癌と化学療法

2015, 42巻Supplement Ⅰ
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特集 【第26 回日本在宅医療学会学術集会】
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巻頭言 在宅での看取り(看病)―地域連携を利用して――第26 回日本在宅医療学会学術集会を振り返って―
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今日の在宅医は「ストライク」―がん末期の症例をとおして考える―
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がん治療においても,住み慣れた自宅での生活を希望される患者が多く,その際に様々な問題が障害となることが多い。がん治療の初期は,病気の告知を受け患者は病気と向き合う努力をするが,その後再発,そして積極的な治療がなくなってくるという転機をたどる。その経過とともに,患者・家族は身体的にも精神的にも負担が大きくなってくる。どの段階においてもケア提供者が向き合い,寄り添い,話を傾聴することで障壁を乗り越えられることも多々ある。しかし,特にがん患者はあまりにも短い余命宣告を受けることがある。長年,信頼している病院の医師から在宅医療への移行を説明された瞬間から患者は主治医変更の決断をし,突然に在宅主治医を選ばなければならない。その在宅主治医との出会いが患者の心を左右することがある。今回,自宅で最高の看取りができた1 例を報告する。 -
医療と介護の連携強化への支援―新宿区での在宅診療医とケアマネジャーの交流会―
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新宿区では平均在院日数の短縮,高齢化から在宅療養する高齢者の増加が見込まれ,医療と介護の連携が今後さらに重要になると考えられる。新宿区が行ったケアマネジャーへの調査から,医師とケアマネジャーの話し合う機会が少ないことが連携の課題であると明らかになっている。そこで医療と介護の連携強化のため,在宅診療医とケアマネジャーの交流会を実施した。参加した医師,ケアマネジャーへのアンケートの結果,回答者全員から「参考になった」,回答者の95.5%から「互いの領域・視点への理解が深まった」との回答が得られた。以上より,交流会が医師とケアマネジャーの相互理解と連携促進に寄与したことが示唆された。 -
地方都市の現状
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ケアを個人個人の価値観にきめ細やかに適応させるため,多職種連携を生かしてquality of life(QOL)の改善を図るのが地域包括ケアの本質である。地方都市ではすでに高齢者数はピークに近く,今後の高齢化率の進行は生産年齢の減少によると予測されている。地方都市において時間的余裕はなく,現在ある介護福祉関連施設を効果的に連携させていくことも必要である。在宅ケアを正しく理解してもらい幅広く知ってもらうための窓口として,総合病院で在宅療養支援外来を開設した。在宅ケアのさらなる充実と在宅療養へのスムーズな移行をめざしている。在宅ケアは,自立した快適な生活を支えるケアへとステージアップする時期にきている。今後,地域ごとに検討していかなければならない。 -
西宮市における終末期がん患者の療養場所の選択
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積極的治療の適応がなくなった進行がん患者の終末期における療養場所の選択は,たいへん重要な課題である。当院から他施設への病診・病病連携による紹介を行った終末期がん患者147 例について,紹介後の経過を検討した。当院から緩和ケア病棟への紹介は44 例(30%),在宅療養支援診療所への紹介は103 例(70%)であった。その後,病状の進行により療養先が変更した結果,死亡時の療養先は不明症例を除くと緩和ケア病棟52 例(47%),自宅41 例(37%),当院18 例(16%)となった。積極的ながん治療が終了した後の療養のための紹介先は,全国アンケートの結果とほぼ同じであったが,最期の療養場所として自宅を選択された患者が全国アンケート結果の約3 倍認められた。支援施設との密接な病診連携の下で終末期がん患者の療養先を決定することにより,最期を自宅で迎えられる患者が増加する可能性が示唆された。 -
在宅医療におけるスマートフォンなどの端末の必要性についての試み
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在宅療養においてビデオコールは不安の軽減や安心感を提供することができる。在宅療養のサポートとして,当施設では端末はiPad Air とiPhone をソフトはFaceTime の使用が最も適していたが,特定の端末の使用に限定されていた。特別な端末・ソフトを不要にするためWeb Real Time Communication(WebRTC)を利用し,当施設の要望に合うようにカスタマイズされたプログラムを会津大学と提携し開発した。このプログラムによりビデオコールが多くの在宅療養患者に適応できるようになるであろう。 -
在宅療養支援診療所の活用事例にみるモバイル検査機器の有用性と課題の検討
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医療依存度の高い在宅療養者の増加と地域完結型の医療の実現をめざす保健医療政策の展開過程において,今後,検査ニーズの高い療養者のいっそうの増加が見込まれる。自ら選択した在宅療養が健康の揺らぎや介護力の限界から持続困難にならないように,新たな技術を効果的に用いて療養者を支えることを検討する。本研究はモバイル検査機器に焦点を当て,モバイル検査機器による検査の有用性と活用上の課題を明らかにすることを目的とする。在宅療養支援診療所で実際にモバイル検査機器の活用経験をもつ4 名の医師を対象にインタビューを行い質的分析を行った。結果,検査の有用性では7 カテゴリー,課題では5 カテゴリーを抽出した。得られたカテゴリーからエビデンスを用いた在宅ケアの現状と新たな在宅ケアの在り方が推察された。 -
iPadを用いた吸入指導の効果―ウェブアプリ「吸入レッスン」―
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吸入薬により治療を行っている喘息,chronic obstructive pulmonary disease(COPD)患者に対して行う吸入指導は十分な治療効果を得てアドヒアランスを維持するために重要である。しかし,多くの患者をかかえる医療スタッフの時間的制約や指導側の知識不足などの問題が存在する。そこでiPad を用いて吸入方法を説明する,動画と復習テストからなるウェブアプリ「吸入レッスン」を作成した。ディスカス製剤を使用している患者に対し,本ツールを用いて吸入指導を行いその効果を検討した。「吸入レッスン」の視聴前後で吸入手技の改善を有意に認めた。このツールを使用することにより,患者が医療施設を訪問することのない在宅医療の現場においても均質な吸入指導を可能にすると考える。 -
在宅医療(施設)における医薬品急配の実態について
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少子高齢社会の到来によって医療提供体制が大きく見直されるようになり,在宅医療が推進されるようになった。在宅療養者に対する医薬品の供給は,患者の容態が落ち着いている場合は在宅主治医が発行した処方箋を薬局が受け入れて計画的に医薬品を供給している。一方,容態の急変によって医薬品の追加や変更がある場合がある。また,在宅主治医の専門診療科以外に眼科,整形外科,皮膚科などを外来受診する時がある。このような場合には,計画的にはいかず薬局が医薬品を患者宅に届けることになる。このような医薬品の配送は突然に発生し,さらに時間帯としても開局時間以外の時が少なくない。この急な医薬品配送は薬局の大きな負担になっている。今回,医薬品の急な配送依頼の実態について報告する。 -
医療用麻薬の供給体制について
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近年,がん患者の在宅医療が進むにつれて疼痛管理のために医療用麻薬の処方が急増している。医療用麻薬の供給は主治医が発行した処方箋によって薬局から供給されることから,薬局の備蓄状況が問われている。薬局の多くは麻薬小売業者免許を取得しているが,備蓄品目およびその量が極端に少ない。一方,医療用麻薬を供給する卸も全店舗で麻薬元卸売業者または麻薬卸売業者の免許を有しているわけではない。また,卸の個々の支店や営業所での在庫量も多くないため,急な医療用麻薬の処方が発生した場合には地域で必要な医療用麻薬を確保するのが,たいへん困難なケースがある。今回,医療用麻薬の供給に当たって備蓄の視点から卸および薬局の課題について報告する。 -
多職種連携における薬剤師の存在意義
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2025年問題直面に当たりすでに在宅医療にかかわっている各医療職種の疲弊を防ぐには,参画母数を増やすこと,業務を効率化することの二点が有効であると考える。参画母数を増やすには参画職種を増やすことと既存職種人員の裾野を広げることが,業務を効率化するには各職種の職能をよりよく知り適材適所の人員配置をもって業務内容を正確かつスピーディーに進めることが重要と判断される。検証の結果,在宅医療を地域で支えるには多様な職種がそれぞれ最も専門とする役割を受けもつのが効率的であり,人員の裾野を広げるには各職種がより機能分化してメンター制度を取り入れ,ラーニングピラミッドの理念に準じて後進育成を図るとともに,地域内・同職種内・関連職種間での情報共有を進めることが有効と結論する。 -
在宅医療に参画する小規模薬局の現状と問題点
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少子高齢社会の到来によって在宅医療の充実が指摘され,そのなかで薬局の活用も重要とされている。当薬局は開局以来,在宅医療に取り組んでいるが,現在の運営上の問題点を抽出,検討することにより今後の展望を検討した。当薬局は医療依存度の高い在宅療養者にも十分対応できるようにしているが,小規模薬局のため訪問の移動距離,移動時間などの状況によって少ない人材での勤務シフト組み立て,24 時間対応などが難しい。そのため勤務薬剤師個々への負担が大きい。2025年に向けて小規模薬局が独立して十分な役割を果たすには,一薬局が「自己完結型薬局」となることは困難であるが,複数の小規模薬局がそれぞれの独自性を生かし,互いに補完し合う「地域完結型薬局」というべき薬局チームを作ることは現実的であると考える。このような地域連携で在宅医療の充実を図るためには,他職種との連携はもとより,市町村,職能団体の協力が必要である。 -
独居かつ認知機能が低下した高齢者に対する服薬支援の在り方
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少子・高齢社会の到来によって在宅医療が推進されている。在宅療養者は様々な療養環境にあるとともに様々な症状をもっている。そのなかで独居と認知症が重なると「困難事例」となりやすく,これらを支えていくなかで独居高齢者に対する訪問服薬指導の意義とは,患者に残された身体能力と認知能力を最大限に活用し,限られたケアプランのなかで最適な解(服薬環境整備・服薬支援計画)を導きだすことであると考えた。高齢化が進むにつれて,今後は「独居」と「認知機能の低下」した在宅療養者が増加すると考えられ,今後の在宅医療の現場での課題の一つとなる。 -
在宅医療に参画する薬局が外来業務をとおして多職種連携を図れた1 例―R 配合経腸用液半固形剤への変更による経済的,介護的負担の軽減―
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胃瘻からの経腸栄養管理を必要とする患者のなかには,胃食道逆流による誤嚥性肺炎を回避するために粘度調整食品などを併用するケースがある。このような患者は経腸栄養管理に伴う経済的・介護的負担を抱えていることが多い。今回,外来業務のなかで多職種連携を図り,経腸栄養剤を半固形剤へと変更することにより,年間で約12 万円の経済的負担軽減と約550 時間の介護時間削減が見込まれた症例を経験した。在宅医療を受けている患者のなかには,家庭環境や経済的事情などで訪問薬剤管理指導を受けずに家族が薬局に薬を取りにくるケースがある。外来業務においてもこのような患者・家族をサポートするためには,普段から在宅医療に参画している基盤(地域連携における顔のみえる関係)と訪問薬剤管理指導の経験などが重要である。居宅介護サービス状況や家族背景を把握した上で,薬剤師側の視点から情報提供や処方提案ができれば多職種連携は可能と考える。 -
療養通所介護事業所における多職種連携の実際―多職種連携のレベルからみえるもの―
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療養通所介護事業所では,中重度の医療依存度の高い療養者の生活の質の向上と家族の身体的・精神的負担の軽減を図るため,介護保険法に基づく難病などを有する重度要介護者,がん末期の療養者などの在宅療養者,児童福祉法に基づく重症心身障害児・者を対象に日常生活上のケアや機能訓練などのサービスが提供されている。本研究は療養通所介護事業所で勤務する看護師がとらえた多職種連携の実際を明らかにし,質の高いケアの提供に質することを目的に療養通所介護事業所で勤務する看護師15 名に半構造化面接を行った。結果,療養通所介護の看護師の多職種連携のレベルは高く,連携をとっていた職種は,訪問看護師,医師,理学療法士などの医療職,介護士,ケアマネジャーなどの福祉職であり,連携の内容は,情報の交換,情報の共有,ケアの継続,意思を尊重したケアの実施,ケアの提案,ケアに関する指導・統括であることが明らかになった。 -
介護施設入居者の薬剤使用に関する現状と課題
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介護施設への入居者に,多剤併用服用と高齢者に不適切な薬剤の使用が報告されている。介護施設での薬剤使用状況に関する実態を把握し,その現状や課題を明らかにすることを目的に,大阪府下の介護施設において入居者全員の生活看護記録を基に処方内容などの調査を行った。入居者67 名中女性は48 名と多く,平均年齢は86 歳,平均服用薬剤数は6.4,平均疾患数は4.9 であった。疾患数と薬剤数との間に有意な相関性がみられた(p<0.05)が,日常生活自立度と薬剤数では相関性はみられなかった。また,日常生活自立度と下剤使用者数では強い相関がみられた。療養中の疾患で最も多くみられた疾患は骨折であった。約50%の入居者は向精神薬を使用していたが,アマンタジンやヒドロキシジンなどの高齢者に使用を避けることが望ましい薬剤が処方されていた。せん妄や眠気を起こす薬剤などの使用は避ける必要があり,廃用症候群の発現を防止する方法を見いだすことが必要な課題である。 -
在宅における皮膚露出悪性腫瘍に対するMohs軟膏による局所コントロール
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体表面に露出した悪性腫瘍はしばしば出血や滲出液,感染,悪臭などを伴い患者のQOL の低下につながることも少なくない。元来皮膚悪性腫瘍の治療に用いられてきたMohs 軟膏は,緩和ケア領域でもそのような症状に対する局所コントロール目的に使用され有効であったとの報告が散見される。しかし,その多くは病院で施行されている。われわれはMohs軟膏の外用(Mohs軟膏処置)を在宅でも行っており,その経験を報告する。2011 年1 月〜2014年12 月に5 名の患者に在宅でMohs 軟膏処置を行い,すべての症例で止血効果や滲出液減少効果が得られた。処置中の安静保持に対する患者の理解,協力が必要ではあるが,在宅でもMohs 軟膏処置は施行可能であり,自宅療養を望む患者の思いを支える有効な手段と考える。 -
タペンタドールの治療戦略
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新規強オピオイド鎮痛薬としてタペンタドール(tapentadol: TP)は,m オピオイド受容体(MOR)作用とノルアドレナリン再取り込み阻害(NRI)作用を併せもち,既存の強オピオイド鎮痛薬と比較し,より神経障害性疼痛の緩和に適した作用機序をもつ薬剤として期待されている。当院でTP を投与した10 例について,本剤選択理由,鎮痛効果,副作用に関して検証した結果,神経障害性疼痛の増悪による開始が全例であり,鎮痛有効率は70%,嘔気33.4%,便秘11.1%,傾眠44.4%であった。消化器系副作用が軽度であり,オピオイドの導入,外来や在宅で有用であると推察されるが,癌性疼痛における症例報告は少なく検証が必要である。一方,医療用麻薬はアドヒアランスを損ないやすい背景も多く,患者だけではなく医療従事者に対しTP も含めた強オピオイド鎮痛薬による適切な情報提供,薬剤管理指導などの普及啓発を充実させる必要がある。 -
末期がん訪問診療症例への前医による告知の現状と問題点
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がんの告知は患者の希望を基にした医療を行うために必須である。今回筆者は2012 年1 月〜2013年12 月までに当院に緩和ケア目的で紹介された45 例のがん告知の状況に関して,カルテ情報を基に後ろ向きに検討した。がんの病名告知がなされていないのは4 例(9%),転移,緩和医療告知がなされていないのは9 例(20%)であった。がん告知をしない理由として,家族の希望,主治医の方針があげられた。前医から診療を引き継ぐ形になる訪問診療では告知が困難な場合もあることが示唆された。 -
小児脳腫瘍患者の在宅看取り症例を経験して―環境調整,家族ケアなどの課題の総括―
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症例は11 歳,男児。生来健康であったが,X 年 12 月に脳幹神経膠腫と診断された。放射線治療/化学療法後,X+1 年8 月に再燃し,best supportive care の対応を選択した。通院困難となり訪問診療先を探すも小児科の受け入れ先はなく,X+1 年10月より当院に依頼があった。訪問診療開始前から地域の小児がん拠点病院へ相談し,居住区の児童家庭課にケースワーカーの役割を依頼した。介護保険対象外の年齢であり,福祉サポートの充実のため障害者手帳の申請を速やかに行った。診療開始後,嚥下機能の低下が顕著となったが,患者本人・家族の希望を最優先した。X+2 年1 月に誤嚥性肺炎を契機に呼吸状態が悪化,自宅で逝去された。本邦での小児悪性腫瘍患者の在宅看取りに関する報告自体がまれであり,当院での経験を報告した。小児脳腫瘍患者の看取りの場所として,在宅を選択できるような地域のネットワーク構築が必要と考えられた。 -
在宅緩和ケアにおけるがん患者看取り場所の選択―緩和ケア病棟か自宅か―
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公立甲賀病院(当院)は2013年4 月に新築移転となり,同時に緩和ケア病棟を発足させた。今回はがん患者の最終的な看取りの場所とその選択をした要因について検討したので報告する。2014 年の1 年間に在宅療養から緩和ケア病棟で死亡したのは27例,在宅看取りをしたのは同時期に7 例であり,いずれも患者本人の希望に沿ったものがほとんどであった。当院では終末期を過ごしていただく際には患者本人の希望をいちばんとして尊重することとしており,家族にもそのことを理解してもらうようにしている。緩和ケア病棟が稼働したことで療養の選択肢が広がったことは間違いがないが,早くからの病状説明と患者および家族の意向をきいておくことが重要であり,院内のみではなく地域の医療福祉機関と密接な連携を行う必要がある。 -
若年者の在宅看取りの1 例
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若年悪性腫瘍患者(40歳未満)は社会活動,生産活動において活発な年代である。多様な活動性は,その喪失時,家族,周囲に与える負の影響が大きい。今回,長い闘病生活の後に在宅医療を希望され,在宅看取りを行った31 歳の悪性黒色腫の症例を経験したので報告する。患者は31 歳,男性。約5 年前右下腿悪性黒色腫と診断された。手術をはじめ約5 年にわたる積極的治療の末,緩和医療を望まれ近医紹介となり,さらに在宅医療を希望され当科紹介となった。入院後約1 週間で疼痛コントロールを行い在宅医療に移行した。状態としては終日ベッド上臥床,経口摂取は水分のみ摂取可能で経口薬は望まなかった。主介護者である母親は仕事を辞め介護に専念された。オキシコドンを中心に疼痛コントロールを行い,ステロイド,抗炎症剤,抗不安薬の点滴内投与を行った。在宅医療経過中,疼痛コントロールに苦慮したが,主介護者である母親に感謝の気持ちを表し,在宅開始26 日目に家族に見守られ死亡した。若年者は介護保険が利用できず,在宅サービスにも自ずと限界,制限がある。介護者にとっても仕事を辞めるなど,今後の生活の工面を含め収入の面でも制約が多い。若年患者は多様な社会的不安を抱えており身体的苦痛のみならず,精神・社会的苦痛にも十分配慮が必要である。 -
看取りを宣告されながら在宅療養で自力回復した女性高齢者の3 例
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最近,病院治療終了時,いずれも病院側から看取りも視野に入れた在宅療養を告げられた形で退院をした女性高齢者3 例が当センターに紹介された。在宅療養を行ったところ,これらの症例は嚥下障害,炎症性病変,イレウス症状などをほぼ自力で回復し,現在平穏な日々を送っている。今後,超高齢化社会で統計上一人暮らしの女性高齢者が増加傾向にあるとともに,不必要な病院での医療は避け在宅療養の方向に向かいつつある状況のなかで,これらの女性高齢者3 例は宣告どおりの看取りで終わらず,在宅療養後も種々の疾患を自力で回復し,元気に元の生活に復されたので予後の説明には慎重さが求められた。一方,家族は患者が重症時困難な介護のなか医療側の看取りの説明に困惑することなく,明るく介護を行い普段の生活のなかでの一出来事としている姿が共通していた。 -
特別養護老人ホームにおける寝たきり入居者に対する褥瘡予防のためのスキンケア介入
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褥瘡予防をするためにどのようなスキンケアが有効であるかを明らかにするため,大阪府下にあるA 特別養護老人ホーム入居者でおむつを使用している21 名を調査・解析した。その結果,コントロール群,撥水性スキンケアクリーム®群,中間点でのクロスオーバー群および撥水性保護保湿クリーム(R)群のいずれにおいても介入後は,褥瘡発生を認めず皮膚環境が有意に改善されていた。 -
がん患者の退院支援と地域連携を促進するための緩和ケア認定看護師の役割
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本研究の目的は,がん患者への退院支援と地域連携に関して緩和ケア認定看護師(緩和ケアCN)が考える問題点と解決策を知り,緩和ケアCN の役割を見いだすことである。緩和ケアCN 22 名を対象に行った研修で得られたデータを再構成し内容分析した。その結果,がん患者の退院支援・地域連携に関する問題として,13 のカテゴリー,三つのコアカテゴリーに分類した。問題と解決策から,がん患者への退院支援と地域連携を促進するための緩和ケアCN の役割は,① 患者・家族の認識を多職種と共有し,病状進行の予測と患者・家族の意向を擦り合わせること,② 病院看護師が退院後の患者の情報を得たり,療養のイメージをもつための場を設定すること,③ 医療依存度の高い患者の症状緩和や医療的ケアの連携について病棟看護師をサポートし,訪問看護師との連携の窓口となることであると示唆された。 -
大学病院における退院支援研修の取り組みと効果
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本研究の目的は,地域医療福祉職と実施する研修により,看護師の退院支援実践の認識にどのような変化がみられたのか検討する。2012〜2015年の各年9〜2月にA大学病院の看護師を対象に退院支援概論,意思決定支援,訪問診療・訪問看護の実際,医療社会福祉制度と事例検討会より構成される研修を実施した。研修前後に病棟看護師の退院支援実践自己評価尺度(Discharge Planning scale forWardNurses: DPWN)と退院支援満足度(visual analogue scale:満足度VAS)を自記式質問紙により評価した。本研究は東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。96名に配布し,前後に回答の得られた72 名を分析した(有効回答率75.0%)。平均看護師経験年数は8.5± 7.7 年であった。DPWNの下位尺度「情報収集」,「意思決定支援」,「社会資源の説明」,「多職種連携による療養指導」と合計得点,満足度VASにおいて,研修後に有意な得点の上昇がみられ(p<0.01),研修が看護師の退院支援実践の認識向上に効果があったと考えられる。 -
Bevacizumabを伴う外来化学療法中に消化管穿孔を発症した進行直腸癌の2 例
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症例1: 60 歳台,男性。直腸癌,肝肺転移にて,原発巣切除術後mFOLFOX6+bevacizumab施行中に消化管穿孔が発生し,緊急手術にて腹腔内洗浄の上,人工肛門を造設した。症例2: 60 歳台,男性。直腸癌に対し直腸切断術後,後腹膜再発と仙骨転移のためCapeOX 療法後,放射線治療を施行した。その後,capecitabine+bevacizumab施行中に横行結腸穿孔を認め穿孔部結腸を切除し人工肛門を再造設した。2 例ともに退院し,ともに術後13 か月に原病死した。bevacizumab使用中の消化管穿孔は重篤な副作用であるが,その副作用に対して事前に周知することで迅速に対応し救命することができた症例を経験した。 -
癌性消化管狭窄患者に対する摂食回復支援食「あいーと(R)」の安全性ならびに満足度の検討
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癌性消化管狭窄の通過障害で流動食や三分菜食程度までが摂取可能と判断された5 例に対し,酵素処理で通常食と同様の見た目であるがわずかな力で崩壊し流動性の得られる摂食回復支援食「あいーと(R)」を提供し,その安全性と患者満足度を評価した。観察期間7 日間のうち,1 日目と7 日目に従来食,2〜6 日目の昼食のみ「あいーと(R)」を提供,安全性として「腹痛」,「下痢」,「腹部膨満感」,「悪心」,「嘔吐」の有無と程度を評価し,満足度として「味」,「見た目」,「量」,「食べやすさ」,「全体の満足度」を6 段階で評価した。結果は,安全性では「あいーと(R)」摂取中1 例が食べ過ぎに起因すると考えられた嘔吐により中止となったが,他の症例では従来食と「あいーと(R)」でおおむね同等で,満足度は全評価項目で「あいーと(R)」の評価が高かった。「あいーと(R)」は従来食に比べて満足度が高く,癌性消化管狭窄症例への寄与の可能性が示唆された。
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