癌と化学療法
Volume 44, Issue 7, 2017
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総説
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緩和ケア研修会PEACE プロジェクトの成果と展望
44巻7号(2017);View Description Hide Descriptionわが国ではがん患者の痛みやつらさに対する対応は十分でなく,緩和ケアの教育が十分でなかった。政府はがん対策推進基本計画において「すべてのがん診療に携わる医師が研修等により,緩和ケアについての基本的な知識を習得する」ことを目標として掲げ,緩和ケア研修会の教育体制を整備するため,基本的緩和ケアの教育プロジェクトである「PEACE プロジェクト」が開始された。2 日間12 時間以上の集合研修では,痛みをはじめとする症状緩和とコミュニケーションに重点が置かれた。2017年3 月時点で4,888回の研修会が開催され,93,250名の医師が修了し,世界最大規模の緩和ケア研修となった。前後比較研究により,緩和ケア研修会前後で医師の緩和ケアに関する知識は有意に向上し,困難感は減少した。また,質的研究でも「初めて系統的に緩和ケアを学ぶ場となった」,「患者・家族のもつ苦痛に目を向けることができるようになった」などの効果が示唆された。今後は,2017年に予定されている指針の変更に準拠し,e-ラーニングと集合研修を組み合わせた形で緩和ケア研修会を行うことで,受講者のレベルとレディネスに合わせた基本的緩和ケアの教育が提供される予定である。
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特集
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- 抗がん薬の曝露対策
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抗がん薬の曝露対策の必要性とその現状
44巻7号(2017);View Description Hide Description抗がん薬を職業的に扱う者は増加の一途をたどっている。hazardous drugs(HD)である抗がん薬はがん細胞に対しては殺細胞作用があり,効果を示す。一方,取り扱い者は曝露により,発がん性,催奇形性または発生毒性,生殖毒性など健康障害がもたらされる。そのため曝露対策が必要である。日本において2015 年7 月,念願であった「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」が発刊された。本ガイドラインは日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会合同での取り組みであり,歴史的にも高い意義がある。本稿では,抗がん薬の曝露対策の必要性,日本における最近の曝露対策の取り組みと合同ガイドラインの特徴,特に重要な概念であるヒエラルキーコントロールを紹介した。さらに米国における米国薬局方(USP)のchapter 800(USP800)をめぐる曝露対策の新たな動きについて述べた。 -
Hazardous Drugs(HD)の職業性曝露による健康への影響
44巻7号(2017);View Description Hide Descriptionhazardous drugs(HD)を職業的に扱う医療従事者は,微量であっても長期にわたり曝露することにより,生殖毒性や発がんのリスクが高いことが報告されている。そのリスクは薬剤の毒性の強さだけでなく,HD が体内にどれだけ摂取されるかによって決定される。抗がん薬の曝露による有害事象は,細胞・遺伝子レベルに発現する生物学的影響と個体レベルに発現する健康への影響に分類でき,後者は短期的には急性症状として出現し,長期的には生殖への影響と悪性腫瘍の発生が問題となる。 -
調剤に関する曝露対策(調製,運搬から保管まで)
44巻7号(2017);View Description Hide Description2 人に1 人ががんに罹患する現代,抗がん薬治療を行う患者は年々増加し,抗がん薬の使用量も増えてくる。抗がん薬調製業務は,薬剤師業務の一つとなっている。多くの施設では,抗がん薬調製業務が薬剤部で行われている。しかしすべての施設で十分な曝露対策をした調製業務が行われているとはいえない。米国薬局方(USP)からだされた無菌製剤とハザーダス・ドラッグの取り扱い基準では,一次レベル(安全キャビネット),二次レベル(抗がん薬調製室)と補足エンジニアリングコントロール(CSTD)の三つのレベルでコントロールし,曝露封じ込めを行うよう記載がある。それぞれに対して厳しい基準が記載されている。本邦では曝露GL 発刊後,少しずつ曝露対策の取り組みが広まりつつある。十分な曝露対策を行うには,正しい調製環境・設備,個人防護具,手技または補足的な器具が必要となる。また,曝露対策は抗がん薬調製業務だけではなく,運搬や保管にも目を向けることが大切である。今回,調剤に関する曝露対策,調製,運搬から保管までを記載する。 -
看護の現場の曝露対策
44巻7号(2017);View Description Hide Description看護業務における抗がん薬曝露のリスクは,投与管理時,こぼれ処理時,投与後の患者のケア時等,多岐にわたる。静脈内投与管理に一般的な輸液セットを使用した場合,輸液バッグにビン針を刺入した時の飛散,抗がん薬で輸液ルートをプライミングした時の先端からの漏れ,側管を外した時のこぼれ等の曝露のリスクがある。静脈内投与管理時は投与用CSTD の使用が最も効果的であるが,現状ではコストの問題から一般輸液セットを使用している場合が多い。局所注入は患者のベッドサイドで調製が行われる場合が多く,介助を行う看護師にとって最も危険な業務の一つである。投与後の患者の排泄物・体液やそれらで汚染したリネンを取り扱う際にも曝露のリスクがあり,投与後最低48 時間は曝露対策が必要である。これらの業務における曝露対策では,特に医師・薬剤師の理解と協力が不可欠である。また,患者・家族にも適切な指導を行う必要がある。曝露対策に対する組織的な認識と取り組みの下,すべての医療従事者が安心して業務に専念できる環境を作る必要がある。
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CurrentOrgan Topics:Head and Neck Tumor 頭頸部腫瘍 局所進行喉頭・下咽頭癌における喉頭温存
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原著
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転移性乳癌の三次,四次治療におけるBevacizumab-Paclitaxel療法の限界と追加療法の必要性
44巻7号(2017);View Description Hide Descriptionbevacizumab(BV)-paclitaxel(PTX)療法(BV-PTX)は転移性乳癌(MBC)に用いられ,奏効率(RR)と無増悪生存期間(PFS)を改善するが,全生存期間(OS)の改善が明確でなく,臨床的有用性が議論の対象である。今回,BV-PTXを含む化学療法(化療)を三次,四次治療として単独または他剤と併用投与したMBC 31 例での効果と予後から,その有用性を検討した。平均年齢55.8(32〜83)歳,転移部位(重複含む)は,脳8 例,胸腹水6 例,内臓23 例,骨8 例で,Luminal-A 9.7%,Luminal-B 32.3%,HER2 type 32.3%,triple-negative 25.8%で,大半がtaxaneまたはanthracycline既治療例であった。BV は5〜10 mg/kg,PTX は 3〜5 mg/kgを 2〜3 週ごとに点滴し進行確認まで継続し,効果が不十分な場合は他の化療を追加した。BV による重篤な有害事象はなかった。完全奏効3 例,部分奏効4 例,安定8例,進行16 例で,RR 22.6%,臨床的有用率48.4%であった。31例中21 例が最終的にBV-PTX を中断し,その後他界している。PFS,OSの中間値は,7.0か月と16.0か月であった。HER2(+)13 例では,全例がtrastuzumab(Tr)を投与されたが,Tr+他化療群のPFS,OS がTr 群よりも有意に良好であった。HER2(−)18 例では,BV-PTX単独群よりもBV-PTX+他化療群のPFS,OSが良好であったが有意差はなかった。多変量解析では,他化療の併用がPFS 良好の,またestrogen receptor(+),他化療の併用,Tr併用,内分泌療法の併用がOS 良好の有意因子であった。今回,三次,四次治療においてBV-PTX単独では効果が不十分で,他化療や分子標的療法との併用が必要であることが示唆された。 -
口腔癌患者に対するTPF 3剤併用化学療法時におけるAprepitantおよびFosaprepitantの制吐効果に関する検討
44巻7号(2017);View Description Hide Description口腔癌に対してdocetaxel,nedaplatinあるいはcisplatin(5 日間連日投与),5-fluorouracil(TPF)3 剤併用化学療法を実施した患者を対象にaprepitant およびfosaprepitant による制吐効果を検討した。初日から3 日間aprepitant を経口投与する群(APR群),初日のみfosaprepitant を静脈内投与する群(FOS群)とした。その結果,悪心頻度はAPR群60%,FOS 群で90%であり,APR群では2 日以上継続する悪心の頻度が有意(p=0.02,c2 test)に低かった。また,累積悪心スコア(ACU:悪心グレード×日数)の値もAPR群のほうが低い傾向にあった。両群とも嘔吐が30%にみられたが,連日に及ぶ嘔吐の頻度もAPR群で低い傾向にあった。以上より,プラチナ製剤連日投与レジメンに対する制吐療法では,初日のみのfosaprepitant 静脈内投与に比べて,3日間のaprepitant経口投与がより効果的であることが示唆された。
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症例
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Performance Status(PS)不良な進行再発乳癌に対してBevacizumab,Paclitaxelの用法・用量を減じても有効であった3 例
44巻7号(2017);View Description Hide Description症例は胸水や腹水貯留によりperformance status(PS)不良の進行再発乳癌3 症例。症状コントロールの目的でbevacizumab(BV)+paclitaxel(PTX)療法を施行する方針としたが,PS不良のため標準用量不適と判断し,BV+PTXの用法・用量を減じて投与したが有効であった。有害事象は休薬・対症療法にて十分コントロール可能であった。3 症例の年齢中央値は67.6(62〜76)歳,PSはPS 3が1例,PS 4が2例であった。BV+PTX投与開始の原因となった病態は,3例中2例が癌性胸水,1 例が癌性胸水と癌性腹水であり,いずれもPSを悪化させる要因となっていた。通常は化学療法の適応とならないPS 不良症例に対しても,BV+PTX を用法・用量を減じて投与することで安全に症状緩和を図ることが可能であった。 -
エルロチニブからアファチニブへの変更により肝障害の改善と癌性髄膜炎の病勢コントロールが得られた肺腺癌の1 例
44巻7号(2017);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。肺腺癌および癌性髄膜炎と診断され,エルロチニブとベバシズマブの併用により頭部MRI所見と意識障害の部分的な改善が得られたが,肝障害と黒色便のため治療継続が困難となった。アファチニブの投与を開始した後,急速に意識障害が改善し,肝障害は認められなかった。アファチニブ投与開始からの無増悪生存期間は7 か月,全生存期間は9.4 か月であった。EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌症例におけるアファチニブの中枢神経系病変に対する効果が示唆された。 -
アルブミン懸濁型パクリタキセルで発症した囊胞様黄斑浮腫の1 例
44巻7号(2017);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。膵頭部癌stage Ⅳbで根治切除不能と診断され,ゲムシタビン(GEM)+アルブミン懸濁型パクリタキセル(ナブ・パクリタキセル:アブラキサン®: nab-PTX)療法を開始した。GEM+nab-PTX療法開始から4 か月後に視力低下を指摘され,光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)で左眼の囊胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema:CME)と診断された。CME発症後は速やかにnab-PTX投与を中止し,発症6 か月後に左眼視力は回復したが,OCTではCMEは縮小し残存していた。nab-PTXによるCMEはまれな副作用であり本症例を含め14 例が報告されているが,膵癌症例での報告は本例が初めてであった。日々の診療時に視力低下など眼科領域に関する違和感の有無を継続的に確認することが,CMEの早期発見には重要であると思われた。 -
縦隔リンパ節転移再発を来した大腸癌肝転移の1 例
44巻7号(2017);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。下行結腸癌に対し結腸部分切除術,後腹膜合併切除術,D3郭清術を施行した(tub2,pSS,ly0,v0,pN1,sH0,sP0,sM0,fStage Ⅲb)。3 年6 か月後,肝S4 転移再発に対し肝部分切除術を施行した。肝切除の1年2か月後に CEA の上昇を認め,CT 検査で下縦隔に 18 mm 大の腫瘤影を指摘された。FDG-PET/CT 検査でも同部位にのみ集積亢進を認めた。大腸癌肝転移の異時性縦隔リンパ節転移再発と診断し,摘出術を施行した。病理組織学的所見ではadenocarcinomaであり,肝転移と同様の組織像であった。術後はmFOLFOX6を7 コース施行し,その後S-1 を3 コース施行した。縦隔リンパ節摘出後3 年4か月が経過し,無再発生存中である。大腸癌肝転移が肺転移を伴わずに縦隔リンパ節へ転移することはまれであり,明確な治療方針は示されていない。本例は縦隔リンパ節摘出術後3 年4か月無再発生存しており,切除により予後が改善される可能性が示唆された。 -
両側卵巣転移に対しRegorafenib導入にて縮小効果が得られた再発大腸癌症例
44巻7号(2017);View Description Hide Description症例は63 歳,女性。直腸癌術後,腹膜転移,両側多発肺転移,卵巣転移で再発した。三次治療でregorafenib錠を4 錠(160 mg)/日で開始した。1 コース目にGrade(Gr)3 の手足症候群とGr 2 の発疹を認めたが,腹部膨満感と腹痛が軽減し鎮痛剤を減量でき,以後regorafenibを減量し継続投与した。手足症候群には通常の外用剤以外に桂枝茯苓丸,柴苓湯を併用した。治療初期では卵巣転移は縮小せずLDH と腫瘍マーカーが上昇したが,CT 上で内部壊死を示唆する造影効果の低下を認めた。4 コース目投与中に卵巣転移は縮小傾向を認めLDH と腫瘍マーカーも漸減し,6 コース終了後にPR となった。肺転移は2 コース目投与中にPD となるも3 コース目終了後にPR となり,6 コース終了後に大部分は不明瞭化した。regorafenib開始1 年4 か月後も奏効を維持し,手足症候群もGr 2 以下となっている。regorafenib 継続可否を判断する上で理学的所見,血液検査所見,画像所見を注意深く観察する必要があると思われた。
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