癌と化学療法
Volume 46, Issue 4, 2019
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投稿規定
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総説
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がん医療におけるアドバンス・ケア・プランニング―最新の知見と今後の課題―
46巻4号(2019);View Description Hide Descriptionがん患者の意向に沿った終末期療養の実現には,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning: ACP)が重要であることが示唆されてきている。その一方,ACP の実践や普及には様々な障壁がある。本稿ではACP に関する国内外のエビデンスを概括するとともに,現在のわが国の臨床においてACP を実践していく上での課題を示す。ACPを実施するに当たっては病状理解,価値観,否認機制などについて評価し,患者のACP参加への準備状況について話し合うことが重要である。
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特集
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- がんゲノム医療(時代)の到来
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がんゲノム医療中核病院と連携病院の役割
46巻4号(2019);View Description Hide Description2018 年12 月にがんゲノムプロファイリング検査が薬事承認を取得し,ゲノム医療の実装化が目前となっている。2018年4 月に,がんゲノム医療体制構築の一環として厚生労働省によりがんゲノム中核拠点病院(中核病院)11 施設が指定された。中核病院は全国135施設のがんゲノム連携病院と,主に検査結果を解釈してそれに基づく治療方針を検討する「エキスパートパネル」をとおして連携し,ゲノム医療を提供する。国立がん研究センター中央病院では,当センターが中心となって開発したがんゲノムプロファイリング検査「NCC オンコパネル」を用いた先進医療をこの連携体制をとおして多施設共同研究として実施し,がんゲノムプロファイリング検査の有用性や課題抽出を行っている。 -
がんゲノム医療に必要なインフラとエキスパートパネル
46巻4号(2019);View Description Hide Description2018年,厚生労働省は「がんゲノム医療」の中心的な役割を担う全国11 施設を「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定し,2019年4 月には一部のがん遺伝子パネル検査が保険承認される見込みであり,ゲノム中核拠点病院,連携拠点病院ではがんゲノム医療に必要なインフラ整備が求められている。がんゲノム医療の実践に必要なインフラと人材として,① がんゲノム医療実践に必要な知識を有する看護師・薬剤師・臨床検査技師などメディカルスタッフの育成,② ゲノム検査に適した病理検体の保管・管理ができる病理部門,③ 検査申し込み・検体発送・結果レポート受領・結果説明などの業務を担当するコーディネーター,④ 多職種の専門家によるエキスパートパネルの開催,⑤二次的所見時に必要な遺伝カウンセリングの体制整備などがあげられる。本稿ではこれらがんゲノム医療に必要なインフラについて当院における取り組みを中心に紹介する。 -
がんゲノム診断のエキスパートパネルの病院間連携
46巻4号(2019);View Description Hide Descriptionわが国では,がんゲノム医療を中心的に牽引する「がんゲノム医療中核拠点病院」と,中核拠点病院と連携して地域でがんゲノム医療を遂行する「がんゲノム医療連携病院」の2 種類の病院が協調してがんゲノム医療を推進していく体制となっている。現在中核拠点病院には11 施設,連携病院には135 施設が指定を受けている。がんゲノム医療の提供にはシークエンス検査結果を臨床情報と合わせて解釈し,患者に提供する情報を決定するエキスパートパネルの開催が必須である。エキスパートパネルの開催は中核拠点病院の義務であり,連携病院はそれに参加することとなる。エキスパートパネルを円滑に進めるにはWeb システムを利用した情報の共有が効果的だが,様々なマネージメントが必要である。それ以外にもがんゲノム情報管理センターへの患者情報の登録やゲノム検査の増加への対応,人材育成など中核拠点病院と連携病院が協調して行うべき課題は山積している。がんゲノム医療の提供体制の構築には病院間連携が不可欠であり,今後もその重要性は増していくと考えられる。 -
がんゲノム医療におけるがんゲノム情報管理センターの役割
46巻4号(2019);View Description Hide Descriptionがんのクリニカルシークエンスは先進諸国のがん診療の標準となりつつある。2017 年6 月27 日,厚生労働省が設置した「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」の報告書が公開された。わが国におけるがんゲノム医療実装の基本設計書である。わが国は国民皆保険の強みを活かして,診療と研究,個人情報保護とデータシェアリング,個人から次の世代への橋渡しを基盤とする新たな時代への一歩を踏みだそうとしている。その要点は,全国に配置されるがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院を中心にしたネットワークによる「段階的な」ゲノム医療実装と,それらの病院における実臨床のreal world data(RWD)としての日本人のがんゲノム情報・臨床情報を集積・保管・活用するための仕組み「がんゲノム情報管理センター」の整備である。一部の国や企業がゲノム医療のRWD の囲い込みを強力に進めるなか,わが国の医療とそのイノベーションの次世代型基盤を国民と臨床現場の理解を得ながら作り上げていくことが求められている。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non-Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌
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特別寄稿
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第2 回アジアがん官民対話フォーラム アジアにおけるがん医療のUniversal Health Coverage(UHC)実現に向けた官民の取り組みの在り方に関する議論―アジア健康構想へのアプローチ―
46巻4号(2019);View Description Hide DescriptionUICC-Asia Regional Office(UICC-ARO)は,前回国連大学で開催された会議のフォローアップとして2018 年9 月5日に参議院議員会館にて第2 回アジアがん官民対話フォーラムを開催した。2018 年7 月に健康・医療戦略推進本部にて決定された「アジア健康構想に向けた基本方針」(改定)のなかでがんについての提言内容が入ったことを受け,官民のステークホルダーが集まり,今後展開が予定されているグローバルな動きを念頭に置いてがんケアへのアクセスを改善するための方法を議論した。座長は前回に引き続き,UICC-ARO director赤座英之が座長を務め,第1 部は「持続可能な社会の実現に向けたがん医療への取り組みにおける官民パートナーシップについて」と題して各ステークホルダーからの発言が続き,第2部においては「アジア健康構想におけるがん医療」と題してアジア健康構想における政策策定に向けた具体的な発表が行われた。その後,これらを踏まえて全体討論が行われた。
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原著
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小児がん拠点病院における家族を対象とした抗がん剤曝露対策の実態調査
46巻4号(2019);View Description Hide Description抗がん剤による職業性曝露への安全対策はガイドラインに沿って実践されているが,小児領域における家族への曝露対策はまだ検討されていない。小児がん拠点病院(全15 施設)に勤務する看護師を対象として,患児・家族への抗がん剤曝露対策への認識および実践について調査した結果,家族指導をはじめとした抗がん剤曝露対策が十分に実践されていない現状が明らかとなったので報告する。 -
看護師による抗がん剤ルート確保の取り組み
46巻4号(2019);View Description Hide Description当院は2007年に外来化学療法室を開設し,これまで抗がん剤ルート確保は医師が行ってきた。安全で適正ながん化学療法の管理,医師の業務軽減,患者の待ち時間短縮を目的として看護師による抗がん剤ルート確保実施に向けて取り組んだ。2013 年6 月にアンケートを行い,国立大学病院33 施設中19 施設(58%)で看護師がルート確保を行っていた。同年11 月にワーキンググループを立ち上げ,2016年9 月〜2017年3 月に講義,実技,ペーパーテスト,実技テストを行い,合格者を院内認定看護師として承認した。2017年4 月から外来化学療法室において,看護師による抗がん剤の静脈注射と外来化学療法室での医師待機を開始した。患者からは痛みや失敗が少ないと好意的な意見が多く,血管外漏出や穿刺困難などのトラブルも起こっていない。29 分(往復20 分,滞在9 分)業務を中断していた医師は業務へ集中できるようになった。一方で,看護師業務が増え,患者待ち時間は14 分から21 分へむしろ延長した。今後は看護師増員など看護師の負担軽減が課題となっている。 -
頭頸部癌化学放射線療法におけるEPA 高配合栄養機能食品(プロシュア®)の有用性の検討
46巻4号(2019);View Description Hide Description頭頸部癌に対する化学放射線療法により生じる代表的な副作用には口腔粘膜炎と体重減少があげられる。今回われわれは,中咽頭癌,下咽頭癌症例にてシスプラチンと放射線療法を同時併用する化学放射線療法施行症例において,w3 系脂肪酸高配合栄養機能食品であるプロシュア®の口腔粘膜炎と体重減少に対する有用性の検討を行った。放射線治療開始から終了までの期間プロシュア®を投与し,最大体重減少率,口腔粘膜炎,化学放射線療法完遂率についてプロシュア®の介入を行っていない過去の当科症例を対照群として比較検討を行った。プロシュア®投与群は対照群と比べ体重減少率の改善(7.3% vs10.3%,p<0.01),口腔粘膜炎の改善を認めた(CTCAE v3.0 Grade 3 以上; 24% vs 58%,p<0.05)が,化学放射線療法完遂率は両群の差を認めなかった(77% vs 60%,NS)。プロシュア®の投与が化学放射線療法施行中において,体重減少や口腔粘膜炎の改善に寄与する可能性が示唆された。
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医事
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思春期・若年成人期(AYA期)発症がんサバイバーの就労に対する意識と医療施設・事業場での支援ニーズ
46巻4号(2019);View Description Hide Description思春期・若年成人期発症がんサバイバーの就労に対する意識,がん確定診断時における就労に関する相談行動,職場での病気開示,就労継続に必要な支援を明らかにするために横断的質問紙調査を行った。がんの確定診断時年齢は27.8(15〜37)歳であった。この年代のサバイバーにとって就労することの意味は経済的な基盤を築くことや社会への貢献であった。がんの確定診断時の就労に関して医療者や就労の専門家に相談した人は約半数であったが,職場での病気開示は約90%の人が行っており,その結果多くの人は必要な配慮を引きだせたことが示された。就労継続に向けて必要とされた支援は,事業場での環境整備が医療施設における相談支援よりも上回っていた。今後は支援が必要とされる時期を特定し,医療施設および事業場でのさらなる支援のあり方について検討する必要性が示唆された。
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症例
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三次治療としてのアムルビシン単剤による化学療法で長期生存を得ている再発性浸潤性胸腺腫の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。12 年前に浸潤性胸腺腫と診断し,化学放射線療法(アドリアマイシン+シスプラチン+ビンクリスチン+シクロホスファミド: ADOC)+放射線照射(62 Gy)後11 年経過して再発した。二次治療のカルボプラチン+パクリタキセル(CP)療法は効果が乏しく,早期に原発巣の増大と胸膜炎を発症した。三次治療としてアムルビシン単剤にて治療し良好な病勢制御を得た。重篤な有害事象は認めず忍容性は良好で,本稿執筆時には21 コース施行後であるが依然としてcomplete response(CR)を維持している。再発性胸腺腫に対して有効性の証明された二次治療以降の化学療法レジメンは存在しない。アムルビシン単剤治療は副作用が軽微で長期生存を期待できる有効な治療選択肢となり得る。 -
進行胃癌化学療法中に胃穿孔し二期的に胃全摘術を施行して長期生存を得た1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。血性嘔吐を主訴に精査を施行し,大動脈周囲リンパ節転移を伴うcStage Ⅳの進行胃癌と診断され,治癒切除をめざして術前化学療法を導入した。SP療法を12 コース,その後S-1 療法に移行して2 コース目施行中に胃穿孔による急性汎発性腹膜炎を発症し,緊急で大網充填術,ドレナージ術を施行し,術後14 日目に退院した。退院後の評価で治癒切除が可能と判断し,緊急手術より3 か月後に胃全摘術D1+(+No. 11d)を施行した。術後経過は良好であった。本人が希望されず術後補助化学療法は施行しなかった。胃全摘後15 か月で腹部CT にて腹膜播種再発を認め化学療法を再導入しているが,現在,初発より57 か月生存中である。 -
外科的切除後の再発に対して放射線化学療法が有効であった原発性小腸癌の1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description原発性小腸癌は低頻度であり,かつ検査の困難性より進行状態で発見されることが多く,予後は不良である。そして低頻度であるがためにまとまった治療方針の報告が少なく,個々の症例を詳細に検討することが重要となる。今回,外科的切除後の再発に対して,放射線化学療法が有効であった原発性小腸癌の1例を提示して検討する。症例は48 歳,女性。貧血精査の大腸内視鏡検査で回腸末端部に腫瘍を指摘された。卵巣,子宮への浸潤を認めたため,回盲部切除術,子宮全摘術,両側付属器切除術を行った。病理診断でリンパ節転移を伴った小腸癌の診断に至り術後補助化学療法としてCapeOX 療法を施行した。術後6 か月のCT で右下腹部に局所再発を認めたため,irinotecan+S-1+bevacizumab療法を開始した。同期間内に放射線治療(2 Gy×25 回の全50 Gy)も併用(放射線治療中はS-1のみ)した。放射線化学療法後には腫瘍は著明に縮小しCR となった。現在無治療で経過観察中であるが,再発確認後の6 年現在(手術後6年6か月)再発は認めていない。小腸癌の再発症例に対して,放射線化学療法が奏効した症例は非常にまれであり報告する。 -
上行結腸癌・多発肝転移に対して原発巣切除後mFOLFOX6+Panitumumab,5-FU/l-LV+Panitumumab療法にて長期奏効した1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。2012年6 月に多発肝転移を伴う上行結腸癌に対し,結腸右半切除術(D2郭清)を施行した[SE,N1,P0,M1(H3),Stage Ⅳ]。術後の化学療法としてKRAS 遺伝子野生型であったため,まずmFOLFOX6+panitumu-mab を 2 週毎に 8 コース,続いて 2 週毎の 5-FU/l-LV と 4 週毎の panitumumab を施行している。化学療法開始前の血清CEA値は122 ng/mLであったが開始後急速に低下し,7 か月で正常値に復した。肝転移はCT 上縮小しつづけ,7 か月後以降はわずかな低吸収域として描出されるのみとなった。術後約5 年経過した現在も画像所見,CEA値とも変化なく,奏効した状態を維持している。右側結腸癌であってもRAS 遺伝子が野生型であれば抗EGFR 抗体薬の効果がある可能性が示唆された。 -
白血病治療中に乳癌と同時に診断された上行結腸癌に対し腹腔鏡下手術を施行した1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。当院血液内科にて成人T細胞白血病に対し化学療法を施行後(mogamulizumab 8 コース),完全寛解となり,sobuzoxane/etoposide(VP/MST)療法にて外来加療中であった。下痢症状にて精査したところ,上行結腸癌の診断となった。遠隔転移は認めなかったが,右乳房C 領域に乳癌が確認された。全身状態良好であったため,胸筋温存右乳房切除術+センチネルリンパ節生検と腹腔鏡補助下拡大右半結腸切除術を同時に施行した。術後経過良好にて第7 病日に退院となった。病理診断は乳癌stageⅠ,大腸癌stage Ⅲa であったが補助化学療法は施行せず,血液内科にて化学療法(VP/MST)を再開した。現在術後18 か月経過したが成人T 細胞白血病は完全寛解を継続し,上行結腸癌,乳癌の転移・再発も認めていない。 -
Bevacizumab+mFOLFOX6 療法が奏効した広範な骨盤内進展を伴った原発性痔瘻癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。10 年以上前から痔瘻を指摘されていた。左大腿部痛を主訴に近医を受診し,炎症反応の高値を指摘され当院を紹介された。診察にて痔瘻を認め,画像検査にて骨盤内に広範な液体貯留を伴っており,腫瘍マーカーと炎症反応も高値を認めた。炎症の制御を目的としてseton 法と,膿瘍に対してドレーン留置ならびにS 状結腸人工肛門造設術を施行した。粘液成分の病理結果より痔瘻癌の診断となった。病巣の進展範囲が広範なため放射線療法の適応はなく,bevacizumab+mFOLFOX6 療法を行った。部分奏効を認め,6か月以上の病勢コントロールが可能であった。bevacizumab+mFOLFOX6療法は切除不能進行痔瘻癌に対する有効なregimenである可能性が示唆された。 -
術前GEM+Nab-PTX 化学療法が奏効したBorderline Resectable 膵癌(BR-A 膵癌)の1 切除例
46巻4号(2019);View Description Hide Descriptionborderline resectable膵癌(BR-A膵癌)に対して術前化学療法(NAC)を施行し,R0手術を行い得たので報告する。症例は72 歳,女性。食思不振を主訴に受診し,閉塞性黄疸,CA19-9高値,造影CT で膵頭部に35 mm大の腫瘍を認めた。SMAに180 度未満の接触があり,BR-A膵癌と診断した。減黄後,gemcitabine(GEM)+nab-paclitaxel(nab-PTX)によるNAC を行いCA19-9は著明に低下し,造影CT で腫瘍縮小効果を認めたことから手術を施行した。CT 像と対比させた腫瘍を含む割面では肉眼的に腫瘍が浸潤しPLsmaにも及んでいたが,顕微鏡的にはviable cell を認めず,R0手術であった。組織学的治療効果はGradeⅡ,最終診断はpT3,pN1a,pM0,pStageⅡB であった。GEM+nab-PTX療法は,BR-A膵癌に対するNACの一選択肢になり,画像上動脈系への浸潤を認めていても全体に腫瘍が縮小しCA19-9が著減した場合はR0手術を達成し得る可能性があることが示唆された。
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特別寄稿
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- 第40回 日本癌局所療法研究会
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S状結腸癌術後2年に発生した直腸内分泌細胞癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description直腸内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma: NEC)はまれな疾患で,早期より血行性,リンパ行性転移を来す生物学的悪性度の高い腫瘍で予後は極めて不良とされる。今回,S 状結腸癌切除後2 年で上部直腸に発生したNEC の1 例を報告する。症例は90 歳,男性。88 歳時,他院でS 状結腸癌に対しS 状結腸切除術を施行した。術後1 年6か月より6 か月間持続する下血により,精査目的で入院となった。再発ではなく新たに生じた直腸NEC に対し,Hartmann手術を施行した。その後,下血は消失し特に症状は認めていないが,術後4 か月後に施行したCT で局所再発とリンパ節転移を認めた。高齢にて化学療法を施行しなかったがHartmann術後4 か月で症状が軽減し,現在厳密な外来通院管理で経過観察中である。 -
大腸癌同時性多発性肝転移に対して肝動脈化学塞栓療法(TACE)を施行し奏効が得られている1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description大腸癌の同時性多発性肝転移に対して肝動脈化学塞栓療法(transarterial chemoembolization: TACE)を施行し,良好なquality of life(QOL)と奏効が得られている1例を経験したので報告する。症例は85 歳,男性。主訴は血便であった。大腸内視鏡検査でS 状結腸および直腸Ra に腫瘍を認めた。さらに同時性肝転移を認めたが,年齢や手術侵襲などを考慮し肝切除は行わず,腹腔鏡下Hartmann 手術を施行した。肝転移巣に対する治療としてUFT-E 内服を開始したが,有害事象のため中止した。本人と相談の上,5-FU 系抗癌剤を使用しない治療方法としてTACE を施行する方針とした。イリノテカン動注およびイリノテカンを含浸したヘパスフィア®(日本化薬)を使用し,TACE を計8 回施行した。その結果,TACE開始前に認められた肝転移はすべて消失した。自験例のように全身化学療法が適さない症例には,TACE が有用である可能性が考えられた。 -
大腸癌術後肝門部リンパ節転移による閉塞性黄疸に対して胆管ステント留置後に分子標的薬併用全身化学療法を施行した1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description大腸癌術後に肝門部リンパ節転移による閉塞性黄疸に対して,胆管ステント留置後に全身化学療法を施行した症例を経験したので報告する。症例:患者は40 歳台,女性。直腸RS癌に対し腹腔鏡下前方切除術を施行した。病理診断は大腸癌取扱い規約第8 版でT3N0M0PUL0R0,fStageⅡであった。術後8 か月目に多発性肝転移を認め,肝後区域部分切除術を施行した。肝切除より1 年後に多発性肺転移を認めたが,本人の希望で経過観察とした。肺転移診断から1 年後に黄疸を認め,肝門部リンパ節転移による閉塞性黄疸と診断した。内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)を施行し,胆管ステントを留置した。減黄後にmFOLFOX6+cetuximab療法を12 コース行った。肺転移増悪のため現在,FOLFIRI+bevacizumab療法を施行中である。分子標的薬を用いた全身化学療法を施行中であるが,胆管ステントに関連した合併症は認めていない。同様の症例に関する報告は少なく,長期的な安全性に留意した経過観察が必要である。 -
慢性関節リウマチ治療中に発症した悪性リンパ腫による小腸穿孔の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。5 年前より関節リウマチに対しメトトレキサート(MTX)を含めた抗リウマチ薬を投薬中である。2 週間前からの心窩部痛を認めていた。他院での上部消化管内視鏡検査では,胃内に多発する粘膜下腫瘍を認めていた。前日からの腹痛を主訴に前医を受診し,CT 検査上free air を認め消化管穿孔の診断で当院救急搬送となった。来院時汎発性腹膜炎を呈しており,同日緊急手術を施行した。腹腔鏡下に観察すると回腸に1 cm 大の穿孔,また近傍の腸間膜内に5 cm大の腫瘤様の硬結を触知し,両病変を含めた小腸部分切除術を施行した。他の腸間膜にも数cm 大のリンパ節腫脹を認めた。経過から,MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)を疑い,MTXのみ休薬の方針とした。切除した小腸は上部消化管内視鏡検査の生検とともに,diffuse large B cell typeの悪性リンパ腫と診断された。術後1〜2 か月に施行したPET 検査,CT検査,上部消化管内視鏡検査では腫瘍は消退しており,術後6 か月の時点でも再発徴候を認めていない。 -
胃癌の治療経過中に腹部リンパ節腫大を契機に発見されたCastleman病の1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。2017年5 月に検診の上部消化管内視鏡検査にて胃体下部後壁に0-Ⅱa 型病変を指摘され,生検でadenocarcinoma suspected(Group 4)と診断された。同年6 月に当院消化器内科を紹介受診し,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)が施行された。切除標本の病理診断はL,Less,20×10 mm,Type 0-Ⅱc,tub1,pT1a(M),UL(−),ly(−),v(−),pHM0,pVM0,pStageⅠAであり,治癒切除と判断した。ESD 施行後にCT で指摘された腹部リンパ節腫大の精査加療目的にて当科に紹介となった。病巣は造影CT で胃小弯側に15 mm 大の腫大リンパ節として局在した。FDG-PET/CT で同部位に早期相でSUVmax 2.4 の淡い集積を認めた。当科にて腹腔鏡下リンパ節摘出術を施行した。摘出標本は14×14 mmの表面平滑で弾性・軟の腫大リンパ節であり,HE 染色にて萎縮性の胚中心を有する二次リンパ濾胞を多数認めた。また,胚中心周囲に硝子化血管の増生を認めており,硝子血管型Castleman病と診断した。今回われわれは,腹部リンパ節腫大を契機に診断されたCastleman病の1 例を経験したので報告する。 -
80歳以上の高齢者に対する大腸癌治療方針についての検討
46巻4号(2019);View Description Hide Descriptionわが国における地方都市の高齢化は急激に進んでおり,65 歳以上の占める割合(高齢化率)35.2%,平均年齢は50.6歳となっており,日本の高齢化率26%よりずいぶん高くなっている。また八幡東区の65 歳以上の人口のうち,その35.4%が80 歳以上である。今回,高齢地区の当院にて80 歳以上の大腸癌症例17 例について検討を行った。performance status(PS)では,PS 0:1:2:3:4=4(症例):5:1:6:1 であり,ベッド上から動けないが食事摂取は可能である患者も手術を受けていた。癌の進行度では,Stage Ⅰ:Ⅱ:ⅢA:ⅢB:Ⅳ=1:11:3:0:2となっており,Stage Ⅳにおける化学療法は家族へ十分に話した上で施行していた。また,術後に術前予測されていなかった胸部大動脈破裂による死亡症例を1 例認めていた。当院の方針として大腸癌の場合は,閉塞や出血などにより経口摂取ができなくなることでADL を低下させることを考え,積極的に手術を行っている。一方で,併存疾患を多く有するため予期せぬ合併症に出会うのも事実である。今回,当院における高齢者に対する大腸癌治療方針について,当院での症例の具体例とともに文献的考察を加え報告する。 -
外科的切除と化学療法にて長期無再発生存の得られた胃癌術後傍大動脈リンパ節再発の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。胃癌に対して胃全摘を施行した。術後補助化学療法としてS-1 内服を開始したが,術後31か月で傍大動脈リンパ節再発を認めた。S-1継続にて経過観察したが他部位の再発を認めず,術後41 か月に傍大動脈リンパ節切除を施行した。リンパ節切除術後,37 か月にて後横隔膜脚腔のリンパ節腫大を認めたため,S-1+L-OHP(SOX)療法を開始した。4 コース終了後CR と判定した。リンパ節切除術後79 か月経過したが,無再発生存中である。胃癌術後傍大動脈リンパ節再発では化学療法に外科的切除を加えることで長期生存が得られる症例が存在し,治療の選択肢となる可能性が考えられる。 -
多発肝転移を伴う直腸癌に対する化学療法中に発症したStevens-Johnson症候群の1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。下部内視鏡検査ではAV 7 cm に半周性の潰瘍性病変を認め,造影CT 検査では肝臓に肝転移と思われる結節病変を多数認めた。生検による病理検査では高分化腺癌を認めた。これに対してmFOLFOX6+panitumumabによる治療を開始した。投与開始4 日目から両側眼球結膜の充血と眼瞼浮腫を認めた。視力障害の出現に加え口唇の浮腫および表皮剥離と顔面から頸部,前胸部にかけて紅斑が出現した。Stevens-Johnson症候群(SJS)と診断しステロイドパルス療法を開始した。治療開始後24 時間で眼瞼の浮腫は改善し,視力についても改善を認めた。まとめ: SJS は多くの医薬品が原因となり,皮膚粘膜部の発赤,びらん,発熱などを主症状とする重篤な疾患である。眼症状を伴う重症例では副腎皮質ステロイドの全身投与が推奨されているが,本症例でも発症早期より開始したことが症状改善につながったと考えられる。SJSを疑う症例では皮膚科,眼科医との連携も含め迅速な対応が必要である。 -
大腸癌術後肝転移・局所リンパ節転移再発・両側水腎症に対する腹腔鏡下肝切除・尿管合併リンパ節切除術の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。S 状結腸癌に対し腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行され,術後補助化学療法としてS-1 内服を8コース施行された。術後3 年3か月で肝転移および下腸間膜動脈(IMA)根部リンパ節腫大と両側水腎症を認めた。左水腎症の原因はIMA 根部リンパ節転移の浸潤によるものと考えられた。腹腔鏡下肝S5 部分切除術・IMA 根部リンパ節切除術(左尿管合併切除)・両側尿管ステント留置・左尿管再建術を施行した。合併症なく経過し,術後12 日目に退院となった。本人の希望で術後補助化学療法は行わず経過観察中である。 -
高リスクUGT1A1 遺伝子多型を有する治癒切除不能膵癌に対しFOLFIRINOX 療法を施行した2 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は51 歳,男性および66 歳,女性。それぞれ治癒切除不能な局所進行膵癌と再発膵癌に対し,二次治療および三次治療としてFOLFIRINOX療法が計画された。irinotecan(CPT-11)に対する有害事象の高リスクUGT1A1遺伝子多型とされるUGT1A1 *6/*28 ダブルヘテロ接合体およびUGT1A1*6/*6 ホモ接合体を有していたが,他に有望な治療選択肢もなかったこともあり,強い患者希望の下,FOLFIRINOX 療法を開始した。有害事象の程度に応じCPT-11 の段階的減量と投与間隔の調節により両者とも安全に7 コースの継続実施が可能であった。投与初期のGrade 4 の好中球減少に対してはGCSFにて対処可能であり,制御困難な下痢やその他の有害事象は認めなかった。FOLFIRINOX 療法は予後の改善が期待できる新規治療であるため,高リスクUGT1A1遺伝子多型をもつ症例に対しても症例を蓄積し安全な投与方法を確立させることが重要である。 -
全身療法のみでClinical Complete Responseを持続している乳癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。主訴は左乳房腫瘤。左乳房C 領域に2 cm 大の腫瘤を触知した。マンモグラフィ(MMG)では石灰化を伴う腫瘤,乳房超音波検査では18×16×14 mmの腫瘤を認め,左腋窩にリンパ節腫大を認めた。乳房腫瘤の針生検にて浸潤性乳管癌(硬性型),ER95%,PgR60%,HER2 2+,FISH増幅なし,Ki-67 60%,Luminal B であった。cT1N1M0,cStageⅡAと診断した。術前化学療法はFEC100,TC(4 コースずつ)を施行し,画像上臨床的完全奏効(clinical completeresponse: cCR)を得た。患者は手術の必要性を説明するも拒否した。ホルモン療法にて経過観察し,2 年経過した時点で再発・転移は認めていない。今回,腋窩リンパ節転移を伴うLuminal B 乳癌の術前化学療法後cCR症例で,2 年再発・転移なく経過している症例を経験した。 -
門脈内腫瘍栓に対する肝動注化学療法と外科切除
46巻4号(2019);View Description Hide Description当科では2013年より,Vp3/Vp4肝細胞癌(HCC)に対して周術期肝動注化学療法および放射線療法を組み合わせた集学的治療を行っている。過去22 年間に当科で手術を行ったVp3/Vp4 HCC 症例 36 例について後方視的に検討し,治療成績を報告する。術前動注療法は10 例,術前放射線療法は7 例に施行され,術後に動注を行ったのは14 例であった。全体での生存期間中央値は19.3 か月で,R0 手術が達成できた21 例は有意に予後良好であった。R1 症例に限ると,術後動注療法を行った群で予後が良好であった。 -
手術不能の胃癌腹膜播種に対する緩和ケアとしての化学療法の在り方
46巻4号(2019);View Description Hide Description胃癌腹膜播種に対して抗癌剤至適投与量を下回る投与量でもQOL 維持が図れ,病状も安定している1 例について報告する。症例は64 歳,男性。進行胃体部癌に対して胃全摘術予定であったがダグラス窩洗浄細胞診が陽性であり,左横隔膜下・結腸間膜裏面に腹膜播種を認め,さらに腫瘍は横行結腸間膜を貫き上腸間膜静脈にまで直接浸潤していたため切除不能であった。術後は胃癌治療ガイドラインに準じG-SOX 療法から開始し,おおむね病状の改善・維持は図れていたがPD となったため RAM/PTX に変更した。しかし変更後から繰り返す G3〜G4 レベルの血液毒性と,強い全身倦怠感に伴う QOLの低下を認めた。減量・休薬にもかかわらず回復が悪いため,本来の至適最低投与量を下回る投与量に設定し化学療法を継続した。その結果,血液毒性を回避し,倦怠感も軽減できたことでQOLは良好に維持したまま,術後2 年現在も病状は安定している。化学療法は緩和的な利用方法も可能ではないかと考えられた。 -
腹腔鏡下胃切除術を施行したAdachi分類Ⅵ型破格を伴う早期胃癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide DescriptionAdachi 分類Ⅵ型破格を有する早期胃癌症例に対し,安全に腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行できた1 例を経験したので報告する。症例:患者は50 歳台,男性。前庭部に0-Ⅱc 病変を認め,生検の結果はtub2,臨床病期はcT1bN0M0,cStageⅠの診断で腹腔鏡下幽門側胃切除術の方針となった。MD-CT で門脈前面に総肝動脈を認めず,Adachi分類Ⅵ型と判断した。膵上縁で膵実質と脂肪織の境界を切離し,門脈前面を露出しつつ肝十二指腸間膜および脾動脈方向へ郭清範囲を広げることで過不足のないNo. 8a 郭清を安全に施行できた。考察: Adachi らは腹腔動脈の分岐形態を6 型28 群に分類している。総肝動脈が門脈背側を走行するⅥ型は約2%の頻度とされる。膵上縁のリンパ節郭清の際に道標となる総肝動脈の走行破格であるため,解剖の認識には細心の注意が必要である。鏡視下手術は触覚に頼ることはできないが,動脈の拍動は視認可能である。術前の血管走行の把握と術中の入念な観察が安全な手術施行に重要である。 -
S状結腸間膜に発生した平滑筋肉腫の1 切除例
46巻4号(2019);View Description Hide Description結腸間膜原発平滑筋肉腫は非常にまれな疾患である。既報では根治には外科的切除しか方法がなく,推奨される化学療法や放射線療法がないこと,また高い再発率を示し予後不良であることが報告されている。一方これまでの報告では,免疫染色にて同じ間葉系腫瘍であるgastrointestinal stromal tumor(GIST)と鑑別されていない報告があり,これらには本来GIST と診断されるべきものが含まれている可能性がある。今回,外科的切除を施行したS 状結腸間膜原発平滑筋肉腫の1例を経験したため報告する。 -
肝内結石を伴った肝原発腺扁平上皮癌の1 切除例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。約4 年前より肝内結石,左肝内胆管拡張,胆嚢結石に対して近医で経過観察されており,今回,画像精査目的にて当院に紹介受診となった。造影CT では肝左葉全体に充満する肝内結石,左葉肝内胆管拡張,左葉萎縮に加えて,肝 S2に約30 mm大の乏血性の腫瘤と総肝動脈幹リンパ節に転移を疑う腫大を認めた。血液検査ではCEA 8.0 ng/mL,CA19-9 19,196 U/mLと腫瘍マーカーの上昇を認めた。肝内胆管癌(cT2N1M0,cStage ⅣA)の診断で,肝左葉切除術,肝外胆管切除術,胆嚢摘出術,リンパ節郭清術,胆管(右肝管)空腸吻合術を施行した。切除標本の病理組織検査では,胆管壁から連続する形で存在する腫瘍を認め,組織像で腺癌と扁平上皮癌の混在を認めたため腺扁平上皮癌と診断された(pT3N0M0,pStage Ⅲ)。術後8 か月後に多発肝転移を認め,化学療法を開始した。術後11 か月現在,化学療法を継続しながら生存中である。肝内結石症を伴う肝原発腺扁平上皮癌の1 切除例を経験した。 -
Conversion Surgeryを施行し得た高度進行胆嚢癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は47 歳,女性。2017 年4 月,高度進行胆嚢癌(肝浸潤,横行結腸,十二指腸浸潤,周囲リンパ節転移を伴う径10 cm の腫瘍)に対しGC 療法(GEM 1,000 mg/m2,CDDP 25 mg/m2)開始となり5 コース施行した段階で腫瘍の著明な縮小を認めたため,手術を含めた加療目的に当科紹介となった。審査腹腔鏡では明らかな腹膜播種や遠隔転移を認めず,胆嚢床に十二指腸,横行結腸の癒着を認めたが剥離可能と判断し,その後に胆嚢摘出術,胆嚢床切除術およびリンパ節郭清術を施行した。胆嚢は萎縮が著明で同定困難であり,術後の病理所見でも摘出検体には胆嚢の結合組織と肝組織を認めるのみで,胆嚢組織は確認できなかった。組織のなかにはviable な腫瘍細胞は認めず,十二指腸浸潤が疑われた剥離面や摘出リンパ節にも明らかな転移は認めなかった。術後経過は特に問題なく,術後11 日目で退院となり現在術後14 か月経過しているが,再発などなく経過している。高度進行胆嚢癌に対して化学療法の奏効率は高くないが,本症例のように化学療法が著効する症例もある。今後は切除不能高度進行胆嚢癌に対しても,conversion surgery を念頭に置いた積極的な化学療法は意義があると考えられる。 -
術式決定に全自動乳房超音波診断装置(ABUS)が有用であった1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description乳房再建手術の保険適応以来,根治性と整容性を両立させた乳癌手術術式の選択肢が増えている。今回,全自動乳房超音波診断装置(automated breast ultrasonography system: ABUS,GE 社製)による画像評価により,乳頭乳輪温存手術が施行できた症例を経験したので報告する。症例は52 歳,女性。乳癌検診で異常を指摘され当科を受診した。hand held 型の超音波検査(hand held ultrasound: HHUS)では左乳房に不整形低エコー腫瘤と乳頭直下まで連続する拡張乳管を認めた。針生検では浸潤性乳管癌の診断であった。乳頭乳輪温存手術希望が強いため,ABUSを施行し乳頭直下までの拡張乳管を認めなかったため,内視鏡補助下乳頭乳輪温存胸筋温存乳房切除術およびセンチネルリンパ節生検術を施行した。病理診断ではすべての切除断端は陰性であった。本症例では,乳管内進展を判断し術式を決定する上でABUSは有用であった。 -
乳癌術後経過観察に超音波検査が有用であった異時性多発乳癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description乳癌術後の経過観察にはマンモグラフィ検査が推奨されている。今回,術後8 年6か月後に対側乳房に発症した早期乳癌の発見に超音波検査が有用であった症例を経験したので報告する。症例は72 歳,女性。63 歳時に右乳癌の診断で乳房部分切除術およびリンパ節郭清術を施行された。病理組織診断は硬癌であった。術後補助化学療法と放射線治療を受けた後,定期的に経過を観察されていた。術後8 年6か月後の検査でマンモグラフィでは有意な所見が描出されなかったが,超音波検査で対側乳房に腫瘤性病変が描出された。確定診断のため外科的生検術を施行し,粘液癌と診断された。乳癌罹患歴陽性症例は異時性多発乳癌の発症率が高いことが知られており,早期発見には超音波検査による定期的なスクリーニングが有用である可能性が示唆された。 -
脾膿瘍と術前診断した脾臓原発Myeloid Sarcoma の1 切除例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。狭心症に対し2016年12 月に経皮的冠動脈形成術(PCI),2017 年1 月に歯科インプラント治療の既往がある。2017年2 月ごろから37℃台の微熱が持続していたため,精査目的に4 月に当院内科を紹介受診した。熱源検索目的に施行したCT 検査で,脾臓内部に辺縁部が淡く造影される低吸収域を認め脾膿瘍が疑われた。抗菌薬投与が行われたが症状,炎症反応の改善に乏しく5 月に開腹脾臓摘出術を施行した。摘出標本の病理組織診断にてmyeloid sarcoma(MS)と診断した。MSは骨髄芽球様細胞が髄外性に腫瘤を形成する疾患で,髄外好発部位はリンパ節(15〜25%),皮膚(13〜22%),骨(9〜25%),消化管(7〜15%)であり,他に軟部組織や中枢神経系の報告もある。しかし自験例のように脾臓に発症した症例は1963〜2017年までの報告例の検索で,自験例を含め2 例のみであり極めてまれな症例であった。 -
小腸GIST の術前診断で切除した膵神経内分泌腫瘍の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。後頸部痛の精査中,CT で十二指腸水平脚から近位空腸に接して不均一に造影される9 cm 大の腫瘍を指摘された。CT/MRIでは腫瘍と膵体尾部の連続性を認めなかった。小腸 GISTの疑いと診断し,腹腔鏡下小腸部分切除術の予定で手術を開始した。腫瘍は空腸起始部に固着していたが,膵鉤部にも一部密着しており剥離困難であった。開腹移行し,膵鉤部の一部とともに腫瘍を含む十二指腸上行部から近位空腸を摘出した。病理組織学的検査では腫瘍被膜内に取り込まれた膵実質を認め,小腸とは漿膜面で接するのみであったため膵由来の腫瘍と考えられた。また,腫瘍細胞の増生パターンおよび免疫組織学的検査所見より膵神経内分泌腫瘍(PanNET G2)と診断した。改めて術前画像を確認すると,上腸間膜動脈の左側で膵鉤部に腫瘍との連続性を認めた。空腸起始部近傍のGIST を疑う場合,膵鉤部由来の神経内分泌腫瘍の可能性を念頭に置いた術前診断が必要である。 -
当院における癌進行に伴うイレウス症状に対する外科的処置の検討
46巻4号(2019);View Description Hide Description癌の終末期には,嘔吐・腹部膨満などのイレウス症状をもつ症例は多い。イレウス症状の原因には腹膜播種・局所再発などがあり,治療法には酢酸オクトレオチド・イレウス管などの減圧処置・外科的処置があるが,本稿では,イレウス症状の緩和目的で施行した外科的処置症例の成績について検討する。対象は2013 年1 月〜2018 年1 月までの腹膜播種・局所再発に伴うイレウス症状を有する外科的処置施行例31 例38 手術で,原疾患は胃癌8 例,大腸癌9 例,膵癌6 例,食道癌1例,その他7 例で,外科的処置の内訳はバイパス手術17 例,腫瘍摘出術7 例,人工肛門造設術11 例,その他3 例であった。食事摂取可能となった症例は38 例中27 例で,腫瘍摘出例では全例食事摂取可能となり長期生存例が多かった。複数回の外科的処置により,生存期間が延長できた症例もあった。処置後の食事摂取状態が生存日数に大きく関与しており,食事摂取可能が期待できる外科的処置は積極的に行うべきと考える。 -
直腸癌術後の異時性膵転移に対し化学療法が著効し完全寛解を得た1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は50 歳,男性。直腸癌(Ra)に対して低位前方切除術を施行した。病理結果はpT3N0M0,fStageⅡであり,術後補助化学療法は施行せず経過観察していた。初回手術より17 か月後に黄疸を来したため精査を行ったところ膵頭部と右肺上葉にそれぞれ腫瘤を認め,生検によりいずれも直腸癌の異時性転移と診断された。CapeOX+bevacizumab を開始するも副作用が強く,患者の希望により5 コースで中止となり経過観察を続けていたところ,化学療法開始後11 か月で膵転移巣が消失した。肺転移巣は残存したが単発であったため,その1 か月後に右肺上葉切除術を施行してca ncer-free に至り,肺切除後6 か月の現在も無再発生存中である。切除不能な大腸癌膵転移において化学療法により予後が改善する可能性が示唆された。 -
直腸癌術後局所再発にFOLFOXIRI+Bevacizumab療法施行後著明に縮小し切除した1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は60 歳,女性。下部直腸癌に対し術前補助化学療法後,開腹ISR,両側側方リンパ節郭清を行った。病理結果はpT3N1M0でR0 手術となった。術後6 か月で直腸後腔に局所再発を認め,一期的切除も検討したが切除困難が予想されたため,FOLFOXIRI+bevacizumab(Bev)療法を4 コース施行した。有害事象としてGrade 4 の発熱性好中球減少を認めたが,減量にて継続可能であった。腫瘍は著明に縮小し遠隔転移を認めず,切除可能と判断し開腹後方骨盤内臓全摘仙骨合併切除術を施行した。病理結果ではR1 であったが外科的に一塊に切除でき,欠損部への皮弁も必要とせず,術後も大きな合併症は認めなかった。現在術後9 か月にて再発所見なく経過中である。FOLFOXIRI+Bev 療法は症例を選べば有害事象も管理可能な範囲であり,奏効率も高く有用な治療選択肢と考えられた。 -
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した肝細胞癌に対して肝切除を施行し得た1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。当院内科に特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura: ITP)に対して通院中である。貧血を主訴に救急搬送となり,全身精査目的に行った造影CTで肝S6 領域に早期濃染される10 cm 径および2.4 cm径の腫瘤を描出し,肝細胞癌と診断した。腹腔鏡下脾臓摘出術を施行し,血小板コントロールを行いながら肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial embolization: TACE)を計3 回施行したがS2 に新規病変の出現を認め,血管内治療でコントロール困難な病変と考えられ手術加療の方針となった。術前の投薬調整で血小板は109×10 / 4mLまで上昇し,肝部分切除術を施行した。術後7 日目に腹腔内膿瘍を発症し穿刺ドレナージ術を行い,感染コントロールに難渋したものの術後114日目に全身状態の安定を認め,退院の運びとした。術後病理結果より肝細胞癌,T3N0M0,Stage Ⅲと診断した。血小板値は1.2×10 / 4mL まで減少を認め,穿刺ドレナージの際に一度血小板輸血を必要としたが,入院中に出血の合併症は認めなかった。ITPを合併した肝細胞癌に対する手術症例に対して,周術期管理に対する文献的考察を加えて報告する。 -
化学療法後に根治切除し得た肝転移を伴う切除不能膵癌の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide DescriptionFOLFIRINOX 療法やゲムシタビン塩酸塩(GEM)+nab-パクリタキセル(PTX)併用療法が切除不能進行膵癌に対して高い有用性を示してきている。化学療法後に根治切除し得た肝転移を伴う切除不能膵癌の1 例を経験したため報告する。症例は66 歳,男性。黄疸を主訴に受診し,膵頭部癌による閉塞性黄疸と診断した。SMAの半周を越えて腫瘍が接していたため,切除不能膵癌との診断で化学放射線治療(GEM+S-1+RT)を施行した。治療評価にて肝S8 に新規病変が出現したため,GEM+nab-PTXを3 コース施行したところ,画像上肝転移が消失,原発巣の縮小(SMAと接している範囲が半周未満)を認めた。審査腹腔鏡で根治切除可能と判断したため,1 か月後膵頭十二指腸切除術を施行し経過は良好で術後22 日目に退院となった。病理診断はypT1a,ypN0,ypM0,ypStage ⅠA,R0 であり,治療効果判定はEvans 分類Grade Ⅲであった。 -
胃癌骨転移に対する疼痛緩和としての塩化ストロンチウム(89Sr)の有効性
46巻4号(2019);View Description Hide Description胃癌骨転移に伴う疼痛に対して塩化ストロンチウム(89Sr)を使用した2 例を経験した。症例1 は69 歳,女性。2015年に体下部進行胃癌に対して根治術を施行した。術後S-1 による補助化学療法を1 年施行した。術後2 年3か月で多発骨転移を認めた。89Sr を使用したところ,明らかな疼痛緩和が得られた。その後SOX 療法を開始した。症例2 は62 歳,男性。2016 年に胃癌に対して根治術を施行した。術後補助化学療法施行としてS-1 を6 か月間施行するも術後約9 か月後に多発リンパ節転移,肝転移,多発骨転移を認めた。症例2 においても89Sr 導入となったが,良好な疼痛コントロールは得られなかった。多発骨転移に対する89Srの疼痛緩和について文献的考察を加えて報告する。 -
山口県における胃癌の二次化学療法に関するアンケート調査
46巻4号(2019);View Description Hide Description山口県内で胃癌診療に携わる医師43 名を対象に,切除不能・再発胃癌に対する二次胃癌化学療法の現況および意識調査についてアンケート調査を行った。二次化学療法移行率は60%以上との回答が71%,60%以下の移行率との回答が29%であった。二次化学療法に移行できない原因としてはPS不良,全身状態不良,高齢などがあげられた。主な二次化学療法のレジメンとしては,パクリタキセル毎週投与+ラムシルマブ併用療法が95%と大半を占めていた。また,93%の医師がナブパクリタキセル毎週投与法は胃癌の二次化学療法の選択肢になると回答した。以上より,山口県内における胃癌の二次化学療法の現況については,標準的なレジメン選択が行われていると考えられた。 -
多臓器浸潤と腸閉塞を伴う膵癌に対し根治切除と化学療法後3年以上無再発生存中の1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description膵尾部癌は一般に症状の発現が遅いため,しばしば高度進行癌として発見されるが,結腸浸潤による腸閉塞を初発症状として発見された膵尾部癌の報告は比較的まれである。今回われわれは,結腸脾弯曲部への直接浸潤により腸閉塞,穿孔性腹膜炎のため当院に救急搬送され,二期的に根治切除術を施行した後,術後補助化学療法を行い3 年以上無再発生存中の1 例を経験した。腸閉塞を伴う膵尾部癌は予後不良であり,長期生存の報告はまれである。文献的考察を加えて報告する。 -
局所制御目的に乳房切除術を施行し術後にPaget病の診断となった高齢者乳癌の1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description今回,局所制御目的に乳房切除術を施行した高齢者乳癌を経験したため,文献的考察を交えて報告する。症例は78歳,女性。マンモグラフィで右MO に分枝状集簇性石灰化を伴う境界不明瞭腫瘤を認め,右カテゴリー5,左カテゴリー1 の診断であった。超音波検査では右C 領域に40×29×19 mm の境界不明瞭な不整形混合エコー腫瘤を認めた。腫瘤に対し針生検を施行し,apocrine carcinoma(ER−,PgR−,HER2 3+,Ki-67 30%)の診断となった。右乳癌,T2N0M0,stageⅡAの診断となり,右乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行した。術後病理検査にて,腫瘤はapocrine carcinoma(ER−,PgR−,HER2 3+,Ki-67 20%,腫瘍径2.3×2.5×3 cm)であり,また乳輪外下部にはPaget disease(ER−,PgR−,HER23+,Ki-67 30%)を認めた。術後はトラスツズマブ療法を開始し,現在無再発生存中である。 -
門脈再建に浅大腿静脈グラフトを用いて切除した局所進行膵MAEC の1 例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は46 歳,女性。心窩部痛精査にて膵頭部腫瘤を指摘され受診した。CT にて膵頭部を占拠する7 cm 大の多血性,境界不明瞭な腫瘍を認めた。上腸間膜静脈(SMV)は,十二指腸下縁レベルから浸潤を受け,脾静脈合流部まで6 cm 閉塞し,規約上は門脈再建限界の局所進行膵癌(UR-P)であった。EUS-FNAでmixed acinar-endocrine carcinoma(MAEC)の診断を得たがまれであり,化学療法が定まってないため切除先行の方針とした。CT 上,必要なグラフトサイズは長さ7 cm,腸側SMV径0.5 cm,肝側SMV径1.4 cmであり,浅大腿静脈(SFV)を選択した。外腸骨静脈に比べて若干細く,10 cm 程度採取可能である。SMV末梢での再建が必要な症例には有用である。 -
術前化学療法が著効し骨盤内臓全摘を回避し得た膀胱浸潤直腸癌の1切除例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は55 歳,男性。血便・膿尿・気尿を主訴に前医を受診し,下部消化管内視鏡検査で直腸Raに腫瘍を認め生検で腺癌の診断であった。CT 上腫瘍は膀胱・精嚢への浸潤を認め,傍大動脈リンパ節も腫脹していた。尿路感染・腸閉塞も呈しており,横行結腸人工肛門造設術後,集学的治療目的に当科紹介となった。化学療法を先行させる方針となりmFOLFOX6+panitumumabを6 コース施行したところ,腫瘍は著明に縮小したため手術を企図した。傍大動脈リンパ節の転移陰性を確認後,直腸低位前方切除,膀胱部分切除,左精嚢合併切除を施行した。膀胱全摘を回避しつつR0切除が施行できた。病理所見はypT3,ypN0,ypM0,ypStageⅡ,薬物治療効果の組織学的判定はGrade 1b であった。術後はS-1 の補助化学療法を6 か月行い,術後約10 か月後の現在まで無再発生存中である。術前化学療法を行うことで根治性を保ちつつ,機能温存を望める術式を選択できる可能性がある。 -
右胃静脈に腫瘍塞栓を認めた進行胃癌に対し化学療法を施行後に切除術を行いpCRを得た1例
46巻4号(2019);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。心窩部痛を主訴に当院を受診し,上部内視鏡検査にて胃体下部小弯に7 cm 大の3 型胃癌を認めた。腹部造影CT の結果,右胃静脈内に腫瘍塞栓を認め,術前病期診断はcT4a(SE)N3aH0P0M0,cStage Ⅲc(胃癌取扱い規約第14版)であった。手術操作により癌が散布される可能性があり,安全に根治切除することは困難と判断し,化学療法の方針とした。trastuzumab+CapeOX療法を3コース施行し,原発巣,腫瘍塞栓は縮小した。化学療法後効果判定はPRと判定し,手術の方針とした。手術は幽門側胃切除術,D2郭清,Roux-en-Y再建,胆嚢摘出術を施行した。病理組織は原発巣,リンパ節,腫瘍塞栓ともにviableな腫瘍細胞を認めず,組織学的効果判定はGrade 3 であった。術後9 か月無再発生存中である。胃周囲の静脈に腫瘍塞栓を伴う進行胃癌は肝転移を有する症例や高度進行状態が多く,予後不良な症例が多い。術前の画像診断で胃周囲の静脈に腫瘍塞栓を認める症例では,術前化学療法が有用となる可能性がある。