癌と化学療法
Volume 43, Issue 3, 2016
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総説
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がん薬物療法とアドバンス・ケア・プランニング
43巻3号(2016);View Description Hide Description進行がん患者において,病気の時期や治療の有無にかかわらずアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を行うことの重要性が示唆されている。ACPを行うと終末期における患者の希望が尊重され,患者と遺族の満足度が高く,遺族の精神的ストレスが減少することが明らかとなっている。本稿では,ACPとアドバンス・ディレクティブ,リビングウィルとの違いを明らかにするとともに,どのようにACPをがん臨床に取り入れたらよいかについて臨床経験を踏まえて概説する。
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特集
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- ゲノム異常と病理診断
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胃がんの分子サブタイプ
43巻3号(2016);View Description Hide Description胃がんは従来,腺管構造や進展様式などの病理組織学的所見を基に分類され,予後や転移再発形式について検討されてきたが,個別化医療につながるものではなかった。ToGA試験において,抗HER2モノクローナル抗体のトラスツズマブがHER 2 の過剰発現またはHER2 遺伝子の増幅を有する胃がんに対して有効であることが明らかとなり,この結果を基にトラスツズマブのバイオマーカーであるHER2 陽性胃がんが定義された。その後,他の受容体型チロシンキナーゼを標的とするものを含む複数の分子標的治療薬が胃がんで試みられているが,未だHER2に続くバイオマーカーはないのが現状である。近年の遺伝子解析技術の進歩を背景に,The Cancer Genome Atlas(TCGA)のプロジェクトとして胃がんの分子異常について網羅的な解析が行われ,四つの新しい分子サブタイプが提唱された(EBV陽性腫瘍,マイクロサテライト不安定腫瘍,ゲノム安定腫瘍,染色体不安定腫瘍)。各サブタイプはそれぞれ特徴的な遺伝子変異,メチル化異常,遺伝子増幅,蛋白質の過剰発現などの分子異常を有し,一部は臨床病理学的特徴との関連や開発中の分子標的治療薬の標的となる可能性が示唆された。これらの分子サブタイプが患者の層別化や分子標的治療薬を用いた臨床試験のロードマップになることが期待される。 -
卵巣腫瘍におけるパラダイム・シフト―ゲノム異常の観点から―
43巻3号(2016);View Description Hide Description卵巣癌はその組織亜型によって組織発生と分子機序,化学療法反応性などが異なることから,近年は単一の腫瘍ではなく,多彩な腫瘍を内包していると理解されるようになった。子宮内膜症を背景に発生する明細胞癌と低異型度類内膜癌,良性・境界悪性腫瘍から多段階的に発生する粘液性癌および低異型度漿液性癌はⅠ型腫瘍(腺腫-癌シークエンス),良性腫瘍を経ずに既存の上皮から直接発生する高異型度漿液性癌および高異型度類内膜癌,癌肉腫,未分化癌はⅡ型腫瘍(de novo癌)に分類されるが,特に卵巣癌全体の約半数を占める高異型度漿液性癌は,近年卵管采に発生する漿液性卵管上皮内癌(serous tubal intraepithelial carcinoma: STIC)の卵巣播種を起源とする説が広く受け入れられ,パラダイム・シフトが生じている。卵巣腫瘍の発生における分子機序の解明は,分子標的治療を含む効果的な治療戦略の確立に寄与することが期待される。 -
乳癌のゲノム異常と病理組織像
43巻3号(2016);View Description Hide Description乳癌は形態的および分子生物学的に多様である。21 世紀に入り,従来の病理組織型分類・グレード分類に加えマイクロアレイ法による遺伝子発現解析とクラスター解析が導入された。この内因性サブタイプ分類は,グレードや免疫組織染色を利用した分類法との相同性が高いために病理組織診断にフィードバックされ,簡便な方法で代用されるに至った。たとえばエストロゲン受容体,プロゲステロン受容体,HER2 の三者とも陰性のトリプルネガティブ乳癌は80%が基底細胞様である。日常診療では,病理組織学的サブタイプ分類を薬物療法の適応決定や効果予測に役立てるようになり現在に至っているが,国際コンセンサス分類などでは治療法に即して分類の域値を変化させているので,症例個別にみると従来のクラスター解析とは乖離が生じていることも理解しておく必要がある。遺伝子解析の進捗によってclaudin-low 型などの新しい概念が注目され,日常診療レベルに投影可能な新たな分類の提唱や新規治療法の開発への応用が大いに期待される。 -
大腸癌における分子異常と病理診断
43巻3号(2016);View Description Hide Description大腸癌の分子異常の解明は急速に進んでいる。大腸癌の主要な発生メカニズムは,染色体異常を中心とするchromosomalinstability(CIN)型とマイクロサテライト領域の異常を中心とするmicrosatellite instability(MIN)型である。CIN 型の前駆病変は通常型腺腫で,MIN型の前駆病変は鋸歯状病変とされる。近年,鋸歯状経路が確立され,adenoma-carcinomasequenceの分子異常とは対照的な所見が示されている。両者は互いに排他的な関係にあるので,病理診断においても両者は独立した診断体系が示されなければならないと思われる。鋸歯状病変,特に sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)の組織像は通常型腺腫と比較して異型が軽度であるので病理診断に混乱が生じているが,分子異常の違いを理解することにより適切な診断が可能になる。一方,分子生物学的知見から大腸癌の予後因子の報告も多いが,その多くは日常診療で推奨されるほどの確立した予後因子にまでは至っていない。病理医は組織形態像のエキスパートであると同時に分子生物学的所見を適切に理解し,組織像に反映させることのできる唯一の存在である。本稿では大腸癌の分子異常と病理組織診断と大腸癌の予後因子について概説する。 -
骨軟部腫瘍の遺伝子異常と病理診断
43巻3号(2016);View Description Hide Description骨軟部腫瘍の種類は極めて多く,経験豊富な病理診断医でさえ組織型の確定診断に難渋することもまれではない。1990 年代後半よりいくつかの骨軟部腫瘍において腫瘍に特異的な融合遺伝子が同定され,遺伝子診断が脚光を浴びるようになった。また,融合遺伝子以外にも各腫瘍に特異性の高い遺伝子異常が種々の骨軟部腫瘍で報告されている。さらに他臓器腫瘍の分野と同様,難治例に関して治療標的分子の検索もなされている。組織学的な診断と特異性の高い免疫染色を組み合わせ,必要に応じて融合遺伝子やその他の遺伝子異常の検出を併用し診断の精度を上げることが,これからの骨軟部腫瘍の病理診断においては必要不可欠である。本稿では比較的最近同定された孤立性線維性腫瘍,動脈瘤様骨嚢腫,結節性筋膜炎やCIC-DUX4 融合遺伝子陽性小円形細胞腫瘍,BCOR-CCNB3 陽性肉腫などの骨軟部肉腫における融合遺伝子および脱分化型脂肪肉腫,軟部悪性ラブドイド腫瘍や軟骨性腫瘍,Langerhans cell histiocytosis,軟骨芽細胞腫,骨巨細胞腫などの骨軟部腫瘍のその他の遺伝子異常とその病理診断について述べる。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍脊椎,骨盤周辺発生の悪性骨腫瘍に対する治療
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原著
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切除不能・再発大腸癌に対するFOLFOX 療法―Therapeutic Drug Monitoring に基づく5-FU投与量調節の有用性―
43巻3号(2016);View Description Hide Description目的: Capitain らは2012 年,切除不能大腸癌に対するFOLFOX 療法の際に5-fluorouracil(5-FU)のtherapeuticdrug monitoring(TDM)を行い,個々の症例においてarea under the curve(AUC)が 20〜25 mg・h/L となるように5-FU投与量を調節することで治療成績が向上したと報告した。本稿では,FOLFOX 療法が実施された大腸癌自験例を対象として,「20〜25 mg・h/L の AUC を目標とした 5-FU 投与量の個別化」の有用性を retrospective に検討した。方法:当科にてFOLFOX 療法を実施した切除不能・再発大腸癌20 例を対象とした。男性15 例,女性5 例,年齢は58〜82(中央値71)歳であった。結腸癌9 例,直腸癌は11 例であった。5-FUのAUCに基づいて5-FU 投与量を調節したTDM 群(11例)と,従来のごとく体表面積(BSA)に基づいて5-FU 投与量を調節した非TDM群(9 例)の2 群に分けて検討した。全20 例において,5-FU投与日に血清5-FU 濃度(ng/mL)を測定(HPLC-UV 法)し,グラフ化してAUC(mg・h/L)を算出した。TDM群では20〜25 mg・h/L の AUCを目標に5-FU の投与量を調節した。結果: AUC値は,TDM群で 20.14±5.26 mg・h/L,非TDM群で16.62±3.06 mg・h/L であり,TDM群が高値であった(p=0.093)。奏効率はTDM群 63%,非 TDM群で33%であった(p=0.174)。TDM群のMST 34 か月,非TDM群のMSTは14 か月であり,TDM群で有意に生存期間が延長した(p=0.036)。Grade 3 以上の副作用は4 例に認められ,TDM群2例,非TDM群は2 例であった(p=0.636)。結論: TDM に基づく5-FU 投与量の個別化は,切除不能・再発大腸癌に対するFOLFOX 療法の治療成績向上に寄与する可能性がある。 -
大腸癌遠隔転移根治切除後の補助化学療法としてのS-1/Oxaliplatin併用療法とmFOLFOX6 療法
43巻3号(2016);View Description Hide Description大腸癌遠隔転移根治切除後の補助化学療法は確立していない。根治切除し得た遠隔転移(肝6 例,肺5 例,リンパ節3 例,腹膜播種 2 例)を有する Stage Ⅳ大腸癌に対して S-1/oxaliplatin 併用療法(SOX 7 例)または mFOLFOX6 療法(FOLFOX 9 例)を施行した。無再発生存期間はSOX 13.2 か月,FOLFOX 16.9 か月,全生存期間はSOX 17.9 か月,FOLFOX 22.9か月であった。施行コースはSOX 6.5コース,FOLFOX 11.0 コースで,全症例中38%に末梢神経障害を認めたが相対用量強度は80%を上回った。Stage Ⅳ大腸癌の遠隔転移根治切除後の補助化学療法としてSOX,FOLFOX が有効性,安全性を有する可能性が示唆された。 -
非小細胞肺癌外来化学療法患者のQOL に対する十全大補湯の効果
43巻3号(2016);View Description Hide Description癌薬物療法の進歩に伴い化学療法の外来への移行が進んでいるが,生活の質(quality of life: QOL)の維持向上が課題となっている。支持療法としての漢方薬の効果が注目されているため,外来化学療法施行中の非小細胞肺癌に対する十全大補湯の併用効果をQOL の観点から客観的に測定し,因子解析を行うことを目的として本臨床研究を行った。PS 0〜1 の非小細胞肺癌患者16 名(56〜87歳,平均75.7歳)に対して十全大補湯を投与し,その前後でのQOL 変化を厚生省栗原班「がん薬物療法におけるQOL調査票」を用いて検討した。overall QOL score および身体状況にかかわる因子が入院から外来への移行前後で有意に改善することが明らかとなり,本薬剤の非小細胞肺癌患者の外来化学療法における有用性がQOL の観点から示された。
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薬事
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Establishing an Indicator of Hypokalemia in Patients Receiving Anti-Epidermal Growth Factor Receptor Antibodies
43巻3号(2016);View Description Hide Description2010年2 月〜2013年3 月に,岐阜市民病院にて抗EGFR 抗体薬(anti-EGFR MoAbs)が投与された患者の低カリウム血症発現のリスク因子について解析を行った。対象は51 症例で年齢の中央値(四分位範囲)は66(63〜72)歳,男性27名,女性24名であった。調査期間はanti-EGFR MoAbs投与開始から終了後4 週間とした。血清カリウムの最低値(Min SK)のgrade(Common Terminology Criteria for Adverse Events v4.0)がgrade 1 以上かつ「投与前S-Kのgrade」−「MinS-K のgrade」の差がgrade 1 以上,b gradeB1 であった患者を副作用(gradeB1)発現群とし,それ以外の患者を副作用非発現群とした。単変量解析において副作用(gradeB1)を回避する因子は,「高カリウム血症誘発薬の併用」において有意な差を認めた(p=0.010)。単変量解析においてp<0.25 の因子およびp>0.25 の因子ではあるが,臨床的にS-K減少に影響を及ぼす可能性が高いと考えられる「低カリウム血症誘発薬の併用」に関して多変量解析を行った結果,「高カリウム血症誘発薬の併用」が有意なリスク回避因子であった[odds ratio: 0.138,95% confidence interval(CI): 0.033-0.581,p=0.007]。結論としてanti-EGFR MoAbs投与に伴う低カリウム血症を回避する因子は「高カリウム血症誘発薬の併用」であることが示唆された。 -
当院におけるフェンタニル貼付剤使用状況
43巻3号(2016);View Description Hide Descriptionフェンタニル貼付剤(transdermal fentanyl patch: TDF)はその簡便性のため当院における処方が増加し,オピオイド未使用症例へのTDF 使用が散見されるようになったが,導入基準は明らかになっていない。本研究では当院でのTDFの使用実態について調査し,適正使用に必要な知見を検討した。TDFを使用した43 例を対象とし,開始理由や使用期間,副作用を後方視的に調査した。TDF の使用期間については全体の約60%が30 日以上使用を継続していた一方,8 日以内の中止も約25%の患者にみられた。短期中止事例の一部はTDF の量調節がうまくいかず,中止や他のオピオイド製剤への変更が行われていた。TDF 導入前の使用オピオイドはオキシコドン徐放錠17 例(45%)と最も多かったが,オピオイド未導入は14例(37%)あり,オピオイド未導入の症例におけるTDFの主な理由は消化器症状を有するためであった。先行するオピオイド投与の有無にて2 群に分け,両群の使用期間や副作用の発生頻度を比較したが,両群に有意差はなかった。使用中の副作用は傾眠6 例,せん妄2 例,嘔気・嘔吐,便秘,呼吸抑制など各1 例であった。TDFは事前のオピオイドの導入の有無にかかわらず効果があると考えられるが,早急な効果発現や適正使用量の調節は難しいため,その導入については慎重に検討する必要がある。
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症例
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乳癌末期における緩和ケアとしての酢酸メドロキシプロゲステロンの可能性について―2例の経験からの考察―
43巻3号(2016);View Description Hide Description昨今の乳癌治療においては再発後も長期の生存期間が得られるようになった。しかし癌末期では病状増悪による症状に加えて,薬剤副作用のためquality of life(QOL)がさらに損なわれてしまう場合が多い。癌末期では,抗腫瘍効果は弱くともQOL を改善させることができる薬剤が有用であると思われる。酢酸メドロキシプロゲステロン(medroxyprogesteroneacetate: MPA)は血栓症や体重増加の副作用があることと,他に多数の有効な内分泌療法薬があるため,本邦では内分泌療法感受性の再発乳癌に対して第三次以降の内分泌療法として用いられる。10 年以上の長期乳癌治療の末,癌末期となった患者にMPA を用いたことでQOL が改善し,看取りまでの時間を有意義に過ごすことができた2 症例の経験から,MPAの緩和ケアとしての有効性について考察する。 -
多発性肝転移に対しBevacizumab+Paclitaxel併用療法が無効でありCapecitabine単剤療法が有効であった転移性乳癌の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description今回われわれは,多発性肝転移を伴う転移性乳癌に対してbevacizumab(Bev)+paclitaxel(PTX)併用療法が無効であり,capecitabineの単剤療法が有効であった1 例を経験したので報告する。症例は67 歳,女性。2012 年3 月に右乳癌,硬癌,核グレード1,ER とPgR は強陽性,HER2 は陰性と診断された。全身検索にて多量の癌性胸水を認め,初診時よりStageⅣであった。当初は化学療法を施行し癌のボリューム減少を図り,その後ホルモン治療を施行した。再び多発性肺・肝転移と胸水の増加傾向を認めたため,2014 年7 月よりBev+PTX 併用療法に変更し4 コース投与したが多発性肝転移に変化を認めず,採血にて肝機能障害を認めるようになった。次治療としてcapecitabine単剤療法2 週投与1 週休薬に変更したところ肝機能は早期に正常化し,3 か月後の画像評価にて肝転移の縮小を認めた。さらにその4 か月後の画像評価でも,転移巣のコントロールが確認できた。症例により抗癌剤への感受性が大きく異なることを経験したので報告する。 -
Bleomycin軟膏により著明な縮小を来した長期腎瘻留置透析患者に発生した腎盂扁平上皮癌の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は92 歳,女性。63 歳,進行直腸癌で骨盤内臓全摘除・人工肛門・両側尿管皮膚瘻造設。72歳,右尿管狭窄で右腎瘻造設。80 歳,左萎縮腎で左腎摘。81 歳,血液透析導入。2014年9 月右腎瘻からの血尿,10月右腎瘻挿入部の腫瘤を認める。組織結果は高分化型扁平上皮癌であった。画像所見から右腎盂癌が腎瘻に沿って皮膚まで浸潤したものと診断した。当初は対症治療のみとしたが,腫瘍増大とともに出血を認め治療を開始した。腫瘍はdoxifluridineの内服では増大を続けたが,bleomycin軟膏の密封療法にて著明に縮小した。 -
再々発卵巣癌に対する手術療法の検討
43巻3号(2016);View Description Hide Description再発卵巣癌に対するsecondary debulking surgery(SDS)に関して手術により腫瘍の完全摘出が可能であれば良好な予後が得られることがわかってきたが,再々発卵巣癌に対してcomplete surgery を目的とする手術(tertiary debulkingsurgery: TDS)の有用性については明らかでない。今回,SDS後に再々発後の治療を行った8 例について,背景,TDS後の無治療期間(treatment free interval: TFI)や生存期間を後方視的に調査した。その結果,8 例中4 例にTDS を実施していた(TDS群)。TDSは全例complete surgeryで,輸血は2 例で実施,重篤な術後合併症は起こらなかった。再発治療後から再々発するまでのTFI は中央値16(9〜23)か月,再々発後のTFI中央値は30.5(15〜69)か月であった。一方,TDS を実施していない4 例(non-TDS群)の再発後のTFI 中央値は7.5(1〜31)か月であった。TDS 群とnon-TDS群の再々発後の生存期間中央値は53(41〜69)か月,12(2〜30)か月であった。SDS後の再々発卵巣癌において,全身状態が良好で再発部位が一つあるいは複数であってもcomplete surgery が可能と判断される場合は,TDSを施行することで生存期間やTFIの延長につながる可能性がある。 -
胃癌肝転移における癌救急症に対してWeeklyアルブミン懸濁型パクリタキセル療法が有効であった1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は82 歳,男性。高度進行胃癌に対し,姑息的幽門側胃切除術を施行した。術後S-1 を投与し3 コースまでSDであったが,自己判断で内服を中断した。その後,全身[怠感と黄疸が出現し緊急入院となった。入院時精査で肝転移進行による癌救急症と診断した。全身状態を考慮し,weeklyアルブミン懸濁型パクリタキセル療法を開始したところ,1 コース終了時には症状が改善し退院した。癌救急症の場合,抗癌剤投与基準を満たさない症例であっても適切な治療により効果が得られることがある。今回,化学療法により癌救急症から回復した症例を経験したので報告する。 -
mFOLFOX6 療法にて胃癌の完全奏効を得ることができた結腸胃重複癌の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。2011年10 月体重減少,血便を主訴に受診。精査にて,高度狭窄を伴うS 状結腸癌および胃角部に2 型進行胃癌を認め,組織型より同時性重複癌の診断となる。また,CT にて転移性肝癌,腹水貯留所見を認めた。回腸ストーマ造設後,mFOLFOX6療法を6 コース施行,その後のCT にてS 状結腸腫瘍,転移性肝腫瘍の著明な縮小,腹水の消失を認めた。また,上部消化管内視鏡にて胃腫瘍は肉眼的消失,生検にて化学療法効果判定Grade 3 の診断となる。8 コース施行後,S 状結腸切除術,膀胱部分切除術,肝部分切除術を施行し,組織学的治癒切除が得られた。なお,胃癌に関しては患者の強い希望にて切除していない。根治切除後40 か月を経過したが,いずれも再発所見を認めていない。 -
Gemcitabine,TS-1併用化学療法が奏効した膵癌および大腸癌の重複癌の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。糖尿病の精査中,腹部造影CT にて膵頭部から膵体部にかけて造影効果の乏しい低濃度腫瘤を認めた。上行結腸には不均一な濃染を伴う高度壁肥厚を認め,下部消化管内視鏡検査では 4/5 周性の分葉状 Type 5 の隆起性病変を認めた。膵癌と大腸癌の重複癌と診断し,gemcitabine,TS-1 併用化学療法(gemcitabine 1,000 mg/m2,TS-1 60mg/m2)を開始した。12コースの化学療法により腫瘍マーカーは著明に低下し,膵癌に関しては軽度の縮小,上行結腸癌に関しては著明な縮小を認めた。gemcitabine,TS-1 併用化学療法は膵・大腸重複癌に対する治療として有効であり,一選択肢となることが示唆された。 -
S-1隔日投与により長期無増悪生存中の高齢者大腸癌多発肺転移の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description胃癌,大腸癌などで投与されるS-1の投与法は4 週投与2 週休薬が推奨されている。しかしながら有害事象出現のため,休薬または連日投与期間を短縮せざるを得ない症例を数多く経験する。今回われわれは,高齢者大腸癌多発肺転移の症例に対してS-1 の隔日投与を行い,少ない有害事象で長期無増悪生存中の症例を経験した。症例は84 歳,女性。performancestatus 2。大腸癌多発肺転移の診断で,大腸の手術後にS-1 隔日投与による化学療法を施行した。肺転移巣は縮小を認め,大きな有害事象なく投与可能であった。現在18か月以上無増悪で投与継続中である。S-1 隔日投与法は抗腫瘍効果を保ちながら,有害事象が少なく長期間投与可能な治療法として報告されている。高齢者大腸癌患者に対しての化学療法として有用である可能性が示唆された。 -
局所進行直腸癌の術前治療にmFOLFOX6+Cetuximabが著効し根治切除を得た1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。排尿時痛を主訴に来院。腹部CT 検査にて直腸原発の巨大な腫瘍性病変を認め,膀胱への浸潤も指摘された。一期的切除は困難と判断し,人工肛門を造設した後,化学療法を施行した。EGFR 陽性,KRAS野生型であったため,mFOLFOX6+cetuximab(c-mab)による治療を開始したところ40%以上の縮小効果を認め,膀胱を温存した上での切除が可能と考えられ,膀胱部分切除を伴う直腸高位前方切除術にて根治的切除を得ることができた。局所進行直腸癌に対する術前治療としては放射線化学療法が一般的であるが,他臓器を巻き込む巨大な病変や遠隔転移が疑われる場合にはsystemicな治療が有効な場合もある。今回われわれは,巨大な直腸癌に対しmFOLFOX6+c-mabを術前治療として使用することで,著明な腫瘍縮小効果を認め根治切除に至った症例を経験したので報告する。 -
S-1を用いた術前化学放射線療法によりPathological Complete Responseを得た直腸癌の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。下血精査の内視鏡検査で歯状線にかかる2 型腫瘍を認め,生検で直腸癌と診断された。局所制御目的に術前化学放射線療法(S-1 120 mg/day×20 日間,全骨盤腔・三門照射2 Gy/day total 40 Gy)を施行し,内視鏡的に著明な腫瘍縮小を認めた。治療終了6 週間後に腹腔鏡下直腸切断術を施行し,病理組織検査にて癌遺残を認めず,組織学的効果Grade 3(著効)と判定された。術後5 年が経過し,無再発生存中である。 -
無菌性腹膜炎を合併した腸間膜型デスモイド腫瘍の1 例
43巻3号(2016);View Description Hide Description症例は虫垂切除の既往歴のある50 代,女性。右下腹部痛を主訴に当院を受診し,CT 検査で回盲部周囲に腫瘤性病変を指摘された。GIST,悪性リンパ腫,回腸癌などを疑い手術予定であったが,入院前日に発熱および腹痛を認め緊急入院となった。血液検査はWBC 6,900/mL,CRP 2.6 mg/dL,CT 所見もfree air や腹水増加を認めず,保存的に症状は改善したため予定どおり手術を施行した。回盲部腸間膜に表面に暗赤色の凹窩を伴う腫瘍を認め,また少量の膿性腹水がみられた。回盲部切除術を施行し,病理診断でデスモイド腫瘍と診断された。凹窩の部分ではびらんと炎症,反応性中皮を認めるも腫瘍露出はみられず断端陰性であった。術後経過良好で,現在再発は認めていない。腹膜炎を伴うデスモイド腫瘍の報告は散見されるも,多くは腫瘍穿破,腸管穿通が原因であり,本症例のような無菌性の腹膜炎は非常にまれである。
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