癌と化学療法
Volume 45, Issue 4, 2018
Volumes & issues:
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投稿規定
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総説
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遺伝性腫瘍の分子標的治療
45巻4号(2018);View Description Hide Descriptionいうまでもなく様々な分子標的薬の開発は,がん薬物療法の治療成績における飛躍的な向上をもたらした。近年,遺伝性腫瘍の原因遺伝子に関連する分子標的薬が登場し,遺伝性腫瘍および類似の分子生物学的特徴を有する散発性癌に対して特異的に有効な治療が確立しつつある。それらの分子標的治療においては,遺伝学的検査により遺伝性腫瘍の診断を行うことが治療感受性を予測するためのバイオマーカーとしての意義をもつことを理解する必要がある。本稿では,リンチ症候群と抗PD-1 抗体,遺伝性乳癌卵巣癌症候群とPARP 阻害薬,多発性内分泌腫瘍症2 型とマルチキナーゼ阻害薬を取り上げ,遺伝性腫瘍の関連する分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害薬に関して概説する。
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特集
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- ゲノム医療とゲノム創薬におけるビックデータの活用
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人工知能を用いた創薬(AI 創薬)
45巻4号(2018);View Description Hide Description近年の解析技術革新によるデータ増加に伴い,医薬領域における人工知能技術の適用は不可欠である。特に,ゲノム情報に基づく医療行為および新薬開発を行う「ゲノム医療」・「ゲノム創薬」では人工知能技術の実用化が,近々の課題となっている。われわれの研究室では,臨床ゲノム解析で得られた遺伝子変異と付随する臨床情報を集約するデータベースおよび人工知能による臨床的意義付けのサポートシステムを開発している。さらにゲノム創薬における新規治療標的の創出をめざし,スーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションによる変異型蛋白質と薬剤との結合親和性予測システムの開発にも取り組んでいる。また,薬剤候補化合物のスクリーニングにおいても,ビッグデータと人工知能技術を用いた仮想化合物ライブラリの作成,そして深層学習による結合予測を行っている。本稿ではこれらの取り組みについて紹介する。 -
ヒトゲノム情報と創薬
45巻4号(2018);View Description Hide Descriptionヒトゲノム情報に基づく創薬として,いわゆる「ゲノム創薬」は重要性を増しており,ゲノム情報や臨床情報などの医療ビッグデータの活用が必要不可欠である。本稿では,ゲノム情報を利用した創薬,いわゆる「ゲノム創薬」,ゲノム創薬を促進するためのゲノム情報・臨床情報を集積する研究開発基盤整備,なかでもがんゲノム情報・臨床情報を集積する国内外の動向,健常人のゲノム情報,健康情報などを集積する東北メディカル・メガバンク計画,ゲノム情報の共有の新たな動向について解説する。 -
がんゲノム医療の経験と展望
45巻4号(2018);View Description Hide Description本邦でも平成30 年度には遺伝子パネル検査が先進医療B として,がんゲノム医療中核拠点病院を中心に実施される予定であり,がんゲノム医療の臨床実装が急ピッチで進んでいる。2015 年にバイオバンクを設立するとともに,がんゲノム医療の先駆けとなる遺伝子パネル検査を「抗がん剤適応遺伝子検査外来」として導入した岡山大学の取り組みを紹介しつつ,本邦におけるがんゲノム医療について概説する。 -
肉腫ゲノム情報解析の最前線
45巻4号(2018);View Description Hide Description軟部肉腫は希少がんの代表で,有効な薬物治療に乏しい。われわれは三田病院肉腫センターを中心に2017 年より転移再発肉腫の全エクソンゲノム解析を本格的に開始した。日・独・米の研究グループによる軟部肉腫の全エクソンゲノム解析の結果,少数の体細胞変異と染色体単位での大規模な遺伝子コピー数の変化が明らかになり,ドライバー変異やパッセンジャー変異の蓄積によって構成される肺がんや大腸がんなどのゲノム構成とは随分異なっていることがわかった。肉腫患者は健常人に比較して,がん関連遺伝子の有害なgermline バリアントを多くもつことも報告されている。これらの知見を踏まえて,肉腫ゲノム医療に向けての今後の展望と課題についても述べる。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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原著
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さらなる生活の質改善をめざした即効性オピオイドと短時間作用型オピオイドを組み合わせた突出痛治療
45巻4号(2018);View Description Hide Description突出痛コントロールは癌患者の生活の質(quality of life: QOL)に大きく影響する。従来のレスキュー製剤である短時間作用型オピオイド(short-acting opioid: SAO)では効果発現まで時間を要するため,突出痛への疼痛緩和効果は不十分であった。一方,即効性オピイド(rapid-onset opioid: ROO)は効果発現がSAO と比べて早く,突出痛コントロールへの期待が高かった。しかし1 日の使用回数に制限があり,低用量から開始し鎮痛効果が得られ,有害事象が許容できる用量まで増量するタイトレーションが煩雑であることから普及していないのが現状である。SAOおよびROOの薬剤特性を生かして突出痛のタイプごとに使い分けることで,突出痛のコントロールが向上する可能性が期待されるので報告する。
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症例
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胆嚢神経内分泌癌に対し手術を施行したが早期に再発を認めた1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は55 歳,女性。検診にて胆嚢に10×8 mmの隆起性病変を指摘され,当院を受診した。悪性疾患の可能性を否定できず慎重な検討の末,腹腔鏡下に胆嚢の摘出生検手術を施行した。病理学的検索を行ったところ神経内分泌癌であった。追加手術として開腹肝外胆管切除術,胆嚢床切除術,肝門部リンパ節郭清術を施行するも術後早期に腹腔動脈周囲リンパ節に再発を認め,シスプラチンにイリノテカンを加えたレジメンで化学療法を開始した。術後18 か月を経過した現在も化学療法を継続中である。胆嚢原発の神経内分泌癌はまれな疾患であり,予後不良として知られている。治療法は疾患そのものの希少性もあり,未だ一定の見解が得られていない。今回われわれは,胆嚢神経内分泌癌に対し手術を施行したものの早期に再発を来した1 例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する。 -
EUS-FNABにて術前診断を得た粘膜下腫瘍様の形態を示した直腸粘液癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。排便時出血を自覚し,大腸内視鏡検査で直腸S 状部に約4 cm の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認め,EUS-FNABを施行し粘液癌と診断された。直腸癌RS,cT4a,cN0,cM0,cStageⅡの診断で低位前方切除術を施行した。病理組織診断では高分化型粘液癌であり,固有筋層は腫瘍により断裂し,線維性被膜を伴って壁外へ突出する粘膜下腫瘍様の発育形態を示していた。粘膜下腫瘍様の大腸粘液癌は本邦で15 例の報告があり,術前に内視鏡的生検にて粘液癌と診断し根治切除を行い得た症例は稀少である。 -
泌尿器科在宅医療を導入しアキシチニブを継続し得た進行性腎がんの1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は56 歳,男性。1999年,左腎がんに対して根治的左腎摘除術を施行し,papillary RCC,G2,INF b,pT3,V1であった。2008年より多発肺転移に対してソラフェニブを開始した。2011 年にprogressive disease(PD)となりスニチニブに変更,2014 年に PD となりアキシチニブ 10 mg/日に変更した。2015 年よりがん疼痛と下肢筋力低下に伴い通院が困難となり,在宅医療を導入した。がん疼痛に対してはアセトアミノフェン 4,000 mg/日とフェンタニルテープ 1 mg でコントロール良好であった。アキシチニブ投与中の有害事象としては,CTCAE grade 2 の高血圧を認め,バルサルタン80 mgを開始した。また grade 2 の下痢を認め,アキシチニブ 6 mg/日への減量と整腸剤を投与し改善傾向を認め,アキシチニブを最期まで継続し得た。本症例において泌尿器科在宅医療の導入により,血管新生阻害薬の継続と緩和ケアとの両立が可能であった。超高齢社会における在宅医療に親和性の高い泌尿器科医が在宅医療の現場にでていくことで,新たな課題設定ならびに課題解決に取り組める可能性があると考えられた。 -
減量したBleomycin,Cisplatin,Etoposide併用化学療法(Reduced BEP 療法)が有効であった絨毛癌症候群のリスクを有する原発不明低分化癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。両側女性化乳房,左肩関節痛を主訴に前医を受診した。胸部X 線上両肺に多発腫瘤影を指摘され,精査目的で当科に紹介となった。各種画像検査,血清総hCG の上昇,頸部リンパ節生検の結果から,絨毛癌成分を含む原発不明低分化癌の多発肺・リンパ節転移,脳転移と診断した。肺転移巣からの出血による呼吸不全(絨毛癌症候群)のリスクが高いと予想されたため,減量したbleomycin,cisplatin,etoposide併用化学療法(BEP療法)により治療を開始した。同療法により血清総hCG の低下,画像上奏効が得られた。
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特別寄稿
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切除不能進行大腸癌に対してBevacizumab+TAS-102療法を行った1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。嘔気,嘔吐にて当院を受診し,精査にて直腸癌による腸閉塞,多発肝転移と診断した。人工肛門造設術後に五次治療としてbevacizumab(Bmab)+TAS-102 療法を行った。3 か月後のCT 検査では13%の腫瘍縮小効果を認めた。Bmab+TAS-102 療法中のGrade 3 以上の有害事象は好中球減少のみであった。6 か月後のCT 検査では肝転移の増大を認めたが,癌化学療法開始から40 か月生存中である。Bmab+TAS-102 療法は標準治療抵抗性となった切除不能進行大腸癌に対する治療法として有効な選択肢となり得る。 -
虫垂炎の術前診断で術中に虫垂癌を疑い単孔式腹腔鏡下回盲部切除術を施行した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。右下腹部痛で近医を受診し,虫垂炎を疑われ当院紹介となった。腹部造影CT 検査で膿瘍を伴う虫垂炎の診断で同日緊急手術を施行した。術中所見では白色調の虫垂と回盲部の膿瘍形成を認めたため,虫垂癌も念頭に置き,単孔式腹腔鏡下回盲部切除術+D2 リンパ節郭清術を施行した。術後病理結果は中分化型腺癌で,病期はfStageⅡであった。術後経過は良好で術後第11 病日に退院となった。術後補助化学療法を施行し,術後7 か月目の現在まで無再発生存中である。膿瘍を伴う虫垂炎の術前診断で術中に虫垂癌を疑い,単孔式腹腔鏡下にて回盲部切除術を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。 -
乳房温存手術が可能であった若年者同時性・同側性多発乳癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description若年者同時性・同側性多発乳癌に対し乳房温存手術を施行した症例を経験した。症例は35 歳,女性。マンモグラフィ検査では右UO 領域にspiculation を伴う腫瘤陰影を認めた。超音波検査では右乳房C 領域に直径23 mm と12 mm の形状不整・境界不明瞭な腫瘍を2 個認めた。二つの腫瘍の連続性は明らかでなかった。2 か所の針生検の結果,両方ともに浸潤性乳管癌と診断され,T2N0M0=StageⅡAの術前診断で,乳房温存手術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断では,直径21 mmの腫瘍は浸潤性乳管癌(硬癌),ER 陽性,PgR 陽性,HER2陰性,Ki-67 30%,直径15 mmの腫瘍は浸潤性乳管癌(硬癌),ER 陽性,PgR 陽性,HER2 陰性,Ki-67 30%と診断された。両腫瘍間には病理学的に連続性は認めず,切除断端は陰性であった。LH-RH agonistと2 年間,tamoxifenを5 年間の予定で投与している。術後4 年目の現在,無再発生存中である。 -
胃癌術後肝転移再発に対してS-1+CDDP およびS-1療法が奏効した1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。胃前庭部の2 型胃癌に対して開腹幽門側胃切除術,D2 リンパ節郭清を施行した。術後1 年でCEA の上昇が出現,腹部造影CT にて肝S8 に大きさ40 mm の腫瘤を認めた。胃癌術後肝転移再発と診断した。S-1+CDDP 療法を5 コース施行し縮小傾向にあったため,その後S-1 単剤にて治療を継続とした。再発後2 年でCEA は正常,CT ではほぼ瘢痕化となった。再発後4 年までS-1を25 コース施行した。S-1 を一度中止という方針となり,本人も同意したため経過観察することとした。胃癌術後8 年にて左肺下葉に10 mm大の結節影を認め,切除を行うも原発性肺腺癌と診断された。胃癌術後11 年8 か月で肺小細胞癌にて死亡した。今回,胃癌術後肝転移再発に対してS-1+CDDP およびS-1 療法が奏効した1 例を経験したので,文献的考察を加え報告する。 -
小腸癌の腹壁再発に対して化学療法施行後に大腿筋膜による腹壁修復術を併用し切除し得た1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description背景: 小腸癌は比較的まれな腫瘍で,治療方針は定まっていない。大腸人工肛門近傍の再発に対して化学療法後に大腿筋膜パッチを併用し,切除し得た小腸癌の1 例を経験したので報告する。症例:患者は68 歳,女性。既往歴: 2008 年,直腸癌に対して前医でハルトマン手術を施行された。現病歴: 2015 年2 月に小腸癌の診断にて小腸部分切除を受けた。5 か月後,大腸人工肛門近傍に腹壁再発し化学療法(mFOLFOX6+bevacizumab)を施行した。4 か月後,再発部位の縮小効果が得られたため手術目的に当院紹介となった。入院時所見:腹部CT,PET-CTで結腸人工肛門周囲に石灰化を伴う腫瘤を認め,FDGの集積を認めた。手術所見:腹壁腫瘍を人工肛門と合併切除した。腹壁欠損部分は左大腿部より筋膜を採取し,筋膜修復した。考察: 今回の症例は化学療法で縮小を得たことから,腹壁の欠損部を修復することで切除が可能であった。結語:小腸癌再発に対し化学療法後,大腿筋膜パッチを併用し切除可能であった症例を経験したので報告した。 -
放射線療法併用肝動注化学療法が奏効しConversion Surgeryし得た局所進行肝内胆管癌の1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。肝機能異常を認め,腹部造影CT で肝S4,S8 を主座とする99 mm大の乏血性腫瘍を認め,肝内胆管癌の診断となった。左右のグリソン鞘に浸潤を認め,根治切除不能と判断された。放射線療法併用肝動注化学療法を施行したところ,PR 相当の腫瘍縮小を認め腫瘍マーカー陰性化も認めたため,手術適応に関して当科に紹介された。左グリソン鞘との距離を認め,門脈塞栓術後に肝右三区域切除術を施行した。病理結果は肝内胆管癌,pT3N0M0,pStage Ⅲであった。腫瘍断端が露出していたため,術後7 週目より術後補助化学療法としてgemcitabine を静注で1 年間投与した。術後1年5 か月経過し,無再発生存中である。局所過伸展による切除不能肝内胆管癌に対して,術前放射線療法併用肝動注化学療法が有効な手段となり得ると考えられた。 -
術前化学療法により病理学的完全奏効が得られたStage Ⅳ胃癌の1例
45巻4号(2018);View Description Hide DescriptionS-1+oxaliplatin(SOX)療法により,病理学的完全奏効(pCR)が得られたStage Ⅳ胃癌の症例を経験したので報告する。症例は73 歳,女性。腹部大動脈周囲リンパ節(PAN)に転移を有する3 型胃癌に対し,SOX 療法による化学療法を施行した。4 コース後,原発巣,PANともに縮小を認め,幽門側胃切除術(D2+PAN郭清)を実施した。病理組織学的検査では原発巣およびPAN を含むすべての郭清リンパ節においてGrade 3 の治療効果が得られ,pCR と診断した。患者は術後4 か月経過した現在,無再発生存中である。 -
分子標的薬併用化学療法により根治切除が可能となった膿瘍形成を伴う切除不能局所進行大腸癌の3 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description切除不能大腸癌に対する化学療法は,分子標的薬も加わり治療成績が向上している。われわれは膿瘍形成を伴う切除不能局所進行大腸癌に対し,mFOLFOX6 やFOLFIRI に分子標的薬を加えた治療後に腹腔鏡下手術を行った3 例を経験した。症例1 は60 歳,男性。膿瘍形成性直腸癌の診断で化学療法を行い,縮小効果が得られたため根治切除術を行った。症例2 は42歳,女性。膿瘍形成性S 状結腸癌の診断で化学療法を行い,縮小効果が得られたため根治切除術を行った。症例3 は56 歳,女性。膿瘍形成性S 状結腸癌の診断で化学療法を行い,縮小効果が得られたため根治切除術を行った。それぞれ術後69,74,72 か月経過し,現在生存中である。切除不能な膿瘍形成性大腸癌に対する分子標的薬併用化学療法は,手術侵襲の低減と局所制御が期待でき,有用な治療戦略の一つになると考えられた。 -
術前化学療法後のcN2 ⅢA 期非小細胞肺癌切除例の検討
45巻4号(2018);View Description Hide DescriptionCT と FDG-PET/CT によりcN2 ⅢA期非小細胞肺癌(NSCLC)と診断され,プラチナ製剤を含む2 剤併用化学療法を2〜3コース実施しPR が得られた4 症例に肺切除術を実施した。上葉切除した3 例は完全切除できたが,中下葉切除した1 例は葉間リンパ節転移が一部遺残した。3 例で術後にも2 コース化学療法を追加したが,1 例は術後合併症のため実施できなかった。術前化学療法後にリンパ節転移がすべて消失していた1 例は,術後7 年経過し無再発生存中である。肺内リンパ節転移のみ残存していた1 例は,脳・髄膜転移を来して術後3 年で死亡した。多数の縦隔・肺門リンパ節に転移が残存していた2 例は,いずれも早期に局所再発を来して死亡した。結果として治療効果,特にN因子のdownstageが予後を左右していた。cN2 ⅢA 期NSCLC に対する導入療法後の手術において,術前化学療法のレジメンの強化や放射線療法の併用などの治療効果を上げる方策と,導入療法後の手術症例をN因子のdownstage症例に限るなどの厳格な選択が必要と思われる。 -
胃癌同時性多発肝転移に対してS-1+Cisplatin療法で原発巣および転移巣の完全奏効が得られ6年以上無再発生存している1 切除例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は49 歳,男性。胃癌同時性多発肝転移の診断で,S-1+cisplatin(SP)療法を施行した。4 コース施行後,原発巣,肝転移巣ともに著明な縮小を認めたため手術を施行した。術中超音波検査で肝内に腫瘤は認められなかった。胃全摘術,D2郭清,肝生検を施行した。病理組織学的所見では原発巣,リンパ節,肝ともに腫瘍細胞は認めず,組織学的効果はGrade 3 と診断した。S-1による術後補助化学療法を1 年間行った。現在手術から6 年以上経過し,無再発生存中である。 -
下行結腸癌術後局所再発による大腸癌イレウスに多発性肺・肝転移,単発性脳転移を認めた1 症例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は50 歳,男性。2 年6 か月前に穿孔性下行結腸癌にてHartmann手術(D2,StageⅡ,tub2)を受けたがその後来院しなかった。今回,大腸癌局所再発による大腸癌イレウスの診断で入院となった。なお,入院1 か月前より右上肢不全麻痺,痙攣を認めていた。注腸造影検査および大腸内視鏡検査で下行結腸局所再発部に壁不整な全周性狭窄を認めたため,経肛門的イレウスチューブを挿入してイレウスを解除した。腸管減圧2 週間後に下行結腸局所再発部および回腸浸潤部の部分切除術を行った。なお全身CT 検査で多発性肺・肝転移,および左頭頂葉に広範囲な浮腫を伴った直径2.5 cm の腫瘍を認めた。患者は早期退院による在宅医療を希望し,全身化学療法は行わず脳転移も保存的治療で経過観察となった。すなわち脳転移症状に対しては手術や放射線療法は行わず,脳圧降下剤や抗痙攣剤を経静脈投与から経口剤へ変更し,best supportivecare(BSC)として患者のquality of life(QOL)の改善をめざした。しかし退院後,慢性気管支喘息重積発作により術後75 日目に死亡した。 -
異時性両側性神経内分泌乳癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description片側が神経内分泌癌であった異時性両側性乳癌を経験した。症例は49 歳,女性。右乳頭血性異常分泌を主訴に来院した。右乳管内乳頭腫の疑いで右側の乳管腺葉区域切除術を施行したところneuroendocrine carcinoma の診断であった。切除断端が陽性であったため乳房円状部分切除術+level Ⅰリンパ節郭清術を施行しT1N0M0=Stage Ⅰと診断された。残存乳腺に対する放射線治療50 Gy 施行後,2 年間のLH-RH agonistおよび5 年間tamoxifen を投与していた。手術から10 年目の超音波検査で,左乳房C 領域に直径12 mm,辺縁不整な低エコー腫瘤を認めた。針生検で浸潤性乳管癌と診断された。乳房円状部分切除術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断は浸潤性乳管癌(neuroendocrine carcinoma),ER陽性,PgR 陽性,HER2 陰性,Ki-67 50%,synaptophysin 陽性,chromogranin A 陽性,CD56 陽性,n(−),切除断端陰性,T1N0M0=StageⅠと診断された。 -
長期乳頭異常分泌の経過観察の末に発見され診断に難渋した非浸潤性乳管癌の1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description36 か月にわたる経過観察の末に発見され,診断に難渋した非浸潤性乳管癌を経験した。症例は36 歳,女性。両側乳頭異常分泌を主訴に来院した。3 年前に出産・断乳後,乳汁分泌が継続していた。精査の結果,明らかな病変を認めなかったため,経過を観察していた。36 か月目の検査時に右側分泌は単孔性・血性に変化しており,超音波検査で右乳房C 領域に直径6 mmの腫瘤性病変を認めた。針生検で乳管癌,ER 陽性,PgR 陽性,HER2陰性,Ki-67 5%と診断された。全身検索の結果,他臓器転移を認めなかった。乳房温存手術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断は非浸潤性乳管癌,切除断端陰性,TisN0M0=Stage 0 と診断された。残存乳房への放射線治療の後,tamoxifenの内服のみで経過を観察している。術後4 年目の現在,再発を認めていない。断乳後も長期にわたって継続する乳頭分泌は注意深く観察する必要があると考えられた。 -
術前化学療法が著効した食道胃接合部癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は56 歳,男性。検診にて,腹部食道壁の不整を指摘され,精査で食道胃接合部癌[Siewert TypeⅠ,cT2,N0M0,StageⅡ(食道癌取扱い規約第10 版に準じる)]と診断した。術前化学療法(S-1 100 mg,2 週間内服,3 週間休薬。1 コース施行)を施行し,著明な縮小を認めた。右開胸開腹食道亜全摘出術+高位胸腔内食道胃管吻合,2領域リンパ節郭清を施行した。病理組織学的所見: adenocarcinoma of the esophagogastric junction,post chemotherapy,E=G,ypT1a(m),pN0(0/13),ly0,v0,Grade 2。術後経過良好で外来経過観察中である。食道胃接合部腺癌に対するS-1 による術前化学療法は簡便であり,有用な治療法となり得ることが示唆された。 -
幽門狭窄を伴う超高齢の進行胃癌患者に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は90 歳,女性。食思不振,嘔吐を主訴に当科を受診した。上部消化管内視鏡検査にて,胃前庭部に亜全周性の進行胃癌を認めた。腹部造影CT 検査で幽門上下に計3 個のリンパ節腫大を認めたが,腹水や遠隔転移はなくcT4a(SE)N2H0CYXP0M0,cStage ⅢB と診断した。耐術能は問題なく,十分なインフォームド・コンセントを行った上で,腹腔鏡下幽門側胃切除術,D2 リンパ節郭清,Roux-en-Y 法再建を施行した。せん妄や肺合併症を含め術後合併症はなく,術後第11病日に退院となった。 -
進行大腸癌化学療法中に肝性脳症を来した2 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description切除不能進行再発大腸癌に対するmFOLFOX6療法施行中に肝性脳症を来した2 例を経験した。症例1: 患者は49 歳,男性。腹膜播種・多発肝転移・多発脊椎転移を伴うS 状結腸癌,T4aN2M1b,Stage Ⅳに対するmFOLFOX6+bevacizumab併用療法2 コース3 日目に意識障害を生じた。器質的異常を認めず,高アンモニア(NH3)血症(727 mg/dL)を伴う肝性脳症と診断された。症例2:患者は57 歳,女性。多発脊椎転移・多発肝転移,肺転移を伴う直腸癌,T3NxM1b(H3,PUL,OSS),Stage Ⅳに対するmFOLFOX6+panitumumab併用療法10 コース3 日目に意識障害を生じた。発熱性好中球減少症を伴っていたが,高 NH3血症(135 mg/dL)を認め,肝性脳症と診断された。両症例ともに分子鎖アミノ酸の投与で血中NH3濃度と意識状態の改善を認めた。mFOLFOX6療法中は肝性脳症も念頭に置き,予防と治療を行う必要がある。 -
腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した腹膜原発表在性漿液性乳頭状腺癌・脾転移の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は50 歳,女性。腹部膨満感と下腹部痛を主訴に近医を受診した。血中CA125値の上昇と腹水を認め当院に紹介となった。精査の結果,腹膜原発表在性漿液性乳頭状腺癌(serous surface papillary carcinoma:SSPC)と診断され,術前化学療法(PTX/CBDCA)を施行後,初回減量手術として子宮全摘術,両側付属器切除,大網切除,骨盤内腹膜ストリッピングを施行した。術後補助化学療法が追加されCR となったが血中CA125 値の再上昇とCT にて脾臓および脾臓周囲脂肪織にLDAを認めSSPCの再発と診断した。再度化学療法(PTX/CBDCA)を施行したが,アナフィラキシーショックのためレジメンを変更(PTX/CDDP)するも脾転移病変が増大しPD となった。脾臓周囲以外に病変を認めず,腹腔鏡下脾臓摘出術,脾臓周囲腹膜ストリッピングを施行した。病理検査にてSSPC の脾臓転移および脾臓周囲腹膜播種と診断された。術後補助化学療法は施行せず,腹腔鏡下脾臓摘出術後9 か月,初回治療から4 年6か月を経過した現在,無再発生存中である。 -
CART により長期に症状緩和が得られた胃癌腹膜播種の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description胃癌の腹膜播種症例では腹水貯留により腹部膨満が生じ,経口摂取が困難となる症例が多い。近年,難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy: CART)を行うことで,低アルブミン血症による全身状態悪化を生じることなく,腹部膨満の症状の改善が期待されている。今回われわれは,胃癌の腹膜播種症例に対しCARTを行うことで,長期間にわたって腹部膨満による苦痛症状の改善と経口摂取の維持が得られ,緩和療法が奏効した症例を経験したので報告する。患者は66 歳,男性。腹部膨満を自覚し近医を受診した。腹水貯留あり,精査にて胃癌,M,3 型,cT4a(SE),cN0,cH0,cP1,cM1,cStage Ⅳと診断し,症状緩和を行いながら化学療法を行う方針とした。化学療法は,5-fluorouracil(5-FU),Leucovorin(LV),paclitaxel(PTX)併用のFLTAX療法を施行した。腹水に対し穿刺ドレナージを行ったが頻回になったため,CARTに変更した。8 回繰り返しCART を施行し,苦痛症状を緩和することができた。CART 開始後,6 か月以上の経口摂取を維持することが可能であり,原病死する直前まで経口摂取が可能であった。難治性腹水を有する胃癌腹膜播種症例に対し,CARTによる緩和療法が有用であった1 例を経験した。 -
集学的治療で長期予後が得られた胸部食道癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description切除不能・再発食道癌の予後は不良である。今回われわれは,進行食道癌に対し集学的治療を行うことで長期予後が得られた症例を経験したので報告する。患者は66 歳,男性。食欲不振を主訴に当院を受診し,上部消化管内視鏡検査にて胸部中部食道に粘膜下腫瘍様の病変が指摘された。CT では膵臓に接し,胃に浸潤する腫大リンパ節が指摘された。食道の生検にて低分化扁平上皮癌,胃生検では食道生検と同様の組織像であったことから,食道癌リンパ節転移,胃壁浸潤と診断された。食道癌Mt,0-Is,T4(No. 7-胃),N2,M0,Stage Ⅲに対し,化学療法[docetaxel(DOC),cisplatin(CDDP),5-fluorouracil(5-FU): DCF 療法]を2 コース施行した。食道原発巣はほぼ消失し,リンパ節転移も縮小したが残存していた。副作用にて化学療法の継続が困難であり,残存腫瘍切除のためリンパ節郭清,噴門側胃切除術を施行した。しかし術後3 か月目に傍大動脈リンパ節転移を認めたため,化学放射線療法を施行した。化学放射線療法終了後肝転移を来したため,免疫チェックポイント阻害剤の治療(治験)を行った。いったん効果はみられたが再増悪し,新規に縦隔リンパ節転移,傍大動脈リンパ節転移が認められたため,S-1による化学療法を開始した。S-1 による化学療法が奏効し,転移病巣はほぼすべて縮小し,S-1開始後約1 年,腫瘍の再増悪なく経過している。 -
大腸癌吻合部再発症例の検討
45巻4号(2018);View Description Hide Description2008〜2015年に当院で行った大腸癌切除症例のうち,術後サーベイランス中に吻合部再発と診断された6 例について後方視的に検討した。5 例がDST 吻合を行ったS 状結腸以下の症例であった。すべて深達度T3以上で,リンパ節転移,リンパ管侵襲,静脈侵襲が陽性であるものが多い傾向にあった。3 例は原発巣切除後約1 年で吻合部再発と診断されていたが,術後6〜8か月で診断された例も2 例あり,切除した4 例の再発巣はすべてT3であった。吻合部再発は術後数か月から起こり得ることを念頭に置くべきと考えられた。 -
Trastuzumab+Capecitabine+Cisplatin療法により治癒切除し得た胃癌腹膜転移の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。健診異常の精査で行った上部消化管内視鏡検査で胃前庭部の3 型胃癌(tub2)と診断され,加療目的に紹介となった。CT では腫瘍周囲のリンパ節は腫大し,腹膜転移も疑われた。審査腹腔鏡で広範囲の腹膜転移と腹腔洗浄細胞診陽性を認め,切除不能胃癌(cT4aN3M1pP1CY1H0,pStage Ⅳ)と診断した。HER2 score 3+のためtrastuzumab+capecitabine+cisplatin療法を6 コース施行した。原発巣とリンパ節転移巣はともに縮小し腹膜転移の増悪もなかったため,再度審査腹腔鏡を施行した。腹膜転移巣の消失と腹腔洗浄細胞診陰性を確認したため,根治手術可能と判断し胃切除術を施行した。病理組織診断はypT3N1P0CY0,Stage ⅡB,R0 切除で治療効果判定はGrade 1a であった。術後,S-1+trastuzumab療法を11 コース施行し,2年経過した現在無再発生存中である。 -
長期間化学療法にて病状のコントロールが可能であった超高齢者再発直腸癌の1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description85 歳以上の超高齢者大腸癌患者に対する化学療法の安全性,有用性は明らかではない。今回,長期間化学療法の施行が可能であった超高齢者再発直腸癌の1 例を経験したので報告する。症例は87 歳,女性。直腸癌に対してハルトマン手術を施行した。85 歳時に肝転移を指摘され,capecitabine+bevacizumab療法を開始した。肝転移は縮小し,26 コース投与した。肺転移出現のため,irinotecan+bevacizumab 療法に変更した。10 コース目からは倦怠感で3 週1 回の投与に変更しているが,現在まで23 コース投与しstable disease(SD)を維持している。その他の有害事象はgrade 2 の高血圧のみであった。performance status は0 で,現在まで3 年間化学療法により,病状のコントロールが可能であった。超高齢者大腸癌患者に対しても,投与量,投与方法に配慮すれば,安全に化学療法を施行できる可能性があると考えられた。 -
肝転移を伴う原発性十二指腸癌に対してSOX 療法が奏効した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は70 歳,女性。出血性十二指腸潰瘍の診断で近医より紹介された。上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸球部に3 型腫瘍を認め,生検にて腺癌が検出された。術前画像検査で肝臓S4 に転移を認めたため,cT4N1M1,cStage Ⅳの診断で全身化学療法の方針とし,S-1+oxaliplatin(SOX 療法)を行った。4 コース終了後,腫瘍マーカーは著明に改善し,画像検査上でも37.5%の縮小を認めた。しかし5 コース施行中に新規肝転移を認めたためPDと判断し,weeklypaclitaxel療法に変更した。SOX療法は十二指腸癌に対する化学療法の一つとして有用である可能性が考えられた。 -
大腸癌の腹壁浸潤および肝内胆管癌の重複癌に対し二期的根治切除を施行した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description患者は 50 歳台,女性。発熱および臍下の腫脹を主訴に受診した。腹部 CT/MRI 検査で皮下膿瘍に連続する横行結腸の不整な壁肥厚・腹壁腫瘤および尿膜管の開存を疑う所見,肝S5 に腫瘤形成を認めた。下部消化管内視鏡検査で横行結腸に2 型病変を認め,中分化腺癌の診断であった。膀胱鏡検査で膀胱頂部に単発性広基性腫瘍を認め,尿膜管癌の合併を疑った。経皮的肝生検にて前述の横行結腸癌と細胞形態の異なる腺癌の診断を得た。診断的治療目的に結腸右半切除・腹壁・膀胱部分切除を施行し,病理組織結果で横行結腸癌・腹壁浸潤・膀胱浸潤の診断を得た。二期的に肝切除を施行し肝内胆管癌の診断を得た。いずれも根治切除となった。本症例では横行結腸癌と肝内胆管癌の重複癌であった。原発部位診断に苦慮する重複癌と考えられる症例では各々に外科的切除による根治の可能性があれば診断的治療を兼ねた切除は有効と思われた。 -
心房内転移を来した成人発症肝未分化肉腫の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は24 歳,女性。上腹部痛を主訴に近医を受診した。CT で肝左葉に11×8 cm 大の嚢胞性腫瘍と内部のextravasation所見を認めた。塞栓術を実施するもCT で出血残存が疑われ当院に転院した。準緊急的に肝拡大左葉切除術を実施した。病理所見で星芒状,紡錘形の細胞質を有する異型細胞の増殖を認め,免疫染色でvimentin陽性,AE1/AE3 は陰性であり肝未分化肉腫の診断であった。その後,定期的に経過観察していたが,初回手術1 年10 か月後左胸背部痛が出現し,胸部CT で左肺下葉に結節,右心房内に腫瘤影を認めた。右心房腫瘍摘出,左肺舌区・左肺下葉・右肺中葉部分切除術を実施し,肝未分化肉腫転移の診断であった。再手術後vincristine+actinomycin D+cyclophosphamide(VAC)療法実施もPD の判断となり,患者本人・家族の希望でbest supportive care(BSC)となった。肝未分化肉腫は,成人にはまれな肝原発間葉系悪性腫瘍である。外科切除が第一選択となるが予後は不良である。さらなる症例の蓄積,治療の検討が必要である。 -
Mohs軟膏処置と抗癌剤加療が有効であった局所進行乳癌の1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description局所進行乳癌は,出血・滲出液・悪臭などの症状を伴うためquality of life(QOL)は著しく損なわれる。Mohs軟膏は蛋白凝集作用を有する塩化亜鉛を主成分とする外用薬で,皮膚自壊悪性腫瘍の症状緩和などを目的に用いられている。今回,局所進行乳癌に対してMohs 軟膏処置と抗癌剤治療を併用した治療により,症状の緩和が得られたとともに根治的な手術を施行し得た症例を経験したので報告する。患者は初診時68 歳,女性。数年前より右乳房の腫瘤を自覚するも放置していた。腫瘍の増大と腫瘍出血を主訴に近医を受診した。右乳癌[mucinouscarcinoma,ER(+),PgR(+),HER2(−),Ki-6720%,cT4bN1M0,cStage ⅢB]と診断され,当院紹介受診となった。右乳房に小児頭大の悪臭を伴う腫瘤があり,腫瘍表面からは出血を認めた。Mohs軟膏による処置ならびに抗癌剤投与を開始した。処置の効果として,出血・滲出液・悪臭・腫瘍量の減少を認めた。術前抗癌剤投与終了後,手術(乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清+植皮術)を施行した。術後にmastectomyradiation therapyを施行し,内分泌療法としてアロマターゼ阻害剤を服用しているが,術後約3 年経過した時点で再発なく経過している。 -
原発性肝細胞癌が疑われた肝Reactive Lymphoid Hyperplasiaの1切除例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。C 型慢性肝炎で経過観察中に腹部MRI 検査で肝腫瘍を指摘された。既往に慢性関節リウマチがあり,メトトレキサート内服中であった。EOB-MRIにおいて,腫瘍はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号,肝細胞相で低信号を呈した。腹部CT 検査ではS4 に早期相で造影され,後期相でwash outされる径7 mm大の結節を認めた。画像診断は原発性肝細胞癌とし,肝S4 部分切除術を施行した。病理組織学的検査では肝reactive lymphoid hyperplasia(RLH)と診断された。本疾患はまれな良性疾患であり,肝腫瘍の鑑別診断として念頭に置く必要がある。 -
胃癌肝転移に対する肝切除症例の検討
45巻4号(2018);View Description Hide Description背景: 胃癌肝転移に対する肝切除の適応は明確に定まっていないのが現状である。対象と方法: 2008 年1 月〜2016 年1月までに当院で胃癌肝転移に対して肝切除を施行した12 例を対象に,同時性転移の9 例と異時性転移の3 例に分けて予後・手術の有用性について検討した。結果:全症例の5 年生存率は42.3%で,生存期間中央値は2.0 年であった。また,切除後の1 年以内再発率は75%と高率で再発形式は肝転移が最多であった。同時性転移の5 年生存率は59.3%,異時性転移の5 年生存率は0%であった。考察:今回の検討では両群含めて1 年以内再発率は75%と高率であったが,術後の化学療法の導入と継続が予後の延長に寄与したと考えられた。また,同時性転移においては初回手術前に微小転移巣をコントロールすることと,R0 手術を行うことが重要であると考えられた。結語:当院での胃癌肝転移に対する肝切除症例につき文献的考察を加え報告した。 -
T1 下部直腸癌術後側方リンパ節再発に対し腹腔鏡下側方リンパ節摘出術を施行した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description今回われわれは,粘膜下層浸潤(T1)下部直腸癌術後の側方リンパ節再発に対して腹腔鏡下側方リンパ節摘出術を施行した症例を経験したため報告する。症例は61 歳,女性。cT1 下部直腸癌に対して初回手術として経肛門的局所切除術を施行した。病理結果は高〜中分化管状腺癌,SM 4,000 mm,ly0,v0,HM0,VM0であった。術後に化学放射線療法を施行した。術後4 年3か月後よりCEAの上昇を認め,右内腸骨リンパ節再発と診断し腹腔鏡下右側方リンパ節郭清を行った。術後1 年8 か月現在,無再発生存中である。T1 下部直腸癌術後の側方リンパ節再発は極めてまれである。側方リンパ節再発に対する治療方針として確立された集学的治療法はないが,側方リンパ節再発に対する外科的切除は予後の改善に寄与する可能性がある。 -
狭窄を伴う進行幽門部癌に対する内視鏡的胃-十二指腸ステント治療9例の経験
45巻4号(2018);View Description Hide Descriptionはじめに: 当院で施行した内視鏡的胃-十二指腸ステント留置術における成績を報告する。方法: 2014 年4 月〜2016 年12 月までに施行した,切除不能悪性腫瘍に伴う幽門狭窄症に対して施行した9 例の結果を検討した。結果:留置に要した時間は平均34 分であった。食事の開始は平均2.7日,中央値は3(1〜6)日であった。合併症は再狭窄,嘔吐,貧血,食思不振,胃痛があった。GOOSSは 8/9 例(89%)で改善を認めた。CONUT scoreは 5/9 例(56%)で改善を認めた。血清アルブミン値は6/9 例(67%)で改善を認めた。生存期間は平均値130 日,中央値112 日であった。結論: 切除不能悪性腫瘍に伴う幽門狭窄症に対しての内視鏡的胃-十二指腸ステント留置は,短期的に患者のQOLを改善することができた。 -
放射線外照射部位に認めた直腸癌に対し内視鏡的粘膜下層切開剥離術と経肛門式内視鏡下手術で治療し得た1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description背景:放射線照射範囲の消化管に対する手術は,手術の困難性や術後合併症の可能性から術式選択に苦慮することが多い。今回,放射線照射範囲における直腸側方発育型腫瘍(LST)に対し,内視鏡的粘膜下層切開剥離術(ESD)と経肛門式内視鏡下手術で治療し得た1 例を経験したので報告する。症例: 70 歳台,男性。5 年前,前立腺癌に対し70 Gyの外照射放射線療法を施行された。現病歴:便潜血陽性にて近医を受診した。直腸にLST を認め,ESD目的に当院内科に紹介となった。放射線照射後であることから,ESD 後穿孔の危険性を考慮し当科にコンサルトがあり,ESD 後粘膜欠損部を経肛門式内視鏡下手術で縫合閉鎖した。術後肛門痛以外に合併症を認めず,経過良好で退院となった。考察:穿孔や出血のリスクが高いESD 症例においても,粘膜欠損部に対し縫合閉鎖を追加することで,術後合併症を回避できる可能性が考えられた。 -
大腸癌術後再発に対する5-Fluorouracil投与中に高アンモニア血症を生じた1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description大腸癌再発例に対する5-fluorouracil(5-FU)投与中に高アンモニア血症を生じた1 例を経験したので報告する。症例は84 歳,男性。既往歴にC 型肝硬変,腎機能障害などがあった。8 年前に直腸S 状部癌に対して直腸前方切除術を施行された。3 年前に局所再発を指摘され,sLV5FU2療法を開始した。病変は著明に縮小し病勢コントロールが得られていたため,2 年前に化学療法を中断した。中断2 年後に再発巣の増大を認め同レジメンを同量で再開したところ,投与3 日目に意識障害のため救急搬送された。血液検査で高アンモニア血症を認め他に意識障害の原因を認めず,5-FU 投与による高アンモニア血症と考えられた。補液,分岐鎖アミノ酸製剤投与によって意識障害は速やかに改善し,第15 病日に退院した。高齢であるため,その後化学療法は行わず経過観察している。5-FU 投与中に意識障害を認めた場合,高アンモニア血症に留意すべきであり,肝または腎機能障害を有する場合は特に留意すべきと考えられた。 -
腹膜転移の原発巣診断に苦慮した肝内胆管癌,胃癌の異時性重複癌の1例
45巻4号(2018);View Description Hide Description肝内胆管癌,胃癌の重複癌はまれである。症例は62 歳,男性。胃癌に対して幽門側胃切除術を行った。病理結果は,tub1>tub2,m,ly0,v0,n0,Stage ⅠA であった。2年1 か月後,肝腫瘤(径3 cm),骨盤内腫瘤(径2.5 cm)が出現した。胃癌からの転移を疑い,化学療法(SOX)を行ったが,5 コース後のCT で肝腫瘤は12 cm 大,骨盤内腫瘤は3 cm 大で,ともに増悪を示した。肝内胆管癌の異時性重複癌および腹膜転移の可能性も疑われた。化学療法では治療に限界があり,そもそも肝内胆管癌,胃癌いずれを標的とすべきか判断が困難であったこと,病変は肝臓右葉と骨盤内に1 か所ずつで限局していることから切除の方針とした。二期的手術とし,まず骨盤内腫瘤摘出術および門脈塞栓術を行った。骨盤内腫瘤の病理結果は粘液癌であった。その後,拡大右肝切除術を行った。病理結果は粘液癌であり,最終的に肝内胆管癌,腹膜播種と診断した。術後6 か月で骨盤内に数個の播種再発がありGEM+CDDP を開始した。現在術後1 年,日常生活に制限はなく外来通院中である。 -
横行結腸癌の十二指腸浸潤に対し膵頭十二指腸合併切除を伴う右半結腸切除術でEn Bloc切除した1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description他臓器浸潤のある結腸癌に対する他臓器合併切除術については一定のコンセンサスが得られている。しかし十二指腸への浸潤に対して膵頭十二指腸合併切除を行った報告は少ない。今回われわれは,横行結腸癌の十二指腸浸潤に対し膵頭十二指腸合併切除を伴う右半結腸切除術にてen bloc な切除を行い,良好な経過を経た1 例を経験したので報告する。症例は69 歳,女性。前医で横行結腸肝弯曲部大腸癌,膵頭部および上腸間膜動静脈への浸潤,No. 223 リンパ節転移と診断し,enbloc切除は困難と判断されcetuximab(Cmab)併用mFOLFOX6療法が1 コース行われた。second opinion 目的で当院を受診した。en bloc手術が可能と判断し,幽門輪温存膵頭十二指腸,上腸間膜静脈(SMV)合併切除を伴う右半結腸切除術,血行再建術を施行した。最終診断はtub2,T4b(十二指腸漿膜,SMV周囲組織),int,INF b,ly1,v2,PN1b,EX(+)/ND(PN+,v+),PM0(25 cm),DM0(14.3 cm),N1(1/20),H0,P0,M0,pStage Ⅲa であった。術後経過は良好で第15病日に退院した。外来で術後補助化学療法を約6 か月間施行した。術後2 年が経過したが,現在無再発生存中である。結腸癌の他臓器浸潤例ではR0 切除可能と判断できれば,膵頭十二指腸切除術を含む積極的な他臓器合併切除を考慮すべきである。 -
直腸癌局所再発に対して術前放射線化学療法を施行し切除した2例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例1 は68 歳,女性。直腸癌(Rb)術後5 年目に骨盤右側方に局所再発が認められた。術前放射線化学療法を施行し開腹下に腫瘍切除を施行し(R0),病理学的治療効果はGrade 3 であった。術後3 年3か月無再発経過中である。症例2 は74歳,男性。直腸癌(Rb)術後2 年目に吻合部背側に局所再発が認められた。術前放射線化学療法を施行後に腹会陰式直腸切断術を施行し(R0),病理学的治療効果はGrade 2 であった。術後2 年無再発経過中である。孤立性直腸癌術後局所再発に対する経口FU 剤併用術前放射線化学療法は,遠隔および局所制御に寄与する可能性が示唆された。 -
切除不能進行胃癌に対してDCS療法7 コース施行後Conversion Surgeryを行い5年無再発生存が得られた1 例
45巻4号(2018);View Description Hide Description症例は51 歳,男性。高度貧血精査の上部消化管内視鏡にて胃体部全周性の巨大なtype 3 胃癌を認めた。腹部造影CTでは胃に15×7 cmの巨大な腫瘤があり,中等量の腹水と多数の播種結節を認めた。cT4aN3bM1(腹膜播種),Stage Ⅳと診断し,docetaxel(40 mg/m 2 day 1)+cisplatin(60 mg/m2 day 1)+S-1(80 mg/m2 day 1〜14): DCS 療法を開始した。DCS療法7 コース施行後,非治癒切除因子が消失し,conversion surgeryとして胃全摘+Roux-en-Y再建+D2郭清術を施行した。術後病理診断ではypT0N0CY0M0 と癌の遺残はなく,化学療法の組織学的効果判定はGrade 3 であった。術後補助化学療法は本人が希望せず施行しなかったが,現在術後5 年間無再発生存中である。conversion surgery は良好な成績が報告されているが,その適応や時期,至適レジメンなどは一定の見解がない。今後のさらなる多数例の後ろ向き解析や前向きの検討結果が待たれる。 -
下部進行直腸癌に対する術前放射線化学療法の短期成績
45巻4号(2018);View Description Hide Description緒言:下部進行直腸癌に対して術前放射線化学療法は有用であることが報告され,欧米ではtotal mesorectal excision(TME)と併せて標準治療として確立している。対象: 当院では 2012 年 9 月〜2015 年 12 月までに進行直腸癌 T3/4,NX の12 例に対して術前放射線化学療法を施行した。平均年齢69 歳,男女比8:4,BMI平均24.8,高分化腺癌5 例,中分化腺癌6 例,粘液癌1 例。放射線療法は総線量40〜50.4 Gy,UFT,UFT+LV,またはS-1 を併用した。結果:完遂率100%,11 例(91.6%)に対して手術(直腸切断術6 例,ISR 5 例)を施行した。3 年生存率は88.8%,3 年無再発生存率46.1%,3 年局所再発率8.3%であった。奏効率は41.7%であった。合併症は,術後イレウス2 例,会陰部痛1 例,膀胱炎1 例であった。結語: 術前放射線化学療法において自験例でも局所再発率は低率であった。
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