癌と化学療法
Volume 43, Issue 9, 2016
Volumes & issues:
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総説
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がん対策基本法施行10年―がん医療はどう変わったか―
43巻9号(2016);View Description Hide Descriptionわが国のがん対策をこれまで進められてきた政府のがん対策から振り返った。国立がんセンターの設置や三次にわたる対がん10か年戦略は大きい。がん患者,家族,国民によるがん医療に関する地域間格差,医療機関格差,情報格差を何とかしてほしいという要望にこたえる形で,2006 年がん対策基本法が成立し2007 年から施行された。この法律に基づくがん対策推進基本計画が進められつつある。地域がん診療拠点病院が全国に約400 指定されたこと,拠点病院には必ず相談支援センターを設けること,小児がん拠点病院も指定されたこと,がん患者の就労や緩和ケア,がん教育の充実なども掲げられた。この約10 年間に法律ができたことでわが国のがん対策の外型はできあがった。今後は内容の充実が求められ,国民ががんになっても安心して暮らせる社会の構築が求められている。
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特集
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- 抗PD-1 抗体の基礎と臨床
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腫瘍微小環境における癌細胞上のHLA ClassⅠとPD-L1の調節機構
43巻9号(2016);View Description Hide Description腫瘍微小環境における癌細胞-CTL 認識機構において,癌細胞上に発現されるHLA class ⅠとPD-L1 が重要な役割を担っている。IFN-g は癌細胞上のHLA classⅠ発現を増強させるばかりでなく,PD-L1発現も増強させる因子として知られている。そして,腫瘍微小環境においてIFN-gを産生する主な細胞は,CTL などのTILsであると考えられている。すなわち,活性化されたTILsが腫瘍微小環境に存在する状況では,それらが産生したIFN-g により癌細胞上のHLA class ⅠとPD-L1の発現がともに増強されている可能性がある。そのような状態において,PD-1/PD-L1経路による癌細胞-CTL認識機構の抑制が抗PD-1抗体や抗PD-L1 抗体により解除されれば,CTLによる抗腫瘍効果がより増強されると考えられる。 -
抗PD-1抗体薬のバイオマーカー―血漿PD-L1 蛋白のバイオマーカーとしての可能性―
43巻9号(2016);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1 抗体薬は悪性黒色腫,非小細胞肺がんなどでこれまでの治療法を上回る効果が報告されている。その一方で,自己抗原に対する反応性も増強される危険性があり,適応症例の選択には十分な注意が必要である。さらに,本薬剤は高薬価であるため薬剤費高騰を懸念する声も多い。これまで,抗PD-1 抗体薬に関するバイオマーカーとして,主に免疫組織染色法による腫瘍組織のPD-L1蛋白発現が報告されてきた。しかし,その有用性に関してはさらなる検証が必要である。さらに,腫瘍組織浸潤T細胞の数やT細胞レパトア解析,腫瘍の網羅的遺伝子変異解析も有用なマーカーとして期待されている。また近年,患者に低侵襲なリキッド・バイオプシーが注目されており,われわれは非小細胞肺がん症例における血漿PD-L1 蛋白の予後予測マーカーとしての有用性を検討している。今後,抗PD-1 抗体薬の厳密な個別化治療に向けて,より正確に有効症例を選択するための高感度で特異性の高いバイオマーカーの探索およびコンパニオン診断薬の開発が待たれる。 -
メラノーマ治療における免疫チェックポイント阻害薬の現状と今後の課題
43巻9号(2016);View Description Hide Description進行期メラノーマに対する免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1 抗体は,従来用いられていた殺細胞性抗がん剤に比べて奏効率が高く,かつ長期の奏効および生存が期待できる薬剤である。有害事象も従来の殺細胞性抗がん剤に比べて軽度であるものの,間質性肺炎,内分泌機能障害,腸炎など,免疫チェックポイント阻害薬特有の有害事象があり,かつ,まれに重篤化する可能性がある。最近,海外では抗PD-1 抗体と免疫チェックポイント阻害薬の抗CTLA-4抗体との併用療法で,さらに高い奏効率および無増悪生存期間,全生存期間が報告されている。一方で併用療法により有害事象の発生頻度は高くなり,治療中断率は単剤に比べて高い。今後は免疫チェックポイント阻害薬の効果,予後,有害事象などを予測できるバイオマーカーの開発による適切な症例選択や,他の分子標的薬との併用などによるさらなる効果の向上が期待される。 -
消化管がん(食道・胃がん)における免疫チェックポイント阻害薬の可能性
43巻9号(2016);View Description Hide Descriptionわが国では現在,悪性黒色腫,非小細胞肺がんで承認されている免疫チェックポイント阻害薬は,殺細胞性抗がん剤や分子標的治療薬のような従来の抗悪性腫瘍薬とはまったく異なる作用メカニズムで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。それゆえ,奏効割合はさほど高くないものの,腫瘍縮小効果が長期に持続したり長期生存例がみられたりする効果のパターンも,自己免疫を惹起することに起因するような独特の毒性プロファイルも,従来の薬剤とは大きく異なっていることがわかってきた。食道・胃がんの消化管がんにおける今までの臨床試験の報告から,高い可能性を有し非常に有望な治療になり得ることは明らかである。今後はバイオマーカーの解明,併用療法の開発に期待がかかる。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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原著
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CEA 遺伝子導入ヒトiPS 細胞由来樹状細胞(iPSDCs)を用いた癌ワクチン療法の検討
43巻9号(2016);View Description Hide Description担癌患者から誘導した樹状細胞(DCs)はその数が少なく,ワクチン効果が低いことが課題である。われわれは,この問題を解決するソースとしてiPS 細胞に着目した。これまでマウスiPSDCs は,BMDCs と同等のDCs としての機能および抗原提示能を有していることを報告した。本研究ではヒトへの臨床応用をめざし,健常人ヒト線維芽細胞へ山中4 因子を遺伝子導入することでiPS 細胞を樹立し,feederless 培養下にiPSDCs の分化誘導を行った。分化誘導されたヒトiPSDCs はMoDCsと同様の形態,成熟能,遊走能を有していることを証明した。CEAを遺伝子導入したiPSDCsにより刺激したCTLは,自己仮想targetであるLCL-CEA,LCL-CEA652 peptideに対しCEA特異的に細胞傷害性を示し,CEAを発現しているcell line であるMKN45,HT29 に対しても同様に細胞傷害活性を呈することを51Cr-release assayにて確認した。iPSDCs癌ワクチン療法は,臨床応用されれば癌免疫療法においてbreak throughとなると確信している。 -
放射線照射による白血球減少症に対するセファランチン(R)の臨床効果および有害事象の多施設後方視的共同研究
43巻9号(2016);View Description Hide Description放射線治療による白血球減少症に対するセファランチンの有効性・安全性の再評価を多施設共同研究として実施した。2007 年4 月〜2012年11 月までに総照射線量が40 Gy以上の放射線治療を施行し,セファランチンを2 週間以上単独投与された20 歳以上の悪性腫瘍例を対象とした。7施設から登録された65(男性31,女性34)例を対象とし,全治療期間における白血球数,赤血球数,血小板数の変動およびセファランチンの効果と有害事象を解析した。平均白血球数は放射線治療前には 5.1×10 3/mL であったが,白血球減少確認時には3.1×10 3/mL と有意に減少し,セファランチン投与終了時には4.3×10 3/mL まで有意に回復した。一方,赤血球数と血小板数は放射線治療前と比較して白血球減少確認時にはいずれも有意に減少したが,その後の有意な変動は認めなかった。セファランチンに起因する重篤な有害事象は認めなかった。後方視的研究ではあるが,セファランチンは放射線治療による白血球減少症に対して安全で有意に効果的であることが確認された。 -
シスプラチンの外来投与でのShort Hydration法の安全性評価
43巻9号(2016);View Description Hide Description背景: シスプラチン(CDDP)の投与の際には大量の水分負荷を行うため,入院での治療が必要とされている。しかし近年,CDDP を外来投与する目的でshort hydration法が行われるようになってきている。方法: short hydration法の安全性を評価するために,2012年4 月〜2014年12 月に名古屋第二赤十字病院・外来化学療法センターにてCDDP を含む化学療法をshort hydration 法により施行された症例の有害事象・問題点を後方視的に調査した。結果: 60 例の患者がshort hydration法を受けていた。患者の癌種は,非小細胞肺癌18 例,胃癌17 例,小細胞肺癌10 例,子宮頸癌9 例,胆道癌4 例,子宮体癌1 例,十二指腸乳頭部癌1 例であった。55 例がCDDP の投与を完遂した。投与中止の理由は,全身状態の悪化,イレウス,気胸,胆管炎,経口補水の拒否が各1 例であった。また,1 例のみ投与完遂後に水腎症を生じた(weekly CDDP 療法)。Grade 3 以上の有害事象によるCDDP 投与中止例はなかった。結論: short hydration法によりCDDP 投与時の毒性が増強しCDDP の投与が中止に至った症例はなく,short hydration法は外来患者へCDDP を安全に投与することが可能であった。 -
乳がん術前・術後補助化学療法[FEC(100)療法,TC 療法]に対するPegfilgrastimの使用経験
43巻9号(2016);View Description Hide Description背景: 乳がんの化学療法において,FEC(100)療法,TC 療法は発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)発現率が20%以上であり,pegfilgrastimの一次予防投与が推奨されている。乳がんの予後を考える上で,化学療法の延期や減量を行わず相対治療強度(relative dose intensity: RDI)を維持することは重要である。目的: RDI・FN を含めた有害事象(adverse event: AE)の有無について検討した。対象・方法:術前・術後化学療法としてFEC(100)療法(5-fluorouracil 500mg/m3,epirubicin 100 mg/m3,cyclophosphamide 50 mg/m3),TC 療法(docetaxel 75 mg/m3,cyclophosphamide 600 mg/m3)を施行し,一次・二次予防として化学療法の翌日にpegfilgrastim 3.6 mg を皮下注射した乳がん患者26 例を対象とした。結果: FEC(100)療法19 例(一次予防16 例,二次予防3 例),TC 療法7 例(一次予防5 例,二次予防2 例)に対しpegfilgrastimが投与された。FEC(100)療法におけるRDIは85〜99% 4 例,100%が14 例,TC 療法におけるRDIは全例100%となった。Grade 3 以上のAE は,FEC(100)療法では11 例(白血球減少2 例,好中球減少7 例,血小板減少1 例,FN 1 例)であり,TC 療法では4 例(好中球減少1 例,貧血1 例,骨痛1 例,FN 1 例)であった。結語:乳がんの骨髄抑制性化学療法にpegfilgrastimを併用することよってFN の発生を抑制し,RDIを維持することが可能であった。
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薬事
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胃がん術後補助化学療法における薬剤師外来の有用性についての検討
43巻9号(2016);View Description Hide Description胃がん術後補助化学療法においてテガフール/ギメラシル/オテラシル合剤(S-1)単独療法は標準治療であるが,消化器毒性を中心に副作用の多さが指摘されている。国立がん研究センター東病院(当院)では2009 年6 月以降,経口抗がん剤の安全管理をめざし薬剤師外来を導入している。そこで,胃がん術後補助化学療法のS-1 単剤療法に対する薬剤師外来の有用性について後方視的調査を行った。対象症例は「薬剤師外来なし群」(A群)34(男性/女性 : 22/12)例,「薬剤師外来あり群」(B群)80(男性/女性 : 51/29)例,年齢中央値は A 群 68(範囲51〜83)歳,B 群 65(範囲 36〜81)歳であった。治療完遂症例はA群28 例(82.4%),B 群54 例(67.5%)で差はなかった[オッズ比(OR): 0.45,95%信頼区間(CI): 0.16-1.21,p=0.106]。緊急受診件数はA群8 件(23.5%),B 群7 件(8.8%)とA群のほうが多く(OR: 0.31,95%CI: 0.10-0.94,p<0.05),そのうちの緊急入院件数も,A群3件(8.8%),B 群0 件(0%)とA 群で多かった(OR: 0.00,95%CI:NS,p<0.05)。本研究において,胃がん術後補助化学療法S-1 単剤治療の安全性に対し,薬剤師外来が介入することの有用性が示唆された。
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症例
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肝転移を有するLuminal-HER2進行乳癌に対してPertuzumab+Trastuzumab+Docetaxelが著明に奏効した1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。左乳房腫瘤を自覚して当科を受診した。左乳房乳頭下に3 cm 大の辺縁不整な腫瘤を認め,腋窩リンパ節腫大も認めた。浸潤性乳管癌(硬癌),Luminal-HER2 タイプのcT4bN1M1(肝),Stage Ⅳと診断した。治療はpertuzumab+trastuzumab+docetaxel(PTD)併用療法を施行し,原発巣は完全奏効,肝転移と腋窩リンパ節転移は部分的奏効であった。8サイクル以後は浮腫のため,docetaxelを除いて投与が継続された。15 サイクル終了後,病勢が安定していたため原発巣の切除を施行したところ,病理学的完全奏効であった。遠隔転移を有するLuminal-HER2 進行乳癌に対してPTD 併用療法は有用であった。 -
Pertuzumab併用術前化学療法によりpCR となったHER2 陽性炎症性乳癌の1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。右乳房は全体に発赤,オレンジ皮様の皮膚所見を呈し,腫瘤は触知せず,炎症性乳癌と診断された。乳腺超音波検査所見では右乳房CD 領域中心にびまん性の低エコー領域があり,乳房全体の皮下脂肪組織の浮腫が認められた。針生検は浸潤性乳管癌で,右炎症性乳癌,T4dN2M0,Stage ⅢBと診断され,ER 陰性,HER2陽性であった。EC療法を4 コース施行後,低エコー領域が残存するためpertuzumab,trastuzumab,docetaxel併用療法を4 コース施行した。US では低エコー領域は認められなくなり乳房切除が施行され,切除標本の病理組織所見ではpCR であった。術後2年現在,無再発生存中である。pertuzumab を用いた化学療法は,HER2 陽性炎症性乳癌に対して予後の改善を期待できる治療法と考えられる。 -
塩化ストロンチウム-89の投与によってオピオイドなしで自宅退院が可能となった骨転移を伴う乳癌患者の1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description患者は46 歳時に右炎症性乳癌で手術を施行。3 年後に多発骨転移が明らかとなり,ゾレドロン酸と化学療法を開始した。その後,仙骨部の疼痛に対して放射線を40 Gy施行。疼痛コントロールのためオキシコドン徐放錠を開始した。しかし,全身ù怠感と悪心が強く,増量が困難となった。疼痛部位に一致した骨シンチグラフィでの集積像を認めたため,塩化ストロンチウムの投与を行ったところ疼痛は軽減し,投与5 週目よりオピオイドを中止することができ,100 日間の自宅退院が可能となった。本症例において,塩化ストロンチウムは疼痛およびQOLの改善を患者にもたらした。 -
胃癌CY1 症例に対し術後S-1内服後,審査腹腔鏡を行った8 例の検討
43巻9号(2016);View Description Hide Description背景:非切除因子がCY1 のみの胃切除例(CY1P0)に対し,S-1 投与の効果判定として審査腹腔鏡(SL)を行っている。対象と方法: 2007 年以降のCY1P0 症例のうち,S-1 を内服しSL を行った8 例を対象とした。S-1 投与はACTS-GC に準じ,SLはS-1内服を8 コース終了以降に行った。結果: SLの手術時間の中央値は68(52〜76)分で,全例で腹腔内の観察および洗浄細胞診が施行可能であった。SL の時期は,S-1 投与8 コース後が6 例,11 コース後が1 例,12 コース後が1 例であった。腹腔内の所見はCY0P0 が6 例,CY1P0 とCY1P1 がそれぞれ1 例であった。CY0P0 の6 例はS-1 内服中止とし,CY1P0 とCY1P1 の2 例は化学療法継続とした。S-1 中止後の再発は1 例のみ認めた。結語: SLでCY0P0を確認することは,S-1 内服中止の判断材料となり得る。S-1内服期間やSLの時期など,さらなる症例の集積が必要である。 -
HER2陽性StageⅣ進行胃癌に対しTrastuzumab併用化学療法が奏効した1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description50 歳,男性。胃体中下部に3 型進行胃癌を指摘され,CT にて肝転移,傍大動脈周囲リンパ節腫大を認めた。生検にてHER2(3+)であり,capecitabine+CDDP+trastuzumabの化学療法を施行した。6 コース施行後のCT では肝転移は消失しており,傍大動脈周囲リンパ節も著明に縮小していた。その後,capecitabine+trastuzumab による化学療法を継続し31か月にわたるPFS が得られたが,38 コース施行後に原発巣の再燃が認められ,conversion therapyとして手術を施行した。trastuzumab併用化学療法にて原発巣切除が可能となった1 例を経験したので報告する。 -
多発肝転移による高度黄疸を伴う進行胃癌に対しCapecitabine/Oxaliplatin療法が奏効した1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。進行胃癌のため当院を紹介された。多発肝転移による肝障害(total bilirubin 1.6 mg/dL)を伴っており,S-1/cisplatin療法を開始したところ6 日後に高度の下痢(CTCAE Grade 3)を認め,S-1 を中止した。これにより下痢は改善したが肝転移は増大し,黄疸も進行した(total bilirubin 10.3 mg/dL)。この状況下でcapecitabine/oxaliplatin療法(capecitabine 3,600 mg/day on day 1〜14,oxaliplatin 130 mg/m2 on day 1,q3 weeks)を開始したところ黄疸は速やかに改善し,効果判定ではpartial response(RECIST v1.1)が得られた。その後,同治療を15 か月間継続している。高度黄疸を伴う切除不能進行胃癌に対して,capecitabine/oxaliplatin療法は有効な治療の選択肢の一つとなる可能性が示唆された。 -
腹腔内出血を伴いImatinib投与後に切除した胃原発巨大GISTの1例
43巻9号(2016);View Description Hide Description症例は76 歳,女性。黒色便を主訴に当科に紹介となり,造影CT で左上腹部に腹腔内出血を伴う15 cm 大の腹腔内腫瘤を認めた。上部消化管内視鏡下穿刺生検を行い,免疫組織化学染色でKIT陽性であったことから,胃原発の消化管間質性腫瘍(GIST)と診断した。腹腔内出血の原因は腫瘍の偽被膜破損によるものと推測され,imatinibの投与を開始した。投与6 か月後のCT で新規病変の出現はなく,抗腫瘍効果はstable diseaseで根治切除可能と判断し,胃部分切除,脾臓摘出を行うことにより腫瘍を摘出した。腫瘍径は12×9 cm,CD34 陽性,c-kit 陽性,核分裂像5 以下/50 HPF,MIB-1 index 1.5%でmodified-Fletcher 分類では高リスクに当たることから,術後1 か月目よりimatinib 投与を再開した。術前6 か月間imatinibを投与し,根治切除が可能であった胃原発巨大GIST症例を経験したので報告する。 -
切除不能・再発大腸癌に対するMulti-Line化学療法について
43巻9号(2016);View Description Hide Description切除不能・再発結腸直腸癌の62〜78(平均年齢68)歳の5 名の患者に対し,multi-line化学療法(五次治療以上)を施行した。5 名の患者のうち4 名は癌死したが,5 名の患者のOS 中央値は39 か月であった。key drug を再投与することで,腫瘍の再縮小が得られた症例があった。九次治療まで投与できた症例も経験した。5-FU系抗癌剤の種類とoxaliplatin・irinotecan(CPT-11)・bevacizumab(Bmab)・panitumumab(Pmab)の組み合わせを変更したregimen や,これらkeydrugの再投与を行い治療継続することは,患者に希望をもってもらいながら延命に寄与できる可能性があると思われた。 -
Zoledronic Acidが造血回復に対して有効であった原発性骨髄線維症の1 例
43巻9号(2016);View Description Hide Description症例は80 歳,男性。2008年に前医で貧血・血小板減少を指摘され当科へ紹介となり,原発性骨髄線維症と診断した。予後スコアリングシステム(International Prognostic Scoring System: IPSS)分類で低リスク群であり,無治療で経過観察となった。2010年6月に汎血球減少が進行し,高リスク群と判定した。metenoloneにより加療したが,血球数は増加しなかった。2012 年1 月からzoledronic acid(ZA)を投与したところ,血球数は増加した。ZA 投与後,血漿vascular endothelialgrowth factor(VEGF),transforming growth factor-b(TGF-b)は低下して,骨髄生検では細網線維と膠原線維は消退した。本症例においてZAが骨髄線維症を改善し,血球数増加をもたらしたと考えられた。 -
Follicular Lymphomaの形態を取ったBCL2,MYC 転座陽性Double-Hit Lymphoma
43巻9号(2016);View Description Hide Descriptiondouble-hit lymphoma(DHL)は MYC/8q24転座を含む複数の転座,主としてBCL2を含むt(14; 18)(q32;q21)を有するまれな腫瘍である。2 か月に及ぶ腹部膨満感を有する38 歳,女性の症例を報告する。PET を施行したところ,FDG の高集積が多数のリンパ節,腹膜,腹腔内腫瘤に認められた。頸部リンパ節組織で濾胞性リンパ腫(Grade 3A),またFISH法にてMYC ならびにBCL2 転座細胞の両者が認められたため,DHL と診断した。最初にR-CHOP 療法,1 コース後にDAEPOCH-R 療法が施行された。しかしながら,種々の化学療法およびHLA半合致移植に反応を示さなかった。DA-EPOCHR療法が奏効しなかった場合,救援化学療法,自家および同種造血幹細胞移植を含めた治療戦略の開発が重要となる。
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