癌と化学療法
Volume 46, Issue 2, 2019
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総説
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発癌と腸内細菌
46巻2号(2019);View Description Hide Descriptionメタボロゲノミクスによる腸内細菌叢の解析により,腸内細菌叢と各種疾患との関連性が解明されつつある。腸内細菌叢は,宿主に対して免疫制御や腸管機能の恒常性維持において重要な役割を果たしている。dysbiosisは発癌に関連する腸内細菌が増加し,胆汁酸や酪酸などの代謝産物の変化や炎症を惹起することにより上皮の発癌および腫瘍の形成に関与すると考えられている。たとえばenterotoxigenic Bacteroides fragilis(ETBF)などのTh17細胞の分化誘導を来す菌の増加は免疫応答を刺激し,NOD-like receptor family pyrin domain containing 6(NLRP6)インフラマソームの欠乏により誘発されたdysbiosisはinterleukin(IL)-6 起因性上皮増殖を来し,いずれも癌の発生を促進する。大腸癌の発生や予防と関連する腸内細菌に関するデータが蓄積されつつあるが,なかでもFusobacterium nucleatum(F. nucleatum)はBacteroides やPrevotella科とともに発癌における中心的な役割を担っていると考えられている。さらに腸内細菌叢は,発癌のみならず癌免疫療法,特にprogrammed cell death 1(PD-1)および細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)をターゲットとした免疫チェックポイント阻害薬の有効性と有害事象にも影響を及ぼすことが指摘されている。
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特集
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- 終末期症状緩和の在宅コンフォートセット
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在宅コンフォートセットとは
46巻2号(2019);View Description Hide Description自宅で最期まで穏やかに過ごすためには,予測される症状に対する適切な薬物選択と,内服が困難となった際に家族・介護者でも実施可能な投与経路の選択が必要となる。在宅コンフォートセット(以下,セット)は,痛み,呼吸困難,せん妄,気道分泌過多など看取りの時期に生じる苦痛に対する臨時投与薬であり,在宅療養の継続を目的として患家への設置が普及している。セットの導入により迅速な症状緩和が可能となり,救急外来への受診や緊急入院の防止,家族・介護者の不安・負担の軽減,医療スタッフの臨時訪問に伴う経費の削減,訪問看護師のストレスの緩和など多くの効果が報告されている。選択される薬剤は,1 剤で複数の症状に対して効能が発揮されるものが多く,家族・介護者が投与する場合に備えて剤型は液剤(舌下),坐剤などである。わが国においてはセットに関する報告は少なく,最期まで自宅で過ごすという患者本人と家族の願いを叶えていくためにも,セット導入の実態調査とその有効性の検証,課題解決への取り組みが必要である。 -
症状緩和のための臨時投与薬の使用方法
46巻2号(2019);View Description Hide Description終末期症がん患者の症状を緩和するのに,臨時投与薬の果たす役割は大きい。在宅医療の現場においては,その与薬者に患者・介護者がなることが特徴である。臨時投与の流れは,① 症状発現前(準備段階),② 症状発現時(投薬時),③ 症状発現後(評価段階)の三段階に分かれる。臨時投与を適切に行うためには段階ごとに要点がいくつかあるが,なかでも与薬者をいかに医療者が支援できるかが鍵である。支援の内容としては,「起こる可能性の高い症状を前もって説明しておく」,「投与方法は具体的に伝える」,「振り返りができるように薬に関する情報は紙面に残す」,「連絡をいつでも受け,必要な時には臨時訪問するという保証を与える」などである。 -
コンフォートセットは誰のため?―不適切な薬剤使用を止めるために―
46巻2号(2019);View Description Hide Description在宅医療では,苦痛を伴う症状に備えてあらかじめ必要な薬剤を処方しておくコンフォートセット(エマージェンシーキットとも呼ばれる)の有用性が知られている。終末期になってからよくみられる症状は,疼痛,呼吸困難,せん妄(不穏),気道分泌過剰(死前喘鳴)である。必要な薬剤の投与経路の変更とコンフォートセットの処方で必ず苦痛を最小化することが,穏やかな看取りには必須である。 -
ミックス型診療所での在宅緩和ケア対応―患者家族と医療者のコンフォートのために必要なこと―
46巻2号(2019);View Description Hide Descriptionコンフォートセットは狭義には終末期症状緩和に使用する薬剤のセット内容であるが,当然のことながら,① 終末期をそうした薬剤を使用しながら自宅で過ごすことへの希望,了解,説明などいわゆるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践が不可欠であり,訪問開始後も状況に応じて行うが,当院では開始前の在宅相談を患者家族と「ガイド」となる医師とのチーム形成の手段として重視している。② 薬剤の供給・在庫の方法については調剤薬局による訪問薬剤管理指導の導入が望ましいと考えており,当院のがん患者の98%が利用している。また,注射薬やそのデバイス,緊急薬は即応できるように院内在庫を持っている。③薬剤を使うべき状況であることを把握,実施する方法については訪問看護とのシームレスな連携が必要で,当院のがん患者はすべて院内看護師による訪問看護を受けている。在宅終末期ケアでの「患者・家族と医療スタッフのコンフォート」のために,これまでの実践で重要なポイントだと思われる点について述べた。 -
病院からの訪問診療体制と在宅緩和ケア
46巻2号(2019);View Description Hide Description川崎市立井田病院では腫瘍内科と緩和ケアが統合され,抗がん剤から在宅診療までを担う「embedded palliative caremodel」を構築してきた。このモデルにおける訪問診療では院内薬局に豊富な薬剤があることを背景に,緊急時においてもすぐに薬剤を準備することが可能であったため在宅コンフォートセットを作製することに対して積極的ではなかった。しかし在宅コンフォートセットがないことによる問題が散見されるようになり,その作製について議論を始めるべきと考えるようになった。本稿では病院や大規模診療所などからの訪問診療において,コンフォートセットをどのように考えるべきかについて概説する。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科癌 婦人科癌の手術療法
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原著
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進行再発胃癌に対するRamucirumab治療における蛋白尿に関する検討
46巻2号(2019);View Description Hide Description血管新生阻害剤であるramucirumab(RAM)の特徴的な有害事象に蛋白尿がある。今回,尿中蛋白/クレアチニン比(uP/C)の測定意義を明らかにするため後方視的に検討した。RAMを投与された進行再発胃癌23 例,延べ 199 回の尿検査検体を対象とし,蛋白尿の発現頻度とその程度を調査し,尿蛋白定性検査(uPr)と uP/C を比較した。蛋白尿の発現は,43.5%(grade2: 8.7%,grade3: 8.7%)であった。uPr(−〜1+)はすべてuP/C<2 で,uPr(2+)の 12.5%,uPr(3+〜4+)の71.4%はuP/C≧2 であった。uPrで 2+以上では,uP/C の測定が重要である。 -
Analysis of Treatment Failure after Complete Cytoreductive Surgery for Peritoneal Metastasis from Appendiceal Mucinous Neoplasm at a Japanese High Volume Center for Peritoneal Surface Malignancy
46巻2号(2019);View Description Hide Description虫垂由来の腹膜偽粘液腫(AMCP)に対する腹膜切除と温熱化学療法(HIPEC)は現在世界の標準治療である。しかしAMCP完全切除後(CCR-0)の再発やそのリスクファクターは十分解明されていない。対象・方法:腹膜播種を完全に切除したAMCP 400例の術後再発形式を解析した。結果:再発は135 例(33.8%)にみられた。5・10 年無増悪生存率は51%・49%であった。多変量解析で組織亜型[high-grade AMCP(AMCP-H),AMCP-H with signet ring cells],術前血清CA19-9>37,PCI≧20 が有意に無増悪生存率を低下させる因子であった。一方,無細胞性腹水は再発低リスク群であった。再発135 例のうち86 例は限局性腹腔内再発,42 例は多発性再発であった。再発は腹腔内の様々な部位に認められた。81 例に再発巣の完全切除が行われ,再手術後の5 年生存率は49%であった。一方,不完全切除例や非切除例は5 年以内に全例死亡した。考察: 再発関連因子は組織亜型・PCI cut-off値・術前血清CA19-9値であった。限局性再発に対し積極的に再切除を行うことが予後改善につながる。
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症例
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Modified FOLFOX6+Panitumumab療法中に高アンモニア血症による意識障害を発症した切除不能進行大腸癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。上行結腸癌および多発肝転移の診断でmodified FOLFOX6+panitumumab療法を開始した。忍容性に問題はなく腫瘍の縮小も得られ経過は良好であったが,8 サイクル目の3 日目に高アンモニア血症(NH3 474 mg/dL)を伴う意識障害を発症し,5-FU に起因する高アンモニア血症と診断した。補液管理,分岐鎖アミノ酸製剤の投与で意識レベルは速やかに改善した。次治療として静注5-FUから経口フッ化ピリミジン製剤(S-1)へ変更したが,その後は高アンモニア血症の発症は認めていない。 -
術前化学療法に難渋した乳腺原発小細胞癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description乳腺原発小細胞癌はまれで進行が早く,明確な治療方針が存在しない。今回,術前化学療法に難渋した乳腺原発小細胞癌の症例を経験したので報告する。症例は35 歳,女性。右乳房腫瘤を主訴に受診し,8 cm 大の腫瘤を認めた。精査で乳腺原発小細胞癌,cT3N1M0,cStage ⅢA,ER 陽性HER2 陰性と診断した。術前化学療法の方針とし,肺小細胞癌に準じてcisplatin(CDDP)+etoposide(VP-16)を施行したが,腫瘍は増大した。次に乳癌に準じてFEC 療法(5-FU+epirubicin+cyclophosphamide),続いてweekly paclitaxel(PTX)を施行し,腫瘍は縮小した。乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を施行した。術後放射線療法,ホルモン療法を施行したが,10 か月後に多発肝転移,骨転移で再発し,術後11 か月に死亡した。治療方針を確立するため,症例の蓄積が望まれる。 -
ヒラメ筋転移をきたした腸型肺腺癌と考えられた1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は50 歳代,男性。X−1 年6 月ごろより右下腿の違和感が出現し,X 年3 月に当院を受診した。画像検査で右ヒラメ筋内の腫瘤を指摘,X 年4 月に針生検を施行されadenocarcinomaと診断。免疫染色にてCK20,CDX-2が陽性で,大腸癌など消化管悪性腫瘍の転移の可能性がまず考えられた。FDG-PET/CT では右肺尖部腫瘤と右縦隔リンパ節の腫大を認め,右ヒラメ筋とともにFDG 集積を伴い原発性肺癌も疑われた。同月,呼吸器内科を受診し,右上葉病変に対する擦過細胞診でadenocarcinomaの診断を得た。上部・下部消化管内視鏡検査で異常所見を認めず腸型肺腺癌(cT3N2M1b,Stage ⅣA)と考え,cisplatin(CDDP)+pemetrexed(PEM)+bevacizumab(BEV)を施行した。4 コース終了時点で病変は縮小傾向を示し,stable disease(SD)を維持している。 -
薬剤関連顎骨壊死から頭蓋内硬膜外膿瘍を来した1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description乳癌骨転移の患者に化学療法に加えbisphosphonateとdenosumabを投与した。化学療法は有効であったが,顎骨壊死が発症しこれが頭蓋内硬膜外膿瘍にまでおよび死亡した。これらの薬剤の薬剤関連顎骨壊死の報告が散見されるが,頭蓋内硬膜外膿瘍まで来した症例はまれである。顎骨壊死の機序や治療の詳細は不明であり,投与時には予防手段としての口腔ケアの重要性が示唆された。 -
四次治療のトラベクテジン投与にて長期の無増悪生存期間が得られている平滑筋肉腫再発の1 症例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。2011年12 月に後腹膜平滑筋肉腫を切除後,2015 年7 月のCT検査で多発肝転移再発を認め,ドキソルビシン単剤による治療を開始した。有害事象によるperformance status低下にて,2 コースでパゾパニブへ変更した。その後,二次治療のパゾパニブ5 か月,三次治療のエリブリンは2.5 か月で病勢進行を認めた。2016 年7 月より四次治療のトラベクテジンによる加療を開始し1 年6か月が経過しているが,多発肝転移巣の一部は縮小も認め,特に重篤な有害事象はなく現在も治療継続中である。文献的な考察も加え報告する。
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短報
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Pegfilgrastimの予防投与下でのCabazitaxelによる好中球減少症出現に関する危険因子の特定
46巻2号(2019);View Description Hide DescriptionProphylaxis using pegfilgrastim is recommended to prevent cabazitaxel-induced neutropenia. We observed GradeB3 neutropenia in a patient after administration of cabazitaxel, despite prophylaxis using pegfilgrastim. To identify the risk factors associated with GradeB3 neutropenia, we retrospectively investigated the records of 10 patients who received prophylaxis with pegfilgrastim after administration of cabazitaxel. They were divided into GradeB3 neutropenia and non-GradeB3 neutropenia groups, and we compared the background data and laboratory values between the 2 groups. A univariate analysis revealed that hypoalbuminemia was significantly observed in patients with cabazitaxel-induced GradeB3 neutropenia. The incidence of GradeB3 neutropenia was significantly high in patients with serum albumin levels<3.6 g/dL. Cabazitaxel has a high rate of protein binding; moreover, serum albumin levels<3.6 g/dL might be associated with high concentrations of unbound cabazitaxel, and thus an increase in the incidence of GradeB3 neutropenia. Therefore, hypoalbuminemia at the time of administration of cabazitaxel may be a risk factor related to the development of GradeB3 neutropenia.
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特別寄稿
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- 第40回 日本癌局所療法研究会
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急激な転帰をたどった上行結腸癌による播種性骨髄癌症の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。上行結腸癌にて当科紹介となり,右半結腸切除術,3 群リンパ節郭清を施行した。病理診断は印環細胞癌で,合併切除した回腸間膜内のリンパ節に転移を認めた。T4a(SE),N2b,M1a(LYM),Stage Ⅳ,R0,Cur Bであった。術後はcapecitabine療法を施行した。術後8 か月にCEAの軽度上昇を認めたが,CT では明らかな転移は指摘できなかった。術後9 か月目に腫瘍マーカー(CEA/CA19-9)の急上昇,血小板の著明な減少,皮下出血班を認め,播種性血管内凝固症候群(DIC)と診断され,緊急入院となった。CT で胸椎転移を指摘された。骨シンチグラフィでは肋骨,胸腰椎などに多発性の異常集積像を認めた。骨髄生検を施行し,播種性骨髄癌症と診断された。全身状態が不良で化学療法は導入できないままDIC が進行したため,診断から14 日目に死亡した。急激な経過をたどった大腸癌播種性骨髄癌症の1 例を経験した。 -
SOX+Bmab療法中にネフローゼ症候群を来した直腸癌術後肝転移の1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。直腸癌多発肝転移にて,低位前方切除術を施行した。最終病理診断はpT4a,pN2,cM1a(H2),cP0,fStage Ⅳ,RAS wild typeであった。術後4 週目よりSOX+Bmab療法を開始した。9 コース終了後,下腿浮腫が出現した。尿蛋白 4+であったため腎臓内科に入院した。尿蛋白 1 日量は 14.7 g/day と上昇し,採血にて Alb 2.0 g/dL,TP4.9 g/dL と低値であったためネフローゼ症候群と診断した。抗癌剤の中止および保存的加療にて改善し,退院した。退院後3 か月目に尿蛋白は陰性化した。現在まで約4 か月,SOX療法を継続中である。 -
回腸末端に巻絡し腸閉塞を来した低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は手術歴のない67 歳,女性。腹痛,嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された。来院時下腹部は膨隆し,強い自発痛を認め,圧痛・腹膜刺激兆候は認めなかった。造影CT 検査で小腸は拡張し,造影不良域はないが腹水の貯留を認めた。絞扼性腸閉塞を疑い,緊急手術を施行した。腹水は漿液性で,回腸結腸移行部に発赤腫大した虫垂が巻きついて腸閉塞を生じていた。巻きついた虫垂を剥離すると,回腸は菲薄化して色調不良を認め血流障害を来していた。虫垂腫瘍が原因であったため,D3 郭清を伴う回盲部切除術を施行した。術後は良好に経過し,術後13 日目に軽快退院した。病理結果は低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm: LAMN)(TNM分類第8 版: TisN0M0,Stage 0)であり,再発なく外来通院中である。LAMNが原因となり腸管虚血を伴う腸閉塞を来した症例はまれではあるが,開腹歴のない腸閉塞の原因として念頭に置く必要があると考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
オキサリプラチンによる副作用で肛門部痛を呈した直腸癌術後の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は28 歳,女性。骨盤内を占拠する直腸癌を認め,術前化学療法としてSOX+Cmab療法を2 コースとFOLFOX+Cmab 療法を4 コース行い,主病巣の縮小を認めた後に腹腔鏡下低位前方切除術,両側側方リンパ節郭清術を施行した。術後にFOLFOX による補助化学療法を実施したところ,激しい肛門部痛を訴え来院した。その後のFOLFOX 治療後にも激しい肛門部痛を認め,排便により痛みは増強した。オキサリプラチンによる副作用を疑いsLV5FUによる補助化学療法を実施したところ肛門部痛の出現はいっさい認めず,オキサリプラチンに誘導された肛門部痛と断定した。オキサリプラチンによる末梢神経障害は広く知られた副作用であるが,肛門部痛を呈することは非常にまれで貴重な症例と考えられた。 -
肝動脈化学塞栓療法後に外科切除を実施して長期生存が得られた胆管内腫瘍栓を伴う肝細胞癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は78歳,女性。黄疸を主訴に来院した。ウイルス性肝炎は陰性で,AFP 925 ng/mL,PIVKA-Ⅱ 6,820 mAU/mLはともに上昇していた。CT 検査で肝S1 に径3 cm 大の腫瘍と,これより連続して右肝管内に至る胆管内腫瘍栓を認めた。胆管内腫瘍栓を伴う肝細胞癌と診断し,減黄を図りつつ肝動脈化学塞栓療法を実施後に肝左葉切除,尾状葉切除,肝外胆管切除を実施した。胆道鏡検査で胆管内腫瘍栓の右肝管への浸潤が疑われ,右前・後区域胆管合流部直下で胆管を切離した。病理組織学的には中分化型肝細胞癌で胆管内腫瘍栓を認めたが,血管侵襲陰性,切離断端陰性であった。術後5年4か月が経過し,無再発生存中である。自験例の経験および文献的考察から,根治切除が可能な胆管内腫瘍栓を伴う肝細胞癌では長期生存が得られる症例が存在するので,肝切除を考慮するべきである。 -
直腸GIST 肝転移膵転移再発に対して切除を含む集学的治療を行い長期生存中の1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。2004年に直腸GISTに対して近医でMiles'手術を施行された。2005 年,2006 年に肝転移再発に対して肝部分切除術を施行された。2006年 6 月よりイマチニブ(400 mg/日)を投与開始した。2016 年 10 月に肝転移巣増大と膵転移を指摘され,当院紹介となった。腹部CT 検査では肝S4,S6/7,S7/8 に,それぞれ45 mm,20 mm,20 mm 大の低濃度腫瘤を認め,膵体部にも1 2 mm 大の低濃度腫瘤を認めた。治療として薬剤変更も検討したが,切除を希望したため2017年に肝右葉切除術,膵体尾部切除術を施行した。病理では楕円形の核をもつ紡錘形細胞が束状に配列し,錯走するように増殖し,核分裂像は 43/50HPF であった。免疫染色では c-kit 陽性,CD34 陽性,S-100 陰性,desmin 陰性であった。gastrointestinal stromal tumor(GIST)の肝転移,膵転移と診断した。その後イマチニブ(400 mg/日)を投与継続し,明らかな再発転移を認めていない。 -
腹腔鏡下手術を行った胃底腺型胃癌の2 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例1 は66 歳,男性。当院の健診にて上部消化管内視鏡検査を施行し噴門部大弯に7 mm大の隆起性病変を認め(生検: tub1,2),早期胃癌の診断でendoscopic submucosal dissection(ESD)を施行した。病理所見で胃底腺型胃癌(gastricadenocarcinoma of the fundic type: GA-FG)の診断に至り,深達度SM2 にて追加切除(腹腔鏡下噴門側胃切除術)を行った。症例2 は65 歳,女性。Helicobacter pylori(HP)除菌後のフォローの上部消化管内視鏡検査にて体上部後壁に8 mm大の隆起性病変を認め生検の結果,GA-FGと診断した。ESD を施行し,深達度SM2にて追加切除(腹腔鏡下噴門側胃切除術)を行った。胃底腺胃癌は低悪性度で予後良好とされており,診断治療目的に内視鏡的治療が行われることが多く外科的切除の報告は少ない。今回,ESD後に腹腔鏡下手術を行ったGA-FG の2 例を経験したので文献的考察を含めて報告する。 -
十二指腸乳頭部癌の肝転移に対して集学的治療を繰り返すことにより長期生存を得た1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。70 歳時に十二指腸乳頭部癌に対して内視鏡的乳頭切除術を施行した。病理標本では腺腫内に粘液癌を認めた。71歳時に肝転移(S6,単発)が出現したため,ラジオ波焼灼療法(RFA)を施行後に補助化学療法(gemcitabine)を行った。73歳時に同部位に肝転移再発を認めたため,2 回目のRFAを施行後に補助化学療法(S-1)を行った。79 歳時に肝S6 のRFA 施行部に再々発病変を認めた。他部位に新規病変を認めなかったため,根治切除として肝S6 亜区域切除術を施行した。術後経過は良好であり,術後5 か月経過した現在,無再発生存中である。肝胆膵領域悪性腫瘍のなかでは,比較的予後は良好である十二指腸乳頭部癌においても遠隔転移症例は一般的には非常に予後不良である。しかしながら,肝切除やRFA などの局所治療に化学療法を加えた集学的治療を行うことで,遠隔転移症例においても長期生存が得られることが示唆された。 -
年齢を考慮した高齢者男性乳癌の治療経験
46巻2号(2019);View Description Hide Description男性乳癌は全乳癌の約1%と比較的まれな疾患である。われわれは,年齢を考慮して治療を行った高齢者男性乳癌の症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は78 歳,男性。右乳房腫瘤を主訴に当科を受診した。視触診で右乳房E 領域に3 cm 大の腫瘤を触知した。マンモグラフィ検査で右乳房S 領域に境界不明瞭な腫瘤を認めた。乳房超音波検査で右乳房E 領域に33×31 mm の境界明瞭粗造な分葉状低エコー腫瘤を認め,針生検の結果,浸潤性乳管癌の診断であった。全身検索にて明らかな遠隔転移は認めず,胸筋温存乳房切除術およびセンチネルリンパ節生検術を施行した。術中迅速診断にてセンチネルリンパ節転移は陽性であったため,腋窩リンパ節郭清術を追加施行した。病理組織学的検査にて充実腺管癌(t=3.5 cm,nuclear grade 3,ly+,v+,SN 1/1,level Ⅰ 0/2,level Ⅱ 1/1,ER+,PgR+,HER2 0,Ki-67 14%)であった。高齢であることから術後化学療法は施行せず,タモキシフェンの投与を行った。術後9 か月が経過しているが,無再発生存中である。 -
頸部リンパ節腫脹を契機に発見された高齢者進行乳癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description乳癌は原発巣から領域リンパ節を越えて進展すると治癒は困難とされる。転移乳癌の治療としては全身療法が一般的であるが,標準治療が困難な症例も存在する。われわれは,頸部リンパ節腫脹を契機に発見された高齢者進行乳癌の1 例を経験したので報告する。症例は82 歳,女性。左頸部リンパ節腫脹を主訴に耳鼻科を受診した。生検の結果,乳癌からのリンパ節転移の疑いで当科を紹介受診した。左乳房CD領域に4 cm 大の腫瘤を触知し,深部に痛みを伴っていた。超音波検査で39×31 mmの不整形混合エコー腫瘤を認めた。針生検では浸潤性小葉癌と診断された。全身検索にて左腋窩から鎖骨上,頸部にかけ複数の腫大リンパ節を認め,左乳癌,T2N3cM1,stage Ⅳ(LYM)と診断した。乳房痛の症状緩和目的に手術を先行し,Bt+Ax(Ⅱ)を施行した。病理組織学的診断は浸潤性小葉癌でリンパ節転移を認めた。術後は経口5-FU 系薬剤の投与を行い,頸部リンパ節腫脹は縮小傾向を認め術後1 年10か月現在,明らかな内臓転移は認めていない。 -
超高齢者肝細胞癌患者に対する肝切除術の検討
46巻2号(2019);View Description Hide Description肝細胞癌(HCC)治療の第一選択は肝切除術であるが,超高齢者(80 歳以上)は多彩な基礎疾患や心肺機能の低下があることが多く,手術のリスクが高い。今回,超高齢者HCC 患者に対して肝切除術を施行した症例を対象として検討し,その安全性と有効性を検討した。当院で2009〜2015年までに初回肝切除術を施行したHCC 症例348 例のうち,手術施行時に80 歳以上の23 例(Group 1)と80 歳未満の325例(Group 2)の安全性と予後についての項目を比較検討した。出血,手術時間は両群間に差を認めなかった。術中輸血はGroup 1 56.5%,Group 2 29.2%(p=0.0060)と高齢者に多い傾向にあった。Clavien-Dindo分類Grade Ⅲ以上の合併症は両群に有意差は認めなかった。Group 1 の肝切除後の生存期間中央値45 か月,5 年生存率は30.7%で,Group 2 の生存期間中央値52 か月,5 年生存率47.2%とGroup 2 に良好な傾向は認めたが,有意差は認めなかった。さらにpropensity score(PS)による調整,マッチングを行った後に同様の項目を比較したところ,両群の合併症,入院期間,予後に有意差は認めなかった。適切な腫瘍学的因子,患者のリスクファクター評価により,超高齢者HCC に対する肝切除術も安全かつ有効に施行可能であった。他に予後を規定する他疾患がなければ非超高齢者と同等な予後が期待できると考えられる。超高齢者というだけで治療法を制限せず,積極的な治療も考慮するべきだと考えられる。 -
大腸癌イレウスにおける減圧の有用性の検討
46巻2号(2019);View Description Hide Description目的:大腸癌イレウスにおいて,病変を切除するに当たり減圧を先行すべきか否かを明らかにする。対象: 2006 年1月〜2016 年8 月に大腸癌イレウスに対して切除を行った83 例を対象とした。十分な減圧を行った後に切除を行った群(以下,減圧群)と減圧されずに切除を行った群(以下,非減圧群)に分け,① 大腸癌周術期の臨床学的因子,② StageⅡ,Ⅲの予後について検討を行った。結果:① 減圧群50 例,非減圧群は33 例であった。非減圧群で右側大腸が多く,減圧群で手術時間が長く,出血量が多く,入院期間が長かった。また,左側大腸癌イレウスでは重症合併症は非減圧群で有意に多かった。②DFS,OS は,ともに有意差は認めなかった。左側大腸癌イレウスに限るとOSは有意差を認めないものの,DFS は減圧群で良好であった。結語:左側大腸癌イレウスでは減圧してからの切除が望ましい。 -
癌局所療法としての大腸内視鏡的粘膜下層剥離術の検討
46巻2号(2019);View Description Hide Description大腸癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は,近年普及してきている。今回,当院での大腸腫瘍ESD 治療成績を検討した。2005年11 月〜2017 年4 月までにESDを施行した515 例(580病変)を対象とした。治療経過,臨床病理学的因子,予後を検討した。病変占拠部位は,横行結腸が134 病変と最多であり,肉眼形態は表面隆起型が347 病変と多かった。平均腫瘍径は26 mm,最大腫瘍径は120 mmであった。完遂率は99%と高率で,一括切除率96.2%,平均所要時間は51 分であった。合併症は,内視鏡的止血術を要した後出血が7 例(1.2%)あった。微小穿孔3 例(0.5%)は全例保存的に軽快した。SM軽度浸潤までの治癒率は99.8%であり,粘膜内再発を認めたM癌の1 例は再度内視鏡的切除をし得た。大腸ESDは一括切除率および治癒率が高く良好な治療成績が得られ,SM 軽度浸潤までの癌局所療法として根治性および安全性において有効な治療法と考えられた。 -
肝門部胆管癌術後に挙上空腸静脈瘤破裂による消化管出血を来した2 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description挙上空腸静脈瘤からの出血と診断し,それぞれ経皮経肝的静脈瘤塞栓術,経回腸静脈的静脈瘤塞栓術と異なるアプローチで止血を得られた2 例を経験した。症例1 は64 歳,男性。肝門部胆管癌に対し拡大右葉切除を施行し,術後多発肝転移を認め化学療法を施行中であった。初回手術より3 年6か月経過後,下血を認め救急搬送となった。症例2 は69 歳,男性。肝門部胆管癌に対し左三区域切除を施行した。術後,門脈血栓を発症したため血栓除去を行ったが,血流再開が得られず結紮処置を施行し退院した。初回手術より6 か月後,吐下血を認め救急搬送となった。症例1,2 ともに胆道再建後のため内視鏡挿入も困難で診断に難渋したが,IVR にて止血し得た。以上より,胆道再建後の消化管出血の鑑別として異所性静脈瘤を念頭に置くことが重要である。 -
複数回転移巣切除を施行した後の直腸癌膵転移に対して膵体尾部切除術を施行した1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。特記すべき既往はない。10 年前に直腸癌に対して低位前方切除術を施行したが,同時性単発性肝転移があり術後Stage Ⅳと診断した。術後6 か月間mFOLFOX6療法を施行後,肝後区域切除術を施行した。さらに初回術後9 年までの間に単発性肺転移に対して,計5 回根治的転移巣切除術を施行した。初回術後10 年時の造影CT 検査で膵体部異常結節を指摘され,EUS-FNAを含めた精査を行った。直腸癌膵転移を最も疑ったが原発性膵癌も否定できないという結果で,D2 リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除術を施行した。術後病理組織学的検査では直腸癌膵転移の診断であった。また,膵周囲リンパ節転移は認めなかったが,術前に指摘されていない膵尾部にも複数の転移巣を認めた。膵体尾部切除術後1 年経過し,無再発生存中である。大腸癌膵転移の切除例は比較的まれであるが,耐術能があり再発臓器が単一臓器である場合,膵切除術は治療方針の一つとして考慮されるべきと思われた。 -
膵癌切除後の残膵再発に対して残膵切除を行い長期生存が得られた1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳台,女性。乳癌多発肺転移に対する治療中に閉塞性黄疸が出現し,当院を紹介受診した。膵頭部に19 mm大のSOLを認め,膵癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織診断は浸潤性膵管癌,進行度はT3N1M0,StageⅡB であった。術後20 か月目のCT で膵尾部にSOL が出現し,残膵再発の診断で化学療法を12 か月間施行したところ他に新たな再発病巣の出現はなく,乳癌の肺転移にも増悪がみられなかったため初回切除から2 年10 か月目に残膵全摘術を施行した。病理組織像は初回切除時のものと類似しており,残膵再発と診断した。残膵全摘後は,乳癌多発肺転移に対するホルモン療法のみ施行していたが,残膵全摘後5 年2か月目に乳癌の増悪により死亡した。その間,膵癌の再々発は認めなかった。本症例は,膵癌切除後の残膵再発に対して残膵切除を施行し,長期生存が得られたまれな症例と考えられた。 -
高齢者に発症しセンチネルリンパ節生検を施行した男性乳癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description高齢者に発症しセンチネルリンパ節生検術を施行した男性乳癌を経験したので報告する。症例は75 歳,男性。左前胸部に圧痛を認め,近医を受診した。超音波検査で乳頭直下の腫瘤を発見されたため,当科を紹介受診した。来院時,左乳頭直下に直径20 mm の腫瘤を触知した。マンモグラフィ検査では左S 領域に腫瘤陰影を認めた。超音波検査では左乳頭直下に境界明瞭で粗造な直径21 mm の低エコー腫瘤を認めた。造影MRI 検査では造影される腫瘤陰影を認めた。針生検を施行したところ,浸潤性乳管癌と診断された。全身検索を施行後,左乳癌(T2N0M0,StageⅡA)の診断で胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断では充実腺管癌,ER 陽性,PgR 陰性,HER2陰性,Ki-67 20%と診断された。術後経過は良好であり,第9 病日に退院した。現在,tamoxifenを投与して経過を観察している。術後2 年目の現在,明らかな転移・再発を認めていない。 -
Mohs軟膏・内分泌療法・骨転移治療薬で病勢制御を得た高齢者高度進行乳癌の1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は81 歳,女性。左乳房出血を主訴に当科初診となった。乳房より露出する直径10 cm の出血を伴う腫瘤を認め,生検で浸潤性小葉癌,ER(+)の病理診断を得た。画像評価で腫瘍の大胸筋への直接浸潤,脊椎・骨盤・大腿骨・胸骨・肋骨転移の所見を認め,左乳癌,T4cN0M1(OSS),cStage Ⅳの診断となった。原発巣切除不能のためMohs軟膏による出血制御を行い,病理診断結果と年齢を考慮し,全身療法は内分泌療法・骨転移治療薬導入の方針とした。Mohs軟膏は週1 回外来で塗布し,治療開始後2 か月で乳房表面の腫瘤は消失し,以降は再塗布なく経過した。治療開始3 か月後の精査で左乳房腫瘤は消失し,骨転移部位の集積は増悪を認めなかった。治療開始1 年6か月後の現在,病変増悪なく治療継続中である。露出した非切除癌の出血・滲出液などの局所症状に対しMohs 軟膏はQOL 改善に有用であり,全身療法と組み合わせた治療手段の一環としても重要であると思われた。 -
乳癌・子宮体癌を同時に呈した重複癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description昨今,癌罹患者数の増加と生存率の上昇に伴い,重複癌を経験することは少なくない。特に同時性重複癌は,各腫瘍の病期・予後により治療の順番や方針が大きく変化するため慎重な検討が必要となる。今回,乳癌・子宮体癌の同時性重複癌を経験したため報告する。症例は40 歳,女性。不正出血のため当院婦人科を受診し,組織診でendometroid adenocarcinomaGrade 2 の診断となった。骨盤部MRI 検査では子宮体部に,頸部に隣接した病変を認めた。術前検査を施行中,造影CT で右乳房に造影結節を認め精査目的に乳腺外科受診となった。超音波検査で右AC 領域に23 mm 大の分葉状低エコー腫瘤を認めた。針生検の結果はpapillotubular carcinoma(ER 陰性,PgR 陰性,HER2 1+,Ki-67 77%)であった。以上より,右乳癌,T2N0M0,stageⅡB,子宮体癌,T2N0M0,stageⅡの診断となり,乳腺外科で右Bt+SNを施行し,退院2 週間後に婦人科で広汎子宮全摘術を施行した。術後は婦人科でTC 療法を6 コース実施し,現在は乳腺外科でEC 療法を施行中である。 -
GCS 療法奏効後に肝障害が出現し肝外胆管切除術にてR0を得た肝門部領域胆管癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。黄疸を発症し,endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)で肝門部領域胆管の狭窄を指摘され,生検結果は腺癌であり,肝門部領域胆管癌と診断された。精査によりリンパ節転移を認めたため,術前治療としてgemcitabine/cisplatin/S-1併用療法を施行した。6コース終了後腫瘍は著明に縮小したが肝障害を認め,肝切除は困難だが化学療法は継続可能と考え同治療を継続した。治療継続により腫瘍縮小状態を維持したが,肝障害も徐々に進行した。17コース終了後に手術目的で3 か月の休薬期間を設けたが肝機能の改善を認めず,依然肝切除は困難であった。しかし画像上腫瘍は消失し,生検でも肝門部領域胆管に異型細胞を残すのみであったため治療開始から15 か月後に肝外胆管切除,肝門部リンパ節郭清術を施行した。病理診断はypT2bN1M0 でR0 切除であった。術前治療は効果的であるが,肝障害を合併する可能性を考慮する必要があると思われた。術前治療の著効により肝外胆管切除のみでR0 が得られた症例は非常にまれであり,文献的考察を加えて報告する。 -
全自動乳房超音波画像診断装置(ABUS)の高齢者への使用経験
46巻2号(2019);View Description Hide Description全自動乳房超音波画像診断装置(automated breast volume scanner: ABUS)を認知症の高齢者に使用し,検査に難渋したので報告する。症例は84 歳,女性。介護施設に入所中である。入浴時に職員が右乳房腫瘍に気付き,当科を紹介・受診した。来院時,右AC領域に25 mmの腫瘤を触知した。マンモグラフィ検査ではspiculationを伴う腫瘤として描出された。従来型の超音波検査では同部に25 mmの境界不明瞭な低エコー腫瘤を認めた。検査施行時に体動は激しかったが,体動に合わせて良好な画像を得ることができた。ABUS(GE社製)による検査では乳房圧迫後の体動が激しく,良好な画像を得ることができなかったため家族の承諾を得て睡眠中に施行した。針生検で浸潤性乳管癌と診断した。胸筋温存乳房切除+センチネルリンパ節生検術を施行した。一定時間静止状態を維持できない症例には,従来型超音波機器のほうが良好な画像を得やすいものと考えられた。 -
全自動乳房超音波画像診断装置(ABUS)のPaget病診断時の問題点について
46巻2号(2019);View Description Hide Description全自動乳房超音波検査には様々な利点と欠点がある。今回われわれは,全自動乳房超音波画像診断装置(ABUS: GE社製)で描出できなかったPaget病を経験したので報告する。症例は41 歳,女性。5 年前より左乳頭のびらんに気付いていたが放置していた。しだいに増大し,出血を伴うようになったため当科を受診した。来院時,左の乳頭・乳輪・周囲皮膚に易出血性のびらんを認めた。マンモグラフィ検査では,左乳頭周囲皮膚の伸展不良を認めた。従来型の超音波検査では,同部に皮膚の肥厚と皮下に低エコー領域を認めた。皮膚の肥厚部に血流信号は認めなかった。ABUSによる検査では,皮膚の肥厚・皮下の低エコー所見などを認めなかった。外科的生検でPaget病と診断され,胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検術を施行した。永久標本でPaget病,リンパ節転移なしと診断された。 -
高齢者に発症した同時性両側性乳癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description高齢者に発症した同時性両側性乳癌を経験した。症例は75 歳,女性。検診で異常を指摘され,当科を受診した。右乳房A 領域にdimplingを認めた。対側乳房,両側腋窩リンパ節に異常を認めなかった。マンモグラフィ検査では右MI領域にspiculation を伴う腫瘤陰影を認め,左MO 領域に多形性不均一区域性石灰化を認めた。超音波検査では右A 領域に直径20 mmの不整形腫瘤,左ACE領域に低エコー域を認めた。針生検の結果,両側ともに浸潤性乳管癌と診断された。全身検索の後,両側乳癌の診断で両側胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織診断では,右側は乳頭腺管癌,ER 陽性,PgR 陽性,HER2 陰性,Ki-67 20%(T1N0M0,StageⅠ),左側は乳頭腺管癌,ER 陽性,PgR 陰性,HER2陰性,Ki-67 5%(T1N0M0,Stage Ⅰ)と診断された。letrozoleを5 年間投与した後,術後8 年目の現在,明らかな転移・再発を認めていない。 -
原発性十二指腸癌15切除例の臨床病理組織学的検討
46巻2号(2019);View Description Hide Description原発性十二指腸癌は,その治療方針に関しての報告が少ない。2005年4 月〜2017年12 月までの期間,当院にて根治的切除が可能であった原発性十二指腸癌15 例を対象として,その手術成績を検討した。予後解析の結果は無再発生存期間(relapse-free survival: RFS)の中央値が49 か月,全生存期間(overall survival: OS)の中央値は74 か月であった。5 年生存率は47%であった。RFS に関する単変量解析では,リンパ節転移の有無(p<0.01)と術後補助化学療法の有無(p=0.02)が有意な予後規定因子であった。リンパ節転移の分布と深達度および腫瘍占拠部位との関連性についての検討では,深達度や占拠部位によらず膵頭部周囲や肝十二指腸間膜内リンパ節への転移が認められる症例が存在していることから,根治的切除を得るにはリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術が必要である可能性が示唆された。 -
胃癌術後肝転移再発にS-1が奏効した1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description胃癌術後早期再発の予後は不良である。今回われわれは,胃癌術後早期肝転移再発に対しS-1 療法が奏効した症例を経験したので報告する。症例は81 歳,女性。貧血を主訴に当院を受診し,上部消化管内視鏡検査にて幽門前庭部小弯に2 型腫瘍を認めた。CT所見ではリンパ節転移は認めず,遠隔転移も認めなかった。胃癌[LLess,Type 2,cT4a(SE),cN0H0P0M0,cStageⅡB]に対し,幽門側胃切除D2 郭清を施行した。高齢であり,術後補助化学療法は施行しなかったが,術後6 か月目に肝転移再発が認められたためS-1による化学療法を施行した。S-1 療法が奏効し,肝転移巣は消失し(complete response),S-1 療法開始後約1 年目にいったん化学療法を中断した。しかし中断から9 か月目のCT で多発肝転移再発を認めたため,S-1療法を再開した。化学療法再開後2 コースで副作用によりS-1 療法は中断し,以降はbest supportive care とした。初回のS-1療法開始から約2 年間生存し,原病死した。 -
GC 療法が著効しCR となった肝内胆管癌術後肝転移の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。肝前区域を主座とし,肝内転移,肝門部浸潤を伴った肝内胆管癌のため,2012 年7 月PTPE 後に肝右三区域切除および門脈合併切除,左肝管空腸吻合術を施行し,S-1(80 mg/body 2 週投与1 週休薬)による補助化学療法を施行し経過観察していた。術後3 年のCT で肝S3 に径1 cm 大の辺縁が造影されるLDA を認めた。病変が小さく経過観察したが,CA19-9 およびDUPAN-2 が上昇しCT で腫瘍増大を認めたため肝生検を施行し肝転移と診断した。残肝深部にあり切除不能と判断し,2016年 2 月よりGC 療法(GEM 1,000 mg/m / 2,CDDP 25 mg/m2 2 週投与1 週休薬)を開始した。3 コース終了後のCT で,PR の腫瘍縮小効果と腫瘍マーカーの低下を認め治療を継続した。末梢神経障害が強くなった12コース終了時点のCT で肝転移巣は消失し,CR の腫瘍縮小効果を得た。末梢神経障害が軽減した後,S-1 療法を再開し現在も治療継続中である。術後6 年のCT では肝転移巣は完全に消失し,CRを維持したまま経過観察中である。 -
下部直腸SM 癌(pT1a)局所切除4 年後に側方リンパ節再発を来した1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。便潜血陽性精査目的で当院を紹介受診し,大腸内視鏡検査にて下部直腸に20 mm大のⅡa病変を認め,SM浸潤癌を疑い経肛門的局所切除の方針となった。病理組織検査はⅡa,tub1,22×16 mm,pT1a(950 mm),ly0,v0,pHM0,pVM0(300 mm)であった。以後外来にてfollowしていたが,術後4 年目のCT にて右側方リンパ節(#263D)に腫大を認め,PET にて同部位にSUVmax 3.17の集積を認めたため側方リンパ節再発と診断し,切除の方針となった。開腹右側方リンパ節切除を施行した。尿管,精管・精嚢,梨状筋に浸潤を疑う所見あり,合併切除した。病理組織検査では精管外膜への浸潤を認め,リンパ節転移の診断であった。術後再発を認めなかったが原発性肺癌(SCC)を罹患し,再発手術後2 年目で他病死した。側方リンパ節は下部直腸領域においてセンチネルリンパ節となる症例もあり,下部直腸癌に対する再発サーベイランスにおいて,早期癌に対しても側方リンパ節再発に留意する必要があることが示唆された。 -
大動脈血栓摘出後に胸腔鏡下食道切除術を施行した食道癌の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description今回われわれは,術前化学療法中に生じた大動脈血栓に対し血栓摘出術により治療関連死を回避し,胸腔鏡下食道切除術を行うことができた症例を経験した。症例は70歳,男性。吐血を主訴に当院を受診し,精査にて食道癌(Mt,Type 1c,cT2cN0cM0,cStageⅡ)と診断された。5-FU,シスプラチン併用化学療法(FP 療法)を開始した。1 コース目のday 7 に腹痛を認めたためCT を撮影したところ,大腸の浮腫上変化とともに約3 cm 大の大動脈血栓を認めた。絶食補液で腹痛は改善し,翌日のCT で大腸の浮腫も改善した。血栓に関してはヘパリン投与を開始したが,翌日のCT で縮小を認めなかったため心臓外科医にて血栓摘出術を施行した。血栓摘出後,梗塞の症状もなく,画像上も血栓を認めなかった。2 コース目の化学療法は施行せず,胸腔鏡下食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建を施行し,合併症なく,術後18 日目に退院した。現在,血栓の再燃なく,食道癌の再発もなく外来にて経過観察中である。 -
長期生存を得ている再発大腸癌に対する二次治療としてのXELIRI+Bmab療法の1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。下血を主訴に精査したところ,進行上行結腸癌,pT4aN1M0(RAS変異陽性),pStage Ⅲaと診断し,腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した。術後,UFT/LV(UFT 300 mg/m2 on day 1 to 28,LV 75 mg/day on day 1to 28 every 5 weeks)を 3 コース施行したところで腹膜播種再発を認めたため CapeOX+Bmab 療法(oxaliplatin 130 mg/m2 on day 1,capecitabine 1,000 mg/m2 twice daily on days 1 to 14 every 3 weeks)からcapecitabine+Bmabと化学療法を行い,病勢コントロールを得られていたが,播種再発確認から5年9か月後,肺転移が出現しXELIRI+Bmab 療法(irino-tecan 150 mg/m2+bevacizumab 5 mg/kg on day 1,capecitabine 1,000 mg/m2 twice daily on days 1 to 7 every 2 weeks)を開始した。開始後43 コースstable disease を得られている。経過中,Grade 4 の好中球減少を一度認めたためirinotecanを20%減量したが,それ以降Grade 3 以上の有害事象は出現しなかった。oxaliplatinベース一次治療に抵抗性の症例に対して,経口フッ化ピリミジンを使用したirinotecan ベースの二次治療としてのbi-weekly XELIRI+Bmab 療法が病勢コントロール有用であった症例を経験した。 -
膵管内乳頭粘液性腺癌術後腹膜播種再発に対し緩和的放射線療法および化学療法が奏効した1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は82 歳,男性。検診を契機に診断された膵管内乳頭粘液性腫瘍で,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理診断は膵管内乳頭粘液性腺癌で,pT3N1M0,pStageⅡB であった。術後補助化学療法としてS-1 療法を行っていたが,術後6 か月で上腹部痛の訴えがあり,CT 検査で腹壁および腹膜播種再発と診断した。化学療法の適応であるが,高齢であり再発部位は上腹部に限局していたため,症状緩和治療を行うこととした。オピオイドを導入し,局所に対して30 Gy の緩和的放射線療法を行った。癌性疼痛は軽快しオピオイドの離脱が可能であった。再発から2 か月後にnab-paclitaxel+gemcitabine併用療法を開始した。放射線療法によって症状は緩和され,化学療法にて病状の進行は抑制され,QOL を維持できている。術後2年6か月現在,再発から2 年経過しているが無増悪生存中である。 -
胸腔留置カテーテルを用いた難治性胸水の一時的な在宅管理
46巻2号(2019);View Description Hide Description"症例は51 歳,女性。39 歳で右乳癌(ER+,HER2−)を発症し,術後9 年目に多発肺転移,肺門縦隔リンパ節転移で再発した。再発時より左胸水を認めていたが,2017年X月7日,胸水増悪による呼吸苦を主訴に入院した。左胸腔にカテーテルを留置し持続吸引を開始したが,左肺の再膨張は不良で胸膜癒着術は行えなかった。患者の短期自宅退院希望に応じ,胸腔カテーテルをロックした状態で退院した。退院後3 日目に在宅往診医が患者宅を訪問し,ロックされていたカテーテルから用手的に340 mLの胸水をドレナージした。退院後6 日目, -
異常乳頭分泌症例の検討
46巻2号(2019);View Description Hide Descriptionはじめに:血性乳頭分泌は悪性疾患を原因とすることが多く,診断と治療に慎重な対応が求められる。当院では術前に乳管造影,乳管内視鏡を行い,切除範囲を同定し,さらに術中インドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)蛍光乳管造影により切除範囲をみながら乳管腺葉区域切除を行っている。術中乳管造影および染色のために,インジゴカルミンとICG の9:1 混合液を用いたICG 蛍光では皮膚を通じて明瞭に観察し,皮膚切開前後に切除対象腺葉区域を特定する。術前に細胞診などで悪性を疑うが,診断を確定できない場合や切除範囲を特定できない血性乳頭分泌症例の診断治療の切除範囲決定におけるICG蛍光法の有用性が示唆された。 -
非代償期肝硬変に併存した乳腺原発悪性リンパ腫の1 例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は60 歳台,女性。心不全,非代償期肝硬変に対し加療中である。3 か月前より急速に増大する右乳房腫瘤を主訴に当科を紹介受診し,視触診で右乳房全体の硬結,皮膚浸潤が疑われた。乳腺超音波検査では右乳頭直下を中心に5 cm 大の内部エコー不均一,境界不明瞭な低エコー腫瘤を認めた。明らかな腋窩リンパ節腫大は指摘されなかった。胸腹部CT 検査では遠隔転移は認めなかった。血液検査では腫瘍マーカーの上昇はなく,細胞診を施行するも確定診断には至らなかった。診断・治療目的に右乳房切除術を施行した。病理組織学的診断の結果,malignant lymphoma(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL),CD20(+),CD79a(+),CD3(−)であった。DLBCL の治療方針は化学療法(R-CHOP療法)が第一選択であるが,肝硬変のため全身状態が不安定であり,今後の内科的治療の継続,介護の必要性を考慮すると乳房切除術が必要と考えた。若干の文献的考察を加え,本症例を報告する。 -
肝に多発した原発不明の神経内分泌腫瘍に対し集学的治療が奏効した1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。上腹部腫瘤を主訴に受診した近医より精査加療のため当科へ紹介となった。造影CT・造影MRIでは肝左葉外側区に長径89 mm大の腫瘤を認め,その他両葉に多数の腫瘤を認めた。いずれも辺縁を主体に早期増強を示し,転移性または肝原発の神経内分泌腫瘍が疑われた。上下部消化管内視鏡検査では消化管カルチノイドなどを疑う所見は認めなかった。治療としてまず肝動脈化学塞栓療法(TACE)により肝右葉を中心に塞栓を施行し,約1 か月後に肝外側区域切除と肝S6 部分切除を行った。病理組織学的には肝外側区域の腫瘍は神経内分泌腫瘍であり,WHO 分類でNET G2 の所見であった。肝S6腫瘍はすべて凝固壊死し,viableな腫瘍の遺残は認められなかった。術後1 年経ているが再発なく経過している。肝に多発する神経内分泌腫瘍に対して手術治療にTACE を先行させることで,安全かつ根治的な治療が可能であったため文献的考察を含めて報告する。 -
完全内臓逆位を伴った盲腸癌に対し単孔式腹腔鏡下回盲部切除術を施行した1例
46巻2号(2019);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。心サルコイドーシスの診断にて当院循環器内科で治療中に,精査にて盲腸癌(cT2N0M0,cStageⅠ)を認めたため手術目的に当科紹介となった。解剖学的な変異は存在するが単孔式腹腔鏡手術の適応と考え,単孔式腹腔鏡下回盲部切除術を行う方針とした。回盲部切除・D3リンパ節郭清術を施行し,特に問題なく手術を終了した。手術時間91分,出血量は少量であった。術後,明らかな手術関連合併症は認めなかった。完全内臓逆位症を伴う大腸癌は非常にまれな病態である。このような盲腸癌に対しても,単孔式腹腔鏡手術手技に習熟した上で左右鏡面像となる解剖学的位置を把握していれば,単孔式腹腔鏡手術は安全に施行できる術式と考えられた。 -
輸入脚閉塞症に対して経皮腸管ドレナージ(Percutaneous Bowel Drainage: PBD)を施行した2 症例
46巻2号(2019);View Description Hide Description輸入脚閉塞症に対して,経皮経腸ドレナージ(percutaneous bowel drainage: PBD)を施行した症例を経験したので報告する。症例1 は60 歳,女性。膵癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行した。術後約18 か月目で,肝門部リンパ節再発による盲端側の挙上空腸拡張を伴う膵炎を呈した。内視鏡的アプローチによる腸管減圧が困難であり,PBDを施行した。穿刺部は腹壁固定された挙上空腸とした。PBD 後7 日で退院となった。症例2 は51 歳,女性。進行胃癌に対して胃全摘術とRouxen-Y再建を施行した。術後約10 か月目に嘔吐を主訴に,Y脚吻合部の局所再発を指摘された。術後約15 か月目に,輸入脚症候群に伴う急性膵炎を発症した。PTBD による経胆管的腸管減圧を考慮したが,腸管内容物の胆管内への逆流が危惧された。経肝的にPBD を施行した。PBD後11 日目に退院となった。今回,輸入脚閉塞症に対しPBD を安全に施行できた。 -
第3病日の血清CRP 値を用いた大腸癌手術における腹腔鏡手術の低侵襲性の評価
46巻2号(2019);View Description Hide Description腹腔鏡手術の低侵襲性を評価する目的で,手順が同じS 状結腸・直腸S 状部癌手術を対象に開腹手術と腹腔鏡手術を比較検討した。D3 郭清を施行した治癒切除S 状結腸・直腸S 状部癌症例143 例を対象とした。手術手順は全例,内側アプローチでIMA根部結紮,吻合はdouble stapling technique(DST)で施行した。開腹手術(OC)70 例,腹腔鏡手術(LAC)73例につき,臨床病理学的因子を検討した。全症例の年齢は66(38〜88)歳,男性83 例,女性60 例。手術時間は189(82〜413)分,出血量は45(5〜1,025)mL であった。術後合併症を45 例に認め,うち手術部位感染10 例,遠隔感染を10 例に認めた。両群の比較では,性別,BMI,PS,ASAに差はなかったが,OC 群は高齢で腫瘍最大径が大きかった。手術時間には差がないが,出血量はLAC群で少なかった。術後合併症,歩行開始日,第3 病日の体温,WBC 数には差はないが,初回排ガス日はLAC 群で早く,第3 病日のCRP 値もLAC 群で有意に低値であった。両群の背景で差を認めた年齢,腫瘍径,出血量では第3 病日のCRP 値に差は認めなかった。腹腔鏡手術で血清CRP 値が低値であったことより,腹腔鏡手術がより低侵襲と考えられた。 -
Prognostic Factors of Malignant Peritoneal Mesothelioma Experienced in Japanese Peritoneal Metastasis Center
46巻2号(2019);View Description Hide Description背景: 腹膜中皮腫の最新の治療は包括的治療(腹膜切除+周術期化学療法)である。この研究では包括的治療後の予後因子について報告する。方法:中皮腫63(男性34,女性29)例に対し術前化学療法後47 例に腹膜切除が施行された。hyperthermicintraperitoneal chemoperfusion(HIPEC)は27 例に行われた。結果:完全切除(CC-0)は14(22%)例で平均腹膜切除領域は5.2(1〜13),で平均切除臓器数は2.9(0〜9)であった。術後 Grade 1/2,3,4 合併症は5,6,3 例であった。死亡例は1 例(2.3%)で腹膜炎による敗血症であった。多変量解析で良好な予後因子はHIPEC 施行,peritoneal cancerindex(PCI) C12,遠隔転移なし,組織型上皮型であった。HIPECなし,PCI B13,遠隔転移あり,非上皮型のrelative riskは7.69,22.1,3.6,3.9であった。結論: PCI B13 以上の例は術前化学療法PCI C12 にした後,CRS とHIPECを行うことで予後が改善できる可能性がある。非上皮型にはより有効な化学療法の開発が必要である。