治療学
Volume 41, Issue 7, 2007
Volumes & issues:
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扉・目次
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序説
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- 肥満
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特集
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肥満と肥満症の診断
41巻7号(2007);View Description Hide Description近年,栄養過剰や運動不足など,食生活やライフスタイルの大きな変化により,生活習慣病が急増している。その直接の原因として,わが国における肥満人口の急増があげられる。しかし,肥満集団のなかでも,その程度によらず,明らかな代謝異常などの合併症をもたない健康者が多数存在する。その一方で,肥満の程度が軽くても,明らかな肥満による健康障害をもつ例が多いこともまた事実である。生活習慣病のなかでも,最も重大な心血管疾患の発症において,高血圧,耐糖能障害,脂質異常症などの健康障害が複合して集積する病態,いわゆるメタボリックシンドロームが現在注目されている。その成因基盤として,脂肪組織の過剰蓄積である肥満の存在が重要であり,特に腹腔内内臓脂肪の蓄積が密接に関与することが明らかとなっている。本稿では,わが国における肥満の判定と疾患単位として確立された肥満症の概念とその診断基準,さらにはその病態につき概説する。 -
- 肥満の成因
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1 摂食調節の中枢神経機構
41巻7号(2007);View Description Hide Description視床下部と脳幹の摂食中枢には多くの核が関与する。そのなかでも,全身代謝シグナルを感受するうえで弓状核,腹内側核,孤束核が中心的な役割を担っている(一次中枢)。次いで,摂食中枢神経ネットワークの情報を統合する部位として,室傍核,外側野,背内側核があげられる(二次中枢)。本稿では,はじめに視床下部摂食中枢を概観し,次に特に重要である弓状核と室傍核に焦点をおいて,末梢ホルモンの作用,摂食調節ニューロンの制御と役割を中心に中枢性摂食調節機構を解説する。 -
2 肥満とパーソナリティ
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満患者の治療には,多くの困難がつきまとう。食事療法の指示を守らない,リバウンドを繰り返すなどの肥満患者に対して,歪んだ食行動の背後に潜む病理性を,パーソナリティの問題として把握する必要を感じた治療者は少なくないであろう。身近にありながら,いざ理解しようとすると困難を感じる肥満患者のパーソナリティについて,検討および考察を試みる。 -
3 遺伝と体質
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満は遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用により発症する代表的な多因子疾患であり,他の生活習慣病と同様に分子レベルのアプローチが困難である。従来,肥満は美容上の問題として取り上げられることも多く,肥満は単に過食や運動不足により発症すると考えられがちであったが,1994 年末に遺伝性肥満 ob/ob マウスの原因遺伝子としてレプチンが発見されて以来,生体のエネルギー代謝調節の分子機構の理解が急速に進み,肥満の成因として遺伝因子と環境因子を分けて考えることができるようになってきた。本稿では,肥満感受性,すなわち肥満体質における遺伝因子と環境因子のうち,最近注目されている話題について概説する。 - 肥満と合併症:成因と治療
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1 メタボリックシンドローム
41巻7号(2007);View Description Hide Description現代の疾病構造をみると,社会環境の変化とともにその構造は大きく変化している。心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患と糖尿病の重要性が急速に増加し,国民の健康を障害する大きな要因となっている。メタボリックシンドロームでは個々の危険因子は重症ではない場合においても,危険因子を重積することにより,動脈硬化を形成しやすいことが特徴である。その診療上のターゲットは虚血性心疾患や脳血管障害のみならず糖尿病の発症予防である。 -
2 睡眠時無呼吸症候群
41巻7号(2007);View Description Hide Description閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleepapnea hypopnea syndrome:OSAHS)は肥満者に合併しやすく,日中の眠気による生産効率の低下,交通事故,災害の原因として社会的に注目されている。しかも OSAHS は,ライフスタイルの欧米化に伴い日本人の肥満度が増加するにつれ,今後も有病率の増加をきたす傾向にある。この OSAHS は,単に昼の眠気のみならず,夜間の交感神経活動の亢進,酸化ストレス,リポ蛋白代謝異常,炎症,凝固系異常1,2)を介し心血管系疾患発症の増悪要因となっていることも,指摘され始めている。本稿では,肥満に伴う OSAHS の診断,病態形成,また心疾患との関わり,および治療について述べる。 -
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4 悪性腫瘍
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満は,高血圧,脂質異常症,糖尿病,高尿酸血症など,数々の生活習慣病の発症と密接に関係し,動脈硬化性疾患の成因となることはよく知られている。一方で,肥満は種々の悪性腫瘍の発症とも結び付くことが,1979 年に発表された 75 万人の男女を対象とした前向き研究1)以来,数々の疫学的研究で明らかにされている2)。わが国での国民の死亡原因の内訳をみると悪性腫瘍が第 1 位となっていることを考えると,その予防という観点からも,肥満の治療が深刻に取り組むべき課題であることを改めて認識させられる。ここでは,肥満と悪性腫瘍の関わりについて,海外,わが国の疫学研究の成績を紹介し,さらに脂肪細胞とがん発症の関わりのメカニズムについて触れる。 -
小児肥満の診断と治療
41巻7号(2007);View Description Hide Description今や小児の肥満は,発展途上国をも含め,年齢や性や人種に関係なく,世界中のどの国でも社会経済のあらゆる階層に,驚異的な増加を示している。5 歳以下の高度の肥満は,世界中で2200 万人,この肥満全体数は 10 人に 1 人の割合であるとの推測があり,内訳は,アジアやアフリカでは 10%より低く,欧米では 20%を超えるという出現頻度の幅広い範囲の平均値を反映したものとされる1)。わが国でも,文部科学省の統計に見られるごとく,30 年間に 3 倍に増加し,学齢期の小児の 10 人に 1 人が肥満とみなされている。 わが国の最近の小児の肥満の特徴は,肥満による医学的な異常として,肝機能異常や耐糖能異常,高血圧,高尿酸血症等を合併している例が多いといえるかもしれない。また,肥満の増加に比例して 2 型糖尿病の小児における頻度も,1982~1986 年と 1992~1996 年との期間で比べると,2.6 倍に増加している2)。このような,小児の現時点における健康障害を合併しやすい,いわゆる肥満症やメタボリックシンドロームの増加がひとつの問題がある。さらに,小児肥満の本質的な問題がある。小児肥満が放置されるなら,成人肥満への移行が高率となり3),成人の生活習慣病や動脈硬化へ進行し,若年性の心血管病というひとつの終着点まで,サイレントにリンクし続けることになる。 - 肥満の治療
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1 食事
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満治療のうえで,食事療法は最も重要な治療法である。減量を目的とした食事療法の原則は,蛋白質,ビタミン,電解質必要量を十分に摂ったうえで,糖質と脂肪を極力少なくすることである。しかしながら,実際にはその配分は明確にはされていない。また最近は,フォーミュラー食を用いたフォーミュラーダイエットも積極的に施行されるようになってきている。本稿では肥満の食事療法について,特にその糖脂質比の概説とフォーミュラーダイエットについて,筆者らの成績も含めて述べる。 -
2 運動
41巻7号(2007);View Description Hide Description体重管理の基本はエネルギー出納のバランスにある。理論上,食事制限による摂取エネルギーの減少,もしくは運動による消費エネルギーの増加によって体重は減少する。しかし,実際の肥満治療においては,体重減少における運動療法の効果は期待されるほどではなく,食事療法が重要視されてきた。一方,食事療法のみによる介入では,短期的な体重減少が得られてもその維持は難しく,体重の再増加がみられることも多い。その一因として,体重減少に伴う除脂肪重量の減少や心肺機能の低下などがあり,それらの予防を目的として運動療法の積極的な併用が試みられるようになった。最近では,減量とは独立したさまざまな効果が知られ,肥満や生活習慣病の治療における運動療法の重要性が認識されるようになってきた。 -
3 薬物療法
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満治療の基本は,摂取エネルギーの制限と消費エネルギーの増加によりエネルギーバランスを負にすることである。治療の原理はきわめて単純であり,たとえば食事療法として(超)低エネルギー食が遵守されれば,体重の減少に伴い代謝および肥満合併症の改善が著しくみとめられる。しかし,肥満治療の効果を長期にわたり継続することはきわめて困難である。 近年,食欲中枢やエネルギー産生を調節するアミン,サイトカインの解明が進み,肥満治療の新しい手段として抗肥満薬が注目されつつある。抗肥満薬の作用は主に食欲抑制,熱産生促進,吸収抑制のいずれか,または組み合わせで発揮される。抗肥満薬の長期的な減量効果や,抗肥満薬の適応など未解決の問題も多いが,現在市販,治験中の抗肥満薬による有効な減量効果も数多く報告されている。さらにはβ3受容体変異による熱産生低下1),レプチンの変異またはレセプター変異による摂食コントロール異常2)など,疾患相関の明らかなものは,薬剤により著しい効果が期待できる。 本稿では,まず抗肥満薬使用時の注意点,抗肥満薬の作用部位について述べ,次に各抗肥満薬の概略を述べる。日本で唯一承認されているマジンドールについては,当施設で行われた糖脂質代謝変動の検討を交え解説する。また,新しい抗肥満薬であるカンナビノイド受容体拮抗薬についても最近の知見を述べる。 -
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5 行動療法
41巻7号(2007);View Description Hide Description外来初診時に肥満症患者が「がんばって減量してきます」「食べる量を減らします」「努めて運動します」と宣言する場合がある。確かに減量するためには,摂取エネルギー量を減らし,消費エネルギー量を増やすことが重要となる。しかし,エネルギー収支の自己調節が破綻し過体重に至ったのが肥満症患者であり,受診時にはすでにさまざまな肥満克服の努力に失敗していることが少なくない。つまり,肥満症患者が初診時に示す治療意欲とは“やせたい”という強い願望であり,それが行動の変容につながり,減量に成功するとは限らないのである。このため肥満症治療では,これまで無効だった患者自らの“自家療法”を遮断し,患者の肥満症歴に関わらず,一定の枠組みをもった医学的治療に導き入れる必要がある。このような治療の枠組みとして,2006 年に日本肥満学会より『肥満症治療ガイドライン』が示された。このなかで行動療法は,食事療法,運動療法,薬物療法等とともに肥満症治療の根幹をなす治療法として位置付けられている。本稿では,その行動療法の具体的な運用方法について解説する。
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座談会
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治療のピットフォール
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新しい治療
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フォーミュラー食利用による新しい栄養指導
41巻7号(2007);View Description Hide Descriptionわが国の生活の欧米化により,飽食の時代となり,高血中コレステロール(TC)血症以外の異常も注目されている。そのなかでも,高血中中性脂肪(TG)血症,低高密度比重リポ蛋白(HDL)-コレステロール(HDL-C)血症をはじめとして,糖尿病,高血圧,肥満などを合併した,過食および運動不足による,内臓脂肪蓄積型肥満に基づくメタボリックシンドロームに関心が集まり,それらを有する患者が激増すると思われる。加えて,それらの増加に伴い,内臓脂肪蓄積型肥満に基づくメタボリックシンドロームと関わる動脈硬化性疾患が増加する可能性もあり,高尿酸血症,高 TC 血症などを伴うメタボリックリスクの集簇に関わる動脈硬化性疾患も増加する可能性もある。メタボリックシンドロームは,運動不足,過食により脂質代謝経路が破綻し,内臓脂肪に過剰に中性脂肪が蓄積することにより発症する。特に,脂肪組織からの血中への脂肪酸の動因過剰も関わり,肝臓でインスリン作用が低下し,低比重リポ蛋白(LDL)受容体の活性も減少し,血中 LDL の増加,TC の増加,高尿酸血症,高血圧,高血糖も生じ,結果的にメタボリックリスクが集簇してくる。したがって,メタボリックシンドローム患者およびメタボリックリスクの集簇している患者の場合は,過食予防およびその治療薬,運動療法が病態に最も立脚した治療となる。本稿では,特に外来でのフォーミュラー食利用による栄養指導について,簡単に述べる。
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症例
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心不全を伴った重症肥満の 1 症例
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満症は,耐糖能および血圧,脂質代謝異常を発症し,これらが互いに影響し合いやがては動脈硬化疾患,特に心血管イベントを発症することは広く知られている。近年発症の増加のみならず,その発症年齢の若年齢化が目立つようになってきている。かつては 60 歳代以降でみられたような心血管イベントが,最近では 40 歳前後で発症する症例も散見されるようになり,これらの症例の多くが肥満症を合併している。肥満症そのものが心臓に与える影響についてはいまだ十分な解明はなされていないと思われる。本稿では,38 歳で心不全のため緊急入院し,薬物治療のみならず食事・運動治療によって,著明に改善した症例を紹介する。 -
減量によりインスリンが不要になった 2 症例
41巻7号(2007);View Description Hide Description減量により大量のインスリン注射から離脱できた肥満 2 型糖尿病症例を提示し,たとえ大量のインスリン注射が必要な時があっても,肥満した 2 型糖尿病患者の場合にはインスリン抵抗性状態にあれば,食事・運動療法にて 5~10%の体重減少ができればインスリン注射を中止でき,その後も食事・運動療法のみで治療継続が可能な症例があることを示したい1)。この症例を通し,肥満を伴う 2 型糖尿病患者の治療には食事・運動療法による減量が最も大切な治療法であることを再確認していただこうと思う。
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治療の歴史
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DI 室Q&A
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ダイエットを目的として利用されているサプリメント
41巻7号(2007);View Description Hide Description肥満は,過食や運動不足などにより体脂肪が過剰に蓄積した状態(body mass index:BMI≧25)である。肥満のなかでも特に内臓脂肪が蓄積した状態は,糖尿病や高血圧,動脈硬化性疾患のリスク要因となるため,近年メタボリックシンドロームという概念が提唱され,一般に浸透してきた。ダイエット(痩身)は,総消費エネルギー>総摂取エネルギーのときに初めて可能となるため,肥満症治療の原則は,食事療法と運動療法であることに変わりはない。ダイエットサプリメントは,ダイエットの手助けができるかもしれない食品であり,これのみでダイエットが可能となるわけではない。
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suggestion
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