癌と化学療法

Volume 49, Issue 3, 2022
Volumes & issues:
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総説
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がんゲノム医療時代の遺伝性腫瘍診療
49巻3号(2022);View Description
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がん組織(細胞)のみを検体とするがん遺伝子パネル検査において,いかにして効率的に生殖細胞系列の遺伝子変異(presumed germline pathogenic variant: PGPV)を疑うかは重要な課題である。数%程度は生殖細胞系列のバリアント由来であるため遺伝性腫瘍の診断につながり,患者本人や血縁者の健康管理に役立つ情報になるからである。アリル頻度,遺伝子の種類,生殖細胞系列創始者変異に一致したもの,発症年齢,現病歴や既往歴,がん種,家族歴,腫瘍細胞割合などが手掛かりとなる。検査前にこのような二次的所見を知りたいと考える人は97% を超えるが,PGPV が検出されても確認検査を受ける人は23% 程度にすぎず,これを向上させることが今後の課題である。
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特集
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- ゲノム解析を基盤としたがん免疫の病態解明
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消化器がんにおける免疫逃避機構の多様性
49巻3号(2022);View Description
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ドライバー遺伝子変異蓄積によってがん細胞が発生し,増殖していく過程では宿主免疫監視から逃れる形質も同時に獲得している必要がある。消化器がんにおける免疫逃避機構には,① 免疫系によるネオアンチゲンの認識を変化させるものと,② 免疫微小環境に作用し,活性化した免疫系を抑制あるいは阻害するといった二つの分子機構が知られている。前者については,HLA‒Ⅰの体細胞変異やB2M の体細胞変異が高頻度に起こっていることが知られている。後者については,免疫チェックポイント分子,Treg といった免疫抑制細胞の遊走,代謝の競合的抑制といった機構が報告されている。免疫チェックポイント阻害剤の登場によって,免疫逃避ががん治療における有効な標的であることが明らかになったが,今後は各症例における免疫逃避の分子機構を解明した上で個別化された治療法の開発が必要である。 -
がんゲノム検査とがん免疫療法のクロストーク
49巻3号(2022);View Description
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がんゲノム医療においては免疫チェックポイント阻害剤の適用に関して,neoantigen theory に基づき高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)と遺伝子変異負荷(tumor mutation burden: TMB)を測定することが求められている。MSI検査は,腫瘍組織より得られたDNA からマイクロサテライト領域をPCR 法で増幅し,マイクロサテライト配列の反復回数を測定・比較判定する方法が一般的に利用され,pembrolizumab のコンパニオン診断薬として承認を得ているが,最近はFoundationOne CDx などの遺伝子パネル検査でも測定が可能である。一方,TMB は保険診療で認められている遺伝子パネル検査において1 Mb 当たりの変異数(mut/Mb)で表示され,pembrolizumab では10 mut/Mb 以上が投薬推奨ラインとなっている。 -
がん組織の免疫ゲノムプロファイルによる腫瘍免疫の理解
49巻3号(2022);View Description
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免疫チェックポイント阻害剤の登場でがん治療における免疫の重要性は広く認識されたが,免疫チェックポイント阻害剤単独ではその治療効果に限界があることも事実である。抗CTLA‒4 抗体と抗PD‒1 抗体の併用治療のような免疫チェックポイント阻害剤の併用に加えて化学療法や放射線療法,分子標的薬との併用の開発が進んでいるが,生体に備わる免疫応答がもつ抗腫瘍効果をがん治療に結び付けるためには,それを阻害する免疫抑制性の環境の理解と克服が必要である。本稿では,がん組織の免疫ゲノムプロファイルによる腫瘍免疫の理解について概説する。 -
原発不明がんの遺伝子解析に基づく治療
49巻3号(2022);View Description
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ゲノム解析の進展により原発不明がん(CUP)の治療成績の向上,免疫治療の適応が期待される。われわれは,CUP患者を対象とした遺伝子発現プロファイリング(GEP)による原発巣推定に基づく部位特異的治療とカルボプラチン+パクリタキセルを比較する無作為化第Ⅱ相試験を実施した。CUP 組織のデータベースを用い,CUP に特異的に発現する遺伝子を特定した。そのうちのMIF を標的とする化合物を特定した。CUP 患者を対象にNGS を用いた原発巣推定に基づく部位特異的治療を評価する第Ⅱ相臨床試験を実施し,その可能性を示した。irGEP を含むGEP からCUP に対する免疫チェックポイント阻害薬による治療の可能性を見いだした。同結果に基づき,CUP に対するニボルマブの医師主導治験を実施し良好な成績を得た。 -
肝細胞癌における組織微小環境変化
49巻3号(2022);View Description
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シングルセル解析は個々の細胞の特定,さらには組織微小環境全体の多様性を明らかにし,疾病における細胞間相互作用,特異的マーカー遺伝子の探索,薬物治療抵抗性の制御機構などの研究にとって非常に有用である。最近の技術の進歩により,間質細胞を含んだ多くの癌組織の細胞の観察が可能となった。本稿では,主にシングルセルトランスクリプトーム解析による肝細胞癌の研究例について紹介する。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 骨・軟部腫瘍に対する薬物療法の最前線
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Ⅱ.肉腫に対するNY‒ESO‒1 特異的TCR 遺伝子導入T リンパ球輸注療法
49巻3号(2022);View Description
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骨軟部肉腫の治療において,切除可能例に対しては外科的切除が第一選択の治療法であるが,切除不能・進行例に対しては基本的に薬物療法が第一選択となる。薬物療法ではドキソルビシン(アドリアマイシン)を筆頭に,イホスファミド,トラベクテジン,エリブリン,パゾパニブ,ゲムシタビン+ドセタキセル併用療法などが用いられるがその臨床的効果は限定的であり,より高い有効性と安全性を兼ね備えた薬物療法の開発が期待されている。 近年,免疫チェックポイント阻害薬が開発され,がん免疫療法が脚光を浴びている。肺がん,腎がん,メラノーマなど様々ながん種を適応症として複数の免疫チェックポイント阻害薬が薬事承認されており,臨床応用が急速に進んでいる。一方で,骨軟部肉腫領域では軟部肉腫を対象に抗PD‒1 抗体を使用した臨床試験(SARC028 試験など)が実施されたが,一部の組織型を除き多くの組織型で観察された抗腫瘍効果は他のがん種に対する効果と比較し,見劣りするものであった1)。SARC028試験は,比較的高い奏効率が観察された未分化多形肉腫および脂肪肉腫に対象を限定したexpansion cohort を設定し試験が継続されたが,ASCO で発表されたpreliminaryな結果では奏効率が臨床的に有用と考えられた25% に達しなかったと報告されており,現時点では骨軟部肉腫を対象とした免疫チェックポイント阻害薬の臨床応用は見通しが立っていない状況である。 がん免疫療法には上記免疫チェックポイント阻害薬だけでなく,従来から研究されてきたがんワクチンやサイトカイン製剤なども含まれるが,残念ながら理論上期待されるほどの成果は上がっておらず,開発は遅々として進んでいない2)。そのなかで,エフェクター細胞療法としてのT リンパ球輸注療法が注目されている。なかでも,がん精巣抗原であるNew York esophageal squamouscell carcinoma 1(NY‒ESO‒1)をターゲットとした抗原特異的TCR 遺伝子導入T リンパ球輸注療法の開発が進んでおり,悪性腫瘍のなかでも特に肉腫に対する効果が期待されている。本稿では,がん免疫療法のなかでも特にNY‒ESO‒1 特異的TCR 遺伝子導入T リンパ球輸注療法について,軟部肉腫を対象とした開発状況を解説する。 -
Ⅲ.腱滑膜巨細胞腫に対するCSF1‒R を標的とする薬物療法
49巻3号(2022);View Description
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腱滑膜巨細胞腫(tenosynovial giant cell tumor: TGCT)は,40 歳以下の比較的若年成人の関節内あるいは近傍に発症する良性軟部腫瘍で,やや女性に多いという特徴がある。手指などの小関節に発生する限局型(localizedtype)(図1)と膝などの大関節内・外に広範に浸潤するびまん型(diffuse type)(図2)がある。びまん型は膝関節が最も多く,次いで股・足・肘・肩関節などの大関節およびその周囲に発症する。かつては限局型を腱鞘巨細胞腫,びまん型を色素性絨毛結節性滑膜炎(pigmentedvillonodular synovitis: PVNS)と呼んでいたが,現在はそれぞれ限局型TGCT,びまん型TGCT とされている。良性腫瘍であるが再発率が高く,限局型で4~30%,びまん型で40~60% と報告されている1)。その高い再発率に加えて,びまん型では腫瘍からの繰り返しの出血や腫瘍の骨軟骨への浸潤による関節破壊(図2)によって,関節の機能が損なわれることが臨床的に問題となる。近年,病態としてコロニー刺激因子1(colony‒stimulating factor 1: CSF1)の過剰発現が見いだされ2),それを標的とした薬物療法が開発されてきた3‒9)。本稿では,びまん型TGCT の治療成績と病態,そして最新の薬物療法について概説する。
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原著
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当院における乳癌術後妊娠出産9 例の検討
49巻3号(2022);View Description
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当院の乳癌術後妊娠出産9 例を検討した。手術時年齢は平均31.7(27~37)歳,既婚5 例,未婚4 例(全例術後結婚),pTNM Stage 0~ⅡB,乳房温存手術7 例,乳房切除2 例で,Luminal type 5 例,Luminal‒HER2 type 1 例,HER2 type1 例,triple‒negative(TN)2 例。温存7 例は術後放射線治療を施行した。術後補助療法は8 例投与,無投与1 例。妊娠回数は1~3(平均1.9)回,延べ17 回,出産回数は1~3(平均1.7)回,延べ15 回であった。術後初回出産年齢は平均36歳,初回出産までの平均術後年数は4.3 年であった。出産全体では,出産までの平均術後年数5.4(3~8)年,平均出産年齢38 歳,40 歳以後の出産5 回,最高齢は45 歳で3 児目を出産した。すべて自然妊娠で健常児を出産した。初回術後4~24(平均13.6)年経過し,術後再発3 例で全例生存中である。再発3 例中1 例は温存術後の局所再発で再切除後に2 児を出産し,現在健存している。1 例は術後4 年に妊娠し,妊娠7 か月で肝,骨転移が出現し,妊娠9 か月で出産した。転移巣は内分泌化学療法により奏効と再燃を繰り返し,出産後13 年6 か月の現在も通院治療中である。残りの1 例は術後に2 児を出産した。術後12 年目に腰椎転移再発が出現し,現在治療奏効中である。今回の検討は9 例15 出産と少数ではあるが,(1)Stage0~ⅡB 症例で安全に妊娠出産し得た,(2)術後薬物療法は2~3 年投与し1 年間wash out したが,異常分娩や異常児はなかった,(3)全例自然妊娠で出産最高齢は45 歳である。以上,Stage 0~ⅡB では卵巣機能への影響が少ない術後補助療法の適用により,再発抑制と安全な妊娠・出産の両立が可能と考えられる。
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症例
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妊娠期乳癌で術前化学療法後に手術を施行した1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は37歳,女性。妊娠25週時に右乳房の腫瘤を自覚し前医を受診した。乳房超音波検査にて乳房内に腫瘤と腋窩リンパ節腫大を認め,右乳癌,腋窩リンパ節転移と診断された。妊娠管理が必要であるため,精査加療目的に当科を紹介受診した。妊娠中であるため転移検索は胸部X 線検査と腹部超音波検査のみにて行い,右乳癌,cT2N1M0,Stage ⅡB(ER-,PgR+,HER2-,Ki-67 30%)の診断となった。母体の安全などを総合的に検討し,妊娠継続のままdoxorubicin,cyclophosphamide(AC)療法を2 コース施行後,妊娠35週を待って帝王切開で出産の方針となった。出産後にMRI 検査,PET-CT 検査を施行し,遠隔転移やリンパ節転移は認められなかった。出産から約1 か月後にAC 療法を再開し計4コース施行,術前化学療法(NAC)2 レジメン目の3weekly docetaxel(DTX)4コース完遂後に右乳房全切除術+腋窩郭清術を施行した。術後は放射線療法後,tamoxifen(TAM)+LH-RH agonists の投与を開始したが,germline BRCA2 遺伝子変異陽性でありリスク低減卵管卵巣摘出術を施行したため,以降はLH-RH agonists は中止とした。現在,術後1 年以上を再発なく経過しており,また児は生後より先天性内反足を認めているが,その他に精神・発達遅滞は認めていない。 -
大腸癌検診を契機に診断し外科手術を施行した直腸肛門部悪性黒色腫の1 例
49巻3号(2022);View Description
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直腸肛門部悪性黒色腫(anorectal malignant melanoma: AMM)は予後が極めて悪い比較的まれな疾患である。われわれは,大腸癌検診を契機に診断して外科手術を施行した1 例を経験したので,文献的な考察を交えて報告する。症例は67歳,女性。大腸癌検診で便潜血の異常(2 回法+/+)を指摘され,当院へ紹介された。下部消化管内視鏡検査で肛門縁付近に約1 cm 大の隆起性病変を認め,EMR を施行した。病理組織学的検査で直腸の原発性悪性黒色腫と確定診断し,外科手術を施行した。手術は腹腔鏡補助下に進め,D3 リンパ節郭清を含む腹会陰式直腸切断術を施行した。大腸癌取扱い規約に従い,T1b(1,200μm),N0,P0,H0,M(-),StageⅠ,Cur A と診断した。手術から約2年が経過しているが,無再発生存中である。本症例は早期病変であっても局所再発や遠隔転移再発の可能性があり,慎重な経過観察が必要と考えている。 -
Total Neoadjuvant Therapy 後に薬物療法を追加しWatch and Wait を行った下部進行直腸癌の1 例
49巻3号(2022);View Description
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下部進行直腸癌に対して術前治療により臨床的完全寛解(clinical complete response: cCR)が得られた際に,非手術で経過観察するwatch and wait 戦略(W&W)が欧米を中心に行われている。しかしながら遠隔転移が出現した場合,消失を維持している原発巣に対する治療介入の意義は明らかではない。今回,total neoadjuvant therapy(TNT)後に鼠径リンパ節転移を来したが,薬物療法でcCR が得られW&W を選択した症例を報告する。症例は47歳,女性。直腸癌(Rb-P,cT3N2aM0,cStage Ⅲb)に対して術前治療としてTNT が施行された。TNT により原発巣,腸間膜リンパ節は完全消失したものの両側鼠径リンパ節転移が出現し,FOLFOX+PANI を導入した。薬物療法4か月後に鼠径リンパ節転移は消失しcCR が得られた。W&W を選択し,その後1年9か月無再発生存中である。
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特別寄稿
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- 第43 回 日本癌局所療法研究会
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膀胱瘻を形成したS 状結腸癌に対して術前化学療法後に腹腔鏡手術を施行した1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は60歳台,女性。尿に便が混じることを主訴に来院した。CT では子宮・卵巣に浸潤するS 状結腸腫瘍を認め,膀胱への瘻孔形成を認めた。人工肛門造設後,術前化学療法(NAC)を予定としていたが,治療待機中に腫瘍部穿孔による汎発性腹膜炎を認め,緊急的に腹腔鏡下人工肛門造設術を実施した。その後NAC としてCAPOX 療法・FOLFIRI+panitumumab療法を施行し,腫瘍の縮小を認めたため腹腔鏡下にて後方骨盤内臓全摘術を施行した。瘻孔を含む膀胱は部分切除し,腫瘍部および子宮・両側卵巣を合併切除したが,尿管および残膀胱は温存可能であった。術後経過は問題なく,現在まで再発なく経過している。今回,膀胱瘻を形成したS 状結腸癌に対し化学療法後に腹腔鏡下にて手術を施行し,膀胱機能の温存が可能であった症例を経験したため報告する。 -
腸間膜静脈硬化症を合併した早期上行結腸癌に対し腹腔鏡下結腸亜全摘を要した1 例
49巻3号(2022);View Description
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患者は,皮膚炎に対し70歳まで50年間サンシシ(山梔子)服用歴のある71 歳,女性。腹痛で精査目的の大腸内視鏡検査にて,腸間膜静脈硬化症(MP)疑い所見および長径3cm の上行結腸腫瘍(AT)を認めた。AT に対し内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行されたが腸管壁が著明に線維化しており,穿孔を来したため中断となり外科的切除の方針となった。腹腔鏡下(lap)に観察したところ,盲腸から脾弯曲周囲まで灰白色・鉛管状変化を伴う壁肥厚所見を認めた。下行結腸からS 状結腸にかけては,壁肥厚は軽度でハウストラが確認できた。安全に腸管吻合を行うため,lap 結腸亜全摘および回腸S 状結腸機能的端々吻合を施行した。MP に悪性腫瘍を合併した場合,内視鏡的切除術は線維化により困難であり,外科的手術も縫合不全リスク低減のために大腸拡大切除を要することが多いと考えられる。今回,自験例を含めた論文報告例について考察を含め報告する。 -
肉眼的病変を認めないPagetoid Spread を伴う肛門管癌の1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は54 歳,男性。下血を主訴に近医で下部消化管内視鏡検査にて,肛門管に6 mm 大のポリープを認めEMR を施行された。病理検査にて上皮内のPagetoid spread を伴うadenocarcinoma の診断で,水平断端評価困難のため当院に紹介受診となった。深達度は粘膜内であったため,経肛門的に二度切除したが断端陽性であった。直腸粘膜面および皮膚組織のmapping biopsy を施行し,皮膚には腫瘍進展なく,粘膜生検では病変の進展を認めた。肛門機能の問題から追加切除は困難と判断し,腹会陰式直腸切断術を施行した。術後14 か月無再発生存中である。Pagetoid spread の多くは皮膚病変を伴うが,皮膚病変を認めない症例も報告されており,切除範囲決定のためにmapping biopsy の有用性が唱えられている。肛門管癌の治療に当たる際には本症例も念頭に置き,切除範囲を決定する必要があると考えられた。 -
経肛門的内視鏡下手術が有効であった下部直腸GIST の1 切除例
49巻3号(2022);View Description
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症例は46歳,女性,BMI 36。子宮体癌の術前精査で直腸Rb にgastrointestinal stromal tumor(GIST)を指摘され,子宮体癌術後に手術を計画。BMI 36の高度肥満であり,肛門温存の希望が強かったため経肛門的内視鏡下手術(transanalminimally invasive surgery: TAMIS)を計画した。術前に腫瘍縮小を目的にメシル酸イマチニブ(イマチニブ)を内服するも3か月間で著変を認めなかったためTAMIS を施行した。腫瘍が大きく一部偽被膜を損傷したが,一括切除で腫瘍を摘出した。術後経過は良好で肛門機能温存も可能であった。現在,イマチニブを内服し,2 年間再発兆候は認めていない。高度肥満の直腸Rb 病変は経腹的アプローチ手術を施行すると一般的に人工肛門が必須になる。今回われわれは,TAMIS で肛門温存ができた直腸Rb GIST の1 切除例を経験したので報告する。 -
膵癌肺転移を切除し長期無再発生存中の1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は71 歳,男性。膵頭部癌に対し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除,2 群リンパ節郭清を施行し,外来フォローとなっていた。術後38 か月のCT で左肺下葉に約10 mm 大の腫瘤を認め,PET‒CT 検査で異常集積を認めた。他部位に転移を疑う所見はなく,膵癌術後肺転移もしくは原発性肺癌を疑い,左肺部分切除を施行した。病理組織学的検査で膵癌肺転移と診断された。現在術後9 年となるが,転移再発を認めていない。膵癌による遠隔転移は全身疾患の一部と考えられ,治療は化学療法が主体であり,切除が行われることは極めてまれである。しかし膵癌孤立性肺転移は慎重な検討の上,肺切除されることがある。今回,若干の文献的考察を加え報告する。 -
腹腔鏡下正中弓状靱帯切離術後二期的に膵頭十二指腸切除術を施行した局所進行膵癌の1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は75歳,男性。CT にて固有肝動脈まで浸潤影が広がる膵頭部腫瘍を認め,局所進行膵癌と診断した。gemcitabine+nab-paclitaxel 療法を開始したが間質性肺炎を認めS-1 療法に変更した。初回治療開始から22 か月間,治療効果はSD を維持しconversion surgery を企図した。正中弓状靱帯(MAL)圧迫による腹腔動脈(CA)起始部狭窄と膵頭アーケードの発達を認め,まずは腹腔鏡下MAL 切離術を施行した。合併症なく術後5日で退院し,CT にてCA 起始部の狭窄解除と膵頭アーケードの拡張改善を確認した。MAL 切離後14日目に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,門脈合併切除を施行し,合併症なく術後19日で退院した。MAL 切離と膵頭十二指腸切除術(PD)の二期的手術は,PD 術前の正確な血流評価と適切な術式検討が可能である。二期的手術を実施するに当たり,腹腔鏡下MAL 切離術は低侵襲で有用と考える。 -
切除不能再発噴門部胃癌に伴う通過障害に対して緩和的局所動注化学療法が有効であった1 例
49巻3号(2022);View Description
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食道の腫瘍性狭窄は,通過障害や消化管出血の原因になることが多い。治療により腫瘍縮小が得られ,長期にわたり通過障害の改善と止血を得ることができた。食道ステントやバイパス術などの緩和的処置が困難な症例の治療選択肢の一つとして,動注化学塞栓術は有用であると考えられる。今回,噴門部胃癌による腫瘍性狭窄と出血に対して動注化学塞栓術を実施しQOL 改善を得たため報告する。 -
蝶形骨転移による複視により判明した再発乳癌の1 例
49巻3号(2022);View Description
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眼窩を構成する蝶形骨への転移により複視を来し,再発が判明した乳癌の1 例を経験したため報告する。症例は40歳,女性。左乳癌にて乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検を行い,乳頭腺管癌,pT1pN0,ER(+),PgR(+),HER2(-)であった。術後12 年目に複視が出現し,精査のMRI・PET-CT にて蝶形骨転移による左外転神経麻痺と多発骨転移が判明した。まず,局所治療として蝶形骨に放射線療法(強度変調回転照射: VMAT 36Gy)を行ったが,複視は改善しなかった。その後全身治療を行い,再発判明後2 年6か月が経過しているが現在も生存中である。乳癌の転移症状として眼症状が出現する可能性も念頭に置くべきである。 -
高齢大腸癌症例における術前Modified Glasgow Prognostic Score 評価の有用性
49巻3号(2022);View Description
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背景: 高齢者の癌治療においては,「炎症の程度」および「栄養の状態」を把握することが重要と考えられる。目的: 高齢大腸癌症例での術前modified Glasgow Prognostic score(mGPS)評価の有用性を検討する。対象: 80 歳以上の大腸癌原発巣切除症例89 例を対象とした。方法: 術前mGPS スコア正常群(スコア0)と異常群(スコア1,2)において,臨床病理学的因子(患者関連13 因子,治療関連6 因子,腫瘍関連4 因子)を比較し,併せて長期成績を比較した。結果: 正常群42 例と異常群47 例において,BMI,総蛋白,コリンエステラーゼ,好中球リンパ球比,血小板リンパ球比,小野寺予後栄養指数に有意差を認めた。長期成績(5 年生存率)も正常群76.8%,異常群51.6% と有意差を認めた。結語: 高齢大腸癌症例において,術前に炎症反応鎮静化および栄養状態改善をめざすことが長期予後改善に寄与する可能性があり,mGPS 評価は有用である。 -
陰茎癌術後4 年目に小腸転移による腸閉塞に対して腹腔鏡下イレウス解除術を施行した1 例
49巻3号(2022);View Description
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今回われわれは,腸閉塞を契機に陰茎癌を原発とした転移性小腸癌と診断されたまれな症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。症例は初診時78歳,男性。陰茎癌に対して陰茎部分切除術を施行した。病理組織学的所見はsquamous cell carcinoma,切除断端は陰性であった。初回手術時のStage はT2N0M0,Stage Ⅱであった。術後4年目に腹痛を主訴に来院した。腸閉塞の診断にて内科的治療を行った。12 日間内科的加療を施行したが改善しないため,腹腔鏡下イレウス解除術を施行した。手術所見では腹腔内に腫瘍性病変あり,同部位が閉塞起点であり,腫瘍性病変を含む小腸部分切除術を行った。病理検査にて陰茎癌の小腸転移と診断した。術後腸閉塞は改善し,合併症なく退院となった。退院後は外来で全身化学療法を施行したが,腸閉塞術後181 日目に原病死した。 -
切除不能進行胃癌に対して化学療法で完全奏効が得られ根治切除し得た1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は75 歳,女性。胃体部小弯側後壁に3 型進行胃癌を認め当科紹介となった。精査の結果,多発領域外リンパ節転移を伴う切除不能進行胃癌,cT4aN3M1(#16a1 int,#16b2 lat),cStage Ⅳと診断された。根治切除は不可能と判断し,化学療法(SOX 療法)を開始した。化学療法開始後,主病変および転移リンパ節は著明に縮小し,7 コース投与時点でconversionsurgery によるR0 切除が可能と判断し,手術加療を行った。手術は胃亜全摘術D2 郭清,傍大動脈リンパ節郭清を行った。摘出標本を病理検査に提出したが,主病変・郭清リンパ節を含めて残存腫瘍成分を認めず,病理学的完全奏効が得られていた。術後51 日目より術後補助化学療法としてS‒1 内服を開始したが,術後約5 か月現在無再発で経過している。 -
大腸癌術後縫合不全治療方法と治療成績の検討
49巻3号(2022);View Description
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背景: 大腸癌術後縫合不全は予後を悪化されるといわれている。当院における縫合不全後の治療方法での短期および長期成績を比較検討した。対象と方法: 2011 年1 月~2018 年12 月までの間に当院で大腸癌手術を行い,術後縫合不全となった33 例について再手術群と保存治療群について後方視的に検討した。結果: 再手術群は21 例(64%),保存治療群は12 例(36%)であった。保存治療群では初回手術でdiverting stoma を造設している症例が有意に多かった。術後在院日数中央値は,再手術群:保存治療群=51 日:42.5 日で,保存治療群で短縮の傾向であった。Stage Ⅱ/Ⅲ症例において,保存治療群は再手術群と比較して,無再発生存期間と全生存期間のいずれも有意に予後不良であった(p<0.01)。総括: 大腸癌術後縫合不全に対して保存治療は再手術と比較して在院日数を短縮する可能性があるものの,予後不良と関連する可能性が示唆された。 -
肛門管癌CRT 後の肛門周囲皮膚浸潤を伴う腫瘍再増大に対し緩和目的に直腸切断術および大殿筋筋膜皮弁を用いた会陰再建を行った1 例
49巻3号(2022);View Description
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症例は85歳,女性。肛門周囲皮膚のただれを主訴に受診し,精査にて肛門扁平上皮癌(cT3N1aM0,cStage ⅢC)の診断でmitomycin C/capecitabine を併用した化学放射線療法(54Gy/30Fr)が行われた。いったんは腫瘍の縮小を認めたが,6か月後に原発巣の再増大と広範な肛門周囲皮膚浸潤および傍大動脈リンパ節転移の出現を認めた。座位困難,排便時の疼痛,出血などの局所症状が強く根治性はないが,症状緩和目的に腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術および大殿筋筋膜皮弁形成術(V-Y flap)を施行した。術後,肛門痛は消失し,ADL の改善を認めた。退院後は化学療法が可能な状態まで回復したため,術後7か月現在,化学療法を継続している。肛門扁平上皮癌に対して化学放射線療法が行われたが,遠隔転移を伴う局所症状が強い腫瘍再増大に対して症状緩和目的のsalvage 手術によりADL の改善を得た1 例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。 -
腹腔鏡下膵切除後難治性膵液瘻に対してTrafermin® が有効であった1 例
49巻3号(2022);View Description
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膵液瘻は膵切除後の重篤な合併症の一つであり,多くは保存的に改善するが,時に難治性となり治療に難渋することがある。今回われわれは,典型的治療に抵抗性を示した膵尾部切除後難治性膵液瘻に対して,ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor: bFGF)を主成分としたTrafermin®(フィブラストスプレー®)が著効した症例を経験した。症例は60 歳,男性。膵体部腫瘤に対して腹腔鏡下脾温存膵尾部切除術後約3 か月に及ぶ難治性膵液瘻に対してTrafermin® を50μg/日ドレナージチューブから瘻孔内に注入すると,約1 週間で瘻孔閉鎖に至った。Trafermin® は膵切除後の難治性膵液瘻に対して新たな治療戦略の一つになると考えられたため,文献的考察を加え報告する。 -
切除不能肝門部胆管癌症例に行った門脈塞栓術とS‒1 により4 年生存を認めた1 例
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右門脈塞栓術後,術中に門脈臍部(UP)浸潤が確認され,切除不能となった肝門部胆管癌症例に対し最少量のS-1 投与により,4年以上生存した症例を報告する。患者は64歳,男性。HbA1c 上昇と肝機能異常を指摘され当院に緊急入院し,精査にて右肝管優位の肝門部胆管癌と診断された。名古屋大学に手術を要請し右門脈塞栓術を施行し,切除を企画したが,UP の立ち上がりから内側縁にかけて肉眼的浸潤を伴っており,非切除と判断された。患者の希望により,S-1(50 mg/day)単独療法の方針となった。投与後,約3か月でALP が正常化し,約9か月後にはステントチューブが逸脱し,胆管の拡張も消失した。その後,仕事復帰までADL が回復した。約2年2か月後,有害事象によりS-1 内服を中止した。中止後約1年1 か月で再びCA19-9,ALP が再上昇したためS-1 内服を再開した。一時腹痛と発熱で食事困難となったが軽快した。数値は正常値となるも自宅にて死亡していた。切除不能な肝門部胆管癌症例でも,少量の抗癌剤で長期にわたり良好なコントロールを得る症例が存在する。 -
直腸,胃,咽頭,食道,小腸の同異時性重複癌の1 例
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症例は71 歳,男性。便潜血陽性のため前医を受診した。直腸癌(Rs)と診断し,腹腔鏡下低位前方切除術を施行した。直腸癌術後3 か月目には胃前庭部後壁に胃癌を認め,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した。直腸癌術後2 年目に肝S4 に転移性肝癌を認め,肝S4 部分切除術を施行した。直腸癌術後3 年目には食道癌と下咽頭癌に対し放射線化学療法を施行した。直腸癌術後5 年目には小腸癌・下行結腸浸潤に対し,小腸部分切除術およびHartmann 手術を施行した。直腸癌術後5年6 か月目には腰椎転移に対して放射線療法,食道癌に対してESD を施行した。直腸癌術後6 年目にPET‒CT 検査で気管右側リンパ節転移再発,腰椎転移,骨盤内再発を認め,現在化学療法中である。5 年以内に異なる5 臓器に及ぶ同異時性重複癌を発症した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
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訂正とお詫び
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