癌と化学療法

Volume 42, Issue 3, 2015
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総説
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最新のMR によるがん診断の進歩
42巻3号(2015);View Description
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近年の核磁気共鳴画像(MR)のハードウェアおよび撮像技術の進歩は目覚ましく,従来の形態学的な情報のみならずがんの血流や代謝など様々な機能的情報の取得も可能となっている。本稿では最新のMR による様々な分子イメージング手法を紹介し,がん診療に対する応用とこれからの展望について述べる。拡散強調像(DWI)は主に細胞密度と相関しており,腫瘍の悪性度を反映するといわれている。今日ではDWI はすでにがんの診断や治療効果判定に広く使われるようになっている。arterial spin labeling(ASL)法は造影剤を使わずに組織の血流情報を得る手法であり,造影剤を用いたダイナミックMRの代替あるいは相補的な手法として期待されている。amide proton transfer(APT)イメージングは,がん組織内部の可動性ペプチドや蛋白の量を反映しており,腫瘍の悪性度評価や治療効果の判定に役立つと期待されている。MR spectrosco-py(MRS)は空間分解能が劣るが,より特異的な腫瘍内代謝産物の測定が可能となる。最後に,PET/MR ハイブリッド装置はMRからの機能的・解剖学的情報とPET からの分子・代謝情報を同時に収集することが可能な装置であり,がんの画像診断に大きなインパクトを与えるものと期待されている。
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特集
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- がんサバイバーの妊孕性
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造血器腫瘍患者の妊孕性温存対策
42巻3号(2015);View Description
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化学療法や放射線治療は性腺に障害を与える。若年者の造血器腫瘍に対する通常の化学療法後は性腺機能回復がみられることも多いが,造血幹細胞移植の前処置は性腺機能に不可逆的な障害を及ぼす。妊孕性の維持のために男性患者は精子の凍結保存が可能である。しかし,化学療法後は良質な精子を数多く得ることが困難であり,可能な限り初回の化学療法を行う前に精子を採取する。女性患者も卵子を採取して受精卵あるいは未受精卵として凍結保存することができるが,急性白血病患者では化学療法の合間に良質な卵子を得ることは難しい。移植前の全身放射線照射時に卵巣を金属片で遮蔽すると移植後早期に卵巣機能が高頻度に回復するが,造血器腫瘍の再発率が増加しないかについては多数例の長期観察が必要である。 -
精巣腫瘍患者の妊孕性
42巻3号(2015);View Description
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精巣腫瘍に対する治療の進歩は目覚ましく,多くの症例で治癒が見込まれる。若年者,生殖年齢に多い癌であるため,治癒後のQOL としての妊孕性温存を念頭に置いた治療戦略が望まれる。精巣腫瘍の治療では手術,放射線療法,化学療法のすべてにおいて男性不妊となるリスクが存在する。妊孕性温存のための確立された唯一の手段は治療前の精子凍結保存である。人工授精のみならず体外受精,顕微授精が可能となった現代において,生存精子の存在は挙児の獲得につながる可能性が高い。精巣腫瘍では診断時からすでに精液所見が悪いことも多々あり,高位精巣摘除術の前に精液検査を施行することが望ましい。そして術前の精液検査にて無精子症や高度乏精子症では,高位精巣摘除術と同時に精巣精子採取術を施行することも考慮する必要がある。精巣腫瘍に限ったことではないが,思春期前の若年男児悪性腫瘍に対する治療において,将来の挙児に向けた妊孕性温存手段を確立することが今後の大きな課題の一つである。 -
乳がん患者の妊孕性とサバイバーシップ
42巻3号(2015);View Description
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乳がん患者のなかで40 歳未満の若年女性の割合は10%に満たないが,40歳未満の女性で罹患する悪性疾患のなかで最も多いのが乳がんである。乳がん診療の進歩に伴い,乳がん罹患後の予後が改善してきていることから,このような若年乳がん患者にはがん罹患後に妊娠・出産を希望する患者も少なくない。このような患者のニーズにこたえるために国内外で乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療について様々な取り組みがなされているが,がん治療医と生殖医療専門医の円滑な連携や乳がん患者に対する生殖医療の安全性の検証を目的としたデータベース作りなどの他,現場で起こり得る生命倫理的問題に対応できる人材育成やシステムの創出など,検討すべき課題は多い。 -
子宮頸癌・体癌・卵巣がん患者の妊孕性
42巻3号(2015);View Description
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日本女性の晩産化により,婦人科がん患者の妊孕性温存治療の重要性が増している。子宮頸癌ⅠA 1 期は円錐切除術のみで妊孕性温存が可能だが,欧米でⅠA 2 期,ⅠB 1 期に行われている広汎子宮頸部摘出術は日本の子宮頸癌治療ガイドラインでは推奨されていない。今後も子宮頸癌はHPV ワクチンにより予防可能な疾患なので,この術式が普及することはないであろう。内膜に限局した高分化型子宮体癌に対しては,わが国の第Ⅱ相試験の結果から高用量medroxyprogesteroneacetate投与により妊孕性温存治療が可能である。卵巣がんに関しては,明細胞腺癌以外の高分化,中分化腺癌ⅠA期に対しては妊孕性温存手術が安全に行えるが,わが国の多施設共同研究の結果から,明細胞腺癌ⅠA期と明細胞腺癌以外の高分化,中分化腺癌ⅠC 期に対しても化学療法を追加することにより妊孕性温存治療が可能かもしれない。 -
がん・生殖医療における妊孕性の問題点―ASCO のガイドラインを含めて―
42巻3号(2015);View Description
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近年,がんの診断および集学的治療の進歩の結果,若年がん患者におけるQOL(がんサバイバーシップ)に関心が高まっている。いうまでもなくがん患者にとっての最優先事項はがん治療の遵守であるが,しかしながらがん治療に伴う様々な問題(QOL低下)に対する十分な対策が講じられていない現状がこれまであった。そのため,生殖可能年齢の若年がん患者にとって,「子どもをもてない」また「妊孕性喪失」という事実をがん治療終了後に初めて知り,またその現実を受け入れざるを得ない状況が少なくない。がんによる生命の危機と妊孕性喪失の危機に直面している若年がん患者にとって,妊孕性温存に関する正確な情報を的確なタイミングで得ることができ,さらに安全なる妊孕性温存療法の実践は大きな希望となり得る。しかしながら,本邦においてもこのような体制が整っていない現状がある。すなわち,がん治療前に妊孕性に関する適確な情報が若年がん患者に十分に提供されているとは現状ではいえず,さらにわれわれ医療従事者が「がん・生殖医療に対する正確な知識(がん治療と生殖医療の最新の情報など)」を有していなければ,最善のがん・生殖医療を若年がん患者に提供することはできない。一方,若年がん患者に対しては原則として何よりもがん治療を最優先すべきであることを強調し,原疾患の状況によっては不妊治療を中断また終了せざるを得ない状況となることも少なくないことや生殖医療の限界も伝えていく必要がある。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍
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Ⅱ.骨軟部腫瘍において治療標的チロシンキナーゼ(Tyrosine Kinase)と阻害剤が果たす役割とその現状について
42巻3号(2015);View Description
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特別寄稿
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制吐薬適正使用ガイドラインに関するアンケート調査
42巻3号(2015);View Description
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制吐薬適正使用ガイドラインが発刊されて2 年経過し,わが国のがん医療現場で本ガイドラインがどのような評価を得ているか,がん関連5 学会の協力を得てアンケート調査を行った。方法: 2012 年6 月〜8 月まで日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会,日本緩和医療学会,日本放射線腫瘍学会の所属会員を対象として,日本癌治療学会のホームページにアンケートを掲載しweb上で回答を受け付け,集計した。結果: 1,529 の回答を得た。回答者の職種は医師73.4%,看護師7.3%,薬剤師17.7%であった。回答した医師の診療科は消化器外科18.9%,血液内科10.1%,腫瘍内科8.3%,消化器内科6.6%,泌尿器科9.2%,婦人科8.0%,乳腺外科6.4%であった。回答者の所属施設のうち68.6%ががん診療拠点病院,31.4%は拠点病院以外の施設であり,200床以上の病院は88.4%であった。まず,がん医療におけるガイドラインは93.8%が重視していた。本ガイドラインの認知度は85.5%であり,56.9%は学会・研究会などから,また28.8%が医療関係者から情報を得ていた。本ガイドラインは30.6%が施設で所有しており,54%は個人で所有していた。さらに,ガイドラインは87.8%の人々に一部またはほぼ全体を読まれ,93.6%が診療現場で利用していると回答があった。また,診療アルゴリズムあるいはダイアグラムはそれぞれ87.7%,89.9%の回答者が有用であるとしていた。考察: 医師を中心とした学会会員を対象としたアンケートであったが,会員数が少ないにもかかわらず看護師,薬剤師の回答率が高く,本ガイドラインが医師のみならずチーム医療として行われているがん化学療法の現場で重要視されていると思われた。また,医師の診療科別ではがん化学療法が重要な役割をしている診療科に幅広く認知されており,臓器横断的な支持療法のコンセンサス形成に役立っていると考えられた。
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原著
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ゲムシタビン耐性進行膵癌におけるS-1療法の投与スケジュールに影響される治療成績の検討
42巻3号(2015);View Description
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S-1の推奨用法は4 週投与2 週休薬(6週サイクル)であるが,胃癌や頭頸部癌において投与スケジュールを2 週投与1 週休薬(3 週サイクル)に短縮することで,消化器毒性が軽減することが報告されている。本研究では,ゲムシタビン耐性進行膵癌に対してS-1療法を受けた患者125名(6週サイクル57 名,3 週サイクル68 名)を対象として,投与スケジュール別の治療成績を比較検討した。両群間の全生存期間に差を認めないが,悪心や嘔吐の発現割合が3 週サイクルで低下した。進行膵癌に対するS-1療法は投与サイクルの短縮により,有効性を維持した消化器毒性の軽減が可能と考えられた。 -
大腸癌術後補助化学療法におけるCapeOX療法の検討
42巻3号(2015);View Description
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大腸癌術後補助療法としてのCapeOX療法の現状と副作用について,後ろ向きに検討を行ったので報告する。対象は大腸癌術後症例20 例とした。平均年齢は69 歳,男性15 名,女性5 名。Rs 直腸癌を含む結腸癌13 名,直腸癌7 名であった。CapeOX 療法は capecitabine 2,000 mg/m / / 2day を14 日間内服,1 日目にoxaliplatin 130 mg/m2を点滴静注,その後7 日間の休薬の21 日を1 サイクルとし,原則8 サイクルを実施予定とした。完遂率は55%,relative dose intensity の中央値はoxaliplatin 86%,capecitabine 88%であった。副作用はGrade 3 の好中球減少を2 例,Grade 3 の血小板減少を3 例に認めたが,発熱性好中球減少症は認めなかった。手足症候群および末ò神経障害は全Gradeで15 例ずつ認めたが,Grade 3 以上の症例は手足症候群の1 例のみであった。大腸癌術後補助治療としてのCapeOX療法は安全に施行可能であった。 -
注射用ホスアプレピタントに起因する静脈炎の軽減対策
42巻3号(2015);View Description
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当院では,催吐性リスク高度のがん薬物療法の嘔気対策は日本癌治療学会作成の「制吐薬適正使用ガイドライン」に準じてアプレピタントカプセル(AP)を使用している。AP のコンプライアンス改善を目的に,注射用ホスアプレピタント(FAP)の使用を一部で開始した。初期premedication であるFAP 150 mg を混合した生理食塩液100 mL を30 分で投与中に,2 症例中1 症例にgrade 4 の静脈炎が発生した。そこで,FAP 150 mgとデキサメタゾン注,5-HT3受容体拮抗薬を混合した生理食塩液100 mLを30 分で投与するpremedicationに変更した。変更後premedicationを27症例に投与した結果,5症例に軽い血管痛(grade 1)を発生したが,早期にホットパックを使用することでがん薬物療法の継続は可能となり,点滴時間も短縮できた。変更後premedicationは初期premedicationに比べ,輸液のpHはより中性に近づき,静脈炎の軽減効果が期待できるデータが得られた。 -
終末期がん患者に在宅療養移行を勧める時の望ましいコミュニケーション―多施設遺族研究―
42巻3号(2015);View Description
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目的:終末期がん患者の在宅療養移行時における医師とのコミュニケーションについて,家族からみた改善の必要性とつらさを明らかにし,関与する要因を明らかにすることを目的とする。方法: 15 の診療所で在宅緩和ケアを受けて死亡したがん患者の遺族1,052名を対象とした郵送調査を施行した。在宅療養移行時における医師とのコミュニケーションについて,改善の必要性と家族のつらさについて質問した。関連する要因として,医師の説明の仕方7 項目,医師の説明の内容12項目について回答を求めた。結果:主要評価項目である改善の必要性とつらさの両方に欠損がない616 名(60%)を解析対象とした。家族の30%(186名)が改善の必要が「かなりある」,「非常にある」と回答した。家族の59%(360名)が「つらい」,「とてもつらい」と回答した。在宅療養移行時のコミュニケーションに関する改善の必要性,つらさの決定要因は,①在宅療養への移行を「治療の失敗・医学の敗北である」,「もう何もすることはない」という医師の言動,② 患者や家族の心の準備を考慮しない説明,③病院医師と在宅医療を担う医師との緊密性がみえないこと,④ 医師の説明の途中で患者や家族が質問できないこと,⑤説明後の看護師によるわかりやすい補足がないこと,⑥ 在宅療養に関して早急な決断を迫ることであった。結論:在宅療養移行時のコミュニケーションにおいて,終末期がん患者の家族の30%が改善の必要性を約60%がつらさを感じていた。在宅療養移行時のコミュニケーションの望ましいスタイルとして明らかになった医師・看護師の態度に基づいた介入研究により,効果の検証が求められる。
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薬事
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日本国内の臨床試験に基づく抗がん剤の催吐性リスク分類
42巻3号(2015);View Description
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がん化学療法による悪心・嘔吐の予防は,患者のQOL を低下させることなく治療を継続するために重要である。ASCO や MASCC/ESMO,NCCN などが示す制吐療法の国際的なガイドラインの発行を受けて,日本においてもガイドラインが制定されたが,国内外のガイドラインを含め,日本国内の臨床試験に基づくエビデンスが不足している現状がある。そこで本研究では,日本国内で実施された臨床試験における抗がん剤による悪心・嘔吐の発現頻度を明確にするとともに,その評価を試みた。その結果,ゲムシタビンなどのいくつかの抗がん剤においてガイドラインとの相違が認められた。これらの抗がん剤の催吐性を再評価するとともに,今後はレジメンの種類や併用療法の有無,リスク因子などを考慮した制吐薬の選択基準の作成など,エビデンスの収集,制吐療法の適正化を行う必要があると考える。
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症例
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3週間毎のPaclitaxel+Bevacizumab併用療法で長期間奏効を保てているStageⅣ乳癌の1 例
42巻3号(2015);View Description
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paclitaxelとbevacizumabの併用療法(paclitaxel+bevacizumab併用療法)を3 週間毎投与に変更することで長期間のpartial response(PR)を維持できているStageⅣ乳癌の症例を経験したので報告する。症例は46 歳,閉経前女性。左乳癌の術後4 年目に肺転移,骨転移を来し内分泌療法が行われていたが,1 年9 か月後,肝転移が出現した。これに対し,paclitaxelを90 mg/㎡(day 1,8,15),bevacizumabを10 mg/kg(day 1,15)で投与した後1 週間休薬とし,4 週間毎のコースで投与開始した。3 コース目まで毎回grade 3 の好中球減少の副作用が続いたため,3 週間毎にpaclitaxel とbevacizumabを投与することとした。以後重篤な副作用なく1 年近く治療継続できており,全身状態良好でPR を継続している。paclitaxel+bevacizumab 併用療法において投与間隔を工夫することで長期間の投与継続が可能であり,奏効を保てることが示唆された。 -
Bevacizumab+Paclitaxel併用療法が奏効し1 年以上オピオイドの減量が得られたStage Ⅳ乳癌の1 症例
42巻3号(2015);View Description
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症例は65 歳,女性。右乳房腫瘤,右上肢疼痛を主訴に当科を受診した。リンパ節・肺・肝・骨転移,癌性胸膜炎を伴うStage Ⅳ乳癌[硬癌: ER(+),PgR(+),HER2(−)]と診断された。bevacizumab+paclitaxel併用療法で化学療法を開始するとともに,オピオイドを用いて疼痛緩和を行った(オキシコドン40 mg/日)。1 コース終盤には疼痛が軽減し,オピオイドを減量できた(オキシコドン20 mg/日)。24 コース(約 1 年 10 か月)まで PR を継続し,良好な疼痛緩和が得られた。bevacizumab+paclitaxel併用療法は早期の良好な反応を得られるとともに,緩和的化学療法として患者のQOL 改善にも役立つものと思われた。 -
胃癌術後15年目の腹膜播種再発に対してS-1+Paclitaxel経静脈・腹腔内併用療法が著効した1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は70 歳,女性。15年前に3 型胃癌に対して幽門側胃切除を受けていたが,今回,腹水貯留を認め紹介入院となった。腹水細胞診でclass Ⅴ,腺癌を認めたが,画像上は原発巣を指摘できなかった。腹水検体に対してセルブロックを行い,免疫組織化学染色を施行することで胃癌の腹膜播種と診断した。S-1/CDDP 療法をはじめとする化学療法を施行したが PDとなり,S-1+paclitaxel経静脈・腹腔内併用療法に変更したところ,腹水の著明な減少を認めた。S-1+paclitaxel経静脈・腹腔内併用療法は胃癌腹膜播種症例に対して,今後その有効性が期待できる治療法である。 -
S-1/CDDP 療法により組織学的CR が得られた腹膜転移を伴う高度進行胃癌の1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は64 歳,男性。上部消化管内視鏡検査で前庭部小弯に3 型進行胃癌を認め,CT 検査では所属リンパ節転移が疑われたが肝転移や腹水は指摘できなかった。審査腹腔鏡を行い,腹膜結節が多数みられ,病理検査で腹膜転移と診断された。治癒切除不能と判断し,S-1/CDDP 療法を 6 コース施行した。CT 検査上リンパ節腫大は消失したため,審査腹腔鏡を再度行った。腹膜転移は瘢痕化しており,幽門側胃切除術を施行した。切除標本の病理組織学検査にて主病巣,リンパ節,腹膜結節に癌細胞はみられず,効果判定Grade 3,組織学的CR であった。 -
Capecitabine+Cisplatin+Trastuzumab療法で原発巣が消失したHER2 陽性進行胃癌の1 例
42巻3号(2015);View Description
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HER2 陽性進行胃癌に対しcapecitabine+cisplatin+trastuzumab(XPT)療法を施行し臨床的完全奏効が得られ,R0切除を行い得た症例を経験したので報告する。症例は66 歳,男性。胃角部大弯前壁に2 型腫瘍を認め,生検でtub1-2,HER2:3+。CT では肝S1に21×9 mmの腫瘍を認め,3b,4d,16a2,16b1,左鎖骨上(Virchow)リンパ節は腫大していた。XPT療法を4 コース施行したところ,臨床的完全奏効が得られた。以後capecitabine+trastuzumabのみ13 コース継続し,手術を行った。幽門側胃切除D2 郭清Billroth Ⅰ法再建,16a2,16b1,Virchowリンパ節摘出を行った。肝転移は認めなかった。摘出胃と領域リンパ節には病理組織学的悪性所見を認めなかったが,Virchowリンパ節に転移を認めた。病理所見はypT0,ypN0,ypM1(LYM),Grade 2,ypStage Ⅳであった。術後縫合不全を生じ開腹ドレナージを要したが,76 日目に退院した。 -
胃癌術後播種性骨髄癌症に対して組換えヒト可溶型トロンボモジュリン製剤が有効であった1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は62 歳,男性。胃癌術後8 年目に播種性骨髄癌症を発症した。組換えヒト可溶型トロンボモジュリン(rTM)製剤の使用に引き続き化学療法を併用することで,悪性腫瘍に伴う播種性血管内凝固(DIC)からの離脱と,頑強な癌性疼痛の改善が得られた。rTM製剤は,特に固形癌に伴うDICに対する新しい治療法となる可能性が示唆された。 -
TS-1内服により4 年間無増悪で経過観察し得た十二指腸乳頭部癌の1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は63 歳,男性。発熱,食欲不振,胆道系酵素の上昇があり,2008 年7 月に近医より当院へ紹介となった。上部消化管内視鏡検査およびCT 検査にて多発肝転移を伴う十二指腸乳頭部癌と診断し,TS-1 内服による化学療法を開始した。TS-1 内服中に多発肝腫瘤は不明瞭化したため,そのまま内服を継続し,約4 年が経過した。2012 年6 月になり発熱,黄疸,食欲不振が出現し,精査の結果原発巣の増大を認めず,多発肝腫瘤は不明瞭化したままであったため切除可能と判断し,8 月に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織検査結果はT1N0M0,StageⅠ,原発巣はほぼviable な細胞であった。術後約2 年が経過するが,再発徴候なく経過している。 -
腸型肺腺癌が原発と診断し得た癌性リンパ管症で化学療法が奏効し長期生存を得た1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は66 歳,男性。呼吸苦と下腹部痛を主訴に来院した。下行結腸癌・癌性リンパ管症の診断となり,化学療法を施行したところ18 か月の長期生存を得ることができた。癌性リンパ管症は予後不良な疾患であり全身状態も不良のことが多いが,症状緩和目的に化学療法を施行したところ奏効し,長期生存を得たので文献的考察を含め報告する。また,臨床的に大腸癌の肺転移と考え上記化学療法を行ったが,死後の検討で気管支洗浄液細胞診の検体を転写法にて免疫染色したところ,cytokeratin(CK)7 で陽性を示した。大腸組織生検でCK7 陰性を示し結果が乖離したことから,本症例の癌性リンパ管症は同時に重複した腸型肺腺癌に起因する可能性があげられ,診断学的にも興味深いと考えられた。 -
Docetaxel投与で過敏反応を起こしたがNab-Paclitaxel投与は可能であった肺扁平上皮癌の1 例
42巻3号(2015);View Description
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症例は61 歳,男性。右下葉原発の肺平上皮癌に対する一次治療としてcisplatin とdocetaxel(DTX)の2 剤併用治療を行ったが,2コース目のDTX の投与開始直後に過敏反応を起こした。39か月後,六次治療としてnab-PTXの単剤投与を行ったが,重篤な副作用はみられなかった。DTX投与の際の過敏反応はタキサン系の溶解剤に対するものと考えられ,厳重な監視下でのnab-PTXの投与は治療の選択肢の一つと考えられた。 -
S-1単剤投与により長期病勢コントロールし得た高齢者進行非小細胞肺癌の3 例
42巻3号(2015);View Description
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今回われわれは,S-1 単剤投与により長期に病勢コントロールし得た高齢者の非小細胞肺癌症例を3 例経験したので報告する。症例1 は75 歳,男性。cStage ⅢAの肺腺癌に対して,四次治療としてS-1 を使用したところPR を得て,PFS は8 か月であった。症例2 は78 歳,女性。cStage Ⅳの肺平上皮癌に対して,三次治療としてS-1 を使用した。結果はPR で,PFS は14 か月であった。症例3 は83 歳,男性。cStage Ⅳの肺平上皮癌に対して,CBDCA+PTXの既治療後にS-1隔日投与を開始した。腫瘍縮小効果は認められなかったが,11か月にわたりSDを維持し得た。
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