癌と化学療法
Volume 46, Issue 5, 2019
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投稿規定
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総説
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ゲノム変異乳癌治療の実際
46巻5号(2019);View Description Hide Description2018 年7 月,乳癌領域では初めてコンパニオン診断薬として,BRCA 遺伝子変異陽性の再発乳癌に対する経口ポリアデノシン5′二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤が日本で承認された。これまでは既往歴や家族歴からそれぞれの遺伝性腫瘍に対するクライテリアを確認し,遺伝子検査を希望するクライアントのみが遺伝学的検査を行ってきたが,コンパニオン診断として日常診療に組み込まれ遺伝学は身近な存在となった。また,次世代シークエンサーにより一度に多数の遺伝子検索が可能になり,今までかかわることのなかった遺伝性腫瘍に対しても対応が迫られている。多数の遺伝子情報の解釈は困難を要するが,個々に応じた丁寧なサポートが必要になっていくであろう。治療にかかわる医師は,遺伝やカウンセリングについての知識をもち,患者説明への対応力が必須になった。さらに専門的な対応は,遺伝診療部をもつ施設との連携体制が大切である。
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特集
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- がんにおけるPD-L1 分子の発現調節
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IFN-γ の観点からみたPD-L1 発現機構と抗 PD-1/抗PD-L1抗体のバイオマーカー開発
46巻5号(2019);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤は新たな癌治療として急速に開発が進んでおり,特に抗 PD-1/抗 PD-L1 抗体は単剤投与/併用療法を合わせて国内外で複数の臨床試験が進んでいる。一方で,各癌種における抗PD-1/抗 PD-L1抗体の単剤での奏効率は 10〜40%程度であり,そのバイオマーカーの開発が急務であると考えられている。抗 PD-1/抗 PD-L1 抗体が効果を発揮するためには,癌細胞上にHLA class ⅠとPD-L1 が同時に発現していること,および癌細胞周囲にCTL が存在することが必須である。本稿では,それらを満たす条件の一つとして腫瘍微小環境内に存在するIFN-γに焦点を置き,PD-L1の発現機構と抗PD-1/抗 PD-L1 抗体のバイオマーカー開発について概説する。 -
様々な悪性腫瘍におけるPD-L1/PD-L2 遺伝子異常
46巻5号(2019);View Description Hide Description近年,免疫チェックポイント阻害剤が様々な悪性腫瘍に対して有効であることが示されており,がん免疫療法がたいへんな注目を集めている。これまでは,がん細胞が免疫を回避する際に重要な役割を果たすPD-L1やPD-L2の発現制御機構の理解は不十分であったが,最近遺伝子異常によりこれらの分子の恒常的活性化が引き起こされることが明らかとなってきた。本稿では,著者らが同定したPD-L1/PD-L2 3′-UTR異常を中心として,悪性腫瘍におけるPD-L1/PD-L2高発現をもたらす遺伝学的メカニズムについて概説する。さらに,これらの遺伝子異常とウイルス感染との関係やその臨床的意義について述べる。 -
放射線治療とPD-L1発現
46巻5号(2019);View Description Hide Descriptionがん治療の分野において,放射線治療と抗 PD-1/PD-L1 抗体治療の併用が高い注目を集めている。近年の研究により,放射線治療による腫瘍免疫環境の多様な変化が解明されるなか,放射線照射によりがん細胞のPD-L1 発現が誘導されることが明らかになっている。前臨床モデルから,そのメカニズムとして①IFN-γ,②EGFR,③ DNA 損傷・修復シグナル,④ cGAS-STING,以上四つの経路があげられる。また,いずれの経路でも最終的にはJAK/STAT経路を介してPD-L1発現が誘導される。PD-L1 発現メカニズムの解明は,放射線治療と抗 PD-1/PD-L1 抗体治療の最適な併用方法の確立のために重要な課題である。本稿では,これまで明らかになっている放射線によるPD-L1発現メカニズムを概説する。 -
がん幹細胞におけるPD-L1発現と免疫逃避
46巻5号(2019);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitors: ICIs)は,抗腫瘍免疫応答に対する負のシグナルを阻害することで抗腫瘍効果をもたらす薬剤であり,現在では多くのがん種に対して標準的な治療となりつつある。一方,がん幹細胞(cancer stem-like cells: CSCs)は高い造腫瘍能をもち,化学療法や放射線療法などの標準治療に対して抵抗性を示すがん細胞で,治療後の再発や遠隔転移など患者予後に影響するイベントに深くかかわっている。患者予後を改善するためにはCSCs を抑制する必要がある。しかしながら,CSCsも免疫から逃避するメカニズムを有している。本稿においては,CSCs におけるICIsの標的分子の一つであるPD-L1発現について解説する。 -
腫瘍局所環境における上皮間葉転換(EMT)とPD-L1の発現調節機構
46巻5号(2019);View Description Hide Description近年,免疫チェックポイント阻害剤単剤での治療効果が限定的であることがしだいに明らかになってきた。作用機序の異なる治療法を併用する戦略のなかで,近年EMT 関連因子とPD-L1 発現の関連性が着目されている当教室での手術切除検体の解析結果から,胆道癌においてはEMT 関連因子とPD-L1 発現が深く関与しており,特にPD-L1 発現は予後予測のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。腫瘍局所環境においてHDAC 阻害剤がEMT とPD-L1 発現の阻害効果を示すことが細胞株を使用した研究で報告され,現在HDAC阻害剤と抗PD-L1抗体の併用療法に関する多くの臨床試験が進行中であり,その結果が期待される。
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Current Organ Topics:HematologicMalignancies/PediatricMalignancies 血液・リンパ系腫瘍 造血器腫瘍診療ガイドラインと薬物療法
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特別寄稿
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頭頸部癌におけるプラチナ抵抗性の概念と治療方針
46巻5号(2019);View Description Hide Description頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の治療においてプラチナ製剤は薬物療法のキードラッグであり,再発・転移SCCHNに対する標準的な初回薬物療法として確立している。しかしプラチナ製剤は患者の負担も大きく,効果が期待される患者にのみ使用することが望ましいが,SCCHN におけるプラチナ抵抗性の定義があいまいであることから明確な治療指針が確立されていなかった。一方,抗ヒトEGFR モノクローナル抗体に加え,新たな薬剤である免疫チェックポイント阻害薬のSCCHN における有効性が確認されたことから,プラチナ製剤に依存していた従来の治療から患者個々に最適な薬剤を選択することが求められている。そこで,本稿ではSCCHN におけるプラチナ抵抗性の定義を明確化するとともに,プラチナ抵抗性患者に対する新しい治療選択肢として期待される免疫チェックポイント阻害薬の使用方法について最新の知見に基づき概説する。
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原著
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慢性骨髄性白血病患者でのTyrosine Kinase Inhibitors投与による低リン血症と対策
46巻5号(2019);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病患者におけるtyrosine kinase inhibitors(TKIs)による低リン血症について,後方視的に調査を行った。対象は2006 年1 月1 日〜2016 年12 月31 日の間に,一宮市立市民病院血液内科にてTKIs が投与され評価可能であったimatinib 14 人,dasatinib 11 人,nilotinib 8 人の患者である。低リン血症の発現頻度はimatinib 85.7%(12/14),dasati-nib 18.2%(2/11),nilotinib 37.5%(3/8)で,grade 3 以上はimatinib 57.1%(8/14),dasatinib 9.1%(1/11),nilotinibでは確認されなかった。低リン血症により内服用リン酸塩が投与された患者は6 人で,すべてimatinib投与患者であった。内服用リン酸塩投与後の血清リン値の変化からは有意な改善(p<0.05,95%CI: 0.111-0.989)が確認されたことから,本ケースに対する効果的な対策であることが示唆された。 -
切除不能進行・再発胃癌に対するPaclitaxel+Ramucirumab療法の治療成績
46巻5号(2019);View Description Hide Description進行・再発胃癌に対する二次以降の化学療法として施行したpaclitaxel(PTX)+ramucirumab(RAM)療法(PTX80 mg/m / 2,day 1,8,15,RAM 8 mg/kg,day 1,15)の安全性および有効性について検討した。対象は当科でPTX+RAM療法を施行した進行・再発胃癌33 例で,年齢中央値は68 歳,PS 2 以上の症例は5 例であった。投与コース数の中央値は4コースで,Grade 3 以上の有害事象は28 例(85%)[白血球・好中球減少21 例(64%),末神経障害3 例(9%)など]に認められた。抗腫瘍効果は奏効率14.8%,病勢コントロール率66.7%であり,全生存期間および無増悪生存期間中央値はそれぞれ9.3か月,4.7か月であった。切除不能進行・再発胃癌に対するPTX+RAM療法は一定の効果が期待できるが,実地臨床においては高齢かつPS の悪い症例に対して使用することも多く,慎重なマネージメントが必要である。 -
胃癌に対するPaclitaxel単独療法およびPaclitaxel+Ramucirumab併用療法時における低アルブミン血症がGrade 3 以上の好中球減少症に及ぼす影響
46巻5号(2019);View Description Hide Description胃癌の化学療法を受けている患者では,低アルブミン血症の発現頻度が高いと報告されている。血清アルブミン濃度の低下は,高い血清蛋白結合率を有するpaclitaxel(PTX)の薬物動態変動による血液毒性のリスク増大が懸念される。切除不能進行・再発胃癌の二次治療として用いられるPTX 単独療法およびPTX+ramucirumab(RAM)併用療法を行った30名および29名の患者を対象に,Grade 3 以上の好中球減少症の発現頻度と血清アルブミン濃度との関連について検討を行った。PTX 単独療法およびPTX+RAM 併用療法を実施し,Grade 3 以上の好中球減少症を発現した患者はそれぞれ8 名(27%)および14 名(48%)であり,その時の血清アルブミン濃度の平均値はそれぞれ3.31 g/dLおよび3.15 g/dLであった。両レジメンともにGrade 3 以上の好中球減少症発現群では,非発現群と比較して有意な血清アルブミン濃度の低下が認められた。さらにPTX 単独療法およびPTX+RAM 併用療法が行われた患者の血清アルブミン濃度が,カットオフ値とする3.75 g/dLおよび3.45 g/dL 未満となる場合,Grade 3 以上の好中球減少症発現のオッズ比はそれぞれ12.25および7.33であった。胃癌に対するPTX 単独療法およびPTX+RAM併用療法が行われる患者において,低アルブミン血症はGrade 3以上の好中球減少症の発現に関連することが示唆された。治療期間中は好中球数だけでなく,血清アルブミン濃度のモニタリングも重要になると考えられた。
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薬事
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全国赤十字病院におけるがん患者指導管理料3 算定状況の調査
46巻5号(2019);View Description Hide Description外来がん患者に対する薬剤師の関与とがん患者指導管理料3 算定の現状について,日赤薬剤師会でアンケート調査を実施した。全国93 施設から回答が得られた結果,外来でがん患者に関与しているのは68 施設(73.1%),がん患者指導管理料3 を算定しているのは48 施設(51.6%)であった。外来でがん患者に関与している68 施設のうち20 施設は,がん患者指導管理料3 を算定していなかった。その理由として,有資格者不在14 施設,人員不足3 施設,システムの未構築3 施設であった。ロジスティック回帰分析の結果,外来がん患者に対する薬剤師の関与およびがん患者指導管理料3 の算定に有意な影響を及ぼすのは薬剤師数であることがわかった(p=0.042,p=0.023)。がん患者指導管理料3 は薬剤師の外来指導に対する唯一の診療報酬であるが,薬剤師数が少ない施設では人員的な問題で算定することが困難であり,今後の課題であることがわかった。
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症例
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Alemtuzumabが奏効したT-Cell Prolymphocytic Leukemia 症例
46巻5号(2019);View Description Hide DescriptionT-cell prolymphocytic leukemia(T-PLL)は予後不良の造血器悪性腫瘍であり,特に本邦では非常にまれな疾患である。T-PLL 細胞は通常CD52 を高発現しており,抗CD52 モノクローナル抗体であるalemtuzumab が,antibody-dependentcell cytotoxicity(ADCC),complement-dependent cytotoxicity(CDC)効果により抗腫瘍効果を示すことが期待される。しかし本邦では,その有効性は十分に検討されていない。有害事象により治療完遂率が低いことも報告されている。今回,多くの併存疾患を有する64歳,女性のT-PLL 患者に対してalemtuzumabによる治療を行い奏効を得られた。 -
四次治療のNivolumabが有効であったPD-L1陰性の肺扁平上皮癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。肺扁平上皮癌(cT0N3M0),stage ⅢB。programmed death-ligand 1(PD-L1)発現0%。nedaplatin+docetaxel,carboplatin+nab-paclitaxel 後に根治的胸部放射線照射60 Gy 施行。放射線肺臓炎を発症したがステロイドにより軽快した。多発肺内転移で再発した後,carboplatin+tegafur/gimeracil/oteracil potassium(S-1)も PD となり四次治療でnivolumab(3 mg/kg,2 週毎)を開始した。初回投与9 日目に発熱とradiation recall pneumonitis様の陰影を伴う肺内転移の著明な増大を認めたが増大は一過性であり,その後縮小に転じた。13 コース終了時には肺内転移は消失した一方で腹部リンパ節転移のみ増大を示していたが,24 コース終了時には腹部リンパ節も縮小に転じていた。good partial responseで再発所見なく約1 年間の治療を継続している。 -
全身状態不良例の積極的がん化学療法の役割―肺癌3 症例を通じて―
46巻5号(2019);View Description Hide Description全身状態不良やperformance status(PS)低下例において,積極的に治療を検討する価値のある患者像の指標となる症例を経験したので,PS の改善を期待したがん化学療法の役割について文献的考察を加えて報告する。症例1: 67 歳,女性。肺腺癌の膵,多発肝転移,骨,リンパ節転移,癌性胸膜炎,PS 3。gefitinibと骨転移に対する放射線治療により,2 か月後には日常生活が可能となった。症例2: 76 歳,女性。肺腺癌のⅢA期,SVC 症候群,PS 3。放射線治療,gefitinibを開始後,浮腫は改善,咳嗽は消失し,PS 0 となった。症例3: 41歳,女性。肺腺癌,胸膜播種,Ⅳ期。ALK阻害剤,殺細胞性抗がん剤単剤などで加療継続,開始から5 年で血痰,咳の持続などQOLの低下があり,ALK阻害剤再投与。数日で症状の劇的な改善がみられた。緩和ケアの現場においては,状況によっては治療ができないかという視点で患者に対応する必要がある。 -
肝細胞癌術後急速に増大傾向を示した巨大血行性左大腿四頭筋転移の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は62 歳,男性。14×13 cm大の早期濃染,wash outを伴う肝外側区域の肝細胞癌に対して肝外側区域切除術を施行した。病理組織検査の結果は,moderately differentiated hepatocellular carcinoma,Eg,Fc(−),Fc-Inf(−),Sf(−),S0,N0,Vp2,Vv1,Va0,B0,P0,SM(−),CHであった。術後 5 年目,胸部CT 検査にて左肺S9/10 に境界明瞭な5 cm大の腫瘍と左肺門リンパ節の腫脹を認め,肺転移が疑われ左肺全摘術を施行した。病理組織検査の結果は,肝細胞癌の肺転移であった。初回手術から6 年後,a-fetoproteinが 3 か月間で254.9 ng/mL から 3,143.0 ng/mL へと急上昇し,左大腿部の腫脹と疼痛も出現した。MRI検査にて左大腿四頭筋を中心とする境界明瞭な30×14 cm 大の巨大な充実性腫瘍を認め,左大腿四頭筋の腫瘤に対して針生検を施行したところ原発の肝細胞癌に類似する所見を認め,筋転移と診断された。左肺全摘術後であり,全身麻酔のリスクが高いことから放射線治療の方針となった。肝細胞癌術後急速に増大傾向を示した巨大血行性左大腿四頭筋転移の1 例を経験した。 -
S-1+CDDP 療法によりpCR が得られた多発肝転移,腹膜播種を伴う進行胃癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。健診で肝腫瘤を指摘され近医を受診し,胃癌,多発肝転移の診断にて当院紹介となった。上部消化管内視鏡検査で胃体中部後壁に3 型腫瘍を認め,胸腹部CT 検査で多発肝転移を認めた。また,審査腹腔鏡で大網に腹膜播種結節を認めた。S-1+CDDP 療法を3 コース施行し病巣の著明な縮小を認めたため,胃全摘術,脾摘術,D2リンパ節郭清を行った。病理組織検査で原発巣はpCR で化学療法の効果判定はGrade 3 であった。術後3 か月の腹部CT 検査で肝転移は消失した。術後18 か月経過した現在,S-1内服を継続し厳重な経過観察を行っているが,腫瘍の再発を認めていない。 -
胃癌骨髄転移に対する低用量S-1+Docetaxel併用療法の治療経験
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。腰痛を主訴に来院し,骨髄転移を伴う進行胃癌と診断された。S-1+docetaxel(TXT)併用療法を開始したが,Grade 4 の血液毒性と敗血症を併発しADLの低下を来した。このため2 コース目からは40% doseと大幅な減量を行ったところ,大きな有害事象なく治療継続が可能で11 か月間病勢の悪化を認めなかった。しかし6 コース目で再度Grade 4 の血液毒性と敗血症を併発し,治療の継続が困難となった。以降はS-1 単独療法とするも奏効せず,診断から約1年5 か月で死亡した。治療に対する忍容性と抗腫瘍効果の観点から,低用量S-1+TXT併用療法は胃癌骨髄転移に対する有効な選択肢の一つと考える。 -
若年女性に生じた十二指腸乳頭部癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は19 歳,女性。前医にて黄疸を指摘され当院を紹介受診した。腹部造影CT 検査で肝内・外胆管の拡張を,上部消化管内視鏡検査で乳頭部に潰瘍性病変を認めた。生検で中分化型腺癌と診断され,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が施行された。病理にてpT3bN1M0,pStage ⅡB の診断となり,術後補助療法としてS-1 の内服を6 か月間行った。術後17 年現在,無再発生存中である。若年性十二指腸乳頭部癌の症例は自験例を含め3例と非常にまれなため報告する。 -
化学療法施行中に新規発症の卵巣転移が急速増大して自然破裂した盲腸癌の1 例―両側付属器切除の有用性について―
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は66 歳,女性。多発腹膜播種,多発肝転移,右卵巣転移を伴うStage Ⅳ盲腸癌の診断にて,減量手術として回盲部切除術と右付属器切除術を施行した。その後化学療法を施行していたが,もともと転移のなかった左卵巣のみが急速に増大後に自然破裂し,準緊急的な左付属器切除を施行した。病理学的所見では結腸癌からの転移であった。卵巣転移は化学療法抵抗性であることが多く,本症例のように化学療法中に卵巣転移のみが急速に増大して症状が出現する症例が存在する。減量手術として付属器切除術を行う際には,転移の有無にかかわらず両側付属器切除を検討する必要があると思われた。 -
術前化学療法によりR0手術が可能となった膀胱浸潤を疑う直腸S 状部癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。主訴は血便と排尿時痛。精査にて膀胱壁への浸潤を疑わせる直腸S 状部癌,cT4b,N1以上M0と診断した。根治度A手術のためには膀胱全摘となる可能性があると判断し,膀胱機能温存のため腫瘍縮小をめざした化学療法を行う方針とした。S 状結腸に双孔式人工肛門を造設後,mFOLFOX6+bevacizumab療法を4 コース施行した。さらなる効果を期待し,切除を目的とした術前化学療法としてmFOLFOX6+panitumumab療法を3 コース行った。2 か月後の効果判定にてPR と判定し手術を行った。腫瘍は他臓器への浸潤を認めず,直腸高位前方切除術を施行,病理診断でも化学療法の効果が認められた。膀胱浸潤を伴う進行直腸S状部癌に対し化学療法を行い,拡大手術を回避できた症例を経験したので報告する。 -
外来で各種抗癌剤を選択し1 年7か月の生存を得た多発肝転移を伴う進行小腸癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は59 歳,女性。下血,ふらつきを主訴に当科を受診となった。高度貧血と腫瘍マーカーの上昇を認め,腹部造影CT にて多発肝転移を伴う小腸癌と診断した。小腸部分切除術を施行した。病理組織診断は高分化型腺癌であった。術後からS-1+irinotecan(IRIS)併用療法,IRIS+bevacizumab(IRIS+Bev)併用療法,S-1+oxaliplatin+Bev(SOX+Bev)併用療法,weekly paclitaxel(wPAC)療法とfourth-line まで化学療法を施行し得たが,1年7 か月後に原病死となった。 -
S状結腸癌術後多発肺転移に対してBevacizumab併用化学療法施行中に発症した十二指腸穿孔の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。S 状結腸癌に対して腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行し,術後2 年の時点で多発肺転移を認め外来化学療法(bevacizumab+IRIS)を開始した。化学療法開始後73 日目に突然の心窩部痛を自覚し来院した。CT にて十二指腸穿孔・汎発性腹膜炎と診断し,直ちに大網充填・被覆術を施行した。術後経過は良好で第15 病日に退院となった。bevacizumab併用化学療法施行中に発症した十二指腸穿孔というまれな病態を経験したので報告する。 -
CT コロノグラフィにより術前診断できた同時性下行結腸三重癌の1 例
46巻5号(2019);View Description Hide Description症例は81 歳,女性。下血を主訴に当院を受診した。大腸内視鏡検査で下行結腸に2 型腫瘍を認めたが,その腫瘍の口側は狭窄に伴う易出血性のために観察を断念した。口側腸管の評価を行うためにCT コロノグラフィを施行すると,内視鏡検査で観察された病変よりも口側の下行結腸に二つの隆起性病変を認めた。下行結腸癌の三重癌と術前診断し,開腹下に一期的に左側結腸切除術を施行した。 -
Osimertinibの早期中毒性皮疹出現症例に減感作再投与療法を試みた2 例
46巻5号(2019);View Description Hide Descriptionosimertinib 投与早期に重篤な中毒性紅斑性皮疹を認め,投与を断念せざるを得なかった患者に対し減感作療法を行うことで再度投与を継続できた2 症例を経験した。症例1: 患者は60 歳,女性。右上葉原発性肺腺がん[pT2aN2M0,stageⅢA,EGFR(Del19)遺伝子変異陽性]の術後再発例。afatinibによる一次治療後に多発肺転移および胸腺播種を認め,再生検でT790Mが陽性であった。osimertinibによる治療(80 mg/day)を開始したが,服用開始10 日目から紅斑や発熱などの全身症状が出現し,中毒性皮疹と診断されosimertinib 治療が中止となった。osimertinib による減感作療法を施行し,その後軽度の発赤の発現を認めたが,osimertinib 80 mg/dayまで増量し,内服継続可能であった。症例2: 患者は94 歳,女性。EGFR(Del19)遺伝子変異陽性肺腺がん(cT4aN1M1b,stage Ⅳ),多発肺,脳,肝転移および胸膜播種の患者。gefitinibによる一次治療を開始したが再発。liquid biopsyでT790M 陽性と診断され,osimertinibによる治療が開始された。内服3日目に掻痒感を伴う全身の浮腫性紅斑が出現したため,osimertinib が中止された。osimertinib による減感作療法を開始し,grade 2 の皮疹が出現したが,抗ヒスタミン薬内服で軽快し,osimertinib 80 mg/day の服用を継続できた。両患者ともに良好な腫瘍縮小効果が認められ,osimertinib による減感作療法はosimertinib 不耐となった患者に有効な再投与法であると考えられた。
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