薬理と治療
2010, 38巻Suppl 1
Volumes & issues:
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日本臨床試験研究会雑誌
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第1回日本臨床試験研究会学術集会2010 in 東京OPEN DISCUSSIONこれからの臨床試験・臨床研究:この研究会は何をめざすか
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description
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扉・目次
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日本臨床試験研究会雑誌
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シンポジウム 1 ● PGx の進歩UGT1A1 遺伝子検査キットの開発
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Descriptionイリノテカン塩酸塩水和物(以下イリノテカン)はカンプトテシンの誘導体で,日本で開発された抗がん剤である。現在世界中で高い評価を受けており,とくに欧米では大腸がんの化学療法においては不可欠な薬剤となっている。イリノテカンは DNA の複製に関与するトポイソメラーゼⅠの作用を抑制することにより強い抗腫瘍作用を示し,「切れ味がシャープ」という言葉で形容されるほどよく効く。その一方で,白血球減少や下痢などの重篤な副作用を引き起こすことがあり,ときとして致死的な経過をたどることが問題視されてきた。イリノテカンの代謝(図1 )には,UDP グルクロン酸転移酵素(uridinediphosphate glucuronosyltransferase,UGT)の分子種の一つである UGT1A1 が関与しており,UGT の活性低下の原因となっている遺伝子多型をもつ患者においては重篤副作用の発現率が高いことが明らかになってきた1,2)。そこでわれわれは,イリノテカンの代謝と重篤副作用発現に深く関与するとされている UGT1A1*28 (*28),UGT1A1*6 (*6)およびUGT1A1*27(*27)を判定するキットを開発し体外診断用医薬品として申請した。その後に承認されたキット「インベーダーUGT1A1 アッセイ」は,*27が除かれ*28 と*6 を判定するものとなった。 -
シンポジウム 1 ● PGx の進歩UGT1A1 検査を用いた増量試験のデザイン
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description遺伝子多型を診断するキットの登場で,薬物代謝酵素に関わる遺伝子多型が特定できると,血中薬物濃度について「ワイルド,ヘテロ,ホモ」に順序のあるサブグループが存在することが予想される。CPT-11 では UGT1A1*28 や*6 が知られており,UGT1A1*28 のホモ群(*28/*28)は日本人が欧米人11%より少なく,UGT1A1*6 のホモ群(*6/*6),ヘテロ群(-/*6)はそれぞれ 2%,18%と欧米人より多いと報告されている1,2)。また,重篤な有害事象発現と UGT1A1*28 や*6 の遺伝子多型の関連が国内の試験結果から示されており,代謝物の AUC 比(SN-38G/SN-38)においても顕著な低下があることが報告されている(表1 )3~5)。なお,UGT1A1 において,ワイルド,ヘテロ,ホモは以下のような分類となる(表2 )。ところで,CPT-11 の添付文書には「B 法:イリノテカン塩酸塩水和物として,通常,成人に 1 日 1 回,150 mg/m2 を 2 週間間隔で 2~3 回点滴静注し,少なくとも 3 週間休薬する。これを 1クールとして,投与を繰り返す」とある。そこで,既承認薬であるが,胃癌(手術不能または再発)および結腸・直腸癌(手術不能または再発)を対象のB 法について,あらためて第Ⅰ相試験として遺伝子多型に基づいた用量の設定が計画された。 -
シンポジウム 1 ● PGx の進歩PGx 情報に基づく薬剤治療の普及に向けた課題
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Descriptionゲノム薬理学(pharmacogenomics:PGx)の医薬品開発への利用については,近年国際的にも活発な検討が行われているが,最近では,イリノテカンとUGT1A1,ワーファリンと VKORC1 および CYP2C9等の個別事例が集積されつつあり,PGx をどのように薬剤治療に応用していくべきであるのかに関し,具体的な事例に基づく検討が可能となってきている。しかしながら,臨床現場において,PGx 情報に基づく薬剤治療を普及させるためには,まだいくつかの課題があると考えているので,それらの点について,私見を述べることとしたい。 -
シンポジウム 1 ● PGx の進歩医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項(暫定版)
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description新薬の開発において,ファーマコゲノミクスに関する研究は,有効性の向上,重篤副作用の回避等の臨床上の有用な知見が得られると期待され,全世界で積極的に取り組まれている。このファーマコゲノミクス検討を普及させ,研究成果をさらに医薬品開発に取り入れやすくするため,日本製薬工業協会 医薬品評価委員会(以下,「製薬協」)では,製薬企業や医療現場の環境整備を図る目的で「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項」(以下,「考慮すべき事項」)を作成した。本口演ではこの概要を紹介する。 -
シンポジウム 1 ● PGx の進歩新薬開発における PGx の展望
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description英国の Peter Harper は 2008 年の著書で,日本は人類遺伝学がとくに弱い国であると述べている。これには「genetics」の訳語と概念の問題がある。「遺伝学」のもととなっている英語は「genetics」であるが,これは国際的に「heredity と variation の科学」と定義されている。ところが,日本の「遺伝学」は,訳語の問題もあり「遺伝の科学」ととらえられがちで,「variation:多様性」の概念が抜け落ちている。遺伝学の訳語の問題については最近,日本人類遺伝学会が用語の改訂を発表し,研究者やそれ以外の人々に遺伝学上の概念を正しくとらえるように促した(http://jshg.jp/)。遺伝学の定義だけではなく,突然変異,変異,遺伝子型,対立遺伝子,遺伝子座など遺伝学の基本的概念の把握を困難にする訳語が多かったのである。実際に日本において弱いのは variation の部分であり,heredity の部分は必ずしも弱くはない。それは,日本において遺伝病の優れた分子的研究が数多く発表されていることをみてもわかる。しかし,遺伝学は heredity だけではなく variation も対象とする科学である。われわれには遺伝学が heredity の科学であると考える傾向が強いので,遺伝学が弱いと言われても,われわれにはよく理解できないのである。variation を取り扱う分野として統計学がある。統計学はもともと遺伝学から発生した科学であり,同じような内容をもつ。この 2 つ,とくに variationの科学が脆弱であることは日本の特徴である。 -
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シンポジウム 2 ● 研究者主導臨床試験の支援をどうするか東大病院における研究者主導臨床試験の支援体制整備
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description東大病院では,平成 13 年 4 月に文部科学省予算化により,従来の治験管理センターを改組して,治験以外の自主臨床試験(研究者主導臨床試験)をも支援する組織として臨床試験部を設置した。平成22 年 4 月にはさらに臨床試験部を改組して臨床研究支援センターを設置し,多施設共同研究の研究事務局をも支援することを可能にした。本稿では,東大病院の自主臨床試験に対する支援のポリシーとこれまでの整備状況を述べる。キーワードは ICHGCPと step-by-step である。 -
シンポジウム 2 ● 研究者主導臨床試験の支援をどうするか臨床研究情報センター(TRI)における臨床研究支援の現状と課題
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description臨床研究情報センター(TRI)は,文部科学省と神戸市により,全国のトランスレーショナルリサーチ(TR)を推進・支援するための拠点として 2002年に設置された。TRI では,臨床研究の体系的な基盤整備を目的として,がん,脳卒中,冠動脈疾患,再生医療分野,PET 検診や遺伝子解析研究等の幅広い分野で,現在 53 試験,累計約 110 試験を包括的に推進・管理している。2004 年以降文部科学省がんトランスレーショナルリサーチ事業に採択された11 課題で,綿密な進捗管理を実施し,2 つの治験実施に至っている。2008 年から現在まで,文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」において,全国の橋渡し研究の支援を行う 7 拠点機関の整備や拠点間のネットワーク形成をサポートする機関としての役割を任っており,本プログラム期間内に各拠点で少なくとも 2 つの医師主導治験を開始できることを目標にしている。2009 年 12 月現在,すでに 1 拠点では 1 治験が進行中であり,別の拠点でも治験届が提出された(2010 年 6 月現在,3 拠点で各 1 治験進行中)。TRI では従来のプロトコル作成支援,データセンター業務だけでなく,特許戦略,資金,研究組織,成果発表等のさまざまな観点でチームによる支援を実施してきた。これらの成果をふまえ,今日は TRIの活動を報告するとともに,今後の展望について述べる。 -
シンポジウム 2 ● 研究者主導臨床試験の支援をどうするかデータマネジメントを医師の視点から見た経験から
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description私は1987年に筑波大学医学専門学群を卒業し,7年間の泌尿器科研修の後,8年間東京大学疫学生物統計学教室と薬剤疫学講座でデータ管理と臨床試験の方法論を学んだ。その後,筑波大学腎泌尿器外科講師として臨床試験に携わり,2008年9月から京都大学薬剤疫学分野に異動し,臨床研究の方法論や実践について研究と教育を行っている。筑波大学での研修中であった1992年10月に1週間ヨーロッパのEORTC(European Organization of Research andTreatment for Cancer)のデータセンターを見学した。 -
シンポジウム 2 ● 研究者主導臨床試験の支援をどうするか生物統計家の実践の試み
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description筆者は,2003 年より東京大学内にて統計のコンサルテーションを始め,医学研究者とともに研究活動を行っている。その経験をもとに,生物統計家はどのように振る舞うべきか? ということを論じていきたい。 -
シンポジウム 2 ● 研究者主導臨床試験の支援をどうするか試験実施計画書の作成支援
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide Description治験によってわが国の臨床試験実施体制は整備が進んだが,研究者主導臨床試験(臨床研究)は,相変わらず資金不足や慢性的な人員不足に悩まされている。「臨床研究に関する倫理指針」の全部改正によって一見整備が進んだように見えるが,臨床スタッフの減少もあり,臨床試験を適切に計画・実施しようとすればするほど,研究者(医師)の負担はさらに増えている。当院では,未承認または適応外の医薬品・医療機器を用いた医師主導治験や高度医療評価制度下での臨床試験,承認薬を用いた研究者主導臨床試験等,多くの試験が行われている。われわれ臨床試験専門職は支援業務として,またみずからが共同研究者として試験実施計画書の作成に関わっているが,実際に関与できる試験数には限界がある。このため,ある一定以上の質を担保しつつ,効率的に,スピーディーに試験実施計画書を作成できるかが重要となる。とくに,トランスレーショナルリサーチが多く行われている当院の特徴から,早期開発フェーズの試験をより早く開始して結果を出す必要があり,試験実施計画書作成に費やせる時間は多くない。今回,演者が所属する探索医療センターが試験実施計画書を作成する医師を支援する実際の方法を紹介し,そのなかで用いているツールや仕組みの利点・欠点について述べる。また,今後臨床研究コーディネーター(CRC)やコメディカルらが試験実施計画書を作成できるようになるためのトレーニングについても触れる。 -
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Original Articles 高度医療評価制度を用いた大規模第Ⅲ相がん臨床試験への取り組み
38巻Suppl 1(2010);View Description Hide DescriptionBackground This is the first attempt to conduct a large-scale phaseⅢ oncology trial usingthe Evaluation System of Investigational Medical Care(ESIMeC).Methods The study design is a randomized phaseⅡ / Ⅲ trial comparing administrationroutes of carboplatin either intravenously(IV)or intraperitoneally(IP)in combination withweekly administration of paclitaxel for ovarian cancer patients. Target accrual is 746. Both IPcarboplatin and weekly paclitaxel have not been approved for national insurance coverage inJapan.Results Because of the expensive drug cost, it was first assumed impossible to conduct thetrial if the study chair is responsible for purchasing the investigational drugs from the limitedresearch grant or the patients have to pay for the investigational drugs without insurancecoverage. Therefore, we negotiated with the pharmaceutical companies including genericmakers to supply the investigational drugs with free of charge. The duration from initial consultationto the Ministry of Health, Labor, and Welfare to the finial approval to conduct thetrial using ESIMeC was 8 months.Conclusion The ESIMeC appears to be an efficient system as the official evaluation processof investigator-initiated, non-indication directed clinical trials, which manifestly requirequality control of the trials. However, cost coverage for the investigational medicine or techniqueremains as an important issue to be resolved in the future, especially in large phaseⅢoncology trials.(Jpn Pharmacol Ther 2010;38 suppl 1:S59-64) -
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