癌と化学療法
Volume 43, Issue 5, 2016
Volumes & issues:
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総説
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抗がん薬の曝露対策
43巻5号(2016);View Description Hide Description日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会による「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」が2015年7 月に発行された。がん薬物療法におけるhazardous drugs(HD)の職業性曝露は,薬剤の運搬,調製,投与,廃棄に至る全過程において包括的なチームアプローチを行うことで予防し,安全に管理する必要がある。HD を取り扱うすべての医療従事者は,HD の安全な取り扱いに関する知識およびスキルを習得すべきである。ヒエラルキーコントロールの理解と安全キャビネット(BSC),閉鎖式薬物移送システム(CSTD),個人防護具(PPE)の使用実践はHD曝露予防の鍵となるものである。
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特集
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- 希少がんの病理と診療
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小腸癌
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionカプセル内視鏡とバルーン内視鏡の開発により,小腸癌の診断は以前よりも容易になった。特にバルーン内視鏡は,これまで観察不可能であった小腸全域の観察が可能であるのみならず,生検による組織診断や内視鏡治療も行うことができる。内視鏡診断が予後の改善に寄与することが示されてはいるが,依然として一般的に小腸癌の予後は悪い。治療は大腸癌に準じた手術・化学療法が行われているが,特に化学療法の奏効率は現在のところ高くはない。小腸内視鏡を用いた早期発見や分子標的薬による治療などの新しい診断・治療体系の構築が求められている。 -
胸膜中皮腫の病理と診断(治療)
43巻5号(2016);View Description Hide Description中皮腫の病理診断では,細胞診における中皮腫細胞と反応性中皮細胞の鑑別が難しいため腫瘍組織生検による鑑別が必須である。確定診断のためには複数の免疫染色を行い,線維性胸膜炎や肺癌との鑑別を行う。上皮型中皮腫の診断には陽性,陰性抗体が各2 種類以上中皮腫に一致する必要がある。また,肉腫型中皮腫では真の肉腫との鑑別でケラチン陽性が重要である。中皮腫の治療法では外科手術としてextrapleural pneumonectomy(EPP)とpleurectomy/decortication(P/D)が行われるが,周術期の死亡率が高いEPP に対してP/Dは比較的低く,生存期間がほぼ同様であるためP/Dの施行頻度が増加している。しかし,治癒をめざすためには,EPP に化学療法と放射線療法を加えたtrimodalityが望まれる。化学療法としてはcisplatin(CDDP)+pemetrexed(PEM)のみが有効であり,その他の治療法として免疫療法が試みられるようになってきた。 -
胸腺上皮性腫瘍の新TNM 分類
43巻5号(2016);View Description Hide Description胸腺腫や胸腺癌などの胸腺上皮性腫瘍に関してはこれまで「正岡(-古賀)分類」が主に用いられてきたが,2014 年末にInternational Association for the Study of Lung CancerとInternational Thymic Malignancy Interest Groupから来るべきTNM分類第8 版に向けての新分類が提案された。新TNM分類では,縦隔胸膜浸潤までがⅠ期,心膜浸潤がⅡ期,肺や血管など隣接臓器浸潤がⅢa 期およびⅢb期,胸膜播種とN1 リンパ節転移がⅣa期,N2 および遠隔転移がⅣb期と定義された。本稿では当院で完全切除した胸腺上皮性腫瘍連続154 例を対象とし,新分類に沿ってT・N 因子を再分類し再ステージングを行った結果を提示した。組織型は胸腺腫124例,胸腺癌21 例,カルチノイド8 例,その他が1 例であった。再ステージングの結果,Ⅰ期症例が従来の38 例(25%)から119 例(77%)に大幅に増加した。新分類Ⅱ期は4 例(3%)にとどまり,Ⅲa 期17 例(11%),Ⅲb期1例(1%),Ⅳa 期9 例(6%),Ⅳb 期が4 例(3%)であった。組織型別の解析では,胸腺腫A・AB・B1 と診断された69 例中68 例(99%)がⅠ期であった。全生存割合では各病期の間に有意差を認めなかったが,無再発生存割合ではⅠ期とⅡ期以上の間に有意差を認めた(p<0.0001)。 -
成人T 細胞白血病・リンパ腫(ATL)
43巻5号(2016);View Description Hide Description成人 T 細胞白血病・リンパ腫(ATL)は HTLV-1 が病因の CD3+/CD4+/CD8−/CD25+/CCR4+/FoxP3+or−/TdT−Treg/Th2 細胞由来の悪性腫瘍である。ATL は希少がんの一つで HTLV-1 による単一疾患であるが,分子病態と臨床病態は多様であり,病変部位,LDH とCa の値により急性型,リンパ腫型,慢性型とくすぶり型に臨床分類される。高悪性度ATL(急性型,リンパ腫型または予後不良因子を有する慢性型)と低悪性度ATL(くすぶり型と予後不良因子を有さない慢性型)は日本では,それぞれ強力な化学療法に続いての同種造血幹細胞移植とwatchful waitingで治療されるが,その予後は他の同様の造血器腫瘍より不良である。多様な病態をとり予後不良な希少がんであるATL の診療体制の整備は,世界の多発地域と日本全国で必要である。
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Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies 血液・リンパ系腫瘍再発・難治性造血器腫瘍の治療―新規・追加承認薬とその位置付け―
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特別寄稿
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腫瘍を三段階に見分けるミサイル型抗癌剤P-THP―EPR 効果に基づく腫瘍ターゲティングを中心に―
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionわれわれは,enhanced permeability and retention(EPR)効果に基づく高分子ミサイル型抗癌剤の開発を行っている。理想的なEPR に基づく抗癌剤の設計には,三つの要素が必要である。ⅰ)高い血中濃度の維持と安定性,ⅱ)腫瘍組織における選択的蓄積と活性薬剤の緩やかな放出,ⅲ)活発な活性薬剤の腫瘍細胞内取り込みである。最近,われわれはこれらの基準を満たすべきヒドラゾン結合を有するHPMAコポリマー結合ピラルビシン(P-THP)を合成した。この高分子薬剤PTHPは長い血中半減期を有し,EPR 効果により腫瘍部選択的な集積を示し,さらに腫瘍組織の弱酸性条件でヒドラゾン結合が漸次に切断され,腫瘍環境応答的にもとのTHP を遊離する。このfree のTHP はトランスポーターにより腫瘍細胞への取り込みは,はるかによい(ドキソルビシンの33倍)。その結果,P-THP は種々の動物腫瘍モデルで優れた抗腫瘍活性を示し,副作用はほとんど認められなかった。臨床のパイロットスタディの治療実験で,無数の肺転移と骨転移を有するstageⅣの前立腺癌の患者において,P-THP(50〜75 mg/1 回につき体重70 kg 当たり,free THP 当量)3回投与で肺転移巣が,6 か月後には骨転移がほとんど消失し,3 年間転移巣の再発,副作用もなく,高いQOLを維持し社会復帰した。これらのことから,P-THPはEPR 効果を基づく三段階に腫瘍を見分けるミサイル型抗癌剤としてその臨床への応用が期待される。 -
Little Impact on Renal Function in Advanced Renal Cell Carcinoma Patients Treated with Sorafenib―Analyses of Postmarketing Surveillance in Japan in over 3,200 Consecutive Cases
43巻5号(2016);View Description Hide DescriptionBackground: To assess the effect of sorafenib on renal function in patients with advanced renal cell carcinoma(RCC) included in a postmarketing surveillance. Methods: All patients in Japan with advanced RCC treated with sorafenib between February 2008 and September 2009 were followed for 12 months. Baseline characteristics, renal function, survival, safety, and dosage were stratified according to baseline estimated glomerular filtration rate(eGFR): G1 (eGFR≥90), G2(eGFR≥60-<90), G3a(eGFR≥45-<60), G3b(eGFR≥30-<45), G4 (eGFR≥15-<30), and G5(eGFR<15). A total of 3,255 and 3,171 patients were included in this analysis for safety and efficacy, respectively. Results: The mean eGFRs(mL/min/1.73m2) were not substantially changed for each group at baseline and 12 months, respectively. Median daily doses of sorafenib were 726mg(G1), 522mg(G2), 524mg(G3a), 517mg(G3b), 483mg(G4), and 400 mg(G5). Renal failure, reported as an adverse event, occurred more frequently in the G4 and G5 groups(9%and 3%, respectively)than in other groups. Objective response rates for each subgroup were as follows: G1, 23%; G2, 28%; G3a, 29%; G3b, 26%; G4, 24%; and G5, 18%. Oneyear survival was higher in the G3a and G3b groups(82% and 78%, respectively)and lower in the G1 group(50%). Conclusions: This study demonstrated little impact of sorafenib on renal function in advanced RCC patients during the observational period. Patients showed sufficient clinical response and safety irrespective of baseline eGFR value. -
化学療法と抗がん免疫応答
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがんに対する化学療法は,多くのがん患者に実施されている。化学療法では患者が耐え得る最大量を投与するのが基本的な考え方であるが,この方法ではがん患者の免疫力が破綻してしまう。一方,化学療法剤投与後の治療効果や予後にがん患者の免疫力が関与していることが明らかにされつつある。また,ある種の化学療法剤は免疫応答を誘導するようながん細胞死を誘導し,担がんで増加した免疫抑制細胞を減少させる効果もある。本稿では,化学療法後に担がん生体内で生じる抗がん免疫応答の全体像とその背景となる機序を概説するとともに,化学療法を併用した複合免疫療法を紹介する。
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原著
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HER2 陽性乳癌におけるNanoparticle Albumin-Bound Paclitaxel(NabPTX)を含む術前化学療法の検討
43巻5号(2016);View Description Hide Description今回われわれは,HER2 陽性乳癌の術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)におけるnanoparticle albuminboundpaclitaxel(nabPTX)の有効性について後方視的に検討した。対象は2008 年6 月〜2014年12 月に当院でNACを施行したHER2 陽性浸潤性乳管癌22 例のうちnabPTXまたはpaclitaxel(PTX)を含むレジメンが使用された13 例である。nabPTX投与群7 例,PTX 投与群が6 例であった。各々の群でpCR 率は 85.7%(6/7),50.0%(3/6)であり,nabPTX投与群で高いpCR 率を認めた。また,nabPTX投与群においてGrade 3 以上の好中球減少を71.4%(5/7)に認めたが,発熱性好中球減少症の発症は認めなかった。末梢神経障害はnabPTX投与群全例で出現したがいずれもGrade 1/2 であった。今回の結果より,HER2 陽性乳癌のNAC においてnabPTX を含むレジメンは比較的安全に使用でき,有用である可能性が示唆された。 -
高齢の進行大腸がん患者に対するFOLFOX 療法/FOLFIRI 療法施行時のAprepitantの有効性の検討
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがん化学療法を施行する患者にとって,十分な制吐支持療法がなされることはquality of lifeを維持する上で重要となる。高度催吐性リスクレジメンに対する制吐支持療法の研究は多数あるが,中等度催吐性リスクレジメンに対する研究は少ない。進行大腸がんの治療に最も汎用されるレジメンであるFOLFOX 療法やFOLFIRI 療法も中等度催吐性リスクレジメンであり,これらによる治療時の制吐支持療法に関するエビデンスの集積は発展途上といえる。また,65 歳以上の高齢者に対する本レジメン施行時の適切な制吐剤使用に関する研究はさらに少ない。そこで,小山記念病院にてFOLFOX 療法もしくはFOLFIRI 療法による治療を施行する進行大腸がん患者のうち,65 歳以上の高齢者を対象に制吐支持療法としてのaprepitantの有効性を検討した。14 名の患者に対し,granisetronおよびdexamethasoneとの併用下でaprepitantの投与を行ったところ,治療後5 日間の嘔吐完全制御率100%,悪心完全制御率は64.3%であった。これらの結果から,FOLFOX療法ならびにFOLFIRI 療法を施行する高齢進行大腸がん患者に対するgranisetron およびdexamethasone,aprepitant の使用は,制吐支持療法として安全で効果的に使用できる選択肢の一つであると考える。 -
Stage Ⅲ結腸癌への術後補助化学療法―実地臨床での薬剤選択,忍容性,安全性の検討―
43巻5号(2016);View Description Hide DescriptionNCCN のガイドラインでは,Stage Ⅲ結腸癌の術後補助化学療法はオキサリプラチン(L-OHP)ベースの化学療法(FOLFOX,CapeOX,FLOX)が category 1,次いでcapecitabine,5-FU/Leucovorin(LV)が category 2 Aで推奨されている。実地臨床における Stage Ⅲ結腸癌症例の補助化学療法の薬剤選択を検証し,CapeOX 療法と UFT/LV 療法の忍容性と安全性を検討した。対象は,2012 年1 月〜2014 年12 月に治癒手術を行った連続するStage Ⅲ結腸癌104 例で,1 例は術後早期に転院した。103例のうち82 例(80%)に補助化学療法を行い,21 例(20%)が化学療法なしであった。化学療法の種類はCapeOX療法32 例(31%),UFT/LV 療法49 例(48%),capecitabine療法 1 例(1%)であった。本人の希望のみで治療方針を決めたのは59 例(57%)で,このうち32例(54%)が CapeOX療法,26 例(44%)が UFT/LV 療法を選択し,1 例(2%)が化学療法なしであった。CapeOX療法では完遂率は80%,UFT/LV 療法では84%であった。完遂した症例中,減量と休薬を要しなかったのは,CapeOX療法で22%,UFT/LV 療法では80%であった。CapeOX療法,UFT/LV 療法ともに重篤な有害事象は認めなかった。CapeOX 療法と UFT/LV 療法の忍容性と安全性は許容できたが,CapeOX 療法は患者の状態に応じてきめ細かな調整が必要であった。 -
外来化学療法の発熱性好中球減少症に対するレボフロキサシン水和物の有効性
43巻5号(2016);View Description Hide Description外来化学療法では,発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)の初期治療としてあらかじめ経口抗菌薬を処方し,発熱時に服薬を開始することがあるが,その有効性や安全性は確立していない。そこで,外来がん患者の発熱に対するレボフロキサシン水和物(levofloxacin hydrate: LVFX)の有効性・安全性と,発熱発現にかかわる因子について調査した。対象は,外来にてアントラサイクリン系抗がん剤を含む化学療法を施行した乳がん患者かつ発熱時のLVFX をあらかじめ処方された134 人(513コース)とした。LVFX の有効性・安全性は,服薬による5 日以内の解熱の有無と下痢・発疹などの副作用を調査した。89/134人(66%)および164/513コース(32%)に発熱が認められ,LVFX の服薬にて149/160 コース(93%)で解熱が認められた。副作用(発疹)による中止は2/160 コース(1%)だった。また,化学療法施行中の口内炎の発現が発熱発現にかかわる因子として示唆された(odds ratio: 1.36,p<0.05)。本研究の結果により,外来化学療法施行時の発熱に対してLVFX は有効かつ安全であると示された。
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医事
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当院がんセンターにおける「臓器別腫瘍ユニット」の運営の工夫
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがん診療においては診断・治療の発展に伴い,多科・多職種で運営されるチーム医療体系が求められている。当院のがんセンターでは「臓器別腫瘍ユニット」という多科・多職種で構成された臓器別チーム医療を実践している。運営の核となっているのは定期的に開催しているユニットカンファレンスであり,診療にかかわる各科・職種が参加し,診断・治療方針の決定や診断経過や治療経過の報告を行っている。また,がん相談支援センターとの連携,電子カルテの活用,パンフレットを用いた患者への臓器別腫瘍ユニット診療体制であることの広報なども,臓器別腫瘍ユニット運営の工夫としてあげられる。 -
悪性神経膠腫に対する術中BCNU Wafer留置―本邦の臨床医は本剤をどのようにみているか―
43巻5号(2016);View Description Hide DescriptionBCNU waferとは,2013年より本邦で使用可能となった悪性神経膠腫切除後の脳内留置用徐放剤である。悪性神経膠腫の予後改善に重要な役割を担うことが期待される反面,特殊な画像変化や有害事象に注意する必要がある製剤である。今回われわれは,悪性神経膠腫の治療を行っている臨床医が,実経験を踏まえ現状で本剤をどのように評価しているのかを知るべくアンケート調査を行った。薬剤の効果に関するこれまでのエビデンスから本剤を肯定的にとらえる意見が多い一方で,脳浮腫,痙攣発作,髄液漏・創傷治癒遅延などの有害事象を念頭に置き,対策を行っている医師が多いことがわかった。本剤については,標準治療への上乗せ効果を実証した前向き試験がない点などエビデンスが不十分な部分もあるため,今後のさらなる研究の蓄積が望まれる。
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症例
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Mitomycin C 心嚢腔投与と全身化学療法を行い長期コントロールできている癌性心膜炎再発乳癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。左乳癌(cT2N1M0,Stage ⅡB),右乳癌の疑い(cT1N0M0,StageⅠ)と診断し,2005 年11 月に左乳房切除術+右乳房部分切除術+左腋窩リンパ節郭清(Ⅱ)を施行した。病理診断は左が充実腺管癌,腋窩リンパ節転移あり,ER(+),PgR(+),HER2(3+),右が非浸潤性乳管癌(comedo type)であった。術後化学療法としてCEF 4コース施行後,ホルモン療法を開始し,右温存乳房に対する放射線治療を施行した。2010 年9 月,労作時息切れを主訴に受診し,CT で大量の心嚢液貯留を認めた。他臓器転移は認めなかった。CT ガイド下心嚢ドレナージを施行し,800 mL 血性排液を認め,心嚢液細胞診で悪性と診断された。浸潤性乳管癌の転移として矛盾しない細胞所見であり,乳癌転移による癌性心膜炎と診断した。mitomycin C を心嚢腔投与し心膜癒着術を行った後に,全身薬物療法として化学療法・ホルモン療法を施行している。癌性心膜炎発症から5 年以上経過したが,新たな再発病変なく全身状態良好で生存中である。 -
肺癌化学療法中に下肢急性動脈塞栓症を発症した1例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。左下肢脱力を主訴に近医受診し,肺癌と転移性脳腫瘍の疑いで当科紹介となった。大細胞神経内分泌癌,cT1bN0M1b(BRA),stage Ⅳと診断し脳転移に対して定位放射線手術を施行後,化学療法目的に入院となった。cisplatin とirinotecan 投与後,第8 病日に突然右下肢全体の激痛と脱力を訴え,下肢動脈造影CT にて右総大腿動脈の閉塞を認め,右下肢急性動脈塞栓症と診断した。経皮的血栓除去術を施行後症状は改善し,抗凝固療法により後遺症・再発なく経過している。悪性腫瘍に対するプラチナ製剤を含む化学療法中の四肢急性動脈塞栓症はまれであるが,迅速な診断・加療を要する病態であり注意が必要である。 -
Carboplatin+Paclitaxel+Bevacizumabが奏効し長期生存が得られている癌性リンパ管症と多発骨転移を伴う肺腺癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description背景: 癌性リンパ管症は難治性で予後不良である。症例: 53 歳,女性。深吸気時の違和感を主訴に受診した。精査の結果,左肺腺癌,癌性リンパ管症,胸椎(Th4),前頭骨転移と診断した。EGFR 遺伝子変異を認めたが,PS 0 であったためcarboplatin+paclitaxel+bevacizumab による化学療法を開始し,同時にTh4 転移部に40 Gy の照射とゾレドロン酸を投与した。2 コース終了時に自覚症状は改善し,6 コース終了時には画像上癌性リンパ管症の所見はほぼ消失した。治療前126.2ng/mL と高値であった CEA も 5.0 ng/mL と低下した。以後 bevacizumab での維持療法を 10 コースまで施行したが CEA11.7 ng/mL と再上昇し,原発巣の増大,前頭骨転移の増悪を認めたため二次治療としてEGFR-TKIを開始した。11 か月でgrade 4 の肝機能障害のため中止し,現在四次治療を施行中である。病状の進行は認めるものの,診断時から52 か月が経過し外来通院中である。結語:癌性リンパ管症と多発骨転移を伴う肺腺癌に対しbevacizumab 併用化学療法が有効で長期生存が得られた。 -
膵癌術後S-1内服中に発生した亜急性甲状腺炎の1例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。膵体部癌に対して膵体尾部切除,腹腔動脈合併切除術を施行した。2 年後に腹膜再発に対してS-1による化学療法を開始した。化学療法開始後に39℃の発熱を認め,発熱性好中球減少症と診断し,抗生剤,G-CSFによる治療を行ったが改善を認めなかった。入院時より前頸部の疼痛を自覚しており,血液検査で甲状腺機能亢進の所見を認めた。頸部エコーや123Iシンチグラフィの結果から,亜急性甲状腺炎と診断した。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服を開始したが,症状の改善が乏しかったためプレドニゾロン(PLS)を投与し,PLS 内服開始後1週間で解熱,炎症反応の改善を認めた。S-1内服中に発生した亜急性甲状腺炎の報告をするとともに,化学療法中の発熱時には発熱性好中球減少症を疑う必要があるが,身体所見や検査結果を十分に吟味し他疾患の可能性を考慮することも重要であると考えられた。 -
トラスツズマブ併用化学療法により完全奏効を得た多発肺転移を伴うHER2 陽性進行胃癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は79 歳,女性。噴門部進行胃癌多発肺転移と診断された。テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1),シスプラチン(CDDP)併用療法を開始し1 コース施行中にHER2陽性が判明したため,次コース以降カペシタビン,CDDP,トラスツズマブ併用療法に切り替えた。年齢および腎機能を考慮し,CDDP は薬物療法開始時から50%量に減量した。トラスツズマブ併用化学療法2 コース開始前に口内炎Grade 3 および手足症候群Grade 1 を認め,2 コース以降カペシタビンを一段階減量して投与した。手足症候群は悪化せず経過した。4 コース終了時点で上部消化管内視鏡検査上,原発巣が消失し,7 コース終了時点でCT 上,多発肺転移が消失し完全奏効と判定した。12 コース終了時点でも完全奏効を維持しており,本人の希望に沿い薬物療法を中止とした。中止8 か月後,診断から21 か月の時点でADLを保ち,再発なく経過している。 -
外科切除および術後補助療法FOLFOX6 にて完全緩解が得られたリンパ節転移を伴う原発性十二指腸癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description原発性十二指腸癌はまれな疾患であり,リンパ節転移を伴う症例は予後不良である。症例は46 歳,男性。消化管出血を主訴に来院した。内視鏡,CT,PET-CT 検査で第二部の原発性十二指腸癌と診断し,根治切除PpPD を施行した結果,T3N1M0(StageⅢ)であった。術後に補助化学療法としてmFOLFOX6を6 か月間施行した結果,5 年経過し,再発を認めなかった。進行症例はリンパ節郭清を含めた根治的切除とFOLFOX レジメンによる補助化学療法が有効となる可能性が示唆される。 -
Regorafenibの長期投与・再投与が可能であった進行大腸癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は54 歳,女性。2009 年9 月,S 状結腸癌・同時性多発肝転移に対してS 状結腸切除,肝部分切除,RFAを施行した。術後肝再発,肺転移が出現するなかL-OHP/CPT-11+抗 VEGF 抗体/抗 EGFR 抗体の組み合わせで5 レジメン,また肝動注療法や UFT/Krestin とあらゆる選択肢を駆使したが病勢はコントロールできず,2014 年 11 月,regorafenib の投与を開始した。投与開始後腫瘍マーカーの低下,肝転移巣の造影効果減少を認め,8 か月間継続投与を行った。その後下痢,摂食障害の出現,転移巣の増大傾向を認めたため投与を中止しロンサーフへ変更したが,2 コースで腫瘍マーカーの著明な上昇・肝転移巣の増大・肝機能の上昇・上腹部痛の悪化を認めた。regorafenib 投与中止に至った経過を検証し,再度regorafenibの投与を開始したところ,速やかに肝機能の改善・腫瘍マーカーの著明な低下・上腹部痛の改善を認め,患者の希望で投与中止されるまで8 か月間投与を行った。regorafenibの治療効果を認めた症例では,調整次第で長期投与・再投与が可能なことがあり,転移巣の縮小はなくとも生命予後の延長が期待される。 -
XELOX が22コース著効中の多発性肝転移を伴った切除不能直腸癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。2014 年5 月,食欲不振と血便にて来院した。肝両葉に多発性転移を伴った直腸癌を認めた。内視鏡生検は高分化腺癌であった。癌は切除不能であったためS 状結腸に人工肛門を造設した。術後XELOX を開始し,5 コースが終了した時点でCT上,直腸癌は判別不能となり,RECISTにて標的病変である多発性肝転移PR,非標的病変である原発巣CR,総合評価PR と判断した。現在22 コースを終え同効果を持続中である。 -
術前mFOLFOX6+Panitumumab併用療法により切除し得たstageⅣ直腸癌の1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionわれわれは,進行大腸癌に対し術前化学療法としてmFOLFOX6+panitumumab 併用療法を施行し,切除し得たstageⅣ直腸癌の1 例を経験したので報告する。症例は54 歳,男性。便秘を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡検査で2 型直腸癌を指摘された。腹部CT 検査でS 状結腸から直腸にかけて壁肥厚を認め,肝S3 に8 mm大の低吸収域を認めた。直腸癌SI(膀胱・後腹膜),N2M0H1P0,cStageⅣに対し,人工肛門造設術施行,mFOLFOX6+panitumumab併用療法を施行した。4 コース終了後には原発巣の著明な縮小を認め,直腸癌SS,N1H1P0M0,cStageⅣに対し高位前方切除術+D3郭清,肝転移に対し肝外側区域切除術を施行した。病理所見はtubular adenocarcinoma(tub2-1),int,INF a,pMP,ly0,v0,pDM0,pPM0,R0であった。術後mFOLFOX6を4 コース施行した。無再発生存中(2015年5 月現在,術後2年5か月)である。mFOLFOX6+panitumumab併用療法は根治性を高める可能性があると示唆される。 -
イプラグリフロジンにより化学療法中のステロイド性高血糖の抑制が認められた1 例
43巻5号(2016);View Description Hide Description症例は47 歳,男性。食道癌StageⅣ(T3N2M1)に対して,根治治療目的の化学放射線療法を施行した。制吐療法としてアプレピタント,5-HT3受容体拮抗薬とともに,デキサメタゾンをday 1 に9.9 mg,day 2〜4 に6.6 mgを投与した。1 コース目において強化インスリン療法を施行するも,高血糖Grade 3 を認めた。次コースで強化インスリン療法に加えてイプラグリフロジンをday 1〜4に投与したところ,高血糖はGrade 2 に治まった。ステロイドに誘発される高血糖に対しイプラグリフロジンの投与が有用であることが示唆された。 -
BRAF 阻害薬による結節性紅斑様皮疹
43巻5号(2016);View Description Hide Descriptionベムラフェニブは本邦で初めて上市されたBRAF 阻害薬であり,BRAF 遺伝子変異を有する悪性黒色腫に対する治療薬である。BRAF阻害薬の副作用として皮膚症状が多数報告されている。そのなかで結節性紅斑様皮疹は特徴的で,海外で既報告であるが本邦では未だ報告されていない。今回われわれは,ベムラフェニブによる結節性紅斑様皮疹の本邦第1 例を報告するとともに海外での報告を分析し対応策を検討した。症例は56 歳,女性。転移性脳悪性黒色腫に対してベムラフェニブを投与したところ,投与から約2 か月後に四肢に圧痛を伴う皮疹と関節痛が出現した。ベムラフェニブ投与により生じた結節性紅斑様皮疹と診断し,少量のプレドニゾロン経口投与を併用しつつ,ベムラフェニブは初期量のまま継続している。今後BRAF 阻害薬を投与される患者数は増加すると考えられ,この副作用に遭遇する可能性が高まることが予想される。今回の検討の結果,この副作用に対しては必ずしもBRAF 阻害薬を減量あるいは中断しなくてよい可能性があり,症例ごとの対応が求められると考えられた。
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