Volume 43,
Issue 13,
2016
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総説
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癌と化学療法 43巻13号, 2473-2476 (2016);
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本邦で生涯がんに罹患する人は1985年以降から増加しており,がん患者の5 年相対生存率は向上している。それに伴い,就労世代においてはがん治療と就労生活の両立が困難なことが報告されている。厚生労働省は2012 年6 月に,がん対策推進基本計画の取り組むべき課題のなかに働く世代や小児へのがん対策の充実を掲げ,がん患者の就労に関する問題への取り組みを推進している。そして,2014 年8 月にがん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会で,がん患者・経験者とその家族の就労における医療機関の取り組み課題が報告された。さらに2016 年2 月に厚生労働省から事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドラインが報告された。筆者らは,臨床看護師のがん患者への就労生活支援の実践のインタビュー調査に取り組んだ。本稿では臨床看護師のがん患者への就労支援の実践例を紹介する。医療機関でのがん患者の就労支援の一助としてほしい。
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特集
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腹膜播種に対する治療戦略
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癌と化学療法 43巻13号, 2477-2480 (2016);
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切除不能・転移再発胃癌の治療成績は不良であり,その原因の一つに胃癌に多くみられる転移・再発形式である腹膜播種があげられる。本稿では現在検討されている化学療法について述べる。腹膜播種を有する症例においては高度腹水貯留を来す症例も多く,現在の切除不能・再発進行胃癌において一次治療として用いられるS-1,capecitabineなどの内服薬,大量補液を要するcisplatinは使用しにくく,methotrexate+5-FU,5-FU 持続静注,5-FU+l-levofolinate,paclitaxelなどが使用される。また,さらなる治療効果の改善を期待し,5-FU+l-levofolinate+paclitaxelを組み合わせたFLTAX療法のランダム化第Ⅱ/Ⅲ相試験(JCOG1108)が症例集積中である。さらに腹腔洗浄細胞診陽性を伴う胃癌に対する治療戦略については,現在本邦においてはS-1 単独またはS-1+cisplatin が用いられることが多いが前向きな検討は存在せず,今後検討を要すると思われる。なお,新しい治療戦略としてpaclitaxel,S-1 を併用した経静脈・腹腔内併用療法が胃癌において検討されている。先のASCOで IP paclitaxel+IV paclitaxel+S-1 の S-1+cisplatinに対する優越性を検討した第Ⅱ/Ⅲ相試験の結果が報じられた。結果,統計学的な有意差はみられなかったものの,IP paclitaxel群にて良好な傾向がみられた。胃癌腹膜播種についてさらなる知見の蓄積により治療戦略の開発,治療成績の改善が期待される。
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癌と化学療法 43巻13号, 2481-2485 (2016);
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胃癌腹膜播種は難治性の病態であり,未だ標準的治療が定まっていない。パクリタキセルは,腹腔内投与後は腹腔内に長時間停留し,腹膜播種病変に直接浸透することにより抗腫瘍効果を発揮する。S-1+パクリタキセル経静脈投与・腹腔内投与併用療法の胃癌腹膜播種における第Ⅰ相臨床試験において,腹腔内に投与するパクリタキセルの推奨投与量を 20 mg/m2と決定した。腹腔洗浄細胞診陽性を含む胃癌腹膜播種症例を対象とした第Ⅱ相臨床試験では1 年生存率78%,生存期間中央値(MST)23.6 か月の成績を得,また肉眼的播種陽性症例を対象とした第Ⅱ相臨床試験では1 年生存率77%,MST17.1か月の成績を得た。S-1+シスプラチン併用療法と比較する第Ⅲ相臨床試験(PHOENIX-GC 試験)の解析が終了したところである。一方,ドセタキセルを用いた胃癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法においても良好な結果が報告されている。胃癌以外にも,近年は膵癌腹膜播種においてS-1+パクリタキセル経静脈投与・腹腔内投与併用療法の臨床試験が進められている。
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癌と化学療法 43巻13号, 2486-2489 (2016);
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胃癌の腹膜播種に対する外科治療には,転移腫瘍量に応じ異なる役割が求められる。同時性の微小な腹膜転移に対しては確立したエビデンスはないが,胃切除術を標準治療とするコンセンサスがある。一方,中等度から高度な播種を伴う場合の減量胃切除の意義は JCOG0705 試験により否定された。すでに腸管狭窄などの症状を伴う同時性/異時性腹膜播種では切除は極めてまれで,適応を慎重に判断した上で症状緩和や化学療法導入を目的とした人工肛門造設術やバイパス術が行われる。
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癌と化学療法 43巻13号, 2490-2497 (2016);
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癌性腹膜炎に伴う大量の腹水は強い腹部膨満感,呼吸苦などを生じて患者のADL を著しく低下させるが,オピオイドでは緩和が困難である。頻回の腹水ドレナージでは全身状態が急速に悪化するために,大量の腹水貯留は抗癌治療の中止につながる。腹水濾過濃縮再静注法(CART)は1981年に難治性腹水に対して保険適応になったが,細胞成分,粘液が多い癌性腹水は処理困難で,1990 年代には癌治療の現場から消えている。筆者は濾過膜洗浄機能を有するKM-CART システムを考案して,20 L 以上の大量癌性腹水に対しても積極的に施行しており,症状緩和と栄養,免疫状態の回復により抗癌治療の開始,再開が可能になる症例を多く経験している。腹水の全量ドレナージにより腹腔内から癌細胞,サイトカイン,VEGFなどを減量することにより,腹腔内環境を改善することが可能で,腹腔内化学療法の効果増強につながる。また,回収された多量の癌細胞やリンパ球が樹状細胞ワクチン療法や抗癌剤感受性試験などのオーダーメイド癌治療に活用が可能であり,癌性腹膜炎に対する新たな治療戦略になるものと考える。
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原著
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癌と化学療法 43巻13号, 2513-2516 (2016);
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進行再発乳がん患者の治療目的は,quality of life(QOL)を維持しながら治療を継続させることである。エリブリンは2011 年4 月に進行再発乳がんに対して承認され,乳がん治療における選択肢の幅が拡がった。本研究ではエリブリンの治療継続性に関する要因と安全性について大垣市民病院における31 例を対象に後方視的に調査を行った。治療継続期間の中央値は114(8〜281)日,投与回数5(1〜13)コースであった。エリブリン導入前の前治療レジメン数,減量の有無によって治療継続性に有意差はなかった。また,Grade 3 以上の有害事象は好中球減少が80.6%であるものの回復は速やかであり,末梢神経障害と肝機能障害はそれぞれ12.9%,6.5%であった。したがって,エリブリンは導入時期にかかわらず,患者状態や有害事象に合わせた減量,延期をすることでQOL を維持した治療を継続できる可能性が示唆された。
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薬事
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癌と化学療法 43巻13号, 2517-2521 (2016);
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デクスラゾキサン(DXZ)はトポイソメラーゼⅡを介した二つの作用機序によるアントラサイクリン系抗がん剤の血管外漏出(extravasation: EV)治療薬である。本邦では2014 年に製造承認販売され2016 年1 月時点でおよそ150 例に使用されたが,詳細な報告はない。当院では2 症例に対して計3 回DXZ 治療を行った。1 例は右前腕,2 例は同患者のそれぞれ左前腕・右前腕に発生,いずれもGrade 2(CTCAE v4.0)でEV 発生後6 時間以内に投与開始,調製から2 時間30 分以内に投与終了が可能であった。全例でEV は改善,外科的処置は必要としなかった。また,化学療法は治療期間を延長することなく遂行できた。DXZ に起因すると考えられるGrade 1 の頭痛と悪心が1 例に認められたが,対症療法・経過観察で軽快した。1 例で血管痛が発症したが,別ルートを確保し血管痛は消失した。その他,Grade 2 以上の有害事象はみられなかった。投与後1 年8か月経過し,両症例とも再発なく,皮膚障害も起こすことなく経過している。当院ではDXZはレジメン管理とし,医薬品卸との連携によりEV から6 時間以内の投与が可能であった。投与する看護師や混注する薬剤師が安全迅速に施行できるよう,注射処方箋や点滴ラベルに投与時の注意項目を記載した。院内で看護師は化学療法リンクナース,IV ナース育成コースでEV とともにDXZ についても勉強を重ねている。薬剤師は月に数回定期的な勉強会を行うとともに,稀少な薬剤を使用する際は院内イントラメールを活用し,がん専任薬剤師と病棟薬剤師間で情報を共有する。アントラサイクリン系抗がん剤のEV に対してDXZ は有効かつ忍容性も高い。DXZ は使用の頻度の低さと倫理的な問題から比較試験を行うことは現実的ではなく,症例を集積し本剤の有効性や安全性を検証していくことが必要である。
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癌と化学療法 43巻13号, 2523-2529 (2016);
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高齢者に対する多剤投与が問題となるなか,がんを合併した場合,抗がん薬と併用薬の薬物相互作用による副作用の発現あるいは増強の可能性がある。そこで,高齢者への多剤投与ががん化学療法に影響を及ぼす因子を検討した結果,年齢は単独で併用薬投与と併存疾患合併率および薬物相互作用を来す根源的なリスク因子であった。また,がん化学療法との薬物相互作用のリスクは高血圧症合併で約5.8倍,循環器系用薬服用では約10.3 倍であった。がん罹患率が上昇するなかで,がん治療に関連するリスクを減らすことはたいへん重要である。
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症例
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癌と化学療法 43巻13号, 2531-2534 (2016);
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症例は50 歳台,男性。息切れを主訴に来院した。大動脈周囲リンパ節腫大を伴う進行胃癌と診断され,バイパス術を施行した。術後S-1/CDDP 療法を施行し,病勢は安定していた。術後 10 か月目から乾性咳嗽,労作時呼吸苦が出現。緩徐に進行し,術後12か月目に再入院した。右心不全と肺高血圧を伴う呼吸苦が急激に進行し,入院9 日目に死亡した。剖検にてpulmonary tumor thrombotic microangiopathy(PTTM)と診断した。化学療法中で病勢は安定していたにもかかわらず原因不明の肺高血圧を伴う呼吸苦を訴える場合は,PTTMの可能性も鑑別診断として念頭に置く必要がある。
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癌と化学療法 43巻13号, 2535-2537 (2016);
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症例は62 歳,男性。右下腹部痛を主訴に当院を受診,膿瘍を伴う盲腸癌の診断で右半結腸切除術を施行した。病理検査結果はpor1,se,bd3,ly3,v0,PM0,DM0。術後21 日で退院したが,術後31 日で右下腹部の張り,炎症反応の上昇が認められたため入院となった。腹腔内膿瘍と判断し,内科的加療を施行したが改善せず,盲腸癌の播種再発と診断した。全身状態の急激な悪化のため抗癌剤治療は行えず,術後1 か月半で永眠した。病理解剖で吻合部に再発はみられず,盲腸癌の腹膜播種と診断した。大腸低分化腺癌は,中・高分化腺癌と比べて予後が不良であるとされている。大腸低分化腺癌は,根治切除後であっても術後早期に播種再発する可能性を考慮することが必要である。
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癌と化学療法 43巻13号, 2539-2542 (2016);
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症例1 は62 歳,女性。左乳房腫瘤を主訴に当院を受診した。浸潤性乳管癌,T1N0M0,stageⅠ,ER+,PgR−,HER2score 0 と診断した。術前ホルモン療法としてtoremifene,letrozole,anastrozoleを内服するも,腫瘍径は増大しPD となった。手術へと転換し,左乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清(level Ⅰ)を施行した。術後に化学療法,放射線療法を行った。症例2 は68 歳,女性。右乳房腫瘤を主訴に当院を受診した。浸潤性乳管癌,T1N0M0,stageⅠ,ER+,PgR−,HER2 score1+と診断した。術前ホルモン療法としてletrozoleを内服するも,腫瘍径は増大しPD となった。手術へと転換し,右乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清(levelⅠ)を施行した。術後に化学療法,放射線療法を行った。ホルモン感受性乳癌に対する術前ホルモン療法に関しては,エビデンスは未だ乏しいものの腫瘍縮小効果や乳房温存率の向上が報告されている。われわれは術前ホルモン療法中に増大した2 例を経験したが,このような効果のない症例に対しても今後化学療法を提供する上では有効であると考えた。
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癌と化学療法 43巻13号, 2543-2546 (2016);
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症例は48 歳,女性。T4c(10.5 cm)N2bM1(OSS,LYM),stageⅣ。ER(+),PgR(+),HER2(−),Ki-67 17.2%の転移性乳癌に対し,アンスラサイクリン・タキサン既治療後にエリブリンの投与を開始した。その後SD の状態を保ちつつ,28コース施行し1 年を超える長期にわたり効果を得て使用し,良好なQOL を保つことができた。エリブリンは,転移・再発乳癌の治療の目的である延命とQOL 維持の二つを兼ね備えた薬剤であり,様々な状況での有効性を期待できる薬剤であると考える。
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癌と化学療法 43巻13号, 2547-2551 (2016);
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目的: 進行卵巣,卵管,腹膜癌長期無増悪生存症例の初回腫瘍減量手術後の残存腫瘍の状態を調べること。方法: 1999〜2010年までに手術およびcarboplatin/taxane療法を受けたⅢC/Ⅳ期上皮性卵巣,卵管,腹膜癌症例のうち,無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)48 か月以上の症例を対象として後方視的に検討した。結果:対象症例は11 例で,全例ⅢC期であり,59 歳以下ⅢC期の23%(8/35),60 歳以上ⅢC期の 11%(3/27)であった。組織型は高異型度漿液性癌6 例,低異型度漿液性癌2 例,類内膜癌2 例,低分化癌が1 例であった。59 歳以下の8 例では,2 例が初回手術での残存腫瘍径0.1〜1 cm(optimal debulking)で,5 例は残存腫瘍径>1 cm,1 例は術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)後に手術を受けていた。60歳以上の3 例では,2 例が初回手術で肉眼的残存腫瘍なしの完全切除で,1 例が残存腫瘍径>1 cmであった。結論:卵巣,卵管,腹膜癌ⅢC 期のうち,59 歳以下の若年症例では,初回腫瘍減量手術での完全切除あるいはoptimaldebulking が不可能でも長期無増悪生存が可能な例がある。この群では初回手術の程度にかかわらず,carboplatin/taxane療法により予後が改善できる可能性がある。一方で,60 歳以上の症例では長期無増悪生存には初回手術での完全切除の必要性が高いと考えられる。
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癌と化学療法 43巻13号, 2553-2555 (2016);
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症例は50 歳台,男性。4 年前に胃癌に対し幽門側胃切除術を施行し,術後大動脈周囲リンパ節転移に対し化学療法を施行中であった。1年3 か月前,右鎖骨下静脈にエコーガイド下で長期使用注入用埋込みポートおよび体内埋込み用カテーテルを穿刺挿入し留置した。某日化学療法を行っていたところ,患者が右胸部から腋窩にかけての腫れを自覚した。胸部X線撮影を行ったところ,カテーテルの離断を認めた。胸部CT 検査では,カテーテルは右小胸筋内で離断し,先端は右肺動脈下葉枝にあった。右鼠径部より16 Fr シースを大腿静脈に穿刺し,ワイヤースネアを用いて離断したカテーテルを摘出した。カテーテルは先端より15.5 cmの部位で離断していた。自験例は離断部位から推測するに,筋間で屈曲が繰り返されたために断裂したものと思われた。