癌と化学療法
Volume 46, Issue 1, 2019
Volumes & issues:
-
寄稿
-
-
-
特集
-
- 進行頭頸部癌治療の最前線
-
低侵襲・機能温存手術の現況と今後の展望
46巻1号(2019);View Description Hide Description21 世紀における外科治療のキーワードは,「低侵襲」と「機能温存」である。頭頸部領域では「喉頭機能」が重要である。喉頭機能温存手術で目標とすることは,「電話」での会話ができること(発声機能),「外食」ができること(咀嚼・嚥下機能),「肩まで入浴」ができること(鼻呼吸機能)である。頭頸部癌に対する低侵襲手術と機能温存手術は,経口的手術を中心に発展してきた。日本では内視鏡下の経口的手術が主たる手術法であり,本邦で開発されたtransoral videolaryngoscopicsurgery(TOVS)やendoscopic laryngo-pharyngeal surgery(ELPS)が広く行われている。一方,海外では経口的ロボット支援手術(TORS)が一般的に行われ,今後日本でも保険適応が期待されている。経口的手術で対応できない浸潤癌症例に対して,外切開切除による喉頭機能温存手術がある。より深く広い切除となるため,適切な切除域を設定する方法や嚥下改善手術の理解が必要であるが,本法を得られれば患者に対して機能温存手術の選択肢を増やせる。画像機器の進歩は極めて微細な組織構造を大画面で提示してくれ,拡大された手術野は精度の高い手術を可能にし,これにより術後機能損傷を最小にできると思われる。われわれは既存の概念にとらわれず,進化したテクノロジーを取り入れた次世代の手術を求めなければならない。 -
放射線治療の最前線―IMRT を中心に―
46巻1号(2019);View Description Hide Description頭頸部癌に対してのintensity modulated radiation therapy(IMRT)は標準治療であり,唾液腺障害をはじめとする晩期毒性の低減に有用である。また,上咽頭癌では治療効果改善の報告もみられる。がん専門病院でもIMRTの普及は十分でなく,放射線腫瘍医や医学物理士などのマンパワー不足が一因と考えられる。今後粒子線を含むさらなる治療開発が望まれる。 -
薬物療法(抗癌剤,分子標的治療薬)の最前線
46巻1号(2019);View Description Hide Description進行頭頸部癌の治療においては集学的アプローチが必要不可欠であり,近年の化学療法の発展に伴い,集学的治療において薬物療法が担う役割は大きくなってきている。本稿では,化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬以外の領域の薬物療法として,進行頭頸部癌に対する導入化学療法・緩和的化学療法のエビデンスについて概説する。 -
頭頸部癌における免疫チェックポイント阻害剤開発の最前線
46巻1号(2019);View Description Hide Description近年,頭頸部癌において programmed death 1(PD-1)/programmed death ligand-1(PD-L1)や cytotoxic T-lymphocyteassociated antigen 4(CTLA-4)を標的とした免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitors: ICI)の開発が盛んである。頭頸部扁平上皮癌(squamous cell carcinoma of head and neck: SCCHN)におけるICIの開発は,他の固形腫瘍と同様,再発・転移例を対象に口火を切り,近い将来標準治療が変わる可能性のあるエビデンスも創出されている。また,ICIを放射線治療と併用する臨床試験も数多く進行中である。本稿では頭頸部癌におけるICI開発状況について述べ,臨床的安定性や腫瘍量,PD-L1 発現量に基づいた免疫療法と化学療法との使い分けの可能性など新たな個別化治療の展望についても考察したい。 -
がんの近赤外光線免疫療法
46巻1号(2019);View Description Hide Description超細胞特異的ながん治療は,がんに対しては強力でありつつ患者の体にはやさしい治療になり得る。本稿では,まず分子イメージング技術の新たな進化形である超細胞選択的がん治療,「近赤外光線免疫療法」の化学,物理学,生物学を統合した理論に基づいた開発理念について論じ,さらに従来のがん治療法と比較した優位点について論じる。また,2015 年より始まった近赤外光線免疫療法の再発頭頸部扁平上皮がんに対する臨床治験についても少し触れる。加えて,近赤外光線免疫療法の治療対象となるがんの種類,標的分子,病態,さらに近赤外光線免疫療法を免疫抑制細胞に対して用いることで可能になるがんに対する強力な免疫誘導など多様な応用法について論じる。
-
Current Organ Topics:Urological Cancer 泌尿器系腫瘍 腎細胞癌に関する四つの疑問
-
-
-
原著
-
-
高齢者進行非小細胞肺癌における一次治療でのGefitinibの有効性と安全性についての検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)はEGFR 遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌(NSCLC)において第一選択であるが,高齢者に対するgefitinib の有効性や安全性を検討した報告は少ない。当院で75 歳以上の高齢者に対し,初回化学療法としてgefitinib 250 mgを投与した22例を後方視的に検討した。奏効率81.8%,病勢制御率95.5%,無増悪生存期間14.2 か月,全生存期間中央値は30.7 か月であった。皮膚毒性50.0%,肝機能障害18.2%,下痢を18.2%に認め,有害事象による減量36.3%,中止を18.2%で要した。高齢者進行NSCLC に対してgefitinibは有効であり,有害事象も耐用可能と考えられた。
-
-
症例
-
-
ペグフィルグラスチム併用DCF 療法が有効であった高度進行食道癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。食事のつかえ感を主訴に近医を受診し,cT4b(左気管支),cN4(101R,102L,104L,106recR,108,109R,7,8a,8p,14A,16b1),cM0,cStage Ⅳa の高度進行食道癌と診断され当科紹介となった。導入化学療法として,ペグフィルグラスチム併用docetaxel, cisplatin, 5-FU(DCF)療法を5 コース施行した。治療期間中に減量や中止を要する有害事象は出現しなかった。3 コース目以降に原発巣とリンパ節転移に著明な縮小を認め,胸腔鏡下食道切除再建術を施行した。切除標本の病理診断は,原発巣に腫瘍細胞を認めず,組織学的判定はGrade 3 であったが,10個の郭清リンパ節にviable cell の遺残を認めた。今回,ペグフィルグラスチムを併用することで安全にDCF 療法を継続でき,conversion resectionを行い得た高度進行食道癌の1 例を経験したので報告する。 -
CDDP+CPT-11が奏効した胃神経内分泌癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。食物のつかえ感を主訴に近医を受診し,精査加療目的で当科へ紹介となった。上部消化管内視鏡検査にて噴門部から胃体中部小弯にかけて約10 cmの3 型病変を認めた。造影CT で胃体上部小弯の前壁から後壁に造影効果の強い壁肥厚と,#1,#3,#7,#8a,#11pのリンパ節腫大を認めた。免疫染色にてchromograninA,synaptophysin陽性,Ki-67陽性率が70%以上であり,gastric cancer,U,Less,cType 3,neuroendocrine carcinoma,cT4a,cN3,cM0,cP0,CY0,cStage ⅢC と診断した。術前化学療法としてCDDP+CPT-11を2 コース施行し,腫大リンパ節の著明な縮小を認めた。開腹胃全摘術,D2 郭清,脾臓摘出術を施行し,病理結果は胃癌(U,Less,Type 3,neuroendocrine carcinoma,int,INF b,ly2,v0,ypT2,ypN2,ypStageⅡB,PM0,DM0,R0),薬物治療の組織学的効果判定はGrade 2 であった。術後化学療法としてCDDP+CPT-11 を2 コース施行した。術後9 か月で左副腎に再発を認めた。開腹左副腎摘出術を施行し,現在は外来にてS-1単剤での化学療法を施行している。胃神経内分泌癌は予後不良とされているが,CDDP+CPT-11 が奏効した1 例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。 -
腹水細胞診陽性胃癌に対するSOX 療法によりConversion Surgeryが可能となった1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。食思不振,心窩部痛で前医より当院消化器内科へ紹介入院した。上部消化管内視鏡検査にて胃癌(por1,HER2陰性)を認め,当科紹介となった。腹部造影CT で胃壁の肥厚,bulkyリンパ節の腫大および腹水を認めた。審査腹腔鏡を施行し,腹水細胞診陽性でsT4aN3M1(Cy1),sStage Ⅳの診断となった。SOX 療法を6 コース後,腹部CT で原発およびリンパ節の著明な縮小効果を認めた。したがって,腹水細胞診陰性を確認後,胃全摘術を施行した。病理診断は胃粘膜にわずかに癌細胞を認めるのみで,組織学的治療効果はGrade 2b であった。今回われわれは,腹水細胞診陽性胃癌に対してSOX 療法が著効し,conversion surgeryが可能となった1 例を経験したので文献的考察も含めて報告する。 -
機能的端々吻合後に吻合部再発を来したStageⅠ盲腸癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。盲腸癌に対して開腹下回盲部切除+D3郭清を施行した。吻合は自動縫合器を使用し,機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis: FEEA)を行った。病理組織学的診断はtype 1,7×5 cm,pMP,pN0,pPM0,pDM0,StageⅠであった。術後1 年9か月目の定期検査で貧血を指摘され,精査の大腸内視鏡検査にて吻合部上に半周性の2 型腫瘍を認め,吻合部再発の診断で手術となった。前回吻合部を中心に結腸側,回腸側ともに10 cm ずつ切除し,吻合はFEEA で行った。今回,比較的まれであるFEEA 施行後に吻合部再発を来したStage Ⅰ盲腸癌の1 例を経験したので報告する。implantationによる再発予防,術後の定期的なフォローアップなどが重要であると思われた。 -
直腸癌局所再発に対して腫瘍減量および大網充填によるスペーサー手術後陽子線治療を施行した4 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description切除不能な直腸癌局所再発に対する治療戦略として,減量手術およびスペーサーとして遺残腫瘍の周囲に大網充填を行った後,陽子線治療を施行している。本治療を行った4 症例を報告する。症例1: 55 歳,男性。他院にて局所再発治療として放射線治療および化学療法を施行したが,腫瘍増大を認め当院に紹介された。骨盤内臓全摘術およびスペーサーとして大網充填術を施行後,仙骨前面遺残腫瘍に陽子線照射を施行した。術後24 か月,肺転移再発により原病死した。症例2: 79歳,女性。局所再発に対して外科切除および放射線治療を施行されたが,再発を認め当院紹介となった。同様に減量切除および大網充填術を施行後,仙骨前面の残存腫瘍に陽子線を照射した。術後31 か月,リンパ節転移再発により原病死した。症例3:75 歳,男性。他院にて局所再発の診断で当院に紹介された。同様に減量切除,大網充填術を施行後,仙骨前面の残存腫瘍に陽子線を照射した。術後43 か月無再発生存中である。症例4: 57 歳,女性。局所再発に対して化学療法を施行中に腫瘍の増大を認め,当院に紹介された。減量切除および大網充填術を施行し,左骨盤壁遺残腫瘍に陽子線を照射した。術後11 か月,リンパ節転移再発により原病死した。
-
-
特別寄稿
-
- 第40回 日本癌局所療法研究会
-
ypStageⅠ胃癌に対する術後補助化学療法の検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description化学療法後に胃切除を施行しypStageⅠとなった胃癌症例の特徴,術後補助化学療法および予後について検討した。ypStage Ⅰ症例は7 例存在し,治療前のcStage はⅡA:ⅡB:ⅢB:Ⅳ=1:1:1:4 例であった。化学療法レジメンはS-1+cisplatin:docetaxel+cisplatin+S-1=5:2例で2〜8 コース施行されていた。術式は胃全摘:幽門側胃切除=3:4 例で,全例R0 切除が施行された。ypStageは0:IA:IB=1:2:4例で,術後は全例でS-1 もしくはdocetaxel+S-1(DS)による術後補助化学療法を施行された。5 年無再発生存率71%,5 年全生存率は68%であった。7 例中2 例で再発を認め,うち1 例は術後4か月間S-1 を服用し,術後1 年1 か月目に再発を認めた。もう1 例はDS 療法を4 か月間施行し,その後S-1 内服中の術後11 か月目に再発を認めた。残りの5 例は術後1〜5 年間S-1 を内服し,無再発生存中である。ypStage Ⅰ症例の予後は化学療法を施行しなかった進行胃癌と同等であり,術後補助化学療法が必要と考えられた。その内容や期間については検討の余地があると考える。 -
肛門周囲膿瘍を併発した直腸癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。2017年5 月に他院より肛門周囲膿瘍にて紹介された。肛門4 時方向に腫脹を認め,切開排膿を施行した。肛門部痛や炎症所見は軽快したが,6 月上旬より炎症所見は再上昇した。6 月下旬より血便,微熱が出現した。骨盤MRI 検査では痔瘻以外に直腸Rb 中心に充実性腫瘤を認め,直腸癌が疑われた。大腸内視鏡検査では直腸Rb に半周以上の3 型腫瘍を認め,生検で分化型腺癌と診断された。手術が望ましいと考えられたが痔瘻の併発,手術時に癌細胞が腹腔内に汚染される懸念もあり,まずは人工肛門を造設し,その後に化学放射線療法を行う方針となった。8 月初旬より放射線療法を開始し,増感剤としてS-1を投与した。化学放射線療法終了後の造影CT 検査およびMRI検査にて直腸癌の縮小を認めた。その後手術を予定したが希望せず,S-1の継続とした。その後も腫瘍の縮小を認めており,腫瘍の局所制御は良好と考える。 -
食道癌術後骨転移に対する放射線治療の有効性の検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description食道癌術後骨転移に対する放射線治療の有用性を検討した。2001〜2016年に当科で食道癌に対し根治術を施行し,術後骨転移を11 例に認めた。このうち放射線治療を施行した7 例の検討を行った。年齢は中央値71(60〜76)歳で,男性5 例,女性2 例であった。病理組織型は,扁平上皮癌6 例,腺癌1 例であった。転移部位は椎体3 例,肋骨2 例,頭蓋骨2 例,腸骨1 例,上腕骨2 例,大腿骨1 例(重複あり)であった。6 例は他の遠隔転移も認めており,うち3 例は化学療法も併用した。57%(4/7 例)で転移巣の縮小および疼痛の軽快を認めた。食道癌の骨転移に対し,放射線治療は転移巣の縮小および疼痛緩和に有効と考えられる。 -
男性膵Solid Pseudopapillary Neoplasmの1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は50 歳,男性。健康診断の腹部超音波検査にて左腎腫瘍疑いの診断を受け,精査目的にて当院を受診した。CT,MRI検査では最大径約12 cm の膵由来の多嚢胞腫瘍で一部石灰化を伴う所見からsolid pseudopapillary neoplasm(SPN)と診断し,脾臓合併膵体尾部切除術を施行した。病理組織診断では淡明な細胞質と小型の類円形核からなる細胞腫瘍が多くを占め,一部やや異型な細胞からなる箇所を認めた。免疫組織学的にvimentin(+),b-catenin(核+),CD10(+)からSPNと診断された。被膜が欠損して露出する箇所があり,再発を念頭に置いて経過観察している。切除から約32 か月再発を認めていない。SPNは女性に多いと報告されていたが,男性症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
集学的治療にて長期に病勢コントロールが可能となったStage Ⅳ胃癌の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は82 歳,女性。2015年9 月ごろより食思不振と体重減少を認めた。上部消化管内視鏡検査にて3 型胃癌と診断され,2016 年1 月,当院に紹介となった。上部消化管内視鏡検査では幽門前庭大弯中心に3 型腫瘍を認め,生検の結果はtub2,HER2 score 0 であった。胸腹部CT 検査では幽門前庭部の壁肥厚と腫瘍周囲から大動脈周囲に多発リンパ節転移を認め,T4aN3M1LYN,cStage Ⅳと診断した。治療経過: 2016 年 1 月より SOX 療法[S-1 80 mg/m2,day 1〜14,q3wks,oxali-platin(L-OHP)130 mg/m2,day 1,q3wks]を開始した。SOX 療法2 コース後に主病巣および転移リンパ節の縮小が認められ,CEA 値は 6.2 ng/mLへと低下した。SOX療法7 コース後,CEA値の上昇(10.1 ng/mL)と主病巣の増大が認められ,PTX/RAM療法(paclitaxel 80 mg/m2,day 1,day 8,day 15,q4wks,ramucirumab 8 mg/kg,day 1,day 15,q4wks)に変更した。しかしgrade 4 の好中球減少がみられたため,1 コースで中止となった。2016 年9 月に局所コントロールを目的に減量手術を施行した。腹膜播種はなく腹腔洗浄細胞診も陰性で,D1+リンパ節郭清を伴う胃切除術を施行した。病理診断はL,Gre,Type 3,muc>tub2>tub1,ypT1b2,int,INF b,ly0,v0,ypN2(3/14),pPM0,pDM0で,組織学的効果はgrade 1a であった。術後にCEA 値は正常化したが,術後3 か月目のCT 検査で大動脈周囲リンパ節の増大とCEA 値の上昇がみられたため,2017年 1 月よりCapeOX療法(capecitabine 2,000 mg/m / 2,day 1〜14,q3wks,L-OHP 130 mg/m2,day 1,q3wks)を開始した。現在,外来にて化学療法を継続し,大動脈周囲リンパ節転移巣はSD を維持し,CEA 値は10ng/mL 前後を推移している。 -
高度貧血にて発見された胃原発髄外性形質細胞腫の1 切除例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。歩行時の息苦しさを主訴に受診され,高度貧血(Hb 4.2 g/dL)を認めた。上部消化管内視鏡検査で胃体部後壁に巨大潰瘍を認めた。CT 検査では胃壁外突出性の腫瘤性病変を認め,粘膜下腫瘍が疑われた。生検では確定診断が得られなかったが,粘膜下腫瘍切除と出血コントロールを目的に幽門側胃切除術を行った。病理検査と術後全身精査の結果,胃原発髄外性形質細胞腫の診断となった。形質細胞腫はB 細胞の最終段階である形質細胞に由来する骨髄の腫瘍であり,骨髄以外に発生する頻度は全体の5%とされ,そのなかでも胃原発のものは約2%とまれである。治療は胃癌に準じたリンパ節郭清を伴う完全切除が基本とされている。本症例のような巨大腫瘍例は予後が悪い可能性があり,慎重な術後観察を要すると考えられる。胃原発形質細胞腫について若干の文献的考察を加えて報告する。 -
化学療法が奏効したBulky N2,肝転移,副腎転移を伴う胃内分泌細胞癌の1切除例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。上部消化管内視鏡検査にて胃前庭から胃体上部に至る径6 cm の3 型腫瘍を認め,腫瘍生検では低分化型腺癌で内分泌細胞癌の可能性が指摘された。CT 検査では所属リンパ節にbulky N2を認め,左副腎転移および孤立性肝転移が疑われた。S-1/CDDP 療法を3 コース施行したところ,原発巣およびリンパ節転移巣は縮小したものの左副腎転移巣および肝転移巣は増大したため,ramucirumab/paclitaxel療法を3 コース施行した。これにより原発巣およびリンパ節に加えて副腎転移巣および肝転移巣の縮小を認め,また新たな転移病変は指摘されなかった。そこで胃全摘術,リンパ節郭清,肝部分切除術および左副腎摘出術を施行した。切除標本の病理組織所見では胃に内分泌細胞癌を認め,副腎にはNECの転移が確認されたが,リンパ節および肝転移巣は悪性所見を認めずburn out lesionと考えられた。術後S-1 による補助化学療法を施行した。術後16 か月の現在,無再発生存中である。 -
乳管内乳頭腫として経過観察されていた乳癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は50 歳,女性。5 年前から他院で両側乳房腫瘤を指摘され,2 か月ごとのfollowとなっていた。超音波検査では,右側は最大15 mm(A領域),左側は最大8 mm(B領域)の低エコー腫瘤が散発しており,乳房MRIでは両側に最大12 mmの腫瘤を多数認め,乳癌が否定できない所見であった。両側最大径の腫瘤に対し針生検を施行したところ,免疫染色にて右側は乳管内乳頭腫,左側は乳管内乳頭癌と診断された。左乳癌,cTisN0M0,右乳管内乳頭腫の診断で左乳頭乳輪温存乳房切除術,センチネルリンパ節生検,右乳腺腫瘍切除術を施行した。病理診断は,左側は広範な非浸潤性乳管癌に5 mmの浸潤性乳管癌(硬性型)を伴うもので,pT1aN0M0,triple negative 乳癌であった。右側は異型乳管過形成を伴う乳管内乳頭腫であった。術後は補助化学療法を施行している。末+性乳管内乳頭腫はしばしば癌を併存,続発するという報告があり,慎重なfollow up が必要である。本症例も右乳房に対しても注意深い観察が必要である。 -
術後補助化学療法を導入した75歳以上大腸癌症例の検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description背景: 癌患者の高齢化に伴い,高齢者大腸癌患者への術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy: AC)適用増加が予想される。目的: 75 歳以上の高齢者大腸癌AC 症例における特徴を検討する。対象: AC を導入したpStage ⅢおよびハイリスクpStageⅡ大腸癌48 例。方法: 「75歳以上の高齢者群(O群)12 例」と「75 歳未満の非高齢者群(Y群)36 例」の2 群間における臨床病理学的因子:患者関連14 因子,手術関連6 因子,AC 関連2 因子を比較した。また,2 群間の長期成績を比較した。結果: 2 群間でAC導入前好中球数(p=0.044),手術時間(p=0.044),AC 適用レジメン(p=0.006),投与完遂状況(p=0.046)に有意差を認めた。O 群はY 群と比較して経口剤単独の割合が高く(92 vs 39%),初期設定量での完遂率も高かった(75 vs 39%)。2 年無再発生存率は2 群間に有意差を認めなかった。結語: 高齢者における経口製剤でのAC は,忍容性の面から有用であると考えられる。 -
腹膜播種を伴う胃癌患者に対しS-1+Paclitaxel経静脈・腹腔内併用療法を施行後根治的ロボット支援下胃全摘術を施行した1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description腹膜播種陽性胃癌に対しS-1+paclitaxel 経静脈・腹腔内併用療法(iv+ip)を行い,コンバージョン手術を施行することができた1 例を経験したため報告する。症例は69 歳,女性。胃癌にて紹介受診となった。cT4aN1M0の診断で胃全摘術を施行することとしたが,術中腹膜播種および腹水細胞診陽性を認め非切除とし,腹腔内ポートを留置した。day 1〜14 のS-1内服,day 1,day 8 にPTX のiv+ip を20 コース施行後,審査腹腔鏡を施行しP0,M0と診断した。その後ロボット支援下胃全摘術を施行し,術後病理診断はypT4aN2M0,ypStage ⅢB であった。術後も同様の化学療法を継続し,明らかな再発を認めず術後1年が経過している。 -
S状結腸癌を先進部とする腸重積症の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。下痢,下血,体重減少を主訴に当院を受診した。直腸指診で肛門縁から7〜8 cm に可動性腫瘤を触知した。胸腹部CT 検査では下部直腸にtarget sign を認め,S 状結腸癌を先進部とする腸重積症と診断した。注腸造影では上部直腸に典型的なカニ爪様陰影欠損を認めた。手術所見はCT 検査所見に一致してS 状結腸が直腸内に重積していた。用手整復が可能であったものの口側腸管の浮腫と多量の便塊のため,縫合不全のリスクを考慮して一期的吻合は行わず,D2郭清を伴うハルトマン手術を施行した。摘出標本には5 cm 大の2 型腫瘍を認めた(pT3pN0M0,pStageⅡ)。術後経過は良好で,2 か月後にストーマ閉鎖術を施行した。成人腸重積症は小児に比べてまれな疾患である。腸重積症のCT 診断には,重積による同心円状の層構造を表すtarget signが有用な所見と考えられる。 -
腹腔鏡下胃切除術後に発生した腹腔内デスモイド腫瘍の2 切除例
46巻1号(2019);View Description Hide Description腹腔鏡下胃切除術後の定期検査で発見され,手術にて切除し得た腹腔内デスモイド腫瘍の2 例を経験したので報告する。症例1: 52 歳,男性。胃体部癌に対し腹腔鏡下胃全摘術(Roux-en-Y 再建)を施行した。術後2 年目のCT 検査にて,10 cm 大の充実性腫瘍を認めた。間葉系腫瘍を疑い,小腸部分切除+横行結腸部分切除にて摘出した。症例2: 61 歳,男性。胃体部癌に対し腹腔鏡下幽門輪温存胃切除術を施行した。術後1.5 年のCT 検査にて,胃体上部大弯側胃壁に2 cm 大の腫瘍を認めた。胃GIST を疑い,腹腔鏡下胃部分切除術にて摘出した。病理組織診ではともに錯綜配列をとる紡錘形細胞と豊富な膠原線維を認め,免疫染色の結果を含めデスモイド腫瘍の診断となった。デスモイド腫瘍は浸潤性に増殖する特徴を有しており,外科的マージンの確保と周囲組織の合併切除による侵襲の増加とのバランスを考慮する必要がある。 -
Trastuzumab併用化学療法後に根治切除を施行し得たHER2陽性局所進行胃癌の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。心窩部痛,体重減少を主訴に当院を受診した。精査の結果,胃癌,T4b(pancreas),N2,M0,Stage ⅣA(UICC第8版)と診断され,術前化学療法としてS-1+cisplatin+trastuzumab療法を施行した。2 コース後に腹壁浸潤や幽門狭窄の所見が認められたが膵浸潤は不明瞭化し,リンパ節転移は縮小が認められた。腹腔鏡下胃空腸吻合術を施行した。4 コース後の効果判定はSD であった。腹腔鏡下幽門側胃切除術,腹壁浸潤合併切除を行った。病理組織学的検査は,pT4b(abdominal wall),pN0,M0,Stage ⅢA で,R0 切除を施行し得た。術後補助化学療法として,capecitabine+oxaliplatin 療法4 コースおよびcapecitabine 療法4 コースを施行した。術後1 年6 か月現在,無再発生存中である。局所進行胃癌に対して集学的治療は有用な治療になり得ると考えられた。 -
悪性貧血を合併した胃噴門部癌の1 切除例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。体重減少を認め,検診にて貧血・便潜血陽性を指摘され,近医にて上部消化管内視鏡検査で胃噴門部に2 型進行癌を認めた。CT 検査で胃噴門部癌は食道浸潤を伴い所属リンパ節転移を認めた。抗内因子抗体陽性が確認され,悪性貧血に合併した胃噴門部癌と診断した。ビタミンB12静注療法により貧血が完全に軽快後,開胸開腹胃全摘術+摘脾術,D2,Roux-en-Y再建術を施行した。術後病理診断は,adenocarcinoma(tub1>tub2),Type 2,pT3(SS),pN1(2/24),StageⅡB,INF b,ly1,v2,PM0,DM0,EW(+),pR1であった。術後1 年間S-1 による補助化学療法を施行し,術後5 年現在,無再発生存中である。 -
肺癌小腸転移による穿孔性腹膜炎の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。切除不能肺腺癌(T4N2M0,Stage ⅢB)と診断され,化学療法が施行されていた。経過中に突然の腹痛が出現し,当院へ緊急搬送された。腹部に筋性防御と反跳痛を認め,血液検査で高度炎症反応を認めた。腹部CT 検査では,大量の腹水およびfree airを認めた。小腸の壁肥厚および小腸間膜内に腫瘤を認めた。穿孔性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。小腸部分切除と腹腔内ドレナージを行った。切除標本では潰瘍を伴う腫瘍を認め,その中心に穿孔を認めた。病理組織学的検査で,肺癌の小腸転移と診断された。術後生存期間は29 日であったが,終末期においても経口摂取は可能であった。 -
術前化学療法後に経肛門的局所切除を行い病理学的完全奏効を確認した直腸癌の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。血便を主訴に当科紹介受診となった。精査にて腫瘍下縁が歯状線に接する肛門挙筋に浸潤する半周性の直腸癌を認めた。肛門温存の強い希望があり術前化学療法を導入し,CapeOX+bevacizumab 1 コース,RAS wildが判明した後にCapeOX+panitumumab を7 コース施行した。化学療法後,腫瘍は瘢痕化し,生検では癌細胞は検出されなかったがMRIで拡散低下領域を認め,腫瘍残存が否定できなかった。治療方針の決定のために経肛門的局所切除術を施行し,病理学的に完全奏効が確認されたため追加切除は行わなかった。術後2 年6か月経過観察中であるが,現在無再発生存中である。 -
当院における術前化学療法により肛門を温存できた下部直腸癌および切除可能となった切除不能局所進行大腸癌症例
46巻1号(2019);View Description Hide Description当院で腫瘍縮小による肛門温存や治癒切除を目的に術前化学療法(neoadjuvantchemot herapy: NAC)を行い,良好な結果が得られた症例を報告する。症例1: 50 歳,男性。切除不能直腸癌に対しCapeOX+Bmab 12 コース,capecitabine 3コース+放射線治療(計45 Gy)を施行し,低位前方切除術を施行した。病理所見はpT3pN0pM0,pStageⅡであり,効果判定基準はGrade 1a〜1bであった。症例2: 69 歳,男性。直腸癌に対し肛門温存を目的とし,NACとしてIRIS+Bmab 3コース施行後,ISR+横行結腸人工肛門造設術を施行した。病理所見ではno residual tumor cell,pN0で,効果判定基準はGrade3 であった。当院では上記2 例を含め,NACを施行した大腸癌7 症例中2 例で肛門の温存ができ,切除不能局所進行大腸癌5 例で治癒切除可能となった。術後の平均観察期間は30 か月で,死亡は1 例(術後41 か月原病死),6 例は無再発生存であった。 -
上行結腸癌術後異時性膵転移に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を施行した1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。多発肝転移を伴う上行結腸癌に対して腹腔鏡下右半結腸切除術(D3リンパ節郭清)を施行した。病理組織学的検査ではtub1,pT4apN2H2M1(HEP),pStage Ⅳの診断で化学療法後に肝切除術を施行した。初回手術より1 年9 か月後に閉塞性黄疸を認めた。腹部CT 検査で膵頭部に2 cm 大の腫瘤を認め,精査にて転移性膵腫瘍と考えられた。また,同時期に認めていた左肺転移に対しても切除術を施行後,経過観察中の早期直腸癌を含め亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD-Ⅱ A-1,D1 リンパ節郭清)+低位前方切除術(LAR-D2リンパ節郭清)を施行した。免疫染色検査にてCDX2(+)であり,大腸癌膵転移の診断であった。術後8か月経過するも無再発生存中で経過観察中である。大腸癌膵転移は比較的まれであり,特に切除可能な症例は非常に少ない。外科的切除の明確なエビデンスは示されていないが,長期生存が得られた症例も散見され,今後の症例の集積が必要である。 -
術後早期に癌性リンパ管症を発症し急速な転帰をたどった4型上行結腸癌の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は56 歳,男性。検診のCT で上行結腸の壁肥厚を認め,当科に紹介となった。下部消化管内視鏡検査で上行結腸に全周性狭窄を伴う4 型腫瘍を認め,生検で低分化型腺癌が検出された。入院後の造影CT では閉塞性イレウスと傍大動脈領域に至るまでのリンパ節腫大を認めたが,その他遠隔転移は認めなかった。右半結腸切除術を施行した。病理組織学的検査では,回腸末端から肝弯曲上行結腸までの広範囲に著明な脈管侵襲と間質の線維化を伴う低分化型腺癌の浸潤を認め,scirrhous 型とlymphangiosis 型の二つの特徴を示す4 型大腸癌と診断した。術後第10 病日に癌性リンパ管症を発症し,ステロイドパルス療法を含む集約治療を行ったが第26 病日に呼吸不全のため死亡した。びまん浸潤型大腸癌はまれでかつ予後不良な疾患であり,発症から急速な転帰をたどった本症例を文献的考察を交え報告する。 -
GEMOX 療法が奏効し長期生存が得られた膵癌術後再発の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は38 歳,女性。背部痛を主訴に近医を受診し,膵体部癌の診断となった。腹腔動脈・上腸間膜動脈浸潤が疑われ切除不能と判断され,化学療法目的に当科紹介となった。gemcitabine+S-1(GS)療法を4 コース施行後,腹腔動脈合併膵体尾部切除・門脈合併切除・左腎静脈グラフト再建(OP-CAR)を施行した。病理結果で断端は陽性(R1)であった。術後補助化学療法としてGS 療法を11 コース施行した。その後の経過観察中に肺転移・卵巣転移・局所再発を認め,GS療法を再開した。卵巣腫瘍増大による腹部膨満が著しくなり,両側付属器切除を施行,術中所見にて多発する腹膜播種が確認された。以降もGS 療法を継続したが,腹膜播種による腹水増加と横行結腸狭窄が出現した。腹水コントロール目的に腹水穿刺とともにgemcitabine+oxaliplatin(GEMOX)療法を開始した。腹水は減少し,狭窄症状も消失し18 か月にわたり腫瘍マーカーは減少した。GEMOX療法は35 コース施行できた。その後,化学療法を変更したが効果は得られず,緩和治療に移行した。初診から5 年11 か月,術後5 年6 か月と長期生存した。膵癌術後再発は極めて予後不良であり新規化学療法が第一選択であるが,二次療法以降のGEMOX療法も予後を改善させる一選択肢になり得ることが示唆された。 -
術後急速な転帰をたどった胃小細胞癌の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。前庭部に2 型進行胃癌を認めた。腹部造影CT 検査では胃前庭部に壁肥厚を認め,周囲リンパ節に転移を疑う所見を認めた。開腹幽門側胃切除術,D2,Billroth Ⅰ法再建を行った。術後病理診断で胃小細胞癌と診断され,#6 リンパ節に転移を認めた。腹腔洗浄細胞診でclass Ⅴと診断され,胃癌,L,Ant,type 2,30×25 mm,endocrine carcino-ma,small cell carcinoma,pT2(MP),med,INF b,ly2,v2,pPM0,pDM0,pN2(6/33: #5,#6),M1,P0,CY1,H0,stage Ⅳ,R1(cy+)となった。術後,CapeOX療法を1 コース行うもCEAが急上昇し,CT 検査で腹膜播種の出現を認めた。術後3 か月,CDDP+CPT-11療法を開始し5 コースまで施行したがPD となり,術後1 年で死亡した。 -
FOLFIRI+ベバシズマブ加療中にS 状結腸人工肛門挙上脚の憩室が穿孔した1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。直腸癌の診断で腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術を施行後,再発を認め当科外来にてFOLFIRI+ベバシズマブ(12コース終了)加療中であった。自宅で腹痛を自覚したため,当科を受診した。精査にてS 状結腸人工肛門穿孔を認め,緊急手術を施行した。切除標本に憩室穿孔を認めた。自験例は傍ストーマヘルニアを認め,ベバシズマブ投与と合わせて穿孔の原因と考えた。分子標的薬は悪性腫瘍に対する治療成績の向上に寄与する一方で,穿孔などの特有の有害事象が報告されている。また,ストーマとして挙上されたS 状結腸穿孔の原因としては,洗腸操作,傍ストーマヘルニア,便秘症などが考えられる。自験例では傍ストーマヘルニアによる内圧亢進,ベバシズマブ投与,憩室の存在が穿孔の原因と考えられ,手術によって救命できた症例である。 -
AFP 産生胃癌および胃原発絨毛癌術後の肝再発に対して化学療法を施行しCR を得た1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。腹部CT にて胃から肝外側区域にわたる腫瘤を指摘され,精査にてAFP産生胃癌,肝浸潤の診断となり,手術目的に当科受診となった。術前AFPは 2,688.6 ng/mL と高値を認めた。幽門側胃切除術,肝左葉切除術,胆嚢摘出術を施行した。組織学的所見はchoriocarcinoma of the stomachないしAFP-producing carcinomaであった。術後AFPは基準値内となった。S-1による術後補助化学療法を開始した。術後6 か月から再びAFPが緩徐に上昇,CT 検索するも再発転移は指摘されず,S-1を1 年間完遂した。術後1年2か月でPET-CTおよびEOB-MRIにて肝S1 に再発を認め,weekly paclitaxel(PTX)を開始した。その後12コース終了時点で腫瘍は消失した。現在,術後2年4か月13コース施行,外来通院にて加療継続中である。 -
胃癌術後8年目に乳腺転移を来した1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は66 歳,女性。8 年前に胃癌で幽門側胃切除術を施行し,signet-ring cell carcinoma,ss,n0,stageⅠB で術後療法は不要であった。術後8 年目のCT で右乳房に造影効果を伴う腫瘤影を認めた。触診で右乳房A 領域に境界不明瞭な2cm 大の硬結を触知し,マンモグラフィでは異常所見がなかったが,乳房超音波検査で2.1×0.6cm の境界不明瞭で扁平な不正形低エコー域を認めた。針生検では悪性が否定できず,全身麻酔下に乳房部分切除術を施行した。病理組織学的にはsignet-ring cell carcinomaを思わせ,乳癌としては非典型的であった。腫瘍細胞はPAS 陽性,免疫染色ではCK7,CK20,MUC5ACに陽性,MUC1に陰性であった。8 年前に切除された胃癌も同様の所見を示し,胃癌の乳腺転移と診断した。多発骨転移が判明し,その診断後1 年9か月の現在も加療中である。他臓器悪性腫瘍の転移部位として乳腺はまれな臓器であり,診断は容易ではない。今回,stageⅠB の胃癌が8 年後に乳腺転移を来した1 例を経験したので報告する。 -
術後早期に腹部コンパートメント症候群を来した胆嚢癌による結腸穿孔性腹膜炎の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome: ACS)は腹腔内圧上昇により多臓器障害を来す予後不良な病態であり,最終的な治療手段は外科的減圧開腹である。症例は70 歳,男性。切除不能胆嚢癌と診断し化学放射線療法を行う方針としていたが,経過中に腹膜炎を来し開腹手術を施行した。胆嚢癌の結腸浸潤により生じた上行結腸穿孔性腹膜炎と判明した。穿孔部を含めた回盲部切除および人工肛門造設術を行った。術後6 時間後に腹腔内圧の上昇(28 mmHg)と著明な腹部膨満および拳上腸管の血色不良を認めたため,ACSと判断し減圧開腹と開腹創管理を行った。術後5 病日に閉腹,その後の治療により全身状態は改善したが,約4 か月後に原疾患により死亡した。緊急手術後にACSを来したが,減圧開腹と開腹創管理によって救命した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
術前EC 療法が誘因と思われた薬剤性肺障害の1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は60 歳,女性。約18 年前に左乳癌治療歴あり。転移再発なく経過していたが,約5 か月前に右乳房の有痛性腫瘤を自覚し受診した。精査で右乳癌,cT2N0M0,StageⅡA,ER(−),PgR(−),HER2(−)の診断で抗癌剤化学療法後切除の方針となり,epirubicin(EPI)+cyclophosphamide(CPA)(EC 療法)を開始した。腫瘤は縮小傾向であったが,3コース目受診時に息切れを訴えた。臨床症状,CT 所見,血清SP-D 値の上昇より薬剤性肺障害(drug-induced interstitiallung disease: DILD)と診断した。EC 療法は中止し,状態の回復後に手術を施行(Bp+SN)した。術後S-1 を投与し経過観察中であるが肺障害の再燃,増悪は認めていない。EC 療法がDILD の誘因と思われた。DILD は,多くの抗癌剤で起こり得る合併症である。患者の状態よりDILD の併発を疑った場合には,迅速な診断と適切な対処が重要である。 -
大腸癌肝限局転移に対してシスプラチン粒子を用いたTACE で病勢コントロールが得られた1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は54 歳,女性。閉塞性直腸癌と同時性卵巣転移に対して人工肛門造設後,術前化学療法(CapeOX)を3 か月行った後に直腸切断術および両側付属器切除術を施行した(R0切除)。3 か月後の評価CT で肝転移再発(6 か所)となり,肝切除で全病巣を摘出した。2 か月後に再度肝転移再発を認め全身化学療法(FOLFIRI+bevacizumab)を開始したが,1 か月半で不応となった。抗EGFR 抗体薬+irinotecan で次治療を行ったが4 か月後に不応となり,肝転移に対してシスプラチンを用いたtranscatheter arterial chemoembolization(TACE)を施行すると肝転移の病勢がコントロールされており,有効であると判断した。このためTACEを4〜5か月に1 回程度とし,途中から全身化学療法としてTAS-102+bevacizumabを併用しながら,2 年間で合計5 回施行した。今回われわれは,約2 年にわたり大腸癌肝転移に対してシスプラチン粒子を用いたTACE を行い病巣コントロールが可能であった症例を経験したので報告する。 -
腎癌と上行結腸癌に対し一期的にロボット支援下腎部分切除と腹腔鏡下回盲部切除を施行した1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description腎癌と上行結腸癌に対して,一期的にロボット支援下手術と腹腔鏡下手術にて切除した症例を経験した。症例は70 歳台,男性。前医にて右腎腫瘍を指摘され,当院精査にて上行結腸癌の併存を認め同時切除の方針となった。まず泌尿器科によるロボット支援下手術を先行し,経腹腔アプローチで右半結腸を剥離脱転の上,腎門部での右腎動脈のクランプ下に腎部分切除を行った。続いて半側臥位から仰臥位に体位変換の後ポートを追加し,外科による腹腔鏡下回盲部切除術が行われた。泌尿器科と外科の連携の下,ロボット支援下手術と腹腔鏡下手術が一期的に安全に施行され,低侵襲手術の恩恵が得られた。 -
GEM+Nab-PTX療法で画像上肝転移が消失し根治切除が可能となった膵頭部癌の1例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。CT にて膵頭部腫瘍を指摘され,精査加療目的に当院を紹介受診した。組織診断のためにEUSFNAを実施しadenosquamous carcinomaの結果であった。PET-CTで肝S4 とS7 にFDG の異常集積を認め,遠隔転移を有する切除不能膵癌と診断し,化学療法としてgemcitabine+nab-paclitaxel療法を実施した。化学療法を9 コース実施し,CT で原発巣の著明な縮小とPET-CT での肝転移の消失を認めたため,根治切除として亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行った。病理所見は,Ph,TS1(15 mm),adenosquamous carcinoma,ypT3,ypRP1,ypPL1,R0,ypN0(0/29),M0,CY0,組織学的効果判定はGrade 2 でypStageⅡAであった。術後5 か月間再発なく経過している。 -
Delleを伴う噴門近傍GIST に対する腹腔鏡・内視鏡補助下の小開腹胃部分切除術
46巻1号(2019);View Description Hide Description腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery: LECS)は消化管壁の過剰な切除を避け,臓器の機能や形状の保持を可能とする極めて優れた術式である。これまで胃腫瘍,十二指腸腫瘍に対してLECSを行ってきたが,今回LECS の応用として腫瘍学的リスクを伴う胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)に対するLECS補助下胃部分切除術について新たに考案したのでここに報告する。症例は68 歳,女性。胃体上部小弯のdelle を伴う50 mmの噴門近傍のGIST に対して,まず内視鏡下の胃粘膜切開と腹腔鏡下の胃授動術を行った。腫瘍の切離線の始点と終点に支持糸をかけた。支持糸を用いて腫瘍部の挙上が最短で可能となる腹壁の部位を検索し,同部位に50 mmの腹壁切開を行った。小切開から支持糸を用いて腹腔外に腫瘍部を含む胃壁を導出した。胃の変形を回避して短軸方向に胃局所切除を行った。腹腔鏡あるいは内視鏡手技のみでは腫瘍学的リスクを伴う腫瘍に対し,LECS 補助下小開腹胃部分切除術を行うことで双方の手技の利点を生かした低侵襲で安全な治療が可能である。 -
肝胆膵外科術後の門脈狭窄に起因する消化管出血に対する門脈ステント
46巻1号(2019);View Description Hide Description肝胆膵領域の術後晩期合併症にて門脈狭窄を来し,消化管出血がみられることが知られている。当教室では,2015年より門脈ステントを5 例に留置した。門脈狭窄部の肝側と腸側の圧較差は,ステント留置前後で9〜14(中央値10)cmH2Oから,0〜6(中央値2)cmH2O と全症例で低下し,止血が得られた(観察期間4〜18か月,中央値12 か月)。肝胆膵外科領域の手術では,肝十二指腸間膜の郭清により門脈に流入する静脈も切離される。そのため門脈が狭窄すると,側副路は挙上空腸の腸間膜静脈から胆管空腸吻合部を介して肝門部門脈に求肝性に流入し,粘膜下の脆弱な側副路が破綻し消化管出血を来すと考えられている。内視鏡治療や側副路の塞栓のみでは再出血する可能性が高い。一方,門脈ステントは根本的治療であり,第一選択の治療法と考えられる。 -
集学的治療が有効であった進行膵腺扁平上皮癌の1 切除例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。全身U怠感の精査のCT で左上腹部に10 cm 大の腫瘤を指摘され,当科を受診した。腫瘤は膵体尾部由来の腫瘍で,胃,腹腔動脈,総肝動脈,脾動脈,肝,門脈への浸潤が疑われた。上部消化管内視鏡で胃体上部後壁に潰瘍を伴う壁外から圧排する腫瘤を認め,潰瘍の生検は扁平上皮癌の所見であった。別病変として下部食道に生検で扁平上皮癌を示す早期食道癌を認めた。膵体尾部腺扁平上皮癌の診断で,膵体尾部切除,胃全摘,肝部分切除,門脈合併切除再建術を施行した。断端陽性であった腹腔動脈周囲の後腹膜に対し,術後2 か月から放射線療法を施行した(合計50.4 Gy)。術後5 か月に早期食道癌に対し内視鏡的粘膜切除術を施行した。さらに術後7 か月目から補助化学療法としてS-1 内服を3コース行った。現在術後1 年8か月経過し,再発なく生存中である。進行膵腺扁平上皮癌であっても,切除,放射線治療,抗癌剤による集学的治療により長期生存の可能性がある。 -
閉塞性大腸癌に対する大腸癌ステント挿入後の減圧不成功3 例の検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description2012年4 月〜2017年4 月まで,当院にて閉塞性大腸癌に対するbridge to surgeryの目的で大腸ステントを留置した症例は44 例で,その有益性を認めなかった3 症例を検討した。症例1:直腸S 状部(Rs),上部直腸(Ra)の2 型病変にWallflexTM 60 mm を挿入した。ステントを追加留置したが,症状が持続したため横行結腸ストーマを造設した。症例2: Raの2 型病変にNiti-S 60 mmを挿入したが,ステント内腫瘍増殖による再狭窄のため横行結腸ストーマを造設した。症例3: S状結腸の2 型病変にNiti-S 80 mm を挿入しS 状結腸の減圧には成功したが,CT で下行結腸にも重複癌を認めたため下行結腸の精査目的で横行結腸ストーマを造設した。3 例は,それぞれ異なった原因でステント留置の有用性を認めなかった。今回経験した症例を教訓にして,今後の治療に生かしていく必要がある。 -
腹膜播種陽性胃癌に対し複数回の審査腹腔鏡検査を実施することでConversion Surgeryを実施し得た1 例
46巻1号(2019);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。食欲不振を主訴に近医を受診し,スキルス胃癌と診断され当科紹介となった。審査腹腔鏡を施行し,高度の腹膜播種結節が確認された(CY1,P1)。S-1+ドセタキセル療法を導入し,最良効果判定はPR であったものの主病巣の再増大を認め,weeklyパクリタキセルにレジメンを変更した。効果判定はSDであり,この時点で二度目の審査腹腔鏡を施行し,微小播種結節の残存が確認された(CY0,P1)。腹腔内化学療法(ドセタキセル+S-1+シスプラチン)を施行した後に三度目の審査腹腔鏡でCY0,P0 を確認したため,conversion surgeryの方針となった。開腹胃全摘術,D2リンパ節郭清を施行した。病理診断はypT3N0M0,ypStage ⅡA,組織学的効果判定はGrade 2 であった。術後化学療法としてS-1を実施し,根治術後2 年無再発生存中である。 -
胃癌に対するSOX 療法とショートハイドレーション法によるSP療法の外来投与における忍容性の比較検討
46巻1号(2019);View Description Hide Description胃癌に対するS-1/oxaliplatin(SOX)療法とshort hydration法によるS-1/cisplatin(SP-SH)療法の外来投与における忍容性について,後方視的に比較検討を行った。対象は当院でSOX 療法またはSP-SH 療法を施行した75 歳未満の胃癌患者で,SOX 群は22 例,SP-SH群は30 例とした。ともに1 コース目を入院で施行し,次コースより外来実施を試みた。各療法の外来施行率,再入院症例数,薬剤相対用量強度(relative dose intensity: RDI)と有害事象を評価した。2 コース以上施行した症例における外来施行率はSOX 群で100%(22/22 例),SP-SH 群で 96%(26/27 例)であった。再入院を要した症例はSOX 群で食欲不振1 例,SP-SH群では食欲不振1 例,発熱性好中球減少症(FN)2 例であった。RDI中央値はSOX 群でS-1 が86%,oxaliplatin 85%,SP-SH群でS-1 92%,cisplatin が80%であった。SP-SH 群ではGrade 3 以上の好中球減少が多かった(SP-SH 33% v. s SOX 5%,p=0.012)。SOX群では,全Gradeの食欲不振(SOX 86% v. s SP-SH 50%,p=0.007)と末梢神経障害(SOX 64% v. s SP-SH 23%,p=0.003)が多かった。SOX 療法,SP-SH 療法は食欲不振,FN に留意を要するが,ともに外来で施行可能なレジメンであった。