癌と化学療法
Volume 43, Issue 7, 2016
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投稿規定
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総説
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NeoantigensとWhole-Exome Sequencing
43巻7号(2016);View Description Hide Description自己抗原と異なり,もともと体内に存在しないneoantigen(新生抗原)は免疫原性が高く,腫瘍の拒絶にかかわる標的分子になり得ると期待される。癌細胞はその癌化の過程で多くの体細胞遺伝子突然変異を蓄積していく。正常細胞での発現を認めることがない癌細胞特異的な遺伝子変異に由来する蛋白はneoantigenの重要なソースである。腫瘍免疫において,このneoantigen が標的となって一連の免疫応答が誘導されることが明らかとなった。抗腫瘍免疫応答におけるneoantigenの重要性が確認され,現在世界中でneoantigenを標的とした癌免疫治療の開発が進められている。全エクソン解析(wholeexomesequencing)を中心とした次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析から患者個々の腫瘍特異的遺伝子変異を同定し,MHC結合予測プログラムを用いてneoantigen候補を予測するアルゴリズムが活用されている。そして,抗原性を免疫学的に検証し,同定されたneoantigenを標的として患者ごとのワクチン(ペプチド,樹状細胞,RNA など)を作製する。欧米ではすでにこのようなneoantigenを標的とした個別化癌ワクチンの臨床試験が始まっている。
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特集
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- がん化学療法をいつまで続けるか
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副作用によるがん化学療法の中止基準
43巻7号(2016);View Description Hide Description副作用によるがん化学療法の中止には,「毒性の問題」と「患者の希望」の意味がある。「毒性の問題」は安全性を確保することであり,主に医療者の判断となる。一方,「患者の希望」は患者自身の苦痛度と価値観に影響される。患者の判断となるため,その意思決定には十分な医療情報提供が必要不可欠である。近年は,支持療法の進歩により苦痛の内容が変化してきている。特に容姿の変貌に対する影響が注目されている。当科で化学療法を中止/終了した固形がん症例の調査(2015年4 月〜2016 年 3 月)では,副作用中止は8%(4/51)であった。2 例が肝機能障害であり,2 例が間質性肺炎であった。患者希望による中止は2%(1/51)であった。 -
耐性出現の観点から
43巻7号(2016);View Description Hide Description抗がん剤治療において,薬剤耐性などで標準治療を終えた患者にどのような医療を提供するかという重要な課題がある。最近では分子標的治療薬を中心に,一部の癌種で病変進行(progressive disease: PD)と判定された後も治療薬を継続するbeyond PD 治療や,以前使用し耐性腫瘍の出現にてPD となり治療中止となった薬剤を再度用いるrechallenge治療の有効性が示されつつある。quality of life を保った延命が目的となる固形がんの化学療法では,患者の全身状態がよく保たれており,患者自身が治療を希望し,beyond PD 治療やrechallenge 治療にある程度のエビデンスがある場合は,best supportivecareに加えこのような治療を考慮してもよいと考える。 -
がん化学療法をいつまで続けるか―コストの観点から―
43巻7号(2016);View Description Hide Descriptionがん化学療法をいつまで続けるかについて医療経済の観点,すなわち患者負担と財政負担の観点から検討した。がん化学療法薬の高額化に伴い,必要な化学療法を経済的理由によって断念,中断,変更せざるを得ない事態が生じつつあり,患者負担の実態と負担軽減の方策について考察した。経済的な困りごとの有無別に自己負担額をみると,困りごとがないとした患者の負担額は経済的な困りごとがあるとした患者の 3/4 の水準である。経済的負担の大きな患者の自己負担額が 1/4程度軽減されれば,経済的理由によって最適な治療を断念せざるを得ない患者を減少させることができる可能性がある。財政負担の逼迫でがん化学療法が継続できなくなる事態については医療保険制度の抜本改革なしに,将来にわたってこれを完全に回避しつづけることは困難と思われた。1990年代後半に欧米で進められた医療制度改革を参考に,優先度の高い医療に資源(人材・財源)をシフトすることの意義について考察した。 -
分子標的薬の効果持続の観点から
43巻7号(2016);View Description Hide Descriptionがん薬物療法において,分子標的薬のなかには休薬しても効果が持続する薬剤がある。現在,特に注目されている抗PD-1 抗体であるニボルマブは効果発現までに数週間かかるものの,いったん効果がでれば休薬期間でもその効果が持続することが多い。抗CTLA-4 抗体であるイピリムマブは,わずか4 回の投与でその効果が年余にわたる場合がある。一方,抗HER2 抗体トラスツズマブはHER2 陽性乳癌に対して必須の分子標的薬であるが,進行・再発例で画像上著効を得た場合,トラスツズマブをいつまで続けるかについて悩むことがある。消化管間質腫瘍や慢性骨髄性白血病に対するイマチニブについても同様である。また抗VEGF 抗体薬であるベバシズマブでは,いわゆるbeyond progressive disease(増悪後の延命効果)が提唱されている。以上のように,分子標的薬の効果持続が期待される場合があるので,治療の継続・中断・終了については慎重に判断し,患者に不利益にならないように努めるべきである。 -
抗がん治療をいつまで続けるか―エビデンスの創出・統合から実践へ―
43巻7号(2016);View Description Hide Description抗がん治療の中止を決めることはますます難しくなっている。しかし,いつ抗がん治療を中止するか,終末期の話し合いをするかが患者・家族のアウトカムに大きく影響することが近年の国内外の実証研究で明らかになってきた。本稿では実証研究の結果を踏まえて,患者・家族・医師・看護師の多要因に働きかけるmultifa ceted intervention modelについて考察する。
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Current Organ Topics:Head and Neck Tumor:頭頸部腫瘍 ヒトパピローマウイルス陽性中咽頭癌
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特別寄稿
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5-Fluorouracil(5-FU)の効果増強を目指した創薬の歴史と取り組み
43巻7号(2016);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)はその代謝特性を背景に,プロドラッグの開発,あるいは配合剤や併用薬により代謝に影響を及ぼすバイオケミカルモジュレーション(BCM)をとおして効果増強と副作用軽減を図りつつ,50 年以上にわたり進化を遂げてきた。プロドラッグとして5-FU からtegafur(FT),さらにBCM理論によりtegafur-uracil(UFT),tegafur-gimeracilpotassiumoxonate(S-1)が誕生した。現在,5-FU系抗がん薬をプラットホームとした他の殺細胞薬,分子標的治療薬との併用レジメンが,消化器がん領域の標準治療となっている。さらなる治療成績向上を目指し,新たな分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬などの開発が進行しているが,5-FU そのものについても効果増強の伸びしろがまだ残されており,今後も5-FU 系抗がん薬は様々なアプローチによって進化し続けると考えられる。 -
CD26 分子に基づく悪性中皮腫への新治療法開発
43巻7号(2016);View Description Hide DescriptionCD26 分子は110 kDaの膜蛋白質でdipeptidyl peptidase Ⅳ(DPPⅣ)酵素活性をもち,N末端から二つ目のプロリンやアラニンを切断する酵素である。悪性中皮腫(MM)は胸膜中皮細胞から発生する非常に攻撃的な腫瘍で一般的にはアスベスト曝露により発生し,非常に予後が悪い。有効な標準治療法は存在しないことから,新規かつ有効な治療法開発は急務とされている。最近われわれは,CD26 分子は正常中皮細胞には発現しないが,上皮型中皮腫の約80%に発現することを報告した。さらに,非常に生物学的活性の強い良質なヒト化CD26 抗体を開発してヒト癌細胞移植モデルマウスを用いて本抗体が強い抗腫瘍効果を有するという広範なデータを示してきた。本結果から,ヒト化CD26 抗体は悪性中皮腫の新規治療法として臨床応用できる有望な可能性を強く示唆した。本抗体を用いて初めてヒトに投与する(first-in-human: FIH)第Ⅰ相臨床試験をフランスにて行い,ヒト化CD26 抗体は良好な耐容性およびCD26 陽性腫瘍,特に治療抵抗性悪性中皮腫に対して有効性を示す予備的な証拠も得ることができた。これらの結果を踏まえて,日本でも悪性中皮腫をターゲットとして第Ⅰ相臨床試験が近々開始される予定である。
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原著
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進行肝細胞癌に対するソラフェニブ治療における予後予測因子についての検討
43巻7号(2016);View Description Hide Description進行肝細胞癌(HCC)に対するソラフェニブ治療における予後予測因子としての血清マーカーについて検討した。対象はソラフェニブ治療の予後予測因子として血清AFP,AFP-L3分画,DCP,NLR,PLR,VEGF の解析を行うことが可能であった進行HCC 16 例。予後予測因子としてソラフェニブ導入前の血清AFP(100 ng/mL 以上/100 ng/mL 未満),AFP-L3 分画,DCP(190 mAU/mL以上/190 mAU/mL未満),NLR,PLR,VEGF を求めた。さらに,治療前と治療1 か月後を比較し,AFP-L3分画(変化なし〜減少),NLR(10%減少),PLR(20%減少),VEGF(10%減少)を求め,各値について統計学的に検討した。ソラフェニブ導入前の中央値は血清 AFP 98.1(1.7〜152,678)ng/mL,AFP-L3 分画 26.1(0.5〜87.2)%,DCP 186.5(10〜213,015)mAU/mL,NLR 2.9(1.2〜10.8),PLR 120.1(50.3〜679),VEGF 77.5(28〜390)pg/mL であった。予後予測因子として,治療前のAFP-L3分画高値(ハザード比: 1.058,95%CI: 1.019-1.098,p=0.003),NLR 高値(ハザード比: 1.475,95%CI: 1.045-2.082,p=0.027)が選択された。一方,治療前および治療1 か月後の血清マーカーの比較では,有意な予後因子は検出されなかった。少数例での検討ではあるが,進行HCC においては集学的治療が重要とされているが,ソラフェニブが導入された症例においては治療前血清AFP-L3 分画,NLR が治療のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。 -
PaclitaxelおよびBevacizumab併用療法に伴う肝萎縮,肝不全症例の検討
43巻7号(2016);View Description Hide Descriptionpaclitaxelおよびbevacizumab併用療法(以下,PB 療法)終了後に高度の肝萎縮と肝不全症状を来したHER2陰性進行再発乳癌6 例を経験した。この6 例の治療歴,使用状況,肝萎縮の程度について,肝萎縮を来さなかった67 例と比較検討した。萎縮例は非萎縮例よりも前治療期間が長期で(33.5か月vs 15.5 か月),かつPB 療法の治療成功期間の中央値は萎縮例が非萎縮例よりも長かった(11か月vs 6 か月)。肝転移を有する症例においてびまん性肝転移を呈していた割合は萎縮例では80%であり,非萎縮例の8%に比べ高率であった。肝萎縮の程度はPB 療法後/PB 療法前の体積比として平均67(57〜82)%であった。最も高度に肝萎縮を来した症例は,病勢進行ではなく肝不全によって死亡した。bevacizumabの直接的因果関係は不明ではあるが,前治療歴が長くPB 療法の期間が長い症例でびまん性肝転移を有する症例ではPB 療法により肝萎縮を来し,肝不全に陥る可能性があることを念頭に置くべきである。 -
デノスマブ投与による腎機能低下患者の低カルシウム血症の実態
43巻7号(2016);View Description Hide Descriptionデノスマブは簡便な皮下投与ができる薬剤であり,腎障害による用量調節の必要はないものの,腎機能低下患者では低カルシウム血症を起こす報告があり慎重な投与が必要である。今回,デノスマブ投与患者の血清カルシウム値の推移をレトロスペクティブに調査した。その結果,クレアチニン・クリアランス40 mL/min 未満ではデノスマブ投与継続により,血清カルシウム値の低下を示し,Grade 2 以上の低カルシウム血症の発現率は75%であった。血清カルシウム値をモニタリングすることで,デノスマブの継続的な投与が可能であることが示唆された。 -
乳癌手術後領域リンパ節初再発例の検討
43巻7号(2016);View Description Hide Description乳癌手術後の遠隔転移を伴わない領域リンパ節初再発例は比較的まれであり,その治療に関しては不明な点も多い。今回,2003 年1 月〜2014 年12 月までの間に経験した領域リンパ節初再発21 例を後方視的に検討した。21 例の領域リンパ節再発から遠隔再発出現までの期間の中央値は1.0(0.4〜2.5)年で,21例中15 例(71.4%)に遠隔再発の出現を認めた。リンパ節再発後の観察期間中央値は1.8(0.4〜20.3)年であったが,リンパ節再発後の2 年生存率は65.5%であった。ER発現別の比較では,リンパ節再発後の遠隔無再発生存期間はER 陽性群(n=10)で2.2 年,ER 陰性群(n=11)で0.7年とER 陰性群で有意に短く(p=0.008),リンパ節再発後の2 年生存率は,ER 陽性群の100%に対してER 陰性群では33.3%とER 陰性群で有意に不良であった(p=0.016)。乳癌手術後領域リンパ節初再発例は遠隔再発を来す症例が多く,なかでもER 陰性例の予後は不良である。
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症例
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CA19-9産生肺腺癌に対して集学的治療が奏効しCR が得られた1 例
43巻7号(2016);View Description Hide Description患者は60 歳台,男性。血痰を認め近医を受診し,左上肺野に約6 cm の巨大な腫瘤陰影を認めて紹介となった。精査の結果,肺腺癌であり,血清CA19-9が 608.9 U/mL と高値を示した。PET-CTによる診断も踏まえて,cT2bN1M0,stageⅡB として手術に臨んだ。後側方切開にて開胸し,左上葉切除術+リンパ節郭清ND2a-2 を施行した。摘出標本ではS1+2に56×59×44 mm で,病理組織学的に低分化腺癌(粘液産生性腺癌)であった。免疫染色ではCA19-9 陽性で,進行度はpT2bN1M0,stage ⅡB であった。術後も血清 CA19-9 が 83.2 U/mL と高値を示したため,補助化学療法(carboplatin+weekly paclitaxel)を6 コース施行した。副作用としてGrade 2 の脱毛とGrade 2 の好中球減少を認め,休薬期間を延長した。2コース終了時点で血清CA19-9値は正常化し,術後約2 年の現在も再発徴候を認めていない。 -
DOC/S-1併用術前補助化学療法によりPathological Complete Response が得られた進行胃癌の1 例
43巻7号(2016);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。左側腹部痛を主訴に近医を受診した。上部消化管内視鏡検査で胃癌と診断され,当科に紹介された。Stage ⅢAの進行胃癌と診断し,DOC/S-1併用の術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)を 2 コース施行した。化学療法が奏効しPR が得られたと判断し,手術を施行した。病理組織学的には原発巣,リンパ節ともにviableな腫瘍細胞の残存を認めず,NACの効果はGrade 3,pCRと判定された。治療前の生検検体の免疫組織染色で癌巣へのTS,DPD,ERCC1 染色は陰性であり,class Ⅲ b-tubulin の染色が陽性であったことから,S-1 が抗腫瘍効果を発揮してpCR に至ったと考えられた。 -
TS-1単独内服で6年以上生存中の多発肝転移を伴うStage Ⅳ進行胃癌の1 症例
43巻7号(2016);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。多発肝転移を伴うStage Ⅳ進行胃癌の診断で当科紹介となった。2009 年 2 月からTXL/TS-1併用療法を開始したが,食欲不振,嘔気,下痢,手指の痺れが出現したため中止した。以後,TS-1単独内服で化学療法を継続した。腫瘍マーカーは化学療法開始後より速やかに低下し,2010 年4 月には原発巣はわずかに瘢痕を残すのみとなった。肝転移は2011年8 月ごろより造影CT,エコーでは指摘できなくなった。現在,化学療法開始から6 年以上生存中で,TS-1内服を隔日投与にて継続中である。 -
原発性小腸癌の臨床病理学的検討
43巻7号(2016);View Description Hide Description2004年1 月〜12月までに当院で切除した原発性小腸癌6 例について臨床病理学的特徴,術前診断,術式,化学療法,転帰について検討した。男性3 例,女性3 例で,平均年齢は70(65〜77)歳であった。術前診断で小腸癌の確定診断が得られたのは3 例で,ダブルバルーン小腸内視鏡検査や大腸内視鏡検査によるものであった。術式は空腸部分切除術3 例,回腸部分切除術1 例,腹腔鏡下回盲部切除術1 例,結腸右半切除術1 例であった。組織型は高分化型腺癌2 例,中分化型腺癌2例,乳頭腺癌1 例,低分化腺癌1 例で,深達度はT2 が1 例,T3 が2 例,T4 が3 例,病期はⅠ期1 例,ⅡA期1例,ⅡB期2 例,ⅢA期1例,ⅢB期が1 例であった。術後観察期間中央値は44(10〜127)か月,転帰は無再発生存が5 例,腹膜播種による原癌死が1 例であった。累積5 年生存率は75%であった。遠隔転移のない症例に対してリンパ節郭清を伴う根治術が重要と思われた。 -
UFT/LV 内服療法が奏効した高齢大腸癌肺転移の1 例
43巻7号(2016);View Description Hide DescriptionS 状結腸癌同時性肺転移に対して,原発巣切除後に経口化学療法剤(UFT/LV)が奏効した高齢者の 1 例を経験したので報告する。症例は84 歳,女性。肺転移を伴ったS 状結腸癌に対してS 状結腸切除術を施行。病理分類結果はpT4a,pN3,pM1a(LYM),pStage Ⅳであった。術後化学療法を希望されなかったため経過観察していたが,約9 か月後より著明な咳嗽が出現し,CT 検査で多発肺転移の増悪を認めた。年齢および全身状態を考慮してUFT/LV 内服療法(UFT 300 mg/LV 75mg,1 週間投与1 週間休薬)を開始した。化学療法開始後より症状が改善し,胸部単純X線・胸部CT 検査では肺転移の著明な縮小を認め,PR と診断された。化学療法開始1 年後の現在も有害事象なく,画像上PRを維持,元気に外来通院治療中である。UFT/LV内服療法は大腸癌術後遠隔転移に対し,高齢者でも外来通院にて治療を行うことができる安全かつ有効な治療法の一つであると考えられた。 -
S状結腸癌肝転移に対しBevacizumab併用CapeOX療法が著効したが門脈血栓症を生じた1 例
43巻7号(2016);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。S 状結腸癌肝転移に対し原発巣切除を施行後,bevacizumab 併用CapeOX 療法を開始した。6コースでCT 上完全奏効(CR)を得たが,術後1年2か月15 コース終了後のCT で肝転移はCR のまま腹水が出現したため,bevacizumabを中止した。2 か月後,腹水は増加し門脈血栓を認め入院となった。血栓溶解療法の適応はないと判断し,抗血小板薬の経口投与を行った。約1 か月で腹水は消失し,門脈血栓も消失した。bevacizumabは重篤な血栓症の副作用を念頭に置いて使用する必要がある。 -
Bevacizumab併用化学療法中に小腸穿孔を原因としたフルニエ壊疽を発症した1 例
43巻7号(2016);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。他院で進行直腸癌に対して開腹腹会陰式直腸切断術を施行されたが,以後通院を自己中断していた。術後58か月,外陰部の疼痛を主訴に当院を受診し,精査で直腸癌の骨盤内局所再発および傍大動脈リンパ節転移,両側副腎転移と診断された。外陰部痛に対する除痛目的に放射線照射(30 Gy/10 回)を施行し,外来化学療法(mFOLFOX6+bevacizumab)を開始した。6 コース目終了後,左臀部から大腿にかけての強い疼痛を自覚し来院した。CTで小腸穿孔によるフルニエ壊疽と診断し,同日,腰椎麻酔下に緊急ドレナージ術を施行した。以後,2 回のドレナージ術と人工肛門造設術を施行し,入院119日目に退院となった。bevacizumab 関連と考えられる小腸穿孔により,フルニエ壊疽を発症した極めてまれな1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
ペグフィルグラスチムの予防投与をしたが好中球減少を防ぎ得なかった二次化学療法でFOLFIRINOX 療法を施行した進行膵臓癌の1 症例
43巻7号(2016);View Description Hide Description全身状態のよい進行膵臓癌患者に使用されるFOLFIRINOX 療法では著しい好中球減少症が起こることがあるが,最近ペグフィルグラスチムの登場により,FOLFIRINOX 療法が安全に継続できる可能性があるとする報告も散見される。本症例では,二次化学療法としてペグフィルグラスチムの予防投与を伴ったFOLFIRINOX 療法を施行したが,重大な好中球減少症を認めた。ペグフィルグラスチムの予防投与を施行しても,やはりFOLFIRINOX 療法では十分な副作用の管理が必要であると考えられた。 -
シタラビン大量療法による重篤な手足症候群に対し多職種連携で治療し改善した1 例
43巻7号(2016);View Description Hide Description症例は40 歳台,女性。急性骨髄性白血病(FAB分類M7)に対する三度目の寛解導入療法として,シタラビン大量療法を実施した。薬剤師の治療前面談で前治療(イダルビシン+シタラビン)後に軽い手荒れ様の皮疹が生じたことが判明したため,シタラビンによる手足症候群(hand-foot syndrome: HFS)の予防目的にヘパリン類似物質ローションによる保湿や低刺激石鹸による手洗いを行った。しかしday 3 よりHFS を生じ,その後day 6 には両手全体に有痛性の紅斑,腫脹,知覚異常を伴い,grade 3まで進展した。多職種連携(血液内科医,皮膚科医,薬剤師,看護師)による保湿,生活指導,ステロイド軟膏のローテーション,密封療法の実施が症状改善に効果を示し,day 40までに治癒することができた。 -
高齢者における著明な血球減少症: Idiopathic Cytopenia of Undetermined Significance(ICUS)の症例
43巻7号(2016);View Description Hide Description当初は好中球減少に始まり,原因不明の重症の血球減少症でidiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)と診断された高齢者の症例を呈示する。幼若芽球,異形成性細胞は認められず,当初は骨髄穿刺は不能であったが骨髄線維症は認められず染色体検査は正常核型であった。これらの血液学的所見は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)のminimal diagnostic criteriaには合致しなかった。血球減少を起こす基礎疾患あるいは薬剤は否定的であった。高齢者においてはMDSへの進展の可能性があるICUSの症例の増加が予測される。
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