癌と化学療法

Volume 49, Issue 2, 2022
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投稿規定
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総説
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臨床で活用するために―がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020 年版―
49巻2号(2022);View Description
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日本緩和医療学会は2010 年に初めてがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインを発表し,その後,2014 年,2020 年に改訂した。本稿では2020 年版について解説する。作成方法で前版と異なる点は,ごく一部を除いて無作為化比較試験のみを対象にエビデンス評価を行ったことである。28 の臨床疑問に対して推奨がなされているが,内容的には大きく① 鎮痛薬,② オピオイドによる有害作用,③ 特殊な状況での治療の三つに分けられる。大きな推奨の変更点としては,中等度以上の痛みのある患者に対しては,強オピオイドを推奨し(強い推奨),弱オピオイド(トラマドール,コデインなど)は強オピオイドを使用できない時に限って推奨した点(弱い推奨)である。その他,以下のような新たな臨床疑問に対する推奨を行った。1.強オピオイドによっても適切な鎮痛が得られないがん疼痛のある患者に対して,メサドンの投与を推奨する(強い推奨)。2.高度の腎機能障害患者に対して,初回投与のオピオイドとしてフェンタニル注射,ブプレノルフィン注射を使用し,モルヒネとコデインの使用は避ける(強い推奨)。3.高度の痛みのある患者に対して,より早く鎮痛する目的でオピオイド注射の持続投与を行う(強い推奨)。本稿では,がん診療に携わる医療者ががん疼痛治療を行う際に押さえておくべき点について,本ガイドラインの概要を解説する。
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特集
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- がんゲノム医療実現に向けたバイオバンク基盤構築の現状と課題
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わが国のバイオバンク・ネットワークの構築
49巻2号(2022);View Description
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バイオバンクは生物試料のバイオリソースを収集・保管するバイオレポジトリーである。提供者からは信頼の下,幅広い研究への利用の同意を取得して,研究者からの利用申請について適切な審査の上で様々な医学研究に供するものである。近年,ゲノム医療の実現に向けて各国が熾烈な研究競争を繰り広げるなかで,このバイオバンクの重要性が飛躍的に増している。ゲノム医療は患者の体質,すなわちゲノム情報によって層別化して最適化した医療であり,その研究開発には数十万~数千万人の大規模な生体試料,解析により得られるゲノム・オミックス情報,医療情報が必要なためである。世界各国でバイオバンクとそのネットワークの構築が進んでおり,本稿ではバイオバンクについての概論から始めて,わが国におけるバイオバンク・ネットワークの構築について紹介する。 -
がん研究支援に向けたバイオバンクの活動
49巻2号(2022);View Description
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がんの基礎研究から,がんゲノム医療に至る様々な解析基盤として生体試料と情報が重要である。そこで,多数例の健常人やがん患者のDNA,血清などの生体試料と健康・臨床情報,また解析済みゲノム情報などを収集,保管,追跡,提供する健常人コホートならびに疾患バイオバンクの構築が国内外で急速に進んでいる。国内では,東北メディカル・メガバンク,日本多目的コホート研究などの健常人コホート,バイオバンク・ジャパンや国立高度専門医療研究センター・バイオバンクネットワークなどの疾患バイオバンクに加えて,希少がんや小児腫瘍のバイオバンクが構築されている。これらの横断的検索システムの構築も進み,ヒト試料を用いた解析の利活用が進みつつある。 -
京都大学病院クリニカルバイオリソースセンターにおける研究支援
49巻2号(2022);View Description
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バイオバンクは,医学および医療の発展のために欠かせないプラットフォームである。バイオバンクでは,収集・保管される生体試料の品質とそれに紐付く臨床情報の質と量が重要である。また,バイオバンクでは臨床情報を扱うため,個人情報の管理や同意の範囲も重要となる。一方,収集された生体試料が利活用されなければ意味がない。そのため,様々なニーズに対応することも求められる。これらの課題に対応するため,われわれは病院併設型のクリニカルバイオリソースセンター(CBRC)を立ち上げるとともに利活用を促進するための事業を展開している。本稿では,京都大学医学部附属病院CBRC について解説する。 -
オンデマンド型分譲によるがん研究支援―つくばヒト組織バイオバンクセンターの取り組み―
49巻2号(2022);View Description
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がんゲノム医療実現に向けた臨床研究に手術や検査の残余試料が活用されており,生体試料を扱うバイオバンクも急増している。がん患者由来モデル作製などの目的で前向きに採取した試料の需要も多いが,一般的にバイオバンクでは既存試料のみを分譲しており,前向き採取試料は取り扱っていない。筑波大学では,既存試料の分譲と並行してバイオバンクが研究者の要望に合った前向き採取を行うオンデマンド型の分譲を開始した。バイオバンクが試料収集・保存に関する専門性を生かして試料提供のプロトコールを立てること,また試料を採取する医師とユーザーの間を調整して共同研究契約の必要がない分譲による試料提供を行うことで,契約手続きの簡素化を図り円滑な試料提供が実現できる。オンデマンド型分譲は,バイオバンクが主体となって進める前向き採取試料の新しい分譲の形態であり,がん研究をはじめ医学・創薬研究の推進が期待できる。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科腫瘍 子宮頸癌治療の過去,現在,未来
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原著
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進行胃癌治療における審査腹腔鏡の役割
49巻2号(2022);View Description
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目的: 胃癌治療における審査腹腔鏡(staging laparoscopy: SL)の意義について検討する。方法: 当院にて2015 年1 月~2019 年12 月までに,進行胃癌に対してSL を施行した59 例を対象とした。病理組織学的検査所見,短期成績を後方視的に解析した。結果: 59 例中,初回のSL は53 例に施行されていた。検査による合併症は1 例に術後嘔気・嘔吐がみられたのみであった。28 例(47.5%)が洗浄細胞診陽性を含む腹膜播種陽性であった。根治切除術の際に腹膜播種を指摘された症例が2 例あり,腹膜播種診断の偽陰性率は6.7%(2/30)であった。また,初回でP1 またはCY1 と診断された25 例のうち6 例に対して再度SL を行い,5 例がP0CY0 に陰転化し,そのうち4 例に対し根治切除術を施行した。結論: SL は進行胃癌の治療戦略における病期決定という意味で非常に重要かつ安全に施行できる検査である。一方で偽陰性を減らし,より確実な診療戦略における病期決定という意味で非常に重要かつ安全に施行できる検査である。一方で偽陰性を減らし,より確実な診断に基づいた治療を行うために,さらなる精度の向上が必要と考えられた。
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薬事
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外来がん化学療法において薬薬連携に用いるツールの有用性の評価
49巻2号(2022);View Description
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多様化する外来がん化学療法を安全に実施するには,これまで以上に病院薬剤師と保険薬局薬剤師が情報を共有しシームレスな薬物療法を提供する「薬薬連携」の強化が必要不可欠である。外来がん化学療法の薬薬連携については複数報告があるが,病院薬剤師が交付する情報提供ツールの有用性については報告がない。本研究では,質の高い外来がん化学療法を提供するために必要な薬薬連携の向上を目的に,病院薬剤師が交付する副作用発現情報提供書の有用性について検討を行った。副作用発現情報提供書に対する保険薬局の返信率は80% であった。提供した情報は支持療法の内容が最も多かった(55.9%)。保険薬局薬剤師から患者へのテレフォンフォローアップ率は34.8% であり,Grade が高く重篤化が懸念される事例でテレフォンフォローの頻度が高かった。副作用発現情報提供書を用いた薬薬連携は,切れ目のないがん医療の提供の一助となり,より質の高い外来がん化学療法の提供に貢献することが期待できると考えられた。
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症例
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乳腺炎を契機に診断された乳腺紡錘細胞癌の1 切除例
49巻2号(2022);View Description
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症例は51 歳,女性。左乳房にしこりと痛みを自覚し,当院乳腺外来を受診した。超音波検査(US)で左A 領域に境界不明瞭な内部高エコーを伴うlow echoic area を認めた。乳腺膿瘍を疑い抗生剤の内服を開始した。内服後痛みは軽減したが,US でlow echoic area の縮小を認めなかったため吸引細胞診を施行した。膿を吸引し,乳腺炎,乳腺膿瘍と診断した。しかし病理結果で悪性と診断された。左乳房切除,広背筋皮弁による乳房再建術,センチネルリンパ節生検術を施行した。病理組織検査結果で紡錘細胞癌と診断された。術後補助療法でAC 療法を6 コース施行した。術後10 年無再発生存中である。 -
肝内胆管癌と鑑別困難であった乳癌術後8 年の孤立性肝転移再発に対し肝切除術を施行した1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は75歳,女性。67歳時に左乳癌に対し左乳房全摘術を施行され,ホルモン療法を継続しながら近医に通院されていた。経過観察中の腹部超音波検査で肝外側区域に約50mm 大の腫瘤を認め,精査加療目的に当科紹介となった。精査の結果,肝内胆管癌が最も疑われるも転移性肝癌の可能性も否定できず,診断治療目的に腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行した。病理診断結果は乳癌の肝転移であった。術後経過は良好で術後10目に退院となった。退院後は近医でホルモン療法を施行するも肝切除後5か月で多発脳転移を認め15か月で死亡した。
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特別寄稿
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- 第43 回 日本癌局所療法研究会
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免疫染色を併用した細胞診が術前診断に有用であった大腸癌肝転移の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は50代,女性。S 状結腸癌に対してS 状結腸切除術およびD3 リンパ節郭清術の施行歴あり,病理診断はS 状結腸癌,pT3,N0,M0,pStage Ⅱであった。術後capecitabine による補助化学療法を行った。術後7か月目の造影CT で肝S2 の胆管内の小さな腫瘤および胆管拡張を指摘され,経時的に増悪傾向を示した。FDG-PET/CT ではS2 にFDG 異常集積を伴う領域を認め,EOB-MRI では肝S6,S7にも小病変の指摘あり,画像上は肝内胆管癌およびその多発肝内転移を疑う所見であった。しかし,ERCP により行った胆管狭窄部の擦過細胞診検体の免疫染色においてcytokeratin7陰性であったことから,肝内胆管癌よりも大腸癌肝転移を想定し外科的切除の方針とした。手術は肝左葉切除,肝S6およびS7部分切除,胆囊摘出術を施行した。摘出標本において胆管内進展を伴う結節病変,病理組織学的には明瞭な腺腔形成を示す異型腺上皮細胞を認め,S 状結腸癌の肝転移と診断された。特記すべき術後合併症を認めず,術後10日目に退院し,現在術後約1 年が経過し無再発生存中である。 -
転移性肝腫瘍による下大静脈狭窄に対して下大静脈ステント留置が有効であった1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は60 歳台,女性。多発肝転移を伴う盲腸癌[pT4aN1M1(H1),pStage Ⅳ]に対して回盲部切除術,D3 郭清を施行した。肝転移巣に対する集学的治療は希望されず,経過観察されていた。術後1 年6 か月で両下腿浮腫と低Alb 血症が出現し,20 kg の体重増加を認めた。造影CT で転移性肝腫瘍の圧排による肝部下大静脈狭窄を指摘された。下大静脈ステントを留置し,浮腫の改善と体重減少を認めた。静脈ステント留置は低侵襲に行える治療であり,症例によってはQOL 改善が見込め,選択肢になり得ると考えられる。 -
非機能性神経内分泌腫瘍が十二指腸に多発し膵頭十二指腸切除術を施行した1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は42 歳,女性。検診で十二指腸に多発性腫瘍性病変を指摘され,当院へ紹介となった。10 mm 未満の10 個以上の粘膜下腫瘍があり,生検より非機能性神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)と診断した。造影CT ではリンパ節腫大や遠隔転移を認めず,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後病理検査ではNET G2,5 mm 以下を計41 個認め,一部では固有筋層までの浸潤があり,領域リンパ節に転移を3 個認めpT2(m)N1M0,Stage Ⅲと診断した。術後1 年2 か月無再発生存中である。一般に散発性の非機能性NET では,腫瘍径10 mm 未満はリンパ節転移率が低いとされている。しかし自験例のように腫瘍径が小さくても多発する場合はリンパ節転移の可能性があるため,領域リンパ節郭清を伴う術式選択が重要であると考えられた。 -
若年者の十二指腸乳頭部印環細胞癌の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は20代,男性。黄疸を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当院に紹介された。血液検査では直接ビリルビンと肝胆道系酵素の上昇を認め,CT 検査では肝内および肝外胆管の拡張とVater 乳頭部に腫瘤を認め同部に起因する閉塞性黄疸の病態と考えられた。上部消化管内視鏡ではVater 乳頭部に辺縁境界明瞭な隆起性の2型腫瘍が認められ,同部からの生検で悪性所見を認めた。画像上明らかな遠隔転移はなく,高度の局所進行も認めず外科的切除可能と判断し手術を企図した。術前にERBD チューブの挿入が困難であったため,PTCD による減黄術を実施した。手術はChild 変法による亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した(手術時間11 時間16分,出血200mL)。術後ISGPF Grade B の膵液瘻を生じたが,手術から30日目に退院した。切除標本の病理組織学的検査では膵臓への浸潤を伴う印環細胞癌を認め,最終診断は十二指腸乳頭部癌,pT3,pN0,M0,pStage ⅡA となった。手術から約3年6か月が経過し,無再発生存中である。 -
切除不能大腸癌肝転移に対する時間治療を応用した肝動注化学療法
49巻2号(2022);View Description
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前治療にfailure した切除不能大腸癌肝転移に対し時間治療を応用した肝動注化学療法(クロノ肝動注)を行い,その安全性と効果を検討した。切除不能大腸癌肝転移24例を対象に,panitumumab 全身投与を併用したoxaliplatin(L-OHP),5-FU,l-leucovorin(l-LV)によるクロノ肝動注を5日間連日投与,9日間休薬を1 コースとして加療した。Grade 3のadverse effect(AE)発現率は54%(13例)であった。奏効率は63% で肝切除を10例(45%)に施行可能であり(CR 2 例除外),切除例の2 年生存率(58%)は非切除例(20%)より良好であった(p=0.057)。本治療法はAE がやや高率であるものの,second-line 以降でも良好な奏効が得られる治療法と考えられた。 -
当院における85 歳以上の高齢者胃癌に対する外科的治療成績
49巻2号(2022);View Description
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85歳以上の高齢者胃癌に対する外科的治療成績について検討した。男性9例,女性8例で,年齢中央値は86歳であった。全例で併存疾患を有し,7例では重複癌を有していた。術式は幽門側胃切除14例,胃全摘出術が3例であり,腹腔鏡手術例では開腹移行はなかった。術後合併症は8例に生じ,癒着性腸閉塞と腸間膜血腫でそれぞれ1 例が再手術となった。術後在日数は15日であった。死因は原病死2例で,他病死例が4例であった。全生存率は3年63.9%,5年42.6% であった。高齢者胃癌は今後も増加するが,耐術能に個人差が大きく,より詳細な全身状態の評価が重要である。 -
術前化学療法後にロボット支援下に同時切除を施行した胃癌同時性肝転移の1 例
49巻2号(2022);View Description
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術前化学療法施行後にロボット支援下手術を施行し良好な転帰が得られた単発性肝転移を伴うStage Ⅳ胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は70代,男性。肝S3 に転移を伴う進行胃癌(cT4aN+M1,cStage Ⅳ)と診断し,S-1/CDDP(SP)療法を開始した。4コース施行後の評価CT で転移性肝腫瘍は不明瞭化し,原発巣,リンパ節転移巣も著明な縮小を認めていた。この時点で手術を勧めたが本人は希望せず,SP 療法を継続した。計23 コース施行後の評価では肝転移巣は不明瞭化したままであったが,原発巣はやや増大を認めた。再度手術を勧めたところ希望されたため,ロボット支援下幽門側胃切除ならびに肝S3 部分切除術を施行した。長期間にわたる抗癌剤治療の影響で組織の瘢痕化や脆弱化がみられたが,手術支援ロボットの特性を活かしoutermost layer の同定と同層を維持した郭清を進めていくことで出血が少なく過不足のない郭清手技を施行できた。手術時間391 分,出血量は11 mL であった。術後合併症は特になく,術後11 日目に退院となった。術後病理診断では切除肝には悪性所見は認められず,ypT2N1M0,ypStage ⅡA であった。術後12 か月現在,無再発経過中である。 -
胃NEC に対して術前化学療法を行い病理学的完全奏効,長期生存が得られた1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は64 歳,男性。上部消化管内視鏡検査にて前庭部小弯に2 型病変を認め,生検で胃神経内分泌細胞癌(neuroendocrinecarcinoma: NEC)の診断となった。CT 検査で小弯,幽門下リンパ節にbulky な転移を認め,審査腹腔鏡を施行したところ非治癒因子を認めず,術前化学療法の方針とした。S‒1/CDDP(SP)療法を2 コース施行後に開腹幽門側胃切除術,D2 郭清,Roux‒en‒Y 法再建術を施行した。病理診断では病理学的完全奏効の診断であった。術後補助化学療法としてSP 療法を2 コース,S‒1 単剤療法を6 コース施行し,術後8 年経過し無再発生存中である。 -
食道胃接合部神経内分泌癌(NEC)に合併した脾悪性リンパ腫の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は75歳,男性。近医の定期上部消化管内視鏡検査でEGJ 直下に壁肥厚を認め,生検でmuc の診断となり精査加療目的に当院紹介となった。精査の結果,CT で脾臓にLDA を認め,食道胃接合部癌,GE,Siewert Type Ⅱ,GrePostAnt,Type 1,cT2,cN0,cM0,cStage Ⅰ+脾腫瘍の診断となった。開腹胃全摘術+下部食道切除+D2 郭清+ #19,20,110,111,112 郭清,Rou-en-Y 再建+膵体尾部切除+脾摘+胆摘+腸瘻造設を施行した。合併症はGrade Ⅱの膵液漏のみで,術後15日目に退院となった。病理検査で食道胃接合部癌,neuroendocrine carcinoma(NEC),GE,Siewert Type Ⅱ,GrePostAnt,Type 1,pT2(MP),pN1,pM0,pStage ⅡA,脾病変はmalignant lymphoma,large B-cell,diffuse の診断となった。本症例では食道胃接合部癌の予後が不良であるため,胃癌に準じた術後補助化学療法を優先した。医学中央雑誌で「神経内分泌腫瘍」,「悪性リンパ腫」をキーワードに検索した結果,併存した報告はなかった。術後補助化学療法としてS-1 の内服を行い,術後5か月で再発所見は認めていない。脾腫瘍を伴う胃癌では鑑別として悪性リンパ腫を考慮する必要がある。 -
胃GIST に非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(NEWS)を単孔式腹腔鏡手術で実施した1 例
49巻2号(2022);View Description
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胃GIST に対して非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(NEWS)を単孔式腹腔鏡手術で実施した1 例を報告する。症例は52歳,男性。胃GIST 患者。胃体中部小弯に2cm 大の腫瘤を認め,組織生検でGIST と診断された。臍に2.5cm の皮膚切開を作製し,単孔式手技にて手術を開始した。術中内視鏡による誘導下で腫瘍周囲の胃漿膜筋層を切開し,腫瘍部を内反させるように腫瘍外側の漿膜筋層を縫合閉鎖した。内視鏡にて内反された腫瘍を胃壁より切離し,回収した。NEWS は腫瘍を腹腔内へ露出せずに切除できるよう開発された手術であり,術後感染症や腹膜播種リスクの回避が期待されている。一方で単孔式は整容性に優れた手技であり,本手術でも実施可能である。 -
同時性肝転移を認めた胃GIST に対し集学的治療により長期生存が得られた1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は40 歳台,男性。心窩部痛を主訴に近医受診し,胃粘膜下腫瘍の診断で当院紹介となった。多発肝転移・膵浸潤を伴う胃GIST と診断された。イマチニブ治療を開始するも開始17 日目に腫瘍壊死および穿通所見を認め,手術の方針となった。手術は胃局所切除,膵尾部切除,脾臓摘出術を施行した。術中多発肝転移に対してラジオ波焼灼療法(RFA)を施行した。術後よりイマチニブ投与を再開した。術後4 年,肝S4 にイマチニブ耐性病変を認めたためRFA を施行し,局所コントロール後にイマチニブ継続とした。術後8 年目に,肝S4 の前回RFA 施行部位に一致したイマチニブ耐性病変が出現し,肝右葉切除術を施行した。術後16 年現在,イマチニブ継続中であり,無再発生存中である。今回われわれは,同時性肝転移を認めた胃GIST に対し薬物治療を中心に手術,RFA を加えた集学的治療により長期生存が得られた1 例を経験したので報告する。 -
腹腔鏡下結腸癌手術後に小腸間膜に発生した腹腔内デスモイド腫瘍の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は84 歳,男性。下行結腸癌(stage Ⅰ)に対して腹腔鏡下下行結腸切除が施行されていた。術後18 か月後のフォローアップ目的のCT 検査にて,小腸間膜と思われる部位に大きさ約30 mm の腫瘤の出現を認めた。再発の可能性も完全には否定できないため,診断・治療目的に切除の方針とした。開腹すると腫瘍は小腸間膜内に存在しており,小腸部分切除で摘出した。術後,病理組織学的所見および免疫組織化学染色検査から,腹腔内デスモイド腫瘍と診断された。 -
腸重積を契機に発見され腹腔鏡下手術により早期に化学療法に移行し得た盲腸Burkitt’s Lymphoma の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は14 歳,男子中学生。腹痛と下痢を主訴に当院を受診した。超音波検査とCT 検査から回盲部の腸重積と診断され,同日入院となった。内視鏡検査による送気にていったん重積は解除されたが,盲腸に腫瘤性病変を認めた。同部の生検からB‒cell lymphoma が疑われたが確診には至らなかった。経過中,重積の再燃も認めたため,腹腔鏡下回盲部切除を施行した。術後の病理組織学的検索から,Burkitt’s lymphoma と診断され,術後第8 病日に化学療法目的にて小児専門病院に転院となった。術前に悪性リンパ腫が疑われた際は外科的侵襲を最小限にとどめ,迅速に病理組織学的な診断を行い,術後早期の化学療法の導入が重要であると考えられた。 -
脳転移を契機に発見され根治切除で長期予後が得られている直腸癌の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は57歳,男性。頭痛・ふらつきが出現し,脳外科を受診した。画像検査で脳腫瘍の診断で入院した。高次脳機能障害・軽度運動失調がみられ,初診より5日後に腫瘍摘出術を施行した。切除標本と内視鏡検査の病理組織検査で大腸癌の脳転移と診断し当科に紹介された。脳転移以外に遠隔転移はなく,脳腫瘍摘出術1 か月後に腹腔鏡補助下低位前方切除術を施行した。最終診断は上部直腸癌,pT3N0M1a(BRA),Stage Ⅳa であった。その後のMRI 検査で腫瘍摘出腔下方に新規転移巣が出現し,初回手術3 か月後に分割ガンマナイフ照射療法を施行するも増大傾向のため,初回脳腫瘍摘出術から7か月後に再開頭手術を行った。以後,補助化学療法や予防照射は行わず経過観察しているが,34か月経過した現在,再々発なく生存中である。大腸癌の脳転移単独例はまれであるが,根治手術で予後の改善が期待できる貴重な1 例であり報告する。 -
原発巣切除後にXELOX+Bevacizumab 療法が著効した同時性多発肺転移を伴う直腸癌の1 例
49巻2号(2022);View Description
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症例は54 歳,女性。腹部膨満を主訴に当院を受診した。下部内視鏡検査で直腸腫瘍を認め,生検結果はtub2 であった。また,胸腹部CT 検査にて多発肺転移を疑う結節を認めた。切除不能進行直腸癌(Rs),cT3NxM1,PUL2,Stage Ⅳaによる大腸閉塞と診断され,経肛門的に大腸ステントを留置し減圧処置を施行した。第14 病日に腹腔鏡補助下高位前方切除術+D3 リンパ節郭清が施行された。術後は特に合併症も認めず術後18 日目に退院となった。退院後は,XELOX+bevacizumab療法(capecitabine 2,400 mg/日,oxaliplatin 180 mg/日,bevacizumab 300 mg/日)が開始された。4 コース施行後の評価で肺転移巣の著明な縮小を認め,8 コース施行後は肺転移巣は画像上の消失を認め,新規再発病変も認めなかった。抗癌剤加療中にGrade 3 の好中球減少と手指のしびれを認めたため,XELOX+bevacizumab 療法は10 コースで終了し,以後capecitabine(2,400 mg/日)+bevacizumab 療法を9 コース施行し,その後capecitabine 単剤内服となった。現在capecitabine内服療法を13 コース継続し,完全奏効を維持しながら外来通院中である。今回われわれは,化学療法のみで完全奏効を維持している非常にまれな同時性多発肺転移を伴う直腸癌の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。