調節の必要性を確認するための腎機能評価は投与予定薬剤の用量調節指針で用いられている腎機能指標で行う。なお,高齢者では殺細胞性抗がん薬投与による好中球減少の発現率が高く重症化する傾向にあるため,注意深い観察が必要である。また2 コース目の施行前には必ず1 コース目における忍容性のアセスメントを行って,初回投与量の妥当性ならびに次コースでの用量調節の必要性が個別に検討されていかなければならない。
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Current Organ Topics:Genitourinary Tumor 泌尿器系腫瘍泌尿器科癌治療におけるMulti-disciplinaryteam最新情報―現状と将来の展望
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Ⅰ.泌尿器領域における画像手術支援とその可能性―ロボット支援腎部分切除術における「仮想腎部分切除シミュレーション」
42巻1号(2015);View Description
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原著
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早期乳癌に対する毎週パクリタキセルと5-FU・エピルビシン・シクロフォスファミド療法の術前順次化学療法―KBC-SG多施設共同研究―
42巻1号(2015);View Description
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早期乳癌に対する術前化学療法において,病理学的完全奏効(pCR)は良好な予後と相関する。本研究では,12サイクルの毎週投与パクリタキセル(80 mg/m / / 2)と4 サイクルの5-FU(500 mg/m2)・エピルビシン(100 mg/m2)・シクロフォスファミド(500 mg/m2)療法の術前順次化学療法を行い,pCR 率と安全性を検討した。対象は早期乳癌31例,平均年齢51歳。病期はstageⅡA(n=18),ⅡB(n=11),ⅢA(n=2)。エストロゲンレセプター陽性率は65%(20/31 例)。HER2 陽性例なし。治療は28例で完遂できた。中止例の理由は病状進行1 例,Grade3 の皮疹・搔痒感1 例,他病死が1 例であった。病理スライドの中央判定にて6例が pCR。サブタイプ別の pCR 率はトリプルネガティブタイプ 67%(6/9 例),ルミナールタイプ(A+B)で 0%(0/19例)であった。Grade 3/4 の有害事象は白血球減少(58%),好中球減少(58%),発熱性好中球減少症(26%),Ë怠感(10%),ALT上昇(7%)が認められた。本レジメンの副作用は管理可能であり,トリプルネガティブ乳癌に対し高い効果を有している。しかし,ルミナールタイプにはpCR をめざすという観点での高い効果を期待することは難しいと思われる。 -
再発・難治性悪性リンパ腫における外来Gemcitabine,Dexamethasone,Cisplatin(GDP)療法の検討
42巻1号(2015);View Description
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近年,再発・難治性のaggressiveリンパ腫に対する自家末%血幹細胞移植前の救援療法として,GDP[gemcitabine,dexamethasone,cisplatin(CDDP)]療法の有効性が報告された。CDDP 投与時,大量輸液による腎機能障害の予防を行うことが本邦では多いため,多くの施設でCDDP を含む化学療法は入院で行われている。当施設では4 症例の再発・難治性aggressive リンパ腫および1 例のホジキンリンパ腫(Hodgkinʼs lymphoma: HL)に対してGDP 療法を施行し,マグネシウム製剤とマンニトールを併用したshort hydrationを行うことで,5 例中4 例は外来投与が可能であった。効果判定を行った3/4 例で完全奏効を確認し,うち2 例で自家末%血幹細胞採取を行ったが,十分量の幹細胞採取が可能であった。1 例では自家末%血幹細胞移植を行い,完全奏効を維持している。GDP による救援療法は,外来でも比較的安全に施行可能かつ有効な治療法であると考える。 -
肺癌患者に対するシスプラチン投与時の短期輸液療法の認容性の検討
42巻1号(2015);View Description
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シスプラチン(CDDP)は肺癌に対する化学療法の際,汎用される抗癌剤の一つであるが,副作用として腎障害を認めることが問題となる。今回われわれは,当院における肺癌CDDP 投与時のマグネシウム,マンニトール併用少量輸液療法(short hydration: SH)と従来の大量輸液療法(normal hydration: NH)の腎保護作用とその意義について検討した。2012 年1 月〜2013年2 月までに28 例の肺癌患者に対し,CDDP を含む化学療法が施行された。SH群12 例,NH 群16 例であった。2 群に対しCDDP 投与1 コース目の腎障害をX2検定にて比較検討したところ,血清クレアチニン値Grade 2 以上の上昇は,SH群0例,NH群1例であった(p=0.38)。尿素窒素,血清アルブミン,血清ナトリウム値も比較したが,いずれも統計学的有意差を認めなかった。肺癌CDDP 投与時の短期輸液療法は,腎毒性を増加させず安全に投与可能であった。外来治療も可能であり,今後の有用な治療戦略となり得ると考えられた。 -
オキシコドン経口剤から注射剤への投与経路変更に伴う使用量の比率に関する検討
42巻1号(2015);View Description
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オキシコドン経口剤から注射剤への切替えに当たっては経口剤投与量の0.75 倍量が注射剤投与量の目安とされるが,臨床現場ではがん性痛の性状などからより多くの投与量を必要とする場合がある。今回われわれは,経口剤から注射剤への切替えを行ったがん性痛患者14 症例の切替え前後のオキシコドン使用量の変化を調査した。検討の結果,切替え後の使用量比は1 日目0.91±0.25(平均±標準偏差)で,5 日目には1.46±0.48 に増加した。投与量は患者の病状に対し過不足なく処方されており,がん患者の痛みに適確に対応するためには,換算の目安を上回る注射剤投与が必要とされ得ることが示唆された。 -
エストロゲン受容体(ER)陽性閉経後進行・再発乳癌に対するエベロリムス+エキセメスタン併用の有用性を検討する第3 相臨床(BOLERO-2)試験―日本人サブグループ解析―
42巻1号(2015);View Description
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非ステロイド性アロマターゼ阻害剤(NSAI)抵抗性のエストロゲン受容体(ER)陽性閉経後進行・再発乳癌を対象に,エキセメスタン+エベロリムスの併用投与とエキセメスタンの単独投与とを比較する国際共同第3 相試験が実施された。この試験の日本人被験者106例の解析結果について報告する。追跡期間(中央値)18 か月におけるエベロリムス併用群およびエキセメスタン単独群の無増悪生存期間(PFS)の中央値は,それぞれ8.5 か月および4.2 か月であった。エベロリムスの併用群で口内炎,発疹,味覚異常,非感染性肺関連有害事象の発現率が高かったが,グレード1/2 が大部分であり,適切な対処により管理可能であった。以上より,エキセメスタン+エベロリムスの併用療法は,NSAI 抵抗性のER 陽性閉経後進行・再発乳癌の日本人患者に対しても有用な治療法の一つである。
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薬事
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点滴癌化学療法の内服前処置薬を確実に投与する当院での取り組み
42巻1号(2015);View Description
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癌化学療法投与前に過敏症や嘔気などの副作用予防のために,静脈注射薬だけでなく内服による前処置薬を投与することも少なくない。内服での前処置薬は電子カルテ上,注射薬のレジメンオーダーと処方方法や払いだし方法が異なるため,指示漏れや与薬漏れが生じることがある。そのためわれわれは,内服薬であるが前処置薬を注射薬のレジメンオーダー内に含める検討を院内で行い,前処置薬が化学療法剤と同様に個人認証のバーコードを付けた薬袋で払いだされる形として運用を開始した。なお,当院の電子カルテシステムは東芝医療情報システムズHAPPY ACTIS である。2011 年8 月〜2014 年1月までに66(呼吸器科21,乳腺外科14,血液内科9,泌尿器科7,消化器科6,婦人科5,耳鼻科3,形成外科1)レジメンに導入した。内容は,抗アレルギー作用を目的とするジフェンヒドラミン,ロキソプロフェン,クロルフェニラミン,制吐剤のアプレピタント,ラモセトロンであった。導入後,内服処方歴に反映されないという問題があるものの,処方/与薬漏れがなく確実に前投薬されることが可能となった。医療安全を確保しつつ,確実に前処置薬が投与される当院の取り組みについて報告する。
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症例
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Bevacizumab+Paclitaxel療法および逐次的放射線療法にて長期制御を得た急速進行性のトリプルネガティブ乳癌胸壁再発の1 症例
42巻1号(2015);View Description
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症例は73 歳,女性。左トリプルネガティブ乳癌[cT1c(2 cm)N0M0,stageⅠ]の診断で左乳房切除術,腋窩リンパ節郭清術を施行したが,術後4 年目に傍胸骨リンパ節に再発を認めた。腫瘍は有痛性で,CT にて胸骨破壊像を伴い急速な増大を認めた。bevacizumab+weekly paclitaxel(BEV+wPTX)療法(4 週毎,day 1,15 に bevacizumab 10 mg/kg,day1,8,15に paclitaxel 90 mg/㎡を投与)を5 コース施行したところ著効を得た。傍胸骨領域に対する放射線治療(30 Gy/15Fr)施行後にcapecitabine(600 mg,1 日2 回)内服にて治療を継続。同療法の無増悪生存期間は6 か月程度であるところ,内服開始後2 年が経過した現在も腫瘍の寛解と良好なQOLを維持している。高い奏効率を有するBEV+wPTX を逐次的な放射線療法と組み合わせることで,急速に進行する孤発性再発病変の長期制御と患者QOL の維持が可能になる症例が存在することが示唆された。 -
S-1/CDDP による術前化学療法で組織学的CR が得られた進行胃癌の1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は66 歳,男性。内視鏡検査を施行したところ,噴門部に著明な食道浸潤を伴う進行胃癌が認められた。腹部CT検査で著明な所属リンパ節転移が認められ,cT4aN2H0P0M0,cStage ⅢB と診断した。術前補助化学療法として S-1/CDDP 療法(SP療法)を施行したところ原発巣およびリンパ節の著明な縮小を認め,3コース施行後に脾摘,D2郭清を伴う胃全摘術を施行した。病理組織学的検査の結果,胃・リンパ節ともに癌の遺残はなく,組織学的CR と判断した。術後補助化学療法としてS-1内服(120 mg/body,2週投薬1週休薬)を 1 年間継続し,現在術後34 か月無再発生存中である。 -
S-1が著効した胃癌の肝門部リンパ節再発症例
42巻1号(2015);View Description
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胃癌再発に対して,S-1内服が著効した1 例を経験したので報告する。患者は77 歳,女性。胃癌に対する幽門側胃切除後にUFT による術後補助化学療法を行った。術後約1 年後に肝門部リンパ節再発を認めたが,静脈内投与による化学療法を希望しなかったためS-1 単独療法を行った。内服開始から約3 か月後の腹部CT では肝門部腫瘤が著明に縮小し,6 か月後にはCR が得られたため約2 年間のS-1 内服を継続した。S-1 内服を中断してから約1 年5 か月後に再発を認めたが,S-1 内服を再開することで約6 か月間腫瘍増大による症状出現を抑制することが可能であった。本症例ではS-1 内服加療が非常に有効で,緩和主体の治療へ移行するまで長期間にわたり高いquality of life(QOL)を保つことが可能であった。今後,どのような患者にとってS-1単独療法が好ましい治療法となり得るか検討が必要と思われる。 -
S-1が著効した大腸癌の肝,傍腹部大動脈リンパ節転移の1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は78 歳,女性。大腸癌術後の経過観察のために施行した腹部CT 検査にて肝転移と傍腹部大動脈リンパ節転移を指摘された。積極的な化学療法は希望されず,S-1を初回より減量し2 週投与2 週休薬にて開始した。5 コース終了時点で肝転移はCR,傍腹部大動脈リンパ節転移はPR の効果が得られた。合計24 コースまで投与終了し経過観察とし,その後傍腹部大動脈リンパ節転移の再増大がみられたが,肝転移の再燃その他の転移・再発は認めなかった。今回われわれは,S-1投与が著効した大腸癌の肝転移,傍腹部大動脈リンパ節転移の症例を経験したので報告する。 -
肝再生を待ちTwo-Stage Hepatectomyにより根治切除し得た大腸癌多発肝転移の1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は55 歳,女性。S 状結腸癌,多発肝転移(H3)に対して低位前方切除術を施行。その後,down stageを目的にbevacizumab+FOLFOX 23 コース,その後bevacizumab+FOLFIRI 13 コース施行。十分なdown stageの後,今回の根治的肝切除を施行することとなった。両葉の肝切除を同時に施行すると術後肝不全が懸念されたため二期的手術を検討し,初回に肝右葉切除を施行。十分な残肝の再生を待ち,初回肝切除より第54 日目に2 回目肝切除を施行し,根治的切除し得た。two-stage hepatectomy の発案により現在,切除不能とされてきたH3 症例に対して多くの根治的切除が可能となってきている。今後,two-stage hepatectomyと抗癌剤,分子標的薬,門脈塞栓術の併用,またそのタイミングの検討により,さらなる予後の改善が期待される。 -
Bevacizumab+S-1+CPT-11併用療法が著効し完全切除が可能となった進行大腸癌肝転移の1 例
42巻1号(2015);View Description
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bevacizumab(Bmab),S-1,CPT-11による3 剤併用療法(Bmab+IRIS療法)施行により,肝転移が縮小し完全切除が可能となった進行大腸癌を経験した。症例は65 歳,男性。2013 年8 月に便秘・下痢を繰り返し近医受診。下部消化管内視鏡検査にて直腸(Rs)に全周性の腫瘍が認められたため(生検でadenocarcinoma,tub1),治療目的に当院紹介。造影CT検査で同時性多発肝転移を認めた。肝右葉に3 か所の転移巣を認め,最大径7 cm であったため切除は非最適と考えられた。直腸癌に対して9 月9日に直腸前方切除術(D3郭清)を施行。10 月9 日より,多発肝転移に対しBmab+IRIS療法を開始。4 コースの化学療法により,すべての肝転移巣が縮小し最大のものは3 cm まで縮小したため,肝転移切除術が施行され根治切除に至った。肝切除非最適症例がBmab+IRIS療法施行により手術可能となり,完全切除に至れた報告は過去にない。切除非最適因子をもつ大腸癌肝転移症例に対するBmab+IRIS療法施行は,肝転移巣完全切除に至るための一選択肢となり得ることが示唆された。本症例に対する術後化学療法の適応に関する考察とともに,症例を報告する。 -
大腸癌術後,腹膜再発患者に播種切除と化学療法が奏効し,長期生存が得られている1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は40 歳,女性。2005年7 月より腹痛,便秘症状が出現。内視鏡検査でRs 直腸癌と診断され,当院で前方切除郭清(D3)を施行した。病理診断はtub2,SS,N2,ly1,v1,stage Ⅲb であり,R0・Cur A 手術であった。退院後外来で内服化学療法を行っていたが,2006 年4 月のCTでDouglas窩に再発を認めたためFOLFOX4 を開始し,6 月のCT で画像上2 個の結節に限局しており,切除可能と判断して腹膜播種切除術を施行した。病理では転移性と診断された。その後FOLFOX4 を再開し,計11 コース施行した。痺れが強く,継続が困難となり,de Gramontに変更し56 コース施行した。その後UFT/UZEL に変更し,28 コース施行したが,脱毛が強く,本人の希望で中止した。その後も再発などなく,現在まで8 年5か月無再発生存中である。 -
両葉多発肝転移を伴う下行結腸癌に対しパニツムマブ+mFOLFOX6 療法が奏効し肝切除が可能となった1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は40 歳,女性。右上腹部痛を主訴に発症した下行結腸癌で,生検の結果は高分化型腺癌,K-ras遺伝子は野生型であった。CT では肝両葉に多発する腫瘤を認め,多発肝転移を伴う高度進行大腸癌と診断された。原発巣切除を先行する方針とし,腹腔鏡補助下結腸部分切除術を施行した。その後,mFOLFOX6+パニツムマブ療法12 コース,sLV5FU2+パニツムマブ療法13 コース施行し,CT,MRI上肝転移は肝S5 の腫瘤を残すのみとなった。残存した腫瘍は切除可能と判断し,腹腔鏡下肝部分切除術を施行した。多発肝転移を伴った下行結腸癌に対しパニツムマブ+mFOLFOX6療法が奏効し,H3 であるにもかかわらずconversion therapyが可能となった1 例を経験したので報告する。 -
CDDP/CPT-11療法が奏効し切除し得た肝転移を伴う胆囊混合型腺神経内分泌癌の1 例
42巻1号(2015);View Description
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50 歳台,女性。右季肋部のしこりを主訴に近医受診し,多発性肝腫瘍を認めたため当院紹介。PET-CTなどの画像検査で傍大動脈リンパ節転移も認めたが原発不明,肝腫瘍生検にて神経内分泌癌と診断した。化学療法CDDP/CPT-11により両病変とも著明な縮小が得られ,肝切除術を施行した。病理結果は胆囊原発の混合型腺神経内分泌癌(MANEC)であった。術後補助化学療法として同レジメンを追加し,診断から2 年経過した現時点で無再発生存中である。胆囊MANECは極めてまれで予後不良な疾患であるが,本例は化学療法によって手術が可能となり臨床的治癒が得られた貴重な症例である。 -
Dose Adjusted EPOCH-R 療法が奏効した縦隔(胸腺)原発大細胞型B 細胞リンパ腫の1 例
42巻1号(2015);View Description
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縦隔(胸腺)原発大細胞型B 細胞リンパ腫(PMBL)はびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と比較し治療抵抗性であり,治療の第一選択は定まっていない。今回われわれは,肺と上大静脈に浸潤したPMBL にdose adjusted(DA)-EPOCH-R 療法が有効であった症例を経験したので報告する。症例は29 歳,女性。当院入院の8 か月前から前胸部痛,背部痛を自覚し,複数の医療機関で精査を受けるも異常を指摘されず,3 週間前に前医のCT で前縦隔腫瘍を認めたため当院を紹介された。胸腔鏡下縦隔腫瘍生検によりPMBL と診断された。前縦隔腫瘍は長径90 mm,肺と上大静脈への浸潤を認め,病期IEA,IPI low riskであった。DA-EPOCH-R療法を8 コース施行し,完全寛解を得た。最近PMBL は,DA-EPOCH-R療法により放射線治療なしで5 年EFS 93%,OS 97%と報告された。DA-EPOCH-R 療法は,PMBL 治療の有力な選択肢の一つとなると考えられる。 -
Capecitabineにより涙道障害が認められた1 例
42巻1号(2015);View Description
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近年,S-1 に代表されるように抗悪性腫瘍薬による角膜障害や涙道障害などの眼部の有害事象が問題となっている。capecitabine はS-1 と同様にフッ化ピリミジン系の抗悪性腫瘍薬であるが,眼部の有害事象に関する報告は極めて少なく,詳細は明らかになっていないのが現状である。今回,capecitabine により涙道障害が認められた症例を経験したので報告する。患者は71 歳,女性。乳がん骨転移の治療のためtrastuzumab+capecitabine 療法が行われており,capecitabine 開始7日後から流涙の訴えがあった。その後,capecitabine は手足症候群の増悪により休薬および減量されたが,流涙は継続していた。capecitabine は開始から287 日後に手足症候群の増悪が原因で中止となったが,流涙が増強していたため患者は眼科を受診した。眼科医の診断結果は両眼鼻涙管閉塞および両眼白内障であり,gatifloxacin 点眼液0.3%およびfluorometholone点眼液0.1%が処方された。その後,流涙は軽減し,眼科再診の結果,症状の改善が確認された。本症例ではcapecitabineの投与が原因と考えられる涙道障害が発現した。その症状は可逆的であり,capecitabine の中止および眼科的治療により改善した。本症例は今後,capecitabineの涙道障害を議論する上での貴重な報告になり得ると考えられる。 -
Capecitabineによる術後補助化学療法中に重篤な副作用を発症したDihydropyrimidine Dehydrogenase(DPD)欠損症が疑われた1 例
42巻1号(2015);View Description
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症例は75 歳,男性。S 状結腸がんに対してS状結腸切除術を施行した。術後病理診断はpSS,pN1,cN0,pStage Ⅲaであり,術後6 週目よりS-1 100 mg/dayによる術後補助化学療法を開始した。投与開始後11 日目より下痢,心窩部不快感が出現し,投与を中止した。2 か月の休薬期間を置いた後,capecitabineによる補助化学療法を開始した。開始後5 日目から食欲低下,7 日目より下痢を認めた。投与開始14 日目に外来を受診し38℃台の発熱を認め,緊急入院となった。入院翌日の血液検査で白血球数減少 1,000/mL(Grade 3),好中球数減少600/mL(Grade 3)を認め,G-CSF 製剤の投与を開始した。入院後,一時的に好中球数は7 6/mL(Grade 4)まで低下した。入院中に末梢血単核球中 dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)活性を測定したところ低値であり,DPD 欠損症が疑われた。保存的加療で回復し退院された。本症例のようなDPD欠損症の報告はまれであるが,報告例のなかには死亡例も散見されるため,投与開始時には十分な説明を行い,症状が出現した際には速やかな対応を行うことが必要と考えられた。 -
S-1とワルファリンの併用によりワルファリンの作用が増強した1 例
42巻1号(2015);View Description
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口腔癌患者にS-1 とワルファリンカリウム製剤(ワルファリン)を併用し,international normalized ratio of prothrombintime(PT-INR)に著明な延長を認めた1 例を報告する。症例: 患者は71 歳,男性で左上顎歯肉癌患者。既往歴にventricular tachycardia(VT),肥大型心筋症,小脳梗塞があり,implantable cardioverter defibrillator(ICD)植え込み中でワルファリンを内服中であった。術後の2010 年3 月中旬よりワルファリンとS-1 の内服を開始したところ,PT-INR 5.82と著明に延長した。S-1,ワルファリンをいったん中止し,同年4月下旬からS-1,ワルファリンを再開しワルファリンの投与量を調節したところ,PT-INRはおおむね2 前後にコントロールされた。
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