治療学

Volume 41, Issue 9, 2007
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扉・目次
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序説
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- 脂質異常症
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今なぜ脂質異常症か―ガイドライン改訂の背景
41巻9号(2007);View Description
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2007 年 2 月にガイドライン改訂の概要を動脈硬化教育フォーラムにおいて口頭発表した。その後も委員会で検討を加え,一部訂正を加えた形で 4 月 25 日プレスリリースをし,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』として発表した1)。同時に日本動脈硬化学会の機関誌である Journal of Atherosclerosis and Thrombosis にも英文として概要2)を掲載した。今回のガイドラインでは,“高脂血症”という名称から“脂質異常症”と変更したことや,総コレステロール(TC)ではなく LDL コレステロール(LDL-C)で判断するという変更が注目されているが,そのようにした背景が重要である。本特集では,ガイドラインの各項目について,主として担当の先生方に執筆していただいた。ここでは,改訂に至った背景について触れておきたい。
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特集
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脂質異常症と動脈硬化―発症機序
41巻9号(2007);View Description
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脂質異常症と動脈硬化との関係は,以前より実験動物を用いた研究から,高コレステロール血症,高レムナント血症との関係が明らかにされてきた経緯がある。一方,臨床的には,家族性高コレステロール血症,Ⅲ型高脂血症などの研究がこの方面の研究を加速する結果になった。ことに前者の LDL 受容体異常により惹起される本症は,血中 LDL コレステロール(LDLC)値が上昇し,結果的に動脈硬化が早期に進み,その死因の大部分が心筋梗塞であることが特徴である。本症の病態を分子レベルで進めたGoldstein,Brown の精力的な研究から,動脈硬化の病態もしだいに解きほぐされてきたといえよう。さらに近年の研究の進歩により,脂質異常症すなわちトリグリセライド(TG)リッチリポ蛋白血症(レムナント血症),低 HDL コレステロール(HDL-C)血症と動脈硬化との関係が明らかにされた。またこの間の,マウスを中心とした発生工学研究の進歩により,動脈硬化の分子レベルでの検証が進み今日を迎えている。臨床疫学研究の代表とされる Framingham 研究において,虚血性心疾患の基盤をなす因子として,脂質異常症,高血圧,耐糖能異常,喫煙,左室肥大があげられ,以来これらは総称して危険因子とよばれるようになった。さらに,近年,生活習慣の欧米化に伴い,動物性脂肪を中心としたエネルギー摂取過多,運動不足によるエネルギー消費不足により惹起される内臓脂肪蓄積を上流としたメタボリックシンドローム(高血圧,耐糖能異常,高 TG 血症・低 HDL-C 血症(脂質異常症),インスリン抵抗性などを主症状とする)が増加の一途をたどり,ひいては動脈硬化を引き起こすことが明らかにされ,臨床上解決すべき大きな命題となってきた。糖尿病,メタボリックシンドロームの呈する脂質異常症は,基本的にはインスリン抵抗性により惹起されるリポ蛋白リパーゼの活性低下に起因する,VLDL の代謝低下に由来する高レムナント血症,低 HDL-C 血症,高 small denseLDL 血症である。今までに明らかにされてきた,高 LDL-C 血症がもたらす早発性動脈硬化の発症の分子機序を基礎に,今後,糖尿病,メタボリックシンドロームなどがいかなるメカニズムで動脈硬化を引き起こすかが明らかにされるであろう。本稿では,“脂質異常症と動脈硬化”について,主として述べる。 -
脂質異常症と動脈硬化―疫学
41巻9号(2007);View Description
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粥状動脈硬化巣には多量のコレステロールエステルが沈着していることが,病理学的検討により古くから明らかにされてきた。この事実からコレステロールと動脈硬化との関連が示唆され,多くの疫学研究により血清脂質値と動脈硬化,さらには動脈硬化性疾患との深い関連が明らかにされた。血清脂質のなかでは,LDL コレステロール(LDL-C)との関連は強く,またHDL コレステロール(HDL-C)は負の危険因子として同定された。ほかにはトリグリセライド(TG),リポ蛋白(a)[Lp(a)],レムナントリポ蛋白などが動脈硬化性疾患と関連があると報告されている。本稿では,上記の脂質異常症に関して,動脈硬化性疾患との関連についての疫学研究を中心に概説する。 -
脂質異常症の診断手順
41巻9号(2007);View Description
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脂質異常症診断の基準については,最近,日本動脈硬化学会より刊行された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』(2007 年版)1)において発表されている。脂質異常症の診療に当たっては,その基準をはじめ,原因,病態,重症度を含む診断を行い,適切な治療方針の選択に結び付けることが重要である。 -
脂質異常症の管理目標
41巻9号(2007);View Description
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脂質異常症が存在する場合,動脈硬化性疾患の発症リスクが高くなる。したがって脂質異常症と診断された場合には,将来の動脈硬化性疾患を予防するために脂質異常を改善する必要が生ずる。まず大切なことは生活習慣の改善であり,これがすべての治療の基本となる。生活習慣の改善のみで十分な結果が得られない場合や,動脈硬化リスクがきわめて高いと考えられる場合に薬物療法が適応されることになる。本稿では,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』に基づいて,脂質異常がみとめられた場合の管理目標値の考え方について概説する。 - 脂質異常症の治療法―動脈硬化予防のために
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1 生活習慣の改善
41巻9号(2007);View Description
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近年,運動不足や食生活の欧米化などの生活習慣の変化により,高血圧,糖尿病,脂質異常症といった動脈硬化と深く関わる病態が増加している。特に脂質異常症は冠動脈疾患や脳血管障害に関連深く,それらは日本人の死因の 2,3 位を占めるものである。また,喫煙はすべての動脈硬化性疾患の危険因子であり,生活習慣とも密接に関わっている問題である。動脈硬化を予防するためには脂質異常症のみならず,高血圧,耐糖能異常,内臓脂肪蓄積なども含め包括的に治療することが重要であり,本稿では脂質異常症患者における禁煙も含めた生活習慣の改善について解説する。生活習慣を改善し動脈硬化を予防する観点から,重要なキーワードとして①禁煙,②食事内容の適正化,③適度な運動,④体重コントロール,の 4 つがあげられる。これらの項目について解説を加えたい。 -
2 薬物療法
41巻9号(2007);View Description
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従来,日本人は冠動脈疾患(coronary arterydisease:CAD)に代表される動脈硬化性疾患の発症率が比較的少ない民族とされてきたが,わが国においても LDL コレステロール(LDL-C)値の上昇とともに CAD の相対リスクが連続的に増加することが確認されている。近年,生活習慣の欧米化に伴い日本人の LDL-C 値は増加傾向を認め,今後,わが国でも CAD の発症率は増加してくる可能性が考えられる。また,わが国の特徴として脳卒中の発症率および死亡率が欧米に比較して高率で,脳卒中の主体をなすアテローム硬化性脳梗塞を予防する観点からも,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』に準じた LDL-C 値の管理が重要である。 -
高齢者脂質異常症の管理
41巻9号(2007);View Description
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わが国の疾患別死因統計では,虚血性心疾患,脳血管疾患などの粥状動脈硬化性疾患は悪性新生物に続いて高い。特に 65 歳以上の高齢者の死因は,心疾患と脳血管疾患を合わせると30.1%となり,悪性新生物の 29.2%を上回る。さらに受療率をみても循環器系疾患は他疾患を大きく上回る1)。最近発表された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』でも 75 歳未満の前期高齢者も若年者と同じ管理基準を適応しうるとしているが2),本稿では高齢者における脂質管理に焦点を当て論じたい。 -
女性脂質異常症の管理
41巻9号(2007);View Description
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女性の平均寿命は男性より長い。その要因のひとつは,男性に比べて動脈硬化性疾患の頻度が低いことである。動脈硬化危険因子として重要な脂質異常症の管理も,女性ではエビデンスが少ないため軽視される傾向があった。しかし最近わが国でも,女性の脂質異常症の動脈硬化に対する影響,薬物治療効果が明らかにされ始めた。欧米の研究成績をもとに進めていた診療から,日本人のエビデンスによる診療への軌道修正が可能になろうとしている。 -
メタボリックシンドロームと脂質異常症
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近年,生活習慣の欧米化と運動不足により肥満患者数が増加している。肥満,特に内臓脂肪蓄積を基盤とし,一個人に糖尿病,高血圧症,脂質異常症などの動脈硬化性の惹起因子となる疾患を複数個合併することで動脈硬化症に至る,メタボリックシンドロームとよばれる病態が増加している。これまで動脈硬化性疾患の最も大きな危険因子は高コレステロール血症であったが,コレステロール対策だけでは動脈硬化性疾患の予防が十分でないことも指摘され,注目されてきたのがメタボリックシンドロームである。2005 年 4 月にわが国における『メタボリックシンドロームの定義と診断基準』が発表されたが1()図 1),ここでの脂質代謝異常は高トリグリセライド血症,低 HDL コレステロール血症のいずれかまたは両方となっている。診断基準にもあるように,メタボリックシンドロームはウエスト周囲径,つまり内臓脂肪蓄積型肥満を基盤とする症候群であるが,内臓脂肪蓄積は血清コレステロール値上昇よりも高トリグリセライド血症,低 HDL コレステロール血症とより強く関連する。また近年,脂肪組織がさまざまなホルモンを産生・分泌し,糖尿病,高血圧症,脂質異常症の発症や進展に重要な役割を果たしていることがわかってきた。これらのホルモンを総称してアディポサイトカインとよぶ。肥満においては,アディポサイトカインの産生異常が引き起こされ,それが脂質代謝,糖代謝などのメタボリックシンドロームの各因子と深く関わっていることも報告されている。アディポサイトカインにはアディポネクチン,tumor necrosis factor(TNF)-α,plasminogen activator inhibitor(PAI)-1 などがあり,脂質代謝に関係する重要なアディポサイトカインとしては遊離脂肪酸(freefatty acid:FFA)があげられる。 -
リスクチャートの読み方
41巻9号(2007);View Description
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動脈硬化性疾患の代表は,脳卒中および冠動脈疾患である。したがって,脳卒中,心筋梗塞の危険因子を軽減することが動脈硬化性疾患の予防となる。ここでは,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』に付表として掲載された,NIPPON DATA(National Integrated Projectfor Prospective Observation of Non-communicableDisease And its Trends in the Aged)80 のリスクチャートの読み方について解説する1)。 -
脂質介入試験の結果と読み方
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脂質異常症のガイドラインは多数の大規模臨床試験,特にランダム化比較試験(randomizedcontrolled trial:RCT)やメタ解析の結果に基づいた推奨レベルとエビデンスレベルをもとに,カテゴリー分類と脂質管理が作成されている。本稿では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007 年版』をもとに,国内外の主な RCT の結果から得られたエビデンスを述べる。 -
食事療法のエビデンス
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食事療法は,患者個々の病態と栄養状態を的確に把握したうえで,適切な栄養食事指導を行い食生活の是正を促すことになるが,その一方で,患者には生活の根幹を見直し改善すべき大きな努力が求められることになる。このようななかで,食事療法の効果を最大限に高めるためには,科学的な根拠に基づいた適切な栄養食事指導により確実に成果を上げていくことが治療上重要である。近年,さまざまな疾病の治療法に関して,その方法の有用性についてエビデンスの有無が問われるようになってきた。食事療法の方法や方針においても同様で,治療上最大限の効果を得ることを目的として,そのエビデンスが問われるようになっている。ところが一般に,食事療法のエビデンスを得ることは困難であり,薬物療法と比べてその報告は圧倒的に少ない。困難となる理由は,第 1 に各種成分の複合体である食物で構成される食事を管理しなければならないこと,第 2 に食事療法には長期観察が必要となり,病院や福祉施設以外での介入が必要となることである。直接的管理が不可能である場での実施は,宅配による食事の提供や,栄養指導により患者や家族が実施できるようにする方法があるが,前者は経費が増大し,後者は間接的管理となり食事療法の精度が低下してくる。以上のような現状のなかで,エビデンスとなりうる論文を参考として,脂質異常症の食事療法のエビデンスを検討した。2007 年 4 月に発表された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版』では,名称が“高脂血症”から“脂質異常症”と変更され,さらに診断基準および動脈硬化症に発展する“脂質異常症”の病態を,状態別およびリスク数で管理するという点においても変更がなされた。これに伴い,食事療法もその基本的な考え方に変更が加えられた(表 1)1)。従来の“高脂血症”の食事療法では,各病型に焦点を合わせた方法が行われてきたが,新しいガイドラインでは,患者に対して初めから複雑な食事療法を課すよりも,段階的に指導を進めるほうが実際的であることから,2 段階からなる食事療法が推奨されている。その基本方針は,まず主としてエネルギー過多状態を解消することを基本とし,その方法を 3 ヵ月間続けても効果がみられない場合に次の段階,つまり個々の病型に沿った指導を行うというものである。
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治療のピットフォール
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低コレステロール血症と死亡率
41巻9号(2007);View Description
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わが国の J-LIT(Japan Lipid Intervention Trial)1,2)の結果より,総コレステロール値と総死亡の間に U字現象が認められ,血漿総コレステロール値が低いものほど総死亡率が上昇することが注目された。死亡の内訳をみると,総コレステロール値が低いものにおける総死亡のなかでは,がん死が高いことが明らかとなり,総コレステロール値が低下するとがんが増加するかのような報道もされ,患者の不安も増して臨床的に大きな問題となった。しかし,総コレステロール値と総死亡-がん死の間に U 字現象がみられることは,MRFIT(Multiple Risk Factor InterventionTrial)3),PROCAM(Prospective CardiovascularMünster Study)4),NIPPON DATA(NationalIntegrated Project for Prospective Observation of NoncommunicableDisease And its Trends in the Aged)5)など多くの疫学研究でも明らかで,決して J-LIT で初めて明らかになったものではない。問題は,総コレステロール低値ががん死の原因となっているのか,がんの結果として総コレステロール値が低下しているのかである。
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座談会
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- 脂質異常症
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新しい治療
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Niemann-Pick C1 like 1 阻害薬(エゼチミブ)
41巻9号(2007);View Description
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HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)を中心とした薬物療法による,虚血性心疾患の初発・再発の予防効果が大規模臨床試験により明らかにされている。エゼチミブは米国シェリング・プラウ社によって開発された小腸におけるコレステロール吸収の阻害薬である。エゼチミブの作用機序は不明であったが,小腸壁のコレステロール吸収過程に Niemann-Pick C1 like 1(NPC1L1)が関与し,エゼチミブはNPC1L1 との結合によりコレステロールの吸収を阻害することが解明された。エゼチミブは食事由来および胆汁由来のコレステロールの吸収を阻害し,血中コレステロールを低下させる。本稿ではコレステロール吸収阻害薬エゼチミブについて述べる。
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症例
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経皮的冠動脈形成術当科施行例の二次予防―メタボリックシンドロームの有無による検討
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糖尿病,脂質異常症,高血圧,肥満は冠危険因子として確立されているが,これらの危険因子がいずれも軽症の状態で集積した病態がメタボリックシンドローム(MetS)である。その基本病態は内臓脂肪蓄積に伴うインスリン抵抗性である。近年 MetS が注目される理由は,ライフスタイルの急激な変化により患者数が増加し,予後に多大な影響を与えることが明らかになったからである。また,一次予防でMetS は冠動脈疾患の発症リスクを高くし,二次予防では死亡,冠動脈疾患の再発,脳卒中発症のリスクを高めることも報告されている。したがって一次・二次両者の予防において,MetS を早期に診断し治療することで冠動脈疾患患者の増加を抑制し,心血管事故を予防できる可能性がある。最近は内臓肥満に重点をおいた日本独自の診断基準も作成され,社会的な注目度も高くなっている。その予防と治療はそれぞれの危険因子を減少させることであり,基本は運動療法,食事療法など生活習慣の改善にあることはいうまでもない。本稿では,自施設例を中心に,二次予防に対する MetS の臨床的意義とその治療について検討したので,報告する。 -
心筋梗塞を発症した家族性複合型高脂血症の 48 歳男性例
41巻9号(2007);View Description
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家族性複合型高脂血症(familial combined hyperlipidemia:FCHL)は,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)と並んで早発性冠動脈硬化症の原因として重要な脂質異常症であり,その頻度は一般人 100~200 人に 1 人,早発性冠動脈硬化症患者の 3~4 人に 1 人と考えられている1)。FH は腱黄色腫をはじめとする特徴的な身体所見や,300 mg/dL を超える総コレステロール(TC)高値(基本的にトリグリセライド(TG)は上昇しない)がそろえば,その臨床診断はそれほど難しくない。これに対し FCHL は,黄色腫は稀であること,血清脂質値は軽~中等度上昇にとどまる場合が少なくないこと,高脂血症の表現型が時間経過とともに自然移行することなど,を特徴としている。このうち最後の特徴,つまり時間経過とともに TC のみが高値,TG のみが高値,また両者とも高値と表現型が変化しうるという点は,本症の診断のみならずその治療効果の判定に際し注意が必要なことを示唆している。冠動脈硬化症患者の脂質管理ガイドラインは TC よりも LDL コレステロール(LDL-C)を重要視する立場をとっており,Friedewald の簡易式[TC-HDL コレステロール(HDL-C)-TG/5]あるいは直接測定法によって,LDL-C を求める必要がある。その場合も,FCHL では変動が大きいことを念頭におくとよい。FCHL の病因についてはいまだ解明が不十分である。ゲノムワイドの連鎖解析からいくつかの候補遺伝子領域が報告され,また最近は具体的な候補遺伝子があげられるようになった2,3)。しかし,脂質異常症の発症機序を含め,今後の研究課題が多く残されている。 -
autosomal recessive hypercholesterolemia(ARH)の 1 症例
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Khachadurian らは,1973 年に遺伝性高コレステロール血症には優性遺伝を示すものと,劣性遺伝を示すものが存在することを報告した1)。これは LDL受容体発見より以前の論文であり,優性遺伝型式をとる高コレステロール血症については,その後,Goldstein,Brown らにより,LDL 受容体欠損によるものであることが明らかにされ,家族性高コレステロール血症(family hypercholesterolemia:FH)と呼ばれるようになった2)。FH では LDL 受容体欠損により,LDL の細胞内への取り込みが障害されており,ホモ接合体においては著しく高い LDL コレステロール(LDL-C)値(600~1000 mg/dL)を示し,幼少期よりの多発性黄色腫,冠動脈および大動脈弁を中心とした著明な動脈硬化を呈する。1991 年にわれわれは,7~8 歳ころより著明な高コレステロール血症,多発性黄色腫を示し,FH ホモ接合体と同様の症状を有するが皮膚線維芽細胞において LDL 受容体活性が正常である姉弟例を報告した3,4)。母は正脂血症であり,親族にも高コレステロール血症はなく,血族結婚による姉弟のみが症状を呈することから,劣性遺伝であることが示唆された。これが autosomal recessive hypercholesterolemia(ARH)の最初の臨床報告であった。2001 年,Garciaらは,ARH 家系の連鎖解析により,ARH 遺伝子を同定した5)。本稿では,ARH 症例の発見の過程,遺伝子解析に関して解説する。
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治療の歴史
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DI 室Q&A
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