治療学
Volume 40, Issue 8, 2006
Volumes & issues:
-
扉・目次
-
-
-
序説
-
- アルドステロン
-
-
特集
-
-
アルドステロンの生化学と生理作用
40巻8号(2006);View Description Hide Descriptionアルドステロンはコレステロールを前駆体として副腎皮質に局在する 6 種類の酵素によって合成される。生体におけるアルドステロンの産生はアンジオテンシン II(Ang II),カリウムイオン(K+)ACTH によって制御されている。アルドステロンのもっとも重要な生理作用は水・電解質作用であり,体液の恒常性の維持に関わっている。その作用は鉱質コルチコイド受容体を介する核内分子機構(ゲノム作用)によるが,近年非ゲノム作用に関しても注目されている。 -
アルドステロンと腎臓
40巻8号(2006);View Description Hide Descriptionアルドステロンは従来,腎尿細管における電解質(Na,K)代謝および細胞外液量の調節がそのおもな作用と考えられてきた。しかし抗アルドステロン薬を用いた大規模臨床試験である RALES(Randomized Aldactone EvaluationStudy)1)や EPHESUS(Eplerenone Post-AcuteMyocardial Infarction Heart Failure Efficacy andSurvival Study)2)によって,抗アルドステロン薬が心不全の生命予後を有意に改善することが報告され,近年アルドステロンの臓器障害因子としての重要性が再認識されてきた。本稿では,アルドステロンによる腎臓への作用について,尿細管での電解質代謝に関する古典的な生理作用と腎障害に関する最近の知見を中心に概説する。 -
アルドステロンと心臓
40巻8号(2006);View Description Hide DescriptionRAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)が心臓血管系に作用することが,種々の RAAS 阻害薬により明らかになってきた。とくに心不全における RAAS は,心不全治療を考えるうえで交感神経系と並んで重要な役割を担っている。これらの心臓における RAASに関する研究は,アンジオテンシン II を中心とした臨床および基礎研究が従来多くなされてきたが,近年アルドステロンに注目が集まるようになってきた。この理由として従来から知られている腎臓における Na 再吸収を促進する役割とは別に,心臓血管局所においてアルドステロン産生系が存在すること,および心臓血管にアルドステロンが結合するミネラルコルチコイド受容体が存在することが明らかになってきたことがあげられる。また二つの大規模臨床試験において,心臓でアルドステロンがなんらかの役割を演じていることを示唆する結果が発表された1,2)。RALES 試験では,心不全患者においてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるスピロノラクトンの投与により,心不全死および突然死を約 30%減少させた1)。次に,より選択的なミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるエプレレノンを用いた大規模臨床試験では,左心機能低下を有した急性心筋梗塞患者において生存率が改善し,心不全悪化による入院率も低下した2)。これらの基礎的検討および臨床的検討から,心臓におけるアルドステロンの役割が注目されていると同時に,詳細なメカニズム解明が進められている。 -
アルドステロンと血管
40巻8号(2006);View Description Hide Description心血管系におけるレニン- アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系が心血管系のリモデリングに重要な役割を演じていることはよく知られているが,とくに最近アルドステロンに注目が集まっている。アルドステロンの心・血管系への作用を考えるうえで重要な点は,副腎から産生された循環血中のアルドステロンのみならず,血管や心臓などの局所において生合成されたアルドステロンが,オートクリンあるいはパラクリン的に心血管組織に直接作用していることである。アルドステロンが標的臓器に作用するには,大きく二つの作用経路が存在する。一つは,受動的に細胞質に取り込まれたホルモン(ステロイドホルモン)が細胞質に存在する親和性の高い受容体(MR)と結合し,形成されたホルモン-受容体結合体が核内移行し,標的遺伝子上流の特異的塩基配列に結合することが必要である。これら一連の受容体-転写活性を介するアルドステロンの作用,すなわちゲノム作用とは別に,数秒から数分単位のきわめて短時間で生じ,従来は MR を介さないといわれた非ゲノム作用がある。本稿では,MR の血管系における分布とアルドステロンのゲノム作用,非ゲノム作用と血管への作用について概説する。 -
アルドステロンと酸化ストレス
40巻8号(2006);View Description Hide Descriptionアルドステロンは従来,腎遠位尿細管(集合管)のミネラルコルチコイド受容体に作用する電解質調節因子と考えられていた。しかし,RALES(Randomized Aldactone EvaluationStudy)1)をはじめとするアルドステロンに対する最新の研究により,その強力な心血管ならびに腎組織への障害作用が明らかとなったことから,アルドステロンを含めたレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系として臓器,血管障害に関与していることが示唆されている。本稿ではおもにアルドステロンの腎障害作用,とくに酸化ストレスとの関連を中心としてわれわれの最近の知見をまじえて概説したい。 -
アルドステロンと肥満
40巻8号(2006);View Description Hide Description近年,心血管系リスクホルモンとしてのアルドステロンの役割が注目を集めている。アルドステロンが過剰に産生される原発性アルドステロン症患者では本態性高血圧症患者に比べ,蛋白尿や心血管系イベントの率も高いという1,2)。肥満高血圧にアルドステロンが関与することはすでに 1981 年 Tuck ら3)により報告されている。近年,脂肪細胞が単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく,レプチン,アディポネクチン,アンジオテンシノーゲン(AGT)をはじめ種々の生理活性物質(アディポサイトカイン)を産生・分泌することが明らかにされ,肥満の病態を分子レベルでとらえられるようになってきた。後述するアルドステロン分泌刺激因子もこうした因子の一つと想定されている4)。本稿では,肥満高血圧ならびにそれに伴う臓器障害におけるアルドステロンの役割と抗アルドステロン薬の有用性,脂肪細胞由来アルドステロン分泌刺激因子の関与の可能性などについて,われわれの教室の知見も交えて概説したい。 -
アルドステロン・ブレイクスルーとは
40巻8号(2006);View Description Hide Description従来「アルドステロン・ブレイクスルー」は「アルドステロン・エスケープ」と呼称されてきた。しかしながら,「アルドステロン・エスケープ」には二つの概念があり,①アルドステロンの腎ナトリウム代謝作用に関する場合と,②アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与による血中アルドステロン値の抑制低下を意味する場合である。前者はアルドステロンの腎でのNa 再吸収の「エスケープ」現象であり,アルドステロンを動物に投与すると NaCl 再吸収が腎で起こるが,一定以上には再吸収されず,それ以上は Na 利尿が生じてくる現象を指している。原発性アルドステロン症では必ずしも浮腫は生じないが,それにはこの現象が関与していることが示唆されている。一方の ACEI 投与下における場合は,アンジオテンシン II 低下による影響からの「エスケープ」であり,意味合いが異なっている。この混同もあって,後者のACEI 投与下でのエスケープ現象については「アルドステロン・ブレイクスルー」と呼称するようになっている。近年,ACEI が高血圧を中心に広く使用されている。また最近,アンジオテンシン II 受容体阻害薬(ARB)がこれに勝るとも劣らず使用頻度が増えている。さらにアルドステロン拮抗薬の有用性を示す臨床研究が報告されるなど,これらの状況において,アルドステロン・ブレイクスルーの臨床的意義が再び問い直されている。 -
心不全とアルドステロン受容体拮抗薬―EBM を中心に
40巻8号(2006);View Description Hide Description心不全において,アルドステロンがその病態形成の重要な位置を占めることは古くからいわれている。また最近の論文では,正常範囲の血清アルドステロン値であっても,将来の高血圧の発生リスクになりうることも示され,アルドステロンの重要性が再認識されている1)。心不全では,アンジオテンシン II のみならずアルドステロンの作用を抑制することが,心不全の予後に良い影響を与えるか否かが問題であったが,昨今の大規模臨床介入試験によりそれが証明された2~4)。アルドステロン受容体拮抗薬は,基本的には K 保持性利尿薬として認識されている。同薬剤により利尿が増えて心不全を改善させた可能性はあるが,それを超える効果,つまり,アルドステロン受容体拮抗薬が心血管系に直接作用した可能性は否定できない。むしろ,その効果のほうが重要であるとする意見がある。本稿では,アルドステロン受容体拮抗薬を用いた三つの大規模臨床介入試験,つまり,RALES(Randomized Aldactone EvaluationStudy),EPHESUS(Eplerenone Post-AcuteMyocordial Infarction Heart Failure EfficacySurvival Study),4E(Eplerenone, Enalapril andEplerenone/Enalapril Combination Therapy inPatients with Left Ventricular Hypertrophy)の結果を概説し,その心不全における効果をまとめてみたい。 -
高血圧とアルドステロン受容体拮抗薬
40巻8号(2006);View Description Hide Description原発性アルドステロン症でも明らかなように,アルドステロン分泌の過剰は高血圧をきたす。一方,本態性高血圧においてアルドステロンが重要な役割を果たしているか否かについては議論のあるところである。アルドステロンには血圧とは独立した心血管系臓器障害の作用のあることが示されており,アルドステロン拮抗薬の心血管系臓器保護作用が注目されてきている。アルドステロン拮抗薬であるスピロノラクトンは半世紀の歴史をもつが,心不全の治療薬のほかに,降圧薬としても用いられている。最近ではより選択性の高いアルドステロン拮抗薬であるエプレレノンも登場し,心不全や高血圧の治療に用いられようとしている。ここでは高血圧とアルドステロンならびに降圧薬としてのアルドステロン拮抗薬について概説を試みる。 -
-
見逃されている原発性アルドステロン症
40巻8号(2006);View Description Hide Description高血圧は日本の成人においてもっとも頻度の高い疾患であり,各種脳・心血管合併症をもたらす。高齢化が進むわが国では,現在患者数3500 万人とも推計され,高血圧を早期に診断し,心血管病の発症を阻止することがきわめて重要な課題となっている。高血圧患者の約 90%を占めるのは種々の因子が関与する原因不明の本態性高血圧である。それ以外の特定の原因による高血圧を二次性高血圧といい,その頻度は5~10%とされている。腎実質性高血圧が大半と考えられていたが,近年,内分泌性高血圧,とくに原発性アルドステロン症が高頻度に存在することが報告されてきている。原発性アルドステロン症の主症状は単に高血圧のみであることが多く,見逃されやすい。高血圧診療では頻度の高い原発性アルドステロン症の可能性をつねに考えることが重要である。 -
副腎静脈血サンプリングの実際
40巻8号(2006);View Description Hide Description副腎静脈血サンプリングはカテーテルを用いた手技であり,その操作にはある程度の習熟が必要である。右副腎静脈に関しては,細い静脈が下大静脈という太い静脈へ直接開口するという解剖学的特性からか,左副腎静脈より難しい。副腎静脈サンプリングの成功には副腎静脈の解剖に関する知識と適切なカテーテルの選択が重要である。副腎静脈に関する症例ごとの解剖学的情報を術前に知ることができれば,カテーテル操作に無駄がなくなり,検査の効率が向上する。造影CT では左右の副腎静脈の評価が可能であり,サンプリングにおいて役に立つ解剖学的情報を得ることができる。 -
腹腔鏡下副腎摘除術とラジオ波による副腎腫瘍焼灼術
40巻8号(2006);View Description Hide Descriptionわが国においては 1990 年代前半に胆* 摘出を皮切りに始まった腹腔鏡手術であるが,一般的な副腎腫瘍の大きさに比して手術創の非常に大きかった副腎腫瘍の手術に関しては,手術手技の開発は比較的早く始まっていた。現在では,副腎腫瘍に対しての腹腔鏡下手術は標準術式として確立され,疾患や既往の状況に応じて,さまざまな工夫ができるようになってきている1)。本稿では,原発性アルドステロン症の手術に関する特殊性も含めて,副腎腫瘍に対する腹腔鏡下手術に関して解説を加えるとともに,低侵襲治療の一つとして今後試みられていくであろう副腎腫瘍に対するラジオ波焼灼術についても述べることとする。
-
-
治療のピットフォール
-
-
偽性アルドステロン症:強ミノ C や甘草を含む漢方薬は使われていないか
40巻8号(2006);View Description Hide Description四肢脱力感,高血圧,低カリウム血症,と原発性アルドステロン症を思わせる症状で受診したが,血中,尿中アルドステロンを測定しても低値であり,腹部 CT でも副腎腫瘍は見当たらない,こんな経験はないであろうか。よくよく聞いてみると他病院で慢性肝疾患の治療中であったり,漢方薬を飲んでいることなどが判明し,なるほどと思うこともある。ここでは偽性アルドステロン症の具体例,成因などについて概説する。
-
-
座談会
-
- アルドステロン
-
-
新しい治療
-
-
選択的アルドステロン受容体拮抗薬:エプレレノン
40巻8号(2006);View Description Hide Descriptionスピロノラクトンは 1957 年に米国 G. D. サール社において開発された。スピロノラクトンはアルドステロン受容体拮抗作用と同時に,プロゲステロンおよびアンドロゲン受容体に対しても親和性を有するため,内分泌系の副作用を伴い,臨床上やや使いにくい面がある。一方,エプレレノンはチバ・ガイギー社(現ノバルティス社)において開発された化合物で,その 9 位,11 位にエポキシ基を有し,プロゲステロンおよびアンドロゲン受容体に対する親和性が低く,アルドステロン受容体への選択性が高い(図 1)。
-
-
症例
-
-
片側性多発副腎皮質微小結節の 1 例
40巻8号(2006);View Description Hide Description片側性多発副腎皮質微小結節(unilateral multipleadrenocortical micronodules:UMN)は,原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)の原因疾患として報告されたもっとも新しい病型である1)。UMN の臨床所見は特発性アルドステロン症(idiopathichyperaldosteronism:IHA)に酷似するが,アルドステロン過剰分泌の原因となっている片側副腎を全摘することで,高血圧と低レニン性高アルドステロン血症の治癒が期待できる。本疾患の発見は,副腎画像検査を行い副腎腫瘍の有無で PA の原因疾患の鑑別治療方針を決定するという従来の診断体系を見直す契機となった。本稿では UMN の第 1 例目の症例の臨床経過と検査所見を紹介する。 -
片側の非機能性副腎腫瘍を伴う特発性アルドステロン症の 1 例
40巻8号(2006);View Description Hide Description内分泌性高血圧の代表である原発性アルドステロン症(PA)では,アルドステロン高値が独立した心血管系疾患の危険因子であることから,早期診断および治療が本症の予後決定に重要である。片側性のアルドステロン産生腺腫(APA)による PA は手術により治癒可能であるが,両側性副腎過形成によるPA は特発性アルドステロン症(IHA)とよばれ,薬物治療が原則である。今回われわれは,画像検査で片側性副腎腫瘍を認めた PA で,副腎静脈サンプリング(AVS)により IHA と診断した症例を報告する。
-
-
治療の歴史
-
-
アルドステロン研究の 50 年
40巻8号(2006);View Description Hide Description「アルドステロン研究の 50 年」の首題に関連し,これまで 2,3 のレビューを書いたので,なるべく重複を避けアルドステロン研究の発展史を記述してみたい。副腎がどのような生理的機能を果たしているかについての知見が得られるようになったのは,19 世紀半ばになってからである。この歴史的変遷の背景にはミネラロコルチコイドの存在を示唆する次のような裏面史が隠れている。
-
-
DI 室Q&A
-
-
抗アルドステロン薬の副作用
40巻8号(2006);View Description Hide Description現在,わが国で市販されている抗アルドステロン薬は,経口用のスピロノラクトンと注射用のカンレノ酸カリウムの 2 剤である。カンレノ酸カリウムは経口薬が服用困難な場合の投与に限られており,汎用されているのはスピロノラクトンである。スピロノラクトンの適応症は,高血圧症,心性浮腫(うっ血性心不全)をはじめとする浮腫および原発性アルドステロン症と多岐にわたるが,最近の報告では,心不全に用いられるケースが多く1),これは 1999 年に発表された重症心不全を対象とした大規模臨床試験の RALES(Randomized Aldactone EvaluationStudy)の影響が大きいと考えられる。しかし,スピロノラクトンは,性ホルモン関連の副作用が現れることから,とくに高用量が必要な本態性高血圧治療に用いられることは少なかった。今回は,臓器障害の因子として注目を集めているアルドステロンを抑制する抗アルドステロン薬の副作用と対処方法および従来の抗アルドステロン薬より性ホルモン関連の副作用が少なくなった新薬(申請中)について紹介する。
-
-
suggestion
-
-