癌と化学療法
Volume 44, Issue 6, 2017
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投稿規定
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
44巻6号(2017);View Description Hide Description
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総説
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がんプロの歩みと将来―第1〜2期の10年を振り返って―
44巻6号(2017);View Description Hide Descriptionわが国のがん医療を担う人材不足を解決するために,2007〜2011 年の5 年間にがんプロフェッショナル養成プラン(第1 期がんプロ)が,2012〜2016年の5 年間にがんプロフェッショナル養成基盤推進プラン(第2 期がんプロ)が実施された。第1 期がんプロでは全国18 拠点95 大学が,第2 期がんプロでは15 拠点100 大学が,がん医療専門人材の養成事業を行い,第1 期2,590人,第2 期は2,319人(3年間)の大学院生が学んだ。がんプロがスタートしてから,がん医療専門職の数は著明に増加しているが,まだ目標の半分くらいにしかならず,さらなる養成が必要である。2017 年から第3 期がんプロとして,「多様な新ニーズに対応するがん専門医療人材養成プラン」が始まる予定で,ゲノム医療従事者,希少がん・小児がんに対応する医療人材,ライフステージに応じたがん対策を推進する人材の養成が加わり,さらに多様な人材育成が期待される。
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特集
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- 軟部肉腫に対するがん薬物療法の新展開
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軟部肉腫の治療戦略
44巻6号(2017);View Description Hide Description軟部肉腫の治療は外科的切除が基本であるが,腫瘍の組織型やサイズ,病理組織学的悪性度,存在部位に応じて化学療法,放射線治療の併用を考慮する。切除不能病変に対しては,粒子線治療を含む放射線治療による局所治療を検討する。再発例や遠隔転移を有する症例に対しては化学療法,放射線治療,外科的切除を適宜組み合わせることにより予後改善とQOL向上をめざす。 -
軟部肉腫の分子標的治療
44巻6号(2017);View Description Hide Description軟部肉腫は希少かつ難治がんの一つであり,また一般的に化学療法に対する感受性は低く,分子標的治療の開発が望まれる。軟部肉腫における特異的な遺伝子異常としては染色体転座が20〜30%で認められているが,遺伝子産物の多くは転写因子であり,標的薬の開発は難しい。trabectedinはアルキル化剤であるが,転座転写因子の機能を阻害し粘液型脂肪肉腫など転座関連肉腫(TRS)に対して特に有効なことが報告されている。遺伝子変異に対する治療としては消化管間質腫瘍(GIST)のc-kit,PDGFR 変異に対するimatinib をはじめとした分子標的薬の成功に続いて,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)や隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)など,いくつかのまれな組織型では有効な薬剤があるが,その他の肉腫では開発が進んでいない。また,軟部肉腫でも血管新生が認められ,pazopanib をはじめとした血管新生阻害剤の効果が明らかになっている。さらに免疫チェックポイント阻害剤など免疫分子標的薬の開発も進行している。 -
新しい抗がん剤の役割
44巻6号(2017);View Description Hide Description軟部肉腫は希少疾患であり,有効な薬剤の開発は急務である。新たな薬剤の開発がなかなか進まないなか,本邦で新規に承認されたのがトラベクテジン,エリブリンである。両薬剤とも海外において,脂肪肉腫と平滑筋肉腫を対象にダカルバジンとの比較第Ⅲ相試験が行われた。エリブリンは全生存期間について,トラベクテジンは無増悪生存期間についてダカルバジンより優れることが報告された。それぞれの薬剤の特性,有害事象について概説する。 -
病理組織型からみた薬物療法の選択
44巻6号(2017);View Description Hide Description軟部肉腫はいわゆる希少がんの代表である。一方で発生頻度の少ないがんでありながら,多彩な病理組織型より構成されるという特徴も持ち合わせている,極めてヘテロな集団でもある。このような軟部肉腫に対する治療開発には長年進展がみられなかった。しかしここ数年,分子標的薬をはじめとする有効な新規薬剤が複数登場した。これらの新規薬剤における個別の病理組織型に対する効果は未だに明らかではなく,専門家の間でもその適応に関しては議論がなされているのが現状である。本稿では軟部肉腫に対するドキソルビシン以外の薬剤のfirst-line治療薬としての適応,および近年承認された新規治療薬(パゾパニブ,エリブリン,トラベクテジン)における軟部肉腫に対するsecond-line 以降の適応に関して述べる。
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Current Organ Topics:Central Nervous System Tumor 脳腫瘍 転移性脳腫瘍
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原著
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パフォーマンス・ステータスの低い初発神経膠芽腫症例に対する部分摘出後の放射線・テモゾロミド・ベバシズマブ併用療法
44巻6号(2017);View Description Hide Description背景: Karnofsky performance status(KPS)の低い初発神経膠芽腫に対するベバシズマブ(bevacizumab: Bev)の治療効果については不明な点が多い。今回われわれは,KPS 60 以下で全摘出も困難な4 例の初発神経膠芽腫に対して,部分摘出(生検を含む)後に放射線・テモゾロミド(temozolomide: TMZ)・Bev併用療法を経験したので報告する。対象・方法:当院で摘出術を施行した初発神経膠芽腫14 例のうち,KPS 60 以下かつ本人・家族の希望などの理由により部分摘出術もしくは生検術で組織診断を行った4 例を対象とした。術後治療として,病理診断後に拡大局所放射線療法,TMZ およびBev の併用療法を行った。結果:患者の平均年齢は77.2(67〜85)歳,男女比は男性1 例,女性3 例であった。全例において,MRIでの病変および周囲浮腫の縮小を認めた。3 例は上記術後療法を完遂しKPS の低下なく退院したが,播種病変を有する1 例は意識障害の増悪,KPS の低下を認め途中で治療終了とした。考察: AVAglio 試験におけるOS に関するサブグループ解析では,PS 0(KPS 90〜100に相当)とPS 1〜2(KPS 60〜80に相当)との比較では有意差はないものの,後者のほうがBevの恩恵を受けやすい傾向を認めている。未だ治療成績や長期予後など不明な点は多いが,本例のような状況の初発神経膠芽腫に対してもBev 併用療法が有用である可能性が示唆された。 -
Incidence of Ophthalmic Disorders in Patients Treated with the Antineoplastic Agent S-1
44巻6号(2017);View Description Hide DescriptionS-1はテガフール,ギメラシル,オテラシルカリウムの3 剤を配合した内服の抗悪性腫瘍薬である。近年,流涙をはじめとする眼障害が報告されているが,その認知度は十分ではない。本研究では,2012 年1 月〜2015年8 月までに昭和大学病院においてS-1を含む治療レジメンにより治療された患者を対象として,眼障害発現について後方視的検討を行った。眼障害は261例中28 例(10.7%)に認められた。内訳として,流涙17 例,眼脂10 例,結膜炎6 例,霧視3 例,眼の異常感2 例,他に眼痛,眼掻痒感,眼乾燥,麦粒腫,視力低下がそれぞれ1 例ずつ認められた。内服開始から眼障害発現までの期間中央値は3.0(1.5〜4.5)か月,S-1の累積投与量の中央値は4.2(2.2〜9.5)g であった。眼科を受診した13 例中5 例で角膜障害が発現していた。角膜障害による視力低下を来した1 例でS-1 の休薬期間の延長を必要とした。患者背景およびS-1 投与状況を比較した単変量解析において両群間の有意差を示した項目は,性別,S-1 総投与量および総投与期間であった。眼障害発現群では非発現群に比べ男性の割合が高く,S-1 総投与量の中央値は非発現群6.3 g に対し発現群では12.4 g,総投与期間の中央値4.4か月に対し8.6か月と眼障害発現群でより長期に投与されていた。多変量解析により眼障害発現の関連因子として,性別,S-1総投与期間が抽出された。本研究では,眼障害として流涙以外にも様々な症状が観察されており,患者および医療者への眼障害の十分な周知とS-1投与患者に対する慎重なモニタリングが必要である。
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薬事
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レンバチニブ服用甲状腺癌患者への薬剤師による医師の診察前面談をとおしての診療支援
44巻6号(2017);View Description Hide Description市中病院では,マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブが適応となる甲状腺癌の患者数は少なく,十分な使用報告がされているとはいえない。そこで,当院における薬剤師による医師の診察前面談(以下,薬剤師外来)による介入について検討した。レンバチニブ服用患者7 名のうち薬剤師による処方提案回数は45 回で,内訳としては用量15.6%,休薬11.1%,支持療法64.4%,その他9.0%であり,処方提案採択率は84.4%であった。支持療法の主な処方提案内容として,高血圧26.7%,下痢8.9%,嘔気8.9%,口腔内出血6.7%があった。レンバチニブとの因果関係は不明であるが,平衡感覚異常や視野障害などの副作用も経験した。また,医師にもアンケートを実施し,薬剤師外来が診察に貢献できていることが確認できた。以上,レンバチニブは一般病院においても薬剤師外来にて患者支援を行うことにより,QOLを維持しながら安全な治療を継続できると考える。
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症例
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放射線治療によって改善を認めた肺腺癌の下垂体転移を原因とする中枢性尿崩症の1 例
44巻6号(2017);View Description Hide Description背景: 肺癌の下垂体転移はまれであるが,時に尿崩症の発症原因になることが知られている。下垂体転移に対しては放射線治療が施行されることが多いが,下垂体転移によって発症した尿崩症への効果は不明である。症例: 72 歳,男性。血痰と頭痛,多尿を主訴に受診し,胸部CT 検査で左肺上葉に30 mm大の腫瘤影が認められ,気管支鏡検査により肺腺癌と診断された。PET-CTと頭部MRI,内分泌負荷試験の結果から,下垂体転移による中枢性尿崩症を合併した肺腺癌cT1bN0M1b,stageⅣと診断された。尿崩症による多尿はデスモプレシン経口薬により改善を認めたが,原発巣はstable diseaseと評価できた化学療法自体は尿崩症の症状改善には無効であった。骨髄抑制のために化学療法は4 か月間の実施で中止されたが,その2 か月後に下垂体転移の増悪によると思われる尿崩症症状の悪化が認められた。化学療法が無効であったことから,同部位に対して放射線治療が施行され,尿崩症の改善を認めた。結論:本症例の経験は,中枢性尿崩症を呈する下垂体転移症例への早期の局所放射線治療導入を支持するものである。 -
アルブミン懸濁型パクリタキセル注射剤による末梢神経障害増悪を長時間投与で回避できた1 例
44巻6号(2017);View Description Hide Descriptionアルブミン懸濁型パクリタキセル(nab-PTX)による末梢神経障害は,投与量の減量や治療中断を余儀なくされる用量規定毒性である。症例は92 歳,女性。腹膜癌と診断され,癌性腹膜炎と癌性腹水を伴っていた。カルボプラチン+nab-PTX 療法が開始となり,治療は奏効したが4 サイクル終了時点で末梢神経障害(Grade 3)を認め,治療中止となった。その後,末梢神経障害は徐々に改善したが,約1 年後にCA125の上昇と腹水貯留による腹部膨満感が増悪し,治療再開となった。その際,末梢神経障害の増悪を回避する目的で,通常30 分投与であるnab-PTXを8時間かけて投与した。その結果,腹水は速やかに軽減し症状改善を認め,4 サイクル終了後も末梢神経障害は軽度(Grade 1)であり,日常生活に支障はなかった。本症例では,nab-PTXの点滴時間を延長することで,末梢神経障害の増悪による治療中断を回避できた。 -
胃癌肝転移に対する集学的治療で長期生存を得た1 例
44巻6号(2017);View Description Hide Description胃体部の高分化型腺癌(HER2強陽性),門脈腫瘍栓を伴う単発肝転移に対して,トラスツズマブ+カペシタビン+シスプラチン療法(HXP療法)を2 コース施行した結果,門脈腫瘍栓は消失し,RECIST PR を得た。同時切除を施行後,追加で化学療法を行い,術後2 年以上無再発生存中である。HER2 強陽性であり肝転移個数が少ない場合には,トラスツズマブを含む化学療法で病巣縮小や微小転移の抑制が期待でき,より安全に根治切除を行い得る可能性がある。門脈腫瘍栓を伴う胃癌肝転移は予後不良とされるが,このような集学的治療は有用であると考えられた。 -
同時化学療法併用陽子線治療にて5年以上Complete Responseが得られた鼠径部リンパ節転移を伴う肛門扁平上皮癌の1例
44巻6号(2017);View Description Hide Description鼠径部リンパ節転移を伴う肛門扁平上皮癌に対して同時化学療法併用陽子線治療が著効し,5 年以上complete response(CR)を得た症例を経験した。症例は34 歳,女性。3 か月前からの左鼠径部のしこり,肛門腫瘤を主訴に近医より紹介受診した。左鼠径部リンパ節腫脹と2 時を中心とした膣浸潤を認める2 型の肛門腫瘍を認め,生検で扁平上皮癌と診断された。T4bN2M0,StageⅢbの肛門扁平上皮癌に対し,同時化学療法併用陽子線治療を行った。化学療法は5-FU(700mg/m2day,day 1〜5)の持続静注とCDDP(70 mg/m2day,day 1)の併用とし,陽子線治療はX線による全骨盤予防照射45Gy/25回の後,陽子線を主病巣に24.2 Gy/11 回,左鼠径部リンパ節に28.6 Gy/13 回照射した。陽子線治療が終了し,1 か月後には腫瘍および鼠径部リンパ節は消失した。治療開始後5 年が経過し,現在も無再発生存中である。 -
ニロチニブにより線維性心膜炎を発症した慢性骨髄性白血病の1 例
44巻6号(2017);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。2009年5 月に慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia: CML)慢性期と診断,イマチニブで治療開始され,2 か月でcomplete cytogenetic response(CCyR)が得られた。2009 年9 月にイマチニブによる間質性肺炎を発症し,10 月からニロチニブに変更された。2013 年6 月にニロチニブによる薬剤性心膜炎と診断され,同薬剤を中止した。慢性骨髄性白血病に対して無治療経過観察をしていたが,2014 年1 月に心不全にて当院循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座へ入院となった。精査にて収縮性心膜炎の診断となり,当院心臓血管外科にて心膜剥離術が施行された。病理所見では心膜に硝子様の線維性組織増生を認め,ニロチニブによる線維性心膜炎と診断した。今回,ニロチニブによる線維性心膜炎を発症した1 例を経験したので報告する。
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