治療学

Volume 40, Issue 5, 2006
Volumes & issues:
-
扉・目次
-
-
-
序説
-
- セプシス
-
-
特集
-
-
セプシスの病態
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
セプシス(敗血症)は,重症感染症に対する複雑な全身の反応からもたらされる「臨床的症候群」である。そのため,全身性炎症と広範囲に及ぶ組織の傷害が特徴であり,この全身性炎症は,SIRS(systemic inflammatory response syndrome)という概念で捉えられている。そして,この SIRS に関しては,さまざまな物質(サイトカインや toll-like receptors:TLRs など)の関与が指摘され,それぞれに研究・報告がなされているが,実際の臨床現場ではまったく役に立たない。とくに,このセプシスから多臓器機能障害(MODS)に陥ったときに,臨床的に経験する DIC,ARDS などは,これら SIRS に関連する物質をターゲットとした臨床医療としては,唯一 APC(活性化プロテイン C)による治療効果の報告があるだけで,それ以外はすべて動物実験レベルまでの,いわゆる「夢の治療」であろう。これは,ヒトにみられるセプシスの病態を実験動物でなかなか再現できないところからきていると思われる。本稿では,筆者が経験した「臨床症例」をもとに,「臨床現場で役に立つ」と考えるセプシスの病態について解説してみたい。 -
セプシスの疫学
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
米国では毎年約 50 万人のセプシスが発症しており,すべての死因の中で第 10 位に位置する1)。また 1 年間に要する医療費総額は約 167億ドルにのぼるとされ2),近年セプシスの疫学調査や,治療成績の改善をめざす動きが活発になっている3)。本稿ではこれらのデータをもとに,セプシスの頻度,細菌学的特徴,そして予後に影響を与える因子について概説する。 -
セプシスにおける遺伝子多型
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
現在ではヒトゲノム多様性解析プロジェクトや疾患遺伝子プロジェクトなど種々の遺伝子多型検索が行われ,その知見も指数関数的に増大してきた。また,独立行政法人文部科学省リーディングプロジェクト「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」は,バイオバンクへ約 30 万人の DNA および血清試料を集め,それらを利用して single nucleotide polymorphism(SNP:遺伝子の個人差)と薬剤の効果,副作用などの関係を明らかにしたり,病気との関係を調べたりするものでオーダーメイド医療実現の基盤を構築する試みも始められている。すでにセプシスとサイトカインについては他で解説しているので1,2),ここではセプシスとセプシスに関連するレセプターや細胞内伝達物質の遺伝子多型との関連とその意義について概説する。 -
真菌によるセプシス
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
真菌症としてはカンジダ症,アスペルギルス症およびクリプトコックス症がもっとも多い疾患であるが,実際に真菌血症としてセプシスの原因となるものの多くは,カンジダ症である。またきわめてまれではあるが,血液悪性腫瘍患者の好中球減少時にアスペルギルス血症が経験される。本稿ではカンジダ血症およびアスペルギルス血症の病態および診断・治療を概説する。 -
グラム陽性球菌によるセプシス
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
グラム陽性球菌によるセプシスが問題となる場合,その多くは耐性菌によるセプシスである。とくに MRSA,PRSP,VRE によるセプシスは,早期の治療法によって死亡率に差が出ることから,適切な抗菌薬投与が重要である。 -
バンコマイシン耐性腸球菌によるセプシス
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
VRE とは,MRSA 治療における切り札的存在であるバンコマイシン(VCM)に耐性を獲得した腸球菌属の総称であり,1988 年に英国で1),本邦では 1996 年にはじめて分離された2)。VREは保有する耐性遺伝子により,表 1 のように分類される。VCM は細菌細胞壁成分ペプチドグリカンのペンタペプチド末端を構成するDalanyl-D-alanine に直接結合することにより,細胞壁合成を阻害する。Enterococcus gallinarum,Enterococcus casseliflavus,Enterococcus flavescensは染色体上に vanC1,vanC2,vanC3 の遺伝子を有しており,ペンタプチド末端が D-alanyl-D-serine となっているため,VCM の結合親和性は弱く,耐性度は低いが自然耐性を有している。その他に vanD,vanE 型も報告されているが,非常にまれであり,院内感染対策上問題となるのは,トランスポゾン上に存在し,高度耐性となる vanA,vanB 型である。 -
グラム陰性菌によるセプシス
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
セプシスの病態の本態は感染による高サイトカイン血症にある。グラム陰性菌感染症においてサイトカインを産生誘導するもっとも重要な物質は,グラム陰性菌の外膜に存在するリポポリサッカライド(LPS)である。LPS はエンドトキシン(Et)として免疫系を賦活化するとともに,循環器系,呼吸器系,血液凝固系,内分泌系,神経系などに直接的・間接的に作用し,発熱,Et ショック,多臓器不全などを惹起する1)。ここではグラム陰性菌によるセプシスの病態を疫学,LPS の体内動態,toll like receptor(TLR)に焦点を当てて概説する。 -
嫌気性菌によるセプシスは存在するか
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
嫌気性菌検査は,技術と手間がかかるだけでなく,時間と費用もかかるため,最近の医療経済事情から,敬遠される傾向が強くなっている1)。各種の感染症治療のガイドラインのなかでも,嫌気性菌感染症が疑われる場合には,嫌気性菌感染症の臨床的な特徴を知ったうえで,最適な抗菌薬を選択すべきであると記載されていることも多い。これは非常に同意できるうえに納得できる意見であるが,現実的にはそのような対応をすることはかなり困難であるといわざるを得ない。 -
カテーテル関連性血流感染とセプシス
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)留置に関連した感染症(catheterrelatedinfection)のうち,血流感染は本特集の「セプシス」そのものであり,「セプシス」の主要な要因であることもよく知られている。しかし,catheter-related infection は,その呼称・概念・定義などが明確になっていない部分が多い。また一般に,catheter-related infection は「カテーテルを抜去すれば感染症状が消失するため治療は不要である」との概念で捉えられていたが,「セプシス」としての考えを導入すると,catheter-related infection から進展する全身性感染症も考えなくてはならないと思われる。 - 新しいセプシス診断
-
-
2 SLP(silk-worm larvae plasma)テスト
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
SLP は,絹を作るカイコの血漿を意味する。カイコが微生物に感染するとマユが黒く変色してしまう現象を利用して,微生物感染の診断試薬として作り上げられたものが SLP テストである。われわれは,血漿系における測定について検討を行ってきた。本稿では,SLP テストのセプシス診断試薬としての可能性について紹介する。 -
3 リアルタイム PCR を応用したセプシス原因病原体迅速同定法
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
セプシスにおいて,原因病原体に対して有効な抗菌薬を早期に適切に使用することは治療の基本であることはいうまでもない。起因菌が確定しない状況における広域スペクトラム抗菌薬の使用が必要な場合もあるが,その濫用は,施設内における耐性菌の増加を助長する懸念がある。1990 年代初頭に発生した多剤耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus:MRSA)問題の教訓を得て予防的抗菌薬の適正使用に関しては,一定の成果が得られているが,セプシス治療における原因病原体の追究に関しては,画期的な手法の確立が望まれている。早期診断,早期起因菌同定,早期治療は多くの新規療法が提唱されている今日でもセプシス治療の根幹である。 -
セプシスにおける抗菌薬治療:De-escalating 療法
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
早期からの適切な抗菌薬治療は,ICU 重症感染患者では死亡率を減少させることが報告されている。最初に不適切な抗菌薬を選択した場合,培養結果により適切な抗菌薬に変更したとしてもすでに遅く,予後は不良である。そのためsevere sepsis 患者では最初からすべての推定細菌をカバーする広域抗菌薬を選択することが必要である。さらに 48~72 時間後に細菌培養の結果から抗菌薬の再評価を行い,可能なら狭域抗菌薬レジメに変更し,細菌の抗菌薬耐性化を最小限とする(de-escalating strategy)。ICU 重症感染患者では抗菌薬耐性化は予後を不良とし,コストや入院期間の延長につながることが報告されている。 -
セプシス患者における血糖管理
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
sepsis(以下,従来の「敗血症」と区別するためセプシスとよぶ)は,病原微生物による直接的侵襲,およびこれに対する生体反応としての過剰な炎症性メディエータ産生が相乗的に作用する結果生じる病態で,急性肺損傷(acutelung injury:ALI)/急性呼吸促迫症候群(acuterespiratory distress syndrome:ARDS)などの臓器機能障害を高率に併発する。セプシスの治療に関しては近年大きな進歩がみられ,2004 年には,はじめて複数学会協賛による国際診療ガイドラインが公表されている(表 1)1)。本稿では,このガイドラインでも触れられている血糖管理につき,その診療上の重要性と理論的背景を解説する。 -
セプシスにおけるステロイド治療―古い薬に対する新たな概念―
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
セプシス(sepsis)が感染症に起因する全身性炎症反応症候群(systemic inflammatoryresponse syndrome:SIRS)と定義されたのは1992 年である1)。合成ステロイドの開発により1940 年代にはステロイドが臨床応用されており,セプシス治療においてもステロイドのさまざまなトライアルが行われてきた。かつてはショックに対してルーティンに行われていたメチルプレドニゾロン大量療法も,1995 年にはセプシス患者の生命予後を改善しないことが指摘され2),近年はセプシスへのグルココルチコイド(GC)投与は縮小傾向にあった。これに対し,2004 年に公表された Surviving Sepsis Campaignguidelines3()セプシス救命ガイドライン)は,大量メチルプレドニゾロン療法を否定する一方で,2002 年に JAMA に掲載された Annaneの報告4)などから septic shock における少量GC 投与を肯定し,セプシスに合併する副腎機能不全5)という視点を再起させた。GC 投与における,その適応,タイミング,投与量,投与期間の臨床研究は,現在もさまざまな施設で継続されている。基礎研究においてもステロイド受容体やその細胞内情報伝達機構の解析が分子レベルで進み,今後はよりいっそう,セプシス病態における詳細なシグナル解析も行われるであろう。本稿では GC の細胞内情報伝達を整理するとともに,Surviving SepsisCampaign guidelines に照らしてセプシスにおける GC の役割を再考したい。 -
セプシスに対するポリミキシン B固定化ファイバー(PMX-DHP)治療の有用性
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
セプシス治療の原則は,①感染巣,原因に対する治療対策,②主要臓器保護対策,③各種メディエータ対策,があげられる。セプシス治療におけるポリミキシン B 固定化カラム(PMX:トレミキシン,東レ・メディカル)の位置づけは,③のメディエータ対策であろう。PMX は1994 年エンドトキシン吸着療法として健康保険収載となり,下記の基準ア)からウ)のいずれにも該当する患者に対して行った場合に算定される。ア)エンドトキシン血症であるもの,またはグラム陰性菌感染症が疑われるもの。イ)SIRS(systemic inflammatory responsesyndrome)1)であるもの。SIRS とは次の①~④のうち 2 項目以上を同時に満たすもの。①体温が 38℃ 以上または 36℃ 未満,②心拍数が 90 回/分以上,③呼吸数が 20 回/分以上または PaCO2が 32 mmHg 未満,④ 白血球数が12,000/μL 以上もしくは 4,000/μL 未満または杆状核好中球が 10%以上。ウ)昇圧薬を必要とする敗血症性ショックであるもの。ただし,肝障害が重篤化したもの(総ビリルビン 10 mg/dL 以上かつヘパプラスチンテスト 40%以下であるもの)を除く。このような適応基準に準じて一般臨床において幅広く使用されている PMX 治療であるが,その臨床的有効性や効果発現機序に関してはまだ controversial な点が多い。 -
セプシスに対する持続的血液濾過透析(CHDF)の有用性
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
近年,敗血症(セプシス)は感染によって引き起こされた全身性炎症反応症候群(systemicinflammatory response syndrome:SIRS)と定義され1),その発症に免疫担当細胞から過剰に産生されたサイトカインが深く関与していることが広く認識されるようになった2,3)。すなわち,感染に対して過剰に産生された炎症性サイトカインが血中に流入して高サイトカイン血症となり,発熱,頻脈,頻呼吸,白血球増多などの全身性炎症反応を引き起こす。この状態が SIRSであり,SIRS が重症化,遷延化することにより,各種のメディエータ・カスケードや好中球,凝固系が活性化され,その結果,ショックや多臓器不全へ進展すると考えられている2~5)。一方,近年,炎症性サイトカインに拮抗すべく産生された抗炎症性サイトカインが優位となると,代償性抗炎症反応症候群(compensated antiinflammatoryresponse syndrome:CARS)となり,免疫麻痺(immunoparalysis)を引き起こすことが注目されている6,7)。免疫麻痺の状態に陥ると,感染のコントロールが困難となるばかりでなく,新たな感染症を発症し,その結果重症セプシスから多臓器不全へ進展し,予後不良となる。われわれは PMMA(polymethyl-methacrylate)膜ヘモフィルターを用いた持続的血液濾過透析(PMMA-CHDF)が,おもに吸着の原理で血中から各種のサイトカインを効率よく,しかも持続的に除去可能であることを報告してきた8~12)。そして,PMMA-CHDF を施行することにより血中サイトカイン濃度が低下することを報告した8,9)。さらに,この PMMA-CHDF による血中サイトカイン濃度の低下が,肺酸素化能の改善や組織酸素代謝の改善,細胞障害度の改善と有意の相関を示し,PMMA-CHDF がARDS(成人呼吸促迫症候群)や重症急性膵炎,セプシスなどの高サイトカイン血症に起因する各種病態に対する治療法として有効であることを報告してきた10~12)。本稿ではセプシスに対する PMMA-CHDF の効果をわれわれのデータを示して概説する。 -
-
-
座談会
-
-
-
症例
-
-
悪性リンパ腫患者で Trichoderma longibrachiatumによる口内炎より生じた全身性真菌症の 1 例
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
深在性・侵襲性真菌症は好中球減少期の造血器悪性腫瘍患者に発症する致死的感染症であり,アスペルギルス症とカンジダ症がそのほとんどを占める。しかし,近年,抗真菌薬に対して低感受性の真菌によるまれな感染症がみうけられる1)。今回,われわれはその一つである ITCZ 耐性トリコデルマによる口内炎から生じた全身性真菌症のセプシス症例を経験したので報告する2)。 -
MSSA による蜂窩織炎から敗血症性塞栓に至ったHIV 感染症の 1 症例
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
48 歳,男性。1995 年に HIV 感染症と診断されていたが,2000 年より受診を中断していた。右側頭部の腫脹,熱感で当科を受診し,蜂窩織炎の診断で入院。CEZの点滴治療にて右側頭部の所見は軽快したが,敗血症性塞栓(septic emboli)へ進展し解熱軽快まで 4 週間以上を要した。
-
-
治療の歴史
-
-
セプシス患者に対する栄養管理
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
さまざまな臓器機能のサポート技術・強力な抗菌薬の開発が進んだ今日でも,セプシスと続発する多臓器不全は,いまだ死亡率が高く治療に難渋する病態である。セプシスの治療は,感染巣のコントロールを中心に重要臓器機能の保護とサポートからなり,栄養療法も重要な治療法の一つとして認識されてきた。しかし,セプシスにおける栄養療法のガイドラインは,実はいまだ確立していない。2004 年に始まった米国集中治療医学会を中心とした SepsisSurviving Campaign でも,血糖管理の重要性については言及されているものの栄養管理法についてはふれていないし,米国静脈経腸栄養学会のガイドラインにもその記述はない。実際,セプシスという症候群がカバーする病態は,非常に多岐にわたり,それぞれの病態・病期によって最適な栄養療法も異なると考えられる。その中にあって,欧州静脈経腸栄養学会の Basics in Clinical Nutrition 第 3 版では,セプシスにおける基本的な栄養管理法について述べている。本稿では,セプシスにおける栄養療法の位置づけの変遷(図 1)と現段階での適切な栄養療法のありかたについて概説する。
-
-
DI室Q&A
-
-
抗菌薬使用開始時におけるloading dose(負荷投与)の必要性について
40巻5号(2006);View Description
Hide Description
感染症治療においては,症状の重篤化を防ぎ,速やかな治療効果を得るために,早期に充実した治療を行うことが必要となる。抗菌薬を使用するにあたっては,適切な薬剤選択に加えて,適切な用法用量で用いることも大切である。薬物は,おもに腎排泄や肝代謝によって血中から消失するが,消失の遅い薬剤では,維持量で投与を始めると,薬物血中濃度が治療濃度に到達するまでに数日を要してしまう。これらの薬剤で薬物血中濃度を速やかに治療濃度に到達させるために実施されるのが「loading dose(負荷投与)」で,治療初期の 1 日量や 1 回量を維持量よりも増量することを意味する(図 1)。テイコプラニンやフルコナゾール(ホスフルコナゾールの活性代謝物)は血中からの消失が遅い薬剤なので,速やかかつ十分に効果を発揮させるため,負荷投与を実施することが必要になる。以下に,負荷投与が必要とされる薬物について,その特徴や投与方法を紹介する。
-
-
suggestion
-
-