Volume 44,
Issue 13,
2017
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総説
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癌と化学療法 44巻13号, 2041-2047 (2017);
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悪性胸膜中皮腫(MPM)は極めて予後不良の悪性腫瘍であり,世界的に増加する傾向がある。切除不能例に対する標準的一次治療はシスプラチン+ペメトレキセドによる併用化学療法(CDDP/PEM)であり,全生存期間で約12 か月,無増悪生存期間(PFS)で6 か月弱の成績が得られている。中皮腫は多くの化学療法薬に対する反応が悪く,二次治療は確立していない。現在の治療薬による生存期間の延長は極めて不十分な成績であり,新規治療薬の開発が急務である。中皮腫の増殖・発育・進展などに関与する分子標的が研究され,そのうちのいくつかには有効な抗中皮腫活性を示す薬剤が同定されている。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とした治療では,ベバシズマブを標準的化学療法と併用することで2.7 か月の生存期間の延長が得られ,またVEGFR 1/2/3,PDGFR a/b,FGFR 1/2/3 のチロシンキナーゼを阻害する低分子トリプルキナーゼ阻害剤であるニンテダニブでは,3.7か月のPFS の延長が示されている。また,中皮腫細胞に発現するメソテリンを標的としたアマツキシマブやアネツマブ・ラブタンシンなどが開発され,前者はCDDP/PEMとの併用のプラセボ対照ランダム化比較試験が実施中であり,後者はメソテリン高発現のMPMに対する二次治療でのビノレルビンとの比較試験で,PFS に有意差がでなかった。近年,免疫チェックポイント阻害剤による癌免疫療法が注目されているが,中皮腫腫瘍組織のPD-L1発現は肉腫型の陽性率が高く,PD-L1陽性例の予後が悪いことが示され,免疫チェックポイント阻害剤によるMPM の治療成績も徐々に明らかにされている。本稿では最近のMPMの薬物治療を概説する。
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特集
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Cardio-Oncology―循環器学と腫瘍学の接点―
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癌と化学療法 44巻13号, 2048-2051 (2017);
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最近,心血管系疾患を合併するがん患者や治療経過中に心血管系障害を発症するがん患者が増えている。がんと心血管系疾患は日本人の死因の二大疾患であり,これらはその発症リスク因子に加齢があり,社会の高齢化とともにこれらを併存するがん患者はますます増加すると予測される。最近,cardio-oncology(あるいはonco-cardiology)という新しい学問体系も確立しつつあり,腫瘍内科医と循環器内科医の協力が欠かせなくなっている。
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癌と化学療法 44巻13号, 2052-2057 (2017);
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わが国では,急速な高齢化や生活習慣の欧米化により,循環器疾患を合併するがん患者が増加している。さらにがん治療の進歩により,がん患者の予後は改善してきている。心毒性はがん治療関連心機能障害とも呼ばれ,がん患者の死因として重要である。心毒性には,高血圧症,不整脈,血栓塞栓症,冠動脈疾患,弁膜症および心不全を来し得る左室機能障害などが含まれる。多くのがん患者を最適に治療するためには,循環器専門医と腫瘍専門医の緊密な連携が必要であり,循環器専門医は心毒性について診断や予後などに関する情報を腫瘍専門医に助言することが期待されている。しかしがん治療に関連する心血管疾患のメカニズムについてはほとんど解明されていない。腫瘍循環器(onco-cardiology)は,がん患者における心毒性の診断と治療に焦点を当てたサブスペシャリティである。本稿では,onco-cardiologyの概念について概説し,循環器内科の立場からがん治療中またはその後に起こり得る心毒性のマネジメントに焦点を当て,さらに心毒性を診断するための非侵襲的検査についても概説する。
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癌と化学療法 44巻13号, 2058-2063 (2017);
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化学療法の進歩によってがんの寛解率や治癒率は格段に向上しているが,それに伴って,がんあるいは薬剤による副作用に関連する心血管合併症の管理が生命予後やQOL を左右する大きな要因となりつつある。特に,アントラサイクリン系抗がん剤のように心毒性が古くから知られた薬剤に加えて,様々な分子標的薬による心血管系の副作用が問題となっている(chemotherapy-related cardiac dysfunction: CTRCD)。CTRCD は臨床経過と病理組織学的変化によりタイプ1 とタイプ2 に分類される。アントラサイクリン心毒性に代表されるタイプ1 CTRCD は用量依存性で,特徴的な組織学的変化を伴い不可逆的な臨床経過を示すのに対して,トラスツズマブに代表されるタイプ2 CTRCD は用量非依存性で,組織学的変化を伴わず可逆的な臨床経過を示す。また,抗VEGF 抗体やチロシンキナーゼ阻害薬といった血管新生阻害薬でも,心血管リスクを伴う場合にはCTRCD が問題となり得る。腫瘍内科医と循環器内科医とが綿密に協働することで,CTRCD の疫学や病態生理の解明,さらにはリスク層別化,エビデンスに基づいた治療の確立といったがん患者やがんサバイバーのアンメットニーズにこたえていく必要がある。
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癌と化学療法 44巻13号, 2064-2071 (2017);
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静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は,がん患者における重篤な合併症である。がんは,その進展や転移に際して宿主の血液凝固機構を巧みに利用する。血小板数や凝固線溶系の指標であるD-dimer は,VTE の発症リスクを評価する上で有用なマーカーである。がん患者の周術期におけるVTE 予防には,ワルファリンよりも低分子量ヘパリンなどの非経口抗凝固療法が推奨される。VTE を発症したがん患者に対して少なくとも3〜6 か月間にわたり低分子量ヘパリンによる治療が行われるが,生命予後の改善に必ずしもつながらない。Öactive cancerÙ病変をもつ患者では,予防用量の低分子量ヘパリンや経口抗凝固薬を初期治療から投与期間を延長して使用すべきであろう。本邦のように低分子量ヘパリンの自己注射が困難であるような状況がある場合には,直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOACs)の適否を考慮すべきであろう。VTE のマネジメントは,治療プロトコール,併存疾患やADL,原病による生命予後の予測などに加えて患者自身の意思を十分に考慮した上でプランニングされるべきである。
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原著
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癌と化学療法 44巻13号, 2087-2090 (2017);
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早期乳癌患者に対するTC 療法(docetaxel 75 mg/m / 2,cyclophosphamide 600 mg/m2)のrelative dose intensity(RDI)を,pegfilgrastim一次予防的投与した症例とpegfilgrastimを投与していない症例に分け,比較検討した。対象はTC 療法を3 週ごとに4 サイクルを予定した17 例とした。2016年1 月からの10 例にはpegfilgrastimを一次予防的投与し(Peg-G群),2015 年12 月までのpegfilgrastim を使用していない7 例(control 群)に分けた。各群における4 サイクル完遂率と,docetaxelのRDI を検討した。4 サイクル完遂率は,Peg-G 群は100%,control 群は42.8%であった。4 サイクル完遂例のRDIは,Peg-G 群86.5(65.4〜100)%,control群52.5(48.0〜58.0)%であった。TC 療法においてはpegfilgrastim一次予防的投与することで,高い4 サイクル完遂率とRDI が維持できることが示された。
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癌と化学療法 44巻13号, 2091-2095 (2017);
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carboplatin(CBDCA)は反復投与による過敏反応(CBDCA hypersensitivity reaction: CHSR)が知られている。CHSR発症後のcisplatin(CDDP)による治療の安全性と有効性を解析した。paclitaxel/CBDCA(TC)療法(一括もしくは週ごと分割投与)を施行した544例中18 例(卵巣・卵管・腹膜癌12 例,子宮体癌5 例,子宮頸癌1 例)にCHSRが生じた。CHSR 例の年齢中央値57 歳,発症時のTC 療法サイクル数中央値9 サイクル,CBDCA 投与回数中央値は14 回であった。TC 療法7 サイクル,CBDCA 投与7 回を超えるとCHSR を発症する頻度は有意に上昇した(p<0.0001)。CHSR の重症度(CTCAE v4.0)はGrade 1〜2 14 例(77.8%),Grade 3 が4 例(22.2%)であった。CHSR 18 例中8 例(卵巣癌3 例,子宮体癌4 例,子宮頸癌1 例)に対し,CDDP 10 mgの静脈内試験投与後,週毎 paclitaxel/CDDP(wTP)療法を継続した。wTP療法のCDDP 投与回数中央値は8 回であった。過敏反応による治療中止が2 例(25.0%)あり,症状はGrade 2 と軽微であった。wTP療法の奏効率は50.0%で,無増悪期間は中央値9.5 か月であった。以上より,CHSRが生じた白金製剤感受性症例には,CDDPに薬剤変更し白金製剤による治療を継続できる可能性がある。
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症例
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癌と化学療法 44巻13号, 2097-2099 (2017);
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紡錘細胞癌はまれな特殊型乳癌で,有効な薬物療法の報告は乏しい。胸壁・腋窩に局所再発し皮膚潰瘍を形成した乳腺原発トリプルネガティブ型紡錘細胞癌症例に対して,irinotecan 化学療法により皮膚潰瘍を縮小させQOL を改善できたので報告する。症例は49 歳,女性。他院で右乳腺原発紡錐細胞癌と診断され,手術,術後補助化学療法,残存乳房への放射線療法を受けたが,術後14 か月で右胸壁に局所再発した。eribulin,次いでpaclitaxel+bevacizumab 投与を行ったが増悪し,腋窩に拡がって皮膚潰瘍を形成し当院に転院した。三次治療のirinotecan 投与により皮膚潰瘍は縮小,滲出液はほぼ消失し,4か月間QOL を改善・維持できた。
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癌と化学療法 44巻13号, 2101-2103 (2017);
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症例は62 歳,女性。乳癌骨転移,癌性胸水・心嚢水に対して化学療法中に記銘力障害と頭痛が出現した。造影MRI 検査で脳表に多発する腫瘤があり,脳血流シンチグラフィでは両側頭頂葉の血流低下も認め,乳癌による髄膜癌腫症および続発性認知症と診断した。全脳照射(30 Gy/15 Fr)によって多発腫瘍は縮小し,2か月後には記銘力障害も著明に改善した。
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癌と化学療法 44巻13号, 2105-2107 (2017);
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症例は81 歳,男性。20XX 年,直腸癌(Rs)に対し根治術(前方切除,adenocarcinoma,sm,n1,stage ⅢA,CurA)が行われた。大腸癌術後9 年,腹部CT 検査で肝臓に2 cm 大の孤立性陰影を認めた。肝S4 部分切除+胆嚢摘出術を施行した。病理組織検査は直腸癌の肝転移であった。さらに肝転移術後5 年,胸部CT 検査で左肺S6 に10 mm 大の陰影を認めた。20XX+14年,左胸腔鏡下肺部分切除を施行した。病理組織検査は直腸癌の肺転移であった。われわれは,根治が期待できるなら直腸癌の異時性転移は積極的に外科的切除をすべきであると考える。
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癌と化学療法 44巻13号, 2109-2112 (2017);
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diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)で腫瘤性の中枢神経(CNS)浸潤を呈した65〜83歳の高齢患者5 例に対し,methotrexate(MTX)を 75 歳未満は 3.0 g/m2,75 歳以上は1.5 g/m2投与とするhigh-dose MTX(HD-MTX)のrituxi-mabおよびvincristineとの併用による効果を検討し,MTX 3.0 g/m2群でCR 1 例・PR 1 例,MTX 1.5 g/m2群でCR 2 例・PR 1 例と全例に奏効を得た。MTX 1.5 g/m2のHD-MTX 療法は75〜83 歳のDLBCL の腫瘤性CNS 浸潤に安全に投与でき,効果が期待できる治療法と考えられる。
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癌と化学療法 44巻13号, 2113-2116 (2017);
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われわれは,切除と免疫・化学療法にて制御し得た61 歳,男性の原発不明頸部リンパ節転移癌の1 例を経験したので報告する。患者は側頸部の腫脹を主訴に当科受診された。初診時,左側頸部に弾性硬,皮膚の発赤を伴った非可動性の腫瘤を認めた。臨床所見やMRの結果,悪性リンパ腫,結核性リンパ節炎,EB ウイルスによる感染が疑われた。全身麻酔下に腫瘤切除・生検術を施行したが,術中迅速病理検査にて扁平上皮癌と判明し,頸部郭清術に術式を変更し手術を施行した。術後,頭頸部・頬部CT,その他検査を施行したが,原発巣は判明できなかった。術後療法として,抗癌剤による化学療法・免疫療法を施行した。術後4 年10 か月が経過しているが,再発もなく術後経過良好である。