治療学
Volume 41, Issue 2, 2007
Volumes & issues:
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扉・目次
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序説
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- CKD
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いま腎臓病の重要性を世に問い直す
41巻2号(2007);View Description Hide Descriptionchronic kidney disease(CKD)という言葉を頻回に耳にするようになってきた。2002年アメリカ腎臓財団が CKD を定義し1),2003 年アメリカ心臓病学会(AHA)が,CKDは心血管疾患(CVD)発症のリスクであると提言2)したことに端を発している。アメリカ,イギリス,カナダ,ヨーロッパ,オーストラリアでは CKD に関するガイドラインがすでに作成されている。わが国でも CKD の重要性を啓蒙しようとキャンペーン活動が展開されている。国際的な共通の活動として,CKD について認識を高める運動が展開され,2006 年から毎年 3 月の第 2 木曜日が「世界腎臓デー」と制定された。このように CKD が注目される背景として,①高血圧性疾患のなかで脳卒中や心臓病は減少傾向にあるにもかかわらず,末期腎不全の年間新規発症率が日米ともに最近の 15 年間で約 3 倍に急増していること,②末期腎不全に対する透析療法に要する医療費が国民経済を圧迫していること,③末期腎不全は氷山の一角であり,その予備群はさらに膨大な数に上る可能性があること,④腎障害では CVD 発症率が高く,生命予後も悪くなることが広く認識されるようになってきたこと,最後に,⑤慢性腎不全は必ずしも不可逆性の進行過程をたどるのではなく,うまくすれば回復させることが可能であることが明らかにされてきたこと,などがあげられる。
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特集
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CKD の新しい概念と定義
41巻2号(2007);View Description Hide DescriptionCKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)が重要である理由は次の 3 点に要約される。第一はその患者数が膨大であること,第二はCKD がわれわれの健康に重大な影響を及ぼすこと,第三は CKD は治療可能であるということである。CKD の概念や定義が作られた背景にはこれらの諸点が色濃く反映されているので,まずこれらについて簡単に解説しておきたい。第一の点は,言い換えれば CKD はコモンディジーズであるということである。どのくらいありふれた病気であるかといえば,米国において試算されている結果をみれば一目瞭然である。2002 年に発表されたデータによると成人の 4.6%(約 830 万人)が中等度以上の腎機能低下をきたし,これに加えて尿異常や形態異常など明らかに腎障害を示唆する所見を有する人を加えると実に全人口の 10.9%(1,950 万人)がCKD を有するという衝撃的なものであった1)。第二の点は,現在までに数多くの臨床疫学的な研究結果が発表されているが,もっとも有名な研究は 2004 年に発表されたものである。すなわち米国の民間健康管理機関(HMO:HealthMaintenance Organization)である Kaiser Permanenteに加入している被保険者 112 万人を対象にした観察研究により,次のような結果が明らかになった。腎機能低下が進むにしたがって,CVD(cardio-vascular disease:心臓血管病)の発症,原因のいかんを問わない入院や総死亡の危険が有意に増加する2)。すなわち,CKD は透析や移植を必要とする ESRD(end stage renaldisease:透析や移植を必要とする末期腎不全)の予備軍としてだけではなく,CVD や死亡の重要なリスク要因であり,われわれの健康にとって大きな脅威となっている。第三の点は,これまで CKD の治療について多くの研究がなされた結果,治療によって腎機能低下の速度を遅くしたり,CVD の発症や死亡を減少させたりできるということが明らかになってきたことである。また,最近では治療により CKD そのものの regression や remissionを目指す治療が試みられている3)。したがって,CKD 患者を正確に評価して適切な治療を行うことによって,ESRD や CVD,死亡などを回避できるのである。次項でも述べるが,CKD は腎臓専門医だけで解決できるものではなく,社会全体が関心を深め,医療政策上の重要問題として位置づけなければ,効果的な対策は立てられないことを銘記すべきである。 -
糸球体濾過量推定式の問題点とわが国での基準案
41巻2号(2007);View Description Hide Description標準化された Cr 測定に基づく MDRD 簡易式による GFR(glomerular filtration ratio:糸球体濾過量)推定式が公表された。日本人への応用には日本人の係数 0.741 を掛ける必要がある。酵素法で測定された Cr 値は標準化されたCr 測定法に合致しており,日本人の GFR 推定式はGFR(mL/分/1.73 m2)=0.741(女性ならば 0.742)×175×Cr-1.154×年齢-0.203を用いて,酵素法で測定した血清 Cr 値を代入して計算する。 -
進行性腎障害:point of no-return の返上へ
41巻2号(2007);View Description Hide Description従来,慢性腎臓病(CKD)は,ある臨界点(pointof no-return)以降,不可逆的に進行するものとみなされてきた。したがって point of no-returnを越えた場合の治療目標は進行度の遅延に留まると考えられていた。たとえば,1976 年 Kussmanらは I 型糖尿病による腎症を「不可逆性の疾患であり,回復も寛解もありえず,いったん発症すると死へと向かう疾患である。」と形容している1)。しかしながら,近年の多くの臨床研究は,慢性腎臓病は可逆性に富み,不可逆性の臨界点は相当に後方に押しやることが可能であることを示している。そればかりか治療目標に remission(寛解)や regression(退縮)を設定することも可能であることが判明している。 -
腎疾患の一次予防の重要性と検尿システム
41巻2号(2007);View Description Hide Description末期腎不全による透析患者は増加の一途をたどり,2005 年の新規透析導入患者数は 34,568人,慢性透析患者数は約 25 万 8,000 人に至っている。医療経済的には,費用 1 兆 3,000 億円以上がすべて公費負担であり,これ以上の患者増加による負担増は保険財政上も大きな問題である。一方,近年,蛋白尿陽性または腎機能低下は,世界的に死因第一位である心血管イベント発症・死亡の危険因子との疫学的証拠(エビデンス)が蓄積してきている。このような背景から,アルブミン尿などの腎疾患の徴候または腎機能低下を包含する病態として慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱され,末期腎不全と心血管イベントの危険因子として世界的に注目されている。さらに,腎疾患治療が最近急速に進歩し,集約的な強化療法にて,進行抑制のみならず早期であれば寛解も期待される状況となっている。したがって,費用対効果も考慮したうえで,いかに CKD を早期にスクリーニングするかが末期腎不全と心血管イベント予防という現在の国家的目標のキーポイントである。 -
CKD データベース作成における24 時間保冷蓄尿検査の重要性
41巻2号(2007);View Description Hide DescriptionCKD(chronic kidney disease)の概念が提唱され,腎疾患を全体として捉えるとともに腎疾患以外の疾患との関係も包括的に対象とする対策が進められ,グローバルな展開が進行している。しかし,CKD の概念のもとで作成された,あるいはアウトカム評価にまでつながる利用可能な質の高いデータベースの作成は,今後の重要な課題である。確かに透析療法の分野から始まった米国の DOQI(dialysis outcome qualityinitiative)や日本透析医学会統計調査さらに腎疾患全般に対象を拡大した K/DOQI があり,欧州の EBPG(European Best Practice Guideline),Canadian Guideline などが賛同し KDIGO(KidneyDisease:Improving Global Outcome)が設立されている1)。これらは治療の標準化の点で透析療法を中心として重要な提案がなされている2,3)。しかし,CKD 対策に効果的な本格的データベース作成はこれから始まろうとしている。そのためには,よく吟味され正確に収集されたデータの集積がもっとも重要かつ難しい課題である。生活習慣病による CKD の増加がグローバルにも大きな問題となっているなかで,生活習慣に関連する数値化された指標を選択することは大変重要なことであると考えている。また,腎疾患であるがゆえに,尿から得られるできる限り正確でしかも多数の指標の収集は,CKD 克服の過程できわめて重要な意義をもつと考えられる。本稿ではわが国における保存期慢性腎不全症例を 10 年あまり検討してきた結果を概説し,CKD データベース作成において,24 時間保冷蓄尿検査から得られる検査結果の重要性を提案したい。 -
末期腎不全原疾患の動向と今後の予測
41巻2号(2007);View Description Hide Description本稿では日本透析医学会統計調査委員会による「図説わが国の慢性透析療法の現況(2005 年12 月 31 日現在)」に基づき,若干の文献的考察を加えて末期腎不全原疾患の動向と今後の予測を述べる。日本透析医学会の調査結果は,同学会所有の統計調査対象施設台帳に記載された3,985 施設にアンケート用紙またはフロッピーディスクを送付し,回収された回答をもとに集計され,回収施設は 3,940 施設(回収率 98.87%)であった1)。 -
末期腎不全の地域差
41巻2号(2007);View Description Hide Description医学や腎臓病学の急速な進歩にもかかわらず,日米をはじめとする先進国において,透析導入(末期腎不全)患者数は増加の一途をたどっている1,2)。これは,高血圧性疾患のうち,脳卒中や虚血性心疾患が減少傾向に転じているのとは対照的である3)。日本透析医学会が統計調査を始めた 1983 年には,4,500 人弱であった日本の透析人口は 10 年足らずで 10 万人を超え,2000 年末には 20 万人を突破し,今後もその数は増え続ける勢いである1)。そのなかでも特記されるのは,1998 年からは他の先進国と同様,糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて末期腎不全の第 1 の原疾患となったことである。いったん透析に導入されるとその予後は必ずしも良好でなく,5 年生存率はせいぜい 60%程度である。以上のように,医学的にはもちろん,国民経済上からも,腎不全の進行を抑制する手段の解明は急務と考えられる。そこで末期腎不全の地域差を疫学的に分析し,腎不全対策について展望してみたい。 -
心-腎連関のメカニズム
41巻2号(2007);View Description Hide Description心臓と腎臓との結びつきが深いことが,最近さまざまな面から認められるようになってきた。一つは疫学的データで,たとえば疫学研究で有名な Framingham 研究では,蛋白尿がある人はない人に比べて死亡の確率が高いとか1),久山町の研究でも慢性腎臓病があると,約 2 倍近く心血管疾患に罹患すると報告されている2)。これらの成績は腎臓に軽度の障害があると,心臓病変が多くなるというもので,その後いくつかの大規模臨床試験で,腎障害の程度により心血管系障害の発症頻度を検討すると,疫学とほぼ同様の傾向が得られている3,4)。次に心臓と腎臓の不全への過程には,両者に共通のものがあるとする考え方である。たとえば,それらのなかでは酸化ストレス,内皮機能障害,あるいは動脈硬化のマーカーとしてasymmetric dimethyl arginine(ADMA),インスリン抵抗性,血管内皮の異常,レニン-アンジオテンシン(RA)系,NO などさまざまな物質あるいは系が共通因子としてあげられている5)。ここではそれらをどう心-腎連関として捉えていくのかについて,主として筆者の考え方を述べていきたい。 -
CKD と血圧日内リズム
41巻2号(2007);View Description Hide Description慢性腎疾患(CKD)では食塩感受性高血圧となり,non-dipper 型血圧日内リズムを呈する。食塩感受性高血圧も,non-dipper も,ともに心血管イベントのリスクとして知られている。近年 CKD 自体も心血管イベントのリスクと判明し,腎機能低下の関数としてそのリスクが増すことが明らかとなり,心-腎連関が注目されている。そこで本稿では CKD と血圧日内リズムについて論じたい。 -
CKD と心血管事故
41巻2号(2007);View Description Hide Description腎臓の構造・機能の異常が持続する場合,または,糸球体濾過(GFR)60 mL/分未満が持続する場合は慢性腎臓病(CKD)と呼ばれている。最近の疫学調査では,CKD が透析のみならず心血管病(CVD)のリスクであることが明らかにされた。また,CKD 患者が予想以上に多いことも明らかになった。したがって,CKD 患者を早期に発見し,CVD の発症や透析への移行を阻止する対策を講じることが必要となる。本稿では,CKD と CVD との関連を考察する。 -
透析患者の心血管事故
41巻2号(2007);View Description Hide Descriptionわが国の透析患者の死因の第一位は心不全であり,心筋梗塞・脳血管疾患を含めると約 50%を占める心血管系合併症は透析患者の生命予後に大きく関わっている1,2)。最近では,透析導入患者の高齢化,導入前にすでに心血管系合併症を有している患者の増加,糖尿病や高血圧からの導入患者の増加や長期透析患者の増加などから,心血管系合併症の予防と治療・対策はますます重要な課題となっている3)。実際に透析患者を管理する際には,心血管系合併症の多様性に驚くと同時に,治療の困難さを実感する。透析患者の心血管系合併症による死亡は,一般に比較し数十倍も高いと報告されている。本稿では,透析患者の動脈硬化に起因する心血管系合併症の現状について概説する。 -
心疾患患者の予後決定におけるCKD の重要性
41巻2号(2007);View Description Hide Description心疾患患者の予後因子として,以前より腎機能障害の重要性が指摘されている。図 1 はわれわれが提唱した急性心不全における Cardio-Renal Subset であり1),図 2 は Hillege らの慢性心不全における腎機能によるリスク層別化である2)。最近では慢性腎臓病(CKD)の概念が取り上げられ,GFR や蛋白尿の有無による評価により,初期段階からリスク管理する必要が提唱されている。なかでも,心疾患患者におけるCKD は心疾患の重症度に関わらず,独立した予後規定因子であることが明らかにされてきている3~6)。Bruch らは,左室駆出率 50%以下の心不全で入院歴のある患者 269 名について,身体所見,心電図所見,心臓超音波所見を CKD の有無にて比較した5)。表 1 のように CKD 症例では NYHA が重症で,PQ 間隔,QRS 幅の延長,左脚ブロックの頻度が高い。また,超音波所見の比較では(表 2),CKD 症例では左室容量が大きく,E/E′が高いことから拡張障害の割合が多いことが示されている。Hayashi らも,CKD患者における左室機能を超音波所見より解析し,腎機能障害の進行に伴い,収縮期血圧の上昇,拡張障害が顕著になってくることを報告している7)。つまり,心疾患患者の予後規定因子として従来より提唱されている,血圧,NYHA,心室容量,拡張能,QT 延長などに CKD が強く関与しているものと考えられる。
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治療のピットフォール
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見逃されてきた虚血性腎症
41巻2号(2007);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)は動脈硬化の進展因子であるが,動脈硬化による腎動脈病変は腎血管性高血圧症(RVH)のみならず,持続的な虚血により腎機能低下をきたす。これまで虚血性腎症は,腎硬化症や糖尿病性腎症などによる腎機能障害として見逃されてきたが,決してまれな疾患ではなく,むしろ高齢者における腎不全の主因であること,腎のみではなく生命予後に関与することが明らかにされ,注目されるようになってきた。
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座談会
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- CKD
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症例
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カプトプリル負荷によりアルドステロンが上昇した腎血管性高血圧の 1 症例
41巻2号(2007);View Description Hide Description腎血管性高血圧における高血圧の成因が,狭窄腎からのレニン分泌増加による血漿中アンジオテンシン I(A I)の増加,そしてアンジオテンシン変換酵素(ACE)で A I から変換されたアンジオテンシンII(A II)による血圧上昇であることは,周知の事実である。しかし最近,A I を A II へ変換する別の酵素(図 1),キマーゼ(セリンプロテアーゼの一つ)が発見され,心・血管系疾患におけるその病態生理的意義が注目されている。このキマーゼを合成・分泌する細胞の一つがマストセル(肥満細胞)で,炎症や線維化が進む組織に現れることが知られている。また,マストセル由来のキマーゼが虚血心で増加しているという報告がある1,2)。よって,循環障害に陥った組織に出現して局所的な A II 増加の一因となり,その組織の線維化に関わると考えられている。レニン・アンジオテンシン系が病因の主役である疾患,とくに腎血管性高血圧において,A II を合成する ACE 以外の酵素「キマーゼ」の存在と病態生理的意義に興味がもたれるところである。しかし,モデル動物の虚血腎におけるキマーゼ活性が増加しているという報告3)があるものの,ヒト(症例)における存在の証明や検討は皆無であった。今回,私たちの病院で,動脈硬化による一側性腎血管性高血圧の症例を経験し4),腎動脈の血行再建が不可能で摘出せざるをえなかった狭窄腎と腎動・静脈におけるマストセルキマーゼの存在証明と,その病態生理的意義についての検討ができた4)ので紹介する。 -
脳卒中剖検例における腎動脈狭窄の症例
41巻2号(2007);View Description Hide Description動脈硬化性腎動脈狭窄(RAS)は高齢者や閉塞性動脈硬化症,大動脈瘤,虚血性心疾患,高齢のうっ血性心不全など全身動脈硬化性疾患で高頻度に認められる1~4)。RAS は進行性であり5,6),腎血管性高血圧症のみならず腎機能障害や腎不全の原因となり,欧米では腎不全で透析を導入する症例の 10~20%を占めると報告されている7,8)。また,本症は生命予後が不良であり,死因は腎不全よりも脳心血管死が多いことが示されているが6,7,9),血行再建術により腎動脈狭窄が解除されると血圧や腎機能が安定し,生命予後も良好となることが示唆されている10)。それゆえ,本症の可能性を念頭に置いて診断を進め,個々の症例に対し血行再建術の臨床的有用性とリスクを考慮し診療にあたることが大切である。わが国では国立循環器病センターの剖検例の解析から,心筋梗塞患者の 12%に RAS が認められ,加齢とともに頻度が増加し,高血圧,蛋白尿,腎機能障害や高度の冠動脈狭窄病変が RAS の独立した危険因子であると報告された11)。脳卒中発症は頸動脈硬化性病変と密接に関連していることより,脳卒中患者においても RAS の頻度は高いことが予想され,詳細な検討を行った12)。
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新しい治療
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RA 系抑制における心-腎同時保護
41巻2号(2007);View Description Hide Description心臓と腎臓の間には,機能的な関連のみならず,たがいの病態の進展にも密接な関連が存在する。たとえば,ナトリウム利尿ペプチドなどの心臓で産生される生理活性物質が腎血管や尿細管へ作用して腎機能を調節していることや,腎組織保護作用を有することが知られている。また,実際の心不全治療には利尿薬が使用されることに加え,心筋梗塞では腎不全のリスクが高いことや透析患者の死因の半数以上が心疾患によることなどからも,心疾患と腎機能の低下が密接に関わっていることが容易に想像できる。さらに 2003 年には米国心臓財団による臨床試験の解析から,蛋白尿などの腎機能低下が心血管疾患の独立した高リスク因子となりうることが発表された1)。以後の大規模臨床試験の解析でも,血清クレアチニンが正常値であっても糸球体濾過量が低下すると,心血管イベントのリスク増加に直結することが証明されている2,3)。このように,心疾患と腎疾患はたがいに密接に関連していることから,心-腎関連と呼ばれている。したがって,両者は独立した疾患としてとらえるべきではなく,包括的に治療を行うことが近年推奨されている。心-腎関連を結びつける因子として,血圧,交感神経活動や貧血などが重要な役割を果たしているとされているものの,いまだ詳細は明らかになっていない。本稿では,レニン・アンジオテンシン(RA)系の阻害による心腎同時保護の可能性について,病態における腎内局所 RA 系の関与とともに簡単に考察する。 -
ADMA:心-腎連関を解く新しい分子標的
41巻2号(2007);View Description Hide Description血管内皮において産生される一酸化窒素(NO)は内皮由来血管拡張因子(EDRF)として血管のトーンを調節するばかりでなく,抗血小板作用・細胞増殖抑制作用により血管保護作用を有する。近年,生体内において NO 合成阻害物質(asymmetric dimethylarginine:ADMA)が生成されることが発見され,NO 産生低下を通じて循環調節異常や組織傷害を来すことが示唆され,新しい冠危険因子として着目されている。また CKD(chronic kidney disease)患者を対象とした疫学研究でも,この ADMA が心血管合併症および生命予後を規定する重要な因子であることが明らかとなっている。本稿では,CKD におけるこの分子の役割について,基礎および臨床の双方から得られた最近の成果を紹介する。
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治療の歴史
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糖尿病性腎症に対する治療戦略の変遷と将来展望
41巻2号(2007);View Description Hide Description糖尿病性腎症の歴史は,約 70 年前,1936 年にKimmelstiel と Wilson が特有の腎糸球体組織所見を発表したことに始まるが,当時糖尿病性腎症は不治の病であった。たとえば,わが国の透析療法は 1950年代に開始されたが,その対象疾患は主に急性腎不全であり,糖尿病性腎症を含めた慢性腎不全への応用,維持透析療法へと発展するにはかなりの年月を要した。そして,糖尿病性腎症に対する治療戦略はそれ自体で変化(進歩)してきたのではなく,成因の解明,診断法の進歩などが密接に関連している。腎症の治療目標は,発症・進展阻止であり,これは現在も変わっていないが,近年腎症の remission(寛解),regression(退縮)が生ずることが報告され,remission をめざした治療戦略が可能になりつつある。本稿では,これらの変遷と今後の展望に関して解説したい。
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DI 室Q&A
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腎機能検査用薬イヌリード注
41巻2号(2007);View Description Hide Description正確な糸球体濾過量(glomerular filtrationrate:GFR)の測定は腎疾患の診断・治療,腎排泄型薬剤(とくに抗癌剤,抗菌薬など)の投与量決定に重要であり,腎炎患者では腎機能が予後の規定因子として重要な意味をもつ。ほかにも手術・麻酔,妊婦には GFR を測定して腎機能評価が必要となる。しかし従来のクレアチニンクリアランス(Ccr:GFR の概算)は 24 時間蓄尿のもとに行われるため正確さに問題がある。しかもイヌリンクリアランス(Cin)が 40 mL/分以下の場合 Ccr/Cinが約 2 倍を示すといわれている(表 1)1)。
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suggestion
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