癌と化学療法
Volume 45, Issue 1, 2018
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総説
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消化器癌のエピジェネティクス:診断と治療への応用
45巻1号(2018);View Description Hide Description多くの消化器癌でDNA メチル化異常をはじめとするエピジェネティック異常が認められる。癌細胞特異的なDNAメチル化異常を利用して癌の存在を検出する試みは広く行われており,すでに血中遊離DNA を用いて大腸癌を検出する方法がFDAに承認されている。DNAメチル化異常の強力な誘発要因は慢性炎症であり,発癌以前の正常な粘膜にもDNAメチル化異常が蓄積している。その量を定量すると発癌リスク診断が可能であることが,胃癌では臨床研究で証明されている。治療としては,DNA 脱メチル化剤が血液腫瘍を対象にすでに承認されており,欧米を中心に消化器癌でも臨床試験が行われている。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤も一部リンパ腫を対象にすでに承認されており,一部の消化器癌で臨床試験が行われている。今後は,用量,スケジュール,併用薬,対象症例の選択に注意を払った臨床開発が加速すると期待される。
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特集
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- 高齢がん患者のリスクアセスメント
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高齢者のがん治療に影響を及ぼす背景因子
45巻1号(2018);View Description Hide Descriptionわが国の高齢化率は世界で最も高く,まれにみる超高齢社会を迎えている。また,死亡原因の第1 位は悪性新生物であり,高齢がん患者に対する治療の機会が急増している。高齢者は加齢に伴い慢性疾患や合併症の増加がみられ,薬物療法における有害事象の発生率も高くなる。医療提供の形態も多様化し在宅医療や介護も推進されている。したがって,高齢がん患者への治療方法の選択では加齢による生体機能の変化に加え精神心理面,生活面,社会面を多面的にとらえ,適切に評価することが重要である。この評価に際して高齢者機能評価(GA)の導入が推奨され,治療成績やQOLの向上への寄与が期待されている。本稿では,高齢者のがん治療における多様な背景因子を評価するGA と薬物療法について概説する。 -
高齢者の消化器癌治療のリスクアセスメント
45巻1号(2018);View Description Hide Description高齢大腸癌患者の治療に当たっての基本原則は若年者と同様であるが,年齢に関連した臓器機能の低下や,生命予後に関与するような併存疾患をもつことから,薬物療法における副作用のリスクやQOL への影響を考慮する必要がある。治療ガイドラインでは標準治療が適用できる患者とそうでない患者に分けて治療戦略を検討することとなっているが,具体的にどのようにしてこれらを分けるかの規準は記載されておらず,担当医の判断にゆだねられているというところが現状である。より適切に評価するために,まずはG8 などを用いてスクリーニングを行い,リスクの高い高齢者機能評価を行うことがInternational Society of Geriatric Oncology(SIOG)より提唱されている。このような評価により得られた結果から実地臨床においてどのように現場が対応するかについては,現在,様々な取り組みがなされているところである。 -
高齢者の造血器腫瘍治療のリスクアセスメント
45巻1号(2018);View Description Hide Descriptionわが国では高齢化社会に伴い高齢の悪性腫瘍患者が増えてきており,造血器腫瘍もその例外ではない。造血器腫瘍の治療は化学療法が中心であり,さらにその強度を保つ必要がある。高齢者においては臓器機能の低下,併存症などにより有害事象が強く生じることもあり,化学療法のレジメンや量の決定は個人差が大きく難しい。老年医学の分野で用いられる高齢者機能評価(geriatric assessment: GA)が化学療法のリスクアセスメントに有用であることが報告されている。造血器腫瘍においてもGAの有用性が示されており,また非ホジキンリンパ腫においてはGA の結果を基にリスクを層別化し,治療法を決定する試みも行われている。 -
高齢者機能評価スクリーニングツールを用いた高齢がん患者の予後予測
45巻1号(2018);View Description Hide Description高齢者は多様性に富んでおり,暦年齢だけでは老化の個体差を把握することは難しい。高齢がん患者に対して何らかの高齢者機能評価(geriatric assessment: GA)を実施することが推奨されており,GA によって患者が抱える問題点を抽出し,治療に伴う毒性,身体機能の低下,予後を予測することに役立つ可能性がある。GA ドメインのなかでは,身体機能,栄養状態,抑うつ状態,処方薬数,併存症が高齢がん患者の予後と関連していたという報告がある。様々なドメインを包括的に評価するfull GA は有用であるが,時間的な制約から日常診療においてすべての高齢がん患者で実施することは困難であり,full GAを必要とする患者を同定する目的でいくつかのスクリーニングツールが開発されている。スクリーニングツールは数分で評価することが可能である。これまでにGeriatric 8(G8),Vulnerable Elders Survey-13(VES-13),GroningenFrailty Indicator(GFI),Flemish version of the Triage Risk Screening Tool(fTRST)は予後予測因子として有用であることが報告されている。日常診療においてもこれらのツールを用いた評価を行うことで,高齢がん患者の治療方針決定の支援に寄与することが期待される。
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Current Organ Topics:Genitourinary Tumor 泌尿器系腫瘍 膀胱癌(尿路上皮癌)に関する四つの疑問
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原著
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造血器悪性腫瘍の化学療法における悪心・嘔吐のMASCC Antiemesis Tool(MAT)を用いた評価
45巻1号(2018);View Description Hide Description今回われわれは,自施設での造血器悪性腫瘍に対する化学療法時の悪心・嘔吐をMASCC antiemesis tool(MAT)を用いて前向きに評価した。合計33 例において46 コースの化学療法が施行された。症例全体として,嘔吐は急性期,遅発期ともほとんどみられなかったが,悪心は急性期22.6%,遅発期に32.3%にみられた。高度催吐性化学療法施行例(25 例)では悪心が急性期,遅発期とも約30%にみられた。中等度催吐性化学療法施行例(18 例)の遅発性悪心が40%にみられた。CHOP±R 療法においても約30%に悪心がみられた。入院にてCHOP±R 療法第1 コースが施行された31 例において,制吐薬としてグラニセトロン(13例)とパロノセトロン(18 例)の後方視的な比較では,食事摂取量はパロノセトロン症例で良好であった。血液領域における制吐療法は未だ改善の余地があり,前向き臨床研究による至適化が必要と考えられた。
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症例
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FOLFIRI+Cetuximab療法中に間質性肺炎を発症し死亡した大腸癌肝転移の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は76 歳,女性。2011 年4 月,S 状結腸癌同時性多発肝転移に対してS 状結腸切除術を施行した。術後はmFOLFOX6+cetuximab療法を計14 コース施行し,その後FOLFIRI+cetuximab療法を開始した。2012 年8 月,7 コース目の予定日に呼吸苦で受診した。精査で全身化学療法による薬剤性間質性肺炎と診断され,緊急入院となった。酸素投与,ステロイドハーフパルス療法とエンドトキシン吸着療法により症状は一時的に改善したが,入院10 日目に呼吸状態が増悪した。ステロイドパルス療法を施行したが,入院17日目に呼吸不全で死亡した。FOLFIRI+cetuximab療法における有害事象としての間質性肺炎の発生頻度は低いが,常に間質性肺炎の可能性を念頭に置いて治療に当たる必要があると考えられた。 -
S-1単剤療法により長期生存を得られた根治切除不能な高齢者大腸癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description高齢大腸癌患者は増加しており,高齢患者に全身化学療法を行う機会も多くなってきている。今回,根治切除不能な高齢者大腸癌に対し,原発巣切除後にS-1 単剤療法を施行し長期生存を得ることができた症例を経験したので報告する。症例は85歳,男性。同時性両側多発肺転移を伴う大腸癌に対し結腸右半切除術を施行した。病期はT3,N0,M1a(PUL2),Stage Ⅳであった。副作用の少ない化学療法を希望したためS-1 単剤による治療を開始した。QOLを維持したまま計42 サイクル施行され,現在も外来通院中である。高齢癌患者の化学療法においては病勢コントロールだけにとらわれず,忍容性,QOL,患者の希望など個々の事情に配慮しながら治療を選択することが肝要であると考えられた。 -
S状結腸癌術後の多発性肺転移に対してS-1が著効した1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。閉塞性S 状結腸癌に対して,S 状結腸切除D2 郭清と単孔式人工肛門造設術を施行した。pT3pN1cM1(PUL1),pStage Ⅳであった。多発性肺転移巣に対しては,performance status 3 のため S-1 単独(100 mg/body/day,2週間投与,1週間休薬)で行い,合計10 コース施行した。治療は奏効し,画像上多発性肺転移巣は消失した。化学療法終了6 か月後を経過した現在もCR を維持している。 -
直腸腺癌切除後8年に肛門狭窄で発見された肛門管扁平上皮癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は89 歳,女性。2008年直腸腺癌に対して低位前方切除術を施行した(Ra,pT3N0M0,pStageⅡ,CurA)。2016年2 月に排便困難が出現し,外来を受診した。下部消化管内視鏡検査を施行し狭窄部位を生検したが悪性所見を認めず,狭窄部を拡張した。12 月に高度肛門狭窄で再受診した。MRI検査では全周性の腫瘍性病変を肛門管内に認め,経会陰的針生検を施行し,扁平上皮癌の診断を得た。直腸癌術後の異時性肛門管扁平上皮癌P,cT4bN2M0,cStage Ⅲb と診断し,閉塞解除目的に腹腔鏡下人工肛門造設術を施行後,年齢,PSなどを考慮し,放射線療法を施行した。放射線療法終了後2 か月で腫瘍は縮小し,肛門部痛は改善傾向である。 -
EDP+Mitotane(Etoposide, Doxorubicin and Cisplatin+Mitotane)を施行した切除不能/進行または再発副腎皮質がん3 例の報告
45巻1号(2018);View Description Hide Description副腎皮質がんは希少で予後不良な疾患として知られている。2007 年1 月〜2013 年12 月の6 年間にetoposide, doxorubicinand cisplatin(EDP)+mitotane療法を用いた副腎皮質がんの症例を3 例経験した。うち1 例は術後維持療法としての使用であり,2 例は術後再発に対しての使用であった。術後再発に対して用いた2 例中,最良効果は1 例でPR,1 例でSD であった。3 例中2 例でGrade 3 の非血液学的有害事象がみられ,全例でGrade 3/4 の血液学的有害事象を認めた。切除不能/進行副腎皮質がんに対しての初回治療としてEDP+mitotane 療法の有効性が報告されたFIRM-ACT 試験が2012 年に報告されているが,国内での使用例は未だ少ない。また,術後維持療法としての使用や術後再発例における使用は確立されたものではなく,少数例の報告にとどまる。今回の報告では,EDP+mitotane療法は効果が見込まれるものの有害事象も多く,適切な管理下に行う必要があるため患者のQOL を損なうことが多く,課題の多い治療であると考えた。ただし少数の報告であるため,今後さらなる検討を行う必要がある。
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特別寄稿
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浸潤性小葉癌と非浸潤性乳管癌が同時性に併存した1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description浸潤性小葉癌と非浸潤性乳管癌(DCIS)が同時性・片側性に併存した症例を経験した。症例は51 歳,女性。乳癌検診で異常を指摘されて受診した。マンモグラフィ検査では右M領域にFAD を認めた。超音波検査では右B 領域に直径9 mmの不整形低エコー腫瘍として描出された。腫瘤周囲より,右CD 領域まで連続する低エコー域も認められた。針生検術を施行したところ,浸潤性小葉癌と診断された。全身検索では遠隔転移を認めず,T1N0M0,Stage Ⅰの術前診断で胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断は右B 領域に浸潤性小葉癌,腫瘍径2.1 cm,右CD 領域にDCIS が存在した。切除断端陰性,リンパ節転移陰性,ER 陽性,PgR 陽性,HER2陰性,Ki-67 10%であり,T2N0M0,StageⅡA と診断された。術後はLH-RH agonist+tamoxifenで経過をみているが,術後2 年6か月目の現在,明らかな転移・再発を認めていない。 -
Fulvestrantによる長期内分泌療法が奏効し切除可能となった高齢者局所進行乳癌の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description長期間にわたるfulvestrantによる内分泌療法が奏効し,切除が可能となった高齢者局所進行乳癌を経験した。症例は75 歳,女性。右乳房に腫瘤を触知して来院した。来院時,腫瘍は直径70 mmであり皮膚潰瘍を伴い,胸筋固定を認めた。造影CT 検査では右乳房に73 mmの皮膚・胸壁に浸潤する腫瘍を認めたが他臓器転移は認めなかった。針生検で浸潤性乳管癌,ER 陽性,PgR 陽性,HER2 陰性,Ki-67 20%と診断された。T4cN1M0,Stage ⅢBと診断され,letrozole(2.5 mg/day)の内服を開始したが,腫瘍マーカーの上昇傾向を認めた。fulvestrantに変更して治療を継続したところ,腫瘍に縮小傾向を認めた。2年6 か月後には腫大した腋窩リンパ節は消失,腫瘍径も60%まで縮小し,易出血性も改善した。胸筋温存乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術を施行した。術後4 年目の現在,明らかな局所再発・遠隔転移を認めていない。 -
当院における進行再発胃癌に対するRamucirumabの使用経験
45巻1号(2018);View Description Hide Descriptionramucirumab(RAM)は2015 年3 月に切除不能な進行再発胃癌に対して承認され,胃癌治療ガイドラインでは二次治療においてpaclitaxel(PTX)+RAM療法は推奨度1,RAM単独療法は推奨度2 と位置付けられた。当院で2015 年3 月〜2016 年12 月にRAM を使用した進行再発胃癌患者は21 例認められ,RAM 単独療法11 例,PTX+RAM 療法10 例であった。この症例に対し治療経過,臨床的効果,有害事象などについてレトロスペクティブに検討を行った。患者背景では,RAM群のほうがPS 不良な患者が多かった。有害事象はPTX+RAM群のほうがGrade 3 以上の発現率が高かった。臨床的効果に関しては奏効率がRAM 群9%,PTX+RAM 群で30%であった。無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ2(1〜10)か月,3.75(1.5〜11)か月であった。いずれの群においても,三次治療以降の症例や80 歳以上の高齢者なども含まれていたが,安全に施行できており,RAMは進行再発胃癌に対して有用で忍容性の高い薬剤であると考えられた。 -
Incidental Gallbladder Cancerに対する追加切除後に生じた腹壁(ポート部)再発の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。2012 年1 月,胆石症の診断にて腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy: LC)を施行後に病理組織診断にて胆嚢癌と診断され,2 か月後に肝床切除術およびリンパ節郭清を施行した。術後補助化学療法は施行せず経過観察中であったが,2016年8 月心窩部皮下腫瘤を認め,腹部MRIやPET-CTなどの画像検査により胆嚢癌の腹壁への局所再発(ポート部再発)と診断した。全身麻酔下に腫瘤を摘出し,術中迅速病理検査にて胆嚢癌再発と診断された。周囲の腹壁を断端陰性になるまで広範囲に追加切除を加えた結果,縦径9×横径7 cm の腹壁欠損を生じたため,モノフィラメントポリプロピレン製メッシュを用いて修復した。6 か月後に初回再発部の約3cm 頭側に再度局所再発を来し切除したが,遅発性に生じたLC 後の胆嚢癌ポート部再発は低悪性度であると考えられるため切除によって長期生存が期待できる。 -
急性胆嚢炎術後に診断された胆嚢悪性リンパ腫の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は84 歳,男性。心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診した。血液検査で肝胆道系酵素と炎症反応の上昇を認めた。CT で腫大した胆嚢と胆嚢結石を認め,急性胆嚢炎Grade Ⅰの診断で当院外科に入院となった。抗菌薬投与で保存的治療を開始し,入院6 日目に軽快退院となった。待機的手術の方針となり,約3 か月後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。術後経過良好で術後6 日目に退院となった。摘出した胆嚢の頸部には45×45 mm大の隆起性病変を認め,組織学的にはリンパ球様異型細胞のびまん性増殖と漿膜下までの浸潤を認めた。免疫染色ではCD10(+),Bcl6(+),MUM1(−)となり,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と診断された。今回われわれは,急性胆嚢炎術後に診断された胆嚢悪性リンパ腫の1 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。 -
TS-1療法の効果の差異により膵癌転移性肺腫瘍と鑑別に至った原発性肺癌の1切除例
45巻1号(2018);View Description Hide Description肺腫瘍を併発した膵癌に対してTS-1 内服後に肺切除を行い,根治的膵切除を行った症例を経験したので報告する。症例は66 歳,女性。CT で膵尾部腫瘤と2 か所の肺結節を認め,膵癌および転移性肺癌と診断した。TS-1療法を計11 コース施行し膵腫瘍は縮小傾向であったが,肺結節はともに不変であった。治療効果の違いから原発性肺癌の重複癌を疑い,診断的治療目的に胸腔鏡下左肺下葉部分切除術を施行した。病理診断は炎症性筋線維芽細胞性腫瘍および原発性肺癌であった。根治的膵切除が可能と考え,膵体尾部切除術を施行した。病理診断は浸潤性膵管癌であった。術後補助化学療法としてTS-1内服を行った。膵切除後10 か月で肝転移を認め,GEM 療法を開始した。膵切除後2 年で腹膜播種を認め,2 年9 か月で死亡した。膵癌の同時性肺腫瘍に対し,膵癌,肺癌ともに効果のあるTS-1 療法を施行することで慎重な経過観察を行うことができ,根治的切除が可能となる症例もあり,有効な治療方針と考えられた。 -
手術侵襲軽減をめざした奇静脈弓を温存する胸腔鏡下食道切除術
45巻1号(2018);View Description Hide Descriptionわれわれが行っている胸腔鏡下食道切除術における機能温存と,手術侵襲軽減をめざした奇静脈弓温存術式を報告する。適応は胸腔鏡下食道切除術施行例のうち,中・下部胸部食道癌で,T3に達しない症例としている。これまで28 例に行い,全例で奇静脈弓が温存可能で,開胸移行例もなかった。右気管支動脈も27 例で温存可能であった。胸部の手術時間は133.5分(中央値)で,出血量は30 mL(中央値)であった。胸腔鏡下食道切除術は,呼吸機能の温存が可能な低侵襲手術であるが,奇静脈弓・右気管支動脈・胸管を温存で,さらなる機能温存が可能となる。 -
カペシタビンとホルモン剤の長期投与が奏効した局所進行乳癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description局所進行乳癌に対する治療として,アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤を中心とした化学療法が一般的に行われるが,患者によっては経静脈的な化学療法剤の投与が困難な症例も存在する。われわれは,カペシタビンの長期投与が奏効した局所進行乳癌の症例を経験したので報告する。症例は72 歳,女性。15 年前より右乳房腫瘤を自覚していた。増大傾向を認め,当科を受診した。右乳房から腋窩および側胸部にかけ,潰瘍形成を伴う腫瘤を認めた。針生検の結果,乳頭腺管癌(ER+,PgR+,HER2 0,Ki-67 25%)の診断であった。明らかな他臓器転移は認めず,T4cN3aM0,stage ⅢCと診断された。患者が脱毛の副作用を懸念し標準化学療法を希望しなかったため,カペシタビンを選択した。ホルモン剤を併用して投与を行ったところ,腫瘤の縮小および腫瘍マーカーの低下を認めた。治療開始から5 年6か月が経過した現在,腫瘤は縮小を維持し遠隔転移は認めていない。 -
サルベージ手術の視点による胸部食道癌に対する根治的化学放射線療法の意義
45巻1号(2018);View Description Hide Descriptionはじめに:切除可能な病期に対する根治的化学放射線療法(dCRT)後の癌遺残や再発に対する手術をサルベージ手術(S手術)とし,切除不能であった局所進行胸部食道癌がdown stageし切除可能となった場合に行う手術をコンバージョン手術(C手術)とする。目的:胸部食道癌に対するdCRT 後のS 手術とC 手術のアウトカムを検討し,集学的治療としての意義を明らかにする。対象と方法:当院で2012 年4 月〜2016 年12 月までに胸部食道癌に対するdCRT 後の根治目的の手術を施行した27例を対象とした。dCRT 後の遺残23 例,完全寛解後の再燃4 例。うちC 手術は16 例(59%)であった。結果: 非根治切除は5 例(19%)。術後在院死亡2 例(7%)。術後合併症(Clavien-Dindo分類GradeⅡ以上)11 例(41%)。縫合不全4 例,声帯麻痺4 例など。病理組織学的完全寛解症例6 例(22%)。再発例は非根治切除の5 例を除くと7 例。3 年全生存率47%。C 手術のうち12 例(75%)がdown stageにより根治切除を施行し得た。結論: S 手術は,術後在院死亡や合併症を認めるが許容範囲内と考えられる。dCRT後の遺残・再発に対する唯一の根治治療であり,重要な役割を担う。 -
再発転移巣を複数回切除した大腸癌の検討
45巻1号(2018);View Description Hide Description目的:複数回の転移巣切除を施行した大腸癌の治療成績を明らかにすることを目的に検討した。対象・方法:対象は2010 年以降,済生会栗橋病院外科で大腸癌の再発転移巣切除を複数回施行された大腸癌の7 例で,臨床経過について解析した。結果:対象の原発巣切除時の年齢中央値は67(45〜78)歳で,男性4 例,女性3 例,原発部位は盲腸,上行結腸各1 例,S 状結腸,直腸S状部各2 例,上部直腸1 例であった。異時性転移が5 例で原発巣切除時のStageⅠ 1 例,Stage Ⅲa 2例,Stage Ⅲb 2 例,StageⅢ症例には補助化学療法が施行されていた。切除対象部位は肺9 病巣,肝8 病巣,リンパ節,局所,腹膜が各1 病巣であり,切除転移部位数の中央値は3(2〜4)病巣であった。最終転移巣切除からの観察期間中央値17 か月で無再発は5 例で,うち3 例に化学療法が施行された。再発は2 例で,2 例とも切除不能再発で,1例は化学療法後24 か月で原癌死,1 例は化学療法施行中(12 か月)である。7例の原発巣切除からの5 年生存率は75%,最終切除からの2 年生存率は66.7%であり,複数回の切除で比較的良好な予後が得られた。結語: R0切除可能な再発転移巣に対し,複数回の手術を施行した症例について検討した。最終的に切除不能再発となる症例が存在するが,転移巣切除により比較的良好な予後が得られる可能性が示唆される。 -
術前放射線化学療法にて病理学的完全奏効した肺尖部胸壁浸潤癌の1切除例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。近医での胸部単純X 線にて右上肺野に胸部異常陰影を指摘され,当院へ紹介された。胸部CT で右肺尖部に胸壁浸潤を伴う長径3.5 cm の腫瘍を認め,CT ガイド下生検で扁平上皮癌と診断された。肺尖部胸壁浸潤癌,cT3N0M0,cStageⅡB の診断で,術前放射線化学療法(CBDCA+PTX療法を4 コース,放射線治療45 Gy/25 Fr)を同時併用で施行した。効果判定の胸部CT では腫瘍は長径2.3 cm と縮小を認め,部分奏効(縮小率34%)と判定した。右肺上葉切除,胸壁(第1〜3肋骨)合併切除,縦隔リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査ではviable な腫瘍細胞は認められず(Ef3),病理学的完全奏効(pCR)であった。術後10 日,合併症なく退院した。本症例のように術前治療にてpCR を得た症例を集積し,より有効な術前治療開発の必要があると考えられた。 -
24年間で6回の摘出術を施行した後腹膜脂肪肉腫の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description6 回の腫瘍摘出術を施行し,24年間の長期生存を得ている後腹膜原発脂肪肉腫の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は56 歳,女性。1991年に後腹膜脂肪肉腫の診断で初回手術を施行した。病理組織学的に高分化型脂肪肉腫と診断された。その後,初回原発部位近傍に再発を繰り返し認め,2008 年6 月腫瘍摘出術,2011 年5 月腫瘍摘出術と左半結腸切除,2012 年10 月腫瘍摘出術および膵尾部切除と脾臓・副脾・左副腎・左腎摘出,横隔膜部分合併切除術,2014年10 月腫瘍摘出術および横隔膜部分切除と下行結腸・空腸部分切除術を施行した。今回,2016年3 月に再発を認め,10 月に当院で腫瘍摘出術と膵尾部切除術を施行した。初回手術から24 年以上が経過した現在,無再発生存中である。本症例では,初回術後に局所再発を認めたが積極的な再切除が行われたこと,また組織学的に高悪性度とされる脱分化を一度のみしか認めなかったことが長期生存を得られた要因として考えられた。 -
腹腔鏡下切除を施行し得た左側大腸癌イレウスの3 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description腹腔鏡下に原発巣を切除し得た左側大腸癌イレウス3 例を経験したので報告する。症例1 は25 歳,男性。横行結腸癌による腸閉塞に対し経鼻イレウス管を挿入され,減圧が得られた。24 日目に腹腔鏡下結腸部分切除術(横行結腸)が施行された。症例2 は75 歳,女性。S 状結腸癌による腸閉塞に対し,腹腔鏡下横行結腸人工肛門造設術が施行され,減圧が得られた。49日目に人工肛門閉鎖部を切除範囲に含んで腹腔鏡下S 状結腸切除術が施行された。症例3 は48 歳,男性。S状結腸癌による腸閉塞に対し大腸ステントを留置され,減圧が得られた。22 日目に腹腔鏡下S 状結腸切除術が施行された。3 例ともに原発巣切除時には腫瘍の口側腸管が十分に減圧されており,腹腔鏡下に手術を完遂可能であった。oncologic emergency状態を解除し,待機的に根治手術を施行することで,通常どおりの腹腔鏡補助下大腸癌手術が可能であった。 -
早期手術を行った急性胆嚢炎に合併した胆嚢癌症例の検討
45巻1号(2018);View Description Hide Description急性胆嚢炎に胆嚢癌が合併する頻度は約1%程度とされる。急性胆嚢炎に対する早期手術では詳細な術前診断が困難で,術中または術後に胆嚢癌と診断される症例も存在する。2014 年1 月〜2016年12 月までに早期手術を行った39 例の急性胆嚢炎症例のうち胆嚢癌の合併が確認された6 例を対象とし,臨床病理学的因子につき検討した。重症度は中等症5 例,軽症は1 例であった。1 例のみ術前に悪性が疑われ,一期的に肝床切除を施行した。その他はすべて腹腔鏡下に胆嚢摘出術を施行した。病理検査にて深達度は全例でSS以深,ly(+)4 例,v(+)1 例,pn(+)2 例,R1およびR2が各々1 例であった。2 例に追加切除を行い,各々術後2 年4 か月および12 か月無再発生存中である。年齢やPS を考慮し追加切除や化学療法を行わなかった3 例のうち2 例は,術後数か月で原病死となった。急性胆嚢炎に対する早期手術は,胆嚢癌の合併も念頭に置いて慎重に検討すべきである。 -
当院における腹膜炎を伴う胃癌穿孔症例の検討
45巻1号(2018);View Description Hide Description胃癌穿孔は比較的まれな疾患である。当院における腹膜炎を伴う胃癌穿孔症例について臨床学的検討を行った。対象と方法: 2005 年1 月〜2016年12 月までの腹膜炎を伴う胃癌穿孔症例12 例について解析を行った。結果:平均年齢65.8(34〜87)歳であり,男性5 例,女性7 例であった。胃癌の部位はU 1 例,M 6例,L 5 例であった。進行度はStage Ⅱ1 例,StageⅣ 11例であった。術前に胃癌穿孔と診断し得た症例は8 例であった。手術術式は胃切除を施行し得たのは5 例,一期的胃切除手術2 例,二期的胃切除手術は3 例であった。現在まで無再発生存症例は1 例のみである。考察:腹膜炎を伴う胃癌穿孔の治療においては,急性穿孔性腹膜炎手術とともに胃癌の診断および根治性をめざす手術が求められる。全身状態を考慮しながら急性腹症からの救命を最優先し,最小限の侵襲にとどめ,二期的手術とするべきと考える。 -
膵癌術後膵床部再発に対して腹腔動脈・総肝動脈合併再発巣切除を施行した1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例: 患者は53 歳,男性。他院で膵体部癌に対して膵体尾部切除,脾摘術を施行された。1 年後に増大する総肝動脈周囲の軟部陰影を認め,当院紹介受診となった。CT では総肝動脈周囲に16 mm大の造影効果に乏しい腫瘍を認めた。膵癌術後膵床部再発の診断で,膵床部再発巣切除,腹腔動脈・総肝動脈合併切除,門脈合併切除再建を行った。病理学的には神経叢組織内部に高度の神経周囲浸潤を示す腺癌を認めた。総肝動脈の外膜にまで浸潤を認めたが,切除組織断端に癌の遺残は認めなかった。術後経過は良好で,12 病日に退院となった。術後6 か月経過した現在,無再発生存中である。結語:膵癌外科切除後の膵床部再発に対して腹腔動脈・総肝動脈を合併切除することで,安全にR0切除を行った1 例を経験した。 -
切除不能・再発イマチニブ耐性GIST に対するレゴラフェニブ治療の検討
45巻1号(2018);View Description Hide Description切除不能・再発GISTに対する治療は,イマチニブの登場により高い治療効果と予後の改善を認めた。一方で,約2 年で半分に生じるとされる耐性の出現が問題となっている。イマチニブ耐性GISTに対しては,スニチニブに加えて2013 年8月からレゴラフェニブが臨床の現場で使用可能となったが,症例は少なく実臨床での臨床成績については未だ十分には明らかになっていない。われわれは,2013 年8 月〜2016 年4 月までに当院でGIST に対してレゴラフェニブ治療を行った11 例を対象に,有効性と有害事象について検討した。内服期間の中央値は251 日であった。Grade 3 以上の有害事象を9 例(81.8%)で認め,8 例(72.7%)で用量の調整が行われた。無増悪生存期間の中央値は7.4 か月であった。有害事象に対して適切な介入を行うことで長期治療が可能な症例も認めた。 -
S状結腸憩室腹壁穿通により発見されたS 状結腸癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。突然の左下腹部痛,発熱,嘔吐で近医を受診し軽快したため経過観察していたが,左下腹部腫瘤を触知し精査・加療目的で当院紹介となった。腹部CT 検査でS 状結腸穿通,腹腔内膿瘍の診断で保存的加療を行い,軽快し退院した。下部消化管内視鏡検査ではS 状結腸に隆起性病変を認め,S 状結腸癌,cT4b(腹壁),cN1cM0,cStage Ⅲa の診断で手術を施行した。S 状結腸と腹壁の強固な浸潤を認め,S 状結腸切除術[D3郭清,double stapling technique(DST)再建]を施行した。摘出標本では腹壁浸潤部は憩室穿通であり,肛門側にⅠsp型の腫瘍を認めた。病理検査所見は憩室穿通の診断で,腫瘍はtub1,pT1bpN0,pStageⅠであった。術前S 状結腸癌穿通が疑われたが,穿通の原因は憩室炎であった。今回,S状結腸癌の根治手術も同時に行うことができた1 例を経験した。 -
異なる転移形式をとった胃癌結腸転移の2 切除例
45巻1号(2018);View Description Hide Description異なる経路によると考えられる胃癌結腸転移の2 切除例を経験したので報告する。症例1 は55 歳,男性。肝と胆嚢壁内に転移を伴う幽門部胃癌に対し,幽門側胃切除,肝部分切除,胆摘,Roux-en-Y(R-Y)再建を施行した。L,Less,Type3,pT4b(GB),tub2,pN3a(10/20),sP0,CY0,pH1,pM1,Stage Ⅳ,R0。経過観察中,盲腸に腫瘤を生じ,10 か月目で回盲部切除を施行した。病変は直径25 mmの粘膜下腫瘍で組織学的に中〜低分化型の腺癌であり,胃癌の血行性結腸転移と診断した。症例2 は59 歳,男性。体上部胃癌にて胃全摘術,R-Y 再建を施行した。UE,Less,Type 4,tub2〜por2,pT4a,pN2(5/19),cM0,sP0,CY0,Stage ⅢB,R1。1年 10 か月後,横行結腸に粘膜の不整と発赤,壁の肥厚像を認め,生検では印環細胞が得られ,胃癌の結腸転移と診断し横行結腸切除術を施行した。腸管壁全層にびまん性の癌細胞浸潤を認め,胃結腸間膜を介した浸潤による転移が考えられた。胃癌結腸転移はまれであるが,その経路は播種,直接浸潤,血行性,リンパ行性など多様であり,病変の形態も変化に富む。胃癌術後に生じた結腸病変の診断については,これらを念頭に置くべきであると思われた。 -
経肛門式内視鏡手技を併用した直腸癌を伴う潰瘍性大腸炎の手術症例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。19 歳で潰瘍性大腸炎を発症し内科治療を行うも,再発寛解を繰り返していた。定期検査の下部消化管内視鏡にて下部直腸癌を指摘され,外科紹介となった。これまでのステロイド投与にて糖尿病を併発し,身長170.3 cm,体重89.6 kg,BMI 30.89 kg/m2と肥満のため,腹腔鏡手術では肛門付近の剥離困難が予想された。このため経肛門式内視鏡下手術(transanal minimally invasive surgery: TAMIS)の併用を予定した。手術は腹腔鏡で直腸の剥離を腹側から肛門に向け可及的に剥離を行い,TAMIS操作に移る。歯状線より剥離を開始し,肛門側断端を閉鎖の後GelPOINTを装着,TAMISによるdown-to-up total mesorectal excision(TME)の手術手技を応用して先の剥離層と連続させた。腹部に作製した小開腹創より大腸を摘出し,回腸嚢を作製,経肛門操作にて手縫い吻合を行い,一時的人工肛門を作製し手術終了とした。TAMIS-TMEは,その独特の解剖理解・単孔手術手技の習熟などいくつかの課題が残されているが,本症例のようにBMIの高い肥満症例ではTAMIS-TMEのよい適応と思われた。 -
大腸癌の脳転移に対し複数回の腫瘍摘出術を施行した1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。2012 年3 月にStage Ⅲaの直腸癌に対しHartmann手術が施行された。2013 年7 月,11 月に肺転移を認め,いずれも肺部分切除術を施行された。2016 年1 月にろれつ困難を認め,精査で孤立性脳腫瘍を指摘されたため2 月に開頭腫瘍摘出術を施行した。3 月,7 月に後頭葉の新たな病変に対しガンマナイフ療法を施行した。7 月に嘔気・頭痛・右同名性半盲を認め,精査したところ新たな脳腫瘍を指摘され,開頭腫瘍摘出術を施行した。9 月に構語障害を発症し,孤立性脳腫瘍を認めたため開頭腫瘍摘出術を施行した。3 回の脳腫瘍の病理診断では,いずれも直腸癌の脳転移であった。自験例では3 回の腫瘍摘出,2 回の放射線療法を行ったが,脳転移診断時より16 か月の生存が得られており,QOLも比較的保たれていた。大腸癌原発の転移性脳腫瘍に対し複数回の手術を行うことは,予後およびQOL を改善し得る可能性が示唆された。 -
大腸癌術後再発に対するS-1併用の化学放射線療法
45巻1号(2018);View Description Hide Description背景:再発大腸癌に対する治療は化学療法が主体となるが,局所治療としての放射線治療の有用性も多く報告されている。大腸癌術後の再発症例に対して,S-1併用の化学放射線療法を施行したので治療成績を報告する。対象・方法: S-1 併用の化学放射線療法を4 例に行った。S-1は2 週間投与1 週間休薬で投与した。2 例にX線照射,2 例に陽子線照射が行われた。結果: 陽子線照射を行った2 例の無増悪期間は31 か月と36 か月であった。一方,X線照射を行った2 例の無増悪期間は24 か月と21 か月であった。考察: S-1は,dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)阻害による高い抗腫瘍効果が得られるだけでなく癌の放射線感受性を上昇させることが知られており,放射線照射に併用する抗癌剤としては理想的と考えられる。本報告の4 例の局所制御が良好なことから,S-1併用の化学放射線療法は有用な集学的治療であると考えられる。 -
初回生検時に吸引式乳腺組織生検(VAB)を行う有用性
45巻1号(2018);View Description Hide Description近年の画像診断の発達に伴いductal carcinoma in situ(DCIS)などの微小病変が発見される機会が増加している。当院では初回生検時に吸引式乳腺組織生検(vacuum-assisted biopsy: VAB)を使用しており,その有用性を検討した。2016年4〜12月の間にVABにより生検を行った32 例を対象とした。生検結果の内訳は,乳癌10 例,境界病変1 例,良性病変が21例であった。平均腫瘍径は乳癌症例1.30 cm,良性症例1.08 cm と差は認められなかった。微細石灰化は乳癌症例の6 例(60%)に認めたが,良性症例は1 例(4%)とほとんど認めなかった。乳癌症例10 例と良性症例1 例に対して手術が施行され,病理結果の正診確定率は浸潤性乳管癌100%(4/4),DCIS 83%(5/6),良性病変が100%(1/1)と良好であった。腫瘍径の小さな腫瘍であっても,VABによる初回生検は正確な質的診断に寄与し,有用な生検方法であることが示唆された。 -
切除し得た下大静脈に浸潤する十二指腸原発平滑筋肉腫の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は40 歳台,女性。受診1 か月前から腰痛と腹痛が出現し,整体で腹部腫瘤を指摘され当院受診となった。腹部造影CT では,巨大な多発子宮筋腫を認めた。十二指腸下降脚背側から大動脈bifurcationの高さまで,下大静脈の腹側に造影効果を伴う長径10 cm 大の腫瘤を認めた。リンパ節転移や明らかな遠隔転移を疑う所見は認めなかった。腹部MRI で同腫瘤は,拡散強調像で腫瘍下縁が高信号域を示し,悪性腫瘍が疑われた。上部消化管内視鏡ではVater乳頭の肛門側に2 型の隆起性病変を認め,生検でhigh grade sarcomaと診断された。腹式単純子宮全摘術,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行し,下大静脈合併切除することで根治手術できた。病理組織診断では,CD34(−),c-kit(−),desmin(+),a-SMA(+)であり,十二指腸原発平滑筋肉腫と診断された。切除し得た下大静脈に浸潤する十二指腸原発平滑筋肉腫の1 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 -
繰り返し手術を行い長期生存し得た小腸GIST 穿孔の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は60 歳,男性。2011 年3 月小腸腫瘍穿孔・汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した。小腸部分切除を行い,KIT陽性でgastrointestinal stromal tumor(GIST)の診断となった。腫瘍径6 cm,核分裂像4/50HPFで中リスクであった。イマチニブ内服を開始したが,浮腫のため5 か月で内服終了となった。2013 年2 月腹部造影CT 検査で腹腔内に20 cm 大の腫瘤を認めた。再手術を行い,前回手術の小腸吻合部より腫瘍が発生しており,小腸を部分切除し腫瘍を摘出した。GIST再発の診断であった。術後イマチニブは内服せずに経過観察した。2014 年3 月腹部造影CT 検査で4 cm 大の腹腔内腫瘍と2 cm大の腹壁腫瘍を認めた。再々手術を行い,S状結腸間膜,小腸間膜,臍下部腹壁,後腹膜,ダグラス窩に播種結節を認め,すべて切除した。GIST再々発の診断であった。最初の手術から6 年5か月経過しているが,再々手術の後再発の徴候はない。まれな小腸GIST穿孔後の術後再発に対し繰り返し手術を行うことにより,長期生存を得ている症例を経験したので報告する。 -
転移性痔瘻癌の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。2009 年8 月,直腸癌肝肺転移に対して直腸切除術(D2郭清)を施行した。病理組織学的所見はRa,2型,70×80 mm,tub1>tub2,int,pSI(peritoneum),INF b,ly1,v1,pN1(2/13),pPM0,pDM0,M1a(H1,PUL1),fStageⅣであった。術後化学療法を施行したところ,胸部CT 検査上,肺転移は消失したたああああああめ,二度にわたる肝切除を施行し根治切除が得られた。2013年10 月に肛門痛が出現し,肛門5 時方向に疼痛を伴う約2 cm 大の腫瘍を認めた。生検にて直腸癌と類似の高分化型管状腺癌を認め,直腸癌の痔瘻転移と診断した。手術を勧めたが希望せず,化学放射線療法(S-1 120 mg/day+RT 60 Gy/30 Fr)を施行し,腫瘍は著明に縮小した。2015 年 12 月に腫瘍が再増大し,腹会陰式直腸切断術を施行した。現在,術後18 か月無再発生存中である。 -
化学放射線療法後に切除したUR-LA(大動脈)膵尾部癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。体重減少と心窩部違和感を主訴に当院を紹介された。CT では膵尾部に径12 cm 大の不整形,低濃度腫瘤が認められ,左腎に広範に浸潤していた。腹腔動脈および上腸間膜動脈浸潤はなかったが,腫瘍浸潤は大動脈前面〜左側壁に及んでいた。また胃,脾臓に近接していた。EUS-FNAで腺癌が検出され,大動脈浸潤を伴うUR-LA 膵尾部癌と診断。まずS-1+gemcitabine(GEM)+三次元原体照射50.4 Gy による化学放射線療法を施行した。しかし効果に乏しく,GEM+nab-PTX を2 コース追加することとした。しかし,1 コース終了後に腫瘍の胃穿破を来したため,内視鏡下にdebridementを行った。debridement 26日後に脾合併膵体尾部切除,胃全摘,左腎・副腎切除,結腸部分切除を施行した。大動脈浸潤部は可及的に切除した。最終診断はpT3N0M0,pStageⅡAであった。術後59日目からGEM+nab-PTX投与を再開したが,71日目に突然多発脳梗塞を発症し,休薬を余儀なくされた。術後5 か月,癌性腹膜炎にて死亡した。 -
Stage Ⅳ乳癌で抗HER2 療法奏効後,原発巣切除にて長期生存したMetaplastic Carcinoma の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は58 歳,閉経後女性。2009年2 月初診,左乳房腫瘤を認め,針生検により浸潤性乳管癌,ER(−),PgR(−),HER2 score(3+)と診断した。FDG-PET/CT にて肺,左鎖骨上窩,腋窩リンパ節転移を認め,T3N3M1,Stage Ⅳであった。trastuzumabとvinorelbineにより転移部位はCR となるも原発巣はPD となり,2011 年3 月に局所制御目的で乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術を施行した。病理診断結果にて組織型は肉腫様の形態を主成分とするmetaplastic carcinoma であり,その周辺に非浸潤性乳管癌(DCIS)が広がっていた。浸潤性乳管癌の成分は認められなかった。ER(−),PgR(−),HER2 score(0)であり,HER2 は陰転化していた。術後6 年間,全身薬物療法を行わず,無再発生存中である。本症例は腫瘍のheterogeneity があり,原発巣の一部と転移巣はHER2 陽性の浸潤性乳管癌,原発巣の一部はトリプルネガティブのmetaplastic carcinomaであった可能性が示唆される。結果として,原発巣切除により抗HER2療法を中止することができ,QOL の改善,長期生存につながったと考えられる。 -
術前診断が困難であった胃癌を伴った肺癌の大動脈周囲リンパ節転移の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。貧血精査目的で当院を受診した。上部内視鏡検査で胃癌と診断された。CT 検査で小弯リンパ節,大動脈周囲リンパ節の腫大,右肺下葉に20 mm大の結節影を認めた。PET-CT検査では胃体上部後壁,大動脈周囲リンパ節,右肺下葉の結節影にFDG の異常集積を認めた。気管支鏡生検で肺腺癌と診断された。以上より胃癌,cT4a,cN2,cM1(LYM No. 16a2),cStage Ⅳ,肺癌,cT2a,cN0,cM0,cStage ⅠB と診断した。胃出血を伴うため胃癌の手術を先行し,二期的に肺癌の手術の方針とした。手術は胃全摘,脾臓摘出,胆嚢摘出を施行した後,No. 16a2 リンパ節を郭清した。病理組織学的検査でNo. 16a2リンパ節は免疫染色TTF-1,Napsin Aに濃染され,肺癌由来と診断した。最終診断は胃癌,pT4a,pN0,cM0,fStage ⅡA,肺癌,cT2a,cN0,pM1(LYM No. 16a2),fStage Ⅳであった。今回のような肺癌と胃癌の重複癌に大動脈周囲リンパ節転移を伴った症例では,先にNo. 16 リンパ節郭清を行って術中迅速病理診断を行うことで,脾臓摘出,胆嚢摘出を回避し侵襲を低減できる可能性がある。 -
切除不能大腸癌における腹腔鏡下人工肛門造設術の有用性
45巻1号(2018);View Description Hide Description腹腔鏡下人工肛門造設術は腹腔内を広く観察することができ,必要に応じ結腸の授動や癒着剥離も行うことが可能である。当院では切除不能進行大腸癌に対して2015 年6 月より腹腔鏡下人工肛門造設術を導入し,2017 年5 月までに7例を経験した。回腸人工肛門造設においては人工肛門造設予定部に小切開を置き,単孔式手術による人工肛門造設を行っている。結腸人工肛門造設の際には臍部に小切開を置き必要に応じて結腸の授動,癒着剥離を行った後,人工肛門造設予定部に最小限の切開を置き,人工肛門を造設している。手術時間は34〜127分,出血はいずれも少量であった。腹腔鏡下人工肛門造設術は安全に施行可能であり,癌の病期診断や合併症の観点からも有用な術式であると考えられる。 -
ロボット支援下腹腔鏡下低位前方切除術を施行した多脾症候群を伴う直腸癌の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description多脾症候群は多脾を伴い多彩な内臓位置異常を特徴とする先天性疾患である。症例は70 歳台,男性。便潜血陽性を指摘され精査の結果,直腸癌と診断された。下部消化管造影検査で上部直腸に1 型腫瘍を認め,結腸は左側に偏移しnon-rotation型腸回転異常の所見を呈していた。腹部造影CT 検査で多脾,十二指腸前門脈,膵尾部欠損,左上大静脈遺残を認めた。以上より多脾症候群を伴う直腸癌と診断し,ロボット支援下腹腔鏡下低位前方切除術を行った。手術所見は結腸全体が左側に偏位し,結腸どうしの広範な癒着および盲腸から上行結腸の大動脈前面への癒着を認めたため,癒着剥離を行った。下腸間膜動脈の走行および骨盤内に解剖異常を認めず,中枢側リンパ節郭清を伴う直腸切除術が施行可能であった。多脾症候群を伴う直腸癌に対し,腹腔鏡下切除術を行った報告は自験例が1 例目であるため報告する。 -
右肝動脈再建を施行した亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。当院の健診で腫瘍マーカー高値を指摘された。消化器内科で精査の結果,膵頭部癌と診断され,手術加療目的に当科紹介となった。造影CT 検査では,右肝動脈(RHA)は上腸間膜動脈(SMA)より分岐しており,腫瘍の近傍を走行していたため腫瘍浸潤が疑われた。膵頭部癌(cT2N0M0,cStageⅡ)に対して,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD-ⅡA-1)を施行した。術前診断どおりRHA はSMAより分岐し腫瘍内を通過しており,RHAを合併切除して標本を摘出した。RHAは胃十二指腸動脈断端と端々吻合で再建し,再建後は狭窄を認めず,拍動も触知可能であった。術後の造影CT 検査でも再建したRHA の血流が保たれていることを確認した。術後35 日目に退院となり,現在術後12 か月で無再発生存中である。今回われわれは,RHA再建を施行した膵頭十二指腸切除術の1 例を経験した。 -
積極的な化学療法にて切除可能となった多発肺転移および多発肝転移を伴う直腸癌の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description患者は47 歳,男性。下血を主訴に近医を受診し,精査にて直腸Rbに直腸癌を認め,前立腺への浸潤,肺および肝臓に多発転移を認めた。cT4b(前立腺),cN1,cM1b(H2,PUL2),cStage Ⅳの診断にて横行結腸に双孔式人工肛門造設後にmFOLFOX6+bevacizumabを1 コース,FOLFOXIRI+bevacizumabを7 コース行った。原発巣の治療効果判定はPR,両肺の結節は消失,肝転移巣も限局化し縮小した。化学療法開始後約6 か月後にycT4b(前立腺),ycN1,ycM1a(H2),ycStage Ⅳの診断にて腹腔鏡下骨盤内臓全摘術,回腸導管造設術を施行した。術後約3 か月後に腹腔鏡下肝左葉切除,S1 およびS5/S8部分切除を行い,初回手術から 8 か月間cancer-freeの状態である。 -
Lynch症候群に発生した上行結腸癌に術後XELOX 補助化学療法を施行した1例
45巻1号(2018);View Description Hide DescriptionLynch症候群はミスマッチ修復遺伝子変異を原因とする遺伝性疾患である。症例は33 歳,男性。上行結腸癌の診断にて,腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した。術後XELOX 補助化学療法を施行し,術後2 年7か月無再発生存中である。Lynch症候群の大腸癌に対する術後補助化学療法として5-FU 単独では効果が少ないとされてきたが,MOSAIC 試験ではオキサリプラチンの上乗せ効果が示された。オキサリプラチンベースの術後補助化学療法はLynch 症候群の大腸癌に対する治療選択肢の一つとなり得る。 -
多発性内分泌腫瘍症2型に発生した直腸癌に対し腹腔鏡下切除術を施行した1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。糖尿病,末期腎不全(透析中),多発性内分泌腫瘍症2 型(MEN2)にて加療中であった。検診で便潜血陽性を指摘されたため当院を紹介受診した。下部内視鏡検査で直腸癌を認めた。CT で周囲リンパ節や遠隔転移を認めず,腹腔鏡補助下低位前方切除術(D2郭清)を行った。病理検査で腫瘍はadenocarcinomaで一部漿膜下層への浸潤を認めたが,リンパ節転移を認めずpT3,pN0,pM0,pStage Ⅱと診断した。MEN2はほぼ全例でRET 遺伝子の変異を認めるといわれている。RET 遺伝子に変異があるとEGFR 阻害薬に耐性を示すといわれており,変異陽性の甲状腺癌ではRET キナーゼ阻害薬が用いられている。肺癌においても治験が進んでいる。本症例でも再発を来した際は従来の遺伝子検査のみでなく,RET遺伝子検査も行い抗癌剤の選択を行う価値があると考えられる。 -
腸閉塞で発症し予後不良であった横行結腸内分泌細胞癌の1 手術例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。腹痛および腹部膨満感を主訴に当院を受診した。腹部造影CT で横行結腸に造影効果を伴う全周性壁肥厚と口側腸管の拡張を認め,肝臓内には多発する低吸収域を認めた。多発肝転移を伴う閉塞性大腸癌の診断で,同日に内視鏡的大腸ステント留置術を行った。ステント留置9 日目に開腹結腸左半切除術を行った。切除標本の病理組織学的所見では免疫染色で synaptophysin,chromogranin A,CD56/NCAM がいずれも陽性であり,大腸内分泌細胞癌と診断し,pT3(SS),pN2,pM1a,fStage Ⅳであった。術後リハビリ病院へ転院となった。その後,全身衰弱のため再入院し,CT で多発肝転移の著明な増大を認め,術後52 日目に死亡した。消化管原発の神経内分泌腫瘍は,低異型度・低悪性度群のカルチノイド腫瘍と高異型度・高悪性度群の内分泌細胞癌に大別される。大腸内分泌細胞癌の頻度は大腸癌の0.03%と非常にまれな疾患である。今回われわれは,急激な経過をたどった多発肝転移を伴う横行結腸内分泌細胞癌の1 手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
全身化学療法に耐性が生じた大腸癌多発肝転移に対して肝動脈化学療法が奏効した1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は62 歳,男性。S 状結腸癌切除後,補助療法中に肝転移再発を認められた。補助療法はSOX を行っていたが,肝転移再発出現後はbevacizumab+SOX に変更して,いったんはCR が得られていた。しかし再燃したためbevacizumab+FOLFIRI による治療に変更した。経過中に心筋梗塞の発症を認め,FOLFIRI による治療を再開したが腫瘍は増大した。肝外転移がなかったため,CDDP+5-FU による肝動脈化学療法を4 コース施行した。有害事象なく肝転移は著明に縮小したため肝切除の施行が可能となった。分子標的治療薬を含めた全身化学療法に耐性が生じた場合も肝動脈化学療法は有用な治療法であることが示唆された。 -
術前化学療法にて病理学的完全奏効後に脳転移を来したトリプルネガティブ乳癌の1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description症例は45 歳,女性。右乳房AC領域,トリプルネガティブ乳癌(TNBC),T2N1M0,StageⅡB の診断に対し,術前化学療法として5-FU/epirubicin/cyclophosphamide(FEC)療法とドセタキセル療法を施行後,乳房切除術と腋窩郭清術を施行した。切除標本の病理学的検索では乳管内病変・リンパ節も含め腫瘍細胞を認めず,病理学的完全奏効(pCR)と判定した。術後補助療法は行わず経過観察中,術後7 か月目に右前頭葉に広範な浮腫を伴う22 mm大の転移巣を認め,腫瘍摘出術を施行した。切除標本の病理組織検査で TNBC の転移と診断された。術後,右前頭葉腫瘍床へ 50 Gy/25 回の放射線療法を行った。脳転移術後6 年9か月が経過した現在,新出病変を認めず無再発経過観察中である。術前化学療法でpCR が得られた場合でも,術後早期に脳転移を来す可能性を念頭に置く必要がある。局所制御可能な脳転移巣に対して手術や放射線療法を行うことで,長期生存が期待できる症例も存在する。 -
右心房内腫瘍栓を伴った両葉多発肝細胞癌に対して集学的治療を行った1例
45巻1号(2018);View Description Hide Description心房内腫瘍栓を伴った肝細胞癌(HCC)に対しては,oncologic emergencyとしての速やかな治療が必要である。HCCに対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)およびラジオ波焼灼療法(RFA)による反復治療後,当院を紹介され,肺転移,肝内多発転移,右心房内腫瘍塞栓を認め,切除と肝動注化学療法を施行して肝内病変制御が可能であった1 例を報告する。紹介時,心房内腫瘍栓の制御が予後に直結するため,まず肝拡大左葉切除,右心房内腫瘍栓摘出,門脈内腫瘍栓摘出術を施行した。術後は残肝病変に対して肝動注化学療法を開始し,肝内病変は縮小した。一方で,肺転移巣が増大したためsorafenibを開始したが,脳転移を合併し初回治療から3 年で死亡した。多発肝内外病変と右心房内腫瘍栓を伴うHCC に対する集学的治療の考察を加えて報告する。 -
集学的治療によりpCR を得たStage Ⅳ乳癌の1 例
45巻1号(2018);View Description Hide Description遠隔転移を有する乳癌に対して化学療法後に原発巣切除を行った症例を経験した。症例は37 歳,女性。右乳房腫瘤を触知したため当科を受診した。乳房超音波検査では右AC 領域に辺縁不整,境界不明瞭な低エコー腫瘤として描出された。また,同側腋窩リンパ節に転移と思われる腫大を認めた。針生検術を施行したところ,浸潤性乳管癌,ER 陰性,PgR 陰性,HER2 陽性,Ki-67 40%と診断された。全身検索で肝臓に転移を認めた。T2N1M1,Stage Ⅳの診断で,DOC+HER+PER 療法(docetaxel 75 mg/m 2,trastuzumab 6 mg/kg,pertuzumab 450 mg/body)を16 コース,EC 療法(epirubicin 90 mg/m2,cyclophosphamide 600 mg/m2)を4 コース施行したところ肝転移は消失し,原発巣もcCR となったため胸筋温存乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術(Level Ⅲ)を施行した。病理組織診断ではpCR と診断された。術後経過は良好であり,tamoxifenの投与を行いながら経過を観察している。術後3 年目の現在,再発・転移を認めていない。
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