癌と化学療法
Volume 43, Issue 4, 2016
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投稿規定
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総説
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最新がん個別化医療―臨床シークエンスのバイオインフォマティクス―
43巻4号(2016);View Description Hide Descriptionバイオインフォマティクスはこれまで基礎研究に役立ってきた。古くは単細胞生物の蛋白質配列解析を介した生物学上の発見に始まり,ヒトゲノム配列が解明されて以降は基礎医学上の発見にも役立ってきた。近年,バイオインフォマティクス技術が臨床医学にも使われ始めている。最新の個別化医療あるいはprecision medicine である臨床シークエンスにおいて,その技術が活用され始めているのである。本稿では,臨床シークエンスにおいてバイオインフォマティクス技術がどのように使われつつあるのか,その原理を技術的詳細に拘泥することなく解説する。また,その技術の将来の方向性についても論じる。
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特集
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- 分子標的治療薬の併用療法の可能性(一部臨床試験ベース)
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乳癌に対する分子標的治療薬の併用療法の可能性
43巻4号(2016);View Description Hide Description乳癌ではトラスツズマブに代表される数々の分子標的治療薬が開発され,その恩恵を受ける患者も多い。分子標的治療薬は主として殺細胞性抗癌薬との併用療法として使用されることが多いが,分子標的治療薬そのものを2 剤併用する治療も試みられてきている。HER2 陽性乳癌に対しては,抗HER2 抗体のトラスツズマブとペルツズマブを併用することによる大きなベネフィットが報告され,進行再発乳癌における一次治療としてこの2 剤とタキサン系抗癌薬との組み合わせが最も推奨されている。トラスツズマブとチロシンキナーゼ阻害薬ラパチニブの併用については,ある程度の有効性が認められるものの限定的な使用機会にとどまっている。T-DM1 とペルツズマブの併用やトラスツズマブとベバシズマブの併用は,有用性が明確になっていない。ホルモン療法薬も古くから併用療法の可能性が検討されてきているが,フルベストラントとアロマターゼ阻害薬(AI)の組み合わせで有効との報告がある一方,これを否定する試験結果もあり,一定の結果が得られていない。ホルモン療法薬と mTOR 阻害薬エベロリムス,pan-PI3K 阻害薬 buparlisib,CDK4/6 阻害薬である palbociclib,ribociclib,abemaciclib などの併用療法がホルモン療法耐性を克服する方法として様々な設定で臨床開発されている。 -
悪性黒色腫
43巻4号(2016);View Description Hide Description2011年以後,進行期の悪性黒色腫に対する新薬が次々と承認された。新薬は単剤でも殺細胞性抗がん剤を上回る臨床効果を示すが,BRAF 阻害剤にMEK 阻害剤を併用するとBRAF 阻害剤単剤に比べて奏効率は20%上乗せされて70%に,無増悪生存期間中央値も50%増しの11 か月以上に延びた。興味あることに,BRAF 阻害剤とMEK 阻害剤の併用により,皮膚腫瘍や手足の角化症などの副作用はむしろ抑えられる。免疫チェックポイント阻害剤であるイピリムマブとニボルマブの併用では奏効率60〜70%,無増悪生存期間中央値11〜14 か月であり,副作用は強いが高い有効性が確認されている。他にも多数の併用療法の臨床試験が進行中である。 -
大腸癌に対する分子標的治療薬どうしの併用療法の現状と可能性
43巻4号(2016);View Description Hide Description大腸癌においては,現時点で標準治療と認識されている分子標的治療薬どうしの併用療法はないが,近年その有効性を示唆するデータが報告され始めている。VEGF 阻害薬+EGFR 阻害薬の併用療法については,ベバシズマブ+抗EGFR 抗体薬は大腸癌の一次治療では有効性が減弱することが示された一方で,ベバシズマブ+EGFR-TKI(エルロチニブ)は維持療法として有効な可能性が示されたものの大腸癌での承認がないことなどの問題点があり,臨床応用に至っていない。BRAF 変異型大腸癌に対しては,阻害箇所をシグナル経路の垂直方向に増やすdabrafenib(BRAF 阻害薬)+パニツムマブ+trametinib(MEK阻害薬)や,阻害箇所を垂直方向だけでなく水平方向に増やすencorafenib(BRAF 阻害薬)+セツキシマブ+alpelisib(PI3K 阻害薬)の開発が進行中で期待されている。抗 EGFR 抗体薬の耐性克服戦略としては KRAS/NRAS変異出現を想定したパニツムマブ+trametinib の臨床試験が進行中であり,HER2 増幅出現に対しトラスツズマブ+ラパチニブは有望な治療方法であることが示され(HERACLES 試験),MET 増幅出現を想定したイリノテカン+セツキシマブ+tivantinib(MET阻害薬)はIHC によるMET-high症例に絞ると有効である可能性が示唆され,さらなる検討が行われている。 -
肺癌の分子標的薬の併用療法
43巻4号(2016);View Description Hide Description肺癌に対する分子標的薬としては,EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子陽性の切除不能・再発非小細胞肺癌(NSCLC)に対してEGFR チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)およびALK-TKI が認可されている。また,切除不能・再発NSCLC に対して抗免疫チェックポイント抗体が認可された。本稿では,臨床的に使用頻度の高いEGFR-TKIに絞り,併用療法の現状を概説する。EGFR-TKI の効果を増強させる目的で,EGFR 変異陽性NSCLC を対象に殺細胞性抗癌剤や血管新生阻害薬,抗免疫チェックポイント抗体とEGFR-TKI を併用する臨床試験が行われている。一方,より早期のEGFR 変異陽性NSCLCを対象に,EGFR-TKI を術後アジュバントとして使用する臨床試験も行われている。これらの臨床試験の結果により,EGFR変異肺癌の治療におけるパラダイムシフトが起こるかもしれない。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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Pegfilgrastim併用による乳癌Dose-Dense EC 療法の経験―安全性と忍容性―
43巻4号(2016);View Description Hide Descriptionpegfilgrastim の承認により本邦でも実施可能となった乳癌dose-dense EC 療法の日本人における安全性と忍容性を検討した。再発高リスクの術前・術後乳癌患者9 例に EC 療法(epirubicin 90 mg/m / 2+cyclophosphamide 600 mg/m2)を2週ごと4 サイクル施行,pegfilgrastim 3.6 mg を各サイクルday 2 に皮下注射した。9 例のうち中止1 例,延期1 例で平均relative dose intensity(RDI)は0.93と良好であった。重篤な有害事象はなく忍容性は良好と思われ,治療強度を高めたい症例には有用なレジメンとなり得る。全9 例でday 8 にgrade 4 の好中球減少,6 例に発熱性好中球減少症を認めた。本邦にはpegfilgrastim投与下のanthracycline系化学療法における好中球数の推移について十分なデータがない。今後の検討が必要である。 -
大腸癌穿孔の臨床病理学的検討
43巻4号(2016);View Description Hide Description2008年1 月〜2015年7 月までに大腸穿孔と診断し緊急手術を行った90 例を対象とした。大腸癌穿孔の臨床病理学的特徴について非大腸癌穿孔例と比較した。重症度と臓器障害のSOFA scoreにおいて大腸癌穿孔症例が非大腸癌穿孔症例より有意にscore が低かった。大腸癌穿孔20 例の原発巣の占拠部位は,S 状結腸が11 例と最も多く,直腸5 例,横行結腸2例,上行結腸1 例,盲腸1 例であった。癌部の穿孔8 例で,癌の口側の穿孔が12 例であった。癌の病期はstage Ⅱ 11 例,stage Ⅲa 1 例,stageⅣが8 例であった。根治度では根治度A 10 例,根治度B 1 例,根治度Cが9例で根治度C の割合が高かった。根治度Aの手術を施行した10 例中6 例と根治度Bの1例で再発を認めた。再発を認めた初再発臓器は肝臓3例,腹膜2例,局所2例であった。大腸癌穿孔症例は根治切除例においても再発率が高く,術後補助化学療法などの集学的治療を行い,慎重な経過観察を要すると思われた。
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症例
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Mohs軟膏と薬物療法による切除不能進行乳癌の局所制御
43巻4号(2016);View Description Hide DescriptionMohs軟膏と薬物療法により良好な局所制御を得た進行乳癌2 例について報告する。症例1 は50 歳台,女性。出血,悪臭を伴う局所進行乳癌に対してMohs 軟膏を外用した。10 日間の処置により滲出液と悪臭は減少し止血も得られた。LuminalB 乳癌であったが,化学療法には同意が得られず内分泌療法を開始した。Mohs軟膏で固定化した腫瘍は内分泌療法により脱落し,滲出液,悪臭は消失した。症例2 は40 歳台,女性。自壊した乳房腫瘤は多量の滲出液,出血,悪臭を伴っていた。Mohs軟膏を20 日間外用したが,滲出液,出血,悪臭は制御困難であった。triple negative乳癌であったためFEC療法を開始した。2 コース施行時点で腫瘍は著明に縮小し,出血,悪臭はほぼ消失した。Mohs軟膏外用による局所治療に加え,早期に薬物療法を開始することが重要と考えられた。 -
放射線化学療法から手術療法へ移行した食道アカラシアに合併した胸部食道癌の1 症例
43巻4号(2016);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。検診で食道アカラシアを指摘され,追加精査で胸部食道癌を指摘された。早期食道癌であり根治的放射線化学療法を施行する方針とし,FP 療法と放射線治療を開始した。しかし,アカラシアにより腫瘍の位置が変動し,計画どおりの照射が行えず治療効果が不十分になると判断した。アカラシアによる症状も持続しており,治療途中で手術の方針に変更し胸部食道切除術を施行した。病理組織検査では腫瘍が消失しており,リンパ節転移も認めなかった。アカラシアは食道癌の危険因子の一つである。食道癌の治療としてStageⅠ症例では手術療法と根治的放射線化学療法のいずれも治療効果に差は認められない。しかし,アカラシアを合併した食道癌では,アカラシアの治療も兼ねて確実な治療効果を得るために,術前化学療法も含めた手術の方針を優先する選択肢も考えられ得る。 -
術前Docetaxel,Cisplatin,S-1療法にて組織学的CR が得られた吻合部再発胃癌の1 例
43巻4号(2016);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。2009年12 月,胃癌の診断で幽門側胃切除術+D1郭清術を施行した。最終病理診断はM,type 3,pT3(SS),N3a,M0,pStage ⅢAであり,術後1年間S-1 を投与された。2013 年4 月,上部内視鏡検査で吻合部に隆起性病変を認め,生検でpor+tub2,胃癌術後再発と診断され当科紹介となった。精査にて腫瘍の膵浸潤および膵頭後部リンパ節に転移を認めた。術前化学療法としてdocetaxel,cisplatin,S-1(DCS)療法を3 コース施行後の評価で,画像上完全寛解(CR)と判断した。根治を目的に胃切除とリンパ節郭清術を施行した。最終病理診断で切除胃とリンパ節に腫瘍の遺残は認められず,組織学的CR と診断した。術後補助化学療法として1 年間S-1 投与を行った。術後1 年8 か月経過した現在も無再発生存中である。切除可能な高度進行胃癌に対する術前DCS 療法は,安全で強い組織学的効果が期待される。術後の再発リスク軽減に有用な治療法の一つであることが示唆された。 -
術後Virchowリンパ節再発に対してS-1単剤によりCR を得た胃癌の1 例
43巻4号(2016);View Description Hide Description術後Virchowリンパ節再発に対してS-1単剤によりcomplete response(CR)を得た胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は67 歳,男性。2型の前庭部胃癌に対して幽門側胃切除術を施行した。病理結果はwell to poorly differentiatedadenocarcinoma,T3(SE),N2(20/51),M0,pStage Ⅲb であった。術後 2 か月にVirchowリンパ節再発を来したため,S-1内服を開始した。S-1 内服開始1 週間で理学所見上リンパ節の縮小を認めたため,S-1 単剤療法を継続し治療開始後5コース終了時にCR を得た。2 年間S-1 内服を継続しCRを維持した。その後,UFT内服に変更し2 年間継続,再燃なく経過したため服用を中止した。中止後22 か月経過した現在,再発を認めていない。 -
術前化学放射線療法施行後門脈合併切除によりR0切除を施行し得た局所進行膵癌の1 例
43巻4号(2016);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。背部のだるさを主訴に受診し,精査にて門脈浸潤を伴う局所進行膵頭部癌と診断した。borderlineresectable(BR)膵癌としてS-1(120 mg/body/day: 週 5 日,放射線照射日のみ)併用術前化学放射線療法(CRT,計40 Gy/20 Fr)を施行後,亜全胃温存膵頭十二指腸切除,門脈合併切除,リンパ節郭清(D2)を施行しR0切除を遂行し得た。治療後の効果判定は,Evans分類GradeⅡa であった。術後経過は良好で,術後23 日目に退院となった。現在術後約8か月経過し,無再発生存中である。
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短報
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鰹だしの末梢血流増加作用を利用した手足症候群の予防効果の検証
43巻4号(2016);View Description Hide DescriptionTo examine whether the consumption of dried bonito both is effective for the prevention of hand-foot syndrome(HFS), concentrated bonito broth was administered to 10 patients with HCC who were treated with sorafenib. Among the 10 patients, seven showed an increase in peripheral blood flow, as observed on Doppler ultrasonography. Only one patient showed Grade 1 HFS on day 14 after the initiation of sorafenib(10%); this incidence rate of HFS was significantly lower than that obtained in our previous studies and reported data. These results suggest that consumption of dried bonito broth contributes to the prevention of HFS by maintaining peripheral blood flow.
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特別寄稿
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- 第53回日本癌治療学会学術集会 特別緊急シンポジウム 現状では市販後自主的臨床試験が日本から消えるかも!
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1.自主的地域型臨床試験グループOGSG での実績と将来展望
43巻4号(2016);View Description Hide Description大阪消化管がん化学療法研究会(Osaka Gastrointestinal Cancer Chemotherapy Study Group: OGSG)は2000 年に設立され,消化管がんに関する治療,特に化学療法に関する研究者主導の多施設共同研究を行ってきた。質の高い市販後臨床試験を行えるように組織機構を整備し,多くの活動実績を積み重ねてきた。しかしながら,企業からの寄附金の大幅な減額により財政状況が悪化し,存続の危機を迎えている。組織機構と活動実績を紹介するとともに,現状の問題点と将来展望について述べる。 -
2.標準治療は治験ではなく,研究者主導の市販後臨床試験により確立される
43巻4号(2016);View Description Hide Description国内における研究者主導の市販後臨床試験の経済的基盤が揺らいでいる。市販後臨床試験は新薬を臨床現場に浸透させる上で重要な第Ⅲ相試験が主体となり,十分な組織設計,経済的基盤を構築することが必要である。現在までの問題点を整理し,永続可能な臨床試験グループの体制を国家的視点で構築することが必要であり,医療技術評価の視点を含めるべきである。 -
3.臨床試験実施グループに対する緊急アンケート―臨床試験組織の立場から―
43巻4号(2016);View Description Hide Description企業からの寄附が止まったために,市販後臨床試験をする民間試験組織の活動が停止している。ガイドラインのEBM 作成を担っている多くの臨床試験組織を消滅させないために,資金援助の再開・新規助成は喫緊の課題である。 -
4.抗がん剤:適正使用のためのエビデンス創出を考える―育薬における製造販売後臨床試験の役割―
43巻4号(2016);View Description Hide Description製薬企業は,製造販売後の臨床試験は実臨床下でのエビデンス構築のため重要と考えている。ただ,結果の有効活用には臨床試験の質の確保,すなわち倫理性,データの信頼性とともに企業と研究者との間の利益相反の適正な管理が求められる。そのため日本製薬工業協会は臨床試験支援の透明性向上に努めている。 -
5.大規模がん臨床試験の国家戦略的推進
43巻4号(2016);View Description Hide Description全国のがん臨床研究グループによる臨床試験件数が,ディオバン事件を契機にした製薬会社からの寄附金の消滅により大幅に減少してきたが根本的な問題は,わが国において大規模なEBM 確立のためのがん臨床試験システムが公的関与の下に確立していないからである。患者,国民のためにも国家戦略による早急なシステムの確立が求められる。 -
6.市販後臨床試験の危機に対する製薬企業の反応―アンケート調査結果―
43巻4号(2016);View Description Hide Descriptionディオバン事件を契機とする臨床試験に対する研究支援の実態をアンケート調査した。26 社の抗がん剤製薬企業からの回答率は全体として38.5%と低率で,研究支援実態の表明に及び腰であった。2012年と2014 年の支援実績の比較では回答10 社のうち半数が減少,1 社が不変,3社が増加,無回答1 社であった。パテントの切れた薬剤を含む臨床試験あるいは未承認,適応外薬剤を含む医師主導治験あるいは先進医療B に対する支援はやや否定的であるが,申請につながるよい結果が得られた場合は積極的に対応すると回答した企業もあった。日本医療研究開発機構(AMED)の支援に肯定的な評価あるいはAMEDと民間との連携が必要とする意見があったが,半数は無回答であった。今後,西欧諸国の事例も参考に研究者,企業,行政,患者団体,マスコミ間の緊密な意見交換が必要である。 -
7.市販後臨床試験を知ろう,声を上げよう!―患者に合った有効で安全な治療法を得るために―
43巻4号(2016);View Description Hide Description治療選択の局面で,さらにその後の自分や家族の人生の在り方に悔いを残さないために,現在市販後臨床試験の健全な存続にかかわる課題をとおし“がんと共に生きる”患者・市民と行政・医療者・企業などの協働を改めて提案する。また,そのために患者・市民に知らせておくべきこと,そして患者・市民にできることやすべきことなどについて私見を述べる。 -
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