癌と化学療法
Volume 43, Issue 1, 2016
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投稿規定
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総説
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日本のがん疫学研究(最新情報)
43巻1号(2016);View Description Hide Description国内外の疫学研究からのエビデンスの蓄積により,いくつかのがんのリスク要因・予防要因が明らかとなり,主に日本人を対象とした科学的エビデンスに基づく「日本人のためのがん予防法」の策定までに至った。また,日本人のがんの原因として喫煙と感染の寄与が大きいことが明らかとなり,これらの要因への対策が急務となっている。一方で,個別化予防に資するエビデンスの構築を目的とした大規模分子疫学コホート研究の構築が進められている。網羅的分子情報の解析,遺伝環境交互作用の検討などをとおして疾患メカニズムの理解が深まるエビデンスが得られることが期待される。また,ゲノム情報をはじめとする生体分子情報を用いた疾病リスク予測により,個人のリスクに応じた予防の開発が求められている。 -
トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(TAS-102: TFTD)の抗腫瘍効果における分子機序
43巻1号(2016);View Description Hide Description標準化学療法後に病勢が進行した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌患者に対する治療オプションは多くない。標準化学療法に不応・不耐となった治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験(RECOURSE試験)で,トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(開発コード: TAS-102;略称TFTD)投与群はプラセボ投与群に比較して,主要評価項目である全生存期間を有意に延長した(ハザード比=0.68,p<0.001)。TFTD は日本で2014年3月に承認され,米国と欧州において現在承認申請中である。TFTD は治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌におけるサルベージラインでの治療として,重要な役割を担うことが期待される。本総説ではTFTD の抗腫瘍効果の分子機序について概説する。 -
切除不能大腸癌治療における化学療法の進歩
43巻1号(2016);View Description Hide Description近年,新規薬剤の登場やバイオマーカーの同定により,切除不能大腸癌に対する化学療法の治療成績は著しく向上してきた。反面,治療選択肢の増加により,治療体系が複雑化しているのも事実である。このレビューでは大腸癌化学療法に関する最新の臨床的エビデンスとして,三つのcytotoxic drugならびに経口フッ化ピリミジンの使い分け,抗VEGF 抗体薬と抗EGFR 抗体薬の使い分け,抗EGFR 抗体薬におけるRAS 遺伝子解析,サルベージラインにおける新規薬剤であるregorafenibとTAS-102(TFTD)に関して説明する。
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特集
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- 軟部肉腫治療の現状と展望
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軟部腫瘍の集学的治療における病理診断の役割
43巻1号(2016);View Description Hide Description軟部肉腫は極めてまれな悪性腫瘍であるが,その種類や病理学的亜型は多数存在する。また,現在でも新しい疾患概念が発見,再分類されている。症例数が少ないため,一般的な病理医が診断に携わることも少なく,診断に苦慮することが多い。診断の不一致や誤りは治療に際して大きな問題となる。このため,日本病理学会はこの問題を解決するために日本全国をカバーする病理コンサルテーションシステムを運用している。軟部肉腫は,今後の集学的治療や全国規模の治験による予後の改善が期待されるが,その基礎には適切な診断が必須であり,これが病理医の果たす第一の役割と考えている。 -
薬物療法の立場から
43巻1号(2016);View Description Hide Description軟部肉腫に対する薬物療法において,現時点でdoxorubicin およびifosfamide は中心的な役割を担う薬剤である。最近では,eribulin やtrabectedin などの殺細胞薬やVEGFR1-3 やPDGFR などのチロシンキナーゼ阻害剤であるpazopanibなどの分子標的薬が臨床導入された。今後,これらの新規薬剤の導入により軟部肉腫に対する薬物療法の治療成績向上が期待される。 -
整形外科の立場から
43巻1号(2016);View Description Hide Description軟部肉腫の治療は,わが国では伝統的に整形外科医が中心となり担ってきた。軟部肉腫の治療の原則は手術による腫瘍の完全な切除である。切除不能例や転移例の予後は不良であり,化学療法を行っても長期生存は望めない。切除可能の軟部肉腫では,補助化学療法が行われる場合がある。軟部肉腫は,化学療法に対する感受性の違いから「円形細胞肉腫」と「非円形細胞肉腫」に大別することができる。円形細胞肉腫は骨外性Ewing肉腫や横紋筋肉腫を含み,化学療法の有効性が確立している。非円形細胞肉腫は平滑筋肉腫,滑膜肉腫,脂肪肉腫など多くの組織型を含むが,治療の基本は手術である。高悪性度のもの,腫瘍サイズの大きなものに対して化学療法が推奨される。本稿では,わが国で整形外科医が中心となって行う補助化学療法を中心に,軟部肉腫治療の現状と問題点,今後の展望について概説する。 -
軟部肉腫の放射線治療
43巻1号(2016);View Description Hide Description軟部肉腫における治療戦略の中心は外科療法であるが,四肢の切断や広範切除による根治率の向上が検討される一方で,患肢温存や機能温存を図りつつ治療成績の向上をめざす治療開発が行われている。集学的治療の一環として化学療法とともに放射線治療の応用が検討され,最新の放射線治療技術を応用した臨床試験が実施されている。放射線治療の適応については高悪性群の局所制御に関する有用性が示されており,SEER データベースの解析で3 年生存率の延長が報告されている(p<0.001)。患肢温存や機能温存を図りつつ治療成績の向上をめざす近年の治療開発においては,放射線治療の最適化が検討課題となっている。NCIC 試験では,50 Gy の術前照射と66 Gy の術後照射が術創トラブルの有無をprimary endpointとして検討され,長期経過観察の報告ではgrade 2 以上の線維化・リンパ浮腫・関節拘縮は術前照射より術後照射が高率であった。2012 年のHaas らの報告により骨軟部腫瘍の標的体積について標準化が図られ,臨床試験および日常臨床に応用されている。強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy: IMRT)やimage-guided radiation therapy(IGRT)を含む軟部肉腫に対する放射線治療の検討においては,治療効果の向上とともに副作用の低減に関する研究が進むと考えられ,患肢温存や機能温存を図る集学的治療のなかで放射線治療の最適化が期待される。
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Current Organ Topics:Genitourinary Tumor 泌尿器系腫瘍 泌尿器癌2015
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原著
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S-1およびワルファリンを併用した患者におけるプロトロンビン時間の変動
43巻1号(2016);View Description Hide Descriptionワルファリン(WF)はS-1などのフルオロウラシル系製剤との併用時,薬物相互作用により抗凝固作用が増強する。今回われわれは,S-1 およびWF を併用した患者のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の推移とPT-INR の治療域の関係ならびに薬物相互作用の発現時期を検討した。対象患者は21(男性18,女性3)例,年齢中央値(範囲)は69(48〜81)歳,投与レジメンはS-1単剤18 例,S-1+CDDP 療法1 例,DTX+CDDP+S-1 療法2 例,がん種は胃がん8 例,肺がん5 例,膵臓がん4 例,大腸がん,頭頸部がん,乳がん,胆囊がん各1 例,WFの投与目的は深部静脈血栓症11 例,心房細動6例,脳梗塞2例,内頸動脈狭窄1 例,門脈血栓症1 例であった。全21 例中16 例で併用開始後にPT-INRが治療域上限値を超えた。また,PT-INRが治療域上限値を超えるまでの期間中央値(範囲)は25(3〜77)日であった。相互作用の発現時期の個人差は大きいため,S-1,WF 併用時は定期的なPT-INR のモニタリングおよびWF の用量調節が必要である。本研究結果より,特に併用開始後3〜4週間のモニタリングは必須である。 -
Stage Ⅲ大腸癌に対する術後補助化学療法の検討
43巻1号(2016);View Description Hide Description目的: Stage Ⅲ大腸癌症例の術後補助化学療法の成績を検討した。方法: 2007〜2009 年まで当院で手術を施行した大腸癌症例中 Rb を除く Stage Ⅲ症例で UFT/LV または capecitabine で術後補助化学療法を施行した症例を対象として検討した。結果: UFT/LV 群 39 例,capecitabine群は29 例で,背景因子に有意差を認めなかった。有害事象はUFT/LV 群は消化器症状,capecitabine群は手足症候群が高率にみられた。3 年無再発生存期間はUFT/LV 群 69.2%,capecitabine群 64.7%,3 年全生存期間はUFT/LV 群 89.7%,capecitabine群 92.7%と有意差を認めなかった。結語: Stage Ⅲ大腸癌に対するUFT/LV とcapecitabineの術後補助化学療法で治療成績に差を認めなかった。有害事象を考慮した薬剤選択で十分と考えられた。 -
当科における進行肝細胞癌に対するリザーバー肝動注化学療法の治療成績
43巻1号(2016);View Description Hide Description現在,局所制御困難な進行肝細胞癌に対してエビデンスをもって有効とされている治療はsorafenib のみである。しかし,本邦では以前より高い抗腫瘍効果が期待できることから肝動注化学療法も施行されている。肝動注化学療法には様々なレジメンが存在するが,当科ではリザーバー肝動注化学療法を局所制御困難な進行肝細胞癌に対して施行してきた。その成績は奏効率36%,MST 11.9 か月と良好な結果であり,治療効果良好因子として治療開始2 か月後の病勢制御,治療前Child-Pugh分類A,治療開始早期のAFP増加がないことが考えられた。今後,sorafenibや他のレジメンを用いた肝動注化学療法との比較や併用療法の検討が望まれる。
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薬事
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テガフール/ギメラシル/オテラシルカリウムの薬歴管理方法に関する後ろ向き観察研究
43巻1号(2016);View Description Hide Descriptionテガフール/ギメラシル/オテラシルカリウム(S-1)は,薬物相互作用や腎機能低下,休薬期間を守らずに服用するなどの要因により副作用が強く発現し得る薬剤であり,薬歴管理を行う薬剤師の役割が重要になる。本研究では,病院や保険薬局で利用可能な標準化された薬歴管理モデル構築の一助となるよう,国立がん研究センター中央病院でS-1 が処方された外来患者の実態調査を行った。S-1 が新規処方された外来患者128 例を対象とし,院内処方群48 例,院外処方群80 例に分けて両群間で患者背景と好中球減少の発現頻度を比較した。患者背景と好中球減少の発現頻度に両群間で差はみられなかった。1 コース目の治療期間中にS-1投与が中止された頻度は,院内処方群16.7%,院外処方群10%であった。両群とも腎機能低下例を含み,副作用発現の可能性がどちらの群にもあることから,保険薬局でもクレアチニン・クリアランス(Ccr)値などの臨床検査値を十分確認すべきであると考えられた。そのためには,病院と保険薬局が同一水準の薬歴管理を行えるよう両者が連携できる仕組みを構築する必要がある。
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医事
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Development of Support System for Breast Cancer Patients―Managing Side Effects through an Internet-Based System
43巻1号(2016);View Description Hide Description外来で化学療法を受けることは,患者の生活の質(quality of life: QOL)の向上に有効である。従来型の抗癌剤治療に分子標的薬剤を加えて有効性を向上させることは,副作用管理と患者教育がより大切となり,患者のQOL に重要な影響を与える。われわれは,「患者サポートシステム」を開発し,自宅で患者が経験する副作用症状と状況について,院内のインターフェースを介し,リアルタイムで副作用のプロファイルを観察記録することを可能とした。手術前または手術後に化学療法を受けた8 症例のトライアルにおいて,外来患者が自宅でシステムを利用し副作用について入力したデータを医療スタッフが定量的に確認することができ,患者のQOL を効果的に維持することを証明した。また,同一の化学療法でも,患者によって副作用の発現状況と程度は明らかに差があることが確認された。患者からは副作用の発現と回復状態を客観的に確認することで,自己管理が可能となったと報告があり,治療期間中の副作用管理に極めて効果的であった。このシステムはQOL と総合的な治療効果の改善に寄与し,日常生活を支援するツールとしての可能性がある。
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症例
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ゲフィチニブによる肝機能障害後にアファチニブが有効であった肺腺癌の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。肺腺癌,cT1bN0M1b(多発性骨転移),stageⅣ,EGFR 遺伝子変異陽性(exon19欠失)の治療目的に入院となった。ゲフィチニブ(250 mg/日)を開始したが,day 18に肝機能障害(Grade 3)を認め中止した。40 日後,アファチニブ(40 mg/日)を開始。1年間経過したが肝機能障害を認めず,原発巣および多発性骨転移巣に治療効果を認め,継続中である。代謝経路の違いから,肝機能に影響することなく薬剤を切り替えることができる可能性が示唆された。 -
オピオイド使用中にBevacizumab関連多発結腸穿孔を来した肺癌再発の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は54 歳,男性。5 か月前から右肺癌術後胸膜播種再発に対するBevacizumab(Bev)併用化学療法を受け,2 か月前から右側胸部の癌性疼痛に対してオピオイド投与が開始された。右側胸部痛増悪と下腹部違和感・鈍痛を認め入院したが,癌性疼痛の増悪と判断されオピオイドが増量された。入院6 日目に腹痛が増強し,腹部CT 検査にて消化管穿孔が疑われ緊急手術となった。横行結腸から下行結腸にかけて広範に多発穿孔を認め,結腸亜全摘,人工肛門造設を行った。切除標本のほぼ全長にわたり多発潰瘍と正常粘膜が不規則に分布し,Bev による虚血性変化が疑われた。オピオイド使用中の痛みの増強時は,Bev関連消化管穿孔も含め,癌性疼痛増悪以外の可能性も考慮した上での適切な対応が求められる。 -
血液透析下にカルボプラチンとエトポシドを用いて同時化学放射線療法を行った限局型小細胞肺癌の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description近年,慢性腎不全の治療として維持血液透析治療を行っている患者数が増加している。それに伴い,透析症例に肺癌が発見されることも多くなった。限局型小細胞肺癌の標準治療は化学放射線療法であるが,透析症例における明確な標準治療は確立されていない。今回,血液透析下にカルボプラチン300 mg/m / 2(day 1)およびエトポシド50 mg/m2(day 1,3)を用いて同時化学放射線療法を行った限局型小細胞肺癌の1 例を経験した。4 コースの化学療法と胸部放射線照射との同時併用治療後PR が得られた。主な有害事象はグレード(G)4の血小板減少とG3の貧血,好中球減少であった。 -
Paclitaxel+Bevacizumabが有効であった乳癌播種性骨髄癌症の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は42 歳,女性。発熱,`怠感を主訴に受診となった。CT 検査で左乳癌,腋窩リンパ節転移,多発骨転移を認めた。血液検査では高度の貧血を認め,血小板減少,芽球様細胞の出現も認めた。骨髄穿刺でも腺癌が認められたことから,播種性骨髄癌症の診断となった。輸血を行いつつpaclitaxel+bevacizumabの化学療法を行い,症状は改善,血液検査値も正常化した。播種性骨髄癌症の予後は極めて悪く急激な転帰をたどることが多いが,paclitaxel+bevacizumabは播種性骨髄癌症に対する有効な化学療法の一つと考えられた。 -
非機能性膵神経内分泌腫瘍(P-NET)に対する当院での治療方針―同時性肝転移を伴う非機能性P-NET の1 症例を基に―
43巻1号(2016);View Description Hide Description非機能性膵神経内分泌腫瘍(P-NET)の50〜90%が悪性といわれ,外科的切除が唯一根治的である。今回,同時性肝転移を伴う非機能性P-NET の1 例を経験したので報告するとともに,当院での治療方針を述べる。治療方針:腫瘍が1 cm以下であれば経過観察。G1/G2 症例では原発巣切除+リンパ節郭清施行。G1/G2の同時性遠隔転移症例(遠隔転移部位が切除できる可能性が高い症例)においてはまず原発巣切除し,病理所見を考慮して化学療法を施行。その後効果判定し,切除可能であれば切除する。同時性肝転移においては,部分切除,ラジオ波焼灼などの局所治療であれば原発巣と同時切除するが,major 肝切除であれば二期的切除とする。G3は悪性度も高く,化学療法を選択している。 -
胆囊癌術後多発肝転移,リンパ節転移に対しS-1の隔日投与を行い画像検査上転移巣が消失した1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は初診時86 歳,女性。胆囊癌に対し手術を行ったが,術後7 か月で多発肝転移,リンパ節転移を来した。S-1の内服による加療を開始したが,下痢のため隔日投与に変更したところ,S-1 投与開始後7 か月で転移巣は消失した。S-1 を隔日投与にしてからは休薬が必要となる有害事象は発生せず,治療が継続できた。再発胆囊癌に対するS-1 の隔日投与が奏効したのは,高齢にもかかわらず安全で確実な内服が継続できたからと考えられた。 -
術前S-1単独療法で組織学的Complete Responseが得られた後期高齢者進行胃癌の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description術前S-1 単独療法で組織学的complete response(pCR)が得られた後期高齢者進行胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は80 歳,女性。嘔気を主訴に近医を受診し,胃穹窿部前壁から胃体上部にかかる3 型病変を指摘され紹介となり,中分化管状腺癌,cT4b(横隔膜),cN3a,cM0,cStage ⅢCと診断された。他臓器への直接浸潤が疑われ,再発の危険性が高い3 型かつ多数のリンパ節転移を伴っており,術前化学療法を行う方針とした。S-1 単独療法(100 mg/body/day,4 週間投薬2 週間休薬)を2 コース施行後にpartial response(PR)と判定し,胃全摘(D2郭清)を施行した。病理組織学的検査では原発巣およびリンパ節に癌細胞は認められず,化学療法による組織学的効果判定はGrade 3 であった。術前S-1 単独療法でpCR の得られた胃癌の症例は数例の報告のみで,本症例のような高齢者に対する報告はないため,有用性について文献的考察を加え報告する。 -
長期生存を得られている腹膜播種を伴う小腸癌の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description原発性小腸癌は比較的まれであり,その予後は不良とされる。症例は46 歳,男性。腹部膨満,嘔吐のため受診し,腹部造影CT にて空腸の狭窄とその口側腸管の拡張を認めた。小腸部分切除を施行,多発腹膜播種結節を伴う原発性小腸癌を認めた。術後S-1内服を開始したが22 か月で再発を認め,再び小腸部分切除を施行した。術後weekly paclitaxel(PTX)とdoxifluridine(5′-DFUR)併用療法を開始し,現在まで55 か月間再発なく経過している。weekly PTX と5′-DFUR 併用療法はS-1耐性小腸癌に有効である可能性がある。 -
mFOLFOX6 療法にて組織学的CR が得られた下行結腸癌肝転移の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は75 歳,女性。右上腹部痛,食思不振を主訴に診断された下行結腸癌,リンパ節転移,肝転移に対して,術前化学療法としてmFOLFOX6療法を7 コース施行した。CT にてPR の判定であったため,結腸左半切除術,拡大肝後区域切除術を施行し,組織学的CR と診断された。現在,術後補助化学療法としてmFOLFOX6 療法を施行中である。肝転移を有する大腸癌に対する術前化学療法により,原発巣を含むすべての病変で組織学的CR が得られたまれな症例を経験したため報告する。 -
FOLFIRI+Bevacizumab療法が奏効した内分泌分化を伴う下行結腸癌の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。下血を主訴に精査を行った。大腸内視鏡検査にて脾弯曲部に腫瘍を認め,生検にて中〜高分化腺癌が疑われた。腹部造影CT 検査にて,腫瘍の脾臓浸潤,肝転移,傍大動脈リンパ節腫大を認めた。左結腸切除,膵尾部,脾臓,横隔膜合併切除術を施行した。病理組織学的検査において,原発巣に腺癌細胞と30%以下の内分泌細胞癌成分の混在を認めた。転移リンパ節は内分泌細胞癌の成分のみであった。遺残病変に対しFOLFIRI+bevacizumab療法を施行し,33コース終了時点で傍大動脈リンパ節,肝転移ともに消失し,術後30 か月の現在も無増悪生存中である。神経内分泌分化を伴う大腸癌は予後不良とされ確立された化学療法はないが,FOLFIRI+bevacizumab療法は一つの選択肢となり得ると思われた。 -
急激な転帰をとった切除不能再発直腸癌に対するFOLFOX6+Panitumumab療法施行中に生じた血栓性血小板減少性紫斑病の1 例
43巻1号(2016);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。直腸癌再発に対しFOLFOX6+panitumumab 療法を施行中であった。2 コース施行後の血液検査にて著明な血小板減少を認めた。骨髄抑制に伴う血小板減少と考え,血小板輸血を施行した。輸血翌日に溶血性貧血に伴う黄疸,血尿が出現した。lactate dehydrogenaseは著明に上昇し,末®血液像で破砕赤血球を認めた。抗A disintegrin-likeand metalloprotease with thrombospondin type 1 motifs 13(ADAMTS13)抗体陽性でADAMTS13活性の著明な低下を認め,血栓性血小板減少性紫斑病と診断し血漿交換を施行した。血漿交換翌日に急激な意識レベルの低下と呼吸状態の悪化が出現し,同日死亡した。化学療法施行時の血小板減少は骨髄抑制として認めることが多い。化学療法施行中に黄疸や間接bilirubinの上昇,血尿などが出現した場合,本疾患も念頭に置いて対処しなくてはならないと考える。
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