癌と化学療法
Volume 47, Issue 1, 2020
Volumes & issues:
-
投稿規定
-
-
-
総説
-
-
肝細胞癌治療における肝動注療法の最先端
47巻1号(2020);View Description Hide Description近年,肝細胞癌の治療に対して分子標的剤が使用可能となり,治療の選択肢が増加してきた。その一方で,古くから行われてきた動脈塞栓化学療法(TACE)や肝動注持続化学療法(HAIC)についても様々な工夫がなされている。より根治性の高い肝局所療法としては,肝切除術,ラジオ波焼灼療法(RFA),マイクロ波凝固療法(MWA)がある。しかしながら,治療適応はTACE,HAICよりは狭くなる。そこで,これら治療法をどのように用いて肝細胞癌を制御していくかが現在求められている。
-
-
特集
-
- 代謝とがん免疫
-
頭頸部腫瘍におけるWarburg 効果と腫瘍内M2マクロファージ
47巻1号(2020);View Description Hide Description腫瘍細胞における糖代謝リプログラミングは,Warburg効果と呼ばれる。細胞は酸素供給の限られた状況で代謝を適応させるという理由だけでなく,急速な細胞増殖に必要な核酸,アミノ酸,脂質を大量に産生するためにWarburg効果を積極的に誘導している。Warburg効果の結果,腫瘍微小環境では解糖系最終代謝産物である乳酸が大量に産生される。腫瘍から分泌された乳酸は免疫抑制誘導因子として作用し,マクロファージをM2 マクロファージに分化誘導する。M2 マクロファージは炎症反応やTh1免疫を抑制し,血管新生や組織リモデリングを促進する。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は大半がM2タイプであり,抗腫瘍免疫反応を抑制する。つまりTAMは腫瘍の進展を促進する。われわれは,腫瘍が分泌する乳酸が頭頸部腫瘍のM2 マクロファージ分化と関連していることを報告してきた。FDG はグルコースアナログであり,FDGPET/CT は腫瘍組織の Warburg 効果の指標となる。FDG-PET/CT にて SUVmax,SUVmean の高値である,つまり糖取り込みが亢進した頭頸部腫瘍でM2 マクロファージ分化が亢進していた。腫瘍細胞は糖代謝リプログラミング,すなわちWarburg効果によってM2マクロファージ分化を介して免疫抑制微小環境を誘導していると考えられる。 -
グルタミン代謝によるCD8 T 細胞抗腫瘍活性の調節
47巻1号(2020);View Description Hide Description近年のがん治療では,T 細胞養子免疫療法が一定の効果を上げ注目を集めている。T細胞養子免疫療法では,必ずT細胞をin vitroで培養後,患者の体内に戻す。しかしin vitroで培養したT細胞では,T細胞疲弊や細胞老化が誘導され,生体内で抗腫瘍活性を十分に発揮できないことがわかってきた。そのため,T細胞の抗腫瘍活性を最大限に発揮させるためにT 細胞疲弊や老化を回避し,長期にわたり免疫応答を持続できるT細胞培養技術の開発が望まれている。最近の研究から,T 細胞は活性化に伴い細胞内代謝状態を劇的に変化させることが明らかになってきた。これまでに筆者らは,T細胞の活性化に伴って誘導されるグルタミン代謝が過剰に活性化することで,T細胞疲弊や老化が誘導されることを見いだしている。そこで,グルタミン代謝の調節により抗腫瘍活性の高いCD8 T細胞を作製できると考え研究を行った。その結果,グルタミン制限培地で培養したCD8 T(dGln-CD8 T)細胞は通常状態で培養したCD8 T(Ctrl-CD8 T)細胞に比べ,移入後in vivoで強い抗腫瘍活性を示すことがわかった。dGln-CD8 T細胞では,腫瘍組織に浸潤する抗原特異的CD8 T細胞数の増加や細胞増殖能が維持されるだけでなく,T細胞疲弊マーカーであるPD-1 の発現が低下していた。さらにdGln-CD8 T細胞は腫瘍特異的メモリーCD8 T 細胞分化が亢進することもわかった。グルタミン制限の効果は,グルタミン代謝産物であるa-ケトグルタル酸で拮抗されたことから,抗腫瘍活性の調節におけるグルタミン代謝の重要性が示された。以上の結果から,グルタミン代謝を制限してT 細胞を培養することでT細胞疲弊や老化を回避し,効率的にメモリーT細胞へ分化するCD8 T細胞の調製が可能となり,T細胞養子免疫療法の効果を増強できる可能性が示された。 -
免疫チェックポイント阻害剤とT 細胞代謝
47巻1号(2020);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害療法は,免疫細胞の抑制状態を解除することにより免疫監視機構を再活性化させ,がん細胞への攻撃を再び可能にする治療法である。なかでもprogrammed death-1(PD-1)阻害抗体療法は高い臨床効果を示しているが不応答性の患者も存在するため,いかにして効果を向上させるかが今後の課題となる。近年では,細胞内代謝がT細胞の分化や機能制御において重要な役割を担っていることが明らかになってきた。本稿では,T 細胞代謝の改善がPD-1 阻害抗体療法を増強させる効果およびその作用機序について概説する。
-
Current Organ Topics:Urological Cancer 泌尿器系癌 泌尿器癌専門医からのメッセージ―平成から令和へ
-
-
-
原著
-
-
単施設における終末期癌患者の赤血球輸血に関する後ろ向きコホート研究
47巻1号(2020);View Description Hide Description終末期癌患者における赤血球輸血の効果と関連のある因子を明らかにすることを目的とした。対象は2015 年6 月〜2017 年9 月までに当院緩和医療科で赤血球輸血した終末期癌患者27 症例で,後ろ向きコホート研究を行った。輸血の効果があった患者群(以下,responders)16 症例(59%)と効果がなかった患者群(以下,non-responders)11 症例(40%)を比較した。赤血球輸血の効果予測因子解析では,Eastern Cooperative Oncology Group performance status(PS)(p=0.004),palliative prognostic index(PPI)(p=0.022)で統計学的に有意な差を認めた。生存時間分析では,respondersの生存期間中央値69(四分位範囲: 20〜141)日とnon-respondersの生存期間中央値22(四分位範囲: 11〜47)日で,生存期間に統計学的に有意な差(p=0.047)を認めた。PPI,PS は緩和ケアにおける赤血球輸血の効果予測因子として関連が示唆された。また,輸血効果と輸血後の生存期間に関連が示唆された。 -
進行再発胃癌に対するModified FOLFOX6 療法の有用性に関する検討
47巻1号(2020);View Description Hide Description2017 年よりFOLFOX 療法が胃癌において保険償還され使用可能になった。FP 療法と比較したFOLFOX 療法の有用性について後方視的に検討した。2010 年1 月〜2018 年12 月に当科でFOLFOX 療法またはFP 療法を施行された進行再発胃癌47 例を対象とした。mFOLFOX6療法18 例,FP 療法29 例であり,治療成功期間中央値はmFOLFOX6療法206 日,FP 療法58日であった。奏効割合はmFOLFOX6療法50%,FP療法17%であった。主な有害事象はmFOLFOX6療法で好中球減少56%,血小板減少50%,末梢神経障害56%などで,FP 療法では白血球減少69%,好中球減少69%などであった。少数例の検討であるが,FOLFOX療法はFP 療法と比較しても有用かつ忍容性のある治療と考えられた。 -
抗がん剤を被疑薬として行った薬剤リンパ球刺激試験結果と再投与の調査
47巻1号(2020);View Description Hide Description一宮市立市民病院にて2013 年1 月1 日〜2017 年12 月31 日の間に,抗がん剤を被疑薬として薬剤リンパ球刺激試験(DLST)を行った患者は21 名で,DLST 陽性7 名(33.3%),陰性は14 名であった。また,PHA値について検討した結果では21 名中2 名のみが低値であり,免疫能は保たれていた。陽性判定後に再投与されていたのは薬疹疑いの2 名で,1名はletrozole を再投与したが再燃にてexemestane へ変更,もう1 名はlenalidomide を減量およびprednisolone(PSL)併用にて投与し再燃はなかった。陰性判定後の再投与は7 名で,いずれも再燃はなかった。今回の調査から,DLST陽性例においても副作用の種類や各種対策により再投与可能なケースがあることが確認された。しかしDLST結果は原因検索の一指標であり,再投与においては他の診断法を加味し慎重に検討することが重要である。
-
-
薬事
-
-
Oxaliplatin過敏症の早期発見と初期対応の検討
47巻1号(2020);View Description Hide Descriptionoxaliplatin(L-OHP)過敏症は気管支痙攣,呼吸困難,血圧低下を伴い,致死的な状況に陥る場合がある。そのため過敏症管理は極めて重要であり,症状発現の際は迅速かつ適切な対応が求められる。過敏症の早期発見と適切な初期対応の重要性を明らかにするために,2016 年4 月〜2017 年12 月の間に長崎医療センターの外来化学療法センターでL-OHP を用いた患者を対象に,過敏症の発現状況および対応状況を後方視的に調査し検討した。過敏症は 14/155 例で,Grade 1 1 例,Grade 2 が13 例で認められた。過敏症発現群と非発現群で有意なリスク因子は認められなかった。投与コース中央値7.9(2〜11)コース,累積投与量中央値687.8(75.4〜960.2)mg/m2で過敏症は発現していた。半数の患者が自分自身で早期に過敏症を発見できていた。また,看護師により適正な初期対応が実施できていた。L-OHP 過敏症を早期発見し適切な対応を行うことで,症状の重篤化を予防できることが示唆された。
-
-
症例
-
-
黄疸を契機に発見された膵管胆管瘻の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は80 歳,女性。眼球黄染を指摘され当科を受診した。腹部CT とMRCP で総胆管,主膵管の拡張と膵頭部に嚢胞性病変を認めた。また,ERCPにより乳頭部開大と膵管胆管瘻を認め,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)による膵管胆管瘻と診断した。膵管と胆管へステントを留置したが減黄効果は不良であった。しかし患者から手術の同意が得られず,内視鏡的乳頭切開術のみ施行した。黄疸は軽減したが以降の治療は拒否し,自主退院となった。IPMN による膵管胆管瘻は比較的まれであり報告する。 -
膵臓浸潤を認めた横行結腸間膜デスモイド腫瘍の1 切除例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は40 歳,男性。既往歴,家族歴に特記事項なし。右上腹部腫瘤を自覚し,当院を受診した。腹部造影CT 検査にて横行結腸間膜内に9.5×9.0 cmの内部不均一の分葉状腫瘤を認めた。また,膵頭部との境界が一部不明瞭であった。デスモイド腫瘍の術前診断で十二指腸,膵臓を一部合併切除する結腸右半切除術を施行した。病理組織学的所見はS-100,c-kit,CD34,desminはすべて陰性,a-SMAは部分的に陽性,b-cateninが弱陽性であり,腸間膜デスモイド腫瘍と診断した。また,病理組織学的に膵臓への直接浸潤も認めた。デスモイド腫瘍は家族性大腸腺腫症やGardner症候群,開腹手術,外傷の既往例に発生することが多いが,本症例のごとく上記を伴わない孤発例はまれであるため報告する。 -
乳癌に対する乳房温存手術5 年4か月後に温存乳房に発生した放射線誘発血管肉腫の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description乳癌術後の放射線治療(radiotherapy: RT)によりまれに二次性に血管肉腫が発症する。今回,乳房温存手術後に発生した放射線誘発血管肉腫(radiation-associated angiosarcoma: RAAS)の1 例を経験した。症例は72 歳,女性。5 年4 か月前に右乳癌に対し乳房温存手術を施行した。浸潤性乳管癌,pT2pN1M0,StageⅡB,ER(+),PgR(−),HER2(1+)であった。術後,温存乳房に50 Gy の照射と,doxifluridineとanastrozoleを5 年投与した。術後5 年4か月目に温存乳房皮膚に血疱が出現し拡大,その7 か月後に大量出血を来した。病変部皮膚生検によりhigh gradeの血管肉腫と判明した。血管内皮増殖因子受容体(VEGF-R)(+),CD31(+),CD34(+)であった。急速に拡大し,その1 か月後に乳房切除+広背筋皮弁を施行した。術後化学療法とRT を拒否し,術後6か月で創部局所再発した。その後,胸腔浸潤,肝転移へ進行し,術後1 年1 か月後に死亡した。RAAS は急速に進展し現状では有効な治療法がないが,進行緩徐例やタキサンやRT が有効との報告もある。その発生と進展に血管内皮増殖因子の関与が示唆され,これを標的とした分子標的療法が有効である可能性がある。 -
生体肝移植後,タクロリムスの内服中に乳癌術後補助化学療法を行った1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は50 歳台,女性。生体肝移植後,タクロリムス(Tac)内服中に原発性乳癌(ホルモン受容体陽性,HER2陽性)を発症した。術後補助化学療法としてTac 血中濃度モニタリング下にEC 療法および毎週パクリタキセル+トラスツズマブ療法の逐次治療を行った。化学療法の影響によるTac の血中濃度変動が懸念されたが,その変動は軽度であった。拒絶反応などの臨床症状の発現は認めず,乳癌化学療法は治療強度を損なうことなく安全に行うことができた。近年,臓器移植後の長期生存例が増加する一方,移植後に高頻度で悪性腫瘍が発生することが注目されている。免疫抑制剤と化学療法の併用における安全性・有効性が課題である。 -
化学療法後残存腫瘍切除にて病理学的完全奏効を得たが両側気胸を発症した縦隔原発非精上皮腫の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description患者は10 歳台後半,男性。左胸部痛にて当院を受診した。CT にて前縦隔に12 cm 大の腫瘤および両肺下葉小結節を認め,AFPおよびhCG 高値を伴っていた。CT ガイド下生検で卵黄嚢腫瘍を疑う病理所見があり,精巣超音波検査は異常なく,縦隔原発非精上皮腫と診断した。精子保存の後,BEP[bleomycin(BLM)+etoposide(ETP)+cisplatin(CDDP)]療法4 コースを施行し腫瘍マーカーは正常化した。縦隔病変は縮小したが左肺動脈に広範に接しており,胸骨正中切開縦隔腫瘍切除術に加えて左肺上葉一部合併切除を行った。病理組織学的検査にて最大腫瘍径は9 cm であり,未熟奇形腫のみで悪性所見なし。また,同時に両下葉部分切除を行ったが肺内リンパ節であった。再発なく経過していたが,術後6 か月で呼吸困難を来し緊急受診となった。両側気胸発症を認めたが,右胸腔ドレナージのみで右のみならず左気胸も改善した。右血性胸水の細胞診は悪性所見なし。術後遅発性肺瘻にて右血気胸を来し,前縦隔の右左シャントが併存し両側気胸に至った可能性が考えられた。 -
化学療法中に生じた右頸部痛を契機に頸部エコーにて内頸静脈への中心静脈カテーテル迷入と診断された1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description化学療法中に生じた激しい頸部痛を主訴に救急外来を受診し,頸部エコーにて血栓を合併した内頸静脈への中心静脈(CV)カテーテル迷入と診断された1 例を経験した。症例は57 歳,男性。直腸癌術後の肝・肺・リンパ節転移,腹膜播種に対して,右鎖骨下静脈経由でのCV ポート留置後,modified FOLFOX6[levofolinic acid,5-fluorouracil(5-FU),oxaliplatin(L-OHP)]とpanitumumab の併用療法を導入した。6 コース目を開始した深夜に激しい右頸部痛が出現したため,救急外来へ搬送された。頸部エコーにて右内頸静脈内に線状高エコーとその周囲の血栓を認め,胸部X線にて内頸静脈へのCV カテーテル迷入と診断した。頸部痛はL-OHP および5-FU による静脈炎に伴う症状と考えられ,カテーテル抜去後2 日目には消失した。また,血栓に対しては直接経口抗凝固薬にて加療を行った。CV ポート留置後の合併症として内頸静脈へのカテーテル迷入があり,化学療法後の頸部痛を生じた際には考慮すべきである。また,本症例は造影剤アレルギー歴があり,頸部エコーはカテーテルの迷入に加え血栓の存在診断にも有用であった。 -
ロイコボリンの併用によりPralatrexate継続投与が可能となった再発・難治性血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫
47巻1号(2020);View Description Hide Descriptionpralatrexate(PDX)は血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL)などの再発・難治性末梢性T 細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma: PTCL)の治療薬として承認されている。PDX の副作用として口内炎がよく知られており,薬剤の減量や治療中断の一因となっている。今回,65 歳,男性のAITLに対して第二再発時にPDX を使用した症例を報告する。PDX の治療は有効であったが,特に口内炎の有害事象が重篤であった。そこでロイコボリン(LV)を併用したところ,口内炎の発症が抑制され8 か月間の継続投与を行うことができた。LV はメトトレキサート大量療法における有害事象を抑えることは知られている。しかしPDX 使用時の副作用予防に対する至適用法・用量は確立していない。今後,これらに関しては臨床研究によって検討していく必要がある。 -
著明な胸水を呈し胸腔鏡検査を施行したフィラデルフィア染色体陽性急性骨髄性白血病髄外再発の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description患者は70 歳台前半,男性。血球減少を認め,前医で骨髄穿刺にて急性骨髄性白血病の診断となった。染色体検査で,46, XY,t(9; 22)(q34;q11.2)[2/20]を認め,minor bcr-ablキメラmRNAは 4.5×10 / 5 copies/mg RNAであった。フィラデルフィア染色体陽性急性骨髄性白血病と診断し,JALSG AML201プロトコールにdasatinibを併用し寛解を得て,地固め療法を3 コースまで施行した。全身状態低下および腎機能悪化にて抗がん剤を中止し,初回治療から6 か月後に当科に紹介初診となった。骨髄穿刺で再発のないことを確認したが,2 か月後に右大量胸水を認め,当院呼吸器内科に緊急入院した。胸腔ドレーン挿入時に胸腔鏡下胸膜生検を施行し,急性骨髄性白血病髄外再発と診断した。末梢血芽球が出現,急速に増加しさらなる腎機能悪化も伴ったため,当科にて緩和治療に移行した。
-
-
特別寄稿
-
- 第41回 日本癌局所療法研究会
-
化学療法によりCR を得て長期無再発生存している超高齢者食道胃接合部癌の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は85 歳,男性。食道胃接合部癌,G=E,Type 2,por,長径6 cm,cT4aN1M0,cStage ⅢAの診断で手術を検討した。しかし既往に閉塞性動脈硬化症と胸腹部大動脈瘤があり,手術リスクと生命予後を考慮し,根治手術ではなく化学療法を行う方針とした。低腎機能を認めたが,全身状態は良好であるため標準治療であるSP療法(S-1/CDDP 2 週投与 1 週休薬)を選択した。有害事象なく2コース終了した時点で腫瘍は著明に縮小し,5コース終了した時点で腫瘍は消失し臨床的CR が得られた。その後S-1 単独療法を2年間継続し,治療開始後から現在に至る7年間無再発を維持している。高齢者への化学療法は敬遠される傾向にあるが,本症例では手術を回避し強度な化学療法を選択したことでQOL を維持しつつ良好な予後が得られた。 -
多発肝転移を伴う十二指腸癌出血に対し緊急膵頭十二指腸切除術を行った1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は62 歳,女性。息切れを主訴に近医を受診し,高度の貧血を指摘された。精査の結果,腫瘍出血を伴う十二指腸癌,多発肝転移と診断された。保存的加療が行われたが,出血コントロールが困難のため当院へ紹介となった。入院後,下血の持続,Hb値の著明な低下(9.1 g/dL から5.1 g/dL)を認めた。内視鏡的止血術や動脈塞栓術も考慮されたが,治療が不成功に至った場合,手術のタイミングを逸すると判断し,入院翌日に緊急で膵頭十二指腸切除術を施行した。術後経過は良好で,術後16日目に退院となった。術後化学療法を行ったが,13 か月目に原病死した。遠隔転移例でも膵頭十二指腸切除術は,腫瘍出血のコントロールと救命を目的とした治療として一選択肢になり得ると考えられた。 -
胆管金属ステント留置後の術前化学療法中に胆道出血を来した膵癌の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は67 歳,女性。閉塞性黄疸を伴った切除可能境界膵癌に対してself-expandable metallic stent(SEMS)による胆管ドレナージ後にgemcitabine+nab-paclitaxel 療法を開始した。ステント留置47 日後に吐血を認めた。上部消化管内視鏡検査では,胃,十二指腸粘膜からの出血は認めなかった。SEMSは空腸内に逸脱しており,ENBD チューブを留置すると血性胆汁が回収されて胆道出血と診断した。保存的加療では止血が得られず,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織学的所見ではステント圧排部の胆管壁に変性壊死に陥った出血部位を認めた。SEMSを用いた胆道ドレナージにはまれな合併症として胆道出血があり,文献的考察を加え報告する。 -
5回の手術治療を含む集学的治療を行い長期生存が得られた進行再発直腸癌の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。直腸癌(Ra,type 2)に対して低位前方切除術を施行し,補助化学療法(S-1内服)を6 か月間施行した。翌年に吻合部再発を認めたため,放射線化学療法[pelvis 46 Gy/23 Fr,folinicacid+5-fluorouracil(FL)therapy×2 course]後にHartmann 手術を行ったが癌組織の遺残が疑われたため,bevacizumab(BV)+capecitabine+oxaliplatin(CapeOX)療法を施行した。その後,肝転移疑いの病変が出現したためBV+FOLFIRI 療法に変更するも,高度な下痢が出現したためBV+FL 療法を継続し,病変に変化がないためいったん中止し経過観察をしていた。再手術から4 年後に肺転移巣が出現したため肺部分切除術を施行した。その翌年にも肝転移巣に対して肝部分切除術とラジオ波焼灼術,さらに翌年にも二度目の肺部分切除術を施行した。この間,抗癌剤は適宜変更しながらも継続している。その後は全身臓器への転移が進み,初回手術後8 年4か月で死亡した。本症例のごとく緩徐進行性の直腸癌に対しては,術後再発に対して化学療法をベースに骨盤部放射線治療,肝転移ラジオ波焼灼術なども取り入れ,切除可能病変は積極的に切除術を施行する集学的治療にて予後の延長を図れる可能性が示唆された。 -
Bevacizumab+Paclitaxel療法中に腋窩動脈出血を来した再発乳癌の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は50 歳,女性。左乳癌の診断で左乳房切除術,センチネルリンパ節生検を施行した。2 年後,疼痛を伴う左腋窩リンパ節再発と診断された。内分泌療法を開始されたが,3 か月でPD となった。疼痛に加え,出血と左上肢麻痺が出現した。放射線治療(45 Gy)を行い出血はコントロールされたが,縮小効果は乏しく,疼痛と上肢麻痺は残存したためbevacizumab+paclitaxel 療法を開始した。著明な腫瘍縮小効果が得られたが,3コース施行中に腋窩動脈からの大出血を来した。緊急で出血点縫合による止血術を施行するも7 日後に再出血を認め,左腋窩動脈結紮を施行した。bevacizumab併用化学療法は高い奏効が期待できるが,腫瘍が主要な血管に近接・浸潤している場合は腫瘍脱落による出血に注意が必要である。また,放射線治療後のbevacizumabの使用は有害事象が増加する可能性があり,安全性の検討が必要である。 -
同時性孤立性小腸転移を来した下行結腸癌の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。胆石発作の精査目的で当院紹介となったが,精査にて下行結腸癌を指摘され,手術を施行した。術中所見にてTreitz靭帯より5 cm の部位に空腸腫瘍が認められ,開腹下左半結腸切除術に加え空腸部分切除術を施行した。術後病理組織学的検査および免疫病理学的検査所見より空腸腫瘍は孤立性小腸転移と診断された。大腸癌の孤立性小腸転移は比較的まれであり,なかでも同時性転移は極めてまれである。小腸転移は予後不良と報告されており,治療法などさらなる症例の集積が必要である。 -
転移性鼠径部腫瘍に対して繰り返す再発巣切除により無再発生存が得られた1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。横行結腸癌に対して,腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した(type 1,muc,pSS,pN1a,StageⅢa)。術後3 年6か月で,右鼠径部腫瘤,右下肢痛を主訴に来院し,同部に腫瘤を認め,腫瘤摘出術,メッシュ再建を行った。病理組織学的検査にて粘液癌を認め,転移性病変と診断された。その1 年後に局所再発を来し,高位精巣摘除術を施行するも,その6 か月後にメッシュ再建部に局所再発を認めた。再発までの期間が短く全身化学療法を施行したが,増大を認めたため切除の方針となり,腹壁切除術,大腿筋膜張筋皮弁術を施行した。術後,腸閉塞,誤嚥性肺炎,皮弁壊死を認めたが,術後85 日目に自宅退院となった。術後17 か月間,無再発生存中である。粘液癌は局所再発を来しやすく確実な切除マージンが必要である。本症例のように局所再発を繰り返す場合には,積極的な切除を考慮してもよいと考えられた。 -
虫垂杯細胞カルチノイドの1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は26 歳,女性。前医で急性虫垂炎に対し保存治療を行い,interval appendectomyを希望され当院に紹介となった。当院にて単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行したが,術後の病理組織学的検査で虫垂杯細胞カルチノイド(goblet cellcarcinoid: GCC)と診断された。GCC は生物学的悪性度が高いため,D3郭清を伴う腹腔鏡下回盲部切除術を行った。切除標本に遺残病変,リンパ節転移を認めなかった。GCCは進行例では腹膜播種・リンパ節転移を伴い予後不良な疾患であるが,症例によっては腹腔鏡下手術による追加切除は安全に施行できる根治性のある治療法の一つと考えられた。 -
肝内胆管癌と鑑別が困難であった術後13年目の乳癌単発性肝転移切除の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。65 歳時,左乳癌に対して左非定型乳房切除術を施行された。術後5 年間内分泌療法が行われ,以後転移再発なく経過していた。術後13 年目のCT で肝S4 に46 mm 大の単発性腫瘍を指摘された。腫瘍マーカーの上昇なく,画像検査で肝内胆管癌との鑑別は困難であった。肝内胆管癌であった場合の生検後播種のリスクを考慮し生検は行わず,肝左葉+左尾状葉切除術を施行した。最終病理で乳癌肝転移の診断であった。肝切除術後は内分泌療法を開始し,術後3 年無再発生存中である。乳癌術後晩期単発性肝転移はまれであり,肝内胆管癌との鑑別が困難な場合もある。生検による播種のリスクを考慮すると,診断的治療としての肝切除は選択肢になり得る。 -
切除不能進行大腸癌に対する術前化学療法をCAPOXIRI に強化し根治術を施行できた1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は66 歳,女性。後腹膜穿破と膿瘍形成を伴う下行結腸癌,cT4bN2M0,cStage Ⅲb に対して横行結腸双孔式人工肛門を造設し,さらに後腹膜膿瘍に対して経皮的穿刺ドレナージを施行した。その後,切除不能局所進行大腸癌として化学療法導入の方針とし,CAPOXを開始した。CAPOX 4 コース施行し,原発巣の縮小を認め(PR),さらなる抗腫瘍効果を期待してレジメンをCAPOXIRIに変更して3 コース施行した。その結果,腫瘍はさらに縮小し,また左腸腰筋との境界も明瞭化したため,外科的切除可能と判断して根治切除に踏み切った。左半結腸切除術,左腸腰筋・左卵巣動静脈合併切除術によりR0 切除を得て,切除標本の病理結果はypT3N0M0,ypStage Ⅱであった。現在,術後12 か月間無再発生存中である。今回われわれは,化学療法をCAPOX からCAPOXIRI に強化して根治切除術を施行できた局所進行大腸癌の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えてここに報告する。 -
化学療法が奏効し膀胱を温存し得た膀胱浸潤直腸癌の1 切除例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。黒色便,意識障害を主訴に当院に入院した。入院時の造影CT 検査で直腸腫瘍,膀胱浸潤,肝腫瘍,傍大動脈リンパ節の腫脹を認め,下部消化管内視鏡検査で腺癌(tub1,RAS野生型)の診断であった。遠隔転移と膀胱浸潤を認めたため化学療法を先行させる方針とし,S 状結腸人工肛門を造設した。mFOLFOX6+panitumumabを8コース施行し,原発巣,肝転移巣,傍大動脈リンパ節すべてRECIST基準でPR であった。二期的切除を企図し,原発巣に対しては浸潤が疑われた膀胱剥離面と傍大動脈リンパ節を迅速診断で陰性であることを確認し,低位前方切除術を施行した。病理所見ではypT3 の診断であった。その後肝部分切除術を行い,R0切除を施行し得た。現在,術後6か月無再発生存中である。膀胱浸潤大腸癌に対しては,機能温存と根治性を両立する過不足ない治療戦略が望まれる。 -
カテーテル検査にて診断を得た大腸癌腫瘍塞栓の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は58 歳,女性。多発リンパ節転移,肝転移を伴う上行結腸癌(術前Virchow リンパ節穿刺細胞診結果class Ⅴadenocarcinoma)に対して,手術および全身化学療法(FOLFIRI+panitumumab)を施行した。経過中造影CT にて,左鎖骨下静脈に陰影欠損像を認めた。リンパ節の圧排に伴う血流障害に起因した血栓症と診断し抗凝固療法を開始したが,塞栓は増大傾向となった。3 か月後,突然の呼吸苦にて救急搬送され,肺動脈血栓塞栓症の診断となった。抗凝固療法抵抗性の塞栓症と考え,経カテーテル的生検を施行したところ原発巣に類似した組織構造を認め,大腸癌腫瘍塞栓の診断となった。その後,全身状態および呼吸状態が悪化し,生検後10 日目に呼吸不全となり死亡した。経過より左鎖骨上リンパ節転移が静脈内へ直接浸潤し,腫瘍塞栓が増大した結果と考えられる。リンパ節転移から浸潤し発生した腫瘍塞栓は非常にまれであるが,本症例ではカテーテルにて塞栓の生検を行い,腫瘍塞栓であることを診断し得た。 -
術前補助化学療法が奏効し根治切除を施行し得た膀胱浸潤S 状結腸癌の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は71 歳,男性。便秘,黒色便,体重減少を主訴に受診した際の下部消化管内視鏡検査でS 状結腸癌を指摘された。生検でadenocarcinoma(tub2),RAS wildtype と診断された。腹部造影CT 検査ではS 状結腸に最大横径55 mmの腫瘤を認め,膀胱浸潤が疑われた。また,bulkyな最大径50 mmの1 群リンパ節およびNo. 253 リンパ節の腫大を認めた。膀胱鏡では明らかな瘻孔は認められなかった。S 状結腸癌,cT4b(bladder),N3,M0,cStage Ⅲcの診断となり,人工肛門造設後に術前補助化学療法としてmFOLFOX6+panitumumab療法を開始した。3 コース施行後,根治手術を行った。臨床的治療効果はPR,病理組織学的最終診断はypT3,ypN0(0/17),R0,ypStage Ⅱa,治療効果はGrad e 2a と判定された。術後補助化学療法としてmFOLFOXを6か月間施行し,現在術後9か月再発なく経過観察中である。 -
十二指腸と胃の異時性多発性GIST に対して外科的切除を施行した1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Descriptiongastrointestinal stromal tumor(GIST)は単発性に発生することがほとんどで,von Recklinghausen病や遺伝子疾患以外での多発例はまれである。われわれは,十二指腸GIST術後9 年後に発生した胃GISTを経験した。症例は58 歳,男性。49 歳で十二指腸GIST に対して膵頭十二指腸切除術を施行され,CT で経過フォローをされていた。患者は貧血の精査目的に当院へ入院となり,CT にて胃に径10 cm 以上の壊死を伴う腫瘤を認めた。上部消化管内視鏡検査では胃のSMT にdelleを認めた。腫瘤は脾臓や左横隔膜への浸潤が疑われたため,胃局所切除術,脾臓摘出術,左横隔膜部分切除術を施行した。病理診断では,異型紡錘形細胞が密に増生し,免疫染色でKIT陽性であったため,胃GISTと診断した。腫瘍径,核分裂像数からmodified-Fletcher分類で高リスク群のGISTと診断し,メシル酸イマチニブ400 mg/日の投与を開始した。術後2 年経過した現在,明らかな再発は認めていない。 -
小腸GIST 術後肝転移に対して集学的治療を行い良好な予後が得られた1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例: 54歳,男性。2012年に小腸腫瘍に対して小腸部分切除を施行し,病理組織学的診断は高リスクGISTであった。患者の希望で術後補助療法を行わず経過観察されていたが,術後18 か月でS8 に単発肝転移を指摘され,術後22 か月目よりimatinib 400 mg/dayを開始した。術後28 か月目に転移巣縮小が得られた後,増大なく経過していた。imatinibへの耐性が生じる前に転移巣切除の方針となり,初回手術から5 年6か月後に肝部分切除術を施行した。術後もimatinib投与を継続し,肝切除術後1 年4か月間再発なく経過している。考察: GISTの転移性再発の原則はimatinib投与であるが,切除可能な肝転移に対しては手術も選択され,その安全性も確立されつつある。imatinib が奏効し残存腫瘍の完全切除が遂行された場合には,二次耐性が抑制され得るとの報告もある。切除可能な転移に対して完全切除を行うことで長期にわたりimatinibを投与できる可能性が示唆される。結語:今回われわれは,小腸GISTの単発肝転移に対してimatinibを投与し,耐性出現前に肝切除術を行い良好な予後が得られた症例を経験したので報告する。 -
乳腺線維腺腫摘出部位近傍より発生した葉状腫瘍の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は41 歳,女性。5 年前に左乳房C 領域の腫瘤を主訴に近医を受診した。超音波検査で径24 mm の多結節性の腫瘤を認め,画像診断上葉状腫瘍が否定できなかったため,摘出生検術が施行された。病理組織診断は線維腺腫であった。その後,近医で経過観察されていた。術後5 年目の検査で手術瘢痕に一致して径31×25 mm大の境界明瞭な低エコー腫瘤が認められた。針生検を施行したところ,葉状腫瘍の診断であった。術前諸検査の後,局所麻酔下内視鏡補助下葉状腫瘍切除術(margin 5 mm)を施行した。病理組織診断は葉状腫瘍(良性),切除断端は陰性であった。術後1 年6か月目の現在,再発の所見を認めていない。良性腫瘍の摘出後に超音波検査で経過を観察する場合,摘出部位の構築が乱れていることもあり,同部に一致した新規の腫瘍の発見が遅れることがある。摘出部位近傍の新規腫瘍の出現を念頭に置いて,注意深く観察する必要があると考えられた。 -
急速に増大し乳癌との鑑別が困難であった乳管内乳頭腫の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は39 歳,女性。3 年前より左乳房腫瘤を自覚したため,近医を受診し,経過観察されていた。その後急速に腫瘤の増大を認めたため,当科を紹介・受診した。来院時,左AB 領域に径1.8 cm の腫瘤,その周囲に径0.5 cm と径0.3 cmの腫瘤を認めた。針生検の結果,乳管内乳頭腫の疑いであった。1 年後に受診した際に,腫瘤は径3 cm に増大していた。超音波検査では,左乳房AB 領域に径3×2 cm の血流信号を有する辺縁整,内部不均一な低エコー腫瘤とその周囲に径1.6 cmと径0.4 cmの腫瘤を認めた。吸引式針生検の結果,乳管内乳頭腫の診断であったが,画像診断で悪性の可能性が示唆されたため左乳房腫瘤摘出術を施行した。摘出標本の病理組織診断は乳管内乳頭腫であり,悪性所見を認めなかった。乳管内乳頭腫は良性腫瘍であり,定期的にfollow up することはあまり必要ないとされる。しかしながら急速に増大し出血を呈す場合があるため,注意深くfollow upする必要があると考えられた。 -
亜全胃温存膵頭十二指腸切除後の胃空腸吻合部潰瘍穿孔5 例の検討
47巻1号(2020);View Description Hide Descriptionはじめに:膵頭十二指腸切除術(PD)後の晩期合併症として胃空腸吻合部潰瘍穿孔を来すことがある。対象と方法:2008〜2018年までに当科で施行したPD 305例中,胃空腸吻合部潰瘍穿孔を来した5 例(1.6%)を対象とした。患者背景,初回手術内容,穿孔までの期間,制酸剤の使用,穿孔部位,穿孔に対する手術について検討した。結果:性別は女性4 例(80%),年齢中央値は73 歳であった。初回手術は全例で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)が施行された。SSPPD後の制酸剤内服(H2受容体拮抗薬またはPPI)は3 例(60%)で行われていた。穿孔部位は吻合部肛門側が4 例(80%)であった。手術は全例で単閉鎖と大網被覆が施行され,全例生存退院した。考察: SSPPD 後には制酸剤服用下でも吻合部潰瘍穿孔が生じる可能性がある。術式は通常の消化性潰瘍穿孔と同様に単閉鎖と大網被覆が有効であった。 -
腹腔鏡下試験開腹術が有用であった表在型胃癌の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description今回われわれは,腹腔鏡下試験開腹術を行うことで表在型胃癌の卵巣転移(クルッケンベルグ腫瘍)を診断し,早期に治療が開始できた症例を経験した。患者は43 歳,女性。検診で異常を指摘され当院を受診,精査にて表在型胃癌と両側卵巣腫瘍,孤発性の骨硬化性病変を指摘された。診断確定のため腹腔鏡下試験開腹術を行い,播種がなく,腹水細胞診陰性を確認後,両側付属器切除を行った。卵巣腫瘍が印環細胞癌で胃癌の生検組織と類似することから,胃癌の卵巣転移と診断した。診断確定後,術後15 日目から一次化学療法(カペシタビンとオキサリプラチン併用化学療法)を開始した。以降,病状の進行に伴い,二次化学療法(ラムシルマブ,パクリタキセル併用),三次化学療法(ニボルマブ),四次化学療法(イリノテカン)を行ったが骨転移が増悪し,治療開始後1 年10 か月で原病死した。 -
二度の再発巣切除により長期生存している直腸癌の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は60 代,女性。上部直腸癌に対して低位前方切除を施行し,pSSN1,Stage Ⅲa であった。術後補助療法としてUFT を施行したが,術後3 年で吻合部近傍再発および骨盤内リンパ節再発となった。複数か所の再発であるため化学療法となり,CAPOX+bevacizumab(Bev),capecitabine単独,FOLFIRI,irinotecan(CPT-11)+S-1 を行った。骨盤内リンパ節再発のみ(後に卵巣転移と診断)が急速に増大したため手術を施行し,R0切除し得た。切除後は2 年で吻合部近傍の再発が顕在化し,化学療法再開となった。CAPOX+Bev,UFT+Leucovorin(LV)+Bev,CPT-11+cetuximab を行いPD となったが,遠隔転移を要さないため手術療法となった。UFT+LV 併用放射線療法後,ハルトマン手術を施行し,R0切除をし得た。原発巣切除後12 年,再発後9 年を経過し,集学的治療により無再発生存している症例を経験した。 -
Nivolumab投与後にHyperprogressive Diseaseを認めた再発胃癌の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。心窩部不快感を主訴に,上部消化管内視鏡検査を施行し胃体中部に大型3 型胃癌を認めた。CT検査で少量の腹水を認めたため,審査腹腔鏡検査を行う方針とした。洗浄腹水細胞診が陽性であり,cT4aN2M1(CY1),cStage Ⅳと診断し,HER2 陽性でありcapecitabine+cisplatin(CDDP)+trastuzumab(XP+HER)を施行した。3 コース施行後の審査腹腔鏡にてCY0 を確認できたため,開腹胃全摘術,D2 リンパ節郭清術を施行した。病理組織学的検査はypT4aN3M0,ypStage ⅢC であり,術後補助化学療法として進行・再発胃癌に準じてXP+HER を継続した。術後4 か月目のCT 検査にて肝転移,肺転移,#16b1latリンパ節再発を認めたため,ramucirumab+paclitaxelを3 コース施行するも転移巣の増大を認めた。三次治療としてnivolumab を開始し,3 コース施行後のCT 検査では肝転移が著明に増大・増加し腹膜播種,腹水も出現し,CA19-9も著増し,PS 3へと低下したためhyperprogressive disease(HPD)と判断した。 -
根治切除不能胆嚢癌の原発巣切除後に化学療法を行い2年6か月以上の生存が得られている1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は閉塞性黄疸を契機に胆嚢癌と診断された60 歳台,女性。審査腹腔鏡にて原発巣近傍に腹膜播種を1 か所認めたが,それ以外には明らかな非治癒因子を認めなかった。一方,内視鏡的な減黄処置を継続するも胆管炎のコントロールに難渋したことから,感染制御目的も兼ねて原発巣切除の方針とし,拡大肝右葉切除術,肝外胆管切除術,リンパ節郭清術,胆管空腸吻合術を施行した。術後は合併症なく退院し,外来にて化学療法を導入・継続することができた。化学療法中も胆管炎に伴うトラブルはなく,診断から2年8か月の段階で外来経過観察中である。 -
原発性小腸癌の臨床病理学的検討
47巻1号(2020);View Description Hide Description2011 年6 月〜2019 年1 月までに当科で手術を行った原発性小腸癌7 例において,臨床病理学的特徴および予後についてretrospectiveに分析した。平均年齢62.9歳,男女比4:3,有症状5 例(71.4%)で,術前正診率28.6%であった。平均腫瘍径5.3 cmで,切除腸管長中央値は25 cmであった。術後病理診断では分化型5 例で,pStageⅡA 3 例,pStageⅡB 3例,pStage ⅢA 1 例であった。再発は4 例に認め,再発形式は局所2 例,リンパ節1 例,肺転移1 例で,生存期間中央値は24.5か月であった。生存例では腸管切除長が長く,すべて辺縁動脈を越えた腸間膜リンパ節郭清が施行されていた。一方,死亡例では高齢,未分化,ly2/ly3,N1 であり,再発例ではリンパ節転移,低分化,ly2/ly3のいずれかの因子が陽性であった。原発性小腸癌では,十分な切除マージンの確保と腸間膜リンパ節郭清を行うことで予後に寄与する可能性がある。 -
S状結腸癌切除後6年目以降に三度の異時性再発を認め切除した1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。57 歳時にStageⅠのS 状結腸癌に対して根治切除術が施行された。術後6 年目に肺,8 年目に後腹膜に異時性再発を来し,それぞれ切除された。今回,術後9 年6か月に右肺底区に増大する結節を認め,右肺下葉部分切除術が施行された。病理学的診断にて大腸癌肺転移と診断された。大腸癌根治切除後5 年以上経過再発例を検索したところ,原発巣 Stage Ⅰ/Ⅱが半数以上を占めていた。本症例のように Stage Ⅰ大腸癌根治切除後であっても遅発性再発が起こり得ることを念頭に置くべきである。 -
化学放射線療法後に会陰部再建を行い切除した進行下部直腸癌の1 例
47巻1号(2020);View Description Hide Description症例は58 歳,女性。1 年前より便失禁,下血を認め,当院に紹介となった。直腸Rb に全周性腫瘍を認めた。子宮および尿道への浸潤,肝・肺に微小な結節影,右鼠径リンパ節に腫大を認めた。人工肛門造設を行った後,まずCapeOX+Bev療法を8 コース実施した。その後,化学放射線療法として計50 Gy照射+S-1 療法を行った。腫瘍の縮小を認め,治療開始から10 か月後に根治手術を施行した。手術は腹会陰式直腸切断術,膣後壁合併切除,子宮全摘,両側付属器摘出術および会陰部再建として左薄筋皮弁術を行った。また,術中は膀胱鏡検査を行い腫瘍の浸潤がないことを確認し,膀胱および尿管は温存した。術後経過良好で,術後22 日目に退院した。退院後は外来にてCapeIRI+Bev療法を施行し,10 コース終了時点で再発を認めていない。また,初診時に認めた肝・肺の微小転移もCT では消失している。全身化学療法,化学放射線療法後に会陰部再建を行うことで根治切除を可能とすることができた。 -
二度の非治癒切除と集学的治療で57か月生存している小腸GIST・腹膜播種の1例
47巻1号(2020);View Description Hide Description進行再発のGISTはimatinibにより予後が比較的良好であるが,肝転移や腹膜播種を有しての非治癒切除では長期生存が困難である。今回,二度の非治癒切除と集学的治療で57 か月生存している症例を経験したので報告する。症例は71歳,男性。前医より腹部膨満・発熱で紹介となった。CT で腹腔内に12 cm 大の腫瘤を認め,小腸腫瘍の診断で手術を施行した。多数の腹膜播種を認め腫瘍のみ切除した。病理診断でGIST・腹膜播種の診断であった。術後2 か月のCT で多発肝転移を認め,imatinibの内服を開始した。一時,PR となったが徐々に増大傾向にあった。内服後3 年7か月で回盲部に播種が出現しsunitinib に変更したが,sunitinib 開始後3 か月で腫瘍による消化管穿孔となり回盲部切除を施行した。現在までsunitinibを継続している。手術で非治癒切除となったが化学療法と手術を組み合わせ,化学療法を長期に行うことで比較的長期生存している症例である。 -
術前化学放射線療法を施行し術後病理学的完全奏効を得た下部進行直腸癌3例の検討
47巻1号(2020);View Description Hide Description当院にて術前化学放射線療法(neoadjuvant chemoradiotherapy: NACRT)を施行し,病理学的完全奏効(pathologicalcomplete response: pCR)を得た下部進行直腸癌3 例を経験した。症例1: 65 歳,男性。2 型病変[anal verge(AV)7cm],T4aN1M0,cStage Ⅲb。NACRTにより,T4aN0M0,ycStageⅡb まで縮小し,化学放射線療法(CRT)後51 日目に腹腔鏡下ハルトマン手術+D3 を施行した。術後31 か月無再発経過中である。症例2: 67 歳,男性。2 型病変(AV 4 cm),T4aN2M0,cStage Ⅲb。NACRTでT4aN1M0,ycStage Ⅲaまで縮小し,CRT 後57 日目に腹腔鏡下直腸切断術+D3を施行した。術後21 か月無再発経過中である。症例3: 83 歳,女性。2 型病変(AV 5 cm),T4aN2M0,cStage Ⅲb。NACRT でT4aN0M0,ycStageⅡb まで縮小し,CRT 後64 日目に腹腔鏡下直腸切断術+D3を施行した。術後16 か月無再発経過中である。3 症例とも良好な経過となっているが,長期予後に関しては今後のさらなる検討が必要であると考える。 -
大腸癌イレウス根治術における感染性合併症と術前栄養の解析
47巻1号(2020);View Description Hide Description大腸癌イレウスは合併症の発生を抑制するために,人工肛門造設やステント留置などの局所治療による消化管減圧後に根治術を行うことが術後合併症のリスク軽減に寄与する。当科で施行された大腸癌イレウスに対して,根治術前の大腸減圧後に根治術を施行した29 例を対象とした。術後感染性合併症に関与する危険因子について多変量解析を行った結果,PNIと手術時間が独立因子として抽出された。感染性合併症陽性群はステントや人工肛門造設などによる減圧前後のPNI 値,CONUT 値の改善度は感染性合併症陰性群に比較して不良な傾向が認められた。減圧方法別にみると人工肛門造設が最もPNI 値の改善度が高かったが,感染性合併症の発生率には有効性を認めなかった。 -
高齢社会における胃癌手術の検討
47巻1号(2020);View Description Hide Description今回われわれは,高齢者胃癌手術の術後合併症の発生と縮小手術の予後に与える影響を検討した。対象は胃癌手術症例805 例で,高齢者,中年者,若年者に分け検討した。胃癌治療ガイドラインに沿ったリンパ節郭清に満たなかった症例が高齢者28.9%,中年者5.3%,若年者0%で,高齢者では縮小手術を行う傾向を認めた。術後合併症発生率は高齢者25.6%,中年者23.0%,若年者13.4%であり,高齢者で高い傾向を認めた。高齢者で,術後合併症の有無で生存率を検討したが差はなかった。縮小手術群と定型手術群に分け生存率を検討したが差はなかった。高齢者では,全身状態を考慮した上で至適リンパ節郭清範囲を定めるべきだと思われた。