癌と化学療法
Volume 44, Issue 4, 2017
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総説
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T 細胞受容体遺伝子改変技術を用いたがん治療
44巻4号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害療法が近年多種類の難治性がんに驚異的な臨床効果を示すことが明らかになりつつある。しかし,多くのがん種では有効率が10〜40%程度であり,免疫チェックポイント阻害療法抵抗性患者の治療法開発は喫緊の課題である。腫瘍特異的なT 細胞輸注療法は,免疫チェックポイント阻害療法抵抗性患者に有効性を示し得る新規免疫療法として期待される。特にT 細胞受容体遺伝子改変技術を用いて人為的に腫瘍特異性を付与したT 細胞療法は,多くのがん患者に腫瘍特異的T 細胞療法を実施可能にする技術である。本稿ではT 細胞受容体遺伝子改変技術を用いたがん治療法の開発を概観し,今後の課題と展望を議論する。
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特集
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- がん疼痛治療の最前線
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がんによる侵害受容性疼痛の評価と治療選択
44巻4号(2017);View Description Hide Description痛みは侵害受容器が刺激されて発生する侵害受容性疼痛と,疼痛の伝導路が傷害されて発生する神経障害性疼痛に分類される。臨床的には単一の疼痛ではなく,様々な疼痛が混在していることが多い。本稿では,がん疼痛の評価と侵害受容性疼痛の治療選択について概説する。疼痛の評価には,疼痛の発生時期,局在,特徴,強さ,原因検索が含まれ,これにより疼痛を分類する。さらに身体的評価に疼痛に影響を与え得る心理社会的評価を加え,疼痛を包括的に評価する。治療は基本的にWHO 方式がん疼痛治療法に沿って検討する。薬物治療においては非オピオイド鎮痛薬,オピオイド鎮痛薬とも薬剤の効果と副作用に応じて選択する。放射線治療や神経ブロックなどの非薬物治療は除痛ラダーにかかわらず検討する必要がある。患者が自らの疼痛が悪化するもしくは緩和する要因,レスキュー薬の投与方法を知り,疼痛をセルフマネジメントしていくことを看護師,理学療法士,薬剤師とともに多職種でサポートすることは患者のQOL維持に有用であると考える。疼痛は完全に緩和されることは少ないかもしれないが,患者とともに治療のゴールを定め,疼痛緩和の戦略を検討していくことが重要である。 -
神経ブロックと脊髄鎮痛法
44巻4号(2017);View Description Hide Descriptionがん疼痛は,WHO 方式の疼痛管理や緩和ケアでは対処できないことが少なくない。多くは専門的な痛みの治療を提供されず,痛みを軽減されないままにオピオイドの大量投与や鎮痛補助薬の複数投与のままとなる。本稿ではそういったがん疼痛患者に対する神経ブロックと脊髄鎮痛法について概説する。ペインクリニック領域では,オピオイドによる疼痛治療以外にも,痛みを伝えている責任神経をブロックあるいは神経破壊をする手技をもっている。その目的には痛みを軽減させるだけでなく,全身投与オピオイドの減量,ADLの回復,在宅への移行も含まれる。あらゆる神経系に適応となるが,痛みの伝達だけでなく自律神経,知覚,運動もブロックするので適応については専門家に相談する。また,神経ブロックの適応がないとしても脊髄鎮痛法の適応を検討する。適応は一般的な疼痛治療で痛みが取れない場合,痛みが広範囲の場合,神経ブロックでは運動障害などのリスクがある場合などである。硬膜外腔鎮痛法と脊髄くも膜下腔鎮痛法があり,入院中は前者を,在宅をめざしては後者を選択することが多い。これらの侵襲的治療は,患者の今後の予後を勘案した上で遅延することなく実施をすべきである。実施を悩んでいる間に患者の病状は進行し,実施さえできなくなるからである。最後までQOLの維持を求めるのならば,どこかの時点で適応の有無を検討すべきである。 -
突出痛の新規治療―フェンタニル粘膜吸収剤に焦点を当てて―
44巻4号(2017);View Description Hide Description2013年,日本において初めて突出痛治療薬であるフェンタニル口腔粘膜吸収剤が使用できるようになった。突出痛の存在は,鎮痛不良や疼痛治療に対する満足度の低下に関連するのみならず,日常生活の支障や気分障害,医療機関の利用増加などとも関連する重要な課題であることが明らかにされている。多くの突出痛は痛みのピークまでの立ち上がりが早く,持続時間が短いという特徴がある。このような突出痛の経時的な変化に対応するため,即効性オピオイド薬(rapid-onsetopioid: ROO)であるフェンタニル粘膜吸収剤が開発された。フェンタニル口腔粘膜吸収剤の特徴は,より速く効き持続時間が短いことである。そのため本薬剤の最もよい適応は,速放性製剤では疼痛出現までに間に合わない場合,痛みの持続時間が短くて持ち越しによる眠気が生活の支障になっている場合などである。それに加えて,口腔粘膜から吸収されることから経口投与が困難でも使用できること,さらにはフェンタニルであることから便秘などの副作用が軽く,腎機能障害でも比較的安全に使用できることが期待される。使用に当たっては従来の速放性製剤とは異なる点が多いため,本薬剤の使用方法を習熟する必要がある。従来のレスキュー薬では十分対応できていない突出痛がないかを含めて包括的なアセスメントを行い,本薬剤をがん患者のQOL 向上に役立てることが求められる。 -
オピオイドと副作用対策
44巻4号(2017);View Description Hide Descriptionオピオイドはがん医療にかかわる医師にとって痛みや呼吸苦などの苦痛症状マネジメントに必須の薬である。しかし,その副作用対策をきちんと行わなければ有効に利用することはできない。オピオイドはオピオイド受容体に作用して効果を発現するが,鎮痛効果だけでなく様々な副作用も来す。対応に注意しなければならない副作用として,ここでは便秘,悪心・嘔吐,呼吸抑制を取り上げる。また,トラマドールと抗うつ薬併用時のセロトニン症候群の診断と対応を解説する。化学療法の進歩に伴う延命効果で長期にわたるオピオイド使用患者が増加している現状のなかで,長期オピオイド使用患者への注意点に配慮し,対応していくことも必要となっている。オピオイドを有効に使用して,チーム医療による患者・家族のactivityof daily living(ADL)維持に努めることが重要である。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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大腸癌化学療法時のNLR の推移は治療効果の指標となるか
44巻4号(2017);View Description Hide Description目的: 好中球数/リンパ球数比(NLR)は消化器癌の予後因子として有用とされており,NLR 低値の症例では予後が良好とされている。切除不能・再発大腸癌の化学療法実施中のNLR の推移が治療効果の指標となるか否かを検討した。方法:大腸癌化学療法施行中に,NLR を測定した切除不能・再発大腸癌27 例を対象とした。男性19 例,女性8 例,年齢は61〜82(中央値71)歳であり,結腸癌13 例,直腸癌が14 例であった。化学療法前および最良腫瘍縮小時のNLR を測定し,生存に影響を与える因子を検討した。「NLR 値2.5以下の期間」を化学療法実施中にNLR 値が2.5 以下であった期間の総計と定義した。結果: 化学療法前のNLR 値が5 以下の群(22 例)ではMST 26 か月,5 以上の群(5 例)ではMST 11 か月であり,前者で生存期間が有意に延長した(p=0.03)。最良腫瘍縮小時のNLR値が2.5 以下の群(19 例)ではMST 31 か月,2.5以上の群(8 例)ではMST 11 か月であり,前者で生存期間が有意に延長した(p<0.001)。「NLR値2.5 以下の期間」は全生存期間と有意な正の相関を示した(相関係数0.974,p<0.001)。多変量解析では「NLR値2.5 以下の期間」だけが有意な独立予後因子であった(p=0.001)。結論:化学療法実施中のNLR の推移は治療効果を反映し,NLR 値を低値に維持することは予後の改善に寄与する可能性がある。
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薬事
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ゲムシタビンの後発医薬品間の調製効率および治療学的安全性の比較
44巻4号(2017);View Description Hide Description後発医薬品は,患者の負担軽減および医療保険財政の改善に寄与することから年々普及している。しかし,有効性や安全性について後発医薬品間の比較検討を行った報告は未だ少なく,製剤学的特性や有害事象発現率などにどのような差が生じるかといったエビデンスに乏しいのが現状である。ゲムシタビンは肺癌,膵癌,乳癌,卵巣癌,悪性リンパ腫などにおいて,高い有効性から汎用される抗悪性腫瘍剤であるが,骨髄抑制などの種々の有害事象が高発現することが知られている。今回,ゲムシタビンの後発医薬品間の調製効率および有害事象の発現率について調査した。その結果,ゲムシタビン後発医薬品間で調製時間に差が認められた。さらに有害事象の発現率などに差異はなく,同等に使用できる可能性が示唆された。後発医薬品の採用を検討する際には,有害事象の発現率のみならず患者の経済的負担の軽減,調剤者をはじめとする医療従事者の被曝リスクの軽減を考慮し,調製効率なども検討する必要がある。
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症例
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PaclitaxelとCisplatinの併用療法により胃転移が消失した進行・再発乳癌の1 例
44巻4号(2017);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。乳癌の胃転移に対しpaclitaxel(PTX)とcisplatin(CDDP)の併用療法を行ったところ,胃転移が病理学的に完全に消失した。PTXとCDDP の併用療法は乳癌の胃転移に有用である可能性が示唆された。 -
SOX 療法中に横紋筋融解症を発症した胃癌術後肝転移再発の1 例
44巻4号(2017);View Description Hide Description胃癌術後肝転移再発に対しS-1+oxaliplatin 併用(SOX)療法施行中に横紋筋融解症を発症した1 例を経験した。症例は76歳,男性。脱力感,倦怠感を主訴に救急受診し,症状と血清creatine kinaseの異常高値から横紋筋融解症と診断された。急性腎不全およびショックに至り,集中治療室での治療を要したものの,大量補液により横紋筋融解症は軽快した。原因としてSOX 療法の関与が疑われたため化学療法は中止とし,転移性肝癌に対し肝切除術を施行した。SOX 療法が原因と考えられた横紋筋融解症の報告は本症例が初めてであり,文献的考察を加え報告する。 -
術後長期生存を得ている所属外リンパ節転移陽性胃内分泌細胞癌の1 例
44巻4号(2017);View Description Hide Description胃の内分泌細胞癌(NEC)は胃悪性腫瘍全体の約0.6%とまれな胃癌の一型で,高度のリンパ節転移および肝転移を認め悪性度が高いことが知られている。今回われわれは,所属外リンパ節転移陽性の胃NEC に対して切除を含めた拡大手術と術後補助化学療法によって良好な予後を得ている症例を経験したので報告する。症例は56 歳,男性。術前診断として胃癌[cT2(SS),cN2,cM0,cStage ⅢA]および悪性リンパ腫の合併疑いの診断にて手術を施行した。術中迅速病理診断にてリンパ節は胃癌の転移と診断され,幽門側胃切除術(D2 郭清),Roux-en-Y再建,所属外リンパ節切除(LN #13)を施行した。術後病理診断でNEC と診断された。術後補助化学療法としてS-1 の内服を開始したが術後6 か月で局所再発を認め,irinotecan+cisplatin を6コース施行し,画像上CR を得て術後60 か月生存中である。 -
化学療法中に子宮転移を来し減量手術を施行したスキルス胃癌の1 例
44巻4号(2017);View Description Hide Description症例は46 歳,女性。心窩部不快感を主訴に当院を受診した。上部消化管内視鏡検査でスキルス胃癌があり,腹部CT検査では腹膜播種を認め,切除不能進行胃癌と診断した。SP療法を4 コース施行後,胃病巣と腹膜播種はSDを維持したが,子宮病変の急速増大を認めた。子宮頸部・内膜細胞診はclass Ⅴで,化学療法不応の胃癌子宮転移と診断し,減量手術を施行した。摘出標本は子宮筋腫様腫瘤で,病理組織学的所見では腫瘍塞栓を伴う低分化腺癌の血行性転移であった。術後6 か月まで全身状態良好で化学療法を施行したが,癌性DIC で急逝した。若年女性のスキルス胃癌症例の子宮増大は,まれではあるが子宮転移の可能性を念頭に置くべきである。 -
化学療法奏効による狭窄と穿孔を来した小腸原発悪性リンパ腫
44巻4号(2017);View Description Hide Description症例は57 歳,女性。主訴は心窩部痛で,CT で空腸起始部に腫瘍を認め,内視鏡的生検により小腸原発びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫と診断した。切除には膵頭十二指腸切除を要する可能性があったため,化学療法を選択しCHOP 療法を開始した。腫瘍は縮小したが1 コース終了後に空腸狭窄を来したため,腹腔鏡下胃空腸バイパス術を施行した。さらに術後6 日目に穿孔性腹膜炎を発症し,緊急手術にて小腸部分切除術を施行した。病理組織学的検査で腫瘍細胞は認めなかったため,一連の経過は化学療法の奏効が原因と考えた。退院後R-CHOP療法を施行し,術後10 か月で完全寛解状態である。腸管悪性リンパ腫において化学療法奏効による狭窄や穿孔が手術を要する場合があり,病変部位によって慎重に術式を決定する必要がある。
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