癌と化学療法
Volume 46, Issue 9, 2019
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総説
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がん領域における患者報告アウトカム
46巻9号(2019);View Description Hide Description近年,治療法開発の臨床試験や日常臨床において,医療者によるアウトカム評価だけではなく患者自身による主観的評価,すなわち患者報告アウトカム(patient-reported outcome: PRO)の重要性が特に認識されてきている。このPRO は,「患者の回答について,臨床医や他の誰の解釈も介さず,患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である」と定義されている。がん領域で例をあげれば,従来から有害事象評価にはNCI-CTCAEが用いられてきた。しかし,この医療者報告による有害事象は,患者自身による報告と比して過小評価する傾向にあることが問題視されてきたことから,そのPRO 版であるPRO-CTCAE は今後重要な役割を果たすことが期待される。本稿では,がん領域においてPRO が重要視されるようになった背景,臨床アウトカム評価(clinical outcome assessments: COAs)におけるPRO の位置付け,PRO とQOL,PRO 評価が患者や臨床現場にもたらす意義,PRO-CTCAE,PRO研究の最新の動向や方法論について概説する。
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特集
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- がんゲノム情報による免疫療法のPrecision Medicine(第31 回日本バイオセラピィ学会より)
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がんゲノム医療の現状と今後―免疫療法への応用―
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionがん遺伝子パネル検査がわが国でも承認され,プレシジョンメディスンが本格的に実装され,その体制作りが進められている。がんの遺伝子変化を解析することにより効果が期待される治療薬の使用が期待されるが,多くは分子標的薬である。また,実際に指定された薬を用いることができる割合は必ずしも多くない。そのなかで免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーが注目されている。効果予測マーカーとして,PD-L1 の発現と独立した腫瘍変異負荷の臨床応用が待ち望まれている。すでにわが国でも臓器を越えコンパニオン診断薬として承認されたMSI 検査やdMMR 関連検査も,ICI の選択に有用である。これらはがん遺伝子パネル検査でも情報が得られ,免疫療法を含めたより多くの抗悪性腫瘍薬が用いられることが期待される。 -
リキッドバイオプシーによるゲノム解析と免疫療法
46巻9号(2019);View Description Hide Description2019年に日本でも,がん組織を用いた「がん遺伝子パネル検査」の保険適応が承認され,がんゲノム医療が加速している。このようなゲノム診療の進展のなかで,組織での遺伝子解析にとどまらず患者の血液,唾液,尿といった体液を用いたリキッドバイオプシーが期待されている。リキッドバイオプシーの利点として患者に低侵襲であること,腫瘍組織の採取が困難ながん患者でも診断や治療薬選択の可能性が広がること,継続した治療効果のモニタリングが行えることなどがあげられる。がん領域のリキッドバイオプシーとして,血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cell: CTC),cell free DNA(cfDNA),血中循環腫瘍細胞由来DNA(circulating tumor cell DNA: ctDNA),エクソソームとそこに内包されているmicroRNA(miRNA)や遊離したmiRNA などが報告されている。これまで多くの論文でリキッドバイオプシーががんの診断,再発予測および治療効果モニタリングに有用である可能性が支持されている。免疫療法においても,リキッドバイオプシーによる免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測マーカーの開発などが活発に行われている。測定するマーカーの由来や測定法の標準化など様々な課題が残されているが,がんゲノム医療におけるリキッドバイオプシーへの期待度は高く,今後の展開が注目される。 -
ネオアンチゲンに対するがんワクチン療法
46巻9号(2019);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の登場によりがんが免疫で治ることを万人が認めた。さらに遺伝子解析技術の進歩により,がん細胞に特異的な遺伝子変異を各個人のレベルで解析することが可能となり,正に個別化医療が導入されようとしている。従来のがんワクチン療法は,がん細胞に多く発現しているが正常細胞にも少なからず発現を伴う腫瘍関連抗原を標的としていたため,免疫原性が低く効果は限定的であった。一方,がん細胞に生じた腫瘍特異的な遺伝子変異由来抗原であるネオアンチゲンは,本来生体には存在しないため高い免疫原性を有しており,強力な腫瘍特異的T細胞が誘導されると考えられ,ネオアンチゲンを標的としたがんワクチン療法が非常に注目を浴びている。さらに,このワクチン療法を成功させるにはがん微小環境における治療抵抗性因子の制御も必要であり,ICI を含む他の免疫療法と併用して次世代がん治療法となる個別化がん免疫療法を開発していく必要がある。 -
ネオアンチゲンはがんに対するナチュラルに誘導されるあるいは治療により誘導される免疫応答の重要な標的である
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionがんに対するナチュラルな免疫応答(がんの免疫監視)において,T 細胞は免疫細胞のなかで重要なエフェクター細胞であり,体細胞変異由来の新生抗原(ネオアンチゲン)は重要な腫瘍特異的抗原である。しかしながら,その根底にあるメカニズムとして,いくつのがん抗原ががん細胞の排除に必要であるのか,がん抗原の免疫優位性が存在するのか,特にヒトにおいてあまり理解されていない。さらにネオアンチゲンを認識する特異的T 細胞が長期にわたってがんを制御できるかどうかも不明である。免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法はがん治療のなかで注目を集めているが,現在のところ少数の患者にしか効果を示さない。しかし長期の持続性効果を特徴とする免疫チェックポイント阻害剤治療は,宿主免疫が再活性化されればがん細胞を排除し,またがんを平衡状態に維持することが可能であることを示唆している(治療誘導性のがんの免疫排除・平衡状態)。最近の報告は,ネオアンチゲンの消失がナチュラルな免疫応答と治療における免疫応答の両方の結果としてDNAおよびRNAレベルで起こり,腫瘍の免疫エスケープ(再エスケープ)をもたらすことを示している。ここでは,ネオアンチゲンを標的とした有効ながん免疫療法の開発に向け,臨床サンプルを活用したがんの免疫ゲノミクスアプローチにより明らかになったがんの免疫編集におけるネオアンチゲンの役割に焦点を当てる。 -
プロテオゲノミクスによるHLA 提示がん抗原解析の新展開
46巻9号(2019);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果から,がんに対する患者T細胞免疫応答が明らかとなった。しかし奏効率の改善が大きな課題であり,そのためにはprecision medicine の実現,すなわち作用メカニズム理解とバイオマーカー開発が欠かせない。近年ゲノミクス応用によりT 細胞認識の鍵,がん抗原の理解が進んだ。患者T細胞のがん認識パターンを抗原面から解明できれば,効果予測のみならず治療標的としても実用化できる。本稿では,新しいプロテオゲノミクス解析をとおしてみえてきたHLA 提示がん抗原像を解説する。遺伝子変異ネオアンチゲンをはじめ,従来法では困難な新しいタイプのがん抗原のダイレクトなスクリーニング・同定が可能となり,がん抗原パラダイムシフトが生まれつつある。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 上部消化管腫瘍 進行食道癌治療の最前線
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特別寄稿
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腎細胞癌治療におけるリスク分類と免疫チェックポイント阻害薬併用療法
46巻9号(2019);View Description Hide Description分子標的薬が投与された腎細胞癌患者の予後はIMDC分類により予測されてきたが,われわれは好中球・リンパ球比およびC-reactive proteinがIMDC分類の予後予測性向上に有用であること,ならびに分子標的薬を用いても予後が不良な患者が存在することを明らかにしてきた。そのようななか,IMDC 分類の intermediate/poor 群患者においてニボルマブ+イピリムマブ併用療法のスニチニブに対する優越性がCheckMate 214 試験で示された。この結果を受けて,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は腎細胞癌一次治療の標準治療に位置付けられ,IMDC分類は予後予測因子としてだけでなく治療薬選択のための指標となった。irAEに対する適切なマネジメント体制の下,本治療法が実施されることでこれまで予後不良とされてきた腎細胞癌患者の治療成績の向上が期待される。 -
ホルモン受容体陽性乳癌におけるCDK4 及び6 選択的阻害薬アベマシクリブの薬理作用
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionアベマシクリブ(本薬)はサイクリン依存性キナーゼ4 及び6(CDK4 & 6)選択的阻害薬であり,ホルモン受容体(HR)陽性ヒト上皮増殖因子受容体2 型(HER2)陰性乳癌に対する治療薬として国内で開発中である。CDK4 & 6 阻害薬は網膜芽細胞腫タンパクのリン酸化を阻害することで細胞周期のG1期停止を誘導し,腫瘍増殖を抑制する。本薬はCDK4 & 6 キナーゼ活性を強力に阻害し,CDK6-サイクリンD3 よりもCDK4-サイクリンD1 に14 倍高い選択性を示す点が特徴的である。乳癌患者の臨床試験において休薬を要する重症な好中球減少症の発現頻度は低く,本薬は休薬期間を設けない連日投与が採用されている。このようなアベマシクリブの安全性プロファイルや連日投与可能な特性はCDK4 とCDK6 の選択性の違いに起因する可能性がある。本薬はCDK4 & 6 の持続的阻害により乳癌細胞株の老化やアポトーシスを誘導し,その生存を不可逆的に障害する。増殖阻害作用はエストロゲン受容体(ER)陽性乳癌で特に顕著であり,高感受性因子としてER 高発現やRb陽性が同定されている。ER 陽性乳癌の担癌モデルでは,単独投与および抗エストロゲン薬との併用により腫瘍増殖の顕著な阻害が認められている。さらに本薬は中枢移行性を有し,神経膠腫モデルで抗腫瘍効果を示す。このように非臨床試験において本薬は他のCDK4 & 6 阻害薬といくつか異なる特徴を示す。HR陽性HER2陰性乳癌患者を対象とした臨床試験では,内分泌療法との併用投与による有効性と忍容性が認められており,本薬はこれらの患者に対する新しい治療選択肢として期待される。
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原著
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チロシンキナーゼ阻害薬がワルファリンのPT-INRコントロールに及ぼす影響
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionがん患者のwarfarin(WF)による静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)治療に対して抗がん薬が及ぼす影響を評価した報告は少ない。本研究は単施設,後ろ向き観察研究で,以下のa 群とb 群に分けてカルテ調査を実施した。a 群はWF 先行投与群で,WF 投与中にTKI を併用開始した群(WF+TKI群)あるいはTKI以外の抗がん薬を併用開始した群(WF+non-TKI群),b 群は抗がん薬先行投与群で,TKI投与中にWFを導入した群(TKI+WF群)あるいはTKI以外の抗がん薬治療中にWF を導入した群(non-TKI+WF 群)とし,併用前後のprothrombin time-international normalizedratio(PT-INR)変化量を比較した。a 群における対象患者はWF+TKI 群14 名とWF+non-TKI群20 名であり,PTINRの観察期間は併用後3 か月とした。b 群はTKI+WF 群16 名,non-TKI+WF 群13 名であり,PT-INR の観察期間はWF導入後14 日とした。a 群のWF 先行投与群では,抗がん薬併用後のPT-INR変化量はnon-TKI群に比較してTKI群で有意に大きく(0.42 vs 2.23,p<0.001),WF+TKI群では14/14 名(100.0%)で PT-INR上昇後にWF投与量が減量されていた。b 群の抗がん薬先行投与群におけるWF 導入期のPT-INR変化量は,non-TKI+WF群と比較しTKI+WF群で有意に大きく(0.68 vs 2.18,p<0.001),TKI+WF 群では12/16 名(75.0%)で WF投与量が減量されていた。WFとTKI併用時はWF 投与量の減量を考慮する必要があることが示唆された。 -
進行再発非小細胞肺癌に対するドセタキセルおよびラムシルマブ併用療法において発熱性好中球減少症の発症を抑え奏効率を上げる工夫
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionドセタキセル(DTX)+ラムシルマブ(RAM)併用療法は進行再発非小細胞肺癌の二次治療以降で推奨される化学療法の一つで,二次治療以降として良好な成績が期待できるが,発熱性好中球減少症(FN)の発症率が高くその管理が問題となる。当科ではFN の一次予防として持続型顆粒球コロニー刺激因子製剤であるペグフィルグラスチムを全例に併用し,毒性によりさらに適宜DTX の減量やRAM 単剤による維持療法を行うなどの工夫で対応している。2016 年8 月〜2017 年12月の間に当科で治療を開始したDTX+RAM 投与症例11 例を対象に,治療効果と有害事象発現状況について後方視的に検討した。DTX+RAM併用療法の投与サイクル中央値は8(1〜25)サイクルであった。最良総合効果は完全奏効(CR)2 例(18%),部分奏効(PR)5 例(45%),病勢安定(SD)2 例(18%),評価不能2 例(18%)であり,病勢増悪(PD)はなかった。全奏効率63.6%,病勢制御率は81.8%であった。11 例の無増悪生存期間中央値127 日,1 年無増悪生存率27.3%,全生存率中央値は未到達で,1 年全生存率は53.0%と良好であった。Grade 3 以上の有害事象として好中球減少症を2 例で認めたが,FN はなかった。全例にペグフィルグラスチムを一次予防で併用することにより,臨床試験成績よりも血液毒性を減らし得た。結果,DTXの減量を最小限にし,また症例によってはRAM単剤維持療法を行うことでFN を発症することなく,臨床試験成績よりも良好な全奏効率,病勢制御率を得ることができた。 -
Nab-Paclitaxelを用いた乳癌術前化学療法の有効性と安全性の検討
46巻9号(2019);View Description Hide Description目的:当院における術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)としてのnanoparticle albumin-bound paclitaxel(nab-PTX)の有効性と安全性について後方視的に検討した。対象および方法: 2013 年6 月〜2015 年1 月に当院でNACとしてnab-PTX(260 mg/m2,q3w)±trastuzumab followed by 5-FU+epirubicin+cyclophosphamide(FEC)を施行した原発性乳癌28 例を対象とし,臨床効果,病理学的完全奏効(pathological complete response: pCR)率と有害事象を評価した。結果: subtype はLuminal B(LB)type 5 例,Luminal B-HER2(LB-HER2)type 10 例,HER2 type 7 例,triplenegative(TN)type 6 例。nab-PTXの奏効率は64%で,特にHER2 type においては全例が奏効を示した。pCR率は32%で,subtype別ではLB type 0%(0/5),LB-HER2 type 20%(2/10),HER2 type 86%(6/7),TN type 17%(1/6)で,特にHER2 typeで良好な結果であった。nab-PTXの有害事象はGrade 3 以上の好中球減少を29%に認めたが,発熱性好中球減少症は認めなかった。感覚性末í神経障害は全Grade で93%に認めたが,Grade 3 は1 例(4%)のみであった。結語:NAC としてのnab-PTX±trastuzumab followed by FEC は忍容性が高く,PTXやdocetaxelの標準レジメンと同等の奏効率を,特にHER2 陽性乳癌には高いpCR 率を期待できる薬剤と考えられた。
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症例
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Oxaliplatin初回投与後にアナフィラキシーショックを認めた胃癌の1例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は48 歳,女性。胃癌腹膜播種のため,2015 年10 月よりweekly paclitaxelを開始した。画像上SDであったが経口摂取が安定したため,2016年1 月よりCapeOX療法へと変更した。1 サイクル目のoxaliplatin(L-OHP)投与中には有害事象を認めなかったが,投与終了後(投与開始から2 時間後)に急に喘鳴が出現しshock vital となった。methylprednisolone 500 mg点滴,epinephrine 1 mg静注,入院後の保存的加療などにて徐々に症状は改善した。L-OHP のアレルギー反応は6 サイクル前後・投与開始後30 分以内に認めることが多いが,自験例のように1 サイクル目・2 時間経過後に発症するタイプもあることを念頭に置く必要がある。 -
化学療法中に壊死した胃癌術後再発リンパ節が胃に穿破した1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。2011 年11 月,胃癌の診断で幽門側胃切除を施行された。病理検査結果は,tub2>por1,pT3N2M0,Stage ⅢAの診断となった。術後補助化学療法としてS-1 内服を開始したが,2012 年8 月,CTで膵頭部背側に3 cm 大の腫瘤が出現した。EUS-FNA で胃癌術後リンパ節再発と診断され,11 月より CDDP/CPT-11 療法を開始した。2013 年 1 月に発熱を呈し,CT,内視鏡検査で残胃後壁に膿瘍が穿破した所見がみられた。その後,化学療法は行わず経過観察としているが,術後6 年再発なく経過している。胃癌術後に再発したリンパ節が化学療法中に壊死・膿瘍形成し,胃内に穿破することで消失し長期生存している症例であり,非常にまれな病態であると考えられた。 -
開腹歴のない若年性腹腔内デスモイド腫瘍に対し鏡視下手術を施行した1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は21 歳,男性。当院血液内科にて悪性リンパ腫の治療寛解2 年後に,右下腹部腫瘤を自覚した。腹部CT で回盲部に腫瘤性病変を認め,再発の疑いで当科へ生検目的で紹介となった。腫瘤は盲腸に浸潤しており,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した。病理組織学的に再発は否定され,デスモイド腫瘍と診断された。開腹歴のない若年性の腹腔内デスモイド腫瘍の報告例は少ないため,文献的考察を加えて報告する。 -
エベロリムスとオクトレオチドで治療した胸腺原発カルチノイドの1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は54 歳,女性。X 年2 月から前胸部痛があり,4 月に近医を受診された。胸部X線で腫瘤影を認め,当院に紹介され受診した。CT で前縦隔に長径12 cm大の腫瘤,前縦隔・傍胸骨・肺門・横隔膜上リンパ節の腫大を認め,胸腺腫瘍が疑われた。腫瘤の針生検の病理診断はカルチノイドで胸腺原発カルチノイドと診断,手術を行ったが心膜播種があり縦隔腫瘍の一部を摘出して終了した。病理では非定型カルチノイドの診断で5 月からエベロリムスで治療を開始したところ,CT での腫瘤は7 月には縮小したが11 月には軽度増大した。ソマトスタチンレセプター(SSTR-2)が陽性であり,12 月からオクトレオチドの注射を併用しCT でしばらく病勢安定を維持していたが緩徐に増大した。胸腺原発カルチノイドに対するエベロリムスとオクトレオチドを使用した報告は少ないため報告する。 -
ベバシズマブ投与中に腹部大動脈瘤破裂を発症した肺腺癌の1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。現病歴:右鼠経ヘルニア術前の胸部X線にて右胸水を指摘された。胸水細胞診で腺癌と診断したが,CT で縦隔リンパ節腫大,胸膜播種は認めたが肺腫瘍は指摘できず,他検査でも原発巣は認めず原発性肺癌,c-TxN2M1a,Stage ⅣAと診断した。診断時CT で腹部大動脈瘤も認めた。EGFR 遺伝子陰性,悪性胸水合併よりシスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM)+ベバシズマブ(Bev)による化学療法を行った。3 コース目投与後10 日目,トイレ時に腹痛,意識もうろうとなり救急外来に搬送された。CT で腹部大動脈瘤破裂と診断したが,当院では対応できず他院搬送となった。しかしBev投与後という情報提供がなされず,搬送後緊急腹部大動脈人工血管置換術が行われた。経過は良好で術後第7 病日に退院となった。結論: Bev は血管内皮増殖因子に対するモノクローナル抗体であり,腹部大動脈瘤破裂に関連した可能性があり報告する。 -
Gemcitabine隔週減量投与を施行した高齢者膵癌術後多発肺転移の1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は80 歳,女性。膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術の術後12 か月目に胸部CT で膵癌多発肺転移と診断された。患者本人の副作用に対する不安が強いことから話し合った上で,gemcitabine(GEM)単独療法を減量(1,000 mg/day/body≒750 mg/m2)かつ隔週投与で開始した。2〜3か月ごとの治療効果判定では腫瘍の急速な増大を認めることはなかったが,GEM 開始19 か月後に腫瘍マーカーの上昇および肺転移の緩徐な増大を認めた。nab-paclitaxel を2 コースのみ併用したが,副作用のためGEM単独投与に変更した。その後,再発25 か月目に胸水貯留に伴う呼吸苦が出現し,27 か月目に原疾患にて死亡した。高齢者の膵癌術後多発肺転移に対してGEMの隔週減量投与で,良好なQOLを保ったまま転移巣をコントロールできた1 例を経験したので報告する。 -
発症早期の肺生検にて診断したS-1による重篤な薬剤性肺障害の1 例
46巻9号(2019);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。進行胃癌に対しS-1+oxaliplatin(SOX)療法を6 コース施行後に呼吸困難が出現し,低酸素血症と胸部CT で両側上葉優位にすりガラス陰影を認めた。気管支鏡検査,DLST を施行しS-1 による薬剤性肺障害と診断した。ステロイドパルス療法を行うも急速に呼吸状態が悪化し死亡した。臨床経過と病理組織学的所見よりDAD 型肺障害と診断した。本例は発症早期の病理所見が得られたS-1 によるDAD 型薬剤性肺障害の貴重な症例であり,文献的考察を含め報告する。 -
転移再発乳癌に対するLate LineでのTS-1化学療法の検討
46巻9号(2019);View Description Hide Descriptionlate line でのTS-1化学療法が著効した4 例の転移再発乳癌を経験した。平均年齢66.3 歳の女性。全例タキサンとアンスラサイクリン治療歴のあるLuminal A/B タイプである。転移再発治療2〜9 line で TS-1投与を行い長期間の PFSが得られた。TS-1化学療法はlate line でもQOL を維持して延命が期待できる治療であると考えられた。
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