治療学

Volume 41, Issue 1, 2007
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扉・目次
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序説
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- 花粉症
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日本の花粉症の特徴―病因・病態・診断
41巻1号(2007);View Description
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アレルギー性鼻炎,花粉症は代表的な I 型アレルギー疾患であり,発作性のくしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉を三主徴とする疾患と定義される。鼻炎はもともとは鼻粘膜の炎症反応の総称で,アレルギー性鼻炎以外に感染性鼻炎,非感染・非アレルギーの鼻粘膜過敏性鼻炎,その他刺激性鼻炎などに分類されている。後述するように,病態には炎症反応が大きく関与しているが,喘息やアトピー性皮膚炎と大きく異なるのは I型アレルギー反応の占める重みであり,アレルギー性鼻炎患者の 90%以上で原因抗原が同定できる1,2)。
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特集
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花粉症の疫学
41巻1号(2007);View Description
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アレルギー性鼻炎は,ダニをおもな抗原とする通年性アレルギー性鼻炎と,スギ花粉を代表とする花粉抗原による花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)に大別される。もちろん,両者の合併も多く,また花粉症も単一花粉のみでなく,複数の異なった花粉に対して発症していることも少なくない。花粉症も含め,アレルギー性鼻炎の全国調査の報告は少ないが,図 1 は馬場らにより 1998 年に全国の耳鼻咽喉科医を対象にその家族の花粉症・アレルギー性鼻炎の罹患について調査した結果である1)。対象とした集団に大きなバイアスがかかっているが,診断について信頼性が高いというメリットがみられる。この結果から,スギ花粉症の有症率は全体の年齢層でまとめて約 16%,通年性アレルギー性鼻炎の有症率は約 18%という数値で,10~20歳代をピークとして患者の減少がみられる。2001 年の奥田らの全国無作為抽出調査も同様な結果を示している2)。現在も通年性アレルギー性鼻炎患者数は微増,花粉症患者は漸増しているとされるが,その後は十分な実態調査は行われていない。この理由として調査にかかる費用の問題もあるが,近年の過剰な個人情報保護の風潮も妨げになっている。また,調査法そのものの信頼性について十分に吟味されていないことも,調査を躊躇する原因となっている。 -
Th2 依存性アレルギー反応の制御―Vα1 4 NKT 細胞による抑制
41巻1号(2007);View Description
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ヘルパー T 細胞は産生するサイトカインにより Th1 細胞と Th2 細胞の 2 種類に大別される。Th1 細胞と Th2 細胞は互いにバランスをとりながら免疫反応を調節しており,このバランスの崩れが種々の免疫疾患の発症の原因となっていると考えられている1)。花粉症などの I 型アレルギーは Th2 細胞の分化・活性化が優位になって起きる反応である。刺激を受けた NKT細胞は IL-4 に加え,大量の IFN-γをも産生することから,アレルギー反応を負に調節している可能性も示唆されている。本稿では,NKT 細胞の産生するサイトカインを中心に Vα14NKT 細胞によるアレルギー調節機構を紹介する。 -
好酸球の抑制と花粉症
41巻1号(2007);View Description
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アレルギー性鼻炎患者の鼻汁中に好酸球が増加することはすでに Eyermann CH(1927)1)により記載され,非アレルギー性鼻炎との鑑別診断に用いられてきた。骨髄で分化成熟した好酸球が血流を介して鼻粘膜に集積し,さらに粘膜上皮層を通過した後,鼻腔へ遊走し脱顆粒するメカニズムについては,最近解明が進んでいる。本稿では,花粉症を含むアレルギー性鼻炎における好酸球の役割について,諸家の報告に自験例を交え概説する。 -
鼻粘膜リモデリングについて
41巻1号(2007);View Description
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リモデリングとは,正常の構造に何らかの障害が加わり,それに対して修復機転が働いた結果,もともとの正常構造とまったく同じではない構造に組織が改築・修復される事象を指す言葉である。本来は,障害に対する正常な修復機構(repair)との対比においてとらえられるべき概念といわれている1)。 -
スギ花粉症における自然発症動物
41巻1号(2007);View Description
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スギ花粉症における根治的な治療法の研究開発が進まなかった理由の一つとして,アレルギー症状を伴う花粉症の実験動物モデルがなかったことが考えられる。これまでスギ花粉症のモデル動物としてマウスやラットが用いられてきたが,スギ花粉特異的 IgE 抗体を産生させることができても,ヒトと同じような症状を作り出すことは困難であった。ニホンザルにおいてスギ花粉症の存在が明らかになっている。さらに,自然発症のスギ花粉症のイヌやネコも発見され,治療および基礎研究分野におけるモデル動物として期待されている。この総説ではスギ花粉症を自然発症するニホンザル,イヌ,ネコにおける,最近のわれわれの知見を中心に述べていきたい。 -
花粉症対策―米国および日本における現状と将来
41巻1号(2007);View Description
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アレルギー性疾患は,本来は反応が抑制されるべき(免疫寛容が成立すべき)普遍的な外来抗原(食物,花粉,動物の毛や室内塵など)に対して不適切な免疫反応,とくに IgE 抗体を産生することによって引き起こされる。これは遺伝的要因と環境要因とによってその形質が規定される典型的な多因子疾患であり,花粉症をはじめとして気管支喘息,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,結膜炎などがその代表である。その多くは直接生命を脅かす疾患ではないが,日常生活や社会生活における活動範囲や程度が制限され,いわゆる生活の質(QOL)を低下させるという点で,その克服は重要な医学・社会学的課題となっている。また,個々の QOL 低下の総体としての医療費を含めた社会的経済損失も莫大なものになるものと考えられており,その発症が都市化に伴う環境要因を含んでいることを考え合わせると,社会全体として取り組まなければならない重要な問題でもある。とくに花粉症に関しては,近年,都市部を中心に患者数が年々増加しており,東京都が2005 年に首都圏を対象に行ったアンケート調査では「医療機関でスギ花粉症と診断された」人が 21.3%,「自覚症状からスギ花粉症と思っている」人は 18.5%で,スギ花粉症の自覚症状のある人の割合は約 4 割に及ぶことが示された。同時に半数以上の人がスギ花粉症の対策として「根本的な治療法の開発」を要望していることが報告されている。これを受けて,東京都においては「花粉の少ない森づくり運動」を推進するとともに,施策の重点事業として花粉症の予防・治療対策を掲げている。そこで東京都臨床医学総合研究所では,スギ花粉症に対する根本的な治療法の一つである「舌下減感作療法」の実用化に向けた臨床研究を 2006 年度より開始している。本稿においては,日本における次期花粉症治療法として経粘膜ワクチンのコンセプトに基づいた「舌下減感作療法(sublingualimmunotherapy:SLIT)」と「花粉症緩和米」について解説する。 -
花粉症への BCG ワクチン療法
41巻1号(2007);View Description
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花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎は,いったん感作が成立し発病すると,自然寛解する可能性がきわめて低い予後不良な難治疾患である。千葉大学で行った同一地区に居住する日本人の住民検診の横断的・縦断的調査でも花粉症の治りにくさが報告されている1)。アレルギー性鼻炎に対する唯一の根治治療として,特異的抗原を用いた減感作を目的とした免疫治療が行われているが,作用機序が依然不明なこと,治療用抗原の標準化が行き渡っていないこと,治療に伴う苦痛,治療頻度と期間の長さ,少ないながら副作用があること,といった克服せねばならない課題もあり,現実には日本では免疫治療そのものの行われる割合は高くないばかりか,施行数も減ってきている。それゆえに新規の免疫療法の開発が望まれている。それでは,なぜ BCG ワクチンが花粉症治療に効果があると考えられるのか。これまでの経緯と私たちの取組みについて概説する。 -
花粉症の薬物療法
41巻1号(2007);View Description
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スギ花粉症を代表とする I 型アレルギー性鼻炎の治療では,①抗原除去・回避,②薬物療法,③手術,④免疫療法の四つの柱がある。個々の症例によってこれらを組み合わせ,十分な効果を引き出すことが日常診療において重要である。免疫療法が根治的治療と位置づけられているのに対し,薬物療法や手術療法は対症療法であるので,病態の根源や疾患の自然経過に介入しているわけではない。 -
花粉症の減感作療法
41巻1号(2007);View Description
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アレルギー性鼻炎に対する免疫療法(抗原特異的減感作療法;以下,減感作療法)は,枯草熱に対する治療法として 1911 年 Noon らが報告1)して以来,長い歴史をもつ。本邦では当初喘息に対する治療としてハウスダスト減感作療法が行われ,スギ花粉症の減感作療法は,スギ花粉症が増加し始めた 1970 年代後半より開始された。その後,標準化スギ花粉エキスが市販され,皮下注射による治療が広く行われるようになり,現在唯一根本治療となりうる治療であること,根本治療にならなくとも薬物使用量を減らせること,また長期の効果が期待できる治療法と考えられている。本稿では,従来の皮下注射による減感作治療の長期予後とその問題点の検討を行ったうえで,現在全国的に臨床試験が行われている,舌下減感作治療を中心に最近の知見について言及する。 -
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花粉曝露の回避
41巻1号(2007);View Description
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日本で報告されている花粉症はその原因植物が約 60 種ある。その中でもスギ花粉症の有病率はきわめて高く,「鼻アレルギー診療ガイドライン」1)によると,16.2%とされている。スギ花粉がもっとも重要な花粉であるので,ここではスギ花粉の回避を中心に述べる。 -
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スギ花粉症と皮膚炎
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近年,スギ花粉症は国民病ともいえるほど患者数が増加しており,社会問題にまでなっている。スギ花粉症患者の一部には,春先のスギ花粉が飛散する季節になると,鼻・眼症状のみならず顔や頸部の皮膚にスギ花粉が接触することが原因となり,痒みを伴う皮膚病変が認められることがある。これはスギ花粉皮膚炎とよばれている。 -
花粉症治療の注意点―妊婦,授乳婦,小児に対して
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妊婦や授乳中の母親,小児においても花粉症治療の目標は,一般の症例と大きな変わりはない。しかし,それぞれにその時期特有の留意点があるため,治療にあたっては一般の症例に対する以上に細やかな注意が必要である。ここでは「鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―」1)にあるこれらの症例に対する薬物治療について要点を整理し,実地診療に対応しやすいように内容を追加し,治療の注意点をまとめたい。
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診断のピットフォール
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花粉症と上気道感染との鑑別
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花粉症とくにスギ花粉症の場合,感受性の高い患者では 1 月末から花粉症症状が出現し,秋から冬にかけても少量の花粉により症状が出現することがある。この寒い季節は上気道感染も多い時期であり,なかでもかぜによる急性鼻炎は花粉症と同様にくしゃみ,鼻水,鼻づまりを主訴に外来を受診するため,まぎらわしい。この稿では,両者の鑑別を中心に述べる(表 1)1)。
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座談会
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- 花粉症
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症例
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0 歳で特異 Th2 細胞が誘導され,1 歳で発症したスギ花粉症の 1 例
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近年,スギ花粉症の発症が低年齢化している1)。かつては学童期以降に発症するものとされていたが2),最近では 2~3 歳で花粉症症状を呈する児がみられる3~5)。スギ花粉症の原因となるスギ花粉特異的 IgE 抗体(以下,スギ IgE とする)も 1 歳で 20%程度,2 歳で 50%程度のアレルギー児に認められる6)。まれながら,0 歳児でスギ IgE 陽性となる症例も存在する7)。このたびわれわれは,1 歳でスギ IgE 陽性となり,花粉症症状を発症した症例を経験した。稀有なことにこの症例では,発症前の 0 歳時のスギ花粉特異的サイトカイン産生のデータが残されていた。生まれてからスギ花粉症発症に至るまでの過程を明らかにするうえで,貴重な症例と思われるので,若干の考察を加えて報告する。 -
口腔アレルギー症状を呈するスギ花粉の症例
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口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)は,果実などの食物摂取時に口腔咽頭粘膜を中心に IgE 抗体を介した即時型アレルギー反応を起こし,口唇・口腔内粘膜の腫脹やかゆみ,咽喉頭部の異常感などの症状を呈する疾患である。OAS は花粉症と合併することが知られており,以前よりシラカンバ花粉症に合併するリンゴなどのバラ科果実に対する OAS との関連については,さまざまな検討がなされている1~4)。日本においては,北海道におけるシラカンバ花粉症5~8)や六甲山麓におけるオオバヤシャブシ花粉症9,10)に伴う OAS が知られているが,スギ花粉症と OAS についての報告は多くない11,12)。今回は,スギ花粉症における OAS について症例提示するとともに,山梨での調査をもとに,感作花粉と OAS の原因果実の関係やアンケートによるスギ花粉症患者の OAS の実態についても検討した。
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新しい治療
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リポソームを用いた新規免疫治療開発
41巻1号(2007);View Description
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花粉症に対する現行の治療は,目や鼻のアレルギー症状や炎症反応を抑える薬剤を用いた対症療法が主で,完治させるための根本的治療法は唯一減感作療法であるが,十分には普及していない。一方で,スギ花粉症を筆頭に花粉症の症状をもつ国民の割合は年々増加傾向にあることから,花粉症を完治させる画期的な治療法の確立が急務になっている。われわれは,アレルギー疾患の根本的治療法を開発する目的から,IgE 抗体産生を抑制する免疫制御機構を解明し,それを生体内で活性化する薬剤の設計について研究を続けている。本稿では花粉症の根本的治療に有効だと考えられる抗原特異的制御性 T 細胞(Treg)を,生体内で誘導する免疫制御リポソーム(人工脂質カプセル)の設計とその制御機構について概説する。
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治療の歴史
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花粉症の歴史-病態解明と治療法の開発
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花粉症は花粉を抗原とする I 型アレルギーであることが確認され,花粉症を含むアレルギー性鼻炎の病態が解明され,さらに各種治療法が開発されてきた歴史について概説する。
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DI 室Q&A
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花粉症の鼻炎症状に用いる一般用医薬品(OTC)
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近年,健康増進法の施行に伴い,セルフメディケーションの概念が国民に浸透しつつある。OTC はセルフメディケーションにおいて重要な役割を担っており,とくに花粉症においては,約 4 割もの患者が症状緩和のために OTC を使用している。OTC は医療用医薬品に比べて作用が緩和で安全であると安易に考えられているが,ほとんどの一般用の鼻炎用内服薬に含有されていた塩酸フェニルプロパノールアミンが,脳出血などの重篤な副作用発現により承認基準から削除されるなど,不適正使用による副作用報告が後を絶たない。OTC は,患者自身が選択すること,患者個々に処方設計されていないこと,多くの製品が配合剤であることなどから,副作用発現のみならず,他の薬剤との相互作用の発現,基礎疾患の治療への悪影響についても十分に注意を払う必要がある。
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suggestion
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