癌と化学療法
Volume 44, Issue 9, 2017
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総説
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HPV ワクチン接種事業について―その沿革と最近の動向―
44巻9号(2017);View Description Hide Description2013 年6 月にHPVワクチンクライシス(勧奨中止)が起こってから4 年が経過した。本邦では公費によるHPVワクチン接種プログラムは2010 年12 月に開始された。しかし厚生労働省は医学的な根拠なしにHPV ワクチンの副反応と決め付けられたニュースが多く流れたことから,推奨を一時中止したのである。結果として,1994〜1999 年に出生した女性で70%までに達した接種率は2001 年以降に出生した女性では急減し,1%以下にまで減少したのである。副反応との因果関係は科学的にも疫学的にも立証されていないにもかかわらず,推奨中止は現在でも続いている。2016年12 月には,副反応とされる症状と同様の症状がワクチンを接種していない思春期女性にも発生していることが示された。多くの学会,団体はHPVワクチン接種プログラムの再開を要望している。政治的判断による再開が期待される。
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特集
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- 複合がん免疫療法
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抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤
44巻9号(2017);View Description Hide Description以前より抗がん剤(殺細胞性)の抗腫瘍免疫応答に与える正の影響として,抗腫瘍免疫応答を惹起するがん細胞死および制御性T 細胞やMDSC などの免疫抑制性細胞の抑制が報告されている。肺がんや悪性黒色腫において,一次治療における抗がん剤への免疫チェックポイント阻害剤の上乗せ効果を示唆する報告がされている。現在,複数のがん腫において抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用第Ⅲ相試験が進行中であり,今後の結果が期待される。 -
肺がんにおけるEGFR 遺伝子変異と免疫チェックポイント阻害薬
44巻9号(2017);View Description Hide Description進行非小細胞肺がん(NSCLC)において,免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1/PD-L1抗体は従来の化学療法を上回る治療成績を示し,治療体系のパラダイムシフトを引き起こした。しかしEGFR 遺伝子変異陽性NSCLC では,その有効性は一般に乏しいことが報告されている。その理由として,non-synonymous mutation 数やEGFR pathway の活性化による TILs の抑制などが考えられる。ただし EGFR-TKI 耐性を生じた症例の一部では,抗 PD-1/PD-L1 抗体が有効な可能性が考えられる。本稿ではEGFR 遺伝子変異陽性の肺がんにおける免疫チェックポイント阻害治療の可能性について最近の知見をまとめた。 -
免疫チェックポイント阻害剤の併用療法
44巻9号(2017);View Description Hide Description近年,進行期の悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,ホジキンリンパ腫,頭頸部癌など複数の悪性腫瘍について免疫チェックポイント阻害剤の単独療法が国内承認を得ている。次の段階として,さらなる治療成績の向上をめざして免疫チェックポイント阻害剤を含む複合がん免疫療法の開発が進行中である。本稿では複合がん免疫療法の治療戦略について概説する。 -
がんワクチンと免疫チェックポイント阻害剤
44巻9号(2017);View Description Hide Descriptionがんワクチンは生体内で腫瘍細胞に対する特異的な免疫応答を増強させ,抗腫瘍効果を発揮する。一方,免疫チェックポイント阻害剤は腫瘍抗原特異的T 細胞の誘導を促進させ,また腫瘍微小環境における同T 細胞の細胞傷害能を増強させる。すなわち免疫チェックポイント阻害剤はがんワクチンにより誘導される腫瘍免疫応答をさらに増強させる可能性があり,それらの併用により相加・相乗効果が得られると期待される。また,今までの報告よりがんワクチンに併用するべき免疫チェックポイント阻害剤は,腫瘍抗原特異的T 細胞の細胞傷害能を増強させる薬剤であると考えられる。さらには近年新たに同定された免疫抑制性受容体(Lag-3,Tim-3,TIGITなど)に対する特異的抗体とがんワクチンの併用療法も,今後期待される新たな治療方法の一つである。 -
免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤
44巻9号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤の開発により,がん免疫療法はがん治療の主役となりつつある。しかし現在までの臨床成績では奏効率は20%程度にとどまっており,治療効果の発揮にはがん組織におけるがん特異的T 細胞の存在が必要と考えられている。近年,免疫細胞療法において革新的開発,特に受容体を遺伝子改変したT細胞の開発が進められている。免疫細胞療法の効果細胞では多くがPD-1 を発現しているため,がん細胞のPD-L1 によって効果細胞の細胞傷害活性は抑制される。よって,免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用は臨床効果を増強することが期待される。その一方で,免疫関連有害事象の発現も増強することが危惧され,効果細胞のがん抗原特異性を高めサイトカイン放出症候群などへの対応を考慮した慎重な開発が必要と考えられる。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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特別寄稿
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Significance of UICC Activities in Global Health Initiatives on Cancer Looking Towards the Future of Cooperative Networks for Cancer Care in Asia―A Dialogue with the Union for International Cancer Control(UICC)
44巻9号(2017);View Description Hide DescriptionAt the 24th Asia Pacific Cancer Conference held in Seoul, Korea from 22 to 24 June 2017, a dialogue with Dr.Cary Adams, CEO of the Union for International Cancer Control(UICC)was held to discuss the significance of UICC activities in global health initiatives on cancer and pathways for cooperation on cancer control and care.UICC is engaged in a wide range of capacity building, advocacy and convening initiatives and is increasingly focusing on multi-sectoral approaches.In Japan activities are still predominantly focused on scientific and clinical research and this dialogue provided an opportunity to discuss the possibilities for expanding cooperation in Asia, using the UICC Asia Regional Office(UICC-ARO)as a platform.Discussion also covered UICCʼs new C/Can 2025: City Cancer Challenge, a new multi-sectoral initiative that has the potential to bring multiple stakeholders together. -
非小細胞肺癌における免疫チェックポイント阻害薬の新たなバイオマーカー抽出の可能性
44巻9号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーの候補として,われわれは腫瘍組織中の変異遺伝子総数(mutationburden)に注目しているが,日常的に測定することは現実的でない。そこで,従来の臨床学的および免疫学的分子パラメータとmutation burdenの関連性を解析することでmutation burdenと相関があり,日常臨床で用いることのできる因子の抽出を試みた。非小細胞肺癌94 例について,次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析と手術標本の免疫染色で免疫学的パラメータの評価を行い,臨床的因子も含め解析を行った。94 例中,腺癌75 例(79.8%),扁平上皮癌19 例(20.2%)。mutationburdenの中央値は54(10〜363)であった。単変量解析では扁平上皮癌,TP53 遺伝子変異陽性,EGFR 遺伝子変異陰性においてmutation burden が高い傾向を認めた。多変量解析ではTP53 およびEGFR 遺伝子変異の有無によってmutation burdenを予測できる可能性が考えられた。
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原著
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後ろ向き観察研究による非小細胞肺癌術後再発例における局所または全身治療実施後の臨床経過の評価
44巻9号(2017);View Description Hide Description背景:非小細胞肺癌の術後再発に対しては全身化学療法が治療法としてあがるが,一方で局所または限局性遠隔転移再発例における局所治療の効果が報告されている。目的:非小細胞肺癌術後局所再発および限局性遠隔転移再発例における局所または全身治療実施後の臨床経過を評価する。方法:後方視的に診療データを解析しlogrank 検定により生存期間を比較した。結果: 22例を対象とした。progression free survival中央値は局所治療群15.1 か月,全身治療群(殺細胞性抗癌剤)6.3 か月,局所治療と全身治療(殺細胞性抗癌剤)併用群で13 か月であり,分子標的治療薬群2 例では41.3 か月,45.8か月において無増悪であった(p=0.265)。overall survival中央値は局所治療群26.5 か月,全身治療群(殺細胞性抗癌剤)20か月,局所治療と全身治療(殺細胞性抗癌剤)併用群37.9 か月(p=0.510)であった。治療後の増悪は,治療標的病変の再増大6 例,遠隔転移8 例,両者の混在が2 例に認められた。結論:局所治療を含む治療を受けた群において生存期間中央値がより長い結果が得られたが,統計学的有意差は検出されなかった。治療後の増悪は治療標的病変の再増大,遠隔転移ともに同程度に生じ得ることが示唆された。 -
Diagnostic Efficacy of Percutaneous Renal Tumor Biopsy―Concomitant Use of Frozen Section to Accurately Diagnose Renal Tumor with Necrosis
44巻9号(2017);View Description Hide Description目的: 腎腫瘍生検の診断的有用性を検討すること。対象・方法: 2008 年以降旭川医科大学病院で,腎腫瘍に対して経皮的腎腫瘍生検を施行した23 例を後ろ向きに解析した。検討項目は,生検理由,泌尿器科医および放射線読影医と生検結果との診断合致率,実際の病理所見及および生検に伴う合併症とした。結果:超音波ガイド下生検21 例,CT ガイド下生検が2 例に施行された。生検施行理由は,治療開始前の腎細胞癌組織のsubtype決定が最も多く,次に不明組織診断であった。病理所見は,17例で腎細胞癌,6例で尿路上皮癌であった。泌尿器科医の読影結果と生検結果との診断合致率は91%(21/23),放射線読影医と生検結果との診断合致率も91%(21/23)であった。生検に関連した合併症としては,尿路上皮癌の1 例で起こった生検ルートの局所再発のみであった。1 例で中心壊死を伴う腫瘍に対する初回生検で十分量の検体を採取できなかったことによる未診断があり,2 回目の生検時に術中迅速診断を併用することで診断することが可能であった。初回生検の診断率はこの1 例を除いた95.7%(22/23)であった。結論:症例数が少なく後ろ向き検討ではあるが,腎腫瘍生検は有用な診断ツールであった。特に画像上壊死を伴う腎腫瘍においては,術中迅速診断を併用した腎腫瘍生検が有用である可能性が示唆された。しかし,尿路上皮癌の1 例で生検ルートの局所再発を起こしており,十分に注意しなければならない合併症であると考えられた。
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薬事
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フィルグラスチム後続1(フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」,同「F」)の使用成績調査結果
44巻9号(2017);View Description Hide Descriptionフィルグラスチム後続1(フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」,同「F」)の安全性および有効性を検討する目的で,本剤の適応症である造血幹細胞の末血中への動員およびがん化学療法による好中球減少症などを対象とした使用成績調査を実施した。2013年8 月〜2015年7 月までに518 例が登録され,うち495 例を安全性および有効性評価症例とした。副作用は37 例(7.47%)に認められ,主な副作用は腰痛19 例(3.84%),発熱8 例(1.62%),骨痛3 例(0.61%)であった。重篤な副作用として間質性肺炎2 例が発現したが,すでに知られている副作用であり,新たに注意を喚起すべき副作用は認められなかった。また,免疫原性に起因する過敏性反応(蕁麻疹,ショックなど)および薬効低下を調査し,非重篤な蕁麻疹2 例が認められたが,ショックや薬効低下は報告されなかった。医師の総合判定による有効率は97.98%であった。本調査結果より,フィルグラスチム後続1 の臨床使用に問題がないことが確認された。
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症例
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乳癌術後補助化学療法Dose-Dense AC 療法中にPneumocystis Pneumoniaを発症した1 例
44巻9号(2017);View Description Hide Description症例は47 歳,女性。乳癌術後補助化学療法dose-dense AC 4 コース目day 13 に発熱があり,FN に準じて治療するも改善がなかった。しだいに呼吸困難・咳嗽が出現してきたため,入院後,精査の結果,ニューモシスチス肺炎の診断であった。固形腫瘍における化学療法では日和見感染の可能性は低いとされているが,従来の化学療法スケジュールの3週毎投与よりdose-dense投与は日和見感染の頻度が高い可能性がある。 -
肺癌患者にニボルマブ投与後乾癬および乾癬性関節炎を発症した1 例
44巻9号(2017);View Description Hide Description背景: 免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ投与後に乾癬・乾癬性関節炎が生じた症例を報告する。症例: 66歳,男性。右肺上葉に3.7 cm の腫瘍を認めた。自己免疫疾患の既往はなかった。画像検査および生検で非小細胞肺癌,臨床病期T3N2M0,Stage ⅢAと診断した。シスプラチンとペメトレキセドを1 コース施行するも腫瘍は増大し,ニボルマブに変更した。4 回投与後に尋常性乾癬,乾癬性関節炎を発症し,プレドニゾロン20 mg/day を内服投与し改善した。ニボルマブは11 回目にprogressive diseaseとなるまで継続し,緩和ケア病院へ転院となった。考察:既往がない症例においてニボルマブで乾癬・乾癬性関節炎が発症した。ステロイド投与が肺癌に対するニボルマブの効果に影響を及ぼしたかは不明であった。自己免疫疾患と肺癌治療への影響について検討が必要である。 -
肺癌術後乳糜胸に対し早期の胸腔鏡下手術が有効であった1 例
44巻9号(2017);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。原発性肺癌に対し右上葉切除+縦隔リンパ節郭清を施行した。1 POD から胸水の白濁を確認し,乳糜胸と診断した。脂肪制限食を開始したが排液量の減量はないため,術後1 週間で胸腔鏡手術を行い良好な結果が得られた。術後乳糜胸に対する早期の胸腔鏡下手術が有用であった。 -
S-1/CDDP 療法が奏効して切除し得た局所進行胃神経内分泌細胞癌の1 例
44巻9号(2017);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。心窩部痛を主訴に受診した。胃前庭部小弯に2 型病変を認め,生検にて中分化型腺癌(HER2 陰性)と診断された。腹部CT で胃幽門部に52 mm大の腫瘤影を認め,周囲臓器への浸潤を認めたが遠隔転移はなかった。局所進行胃癌の診断で,S-1/CDDP(SP療法)による化学療法を開始した。2 コース後の評価で縮小率70%の効果が得られたが,高度な皮膚障害のため化学療法の継続は困難と判断した。審査腹腔鏡で腹膜播種は認めなかったが,上腸間膜静脈への浸潤を認め,静脈壁を一部合併切除して膵頭十二指腸切除術で切除できた。摘出標本による病理診断で神経内分泌細胞癌と確定診断した。術後1 年7か月現在,転移・再発は認めていない。局所進行胃神経内分泌細胞癌に対するSP療法は,術前化学療法として有用である可能性が示唆された。 -
直腸癌術後補助化学療法でCapeOX施行中に著明な腹水を認めたアルコール性肝障害の1 例
44巻9号(2017);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。過去に1 日平均日本酒3 合を47 年間摂取していた。治療前の肝機能は正常であった。下部直腸癌に対して,術前化学放射線治療施行後に直腸低位前方切除術を施行した。術後補助療法としてCapeOX を開始したが,4コース目施行中にCT を施行したところ,著明な腹水貯留を認めた。化学療法を中止し,利尿剤を含む内服加療を施行したところ,腹水貯留は軽快した。化学療法中止後8 か月後のCT では腹水を認めず,転移・再発所見も認めなかった。治療前に肝機能が正常でも,アルコール多飲歴がある場合は注意が必要である。
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