Volume 42,
Issue 13,
2015
-
総説
-
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2409-2413 (2015);
View Description
Hide Description
細胞がん化の第一標的がDNAであることを示す証拠は多い。たとえば,網膜芽細胞腫(RB)や家族性大腸ポリポーシス(FAP)などは原因遺伝子が特定されており,その遺伝子の突然変異が発がんの直接原因であることが明確に示されている。しかし,それらの患者のがん発症頻度は10 万人に数名程度と極めてまれな事象である。ところが,ヒトの半数はがんになる。突然変異頻度と発がん頻度が桁違いに違うという事実からだけでも,大部分の細胞がん化が単独の遺伝子変異で生じている可能性は極めて少ないことを示唆する。それどころか,現在,発がん機構としていちばん信じられている「発がんは複数の突然変異が積み重なって進行する」という「多段階発がん機構」では説明できない。一度に複数のがん関連遺伝子が同時に変化するのだろうか。ヒトゲノム解析プロジェクトの結果,ヒトの全遺伝子数は意外に少なく,およそ25,000遺伝子であることがわかった。そのうちの約10%,数にしておよそ2,500遺伝子が細胞増殖や血管新生など,何らかの意味でがん形質発現に関係する遺伝子であると予想されている。そして,1 Gy放射線の被曝で誘導される一般的な遺伝子の突然変異率は,およそ10−5程度であるのに反し,細胞がん化頻度は3×10−2と桁違いに大きく,1 Gy の放射線はがんに関連する2,500 遺伝子のすべてが同時に突然変異を起こさねばならないことになる。しかし,これまでそうしたことが起きていることを示唆する結果はない。これらのことからも放射線発がんは,突然変異を経る経路以外に発現頻度が極めて高い経路が存在すると考えるのが極めて自然である。ここでは放射線発がん機構に関して,私が40 年余りの研究で得た成果から導きだした「突然変異を経由しない発がん経路」の実体について解説する。
-
特集
-
-
チーム医療のなかでの漢方薬の果たす役割
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2414-2417 (2015);
View Description
Hide Description
がん治療における漢方の役割は多岐にわたる。しかしながら,残念ながら漢方だけでがんを治癒に導くことは不可能である。むしろ手術,化学療法,放射線療法などの治療とうまく組み合わせることで治療がうまくいくことが多い。その意味において,多領域の専門家が力を合わせてチーム医療を行うなかでこそ漢方の強みが発揮される。漢方治療の特徴は病気ではなく,病気をもつ人間の診断をすることにある。これを「証」という。がんの患者の「証」は「虚証」,「寒証」,「気虚証」,「血虚証」であることが多く,それに応じて補中益気湯,十全大補湯が用いられる。その他,気虚証,血虚証に対する漢方治療は多々あり,がん患者の支援を行う。さらに漢方治療は薬物療法の他,鍼灸治療,養生も含まれ,こうしたことを総合的に行うためにはチーム医療が欠かせない。がんという病気でなく,がんを有する1 人の患者のためにも漢方治療の活用を望みたい。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2418-2422 (2015);
View Description
Hide Description
がんとがん治療に伴う様々な症状によってがん患者は元気がなくなっているが,漢方薬により患者は元気を取り戻す。がん治療を成功させるためには,患者の気力と体力の回復と維持が重要である。そのための漢方薬の適用法は,補剤(補中益気湯,十全大補湯,人参養栄湯など),補腎剤(牛車腎気丸など)および駆瘀血剤(桂枝茯苓丸,桃核承気湯,当帰芍薬散など)をそれぞれ選択し,正しく組み合わせた治療である。患者は状態に合った漢方薬を服用すると,食欲・睡眠・排便・排尿などの基本的な生体機能が回復し,栄養状態や精神状態も改善する。治療の副作用が抑制されるため予定どおりのがん治療が完遂でき,さらに免疫力が高まるため患者の治療成績は向上する。また,高度進行がんで他に治療法がない患者にとって,漢方は最後の一手ともなる。がんのチーム医療に漢方を導入すると患者は気力が回復して闘病意欲が高まるため,各職種のスタッフが患者と良好なコミュニケーションをとることが容易となる。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2423-2429 (2015);
View Description
Hide Description
がんの化学療法と日本の伝統的な薬「漢方」の融合によって悪性腫瘍の予後が改善され,漢方薬はがん化学療法の副作用対策として新たな時代を迎えた。がん化学療法の副作用である口腔粘膜炎の予防と治療のため,半夏瀉心湯の安全性と有効性を検討するプラセボ対照多施設二重盲検前向き試験の第Ⅱ相試験が胃がんと大腸がんで実施された。半夏瀉心湯が口腔粘膜炎の発症のリスクを予防し,治癒期間の短縮に貢献した。また,末梢神経障害の予防のため牛車腎気丸の有効性を検討する臨床試験が実施され,牛車腎気丸はがん治療の有効性を損なうことなく神経毒性の発症を遅延させる結果が得られた。がん化学療法時に併発する副作用の予防を改善し治癒させることは難しいが,六君子湯,十全大補湯,補中益気湯などの漢方薬の効能により免疫力が向上され,全身状態の改善を図ることができるようになった。進行がんで治療を受けている患者のために,抗がん剤の副作用を軽減するための漢方治療薬の有効性と安全性を知ることは重要である。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2430-2433 (2015);
View Description
Hide Description
手術侵襲は生体に様々な変化を惹起する。栄養状態の悪化や免疫能の抵下により,合併症が増加するばかりでなく,長期予後にまで悪影響を及ぼすことが明らかとなってきた。そのため,手術治療はできるだけ侵襲を少なくし,術後合併症を減らし,良好な術後経過をめざすことが重要である。しかしながら,患者ごとに状況や病態が異なるため,従来の西洋医学的アプローチ一辺倒では解決できない場面にも多々遭遇する。そのような場合に大きく貢献できるのは漢方薬であると考えている。特に近年,種々の病態に対する有効性が証明され,さらにその薬理成分や薬効が科学的に裏付けられるにつれ,漢方薬は様々な効果を期待されて用いられることが多くなってきている。複数の専門職が集まって行うチーム医療において,漢方薬は様々な状況に効果を発揮でき,重要な位置を占めると考えられる。手術侵襲後の免疫能改善目的に補中益気湯や十全大補湯,術後の消化管運動機能改善目的に大建中湯や六君子湯,術後の創痛コントロール目的に芍薬甘草湯,術後せん妄に対し抑肝散,肝機能障害に対し茵蔯蒿湯が有用であることが報告されている。このようにうまく使用されている処方例を参考にして治療選択肢の引きだしを一つ多くもつことは,がん周術期の患者にとっても大きな福音となるものと思われる。
-
原著
-
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2447-2450 (2015);
View Description
Hide Description
2010年7 月〜2014年3 月に岐阜市民病院血液内科において,レナリドミド(Len)が投与された多発性骨髄腫(MM)患者の血小板減少症発現とその因子について解析を行った。対象はMM患者28 症例で,年齢の中央値(範囲)は70.5(55〜84)歳,男性18 名,女性10 名であった。Len 投与開始から投与中止・延期または投与量が減量となった時点までを調査した。「Len投与開始前の血小板数(Plt)(服用前Plt)」と(「服用前Plt」―「投与中止・延期または投与量が減量となった時点までのPltの最低値(Min-Plt)」)の相関に関しては,有意な相関を認めた(r=0.674,p<0.001)。単変量解析においてgrade 2以上のPlt 減少の副作用を引き起こす因子は,「Pltの基準値下限(14.0×10 / 4mL)未満」で有意な差を認めた(p=0.011)。単変量解析においてp<0.25 であった因子およびLen の1 日投与量に関して多変量解析を行った結果,「Plt の基準値下限未満」の因子が検出された[odds ratio: 15.12,95% confidence interval(CI): 1.712-133.5,p=0.015]。結論として,Len 投与に伴う副作用である血小板減少症の予測因子はLen 投与開始前の「Pltの基準値下限未満」であることが示唆された。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2451-2455 (2015);
View Description
Hide Description
CHOP 療法に抵抗性で急激な病勢の増悪をみた2 例の進行期菌状息肉症に対し,ゲムシタビン(GEM)1,000〜1,200mg/m2のweekly 療法を行い,著明な皮疹の改善と生存期間の延長を認めた。海外では,2000年ごろよりcutaneous T-celllymphoma(CTCL)に対するGEMの有効性について報告されているが,本邦での報告はこれが初めてである。自験例2例に対して,GEM は副作用が比較的軽度で皮膚症状への効果が高く,進行期CTCL に対する有効な化学療法の一つとなる薬剤と考えられたので報告する。
-
薬事
-
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2457-2459 (2015);
View Description
Hide Description
医療従事者の長期的抗がん剤曝露による健康被害が報告されている。山形県立中央病院では看護師に対し,通常個人防護具(手袋,フェイスシールド付きマスク)の着用を義務付けていたが,防護ガウンについての明確な記載はなかった。今回,看護師のシクロホスファミド(CPA)取り扱い時における曝露状況と防護対策としての防護ガウンの有用性を検証するため,取り扱い者のCPA尿中濃度を測定した。結果は,防護ガウンの着用,未着用いずれの状況下においても看護師の尿からCPAは検出されず,手袋,フェイスシールド付きマスクで十分曝露防止が可能と考えられた。しかし,結果的に熟練看護師による検討となり,取り扱い手技に不慣れな看護師の場合では曝露が起こり得る可能性は十分考えられるため,防護ガウン着用が不要とはいえない。今回の調査結果は,看護師の曝露防止対策を検討する上での一つの参考になると考える。
-
調査報告
-
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2461-2466 (2015);
View Description
Hide Description
2010年9 月〜2012年9 月に帯広厚生病院血液内科においてlenalidomide(Len)+dexamethasone(Dex)療法を施行した再発および難治性の多発性骨髄腫(multiple myeloma: MM)患者を対象としてQOL調査を行い,Len+Dex療法における治療効果および副作用との関連性について検討した。QOL-ACD 調査票を用いて調査した結果,4 サイクル以上施行した対象患者7 名の平均QOL 得点はLen+Dex 療法施行前に対し5 点低下した。また,QOL 得点の変化はM 蛋白の変化率と有意な相関がみられた(相関係数R=0.777)。一方,発現した副作用項目とQOL 得点の変化との間には有意な相関は認められなかった。今回の調査結果は,Len+Dex療法が奏効した場合にはQOL も改善する可能性を示している。
-
症例
-
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2467-2470 (2015);
View Description
Hide Description
症例は78 歳,男性。進行胃癌に対しS-1とオキサリプラチンによる化学療法を行った。初回,吃逆と吐気が出現し,6 日目に低Na 血症(血清Na 120 mEq/L)が判明した。尿中 Naの排泄増加およびADHの相対的高値から,化学療法による抗利尿ホルモン分泌不適合症候群と診断した。高張食塩水点滴で回復した。S-1 を再開したが低Na 血症の再現はみなかった。自験例の低Na 血症には内服していたACE阻害薬とK保持性利尿薬の関与も疑われた。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2471-2475 (2015);
View Description
Hide Description
症例は77 歳,女性。背部痛を主訴に当科を受診した。上部消化管内視鏡検査で胃体部に4 型病変を認め,生検で低分化型腺癌と診断された。human epidermal growth factor receptor 2(HER2)は陽性であった。骨シンチグラフィでは全身に多発性骨転移を示し,骨髄生検では腺癌細胞を多数認めた。また,血液検査ではdisseminated intravascular coagulation(DIC)が示唆された。以上より,胃癌骨髄癌腫症と診断した。血球減少が著しく進行したため,輸血・抗凝固療法を併用しながら,救命のために化学療法を開始した。S-1 80 mg/㎡を14 日間内服・7 日間休薬,trastuzumab 6 mg/kg(初回のみ8 mg/kg)を 3 週に 1 回投与する S-1/trastuzumab 併用療法を行ったところ,1 コース終了の時点で DIC を離脱でき,その後,約 14か月の生存期間が得られた。この経験から,S-1/trastuzumab併用療法はHER2陽性胃癌骨髄癌腫症に対する有効な治療選択肢の一つと考えられた。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2477-2479 (2015);
View Description
Hide Description
症例は70 歳,男性。大腸印環細胞癌のリンパ節転移に対してS-1/oxaliplatin+bevacizumab療法を実施していたが,腰背部痛を契機に播種性骨髄癌腫症と disseminated intravascular coagulation(DIC)と診断された。CPT-11/panitumumabによる化学療法を開始した。2コース投与後には,DICから離脱し腰背部痛も消失した。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2481-2483 (2015);
View Description
Hide Description
症例は64 歳,男性。主訴は咳嗽。精査で直腸癌,癌性リンパ管症,多発リンパ節転移,肝転移の診断となり,mFOLFOX6+セツキシマブを開始。2 コース終了後に咳嗽と癌性リンパ管症は改善し,4 コース終了後の効果判定はpartialresponse(PR)であった。6 コース目のオキサリプラチン投与開始後5 分でアナフィラキシーショックを認め,対症療法で改善した。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2485-2488 (2015);
View Description
Hide Description
症例は63 歳,男性。血便を主訴に下部消化管内視鏡検査で直腸Rs に2 型腫瘍を指摘され,生検で低分化型腺癌の診断を得た。腹腔鏡補助下前方切除を受け,切除標本の病理診断は直腸神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma: NEC)で固有筋層浸潤があり,リンパ節転移陽性,Ki-67index>70%であった。補助療法としてcapecitabineを6 か月間投与し,40 か月以上無再発生存中である。直腸NEC の予後は不良で,確立された化学療法はないが,術後補助化学療法としてcapecitabineが有効である可能性が示された。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2489-2491 (2015);
View Description
Hide Description
症例は70 歳台,男性。直腸癌の診断で低位前方切除術を施行。pT3,pN1,cM0,pStage Ⅲa であり,術後補助化学療法はUFT+LV を施行した。術後6 か月で多発性肝・肺・傍大動脈リンパ節転移を認めたため,FOLFOX4+bevacizumabに変更し合計24 コース施行した。治療は奏効し画像上,肝転移巣および傍大動脈リンパ節転移巣は消失し,肺転移巣もほぼ消失したため治療を終了した。化学療法終了2 年後,画像上消失していた肝転移巣が同じ場所で再発した。画像上complete response(CR)と病理学的CR は異なるため,画像上CR が得られても厳重な経過観察が必要である。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2493-2496 (2015);
View Description
Hide Description
cyclophosphamide(CPA)とvincristine(VCR)を含む化学療法中の合併症に低Na血症が知られている。今回,非ホジキンリンパ腫の化学療法中に重篤な低Na 血症を呈した症例を経験した。症例は69 歳,男性。びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と病理診断され,THP-COP 療法が開始された。第 1 コース中に血清 109 mEq/L の低 Na 血症を呈し,N-acetyl-b-D-glucosaminidase(NAG)の上昇を認めた。CPA と VCR を除いた第2 コースでは血清Na濃度は130 mEq/L にとどまった。第 3 コース以降に CPA を含めた化学療法を実施したところ血清 Na 濃度は 124〜125 mEq/L までの中等度の低下があり,NAG の上昇があった。CPA とVCR の併用療法による低Na 血症の原因には,少なくともCPA による腎尿細管障害があった。CPA とVCR の併用療法中に低Na 血症を呈した患者で,その後化学療法を施行する際には低Na 血症発現の注意喚起をする必要がある。
-
Source:
癌と化学療法 42巻13号, 2497-2500 (2015);
View Description
Hide Description
症例は74 歳,女性。4 型胃癌のため,術前化学療法および栄養管理を目的に右鎖骨下静脈より皮下埋め込み型中心静脈ポート(CVポート)を留置した。留置後35 日目に突然,下痢,発熱および呼吸苦が出現し,胸部X線写真で右胸水を認めた。敗血症と考え治療を開始したが,しだいに呼吸不全に移行したため人工呼吸管理とした。また,ポート感染の可能性も考慮し,新たに右大腿静脈よりCV ポートカテーテルを留置した。胸水の培養検査,細胞診では異常を認めなかったが,血液培養でBacillus cereusが検出された。その後,全身状態が改善した後に再びCV ポートより補液を開始したところ,再度呼吸苦が出現し,胸部CT で右胸水とともにカテーテル先端の血管外への逸脱を認め,遅発性血管損傷と診断した。胸水穿刺,CV ポート抜去後は速やかに症状の改善が得られたが,retrospective に検証すると,遅発性血管損傷とBacillus cereusによる敗血症が併存した症例と考えられた。遅発性血管損傷はまれではあるものの重篤化することが多く,CV ポートカテーテル留置に伴う合併症の一つとして認識しておく必要がある。