癌と化学療法
Volume 44, Issue 1, 2017
Volumes & issues:
-
総説
-
-
がん治療とスピリチュアルケアの展開
44巻1号(2017);View Description Hide Description現代のスピリチュアルケアは,1960年代に始まるホスピス運動が起点となっている。では,なぜこの時期なのか。一つには従来,キリスト教圏でパストラルケアと呼ばれてきたものが,この時期に宗教・宗派の枠を越え,ケアを受ける側を主体とするスピリチュアルケアへと展開していったということだ。もう一つは,がん治療における緩和ケアの必要性がはっきり認識されるようになってきたことだ。そしてそれは死生学(death studies)という知の領域の形成と並行している。日本でも1970 年代の後半からホスピスケアと死生学が広まっていくが,それに先立ってがん患者の苦悩と死を前にしたスピリチュアルな探求が関心を集めていた。宗教学者であった岸本英夫は51 歳で自らがんに罹患し,手術を繰り返しながら生き延びる過程で,特定宗教をもたず,来世を信じない立場からいかにして死を受け入れることができるかについて探求を重ねた。その著書,「死を見つめる心」(1964年)は日本におけるスピリチュアルケアの興隆を先取りするような言説の1 例である。
-
-
特集
-
- AYA(adolescent and young adult)世代のがんの問題点と対策
-
AYA 世代のがんの特徴
44巻1号(2017);View Description Hide DescriptionAYA 世代は,がんが病気による死因の第1 位でありながら小児期と並んでがん死亡率が低く,がん対策において取り残された世代となっていた。AYA世代のがんは,白血病,リンパ腫,脳腫瘍,甲状腺がん,卵巣がん,子宮頸がん,乳がん,精巣がん,骨軟部肉腫が多く,他の世代のがんに比べて治療成績の改善率が劣るといわれている。また,AYA世代のがん患者は自立して社会に巣立つ時期でもあり,生殖年齢でもある。大人への身体的変化と小児や年長成人と異なる特有の心理社会的問題を抱えており,治療確立とともに自己確立を尊重した心理社会的支援が大切である。AYA 世代のがん治療開発と患者・サバイバーの包括的な診療・支援体制の整備が急がれる。 -
AYA 世代のがん患者に対する妊孕性温存の実践
44巻1号(2017);View Description Hide DescriptionAYA世代とは,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)にて15〜39歳と定義されており,この定義を多くの団体や施設にて採用している。女性における妊孕性温存治療には,卵子凍結,胚凍結,卵巣組織凍結・移植,抗がん剤使用時におけるGnRH アナログによる卵巣保護などが含まれる。特にAYA世代の妊孕性温存治療の特徴として,凍結保存期間が長期にわたる場合があること,特に思春期患者に対する凍結時のインフォームド・アセントの工夫や年齢を重ねるごとの心理サポートなどの必要性があり,一方では凍結保存期間中に科学の進歩によってより安全で有効性のある技術が開発される可能性があることなどである。 -
AYA 世代のがん経験者の就労支援
44巻1号(2017);View Description Hide Descriptionがんの治療成績向上に伴い,治療後のQOL 向上がいっそう問われる近年,AYA世代のがん経験者の就労問題に社会の注目が集まっている。わが国のがん対策・施策検討においても重点項目として論じられている本問題は,社会のダイバーシティ推進の流れにも沿うものである。AYA世代のがん経験者における就労問題の特性は,個別性の高さ(がんの診断や治療を受ける時期がライフステージの大きな転換期と一致することに起因する)の他,希少がんである小児がん・若年性がんと就労を両立することの困難さや経済的独立の困難さにある。本稿では,がん治療に従事する病院の医療従事者が実施できる就労支援の方法を具体的に提案するとともに,支援に活用できるリソースを概観する。 -
若年成人がん患者の支援
44巻1号(2017);View Description Hide Description若年成人がん患者は特有の心理社会的問題を抱えている。医療従事者はそのニーズに気付き,個々のニーズに応じた包括的な支援につなげる必要がある。本稿では,わが国での若年成人のがん患者の診療の実態に基づき,国内の支援体制や個別の支援のあり方について検討した。
-
Current Organ Topics:Genitourinary Tumor 泌尿器系腫瘍日本の前立腺癌;最新の動向に関する四つの疑問
-
-
-
原著
-
-
当院におけるレゴラフェニブの使用経験からみた推奨する投与法
44巻1号(2017);View Description Hide Descriptionレゴラフェニブは,CORRECT 試験で標準化学療法後の切除不能再発進行大腸癌に対し有効性が証明された経口マルチキナーゼ阻害剤である。一方で,急速に出現する副作用があり,早期に脱落することが懸念されている。しかしながら,本邦でレゴラフェニブの安全な投与方法についての報告は少ない。そこで,本検討ではレゴラフェニブの有害事象を評価し,安全に長期内服できる投与法の探索することを目的とした。われわれは,標準化学療法後に病勢進行した切除不能進行再発大腸癌患者15 例を対象とし,2013年8 月〜2014年1 月までに開始量を160 mgとした前期群5 例と2014 年2 月〜2015年7月までの開始量を120 mgとした後期群10 例において,レゴラフェニブの有害事象と平均施行コース,平均総投与量についてretrospectiveに検討した。可能であれば積極的に増量を試みた。投与コース中央値は後期群で5(1〜10)コースに対し,前期群は中央値1(1〜5)コースであり,総投与量中央値は後期群で10,800(1,400〜29,640)mgと前期群2,400(2,240〜10,080)mgの4 倍であった。また,後期群では10例中7 例が3〜5 コース目で160 mgに増量が可能であった。病勢コントロール率は両群とも40%であった。2 コース目までのGrade 3 以上の副作用発現率は前期群で60%に対し,後期群で40%であった。OS は前期群168 日,後期群307 日と後期群のほうが優位に延長していた。開始量を160 mg から120 mg にすることにより有害事象による早期脱落の防止できるだけでなく,後に増量や長期内服が可能となり結果的に総投与量が多くなり,OS の有意な延長が認められた。 -
Diffuse Large B-Cell Lymphomaに対するTHP-COP 療法の有効性と安全性の検討
44巻1号(2017);View Description Hide Description目的: diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)に対するTHP-COP 療法(pirarubicin,cyclophosphamide,vincristine,prednisolone)の効果と副作用を検討した。方法: 初発DLBCL に対して2009 年12 月〜2014年12 月までに予定された一次治療としてTHP-COP 療法を終了した症例を対象として効果と副作用を後方視的に調査した。結果:対象症例は初発DLBCL 32 例,年齢67〜85(中央値77)歳であった。投与コースの中央値は6 コース,予定コースを完遂した例は30 例(93.8%)であった。奏効率(CR/CRu/PR)81.3%,CR は 21 例(65.6%)であり,1 年生存率は96.3%(95%CI: 76.5-99.5)であった。Grade 3〜4の主な有害事象は好中球減少,白血球減少,感染症,発熱性好中球減少症であった。Grade 1〜2 の有害事象には血小板減少,貧血,末梢神経障害,便秘があった。投与量の減量は19 例でみられた。relative dose intensity(RDI)の平均値はpirarubicin 80.8%,cyclophosphamide 80.2%,vincristine 68.0%であった。結語: THP-COP 療法は高齢者において安全に施行でき,有用な治療法であることが示唆された。
-
-
症例
-
-
LCNEC に対しニボルマブが奏効した2 症例の検討
44巻1号(2017);View Description Hide Description背景:抗programmed death-1 抗体のニボルマブは,非小細胞肺癌の治療選択肢の一つとして広く受け入れられつつある。しかし,大細胞神経内分泌癌(large-cell neuroendocrine carcinoma: LCNEC)に対する有用性は検討されていない。われわれは,2症例のLCNECに対しニボルマブによる治療を行い,奏効したため報告する。症例1: 62歳,男性。肺腺癌,stageⅢAに対し化学放射線治療後,新たな肺結節影が出現し,外科的肺生検でLCNEC と診断された。以後複数の化学療法を行ったが,脳転移出現,縦隔の軟部陰影増大とともに腫瘍マーカー(pro-gastrin releasing peptide: ProGRP)の上昇を認めた。六次治療としてニボルマブを開始し,縦隔の軟部陰影の縮小,ProGRPの著減を得た。症例2: 55 歳,男性。LCNEC,stageⅢAに対し化学放射線治療を施行し,原発巣は制御したが肺内転移で再発した。化学療法を繰り返したが増悪し,三次治療としてニボルマブを開始した。腫瘍マーカーの低下,肺転移巣の縮小を認めた。結論: LCNEC に対しニボルマブは有用な選択肢となり得る。 -
肺癌化学療法中の持続性吃逆にプレガバリンが有効であった1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Description症例は62 歳,男性。前胸部腫瘤からの生検材料の病理学的検査と画像検査の結果からc-Stage Ⅳの原発性大細胞肺癌と診断された。呼吸器内科にて,シスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブによる化学療法を開始した。化学療法1コース2 日目から吃逆が出現した。クロルプロマジン,芍薬甘草湯,ガバペンチンを投与するも吃逆は改善せず,プレガバリンを開始したところ吃逆は速やかに消失した。以降,同様のレジメンの化学療法を4 コース行ったが,プレガバリンの予防投与で持続的な吃逆はなく化学療法を予定どおり行うことができた。プレガバリンは化学療法に合併する持続性吃逆に対し,有効な治療薬の選択肢となる可能性が示唆された。 -
進行肺癌と進行胃癌の同時性重複癌に対してCDDP/S-1療法が奏効した1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。高血圧にて近医通院中に体重減少を認め,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,大弯後壁に潰瘍を伴う腫瘍病変を認めた。生検にて腺癌(HER2 陰性),全身検索にて傍大動脈リンパ節腫大を認め,stage Ⅳの3 型潰瘍浸潤型胃癌と診断した。また,その際の胸部CT にて右下葉に結節影,縦隔リンパ節腫大,両側多発小粒状影を認めた。気管支鏡を施行し,腺癌(EGFR 陰性,ALK陰性)と診断した。免疫染色にて胃病変と異なる組織であることを確認し,同時性重複癌と診断した。CDDP/S-1療法を4 コース施行し,両病変ともにpartial responseを得た。 -
幽門狭窄を伴う胃癌に対してステント留置後に化学療法を行った11例
44巻1号(2017);View Description Hide Description幽門狭窄を伴う進行胃癌に対し当科では積極的にステント留置を行い,化学療法を行っている。しかし,ステント留置後の化学療法の安全性についてはまとまった報告がない。当科でのステント留置後の化学療法の成績を報告する。2011〜2015 年までの間に当科で進行胃癌による幽門狭窄に対しステント留置を行った症例は15 例で,ステント留置後に化学療法を行ったのは11 例であった。化学療法は安全に施行可能であったが,CTCAEGrade 3 以上の貧血を7 例に認めた。また,再ステント留置を2 例に必要とした。ステントの移動や穿孔は認めなかった。ステント留置術は進行胃癌終末期の姑息的治療のみならず,幽門狭窄を伴う切除不能進行胃癌に対する集学的治療の一環になり得ると考えられた。 -
食道癌術後多発肺転移・縦隔リンパ節転移に対してDCF 療法で長期完全奏効が得られた1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Description食道癌術後多発肺転移と縦隔リンパ節転移再発に対し,docetaxel/cisplatin(CDDP)/5-fluorouracil(5-FU)(DCF)療法を含む全身化学療法を行い,長期完全奏効が得られた1 例を報告する。症例は59 歳,男性。進行胸部食道癌に対して術前CDDP/5-FU(CF)療法を2 コース施行した後,右開胸食道切除,3 領域リンパ節郭清,胃管再建術を行った。病理所見は低分化型扁平上皮癌で,深達度はT3(外膜),縦隔内に6 個のリンパ節転移を認めた。術後4 か月目のCT 検査で多発肺転移と縦隔リンパ節転移を認めた。全身状態が良好であったためDCF 療法を施行したところ,2 コース後の画像検査で肺転移,リンパ節転移ともに測定不能な大きさに縮小した。さらにDCF 療法2 コースとdocetaxel単剤療法8 コースを施行し,以後は無治療で経過観察しているが,再発から6 年8 か月経過した現在まで無増悪生存中である。進行再発食道癌に対して,DCF 療法はCF 療法に比べて奏効率が高いとの報告がある。DCF 療法は有害事象の予防や対処を適切に行うことで,再発食道癌に対する治療選択肢の一つとなり得る。 -
S-1単独投与にて長期予後を得た超高齢者進行胆嚢癌および胃癌の同時性重複癌の1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Description症例は90 歳,女性。食欲低下と体重減少にて来院。精査のCT 検査にて胆嚢癌の十二指腸下行脚および横行結腸浸潤を認めた。上部内視鏡検査では胃前庭部-幽門前庭部に3 型胃癌を認めた。根治切除は不能であり,通過障害に対する姑息的バイパス術を施行後にS-1 80 mg/day(2週投与1週休薬)の単独療法を開始した。投与開始 4 か月後に腫瘍マーカーは正常値化し,8か月後のCT で胆嚢癌はstable disease,12か月後の内視鏡検査で胃癌はcomplete responseを得た。投与開始4年4 か月後に誤嚥性肺炎を契機にS-1内服が困難となり,その後,腫瘍マーカー上昇および胆嚢癌の増悪を認め,投与開始4 年7 か月後に永眠された。切除不能胆嚢癌の予後は不良であり,超高齢者に対する治療法は確立されていない。S-1 単独療法は有用な治療法の一つと考えられた。 -
CapeOX+Bevacizumabによる化学療法を施行したS状結腸癌術後異時性卵巣転移の1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Description症例は41 歳,女性。39 歳時にS 状結腸癌に対し腹腔鏡下高位前方切除術を施行された。病理診断はtype 2,tub2,pT4a(SE),pN0,int,INF b,ly1,v1,pStageⅡ。術後補助化学療法は希望しなかった。術後9 か月目に腹部膨満感を自覚。CEA 6.48 ng/mL,CA19-9 89.70 U/mL,CA125 662 U/mL と上昇,CT 検査では両側卵巣腫瘍,多量の腹水,腹膜結節,左肺の結節影を指摘され,S 状結腸癌術後,両側卵巣転移,腹膜播種,肺転移と診断された。CapeOX+bevacizumab(capecitabine 2,000 mg/m2day,day 1〜14,oxaliplatin 130 mg/m2,day 1,bevacizumab 7.5 mg/kg,day 1)による化学療法を開始。4 コース後,CT 上腹水は著明に減少,肺転移巣も縮小したが,卵巣転移は増大し腹部膨満感は改善しなかった。QOL 改善の目的で子宮+両側卵巣切除術を施行した。切除した卵巣腫瘍は高分化型腺癌で,免疫組織染色ではCK7 陰性,CK20 陽性であった。術後CapeOX+bevacizumab による化学療法を再開したが,肺転移巣は増大傾向であったため肺部分切除術を施行した。 -
エベロリムス誘発肝機能障害により血中エベロリムス濃度高値と高血糖を示した腎細胞癌患者の1 例
44巻1号(2017);View Description Hide Descriptionエベロリムス誘発肝機能障害により,血中エベロリムス濃度高値と高血糖を示した腎細胞癌患者の1 例を経験したので報告する。症例は74 歳,男性。右腎細胞癌,多発肺転移の診断で右腎摘除術後,インターフェロン,ソラフェニブにより治療されたが病勢進行となり,エベロリムスを開始した。エベロリムス投与15 日目にgrade 3 の肝機能障害および高血糖が認められ,血中エベロリムス濃度が 58.4 ng/mL と高値を示したことから,エベロリムスを休薬した。肝機能検査値の回復後にエベロリムスを減量して再開したが,再び肝機能障害が認められたため,エベロリムスの血中濃度が高値を示す前に投与を中止した。肝機能検査値の回復後にアキシチニブへ変更し,その後は肝機能障害および高血糖を認めなかった。腎細胞癌患者に対するエベロリムス治療において肝機能障害が認められた場合,血中エベロリムス濃度が高値を示す可能性が示唆された。したがって,血中エベロリムス濃度測定は有害事象の管理に重要であると考えられた。
-