Volume 46,
Issue 12,
2019
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総説
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癌と化学療法 46巻12号, 1807-1813 (2019);
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われわれの消化管内には多様な微生物が生息し,腸内細菌叢を形成している。腸内細菌叢の多様化が減少するdysbiosisが生じると,多様な疾患を生じる。近年,腸内細菌と体内の免疫機構について解明されつつある。この観点から腸内細菌叢が,発癌・治療効果(免疫チェックポイント阻害剤,化学療法)・治療毒性などの悪性腫瘍に関連している可能性が示唆されている。実臨床において大腸癌をはじめ,その他の悪性腫瘍でも何例か報告されている。今後腸内細菌に着目することで,既存の診断や治療を改良するヒントとなり得る。また,現時点では確立に至っておらず今後の検討課題であるが,糞便移植・プロバイオティクス・限局した抗生剤使用など,腸内細菌自体からのアプローチも今後の悪性腫瘍診療への光明として期待される。
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特集
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がん悪液質の評価と治療
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癌と化学療法 46巻12号, 1814-1817 (2019);
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がんに伴う病態の一つにがん悪液質が知られている。がん種によってその頻度は異なるが,消化器がんや肺がんでは比較的高い頻度で認められる。がん悪液質に特徴的な症状として体重減少の他,食欲不振や±怠感がある。がん悪液質の診断については2011 年にEPCRC よりコンセンサスレポートが出版され,体重減少の程度に基づいた診断基準が現在広く用いられている。がん悪液質の原因についてはがんに伴う炎症が重要な役割を果たしているが,近年の研究ではがん細胞から直接産生される蛋白の分解を促進する因子などの関与が明らかになりつつある。現時点では確立された薬物療法はないが,グレリン様の作用を示すアナモレリンに注目が集まっている。アナモレリンは食欲中枢の刺激による食欲亢進および筋蛋白の同化作用により,臨床試験においてがん患者の除脂肪体重を有意に増加させることを示した。今後はがん悪液質に対して薬物療法だけでなく,栄養療法や運動療法を含めた包括的な治療戦略の確立が求められている。
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癌と化学療法 46巻12号, 1818-1822 (2019);
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悪液質は全身性炎症を伴う複合的な代謝性疾患であるという疾患概念が確立されつつあるが,その代謝異常の本質や分子レベルの発症機序については不明なことが多い。本稿では,がん悪液質動物モデルから得られた知見,特に臨床への展開が期待される分子レベルの知見を中心に概説した。がん悪液質の動物モデルを用いたこれまでの基礎研究により,腫瘍細胞や炎症細胞から放出された炎症性サイトカインやTGF-b スーパーファミリーに属する因子などのメディエーターによって,骨格筋,脂肪・肝臓・中枢神経系といった代謝関連臓器の機能連携が撹乱されて代謝恒常性が破綻すると考えられている。現在,これらのメディエーターを標的とした治療薬の開発が進んでいる。骨格筋萎縮はがん悪液質の主徴とされるが,ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー・リソソーム系での蛋白分解の亢進,蛋白合成量の低下,脂肪酸酸化の亢進などが寄与する。がん悪液質では脂肪分解による脂肪萎縮も好発するが,白色脂肪の褐色化や脂肪分解・合成系の無益回路がエネルギー消費亢進に関与することなどが提唱されている。肝臓では糖新生が亢進して無益回路によりエネルギー消費が亢進するとともに,中性脂肪の利用が低下して脂肪肝を生じる。中枢神経系では視床下部の炎症が食欲不振,エネルギー消費を引き起こすとともに,グレリンの食欲促進作用に抵抗性を示すとされる。今後,がん悪液質に対する認識が広まり,本邦でも研究者が増加して研究が進み,本態解明から新しい予防・治療法の開発につながることが期待される。
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癌と化学療法 46巻12号, 1823-1828 (2019);
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がん患者に対する栄養管理には,①がん治療に伴う生体侵襲に対する代謝学的緩和と早期回復をめざした栄養管理,② がん自体の進行に伴う悪液質(cachexia)などの代謝変動に対する栄養管理,③ 終末期の病態,患者環境,倫理観を配慮した栄養管理,④ 食を中心とする生活の質(QOL)を人生の最後まで担保,維持する社会的な栄養管理などがある。本稿では,がん治療による健常組織への影響に加え,がん自体の進行によってもたらされる種々の代謝障害を,特に悪液質の発現機序と代謝変動ならびにその対策を中心に概説した。がん患者に対する栄養管理の原則は,十分量のエネルギー補給に加えてサルコペニア(骨格筋量および筋力の減少)の予防を目的とした蛋白・アミノ酸の投与と,リハビリテーションの併施やビタミンD をはじめとする各種微量栄養素(micronutrients)の補充である。しかし終末期に至り不可逆的悪液質(refractorycachexia)をきたした場合には,インスリン抵抗性の増悪,蛋白合成の低下とそれに伴う種々の臨床症状の発現がみられ,さらにエネルギー消費量は減衰する。これに対して過負荷にならず,患者・家族の真の利益や倫理的な配慮を重視した適切な栄養管理が求められている。
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癌と化学療法 46巻12号, 1829-1834 (2019);
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がん悪液質は多くの悪性腫瘍に併存する機能的疾患である。国際的なコンセンサスに基づく現在の診断方法は疾患特異性が低く,類似疾患との厳密な鑑別は困難である。早期の段階で集学的治療を開始することが推奨されているが,早期診断の方法は確立しておらず集学的治療の適切な構成要素も明らかでない。また,治療効果を評価するためのエンドポイントについては,研究者,臨床現場,規制当局の間で未だ合意が得られていない。がん悪液質の主病態が骨格筋と身体機能の障害であるならば,その診療の真のエンドポイントは機能予後の改善であり,このことは適切ながん治療の併用の下で生命予後やQOL の改善につながる可能性がある。したがって,将来の臨床研究においては体重や除脂肪体重などの古典的な評価項目だけでなく,身体機能や日常生活動作などの臨床的に意義の大きい測定項目を選択することが,保険承認の申請など治療開発の最終段階で求められるであろう。
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原著
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癌と化学療法 46巻12号, 1849-1853 (2019);
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目的: cisplatin(CDDP)誘発性腎障害(cisplatin-induced nephrotoxicity: CIN)は重大な化学療法の合併症になり得る。short-hydration とマグネシウム補充を採用した肺癌化学療法患者群においてCIN の合併状況を調べ,CIN の予測スコアの有用性を検討した。方法: CDDP を含む化学療法を実施した肺癌患者を後方視的に検討した。CIN の危険因子の抽出には多変量logistic 回帰分析,予測スコアの判別力はreceiver operating characteristic 解析を用いて検定した。結果:患者数111人で総投与回数402回,投与回数中央値は4 回であった。CIN 9.9%,grade 2 以上は7.2%で合併し,87%は1 回目投与であった。CINの独立した有意な危険因子は,CDDP の投与回数,女性,予測スコアであった。予測スコアのCIN合併の判別力は中等度であった。結論:簡便なCIN 合併の予測スコアはshort-hydration とマグネシウム補充を採用した肺癌化学療法患者群の初回以降の投与においても有用であった。
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癌と化学療法 46巻12号, 1855-1859 (2019);
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がん患者に併存疾患を認めることが多くなっている。びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)患者において併存疾患と相対治療強度は予後に影響するが,これら二つの要因の関連は明らかでない。今回われわれは,初発DLBCL に対してR-CHOP 療法を行った104例を対象に後方視的に解析した。58 例(55.8%)に併存疾患を認め,併存疾患群は非併存疾患群と比較して3 年無増悪生存率(p=0.043)と3 年生存率(p=0.049)が有意に低下し,相対治療強度も有意に減弱していた(p=0.011)。相対治療強度に影響する因子の単変量解析では,併存疾患は相対治療強度の減弱と関連した(p=0.016)。併存疾患は相対治療強度の減弱と関連し,生命予後に影響を与えると考えた。
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癌と化学療法 46巻12号, 1861-1865 (2019);
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2016年7〜12月までの6 か月間に当院外科で外来化学療法を施行した乳がん症例239 例を対象として,化学療法施行ごとに質問票を記入してもらった。緩和ケアチームカンファレンスで症状スコア2 以上,気持ちのつらさが5 以上を拾い上げて主治医へフィードバックした。症状スコア2 以上は59 例(24.7%)で,化学療法の有害事象によるもの27 例,原疾患の増悪によるもの15 例,その他が17 例であった。化学療法の有害事象によるものでは末Ý神経障害が20 例と最も多かった。嘔気,便秘,不眠は緩和ケアチームの介入によって改善されたが,末Ý神経障害20 例中改善されたのは2 例のみであった。気持ちのつらさが5 以上であったのは32 例(13.4%)で,治療の副作用によるもの10 例,原疾患の増悪によるもの10例,病気や家庭の心配,今後の生活の不安が6 例であった。32 例中15 例では担当看護師との対話や化学療法の減量,休薬,支持療法の投薬などにより改善がみられた。
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医事
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癌と化学療法 46巻12号, 1867-1871 (2019);
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早期からの緩和ケアの一つとして,がん患者指導管理料Ⅰがある。しかし医師看護師間の連携の問題により実施率が高くない現状がある。そこで当院では臨床検査技師と連携し,病理組織診断で悪性所見が認められた患者の診断結果を医師と同時に認定看護師に連絡し,認定看護師から積極的に主治医にがん患者指導管理料Ⅰの実施について連絡をする取り組みを始めた。その結果,対象患者の確実なリストアップが可能になり,実施率,算定率は向上し,算定件数は1.5 倍になった。また,がん患者指導管理料の実施に伴う医師の負担軽減にもつながった可能性が示唆された。
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症例
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癌と化学療法 46巻12号, 1873-1877 (2019);
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症例は64 歳,男性。検診にて胃の異常を指摘され,上部消化管内視鏡検査にて胃上部小弯に粘膜の発赤を指摘された。生検で中分化型腺癌と診断された。同時に施行したCT では,胃小弯から大動脈周囲にまでかけて連なる腫大したリンパ節を認めた。リンパ節に対してEUS-FNAを2 回施行するも,わずかな異型細胞が採取されたのみで確定診断に至らなかった。内視鏡所見から胃病変の深達度は粘膜までと判断,一方,リンパ節の腫大はリンパ腫などの他疾患の可能性を考え,胃病変に対して2016 年4 月にESDを先行した。病理では,Ⅱc,31×23 mm,tub2,T1a(M),UL−,ly−,v−,VM0,HM0 の診断であった。同年5 月に開腹下に傍大動脈リンパ節の切除生検を行った。病理では,低分化の腫瘍細胞を認め胃病変からの転移と診断された。SOX 療法を開始し,計6 回施行した時点でCT を行ったところ,膨大動脈リンパ節の腫大はほぼ消失し,縮小した胃小弯リンパ節をわずかに認めるのみとなった。計10 回のSOX 療法を行い,その後はS-1 の内服を継続した。2018 年8 月,フォローの内視鏡検査を行った際,ESD を行った部位よりも離れた胃体上部小弯に粘膜の陥凹性病変を指摘された。生検では中分化型腺癌の診断であった。同年11 月,胃全摘を行った。手術所見では腫大した小弯リンパ節を認めたが,傍大動脈リンパ節の腫大は認めず,2 群郭清を伴う胃全摘を行った。病理では,小弯リンパ節が転移陽性であったが病理学的に根治を得ることができた。
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癌と化学療法 46巻12号, 1879-1882 (2019);
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ニボルマブによる免疫関連有害事象のなかでACTH 単独欠損症はまれである。症例は73 歳,女性。胃癌術後腹膜転移の三次治療としてニボルマブ治療が施行された。5 コース投与後,甲状腺機能低下症を生じた。12コース終了後に病勢進行のためニボルマブを中止したが,2 週間後より全身\怠感と食欲不振が出現した。当初は腹膜転移の進行と考えたが,血中コルチゾール,ACTH が低値であったため,副腎機能不全の診断で精査を行いACTH 単独欠損症と診断した。腹膜転移による症状と副腎機能不全の症状は重なる点があり,ニボルマブ治療歴のある患者では診断が遅れないよう留意すべきである。
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癌と化学療法 46巻12号, 1883-1885 (2019);
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症例は70 歳台,女性。横行結腸癌癌性腹膜炎に対して原発巣切除後化学療法中に肺動脈血栓症を合併した。ヘパリンとワルファリンを使用した後,出血のリスクを考慮してエドキサバンに変更しpanitumumab+FOLFIRI 療法を約4 年間安全に施行できた。フッ化ピリミジン系抗がん剤使用中の肺動脈塞栓合併深部静脈血栓症症例に対して抗凝固療法を行う際には安全性の面からエドキサバンが第一選択となる可能性がある。
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癌と化学療法 46巻12号, 1887-1890 (2019);
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近年,乳癌領域でもヒト免疫不全ウイルス(HIV)陰性のニューモシスチス肺炎(PCP)の発症が散見されるようになった。特に,epirubicin(EPI),cyclophosphamide(CPA)併用療法(EC 療法)を2 週毎に投与するdose-dense EC(ddEC)療法が一般臨床で施行されるようになってから,初期乳癌の術前,術後化学療法中にPCP が発症する事例が生じている。今回,術後補助化学療法中に発症したPCP を2 例経験したので報告する。症例1: 62 歳,女性。術後EC 療法4 サイクル時点でPCP を発症した。EC 療法施行中のステロイドはプレドニゾロン(PSL)換算で平均11.4 mg/day を投与しており,4 サイクル目の EC 療法開始時のリンパ球数は 516 個/mL であった。症例 2: 27 歳,女性。術後 ddEC 4 サイクル施行後,docetaxel(DTX)投与1 サイクル時点でPCP を発症した。ddEC療法施行中のステロイドはPSL 換算で平均17.14 mg/day を投与しており,DTX 投与開始時のリンパ球数は 311 個/mL であった。PCP の発症はステロイドの量とリンパ球数に関連すると推測され,発症リスクの高い患者の識別と対策が課題である。
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癌と化学療法 46巻12号, 1891-1893 (2019);
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われわれが経験した乳腺原発小細胞癌の1 例を報告する。症例は67 歳,女性。右乳房腫瘤を自覚し,近医より精査加療目的に当院紹介受診となった。右乳房ACE 領域に35 mm 大の境界明瞭な腫瘤と,右腋窩に30 mm 大の腫大リンパ節を触知した。針生検の結果,synaptophysin陽性,chromogranin A陽性,CD56 陽性の腫瘍細胞で小細胞癌と診断された。PETCT検査では他に原発巣となる病変は認めず,乳腺原発小細胞癌として右乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した。最終病理組織学的結果は乳腺原発小細胞癌であり,ER,PgR,HER2とも陰性であった。乳癌に準じた術後補助化学療法と放射線治療を行い,術後9 か月経過しているが無再発である。
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癌と化学療法 46巻12号, 1895-1897 (2019);
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症例は72 歳,女性。原発性肺腺癌根治術後(pT3N1M0,Stage ⅢA)外来フォロー中,術後3 年8か月に呼吸困難が出現した。CT で気管分岐部の狭窄を認め,気管支鏡下生検にて腺癌再発と診断した(Ex21 L858R 陽性)。その後急激に呼吸困難が増悪し,人工呼吸器管理となった。気管切開後,狭窄部位に対して放射線治療後にゲフィチニブの投与を開始した。治療開始後20 日目に人工呼吸器を離脱し,4 か月後に退院した。以後ゲフィチニブを隔日〜7日ごとに投与調整しつつ外来フォローとなり,再発治療後2 年5か月に死亡した。癌緊急症を呈した肺癌の予後は不良であることが多く,本症例のように集学的治療により外来加療に移行できる症例は少なく,貴重な症例と思われたため文献的考察を加えて報告する。
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癌と化学療法 46巻12号, 1899-1902 (2019);
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患者は50 歳台後半,女性。X 年に胸部単純X 線で右肺異常陰影を指摘され,胸腔鏡下中葉切除およびリンパ節郭清を施行した。右肺腺癌,StageⅠA(EGFR exon 19欠失変異)の診断となった。X+1 年6 か月,右肺転移再発を来し9か月間gefitinib(GEF)を内服し,complete response(CR)持続のため休薬した。X+3 年7 か月,貧血,網膜静脈閉塞,M 蛋白血症を認め,多発性骨髄腫の診断となった。R-ISS Ⅱ期であり,Bd,自己末Ô血幹細胞移植併用大量化学療法(auto-peripheralblood stem cell transplantation: aPBSCT),Ld,ELd,Pd療法を施行し,延命効果を得た。肺腺癌肺転移が進行したため骨髄腫治療薬を適時休薬し,GEF を間欠的に内服し,それぞれ腫瘍縮小を確認した。X+9 年で原病死したが,骨髄腫初回治療から5 年5か月,肺腺癌肺転移再発から7 年6か月,担癌状態で生存した。
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癌と化学療法 46巻12号, 1903-1905 (2019);
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症例は76 歳,男性。Ph 陽性急性リンパ性白血病の再発に対してポナチニブ併用化学療法を実施した。白血球減少期にEdwardsiella tardaによる菌血症を合併したが,セフェピム投与にて軽快した。同菌による菌血症の報告は少なく,症例の蓄積による危険因子などに関する多数例での解析が望まれる。