治療学
Volume 41, Issue 6, 2007
Volumes & issues:
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扉・目次
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序説
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- 機能性腸障害
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機能性腸障害とは何か
41巻6号(2007);View Description Hide Description消化器病も,George Engel の生物心理社会モデル(biopsychosocial model)1)を取り入れて診療を進める時代になってきた。これは,疾病の理解に生物学的要因だけでなく,心理社会的要因の関与も分析し,総合的に疾病を把握する試みである。機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders:FGIDs)は,生物心理社会モデルがその威力を発揮する代表的な疾患群である2)。その概念形成の源流となったのが過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)である2)。機能性消化管障害,特に IBS の研究と臨床は,他の領域に応用可能な多くの斬新な点を含んでおり,その進歩にわが国の医学も貢献している。機能性消化管障害のなかでも,IBS とその類縁疾患群が機能性腸障害(functional bowel disorders)である。この特集では,IBS を中心に,機能性腸障害を取り上げることで,その研究と診療の進歩を俯瞰する。
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特集
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- 過敏性腸症候群
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1 疫学
41巻6号(2007);View Description Hide Description下痢,便秘を伴う下腹部痛は日常の消化器診療でよくみられる症状であるが,これらの症状を呈するものの,便培養,注腸検査や大腸内視鏡検査,さらに生検組織検査などで異常を指摘できない場合,いわゆる器質的疾患のない病態が慢性あるいは再発性に経過する場合,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)が疑われる。本稿では IBS の疫学について論ずるが,IBS の定義自体が症状診断となるため,どの程度から病的であるかの線引きによって頻度は大きく異なってくる。事実,診断基準は時代とともに変遷し,最新の Rome III 基準に至っている。したがって疫学調査がなされる時点の診断基準により,健常人と患者の割合は異なることをあらかじめ承知されたい。 -
2 診断
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は小腸,大腸の機能異常に基づき,排便に関連する慢性の腹痛あるいは腹部不快と便通異常をきたす疾患である。腸管の機能異常を従来の一般的な画像診断や血液検査等でとらえることは不可能なため,その診断は器質的な疾患の否定と,患者の訴える症状を診断基準に照らし合わせて行うことになる。この診断基準は現在のところ Rome III 基準1)が標準となっている。本稿ではこの診断基準と診断の実際,そして最後に IBS 診断の今後の展望について述べたいと思う。 -
3 遺伝と遺伝子多型
41巻6号(2007);View Description Hide Description心理社会的ストレスはさまざまな疾病に悪影響を及ぼす。21 世紀の先進国においては,ストレス関連疾患が国民の健康と経済に重大な悪影響を及ぼすと考えられる。その病態生理を正確に評価・解決し,患者の quality of life を向上させることは,医学の分野を問わない大課題である。ストレス関連疾患のなかでも特に過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は高頻度で,重症化すれば治療はしばしば困難である。IBS は慢性的に繰り返される腹部不快感・膨満感,腹痛を主訴とする症候群である。一般人口のおおよそ 10%に女性優位で発症がみられる1,2)。このような高頻度な疾患であるものの,有効な治療法の確立にはいまだ至っていない。IBS に罹患した全患者について算出された年間医療費は少なくとも 80 億 US ドル3),患者個人単位では 348~8750US ドルと莫大であることが欧米より報告されている4)。加えて,IBS は致命的な疾患でないのにもかかわらず,患者らには末期直腸がん,糖尿病,大うつ病と同程度までの quality of life の著しい低下がみられる5)。以上より,有効な治療法の早急な開発が必要であると考えられる。治療法の開発を困難にしている要因としてIBS の病態の中核をなす脳内神経伝達に不明な点が多いことがあげられる。さらにストレス応答を規定する要因として個体のもつ遺伝子型を考えなければならないが,その詳細は不明である。これまでに IBS の病態生理を説明する生物心理社会的なモデルが提唱されている(図 1)6)。このモデルは脳-腸軸(brain-gut axis)を論理的基盤とする(図 2)7)。当該モデルにおいても,IBS における中枢および末梢機能に遺伝的要因または環境要因が関連する可能性が示唆されている。しかし,それらの要因の中枢および末梢機能における作用機序は明らかになっていない。本稿では IBS の発症と遺伝的要因,特にセロトニン系の遺伝子多型について述べる。 -
4 内臓知覚と中枢神経プロセシング
41巻6号(2007);View Description Hide Description脳腸相関は,健康および疾患におけるさまざまな生理機能の制御にとって重要な役割を果たす双方向システムである。機能性消化管障害の病態において,脳腸相関の異常が症状の成因である可能性が示されつつある。腸管神経系(enteric nervous system:ENS)と,感覚および情動の異常を引き起こす中枢神経系(centralnervous system:CNS)との複雑な相互作用の機能不全という枠組み1)は,消化機能の制御系,消化管関連免疫系そして消化管活動と情動状態との相互修飾系の異常など,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理の説明可能なモデルとして注目を集めている。 -
5 炎症性腸疾患との違い
41巻6号(2007);View Description Hide Description近年,機能的胃腸症の増加が問題となっている。背景として近年の社会生活の複雑化やストレスの増加などが考えられる。本症の特徴は消化管の不定愁訴であるが,そのなかで過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の頻度は高く,現在一般内科に受診する患者のアンケートでは,約 20~30%が IBS に相当する症状をもっていると考えられている1)。一方,IBS の約 1/3 の症例は感染性腸炎など,なんらかの腸炎を契機として発症しており,その病態に炎症の関与が考えられている2)。基礎的な研究結果では,IBS 患者の腸管粘膜内にマクロファージ系細胞の増加がみられたり,サイトカイン産生細胞の増加がみられたりするなどの報告がある1,2)。ところで,腸管の慢性炎症を主体とする疾患として特発性炎症性腸疾患(inflammatorybowel disease:IBD)がある。IBD は潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)の 2 疾患から構成されており,わが国においても増加が顕著であり,2004 年度の特定疾患医療受給者数によると UC で約 83000 人,CD で約 23000 人の登録患者数がある3)。病型から検討すると,大部分が再燃寛解型で,左側結腸炎型が最も多い。重症度分類は主として臨床症状により行われており,顕血便の程度,排便回数などが重要で,重症度の判定には貧血や頻脈などの全身症状の有無が決め手となる。治療は病変範囲と重症度により決定され,臨床的に寛解状態になった場合には,その状態を維持する目的で寛解維持療法が行われる3)。一方,炎症性腸疾患,特に UC において,治療により内視鏡的に病変が消失した寛解状態にもかかわらず,下痢・腹痛などの症状を長期にわたり繰り返す症例に遭遇することもまれではない。このような場合,内視鏡検査などでは腸管病変はほとんど見受けられず,UC に対する治療薬を増量しても効果がみられないことが多い。すなわちこのような症例では,IBS に相当する病態にあることが考えられる(図 1)。近年 Rome III の IBS 診断基準が作成されたが4,5),それによると器質的疾患を除外することが必須であり,UC があれば IBS と診断することは容易でないが(寛解状態の場合,UC の症状と考えるのか IBS の合併と考えるのかは今のところ一定の見解はない),類似の病態として治療に当たることが有用であることもしばしば経験される。本稿では,このような IBS と IBD の共通点と相違点を中心として解説する。 -
6 消化管運動
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,消化管の器質的異常に起因しない腹痛と便通異常が慢性的に持続する機能性消化管障害である1)。IBS の病態としては,心理的異常,消化管の知覚機能の異常2),消化管運動機能の異常2,3)がみとめられる。ストレスによって身体の諸臓器はさまざまな影響を被るが,消化管はその影響が顕著なかたちで発現する臓器である。この「ストレス-脳-消化管」の軸を脳腸相関(brain-gut interaction)という。IBS は脳腸相関が病態に関与する疾患の代表的なものであり,治療に当たっては前述した病態を念頭におきながら生理機能の改善を図っていくことが必要となる。そのため,病態生理の把握は不可欠であると考えられる。この項では,IBS の消化管運動機能異常にフォーカスを当て,消化管運動機能からみたIBS の病態と脳腸相関との関連などについて述べる。 -
7 性差
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,頻度が高い消化器疾患で,特に女性に多い。疫学のみならず,病態生理における性差,さらに薬物療法の反応性における性差が指摘されている1)。本稿では,IBS について,性差の面から主に最近の論文を紹介し,著者らの大学生を対象とした疫学調査の結果を加え概説する。 - 過敏性腸症候群の治療
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1 消化管運動機能改善薬
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の治療薬としては副作用が比較的少なく,作用機序が明らかで長期にわたり服用できる薬をまず用いる。その代表として高分子重合体ポリカルボフィルカルシウムおよびマレイン酸トリメブチンやクエン酸モサプリドなどの消化管運動機能改善薬がある。これらの投薬をベースとして,それぞれの症状に応じて短期的に下剤や止痢薬を併用していく。その際に下痢には乳酸菌製剤を併用し,必要に応じ,止痢薬を用いる。便秘には少量の下剤を用いる。なお,アントラキノン系下剤の長期連用はできるだけ避ける。腹痛に対しては抗コリン薬を適宜処方する。図 1 に IBS 治療のフローチャート1)を示したが,IBS の診断がついた場合あるいは疑われる場合には,食事指導や生活習慣改善を行うとともに,高分子重合体や消化管運動機能改善薬の投与を開始し,その経過を観察することが治療の重要なステップとなる。 -
2 向精神薬
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,便通異常と腹痛,腹部不快感を伴う疾患で,症状を説明する器質的所見を欠くものである。世界的な Rome III 診断基準,あるいはこれまでに検討されてきた多くの診断基準でも,ストレスによる症状増悪については明確には定められていない。しかし,実際の臨床ではストレス負荷時の症状増悪はきわめて特徴的である。特に朝の出勤や通学時の混雑した交通機関での症状増悪は特徴的である。また,緊張を強いられる場面での症状増悪,そのような場面の意図的回避などの症状はパニック障害と共通する症状である。また,IBS 症状の持続は日常生活への障害,すなわち健康関連 QOL の障害を惹き起こす。そのために抑うつ症状を併発することがある。すなわち,IBS 患者ではパニック障害に代表される不安障害や,抑うつ性障害が高率に発症する1~4)。IBS の治療ガイドライン5)では,プライマリケア・レベルでの第 1 段階での治療で十分な改善がない場合,より専門的治療として第 2 段階の治療(図 1)に移行する。第 2 段階の治療では,ストレス評価および心理評価を行い,心理評価では抑うつと不安の評価を行う。そのうえで,抑うつと不安のうちの優勢症状にあわせて抗うつ薬や抗不安薬の選択を行う。各薬剤について,概説する。 -
3 漢方
41巻6号(2007);View Description Hide Description「腹わたが煮えくり返る」,「もの言わぬは腹ふくるるわざなり」,「断腸の思い」などの表現は,脳と消化管の深い関係(brain-gut axis)をみごとに言い表している。実際,心理的ストレスによる,胸やけ,胃もたれ,腹部膨満,下痢,便秘などはしばしば経験される。逆に座禅やヨーガで腹式呼吸を繰り返すことにより精神的安定が得られたり,悟りを開いたりすることも可能となる。したがって,機能性消化管障害(functionalgastrointestinal disorders:FGIDs)の診療に当たっては,腹部のみならず,中枢にも目を向け,神経系や内分泌系も治療しようとするスタンスが必要である。FGIDs は単なる消化管の疾患ではなく,心身相関によって起こるさまざまな病態の氷山の一角だからである。FGIDs で最も重要な過敏性腸症候群(irritablebowel syndrome:IBS)は,現時点ではその発症機序が明らかにされておらず,合理的な治療法が少ないため,その治療に漢方医学の手を借りる必要がある。IBS は他の FGIDs および消化管以外の心身症を併存する場合が多いが,漢方薬では新薬と異なり,それらの併存症も同時に治療できるメリットがある。 -
4 心理療法
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)治療ガイドラインにおける心理療法1)は,第 2 段階に簡易精神療法,弛緩法が,第 3 段階に認知行動療法,絶食療法,催眠療法がある。これらの専門的心理療法の IBS への適応について概説する。 -
機能性便秘と機能性腹部膨満
41巻6号(2007);View Description Hide Description便秘,腹部膨満感は多くの人によくみられる症状であり,これらの症状を主訴として医療機関を受診する患者も少なくない。女性のほうが男性よりも,慢性の便秘,腹部膨満感を訴える頻度が多い1)。器質的疾患で説明困難な慢性消化器症状をみとめる機能性消化管障害のなかで,機能性便秘,機能性腹部膨満の概念を念頭において診療に当たることが重要である。機能性消化管障害の代表的疾患である過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)患者は,慢性の腹痛・腹部不快感・便通異常だけでなく,腹部膨満感あるいはガス症状を訴えることが多い2)。最近改訂された機能性消化管障害の国際診断基準である Rome III 診断基準では,過敏性腸症候群と診断されなくとも慢性の便秘,腹部膨満感を訴える病態をそれぞれ「機能性便秘 functional constipation」(表 1)3),「機能性腹部膨満 functional bloating」(表 2)3)と定義している。機能性便秘,機能性腹部膨満の病態生理,治療戦略については,どちらの疾患も IBSとオーバーラップしている部分が少なくない。本稿では,最近の知見を含めて機能性便秘,機能性腹部膨満について概説する。 -
機能性腹痛症候群
41巻6号(2007);View Description Hide Description機能性腹痛症候群(functional abdominal painsyndrome:FAPS)は腹部に限局する慢性疼痛(障害)であり,他の痛みを有する機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders:FGID)と区別されるいくつかの特徴がみられる。慢性疼痛とは,米国精神学会の精神疾患の分類と診断の手引(DSM-IV-TR)における疼痛性障害(pain disorder),すなわち『解剖学的な一定の部位の疼痛が,著しい苦悩あるいは社会的な機能障害を引き起こし,心理的な要因が重要な役割をはたすもの』のうち,症状が 6 ヵ月以上持続するものを指す1)。米国麻酔学会の定義もほぼ同様であり,疼痛により患者の機能と健康が悪影響を受けている状態である2)。FAPS では他の FGID 同様に,痛みの原因となりうる形態的異常あるいは代謝性障害が見いだされないが,病態に中枢神経における内因性の疼痛制御系の異常(詳細は後述)が深く関与することが徐々に明らかになってきている。そのこともあって,Rome II 基準では機能性腸障害のひとつに位置付けられていたが,Rome III基準からはそれから独立したカテゴリーとして取り扱われている。Rome III 基準では,症候を引き起こす臓器別にカテゴリーが構築される試みがより重視されていて,それに伴う変更といえる。すなわち,FAPS の治療においては,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)に代表される機能性腸障害と異なるスタンスが必要であることを意味する。本稿では,Rome III基準における FAPS の概念を解説し,治療法について概説する。
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治療のピットフォール
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過敏性腸症候群との鑑別および治療が困難な症例
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の 1 年間の罹患率はおおよそ 1.6%で,有病率はその 2~3 倍の約 5%と報告されている1)。器質的疾患との鑑別診断のために行う過剰な検査などを回避するために,Rome III 基準2)が提唱され,症状によりIBS の診断および病型分類が可能となっている。しかしながら,発症後まもない症例や精神社会的不適応を認めない症例などでは,腸管の器質的疾患を疑ういわゆる“red flags”もしくは“alarm symptoms”を常に心がけ,積極的診断も重要視されている(表1)3)。特に,高齢者で中等度以上の腹部症状を呈し,また,家族歴に大腸癌を有する症例などは積極的診断の対象になると考えられている。
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座談会
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- 機能性腸障害
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新しい治療
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過敏性腸症候群の新しい治療薬セロトニン受容体拮抗薬および刺激薬
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,機能性消化管障害(functional gastrointestinaldisorders:FGIDs)であり,また症候群(syndrome)であるため,均一な患者群で構成されていないことが問題である。また,brain-gut interaction(脳-腸相関)が IBS の病態生理の一部を担っているため,プラセボ効果が 40%前後と非常に高いことも問題である。以上の理由により,IBS の臨床治験において実薬の治療効果を証明することはきわめて困難であると考えている。これを裏付ける事実は,IBS における新薬の承認はきわめて少ないことであり1),欧米では過去数十年にわたってわずかにセロトニン(5-HT)受容体拮抗薬および刺激薬が認可されたのみである。以下に,IBS の治療薬として欧米で承認され,また臨床的エビデンスにおける推奨グレードが A に位置付けられている IBS の新しい治療薬である 5-HT 受容体拮抗薬および刺激薬の概要について解説したい。
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症例
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診断および治療に難渋した慢性下痢の 1 症例
41巻6号(2007);View Description Hide Descriptionmicroscopic colitis(顕微鏡的腸炎)は近年注目されている慢性の水様性下痢をきたす疾患であり,大腸粘膜の病理学的特徴から collagenous colitis(コラーゲン形成大腸炎)および lymphocytic colitis(リンパ球性大腸炎)に分類されている。本症では大腸内視鏡検査ではびらんや潰瘍などの明らかな炎症性変化をみとめないことから本症を疑い,正常にみえる大腸から系統的に生検を行わないかぎり診断できない。このため,過敏性腸症候群の下痢型として長期間加療されていることがある。 -
functional dyspepsia と下部消化管症状の合併した 2 症例
41巻6号(2007);View Description Hide Description機能性消化管障害である機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)と過敏性腸症候群(irritablebowel syndrome:IBS)はしばしば合併することが知られているが,その文献的報告は多くはない。今回,FD と IBS の合併例 2 例を経験したので,文献的考察を含めて報告する。 -
精神障害・人格障害を伴う 1 症例
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,代表的な心身症であり,その発症や経過,増悪に心理社会的背景が密接に関与している。薬物療法のみでは奏効しないこともしばしば経験されるので,IBS 患者の心理特性をつかみ,治療に役立てていく必要があろう。IBS という病名がつくには,医療機関を受診する必要がある。Kanazawa らの報告によると,417 人の一般成人を対象に Rome II 基準で検討したところ14.2%が IBS と診断されたが,そのなかで医療機関を受診したのは 22%に過ぎなかった1)。つまり IBS症状をもちながら,受診する群としない群が存在するわけである。この差はどこから生じるのだろうか。
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治療の歴史
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過敏性腸症候群(IBS)治療
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は新薬の開発が期待される疾患の上位に位置している。これは IBS の治療戦略に要する薬剤はいまだ十分でないことによるためで,治療の歴史は試行錯誤の連続である。かつて漢方医学は一家相伝であったので,経験の蓄積と共有がなかった。現代医学では効能・効果が高いエビデンス水準にないものは無視されがちである。しかし,治療薬の開発はなんらかの経験に基づいてなされてきたのである。薬草の有効成分を抽出した薬剤,薬効・薬理や副作用の判明している物質からヒントを得た薬剤,アレルギー治療薬の抗ヒスタミン薬が胃酸分泌を抑制しないことから理論的にスクリーニングされた,シメチジンのような薬剤などがある。過去の歴史と向かい合い,既知のものに対する知識と理解を深めることは無意味なことではなかろう。表 1 は主な IBS 治療薬,向精神薬などの販売開始年表である。本文および表中の薬剤名に付した年は添付文書等から得られた日本での販売開始年であるが,薬剤によっては現在の添付文書に記載されている販売開始年と異なる場合もある。
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DI 室Q&A
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過敏性腸症候群治療とプロバイオティックス
41巻6号(2007);View Description Hide Description過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態の特徴として,腸管運動機能異常,腸管感覚機能異常,心理社会的要因の 3 つがあげられる。また最近は,細菌感染性腸炎後にIBS を発症した症例が報告され,低レベルな炎症と免疫反応の活性化が IBS の発症に関与することが考えられるようになった。さらに,結腸の細菌叢の変化が IBS 患者にみとめられ1~3),腸内細菌に対する治療を行うことにより IBS 症状が改善することが報告されている。厚生労働省の委託研究「心身症の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究会」の東北大学の福土らによりまとめられた IBS の診断・治療ガイドライン4)では,「第一段階として,プライマリーケア医が IBS の病態を患者が理解できる言葉で十分に説明し,納得を得る。優勢症状(下痢,腹痛,便秘)に基づき,食事と生活習慣の改善を指導する。必要に応じ,高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム等)もしくは消化管運動調節薬(マレイン酸トリメブチン等)を投与する。これで改善がなければ,下痢には乳酸菌製剤2,5~7),腹痛には抗コリン薬,便秘には少量の下剤といった薬剤を追加投与する」と示されている。本稿では,上記ガイドラインにも記載されている乳酸菌製剤の IBS に対する有用性に関して,海外の報告も含めて紹介する。
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suggestion
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