癌と化学療法

Volume 46, Issue 3, 2019
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総説
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がん免疫編集と治療開発
46巻3号(2019);View Description
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近年,がん免疫療法が新たながん治療法として注目を集めている。抗PD-1 抗体や抗CTLA-4 抗体といった免疫チェックポイント阻害剤を中心とするがん免疫療法は,宿主のがん細胞に対する抗腫瘍免疫応答を活性化することで治療効果が認められる。悪性黒色腫,肺癌,胃癌,その他の多くのがん種における臨床試験で生存期間の延長が示され,現在ではがん免疫療法はがん治療の新たな柱として確立されつつある。がん免疫治療開発は「がん免疫編集」の考え方が基となっている。がん免疫編集とは,がん細胞は免疫系により排除されつつも最終的には増殖へと至るというパラドックスについて,排除相・平衡相・逃避相の三相を中心にまとめた概念である。その概念に基づき,免疫チェックポイント阻害剤以外にも養子免疫療法や免疫療法と化学療法の併用療法など,有望な免疫治療が数多く開発中である。ここではがん免疫編集について解説するとともに,それに基づくがん免疫治療開発の概略を述べる。
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特集
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- 人工知能のがん医療への応用
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人工知能を用いた内視鏡診断
46巻3号(2019);View Description
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人工知能(AI)を用いた画像認識は,機械学習とdeep learningという革新的技術により飛躍的に発展した。現在は,画像認識ではAI が人間の能力を越えたといわれている。内視鏡診断の分野でもAI によるコンピューター支援診断(computer-aided diagnosis: CAD)システムの開発が進んでいる。CADは消化管すべての領域でポリープ,癌,炎症病変の指摘や質的診断において内視鏡医を補助することが期待されている。専門医と同等以上の成績を示すCAD も報告されるようになった。近い未来,リアルタイムでの病変の拾い上げおよび質的診断が実臨床に導入されるであろう。 -
放射線診断領域における人工知能の応用
46巻3号(2019);View Description
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人工知能は高度な情報処理技術として様々な分野から注目を集めている。放射線診断領域においても,病変の自動検出や定量解析などといったコンピューター支援診断技術への人工知能の応用が進んでおり,ディープラーニングの登場によりその精度は飛躍的に向上している。本稿では人工知能技術の基礎的事項を最初に解説し,国内外の研究の取り組みを簡単に紹介する。そしてわれわれが開発した放射線画像を用いた肺癌の診断支援技術を紹介する。 -
癌ゲノム医療における機械学習アルゴリズムの重要性
46巻3号(2019);View Description
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癌ゲノム医療を実現するためには,配列解析から得られるデータだけではなく既存の文献情報など,様々な種類に及ぶ大量のデータを処理する必要がある。こうした場面において機械学習アルゴリズムが果たす役割は大きい。本稿では,癌ゲノム医療に関する最近の研究報告を通じて,機械学習アルゴリズムがどのように利用されているかを概観する。artificialintelligence(AI)と機械学習アルゴリズムの関係について簡単に整理し,deep learning の技術的な優勢性について解説する。また,機械学習を応用した具体的な研究例として遺伝子変異と薬剤,マルチオミックスデータに関する研究とcell-freeDNAを使った診断の感度を向上させる二つの研究を紹介する。 -
病理におけるAI―補助診断から予測へ―
46巻3号(2019);View Description
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病理診断におけるartificial intelligence(AI)の利用は始まったばかりである。病理の形態画像は多くの情報を含んでおり,AIによってこの分野にいかなる貢献が可能かを模索している状況である。その流れを概説するとともに,われわれの取り組みを診断補助・研究・再発や治療法効果予測の分野に分けて概説する。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍(肉腫) 最近のトピックス
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原著
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微小管阻害剤VinorelbineによるヒトTriple-Negative乳がん細胞MX-1のApoptosisとPolyploidyの誘導
46巻3号(2019);View Description
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triple-negative breast cancer(TNBC)には有効な治療法が確立されておらず,新たな治療薬の開発が望まれている。微小管阻害剤vinorelbine(VNB)はTNBC に対する有望な治療薬として臨床的に用いられているが,その詳細な作用機序については不明な点が多い。本稿では細胞周期に対する影響を中心に解析し,VNBがヒトTNBC 細胞株のMX-1に対し顕著なapoptosis と8n のDNA 量を示す細胞が集積するpolyploidy を誘導することを見いだした。これらの効果は呼吸阻害剤,蛋白合成阻害剤,核酸合成阻害剤などで抑制され,MX-1以外の乳がん細胞では認められなかった。微小管阻害剤では臨床的に高い乳がん治療効果を示すpaclitaxel(PTX)とVNBにはpolyploidyが顕著に認められるが,colchicineやnocodazoleでは活性が弱かった。以上の結果より,VNB はある種のTNBC に対してはpolyploidyの誘導によりapoptosisを誘導し,このことが本剤のTNBC に対する有効性に反映している可能性が示唆された。 -
転移再発乳癌に対するS-1 5 日投薬2 日休薬の経験
46巻3号(2019);View Description
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S-1 は転移再発乳癌に対して有効な経口抗癌剤であるが,承認されている4 週投薬2 週休薬では副作用のために減量やスケジュール変更を余儀なくされる場合がみられる。S-1 を5 日投薬2日休薬(5 投2 休)で繰り返し投与した場合,薬剤強度は承認用法の場合とほぼ等しくなり,効果を減弱することなく治療継続性を高める可能性がある。当院で2006 年11 月〜2014 年8 月までにS-1 単剤を5 投2 休で投与したHER2 陰性転移再発乳癌25 例を対象として,有効性と安全性について検討した。患者は全員女性,年齢中央値は68(44〜87)歳,ER 陽性 15 例,ER 陰性 10 例,PSは 0/1/2 が 8/10/7 例であった。全例で再発後の化学療法歴はなく,いずれも評価可能病変を有していた。S-1 は 80 mg/m2の5 投2休とし,副作用が発現した場合は減量した。投与期間は3〜214週で中央値25 週であった。臨床的効果はCR/PR/long SD/SD/PD が 0/8/5/5/7 例,奏効率32%,臨床的有用率は52%であった。内臓転移の有無で奏効率に差はなかった。血液毒性はヘモグロビン減少の1 例のみで,好中球減少は認められなかった。非血液毒性は下痢,食欲低下,手足症候群,色素沈着障害,流涙などが観察されたが,Grade 3 以上はなく中止は下痢の1 例のみであった。転移再発乳癌に対してS-1 の5 投2 休は,副作用が少なくQOLを保持しながら高齢者やPS の悪い患者にも治療を継続することが可能であり,有効なメトロノミック治療の一つであると考えられる。今後は前向き臨床試験による検証が必要である。 -
がん化学療法後G-CSF 予防投与のクリティカルパスを用いた病診連携
46巻3号(2019);View Description
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背景: 2011年より当科では頻回の外来通院が困難な症例に対して,クリティカルパス(Gパス)を使用して最寄りの医療機関にがん化学療法後のgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)予防投与を依頼している。方法:当科でがん化学療法後にG パスを利用した患者を対象とし,G-CSF 投与実施率,感染症の合併頻度について後方視的に検討した。結果:2011 年1 月〜2016年12 月までに82 例が254サイクルの化学療法後にG パスを利用した。原疾患は悪性リンパ腫64 例,膵がん7 例,軟部肉腫5 例,その他6 例,患者年齢中央値は70(範囲: 24〜94)歳,連携先は診療所53 例,病院31 例,254 サイクル中245サイクル(96%)で予定されたG-CSFが投与された。254 サイクル中37 サイクル(15%)で感染症を合併したが,入院を要したのは5 サイクル(2%)であった。結語: G パスを用いた地域連携で,患者の受診負担を軽減し安全に化学療法を施行することができた。支持療法を地域の医療機関と連携して行うことで,がん診療のいっそうの均てん化が期待できる。
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症例
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乳癌脳転移・髄膜播種に対し集学的治療により長期安定を得た1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は64 歳,女性。右乳癌(HER2陽性)にて右乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術を施行した。術後2年6か月で頭痛・嘔気が出現,頭部造影MRI検査で脳転移と診断し,ガンマナイフ治療を施行した。治療後も嘔気が続き2 週間後に意識が消失したため,再び頭部造影MRI検査を施行した。脳室の拡大がみられたため脳室-腹腔(V-P)シャント術を施行した。また,髄液検査で髄膜播種と診断し,全脳照射(30 Gy)および全身薬物療法としてトラスツズマブエムタンシン(TDM1)を投与した。患者は生活の質(QOL)を維持したまま新規再発なく,12 か月にわたって治療継続可能であった。乳癌髄膜播種の予後は不良であり,有用な薬物療法は確立されていない。T-DM1は,良好なQOLを保ったまま長期投与可能な選択肢となり得る。 -
胃神経内分泌癌6 例の検討
46巻3号(2019);View Description
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胃神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma: NEC)は胃悪性腫瘍全体の約0.6%とまれな疾患で,予後は極めて不良とされている。今回,2011年11 月〜2017年3 月までに経験した胃NEC 6 例に関して,臨床病理学的に検討を行った。年齢は平均73.3歳で,胃癌取扱い規約第14 版に基づいて分類するとStageⅠA 1 例,StageⅡB 1 例,Stage ⅢA 2 例,Stage Ⅳが2 例で,3 例に通常型腺癌との併存を認めた。手術は4 例で施行し,全例で胃全摘術が行われた。手術を施行した4 例のうち3 例で術後に肝転移を認めた。NEC はリンパ節転移や肝転移を伴うことが多く,根治術困難な症例が多い。化学療法は小細胞肺癌に準じて行うのが推奨されているが,腺癌に準じて行っている報告もあり未だ確立されていないのが現状である。手術と組み合わせた集学的な治療戦略を考える必要がある。 -
S-1+Oxaliplatin術前化学療法によりpCR が得られた進行胃癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は57 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で幽門前庭部に2 型胃癌を指摘され,当院紹介となった。治療前画像検査と審査腹腔鏡にてcT4a(SE)N2M0,Stage Ⅲの診断となり,術前化学療法を行う方針とした。SOX 療法を術前3 コース施行し,その後の画像検査にて胃原発巣とリンパ節転移の縮小を認めたため,幽門側胃切除術とD2 リンパ節郭清を行った。最終病理組織学的検査では切除胃および郭清リンパ節内に腫瘍細胞の残存は認めず,組織学的治療効果判定はGrade 3 であった。外来通院でも施行可能なSOX 療法は,切除不能進行・再発胃癌に対する臨床試験によってその有効性や安全性はすでに証明されているが,術前化学療法で使用し組織学的完全奏効を得た報告は少ないのが現状である。今回,当科で術前SOX 療法によって組織学的完全奏効が得られた進行胃癌症例を経験したので報告する。 -
術前mFOLFOX6+Panitumumab療法が著効した穿孔性腹膜炎で発症した局所進行直腸癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は66 歳,女性。下腹部痛を主訴に救急外来を受診した。CT 検査で直腸に腫瘤を,骨盤内に液体貯留と遊離ガスを認めた。直腸癌穿孔と診断し,S 状結腸双孔式人工肛門造設術を施行した。腫瘍の生検組織検査で高分化管状腺癌,RAS野生型と診断した。mFOLFOX6+panitumumab を8 コース施行後に根治手術を行い,病理組織学的効果判定はGrade 1bであった。panitumumabを用いた術前化学療法は,穿孔性腹膜炎で発症した局所進行大腸癌に対しても有用であることが示唆された。 -
貧血と白血球減少が発見契機となった骨髄癌腫症を伴う前立腺癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は84 歳,男性。食欲低下,体重減少があり,近医で貧血と白血球数減少を指摘され当院を受診した。血液疾患を考慮して血液内科に紹介し,血液検査で白血球数4,400/mL,Hb 8.0 g/dL,血小板12.8×10 4mL,PSA は12.895 ng/mLと高値であった。骨髄生検で癌細胞がみられ,PSA免疫染色では陰性であった。PET-CTで全身骨髄にFDG の集積亢進を認めた。前立腺生検では低分化腺癌,Gleason score 5+5=10,PSA免疫染色では一部に弱陽性であった。骨髄癌腫症を伴う前立腺癌と診断し,ビカルタミドとデガレリクスを行った。現在,初診後12 か月生存中である。
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特別寄稿
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- 第40回 日本癌局所療法研究会
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直腸癌術後20年目に生じた直腸粘液癌に対する非治癒切除例に集学的治療を行い長期生存した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は69 歳,男性。20 年前に他院にて直腸癌の診断で低位前方切除術を施行した。下血を主訴に来院し,内視鏡検査にて直腸吻合部近傍に2 型の腫瘍が見つかり,生検で粘液癌の所見であった。2010 年7 月にMiles手術,小腸合併切除術を施行した。病理組織学的所見は粘液癌,5×4 cm,pT4b(小腸),pN0,pPM1,pDM0,pRM1。術後2 か月目からmFOLFOX6+Pmabを12 コース施行した。その後UFT を300 mg内服し経過をみていたが,骨盤腔内の腫瘍は徐々に増大し径9cmまで増大したため,2013年5 月から放射線照射(50 Gy)をしたが縮小傾向はなかった。CT ガイド下生検の病理組織学的所見はmucinのみであった。S-1内服にて経過をみていたが,2015 年 6 月 CEA 30.7 ng/mL と上昇,会陰創部は腫大し皮膚にも浸潤性の発赤を認めた。2015 年7 月会陰部から切開(非開腹)して可及的に腫瘍減量手術を施行した。術後はregorafenibを投与した。CEA は正常化していたが,その後尿路感染を繰り返し徐々に腎機能が悪化し,局所は進行増悪していった。regorafenib は約2 年4 か月間外来で投与を継続した。2018 年2 月に全身状態が悪化し入院し,2018 年3 月に死亡した。直腸粘液癌に対し再発治療に難渋しながらも,小骨盤内再発から5 年6か月にわたり生存した症例を経験した。 -
80歳以上早期胃癌に対する治療成績と治療方針―ESD非治癒切除症例をどうするか―
46巻3号(2019);View Description
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80 歳以上の早期胃癌に対する胃切除の治療成績を明らかにするとともに,80 歳以上のESD 非治癒切除症例の追加胃切除の意義を検討した。80 歳以上の早期胃癌手術症例90 例およびESD 後非治癒切除と判定され,経過観察した20 例と追加胃切除を施行した8 例を分析した。胃切除は88 歳まで施行され,84 例(93.3%)がpStage ⅠA であった。3 年生存率83.9%,5 年生存率60.4%で,他病死28 例,他癌死4 例,在院死1 例であった。ESD 非治癒切除症例はT1a 6 例,T1b1 9例,T1b2 13 例で,追加胃切除が8 例に行われたが癌遺残1 例で,リンパ節転移は認めず,3 年生存率100%,5 年生存率60%であった。経過観察群は2 年生存率83.3%で胃癌による死亡は認めなかった。高齢者早期胃癌では他病死比率が増加するため術後のQOL も考慮すると,ESD後の追加切除対象はかなり限定されるであろう。 -
高齢者大腸癌患者に対する姑息的切除の検討
46巻3号(2019);View Description
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高齢化に伴い高齢者の大腸癌手術症例も増えている。根治をめざさないという前提で姑息的切除を施行した高齢者の大腸癌切除11 症例を検討した。姑息的切除が選択された年齢以外の理由としては認知症を含む判断力の低下がいちばんで,その他,基礎疾患や独居などの社会的背景があげられた。術前のECOG PSや検査上,耐術可能と判断され手術が行われた。術後に呼吸器合併症や循環不全を発症した症例3 例(27.3%)で在院死亡を認めた。後方視野的なP-POSSUM での評価でも無理な手術判断や過大な手術はされていなかったが,今回の検討対象のような集団ではいったん合併症が生じるとリカバリーが困難であることが改めてわかった。在院死亡例を除く症例の術後入院期間はリハビリや退院調整などのため,1 か月を超えていた。ステント留置のみ,緩和治療のみというような選択がもっと考慮されてもよいのではと思われた。 -
長期化学療法後に切除可能となった同時性肝転移を伴う局所進行直腸癌の1例
46巻3号(2019);View Description
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症例は60 歳台,男性。同時性単発肝転移を伴った局所進行直腸癌に対し,原発巣切除不能の判断にて化学療法を導入した。原発巣は縮小したが,依然として仙骨前面への伸展を認め切除不能と判断し,さらに化学療法を継続した。約1 年間の化学療法にて仙骨前面の伸展が軽減し原発巣切除可能と判断し,転移巣も併せて二期的に手術を施行した。治癒切除となり,術後化学療法なく8 か月無再発生存中である。いったんは切除不能と判断した症例においても治療効果を評価しながら根治手術の可能性を考慮し,適切な治療方針を選択していくことが重要と考える。 -
Conversion Therapyを施行し得た大腸癌多発肝転移の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は76 歳,女性。排便障害を主訴に来院し,切除不能な肝転移を伴う直腸S 状部癌と診断された。腹腔鏡補助下高位前方切除術後にcapecitabine+oxaliplatin(CapeOX)+cetuximab(Cmab)療法を7 cycles 施行した。肝転移巣の著明な縮小を認めたため肝切除を施行し,病理学的に治癒切除を得た。手術後はCapeOX+Cmab 療法を6 cycles 追加した。外来にて経過観察中であるが,術後7 年間無再発生存中である。 -
TNM 第8版における胃癌Stage Ⅲ分類変更の妥当性について
46巻3号(2019);View Description
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2017 年1 月にTNM分類は第8 版になり,胃癌取扱い規約第15 版においてもリンパ節転移N3 の亜分類N3a,N3bが病理進行度分類に反映された。当院のデータベースを用いて胃癌Stage Ⅲ分類変更の妥当性について検討した。対象と方法: Stage Ⅲ胃癌根治切除術388例を対象として,1) TNM第7版,第8版別,2) 深達度別に5 年全生存率(OS),無再発生存率(RFS)を比較した。結果:3) 第 7 版における OS はⅢA/ⅢB/ⅢC:47.6/55.0/28.5%(p=0.0003),RFS はⅢA/ⅢB/ⅢC:81.1/79.4/58.7%(p=0.0013)であった。第 8 版におけるOSはⅢA/ⅢB/ⅢC:50.2/41.3/30.1%(p=0.0009),RFS はⅢA/ⅢB/ⅢC:81.6/70.9/50.0%(p=0.0003)であった。2)深達度T4aでは,OSは N1/N2/N3a/N3b:48.8/54.0/27.5/25.1%(p=0.0012),RFS は N1/N2/N3a/N3b:82.7/81.2/57.0/48.7%(p=0.0013)であった。結語: TNM 第 8 版におけるN3 亜分類の導入により胃癌Stage Ⅲの予後層別化がより可能となり,分類変更の妥当性が示唆された。 -
スキルス胃がんが疑われた早期胃がんの切除例
46巻3号(2019);View Description
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4 型胃がん(スキルス胃がん)は太い襞があり,粘膜面の凹凸が少なく壁肥厚が著明で,生検では未分化がんが診断されることを特徴としている。一部では生検によってがんが検出できないこともある。われわれは,スキルス胃がんを疑い腫瘍中心と思われる部位から生検でがんが得られず,周辺の生検からのみ未分化がんが得られ切除した結果,早期がん+粘膜下angiodysplasiaであった症例を経験したので報告する。 -
胃癌穿孔例に対する治療方針の検討
46巻3号(2019);View Description
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胃癌穿孔は比較的まれな病態であり,進行癌が多く予後不良とされている。今回,当院で経験した9 例について検討した。性別は男性6 例,女性3 例,年齢中央値69 歳。胃癌診断時期は術前4 例,術中3 例,術後2 例であった。深達度はT33 例,T4a 4 例,T4b 2 例,Stage Ⅳが5 例であった。初回手術は5 例に胃切除が行われ,4 例は非切除であった。胃切除を施行した5 例中4例は姑息的胃切除となり,R0 切除は1 例のみであった。一方,非切除の4 例中大網充填のみを施行した2例では,全身状態回復後にそれぞれ二期的根治切除,化学療法を施行した。全生存期間の中央値は17.9 か月で,根治切除および化学療法施行例で予後良好な傾向を認めた。胃癌穿孔例に対しては,根治切除が困難な場合には全身状態の回復をめざした術式を選択し,その後に二期的切除や積極的な化学療法を行うことが有効と思われた。 -
胃癌術後に癌性髄膜炎を来した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は43 歳,男性。横隔膜浸潤と多発リンパ節転移を伴う噴門部進行胃癌に対し,胃全摘術を施行した。術後病理診断はpor2>tub2,ypT4b(diaphragm),int,INF c,ly1,v1,ypN3,ypStage ⅢCであった。術後3 か月目のCT で多発リンパ節転移,腹膜転移再発を認め,ramucirumab(RAM)+paclitaxel(PTX)を開始したが,3 コース開始後より食欲低下,倦怠感が増強し入院となった。入院第3 病日に一過性の意識レベル低下,痙攣発作,嘔気,頭痛が出現し,頭部MRI,髄液検査を行った結果,癌性髄膜炎と診断された。Ommayareservoir を留置し,methotrexate(MTX)+cytarabine(Ara-C)の髄腔内投与を予定したが投与直前に肝機能障害になり,髄腔内投与をすることなく術後6 か月で死亡した。胃癌による癌性髄膜炎は急速に進行する予後不良な病態のため,可及的早期に治療を開始することが望ましい。全脳全脊髄照射や抗癌剤髄腔内投与などの治療法が奏効したという報告が散見され,今後エビデンスレベルの高い癌性髄膜炎に対する標準治療の確立が望まれる。 -
先天性角化不全症に合併したStage Ⅳ直腸癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は27 歳,男性。9 歳時DKC1 遺伝子変異から先天性角化不全症と診断され,以後経過観察中であった。嘔吐を契機に施行された上部消化管内視鏡検査で胃静脈瘤を指摘され,その後門脈圧亢進症,脾腫とともに肝・肺転移を伴うStageⅣ直腸癌と診断され,当科紹介となった。腹腔鏡下脾臓摘出術,シャント結紮術を行った後に腹腔鏡下低位前方切除術,続いて肺・肝転移切除を行い肉眼的根治切除となった。しかし3 か月後に切除不能多発残肺転移を認め,化学療法を導入した。cetuximab の投与を開始したが,Grade 3 の座瘡様皮疹を認め休薬した。その直後に緊張性気胸を認めたため入院の上ドレナージを施行したが,改善がないため胸膜癒着療法を施行した。2日後に突然急激な呼吸不全を呈し,薬剤性間質性肺炎と診断した。各種治療に反応せず,入院21日目に死亡した。 -
盲腸癌に合併した低異型度虫垂粘液性腫瘍の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は76 歳,男性。健診で便潜血陽性を指摘され,当院を紹介受診した。下部消化管内視鏡検査で盲腸に30 mm 大の肉眼型1 型の病変を認めた。盲腸癌の診断で腹腔鏡補助下回盲部切除術,D3郭清を施行した。術後病理組織学検査では,盲腸腫瘍は高分化型管状腺癌の診断であった。また,虫垂遠位側に孤立性の低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendicealmucinous neoplasm: LAMN)を認めた。術後9 か月,無再発生存中である。今回盲腸癌に合併したLAMNの1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
腹腔鏡下にS状結腸切除術と悪性リンパ腫生検を同時に施行した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は70歳台,女性。前医で閉塞大腸癌に対して,経肛門的ステント留置術を施行された。CT検査で膵背側に70mm大の腫瘤を認めた。EUS-FNAを2 回施行されていたが,確定診断には至らなかった。転居に伴い当院へ紹介となった。当院でS状結腸癌,悪性リンパ腫疑いに対して,腹腔鏡下にS 状結腸切除と腫瘤生検を同時に施行した。膵背側の腫瘤は病理組織学的検査でnodal marginal zone B-cell lymphomaの診断に至った。当院血液内科で化学療法施行後,無再発生存中である。 -
肛門扁平上皮癌化学放射線療法後局所再発に5-FU/CDDP 療法で肛門温存し長期生存した1例
46巻3号(2019);View Description
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今回われわれは,肛門扁平上皮癌の化学放射線療法(chemoradiation therapy: CRT)後の局所再発に対して 5-FU/CDDP 療法により完全奏効(complete response: CR)し,肛門温存,長期生存が得られた症例を経験したので報告する。症例は48歳,女性,肛門から上部直腸の肛門扁平上皮癌,cStage ⅢA(cT3N1M0)に対してCRT として5-FU/MMC+59 Gyを施行しCRを得た。6 か月後の定期検査で直腸左側壁に局所再発が判明し,手術治療も考慮したが肛門温存を希望したため,5-FU/CDDP による化学療法を施行した。途中 Grade 3 の末梢神経障害を認めたが,減量して継続したところ CRが得られ,初回治療から6 年8か月経過した現在,無再発生存中である。肛門扁平上皮癌に対してCRT は標準治療となりつつあるが,局所再発も少なくなく腹会陰式直腸切断術を要する。CRT 後の再発治療において化学療法は,肛門温存を希望する場合に選択の一つになり得る。 -
腸骨浸潤を伴う盲腸癌局所再々発に対して腸骨合併切除術を施行した1例
46巻3号(2019);View Description
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症例は65 歳,女性。前医で盲腸癌に対して腹腔鏡補助下右半結腸切除術を施行され,その3 年後に腹壁浸潤を伴う局所再発に対して腫瘍切除,小腸・右腸骨筋・右大腿神経合併切除を施行された。その1 年後,右腸骨周囲に再々発を認め,約1 年間の化学療法を施行された。その後のPET-CT 所見でも他部位の異常集積は認めず,切除目的で当科紹介となった。腸骨合併切除にて完全切除が可能と判断し,腫瘍切除,腸骨合併切除術を施行した。病理結果は切除断端陰性であった。術後経過は良好で杖歩行にて自宅退院となった。骨合併切除の手術侵襲は大きいが,完全切除が見込める症例では腸骨合併切除も選択肢の一つになり得ると考えられた。 -
切除不能進行食道癌に対して集学的治療により長期生存が得られた1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は70 歳台,男性。上部消化管内視鏡検査にて切歯21 cm から41 cm にかけて粘膜の発赤と不整を認め,ヨード染色にて全周性に不染帯を認めた。切歯35 cm の食道右壁で一部凹凸を認め,深達度はMP と診断した。胸腹部造影CT にて一塊となったNo. 9 リンパ節の腫大と,No. 16 リンパ節の腫大を認めた。以上より,進行食道癌,cT2N4M0,cStage Ⅳaと診断し,5-FU+CDDP(FP)療法を実施する方針とした。2 コース実施したところ,上部消化管内視鏡検査にて粘膜の発赤や不整は消失した。No. 16 リンパ節は縮小したがNo. 9 リンパ節は縮小するも残存していたため,追加で化学放射線療法を行う方針とした。主病変とNo. 9 リンパ節にそれぞれ60 Gy/30 Fr ずつ照射し,FP 療法を2 コース実施した。終了後の胸腹部CT ではPR を得られたため,さらにFP 療法を2 コース実施した。その後のPET-CTで原発巣やNo. 9 リンパ節・No. 16リンパ節に異常集積を認めず,CR を得られた。現在,30か月無治療でCR 継続中である。 -
ソラフェニブにて完全奏効し投薬中止後も再発を認めなかった肝細胞癌の1例
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ソラフェニブはMAP キナーゼ経路,VEGF 受容体,PDGF 受容体活性を併せて阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する分子標的薬である。肝細胞癌にソラフェニブを投与し完全奏効(complete response: CR)が得られた後に投薬を中止し,4 年間再発を認めていない症例を報告する。症例は75 歳,男性。主訴は肝腫瘍。現病歴は2010 年1 月に肝腫瘍を指摘され3 月に肝中央二区域切除を施行した。6 月のCT にて肝両葉に多発再発を認めTACEを2回,TAI を1回施行したが奏効せず,12 月よりソラフェニブを800 mg/dayにて投与開始した。2011 年 6 月に modified RECIST(mRECIST)にて CR となり2013年12 月に皮膚症状の副作用のため中止した。その後2018 年6 月まで54 か月間再発を認めていない。ソラフェニブでのCR はまれでありCR が得られた後の中止の可否についてのコンセンサスはないが,中止が許容される可能性が示唆された。 -
区域性肝内胆管の拡張を呈した大腸癌肝転移の2 例
46巻3号(2019);View Description
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症例1 は70 歳,男性。横行結腸癌に対し右半結腸切除術を施行した。術後3 年目にCT でS4 肝内胆管の区域性拡張を伴う1 cm大の淡い造影不良域を認め,原発性肝内胆管癌の診断で肝左葉切除術を施行した。組織診断は高分化管状腺癌,胆管には腫瘍塞栓を認めた。免疫染色にてCDX2 陽性,CK20 は一部で陽性,CK7 は陰性で横行結腸癌と同様の組織像であり,大腸癌肝転移と診断した。症例2 は67 歳,男性。下行結腸癌の術前検査時にCT で肝S4 の区域性肝内胆管拡張を伴う2 cm 大の淡い造影不良域を認め,下行結腸癌と原発性肝内胆管癌の重複癌の診断で下行結腸切除術および肝左葉切除術,リンパ節郭清の同時手術を施行した。病理組織診断は下行結腸,肝左葉ともに中分化腺癌であり,免疫染色では両者ともにCK19,CK20,CDX2 が陽性,CK7 は一部陽性,CA19-9 は陰性であり,下行結腸癌,Stage Ⅳと診断した。 -
肝細胞癌との鑑別に苦慮した肝Reactive Lymphoid Hyperplasia の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は60 歳台,女性。原発性胆汁性胆管炎で外来経過観察中,超音波検査にて肝S6 に増大傾向を示す単発の肝腫瘤を認めた。腹部造影超音波検査や腹部造影CT 検査,腹部EOB-MRI検査にて肝細胞癌と診断し,腹腔鏡下肝S6 部分切除術を施行した。切除標本の病理組織学的検査では肝reactive lymphoid hyperplasia(RLH)と診断された。術後17 か月経過した現在,無再発生存中である。肝RLH の頻度はまれであるが,肝臓の小型腫瘍の鑑別診断として念頭に置く必要がある。 -
幽門側胃切除後の膵体尾部癌に対して腹腔動脈合併膵体尾部切除を施行した1例
46巻3号(2019);View Description
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幽門側胃切除術後に脾合併膵体尾部切除を行うと,残胃は脾動脈から分枝する動脈から血流を受けているため,残胃の虚血が危惧される。今回,術前の血管造影検査を用いて安全性と根治性の高い腹腔動脈合併膵体尾部切除を施行した。症例は77歳,男性。胃癌に対して幽門側胃切除術,D2郭清(T1b,N0,M0,fStageⅠA)を施行し,外来経過観察中であったが,造影CT にて総肝動脈・腹腔動脈と接する膵体尾部腫瘍を認め,BR 膵癌の診断にて集学的治療を行った後に根治術を施行することとなった。術前の血管造影にて,残胃は腹腔動脈根部より分岐する左下横隔動脈からの供血を多く認めていた。腹腔動脈合併膵体尾部切除を施行し,術中にソナゾイドを用いた造影エコーとICG蛍光造影を用いて残胃の血流に問題がないことを確認した。術後残胃の虚血性壊死は認めず,独歩退院となった。 -
全身化学療法後にConversion Surgeryを施行し得た切除不能膵腺扁平上皮癌の1例
46巻3号(2019);View Description
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症例は60 代,男性。上腹部痛を契機に精査で胃浸潤を伴う膵腫瘤と多発肝腫瘤(肝S3,S4)を指摘された。EUSFNAによる細胞診で悪性所見を認め,切除不能膵体尾部癌,cT3,cN1(No. 7),cM1(P0,H1),cStage Ⅳと診断した。GEM+nab-PTX療法を9 コース,modified FOLFIRINOX療法を9 コース施行したところ,遠隔転移,局所進展の進行なくconversion surgeryを計画した。術直前に肝S5 に新規転移巣の出現を認めたがR0手術が可能と判断し,膵体尾部切除(噴門側胃,左副腎合併切除),肝S5 部分切除を施行した。原発巣の病理検査では一部腺腔様の構造を残す角化傾向を伴った異型上皮を認め,腺扁平上皮癌と診断された。術後に食道胃吻合部の縫合不全を認めたが保存的に加療し,術90 日後に軽快退院した。初診時より約2 年が経過した現在,外来にて治療継続中である。 -
腫瘤を形成した膵神経内分泌細胞過形成に対し切除を行った1 例
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症例は51 歳,男性。胆石症に対し胆嚢摘出術を予定されていたが,術前精査にて膵尾部に直径1 cm 弱の腫瘤を指摘された。CT・MRI検査とEUS-FNAの結果,膵神経内分泌腫瘍疑いの診断にて腹腔鏡下膵体尾部切除術,胆嚢摘出術を施行した。術後病理検査・免疫組織化学検査にて,通常のランゲルハンス島と同様の膵内分泌細胞が均一に過形成している所見が得られ,膵内分泌細胞過形成と診断した。膵内分泌細胞過形成の報告はあるが,今回のように腫瘤を形成し切除に至ったという症例は極めてまれである。有症状症例では画像上明らかでなくても,低血糖や膵臓のホルモン上昇の際は鑑別に入れるべき疾患である。膵臓の腫瘍性病変は,画像検査のみでの確定診断は難しく針生検が有用であるが,神経内分泌腫瘍と神経内分泌細胞過形成は針生検での鑑別は困難であり,双方の可能性を考慮する必要があると考えられた。 -
術後化学療法により遠隔転移がCR となった骨・軟骨化生を伴う乳癌の1例
46巻3号(2019);View Description
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症例は63 歳,女性。左乳房に潰瘍形成を伴う易出血性15 cm 大の腫瘤を認めた。3 cm 程度に腫大した左腋窩リンパ節,右鎖骨上リンパ節を触知した。造影CT で右肺に2.5 cm の不整形腫瘍を認め,肺転移が疑われた。局所コントロールのため,左乳房切除術のみを施行した。病理学的所見は骨・軟骨化生を伴う乳癌,n=1/21,s(+),ly0,v1,NG3,Ki-67 80%,ER(−),PgR(−),HER2 0 であった。術後は,adriamycin+cyclophosphamide(AC)療法を4 コース施行し,右鎖骨上リンパ節は1 cmまで縮小した。継続してweekly paclitaxel(PTX)を12 コース施行し,右鎖骨上リンパ節および肺転移はcomplete response(CR)となったためPTX を終了した。維持療法としてS-1 を投与し,16か月以上CR を維持している。化学療法により遠隔転移がCR となった骨・軟骨化生を伴う乳癌の1 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。 -
BRCA 1/2遺伝学的検査によって乳房温存療法の適応を決定した若年性乳癌の1例
46巻3号(2019);View Description
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遺伝学的検査によって乳房温存療法の適応を決定した若年性乳癌の1 例を経験した。症例は25 歳,女性。左乳房腫瘤で近医を受診し,左乳癌の診断で当科紹介となった。既往症に特記事項はなし。家族歴は,父方祖父が60 歳時に直腸癌を認めた。乳腺エコーで左C 領域に3.8 cmの不整形腫瘤と左腋窩に2.0 cm の腫大したリンパ節を認めた。針生検で浸潤性乳管癌と診断され,穿刺吸引細胞診でリンパ節転移を確認した。cT2N1M0,Stage ⅡBで,免疫染色はER(−),PgR(−),HER2(−)のtriple negative乳癌(TNBC)であった。術前化学療法(NAC)を行い,臨床的完全奏効(CR)を得た。若年のTNBCは第二乳癌のリスクがある遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の可能性が高く,乳房温存が相対的禁忌となっている。術式決定のため遺伝学的検査を行いBRCA の病的変異は認めなかった。乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清術を行い,術後温存乳房照射を行った。現在術後4年2か月経過し,再発の兆候なく外来通院加療中である。 -
開窓療法が有効であった歯原性嚢胞壁に生じたエナメル上皮腫の1 例
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エナメル上皮腫は良性歯原性腫瘍であるにもかかわらず,多くは局所浸潤性を有し,悪性転化や遠隔転移の報告も散見される。歯原性嚢胞では病変の縮小を目的に開窓療法が適用されることがある。今回,歯原性嚢胞壁に生じたエナメル上皮腫に対し根治切除術前に開窓療法を行い,良好な結果が得られた1 例を経験したので報告する。症例: 57 歳,男性。右側下顎歯肉に骨様硬の膨隆があり,画像上,右側下顎骨内に境界明瞭な一部多房性の嚢胞性病変がみられた。生検にて病変前方はエナメル上皮腫,後方は原始性嚢胞の病理診断であり,歯原性嚢胞壁に生じたエナメル上皮腫と考えられた。生検部を開窓孔として3 か月間保持し病変の縮小を確認できたため,下顎骨,下顎神経を保存し,嚢胞摘出術・下顎辺縁切除術を施行した。根治手術前の開窓療法により治療期間は長くなるが,大きな嚢胞性病変では後遺症を減じ得ると考えられた。 -
腎癌膵転移に対して膵切除術を施行した2 例
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腎癌の膵転移は比較的まれな病態である。今回われわれは,腎癌の膵転移を来した2 例を経験した。症例1 は72 歳,男性。2005年,左腎癌にて左腎全摘出術を施行した。術後12 年目に腹部dynamic CT 検査で膵体部および右腎に腫瘍を指摘された。PET-CT検査にて,膵体部腫瘍および右腎に淡い集積を認めた。左腎癌膵転移の疑いにて,開腹膵体尾部切除術および右腎部分切除術を施行した。病理結果にて,膵腫瘍,右腎腫瘍は左腎癌の転移であった。術後経過は良好であり,現在外来で10 か月間,無再発経過観察中である。症例2 は51 歳,女性。腹部造影CT,MRI検査にて左腎,膵頭部に腫瘍を認めた。左腎癌および膵転移の診断の下,根治的左腎摘出術,膵全摘術を施行した。病理結果は左腎癌,膵転移にてpStage Ⅳであった。術後経過は良好であり,14 年間無再発で経過している。腎癌の膵転移に対して根治的切除術を行い,良好な経過をたどった2 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 -
直腸癌穿孔による腹膜炎に対して感染コントロール手術後に根治術を施行した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は70 代,男性。腹痛を主訴に近医を受診した。CT で直腸周辺にfree air を認め,当院に転院搬送となった。来院時ショック状態であったが,穿孔性腹膜炎にて試験開腹の方針となった。直腸Ra に腫瘍を認め,その口側の直腸S 状結腸部に2 cmの穿孔を認めた。手術中循環動態が不安定であったため可及的に病巣部の腸管切除(source control)を行い,開腹のまま陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy)によるopen abdomen managementにて集中治療室に帰室した。エンドトキシン吸着を含めた集中治療で,全身状態が安定した第4 病日に追加リンパ節郭清および直腸S 状結腸吻合術を施行した。病理組織結果では,pT4aN1M0,pStage Ⅲa の診断であった。術後肺炎を併発したものの,第28 日目に自宅退院となった。手術におけるsource controlとopen abdomen managementによる感染コントロール後に根治術を施行した1例を経験した。 -
切除不能大腸癌に対して化学療法が奏効し切除可能になった3 例の検討
46巻3号(2019);View Description
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症例1 は60 歳,男性。脳外科にて脳腫瘍に対して手術を施行したところ,病理結果より腺癌の診断であった。精査にて肺転移を伴う切除不能直腸癌の診断であったため,化学療法施行後に腹会陰式直腸切断術を施行した。術後1 年目に多発肺転移,局所再発を認めたため化学療法を導入した。術後37 か月目に死亡した。症例2 は64 歳,男性。血便の精査にて直腸癌,肺転移,多発肝転移の診断で根治切除不能と判断し,化学療法を施行後に腹腔鏡下低位前方切除術+肝部分切除術を施行した。術後1年,無再発生存中である。症例3 は39 歳,男性。腹痛,腹部膨満にて精査したところ,直腸癌,左尿管浸潤,多発肝転移の診断で切除不能と診断し,化学療法を施行後に低位前方切除術+肝部分切除術+ラジオ波焼灼療法を施行した。術後15 か月で無再発生存中である。切除不能大腸癌に対して,化学療法施行後に治癒切除をめざすことで予後改善が期待できると考えられた。 -
食道癌ESD 施行後に異時性胃壁内転移を来した1 例
46巻3号(2019);View Description
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食道癌粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)施行後に異時性胃壁内転移を来した1 例を経験したので報告する。症例は80 代,男性。当院消化器内科にて早期食道癌に対しESD を施行した。pSM2,浸潤距離506 mm,ly+であったが患者が手術と化学放射線療法を希望せず,経過観察の方針となった。ESD より1 年後の上部消化管内視鏡検査で胃噴門部に約5 cmの粘膜下腫瘍を認め,生検にて扁平上皮癌と診断した。手術目的に当科紹介となり,胃全摘術(D2郭清,Roux-en-Y 再建),胆嚢摘出術を行った。病理組織学的検査にて,食道癌と組織型が一致し腫瘍の主座が粘膜下層であることから,食道癌胃壁内転移と診断した。 -
直腸肛門部悪性黒色腫に対して腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した1例
46巻3号(2019);View Description
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症例は56 歳,女性。下血および肛門痛を主訴に近医を受診した。直腸診で15 mm大の隆起性病変を指摘され,当院に紹介受診となった。下部消化管内視鏡検査により肛門縁から約2 cm の肛門管(P)から下部直腸(Rb)にかけて黒色の色素沈着を伴うIspポリープを認め,生検で悪性黒色腫と診断された。CEA,CA19-9は基準範囲内で,CT,MRIでは他臓器浸潤や遠隔転移は認めなかった。腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術(中枢側D2,側方郭清なし)を施行した。病理組織学的所見では,pT1(SM),N0,M0,INF c,ly0,v0,pStageⅠであった。術後補助療法はフェロン局所投与を行い,術後2年1か月経過し無再発生存中である。直腸肛門部悪性黒色腫は症例数が少ないため,今後は症例数の蓄積による治療法の確立が望まれる。 -
原発巣切除を施行したStage Ⅳ乳癌の検討
46巻3号(2019);View Description
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当科で局所コントロール目的に原発巣切除を施行したStage Ⅳ乳癌について,切除が病勢に影響するのか検討した。対象は2009〜2017 年,StageⅣで原発巣切除を施行した15 例とした。手術時年齢中央値は63 歳。術後死亡症例は術後1 年未満1 例,2年未満1 例に認めた。全症例の術後SD期間中央値は11 か月,術後SD期間が12 か月以上の症例は7 例であった。原発巣切除後の最初に施行された薬物治療は全症例でSDが得られた。術後SD 期間が長い傾向を認めた症例は,術前薬物療法のない症例,LuminalHER2,転移臓器数が1 臓器の症例であった。手術時期,手術の理由にかかわらず術後に急激な病勢の増悪は認めず,すべての症例で術後の局所コントロールは良好で,遠隔転移巣に対する加療継続が可能であった。Stage Ⅳ乳癌において局所コントロール目的に原発巣切除を考慮することが全身治療に影響しないことが示された。 -
切除により長期間無再発生存中の胃癌異時性肝・肺転移の1 例
46巻3号(2019);View Description
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外科的切除により,長期間無再発生存中の胃癌異時性肝・肺転移の1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は64 歳,男性。胃癌,pap,T3(SS)N1M0,cStage ⅡB に対し,幽門側胃切除術を施行した。術後S-1 による補助化学療法を施行したが,術後1 年5 か月後に肝S7 に転移再発を来し,肝部分切除術を施行した。その1 年8 か月後に再度肝S6/S7 とS7 に転移再発を来し,肝右葉切除術を施行した。その 6 か月後に右肺S3 に転移再発を来し,右肺上葉切除術を施行した。転移性肺腫瘍術後5 年経過するが,現在無再発生存中である。 -
審査腹腔鏡が診断に有用であった噴門部スキルス胃癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は60 歳,男性。食事中のつかえ感,体重減少を主訴に前医を受診した。上部消化管内視鏡検査で噴門部から胃体上部にかけて全周性4 型腫瘍を認めた。造影CT 検査では胃体上部に全周性の壁肥厚を認め,隣接臓器への腫瘍浸潤が疑われた。内視鏡下生検および超音波内視鏡検査での生検を施行したが,いずれからも悪性所見は認められなかった。審査腹腔鏡により腹腔内を観察したところ,ダグラス窩に少量の腹水が貯留し大網内と左下腹部の腹膜に白色結節を認めた。腹水および白色結節からそれぞれadenocarcinomaが検出され,胃癌,T4bN1M1P1CY1,Stage Ⅳと診断した。内視鏡下生検で悪性所見が得られないスキルス胃癌において,審査腹腔鏡が確定診断および治療方針決定の一選択になると考えられた。 -
Ramucirumab+Paclitaxel療法中に腫瘍出血を来し胃切除を施行した進行胃癌の1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は66 歳,女性。胃癌Stage Ⅳ[T4aN3M1(LYM)]に対してthird-line のRAM+wPTX 療法(ramucirumab8 mg/kg 1,15 日目に投与,paclitaxel 80 mg/m2 1,8,15 日目に投与)3 コース終了時に腫瘍出血に伴う貧血の進行を認め,RAM最終投与から6 週間目に開腹幽門側胃切除(D1+リンパ節郭清,Billroth Ⅰ法再建)を施行し,術後出血や創傷治癒遅延などの合併症なく術後9 日目に軽快退院となった。その後,術後1 か月後よりRAM+wPTX 療法を再開することができた。血管新生阻害薬使用下での手術は術後出血や創傷治癒遅延のリスクがあり,手術を含めて治療のタイミング決定に難渋することがある。今回,RAM最終投与から6 週間後に手術を行い,術後早期からRAMを再開できた1 例を経験した。今後さらなる症例の集積により,周術期のRAM使用や安全性の検討が必要と考えられた。 -
非機能性膵神経内分泌腫瘍として経過観察されていた十二指腸GIST の1 切除例
46巻3号(2019);View Description
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症例は67 歳,男性。2007 年3 月,CEA 高値のため精査加療目的に近医より当院に紹介となった。血液検査所見でCEA 8.9 ng/mL,CA19-9 128 U/mL と腫瘍マーカーの上昇を認めた。腹部造影 CT では膵頭部に非常によく造影される30 mm大の腫瘤を認めた。諸検査後,非機能性膵神経内分泌腫瘍と診断し,経過観察となった。約9 年6か月後,血糖コントロール不良,肝機能障害,腫瘍マーカーの上昇を認めたため再度精査した。腹部造影CT では膵頭部の腫瘍は42 mm と増大し総胆管を圧排して総胆管の拡張も認めた。超音波内視鏡では膵頭部に十二指腸に突出する約40 mm の低エコーSOL を認めた。引き続き施行した超音波内視鏡下穿刺吸引生検の結果,gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。以上より,十二指腸GISTと診断し膵頭十二指腸切除術を施行した。病理学的検査所見ではc-kit陽性でありGISTと診断した。現在,無再発で外来通院中である。 -
胃粘膜下異所腺のある胃に併存した早期胃癌の1 切除例
46巻3号(2019);View Description
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胃粘膜下異所腺には胃癌が合併しやすいことが報告されている。今回われわれは,胃粘膜下異所腺のある胃に発生した胃癌に対し外科的切除を施行した1 例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する。症例は80 歳代,男性。大腸癌肝転移切除の外来フォロー中にCEA 上昇を認め,上部消化管内視鏡にて胃に腫瘍性病変を指摘され紹介となった。上部消化管内視鏡では,胃に多発する胃粘膜下異所腺に併存する0-Ⅱa+Ⅱc 病変を一つ認め,生検にて胃癌と診断された。胃粘膜下異所腺原発の早期胃癌と診断したが,高齢でもあることより腹腔鏡補助下胃分節切除術を施行した。切除標本では腫瘍は胃内腔の粘膜,粘膜下に限局する病変であったが,一部胃粘膜下異所腺に進展したT1b胃癌であった。胃粘膜下異所腺がある胃に発生する胃癌は多発することがあるため,胃全摘以外の治療選択をする場合は残胃癌の発生を考慮した厳重な経過観察が必要である。 -
胃癌に対する胃切除術BillrothⅠ再建後の逆流症状にアコチアミド塩酸塩が著効した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は65 歳,女性。身長159 cm,体重59 kg。肺癌術後で外来経過観察中に貧血を認め,精査目的に上部消化管内視鏡検査を施行し,胃癌の診断となった。幽門側胃切除,D2 郭清,Billroth Ⅰ(B-Ⅰ)再建術を施行した。術後診断は胃癌,ML,Less,Type 2,67×55×15 mm,muc>sig>por,pT4a(SE)N2M0,fStage ⅢBであった。術後S-1 補助化学療法施行中の外来通院時に逆流症状を認め,食事摂取不良であった。術後3 か月,5 か月での体重はそれぞれ51 kg,52.5 kgおよび血清Alb値が3.2 g/dL,2.7 g/dL であり,低栄養となっていた。術後 7 か月で逆流症状の改善を認めなかったため,アコチアミド塩酸塩の内服を開始した。内服開始後,逆流症状と食事摂取量が改善し,術後11 か月,15 か月での体重はそれぞれ54 kg,57 kgおよび血清Alb値が3.0 g/dL,2.7 g/dLとなった。術後 23 か月目で腹膜播種再発を来し食事摂取不良となったが,逆流症状の再燃は認めなかった。胃切除術B-Ⅰ再建後の逆流症状に対して,アコチアミド塩酸塩が治療選択肢となる可能性が示唆された。 -
胃結腸瘻を来した横行結腸癌と同時性直腸癌を一期的に切除した1 例
46巻3号(2019);View Description
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症例は76 歳,男性。食欲不振,下痢のため受診した。CT 検査で横行結腸脾弯曲部に腫瘤を認め,胃と瘻孔形成が疑われた。上部消化管造影,上部内視鏡検査でtype 2 横行結腸癌および胃結腸瘻を確認した。下部内視鏡検査でRa 領域にtype 2 直腸癌を認めたため,胃結腸瘻を伴う横行結腸癌および同時性直腸癌の診断で,一期的に根治切除術を行った。病理検査では,ともに高分化型腺癌であったが横行結腸癌は一部粘液癌成分を認めた。いずれもリンパ節転移は認めなかった。胃結腸瘻を来す結腸癌はまれであるが自験例を加えた本邦報告30 例の検討を行ったところ,深達度に比してリンパ節転移率が低かったことから積極的な浸潤臓器合併切除が望ましいと思われる。