癌と化学療法
Volume 47, Issue 8, 2020
Volumes & issues:
-
投稿規定
-
-
-
総説
-
-
転移性脊椎腫瘍―リエゾン治療―
47巻8号(2020);View Description Hide Descriptionがん患者の余命が延長されてきている一方で,骨転移を発症するがん患者の増大も予想される。当院では,2013 年より当院にかかわるすべてのがん患者の脊椎転移を把握するための新たな治療形態(リエゾン治療)を実践している。骨関連事象(skeletal related events: SRE)発生前に脊椎外科医を含めたチームが治療介入することが重要であり,これによって転移性脊椎腫瘍患者のactivities of daily living(ADL)の維持とquality of life(QOL)の向上,そして健康寿命の延伸も期待できると考える。
-
-
特集
-
- がんゲノム医療の診療体制の整備
-
エキスパートパネルの運用とレポート作成
47巻8号(2020);View Description Hide Descriptionゲノム研究の飛躍的な進展により臨床現場で遺伝子解析を行い,診断・治療に必要なゲノム情報を取得するクリニカルシーケンスが2019 年に実臨床でスタートして約1 年が経過した。がんゲノム医療連携病院も多数の施設が登録され,遺伝子解析は日常検査としてより多くの臨床現場に門戸が開かれることとなった。シーケンスデータの解析はバイオインフォマティシャン含む多くの専門家が担当し,ゲノム解析後も多くのステップを経て,最終的に主治医・患者の元へ遺伝子解析結果・推奨治療などが記載されたレポートが返却される。その過程では臨床医のみならず病理医,バイオインフォマティシャン,分子遺伝学やゲノム医療に精通している者など多数の職種の知識が必要となり,まだ自動化でできる部分は多くない。そのなかでわれわれは,molecular tumor board(MTB),clinical tumor board(CTB)という院内独自のフローを構築し,レポート作成に役立てているので,本稿ではそれらを用いたわれわれのレポート作成方法とエキスパートパネルの運用について紹介したい。 -
がんゲノム医療中核拠点病院と連携の取り組み
47巻8号(2020);View Description Hide Description2018 年12 月,わが国では二つの遺伝子パネル検査の薬事承認が認められ,2019 年6 月に保険適用となった。この検査は従来のコンパニオン診断とは違い,得られた結果の高度な解釈が必要となり,どの病院でも行える医療ではない。シーケンス結果はエキスパートパネルと呼ばれる医師,ゲノムシーケンス・分子生物学者,遺伝医療の専門医師などの専門家から構成される会議で解釈される。また,結果に基づく医療に関しては臨床試験への参加が必要になる場合が多く,臨床研究の体制が整っている病院でなければならない。ここまで専門性が求められる医療が実施可能な病院は限られており,国はがんゲノム医療が可能な病院を集約し整備した。一方で,この検査は保険診療で行う医療であり,全国民が地域格差なく受けられるようにしなければならない。特に東北のような地域では,高度医療の集約化と地域医療への均てん化を整備するためにインターネットの新たな活用をしながら遠隔医療システムを開発しなければならず,本稿では東北唯一のがんゲノム医療中核拠点病院の東北大学病院の取り組みを紹介する。 -
二次的所見への対応
47巻8号(2020);View Description Hide Description次世代シークエンシングにより,ゲノム・遺伝情報の解析の量およびスピードが爆発的に増大し,医療の世界にパラダイムシフトを起こした。がん遺伝子パネル検査によって得られる二次的所見は,遺伝医療とがん診療の連携によって適切に取り扱われる必要がある。その取り扱いの指針として,「ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言」が日本医療研究開発機構(AMED)研究「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(AMED 小杉班)によって策定された。患者に開示すべき二次的所見として,米国臨床遺伝学会(ACMG)が推奨している59 遺伝子のリストが公表されているが,わが国の状況に応じた評価の必要がある。 -
保険診療下でのがんゲノム医療
47巻8号(2020);View Description Hide Description2019 年6 月よりがん遺伝子パネル検査が保険適用され,日常診療で実施されるようになった。しかしその適応は,「標準治療がない固形がん患者若しくは標準治療が終了となった固形がん患者(見込みも含む)」であり,諸外国のように初回治療時に検査ができるわけではない。また,がんゲノム医療連携病院を含めたエキスパートパネル実施もがんゲノム医療中核拠点病院の負担になっていることは否めない。われわれは,エキスパートパネルの効率化をめざし支援システムを構築した。今後は,がん遺伝子パネル検査のメリットを最大限に生かし,がん患者によりよい治療を提供するための体制と制度を早急に見直すべきと考える。
-
Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌 肺癌薬物療法の進歩
-
-
-
原著
-
-
抗PD-1 抗体による皮疹発現のリスク因子の探索
47巻8号(2020);View Description Hide Description抗programmed cell death⊖1(PD⊖1)抗体による皮疹は代表的な免疫関連有害事象の一つである。抗PD⊖1 抗体であるニボルマブおよびペムブロリズマブ投与前の患者背景や各種検査値から,皮疹発現に関連するリスク因子について調査した。2016 年2 月~2018 年1月にニボルマブおよびペムブロリズマブが投与された54 例を対象に,抗PD⊖1 抗体による皮疹が発現した群(皮疹発現群)と発現しなかった群(皮疹非発現群)に分類し,患者背景と抗PD⊖1 抗体投与直前の各種検査値を比較した。単変量解析の結果[抗PD⊖1 抗体投与直前の好酸球数(>300/μL)],(p=0.020)で有意な差を認めた。皮疹の有無を従属変数とし,単変量解析にてp<0.2 であった2 項目の[抗PD⊖1 抗体投与直前の好酸球数(>300/μL)],[C反応性蛋白(≦0.14)]と臨床的に皮疹発症に関連がありそうな₄ 項目の[年齢(₆₅ 歳未満),性別(男性),アレルギー歴あり,使用薬剤(ペムブロリズマブ)]を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った結果[抗PD⊖1 抗体投与直前の好酸球数(>300/μL)],[オッズ比: 9.530, 95%信頼区間: 1.260-71.80]で有意な差を認めた。抗PD⊖1 抗体投与前の好酸球数が300/μL を超える症例は,抗PD⊖1 抗体投与時の皮疹発現に関連している可能性が示唆された。 -
HER2 陽性乳癌におけるHER2 遺伝子増幅の程度と治療効果の関連への考察
47巻8号(2020);View Description Hide Description目的: HER2 陽性乳癌に対する術前化学療法におけるpertuzumab 併用の適応症例について考察する。対象: 2014 年1月~2020 年1 月までに術前化学療法を施行したHER2 陽性乳癌27 例を対象に,HER2 遺伝子増幅の程度と治療効果の関連を後方視的に検討した。抗HER2 療法は2018 年12 月までの症例ではtrastuzumab のみを使用し,2019 年1 月以降の症例のうち4 例でpertuzumab を併用した。結果: 組織学的治療効果はGrade 1 が4 例,Grade 2 が12 例,Grade 3 が11 例であった。FISH 法のHER2/CEP17 総シグナル比が高い症例やscore 3+の症例で治療効果が高い傾向があった。考察: pertuzumab併用例でも今回の結果と同様の傾向が報告されており,HER2 高発現症例へのpertuzumab 上乗せ効果が高いと考える。NeoSphere 試験で対象となっていないcT1c 症例への上乗せについては検討の余地があり,自験例の比較からcT1c リンパ節転移陽性の症例への上乗せ効果が示唆された。 -
乳癌脳転移の予後に及ぼす初発転移再発部位とSubtype の影響に関する検討
47巻8号(2020);View Description Hide Description乳癌の脳転移(brain metastasis: BM)の予後は極めて不良で,その病態解明と治療は重要課題である。今回,初発転移再発(first metastasis: FM)部位とsubtype 別にBM の経過と転帰を解析した。対象は,2008 年4月~2018 年12月のBM 35 例で,BM 発症時の平均年齢は51.1 歳で,FM からBM に至る経過および転帰を解析した。初回手術術式は乳房温存26例,切除9例,pathological TNM Stage は0期1例,Ⅰ期4例,Ⅱ期12 例,Ⅲ期12 例,Ⅳ期6 例,subtype はLuminal(L) 8例,L⊖HER₂+(LH)8 例,HER2+(H)8 例,triple⊖negative(TN)11 例であった。FM 部位は,肺・胸膜14例,肝4 例,脳4 例,骨4例,局所・リンパ節(LN)9 例であった。初回手術後からFM までの無再発生存期間(relapse⊖free interval: RFI)中央値は全例21 か月(months: M)で,FM 部位が脳の場合のRFI 中央値は19M で,他部位の20~36Mと差がなかった。FM からBM までの期間(interval between FM and BM: IFB)中央値は全例45M で,L 87M>LH 65M>H 36M>TN 32M で,TN とH が短かった(p=0.0201)。FM 部位が生命危険度high risk(HR)群(n=22)(肺,胸膜,肝)のBM 発症までの期間中央値は24M で,low risk 群(LR)(n=13)(骨,局所,LN)の47M よりも有意に短かった(p=0.0385)。BM 後全生存期間(overall survival: OS)中央値は全例13M で,LH 27M>H 13M>L 10M>TN 5M と,TNの予後が不良であったが(p=0.0112),FM 部位別では差がなかった。BM 後10 年以上生存例が3 例で,LH 1 例,L 2 例で,FM 部位は局所1 例,脳1 例,肝1 例で,2 例が健存であった。BM 後OS に関する多変量解析では,ER(+)[riskratio(RR)=0.290, p=0.0251]とHER₂(+)(RR=0.644,p=0.0413)が有意の予後良好変数で,BM 個数が有意の予後不良変数(RR=1.463,p=0.079)であった。HR,LR 群ともに2 年以内の早期転移再発例ではBM へ進展する可能性が高く,特にHR 群の肺,胸膜,肝への転移再発は早期にBM を発症した。subtype のうちTN がBM までの期間が短く,予後も不良であった。BM の予後は不良であるが治療が奏効し10 年以上生存例もあり,早期発見,早期治療が重要である。特にHR 転移では,早期BM の可能性を念頭に置いて診療に当たる必要がある。 -
当科におけるプラチナ製剤治療後の肺外神経内分泌癌に対するアムルビシン療法の治療成績
47巻8号(2020);View Description Hide Description肺外神経内分泌癌(extrapulmonary neuroendocrine carcinomas: EPNEC)の標準治療は確立されていない。アムルビシン(AMR)療法は再発小細胞肺癌患者に使用されているが,EPNEC に対するAMR の治療成績を報告した研究は少ない。本研究ではEPNEC におけるAMR 療法の有用性と認容性について検討した。2007 年4 月~2019 年3 月に当科で化学療法を行ったEPNEC 患者を対象とした。AMR 療法開始日を起算日として治療成功期間(TTF),最大治療効果,有害事象を検討した。対象患者は43 例であり,うち14 例でAMR 療法を施行した。TTF 中央値は49(20~61)日,PR 1 例,SD 3例,PD 8 例,未評価が2 例であり,病勢制御率は33%であった。Grade 3 以上の有害事象は白血球減少69%,好中球減少62%,発熱性好中球減少が23%などであった。EPNEC に対するAMR 療法は一定の治療効果を認めた。血液毒性は重篤になりやすくG‒CSF などの支持療法が重要と考えた。
-
-
医事
-
-
乳がん化学療法施行患者に対する医師診察前薬剤師面談の効果
47巻8号(2020);View Description Hide Descriptionがん化学療法の患者は強い有害事象のため,深刻な身体的および精神的不安を抱えやすいといえる。薬剤師の専門性を活かした継続的な情報提供は,患者のquality of life(QOL)の向上や効率的な化学療法の施行に結び付く。小山記念病院では,外来化学療法を施行する乳がん患者の有害事象軽減を目的に,薬剤師による医師診察前面談を開始した。治療開始から継続的に介入し,必要であれば医師に支持療法の変更や検査の追加などの提案をした。2016 年1 月~2017 年10 月に外来化学療法を施行した乳がん患者,延べ503 名に診察前面談を行ったところ,薬剤師による処方提案や検査提案などがなされたのは68 件(13.5%)であった。全68 件に対する医師の採用率は95.6%(65/68 件)であり,それらによる有害事象の症状緩和・消失が患者の89.2%(58/65 件)で認められた。このことから,外来化学療法を施行する乳がん患者に対する医師診察前の薬剤師面談とそれに伴う適切な薬学的介入により,がん化学療法による有害事象の早期緩和が期待できるといえる。 -
コメディカル中心の「がん患者応対カンファレンス」の効果
47巻8号(2020);View Description Hide Descriptionコメディカルスタッフは,がん患者から返答に難渋する質問や相談をされるケースがしばしばある。しかし返答内容についてはコメディカルスタッフ個々で様々な対応をしており,適切な返答を議論する場がなかった。当院では,経験年数や職種を問わず適切に返答できるようにするための「がん患者応対カンファレンス」を開催することとなった。今回,石切生喜病院での取り組み,「がん患者応対カンファレンス」の効果について調査を行った。結果,患者の気持ちへの共感や患者の理解度の確認を行うことはコメディカルスタッフで対応可能であるが,余命や治療効果などに関する質問には主治医からの対応がよいと考えられた。しかし,「がん患者応対カンファレンス」でコメディカルスタッフが患者の悩みや情報を共有することは,今後のがん患者応対に役立つことが示唆された。
-
-
症例
-
-
胸髄内転移による両下肢脱力と膀胱直腸障害に化学療法が有効であった小細胞肺癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。1 年9 か月前に骨転移を伴う小細胞肺癌(cT3N3M1b, Stage ⅣA)と診断され,化学療法6 コース後にpartial response を得られた。終了5 か月後に脳転移を認め,全脳照射により多発性脳転移は消失した。さらに5 か月後に左下肢優位の両下肢脱力を生じ,立位保持困難と膀胱直腸障害も出現した。脊髄造影MRI 検査にて第10 胸椎レベルに胸髄内転移を認めた。化学療法1 コース終了時には下肢脱力および膀胱直腸障害は改善し,胸髄内転移病変の縮小が確認された。肺癌の経過中に神経症状が出現することはまれではないが,髄内転移による神経障害は回復が困難なことが多い。今回われわれは,症状出現より早期に診断し化学療法により神経症状の改善が得られた症例を経験したので報告する。 -
眼症状を伴う乳癌脈絡膜転移症例にBevacizumab+Paclitaxel 併用療法が有効であった1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は44 歳,女性。右眼の視力低下を主訴に眼科を受診され,右転移性脈絡膜腫瘍と診断された。3₅ 歳時に左乳癌手術治療歴があり,乳癌の再発が疑われ当科を紹介受診となった。CT にて左腋窩リンパ節,肝転移,肺転移を認めた。超音波下リンパ節針生検標本から病理組織学的検索を行い,乳癌術後再発と診断した。bevacizumab(BV)+paclitaxel(PTX)併用療法を施行し,CT にて転移巣は著明に縮小を認めた。光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)にて脈絡膜転移巣の縮小を確認でき,眼症状も改善した。まれな乳癌脈絡膜転移症例に対して化学療法を行い眼症状が軽快し,OCTで治療効果が追えた1 例を経験したので報告する。 -
化学療法後の乳癌センチネルリンパ節生検における色素法,蛍光法,RI 法を併用したTriple Tracer 法の試み
47巻8号(2020);View Description Hide Description乳癌センチネルリンパ節(SN)同定においては色素法とアイソトープ(RI)法を併用する方法が,どちらかの単独法よりわずかに勝っている報告が多く,併用法が標準的であるが単独法も十分許容できる(乳癌診療ガイドライン2018 年版)。また,当施設では蛍光法と色素法を併用したSN 同定についての検討を行い,同定率100%,組織的感度93.8%と良好な結果を得て,論文報告をしてきた。今回は,色素法,蛍光法,RI 法の₃ 種類を併用したtriple tracer 法によるSN の同定率および精度について臨床的に解析し,これらの結果を踏まえ術前化学療法(neo⊖adjuvant chemotherapy: NAC)を必要とする症例に対して本法による臨床研究を開始し,より精度の高いSN の検査法としての可能性を模索する。 -
肝原発PEComa に対して腹腔鏡下肝切除術を施行した1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は50 歳,女性。検診の腹部超音波検査で15 mm 大の肝腫瘤を指摘され,当院消化器内科を紹介受診となった。腹部CT およびMRI で肝細胞癌を否定できず,肝生検が施行された。血管周囲類上皮細胞腫瘍(perivascular epithelioid celltumor : PEComa)と診断されたが,malignant potential を有するため腹腔鏡下肝亜区域(S3)切除術を施行した。病理組織学的にはPEC の増殖と免疫染色でMelan A およびHMB 45 が陽性で,hepatocyte が陰性であることから肝原発PEComaと診断した。今回われわれは,肝原発PEComa に対し腹腔鏡下肝切除術を施行した1 例を経験したので報告する。 -
全身化学療法後にR0 切除を達成した局所進行切除不能膵腺扁平上皮癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は64 歳,男性。体重減少を主訴に近医を受診した。腹部超音波検査で膵体尾部に腫瘍を指摘され,当院を紹介受診した。腹部造影CT 検査では膵体部に長径45 mm 大の腹腔動脈浸潤を有する腫瘍を認め,切除不能膵体部癌と診断し,化学療法としてgemcitabine+nab‒paclitaxel 療法を5 コース,S‒1 療法を2 コース施行した。腫瘍はCT 上22 mm 大まで縮小を認め切除可能と判断し,膵体尾部切除,左副腎合併切除,腹腔動脈合併切除,門脈合併切除・再建を施行した。病理組織学的診断は腺扁平上皮癌であり,R0 切除が達成され,組織学的治療効果判定はGrade 1b であった。術後16 か月で肺転移,術後18 か月で肝転移を認め,加療開始から33 か月で死亡した。 -
免疫関連有害事象による心囊液貯留を認めた胃癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。術後再発胃癌に対して,四次治療としてニボルマブ単剤療法を開始した。9 コース施行後に体重減少,全身劵怠感を主訴に緊急入院となった。入院後高熱とCRP の上昇を認め,胸部CT で中等量の心囊液を認めたが,メチルプレドニゾロン投与により速やかに軽快した。また,本例は副腎不全を併発していた。過去に免疫関連有害事象(immune⊖related adverse events: ir AE)による心囊液貯留の国内での論文報告はなく認知度が低いため,念頭に置いておくべきir AE の一つとして報告する。 -
局所下部進行直腸癌に対し術前化学放射線療法でcCR となり長期Watch and Wait の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。下部進行直腸癌(肛門縁から3 cm)の診断で術前化学放射線療法を施行した。治療レジメンはテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(80 mg/m2/day,day 1~5),イリノテカン(80₀ mg/m2,day 1)を1 週1コースとし,計4 コース施行した。放射線治療は腫瘍から1 cm の距離までの範囲1.8 Gy/日×25 日間の分割照射を行った。治療後評価を6~7 週目に施行したところ,下部消化管内視鏡検査,注腸造影,胸腹部CT 検査では臨床的完全奏効(clinical complete response: cCR)を認めた。患者の強い希望によりwatch and wait の方針となった。以降,厳重な経過観察を継続し,現在治療後10 年8 か月経過しているがcCR 継続中である。 -
網囊内穿破が疑われた巨大な混合型IPMC に対してGemcitabine+Nab‒Paclitaxel 療法が著効した1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は53 歳,女性。心窩部痛を主訴に前医を受診し主膵管拡張を指摘され,当院紹介となった。腹部造影CT では膵頭部から尾部まで主膵管が拡張し膵頭部には30 mm 大の囊胞性病変を認め,膵体部腹側にも56 mm 大の腫瘤を認めた。ERCP ではVater 乳頭口側の十二指腸への瘻孔形成が疑われた。粘液細胞診と瘻孔部の生検にて膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucin ous carcinoma: IPMC)と診断された。また,PET‒CT では膵体部腹側にFDG の集積を認め,網囊内の播種性結節の可能性もあった。化学療法としてgemcitabine+nab‒paclitaxel(GnP)療法を6 コース行った。化学療法終了後,膵体部腹側の腫瘤影は消失したため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。腹腔洗浄細胞診は陰性で網囊内にも播種は認めず,R0 切除が可能であった。
-
-
特別寄稿
-
- 第53 回 制癌剤適応研究会
-
Nivolumab によるPseudoprogression が疑われた無色素性食道悪性黒色腫の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。流涎・嘔吐・体重減少から食道癌・胃癌の診断となり紹介された。食道から胃噴門直下にかけて2 型腫瘍を認め,内視鏡像・病理所見・全身検索の結果から食道原発の無色素性悪性黒色腫と診断した。広範なリンパ節転移により切除不能と考えnivolumab 単剤での治療を開始したが,2 コース後の評価でprogressive disease と判断し,全身状態の悪化も含めbest supportive care の方針とした。緩和目的のステロイドで全身状態は安定し,治療終了後₆ 週時点で若干の腫瘍縮小を認めた。経過からnivolumab によるimmune⊖related adverse event(irAE)およびpseudoprogression の病態をみていたものと判断した。積極的治療の再開は難しく他院へ転院し,誤嚥性肺炎のため死亡した。食道悪性黒色腫はまれな疾患であり,免疫チェックポイント阻害剤治療に関する報告は乏しい。治療の適応・継続判断に苦慮した症例を経験したので報告する。 -
腹腔内化学療法を施行し長期無再発生存を得た腹膜播種陽性胃癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は32 歳,女性。心窩部不快感を主訴に当科紹介初診となった。上部消化管内視鏡検査で4 型胃癌を認め,腹腔鏡検査で腹膜播種および左側卵巣転移を認めた。腹腔ポートを留置した上,S‒1 内服+ドセタキセル(DTX)腹腔内化学療法(ip)を施行した。2 コース終了後に再度腹腔鏡検査を施行したところ腹膜播種病変は瘢痕化していたが,生検では変性したAE1/AE3 陽性細胞を認めた。左側卵巣腫大の増悪も認めたため全身化学療法を分割DCS 療法に変更し,DTX ip も併用して4 コース施行した。腹腔ポートを利用した細胞診ではCY0,腫瘍マーカーも正常範囲内を維持していたため初回診断から7 か月後に胃亜全摘術,子宮および両側卵巣摘出術を施行した。病理組織学的診断では化学療法の効果は原発巣がGrade 2,左側卵巣はGrade 3 でありR0 手術となった。手術後は術後補助化学療法を施行し,経過とともに投与量や間隔を減らしているが,初回診断から9 年経過して無再発生存中である。 -
ニボルマブ療法により病勢コントロールが可能であった遠隔リンパ節転移を伴う進行胃癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。進行胃癌,L,Less,Type 2,T4a(SE),N2,M1(LYM),H0,P0,cStage Ⅳの診断で,S‒1+シスプラチン併用療法(SP 療法)を開始した。SP 療法3 か月目で転移リンパ節の縮小を認めpartial response(PR)となったが,7 か月目でprogressive disease(PD)となり,二次治療としてラムシルマブ+ナブパクリタキセル併用療法に変更した。SP 療法開始後,転移リンパ節の縮小を認めたが,SP 療法7 か月目でPD となった。上部消化管内視鏡検査では胃原発巣の縮小はなく,輸血を要する腫瘍出血を認めた。一次治療開始から14 か月目で三次治療としてニボルマブ療法に変更したところ,SP 治療3 か月で転移リンパ節の28%の縮小を認め,6 か月目には原発巣も縮小し貧血コントロールが可能となった。その後もニボルマブによる副作用は認めず投与継続が可能であり,SP 治療12 か月目にはPR となり,16 か月目まで病勢のコントロールが可能であった。 -
集学的治療を行ったが予後不良な転帰をたどった直腸内分泌細胞癌の1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。体重減少を主訴に受診し,下部消化管内視鏡検査で下部直腸に3/4 周性の2 型病変を認め,生検では高分化管状腺癌であった。CT では下部直腸に5 cm 超の腫瘍を認め,右側方リンパ節転移を伴っていた。高度局所進行直腸癌と診断し,術前化学療法としてmFOLFOX6 療法を6 コース後に化学放射線療法(35 Gy+S‒1)を追加し,腹腔鏡下腹会陰直腸切断術,右側方リンパ節郭清を施行した。病理組織学的検査において内分泌細胞癌[pT3(A),pN0,M0,pStageⅡa]と診断した。術後4 か月で骨盤内,リンパ節,肺に再発を認め,術後9 か月で死亡した。内分泌細胞癌は生物学的悪性度が非常に高く,予後は不良であるとされている。治療成績の改善のためには,さらなる症例の蓄積と治療方法の確立が望まれる。 -
第9 版大腸癌取扱い規約におけるStage Ⅱ,Stage Ⅲ大腸癌切除症例の予後と術後補助化学療法の検討
47巻8号(2020);View Description Hide Description第9 版大腸癌取扱い規約でStage Ⅱ,Stage Ⅲ(以下,Ⅱ,Ⅲ)はTNM 分類に準じ深達度・リンパ節転移の個数にて細分化された。当科のⅡ,Ⅲ大腸癌切除症例400 例(2007~2014 年)の新規約における予後の比較,術後補助化学療法(以下,補助療法)の関連を検討した。内訳はⅡa/Ⅱb/Ⅱc/Ⅲa/Ⅲb/Ⅲc: 97/68/20/24/124/67 例。補助療法はⅡa/Ⅱb/Ⅱc/Ⅲa/Ⅲb/Ⅲc で19/32/45/66/59/70%に施行され,各病期でその有無による予後を比較した。Ⅱa/Ⅱb/Ⅱc の5 年DSS は97/97/82%,5 年DFS は89/88/76%でⅡc の予後が不良であった。Ⅲa/Ⅲb/Ⅲc の5 年DSS は95/86/57%,5 年DFS は82/77/41%でありⅢc の予後は有意に不良であった。補助療法の有無で有意差が得られたのはⅢb とⅢc のDSS のみであった。Ⅱc の予後はⅢb と同等に悪く,Ⅲa はⅡb と同等によい予後であった。したがって,Ⅱc,Ⅲb,Ⅲc にoxaliplatin を加えた補助療法の施行が検討される。 -
切除不能肝門部胆管癌に対し化学療法先行により治癒切除を施行し得た1 例
47巻8号(2020);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。黄疸を主訴に紹介受診した。腹部造影CT で肝門部胆管に不整な壁肥厚を認め,リンパ節(LN)は肝門部から腹部大動脈周囲にかけて腫大していた。これらのLN はendoscopic ultrasonography(EUS)でも同様の所見を呈し,腫大したNo.1₃LN にfine needle aspiration cytology(FNA)を行い,肝門部胆管癌のLN 転移と診断した。大動脈周囲LN も著明に腫大していることから転移と考え,遠隔LN 転移を伴う切除不能肝門部胆管癌と診断した。ゲムシタビン・シスプラチン療法(GC 療法)を開始したところ,約4 か月で腫瘍マーカーは正常化し,LN も縮小した。GC 療法を計12 サイクル継続して再増悪を認めなかった。胆道鏡検査を行い,肝門部の胆管狭窄は改善していた。切除可能と判断し,手術を施行した。迅速病理組織学的検査でNo.16b1LN の陰性を確認した後,肝左葉尾状葉切除,肝外胆管切除,胆道再建術を行った。pT2aN1(n&a 1 個)M₀,fStage ⅢB と診断し,pR0 であった。術後はS-1 内服による補助化学療法を継続している。 -
大腸癌肝肺転移に対する反復切除の治療成績
47巻8号(2020);View Description Hide Description大腸癌肝肺転移症例において,切除可能な転移巣に対しては手術が良好な予後に寄与することが報告されている。2007 年2 月~2017 年2 月までに,当院で大腸癌肝肺転移に対して反復切除を行った19 例の治療成績についてretrospectiveに検討した。観察期間中央値は69.9 か月であり,計26 回の肝切除と計27 回の肺切除が施行された。最終転移巣切除後の5年生存率は75.1%であり,無再発生存期間中央値は34.7 か月であった。19 例中7 例が再発し,うち4 例が死亡したが,5年以上の長期生存を7 例認めた。単変量解析では,肝肺転移が同時に存在することが予後不良因子として抽出された。本検討では他の報告と比較しても同等の成績が得られており,大腸癌肝肺転移に対する反復切除は長期生存に寄与する可能性が示唆された。