癌と化学療法
Volume 44, Issue 5, 2017
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投稿規定
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総説
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抗がん剤のDrug Vial Optimization(DVO)
44巻5号(2017);View Description Hide Description日本の国家的課題となっている医療費抑制の具体案として,抗がん剤のdrug vial optimization(DVO)を導入することによる経済効果を分析し政策レポートを公表した。DVOを導入することにより,保守的に見積もって年間319〜410 億円の医療費削減が可能となるが,抗がん剤の市場規模が年々成長していることや高額抗がん剤の新たな市場投入などを鑑みると,直近ではさらに大きな削減効果が見込める。政策レポート公表後,様々なマスコミや政策関係者との議論をとおしてDVO を導入するための検討が開始された。また,DVO を自主的に検討・実施する病院も増えてきた。公開されている情報によれば,国立がん研究センター中央病院が1 薬剤に対してではあるがDVO の導入を開始し,鹿児島大学医学部・歯学部附属病院がDVO の導入による経済効果の分析結果を公表した。今後,自主的なアクションに任せるのではなく,全国的にDVO が導入されるための政策的な仕組みが構築されることが期待される。2015 年度には国内の医療用医薬品市場規模が約10 兆6,000 億円まで膨れ上がったが,病院内での抗がん剤以外にも様々な薬剤が廃棄されている。したがって,DVO 以外にも様々な方法による医療費の抑制が可能と考えられるため,今後さらなる医療費抑制の具体策の提案が様々なところからあがってくることを期待する。
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特集
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- エクソソーム/miR 研究の現状と展望
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血中循環腫瘍DNA の臨床的意義と今後の展望
44巻5号(2017);View Description Hide Description血液中に微量に存在する疾病(主に腫瘍)由来の分子をとらえて正確な治療や診断に生かすliquid biopsyという考え方が広まっている。本稿では血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)に焦点を当て,その特徴や臨床的意義,今後の展望について最近の知見とともに紹介する。ctDNA を用いたliquid biopsy は検査法の高感度化とともに発展してきており,デジタルPCR 法の一つであるbeads,emulsions,amplification and magnetics(BEAMing)法についても臨床データとともに紹介する。ctDNAは腫瘍から放出される200 塩基対以下の断片化されたDNAであり,血中を直接循環している。ctDNA を用いた検査は従来の組織を用いた検査と比較して低侵襲で検体採取が容易であり,がん種によらず繰り返し測定が可能である。ctDNAは組織検査との一致率が高く腫瘍の遺伝的性質を有していることが明らかとなっており,治療効果や再発/耐性獲得といった生体内の状況をリアルタイムに反映しているというエビデンスが蓄積されてきている。ctDNA を用いたliquid biopsyはまだまだ発展途上であり,従来の組織検査とは異なる特徴を生かしながら,治療法選択や耐性モニタリングをはじめとする有用な検査ツールとして今後ますます臨床応用が広まっていくことが期待される。 -
癌進展の様々な局面におけるMicroRNA
44巻5号(2017);View Description Hide DescriptionmicroRNAs(miRNAs)は相補的な塩基配列をもった標的mRNAに結合し,結果的に標的mRNAの分解や翻訳阻害を引き起こす。一つのmiRNA が数百の遺伝子発現を制御することができ,miRNA は癌を含めた様々な疾患において鍵となる分子であると考えられている。miRNA は癌細胞や癌を取り巻く微小環境で重要な役割を果たし,また早期診断バイオマーカーや治療標的になる可能性があると多くの研究で報告されている。特にmiRNA と免疫チェックポイント分子の関連性は,癌微小環境における新たな癌進展のメカニズムと注目され始めた。バイオマーカーに関しては体液中に検出される細胞外miRNA,特に循環血液中で検出されるcirculating miRNAsは,腫瘍特異性や低侵襲性および安定性から研究者らの注目を浴びている。miRNA を治療標的に使う戦略の点では,脂質由来のナノ粒子やエクソソームベクターといった組織特異的なドラッグデリバリーシステムの開発が進行中である。本稿では,最新の知見を含めて癌におけるmiRNAsのメカニズムと臨床的応用について概説する。 -
エクソソームを応用した多角的ながん治療戦略
44巻5号(2017);View Description Hide Descriptionエクソソームと呼ばれる直径100 nm ほどの細胞外小胞は,ある細胞から別の細胞へ物質を受け渡しすることで相手の細胞の性質を変化させる。がん細胞が分泌するエクソソームは,周囲の細胞に作用して転移などがんの増悪を促進している。現在,エクソソームの特性を生かしたがん治療への応用として,ドラッグデリバリーシステム(DDS)やがんワクチンが考えられている。さらには,エクソソームががんの悪性化に深くかかわることから,がん細胞が分泌するエクソソームの機能阻害も治療の助けになると期待できる。エクソソームを応用したがんの新規治療戦略は多様な手段が考えられ,現在は一部臨床試験が行われている。実用化されるとがんに対してまったく新しく,かつ多彩な治療法を提供できると期待している。 -
免疫担当細胞とエクソソーム
44巻5号(2017);View Description Hide Descriptionこの10 年,これまでに知られているサイトカイン,ケモカイン,細胞傷害性顆粒に加え,免疫担当細胞は細胞間コミュニケーションや細胞傷害作用にエクソソームを利用していることがわかってきた。成熟樹状細胞(dendritic cell: DC)由来のエクソソームは,T 細胞やナチュラルキラー(natural killer: NK)細胞を活性化し免疫を賦活できるが,一方で未熟DC は制御性T(regulatory T: Treg)細胞を誘導できる免疫抑制性のエクソソームを放出する。Treg細胞放出エクソソームは1 型ヘルパーT(T helper 1: Th1)細胞の分化誘導を抑えることができる。さらに,がん細胞傷害の中心として働くCD8+T細胞(cytotoxic T lymphocyte: CTL)は,T 細胞抗原リセプター(T cell receptor: TCR)刺激後の活性化過程の一時期だけ,がん進行抑制性のエクソソームを放出することができる。このように免疫担当細胞は,活性化状態や分化段階に応じて放出細胞の意志を受け継いだ機能的なエクソソームを放出する。本稿では,免疫担当細胞とエクソソームとの関係を既知の事実を中心にわかりやすく概説する。
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Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies 血液・リンパ系腫瘍急性白血病―治療の現状と展望―
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原著
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進行再発胃癌に対するSOX 療法の治療成績
44巻5号(2017);View Description Hide Description進行再発胃癌に対する一次治療としてのS-1+oxaliplatin(SOX)療法の有効性と安全性について検討した。対象は当科で SOX 療法を施行した進行再発胃癌 27 例である。投与方法は oxaliplatin 100 mg/m2を第1 日目に点滴静注,S-1 80〜120 mg/bodyを2 週投与1 週休薬で投与し,3 週 1 コースとした。投与コース中央値は7 コースで,奏効率47.6%,病勢コントロール率は76.2%であった。Grade 3 以上の有害事象は,好中球減少33.3%,末ò神経障害,食欲不振11.1%,血小板減少7.4%,貧血,下痢,疲労,高カルシウム血症を3.7%に認めた。生存期間中央値には到達せず,1 年生存率は63.2%であった。実地臨床においてもSOX 療法の治療効果は良好で,外来で安全に施行可能であった。 -
切除不能進行胃癌に対し消化管バイパス手術を施行した34例の検討
44巻5号(2017);View Description Hide Description目的: 切除不能進行胃癌に対して消化管バイパス手術を施行した症例について術後経過・生存期間の検討,生存期間に影響を与える臨床因子抽出を目的とし,さらに近年施行されているconversion surgery 症例の検討を行った。方法:当院で2008年4 月〜2015年11 月に切除不能進行胃癌に対して消化管バイパス手術を施行した34 例について後方視的に検討した。生存期間算出にはKaplan-Meier法,臨床因子の検定にはlogrank testを用いて解析を行った。結果:消化管バイパス手術を施行した34 例の生存期間中央値は310日(95%Cl: 136-485),1 年生存率は45%(95%Cl: 27.5-61.1)であった。単変量解析では生存期間に影響を与える正/負の因子として,それぞれ化学療法導入と肝転移が抽出された。2/34 例(5.9%)で術後化学療法が奏効し,conversion surgeryを施行した。結論: 切除不能進行胃癌に対する消化管バイパス手術は患者の経口摂取を再開しQOL 向上に寄与するだけでなく,術後化学療法やconversion surgery を組み合わせることで生存期間延長に寄与する可能性が期待される。
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症例
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MethotrexateおよびAra-Cの髄腔内投与を行った胃癌術後癌性髄膜炎の1 例
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。幽門狭窄を伴う胃癌につき胃全摘術施行。術後経過は良好で2 週間後に退院した。退院後S-1(100mg/day)内服による補助化学療法を開始した。補助化学療法開始後1 か月ごろから,ふらつきや突発的な四肢の脱力を訴えるようになった。S-1内服を中止したものの症状の改善はなく入院の上,経過観察を行ったが,意識消失,頭痛,両目の霧視など多彩な症状を認めるようになった。腰椎穿刺,髄液検査を行い,癌性髄膜炎と診断した。癌性髄膜炎に髄腔内投与を行った報告例を参考にし,methotrexate およびAra-C の髄腔内投与を開始したところ,意識消失発作や頭痛,左上肢の麻痺が改善するとともに髄液中の腫瘍マーカーの低下を認めた。 -
切除不能大腸癌多発肝転移に対してFOLFIRI+Cetuximab療法後に切除をし得た1 例
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は66 歳,女性。20 年前に右乳癌の既往歴がある。血便を主訴に受診し精査の結果,直腸癌と診断し,腹腔鏡下高位前方切除術を施行した。病理組織学的には中分化型腺癌,2 型,25×20 mm,pMP,pN0,StageⅠ,KRASは野生型と診断した。術後6 か月で多発肝転移を認めた。腫瘍はグリソンにかかりR0 切除を行うとすると右葉切除+外側区域切除が必要であり,切除率は85.4%で残肝体積が不足するのが明らかであり切除不能であった。conversion therapyを視野に入れ,FOLFIRI+cetuximab 療法を6 コース施行した。化学療法の副作用としてgrade 1 の脱毛や皮疹がみられたが,腫瘍は縮小し,切除可能になったため肝右葉切除術と部分切除術を施行した。術後1 年3 か月経過し,再発は認めていない。 -
根治切除から術後補助化学療法まで完遂し得たネフローゼ症候群を伴う横行結腸癌の1 例
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。膜性腎症に伴うネフローゼ症候群の診断を契機に,進行横行結腸癌の診断に至った。術前に低蛋白・低アルブミン(Alb)血症を認めたが,他のパラメータで栄養状態は保たれていた。過去の報告を参照し,周術期にAlb製剤や新鮮凍結血漿を使用し,低蛋白・減塩食と中心静脈栄養の併用で周術期の栄養管理を行った。腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した。特に問題なく経過し,術後15 日目に退院となった。pN2,pStage Ⅲb であり,術後補助化学療法としてXELOX(CapeOX)療法を行った。ネフローゼ症候群を併存する消化器癌に対する化学療法について詳述する資料は検索し得ず,一般的な適応基準に則り適応を判断し,腎臓内科医と併診しながら予定した8 コースを安全に完遂し得た。 -
mFOLFOX6 を用いた化学放射線療法が奏効した局所進行直腸癌の1 例
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。2012年3 月肛門周囲痛と下痢を主訴に受診した。CT で右会陰部に伸展する進行直腸癌と診断した。手術を施行したが根治術困難と考え,S 状結腸人工肛門造設術を施行した。4 月よりmFOLFOX6を用いた化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRT)を開始した。mFOLFOX6 は3 コースおよび放射線治療は総線量50 Gyを施行した。CRT後にmFOLFOX6 を3 コース追加した。7 月のCT では右会陰部の腫瘍は消失し,直腸粘膜肥厚も軽減していた。手術希望がないため追加治療としてS-1+CPT-11 療法を18 コース,さらにS-1 単独に変更して12 コース施行した。2015 年3 月より抗癌剤治療は中止したまま経過観察しているが,診断後54 か月経過し再発なく生存している。mFOLFOX6 を用いたCRTは,進行直腸癌の治療として有効な治療法であると考えられた。 -
術後27年目に多臓器転移を来した乳癌晩期再発の1 例
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。27 年前に右乳癌の既往歴がある。左下腹部の皮下腫瘤を主訴に来院。精査の結果,乳癌関連の腫瘍マーカーが高値であり,CT 上多発肺,肝,後腹膜,腹壁転移の疑いと診断された。多臓器転移ではあるものの再発までの期間が非常に長いこと,自覚症状もないこと,患者の年齢を考慮してアロマターゼ阻害剤およびトラスツズマブの毎週投与による治療を開始した。治療は奏効し転移巣は縮小,腫瘍マーカーも減少した。治療開始より1 年後に腫瘍マーカーの再上昇および画像上肝転移巣の再増大を認めたため,内服治療を高用量クエン酸トレミフェンに,トラスツズマブは隔週投与に変更した。再度効果が得られ肝転移巣は縮小した。初回治療開始より2 年経過した時点でも転移巣の増悪は認めず同治療を継続中である。 -
化学療法施行後に繰り返すHelicobacter Cinaedi感染症にMinocycline内服が奏効した濾胞性リンパ腫
44巻5号(2017);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。濾胞性リンパ腫に対し施行した化学療法後に発熱を繰り返し認めた。発熱は広域抗菌薬投与で速やかに解熱した。血液培養ではその度ごとに好気性ボトルからグラム陰性桿菌が検出されたが,菌の同定に至らなかった。4 コース後の血液培養で螺旋状のグラム陰性桿菌が認められ,培養を延長したところフィルム状のコロニーを形成したことからHelicobacter cinaedi(H. cinaedi)の可能性を強く疑った。本邦でH. cinaediの感受性が高いと報告があるminocycline(MINO)内服を併用したところ,以降の発熱および血液培養による菌の検出は認めず,R-CHOP 療法6 コースを完遂できた。H. cinaediは,化学療法を繰り返すたびに感染症を繰り返すことが知られているが,治療法は確立されていない。本症例では,あらかじめMINOを投与することでH. cinaedi敗血症の発症が予防され,化学療法を完遂することができたと考えられる。
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